「ババアと雪華実装」 東京都練馬区で今朝、六人の男性の変死体が発見され、 警視庁捜査1課で遺体を司法解剖した結果、 雪華実装によるものと判明した。 … その日から街は騒然となった。 都市伝説かと思われた雪華実装を警察が公式に認めてしまったのだ。 これは警察のミスだった。上に立つものが実装シリーズに関して疎かったのだ。 パニックに陥った人間達は愛護派、虐待派、一般人問わず同じ場所に集まった。 「家に居てもいつの間にか雪華実装はやって来る!」 「目にするだけで命は無い!」 「雪華は普通人目につかないとこに居る!」 「ここはみんなで集まった方が安全だ!」 と、言うのが建前である。 しかし、本当の理由は雪華実装が現われた時に他の奴等をおとりにするためだ。 これは皮肉にも実装石がコロニーを作る理由と同じである。 所詮人類も実装石と同じく自分が生き残る事しか考えていないというのか。 しかし、それはすぐに証明された。 … 「カワイソウ…」 すし詰め状態になった学校の体育館に響く不気味な声。 雪華実装がバスケットボールのゴールに座っていた。 そして、その表情は悪意に満ちていた。 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「ゆ、ゆきか実装じゃぁぁぁぁぁぁぁ!」 「おじいちゃん、きら実装ですよ!」 「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 人間たちが押し合いながら体育館を後にした。 しかし、やはり人間。 実装石とは違い他人の子や見ず知らずの老人を背負って逃げる者も多数見受けられた。 当の雪華実装はというと、触手で数人を捕えると無表情で口に運んでいた。 「カワイソウ… アナタタベラレチャウ」 … 雪華実装が「」を喰おうとしたその時、一筋の赤い閃光が走った。 「カワイ…」 自分の茨を切り裂いたそれの方を向いた雪華実装が目にしたのは壁に突き刺さった赤い羽。 そして、放たれた方向には一人の恰幅の良い中年女性が立っていた。 彼女は手にした赤い羽にキスをすると手を離す。 「せっかく珍しいもんが見つかったんだ。そこらの凡人の血で汚されたら堪らないね」 空中を揺らめく羽が床に止まる頃には、雪華実装に捕まっていた人間も皆すでに逃げていた。 体育館にいたのは右目の茨を蠢かせるおぞましい雪華実装と、真っ赤なスーツを身に纏ったババアだけだった。 … ババアといえば百戦練磨、肉弾戦で引けは取らない。 (この前、わざわざ藤の樹海に山実装さんを探しに行ったのだが結局ノーマル実装さん六匹だけしか堪能できなかったのは内緒だ) 雪華実装の操る茨を千切っては投げ、千切っては喰う。 茨と幻覚しか脳が無い雪華に自分が劣るわけがない。 それがババアの自信の根拠であった。 「カワイソウ… イツマデモツヨキナママデ」 雪華実装は突如攻撃を止めると口を開いた。 「はぁ!? 私のどこが可哀想なんだよ! ゴラァ!!」 「ズットキズカズ カワイソウ… ワタシトオナジナノニ カワイソウ…」 ババアには何を言っているのかわからなかった。 「馬鹿か!? 大企業の部長の私と、珍味のお前のどこが同じなんだよ! はっは〜! さては同情誘って高貴な私に飼われて幸せな一生過ごそうって腹かい!?」 「カワイソウ… モウシンデルノ二カワイソウ… カワイソウ… カワイソウ…」 ババアの立場は一転した。 先ほどまでは優勢だったにも関わらず、どうしてか言い知れない恐怖を感じていた。 「カワイソウ… イラナイッテイッタダロ カワイソウ… カシコイアナタ二ハワカッテイルハズデス カワイソウ… イラナイイラナイイラナイッテバ、ワタシハマダヤレルッテ…」 「あ? あ… あぁ、あ?」 ババアの目の色が変わった。 その瞳は黒く澱み、終わりの無い穴のようであった。 「ユメトキボウノチカラトトモニイツツノヒカリヨイマココニ カワイソウ… アアアアアアァァァァァァァァァァァ カワイソウ… カワイソウ… コレデダメトナルト…」 「う!? うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!? わ、私は…!?」 ババアの記憶が蘇る。 (あの日私が殺された? 上司に利用されて、わけのわかんないガキに爆殺された? でも、初めて実装を喰ったのはその後… それより今まで実装なんて知ってたっけ? 私が実装に会ったのも、実装を食べたのも私が死んだ後、 だけど私は会社に行ったし、仕事もした。 じゃあ、私は生きてる。 でも私は死んだ。 だけどこの前愛護派の会にも出た。 一緒に仔実装食べたじゃないか。 …… だけど確かにあの日殺された。 体が灰になって吹っ飛ばされた… じゃあ私は… 何だ?) 「カワイソウ…」 … 「なぁ、雪華実装って結局何なんだ?」 「さぁ。それはわからん。なんでも実体のない存在らしい」 「実体が無いなら存在しないはずだろ?」 「いや… だから肉体は無いけど、けど… 何かはあるんだよ」 「魂? 心? オーラ?」 「実装シリーズの怨念とかだったりして…」 「薔薇実装と関係あるらしいよ」 「人工の生命体」 「スクが少ないからな…」 「怨念かぁ… 実装の場合欲ばっかだろうけどなぁ」 「じゃ、妬みとかかなぁ…」 雪華実装から逃げ出した人々は口々に語っていた。 「もしそうなら人間の欲の塊とかもいるんかなー?」 「パンサーゾラとか闇脳」 「人間の心は複雑だかんなー」 … 翌日、ある糞蟲師の男が体育館の様子見に行った。 「これは… 糞蟲というよりは化けもんの仕業…」 そこには雪華実装はいなかった。 半身を床に埋めた怪鳥が目を真っ赤にしながら白い半透明の肉を喰っていた。 「カエラナキャ… アタシニャマダシゴトガアッタンダ」 怪鳥は大きな羽広げると、穴から抜け出そうともがいた。 「ゴガァァァァァァァァ!!」 男は唖然とした。 あれは蟲じゃない。 そもそも生き物なのかも分からない。 「今日の事は無かったことにしよう。いや、俺なんも見てないや…」 男は眩暈を感じながらも足を急がせた。 … ===================================================== デスー、私は賢い実装石デスー。 昨日はキラなんとかという怪物にクソニンゲンが殺されたらしいデスー。 そんで今度は体育館とかいうボロ小屋に現われたらしいデスー。 デプププ… しょせんクソニンゲンなんて自然界ではやっていけないひ弱な生き物デスゥ。 だから私がそのキラなんとかを軽く倒してクソニンゲンに見せびらかしてやるデスゥ。 お、着いたデスゥ。 デププ… これで世界中のクソニンゲンは私に恐れをなして奴隷になるデス。 そしたら優しい私は毎日すしステーキイタ飯を食わさせてつかまつりたてまつりまくるデスー♪ … デェ? デギャァァァァァァァァ!! あ、あれは何デスゥーーー!? そこではまさに、怪鳥が穴を抜け出し飛び立とうとしていた。 怪鳥は右足で床を蹴り上げると、体育館の天井を突き破って飛び去っていった。 デ… あ、あれがキラなんとかデスゥ? デ、デ… デプゥ。 き、きっと私に恐れをなして逃げ出したデスゥ。 愚かな弱虫デスー。 (パンコン止まらないデス… 怖いデスゥ) ===================================================== 数週間後 ------------------------------------------------------ A「ガーッハッハッハッハ! それそれ! そんな感じよ!」 B「あ〜、やっぱ初期型は違いますかぁ?」 C「私も一度飼ったことありますけど、まだ押入れにしまったままですよ」 B「じゃあ今度連れてきて下さいよ」 D「どうせ殺しても三日後に戻ってきますからねぇ」 A「そーそー、一回来たら一生楽しめるっての!」 E「あ、初期型って大きいんでしたね?」 C「ええ、仔実装サイズじゃないんで教授も大丈夫デスよ」 B「あ、デスって言った」 A「ガーッハッハッハッハッハッハ!」 その日もババアは茶会に参加していた。 彼女は今初期型に夢中だ。 特に痛みを感じたり苦しんでいる様子は無い。 数日経つとまた部屋に戻ってくるくらいだった。 しかし、ババアは虐待派ではないので喰えれば十分だった。 D「ところで雪華実装の味はどうでした?」 A「雪華? あ〜、私まだ食べたことないはずだけど… 覚えてないな」 E「ほほぅ、これは白痴ですかな?」 A「いやぁ… ほんとに覚えてない… というか雪華はなんだか食べたいと思わないのよね〜」 その日も次の次の日も茶会は催された。 そして、会話内容は常にカオスに溢れていた。 ----------------------------------------------------------- すまんほんとに駄文でした。 赤いサクブスでした。 「カワイソウ… ワタシイッカイタベラレチャッタ カワイソウ… オバサンズットユメノナカ」 「それが絶望の闇に落ちた者の定めです」
