タイトル:【虐待描写はまだないです】 慌てるな これは仔実装の罠だ
ファイル:【虐待描写はまだないです】慌てるな。これは仔実装の罠だ.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2606 レス数:0
初投稿日時:2008/02/25-00:39:53修正日時:2008/02/25-00:39:53
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 双葉国立自然公園。双葉市の郊外にある東京ドーム一個分はあろうかという大型の国立公園
時々マラソンとかもあったり、恐竜の骨なんかも展示していた事のある長居公園よりもずっと
大きな公園。しかし、さりとて国道に面しているわけでもなく、大きな道路も近くには通って
いない。単に郊外で余っていただけの土地を「自然公園にしてみました」というだけの場所が
実装石たちの一大王国に変貌したのはある意味では必然だった。そんな場所の薄汚れたベンチ
でマックの袋を片手にハンバーガーを貪っているのは近くの役所の装害科に勤めている青年、
中井貴弘だった。
 中井青年は、足元でデスデステチテチテチュテチュレフレフ喧しい蟲たちを脚で追い散らし
ながら(蛆と親指はちょっと潰れた)、ちょっとした混沌ワールドと化している自然公園を見
渡せる限り見渡していた。

「ああ……見渡す限り糞蟲糞蟲糞蟲ィ——イン・ザ・スカァーイって感じだなぁ」
 
 何がイン・ザ・スカイなのかは知らないが、中井は満たされていた。
 蹴たぐりを食らわされ、膝を折ってデププと笑う成体実装の前に屈する禿裸にそれを取り囲
んで笑う裸実装と、そんな凄惨な光景を微笑ましいものでも見るような目で見つめている壮年
の紳士の疑いを知らない横顔。
 全てが。全てのピエロたちが中井の心を満たしてくれていた。
 
(ああ〜、いいねいいねぇ。もうアレだ。隠れ虐待派なんか卒業して観察派になっちゃおうか
と思うほど美しい光景だねえ〜)

 最近、またも異常な盛り上がりを見せている実装石愛護ブームに人目を憚らない虐待紳士ま
でもが虐待を自重する中、隠れ虐待派の中井の居場所などどこにも無かった。
 しかし、この男。「思うほど」などと言うからには隠れ虐待派を引退する気など更々ないよ
うである。

 しばし、その光景に見入り、フィッシュバーガーとチキンタツタを片付けて残骸を袋の中に
仕舞うべく、視線を下に向けた時、中井はどこで集めてきたのか、割り箸を四方八方から山積
みに積み上げてベンチの上に上がってこようとしている仔実装の姿を見つけた。

(あン?)

 テッチテッチと必死に割り箸を積み上げては、その上に登ってベンチに向かってジャンプす
る。しかし、体長20cm程の未成熟な仔実装がちょっと割り箸で山を作ったからといって、
人間の座るベンチに届くはずが無い。
 何度も何度も地面に落着して、赤緑の体液を流しながら必死にこちらに上がってこようとし
ている。

(ふむ。しかし、まぁ……随分身奇麗なヤツだな)

 血で汚れている分は差し引いたとしても、十分に身奇麗だった。お湯が使えない環境にあり
ながら、相当にしつこく洗ったのだろう。所々薄くなった実装服に、仔実装では十分には綺麗
に出来ないフードのてっぺんまでもが、丁寧に洗われている。
 親に大きな愛を受けているに違いない個体だった。
 ぼんやりと、失敗する仔実装の姿を見ていると、仔実装も見られていると気付いたようで、
今度は割り箸を積み上げもせずジャンプして失敗して泣き出した。

(うわ、ウッゼ)

 同情を引こうというのだろう。一瞬、蹴り潰してやろうかと思ったが、ちょっと向こうには
愛護派らしい紳士の姿もある。迂闊な事はすべきじゃあないだろうと判断して、中井は泣いて
いる仔実装に手を差し出して「乗れよ」と言った。
 仔実装は嘘泣きの癖に透明な涙を流し「テチッ……テチッ」と声を上ずらせて、擦り寄って
きた。虐待派の中井にしてみれば、ゴキブリかそれに順ずる不快生物が手に乗っているという
イメージしかない。即座に振り落とし、隠し持っているマイナスドライバーで穴だらけにして
やりたい衝動に駆られた。
 しかし、それに耐えて、中井は仔実装をベンチの上に載せ、リンガルをオンにすると。

「どうした? 何か、困った事でもあるのか?」

 と、聞いてみた。
 仔実装の話しは、昔々の話しから始まった。


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 全ての物語は昔々……から始まります。物語は『今』を描けません。どこかで、それが遠い
別の国の物語でも、誰かの思い描いた夢の世界でも。全ては昔々で始まって、昔々で終わるの
です。
 そうそう、そうなのです。
 昔々、この世界ではそんなに昔の事でもありませんが、昔々、大変に仲の好い実装石の姉妹
がいました。
 とても頭のいい二匹の実装石。他の姉妹たちは産まれた直後の母の『選別』に漏れ、蛆実装
はまだろくに目も見えない生き残った姉妹たちに食われ、蛆実装を食って生き残った親指実装
は未熟児として母に食われ、そして最後に残った五匹の仔実装のうちの一匹は生まれつきの糞
蟲で、二匹は知能が最後の二匹に比べて劣っていました。母実装はその三匹をそれぞれ密かに
間引き、残った二匹に愛情の全てを注ぐことにしました。
 残った二匹の姉妹は、まだいたはずの多くの姉妹の行方を母に問い。母が寂しそうに指の無
い手を天に向けたのを見て、全てを悟れないまでも、ちゃんと納得し、母の愛を受け入れまし
た。二匹は常に二匹で遊び、母の言いつけは全て守り。決して二人だけでダンボールハウスの
外に出る事も無く、母と一緒に出かけて人間に出会っても媚びたりはしませんでした。
 
 本当に賢くて、そして慎ましやかで、大変に仲の好い姉妹であり、親子であったのです。
 昔々の……昔々は。

 今の二匹は、どちらもブルブルと震えておりました。一匹は母に首を絞められ、口から泡を
吹いて顔を紫色にしながらブルブルと。もう一匹は母が丁寧に解体してベッドに改造してくれ
た古雑誌の中でブルブルと。

「な……んで……テ、チ……マ、マ……ママ……」
「黙れデス」

 ぐぎぎ、と音がします。

「——っか、ひゅー……っか、ひゅー……マ——ひゅー……マ」
「……」

 実装石の指の無い手では仔実装の細首ひとつろくに締め上げる事はできません。それが、無
用の苦しみを仔実装に与え、結果、もう一匹の仔実装を起こす結果を生んでしまったのです。
実装石としては怜悧とも、英明とも言えるほどの知性を備えていたその仔は今、決して声を立
てたり物音を立ててはいけないと本能レベルで察知し、寝息を偽装してジッと耐えていました

「ひっ……ひ、ひゅ……ひ……」
「さっさと死ぬデス……! お前は……少しウスノロで、それが心配だったデス。やっぱり、
お前はウスノロのグズデス……!! さっさと……さっさとくたばれデス……!!」

 これだけを聞いて、それが母実装の、ある意味では深い愛だとどれだけの人が気付くでしょ
うか? 彼女は彼女なりに仔を間引く事に魂の痛みを感じていたので、一秒でも早く仔を楽に
してあげたかったのです。
 そして、ようやくボキッ、と鈍い音がして……更にややあって、パキン。と何かが割れた音
がしました。
 首が折れ、偽石が割れたのです。
 母実装は、もう何事も口にせず、死んだ仔を外に運び出して『グチャグチャ』と咀嚼して処
理しました。髪も、服までも喰らうという徹底した処理ぶりでした。
 母実装は素早くダンボールハウスに戻ると、今しがたまで首を締め上げていた仔の眠ってい
た古雑誌のベッドから何ページかカッターナイフで切り取ると、血肉で穢れた自分の体を拭き
血で汚れたページをトイレの奥に押し込んで隠し……眠りました。
 
 残った仔は姉が眠っていた古雑誌で母が体を拭いたのを見て、姉の死を悟りました。そして
理解しました。
 姉が母に理由無く殺されたと。

 朝、結局一睡も出来ずに起きてきた妹仔実装を平然と迎え、恐る恐る姉がいない事を告げた
妹仔実装に「デス? お姉ちゃんは昨日、お隣さんのヨッコさんのウチに泊まったデス。覚え
てないデス?」と言った。

 妹仔実装は確信した。
 このままでは、ワタシも殺されてしまうと。

 姉は結局、帰ってこなかった。当たり前だ。もう母の腹の中にいるのだから、帰ってくるハ
ズがあるものか! 母は朝食を手に入れて帰ってくるなり「お姉ちゃんはヨッコさんの家から
いなくなったみたいデス……」と沈痛な面持ちで告げた。が、すぐに表情を明るくして「きっ
と、優しいニンゲンサンに拾われて今頃は飼い実装デス」と言った。

 嘘をつけ! 嘘をつけ! 仔実装は母の「楽しい飼い実装の生活」の話しを笑顔で聞き流し
ながら、心の中で叫んでいた。
 危険を犯し、妹子実装は母の後をつけていたのだった。
 ヨッコさんの家になど寄ってもいない! 何が飼い実装だ! この……仔殺し実装石がッ!

 このままでは、拙い。このままでは、いつこの母親に殺されるかわからない。しかし、今は
何の手立てもない。

(なんとか……しなきゃまずいテチ)

 この母を、殺せないまでも無力化し、そしてまだ幼い自分を庇護してくれる存在を探さなけ
ればいけない。もう、この家では安心して眠れない。さりとて、この家を出て住む場所もない
今は耐え、夜は眠らず、母が出かけている間に眠り、その合間合間に対策を考えなければなら
ない。この母の処理を!


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 「つまり、糞蟲化した姉蟲をオヤが間引いただけだろ?」仔実装の退屈極まる話しを最後ま
で聞き終えた中井はそう言いたげな表情で仔実装を見た。
 仔実装は未だ嘘泣きを続け、伺うように中井を見上げてきている。
 実を言えば、姉が殺されるまでのくだりを中井はろくに聞いていなかった。せっかく、母が
拾ってきた生ゴミを妹にぶつけたり、糞を親に投げつけたりし始めて、と聞いた段階でリンガ
ルをオフにして、適当に待ってからリンガルを再起動して聞いたのが今までの話しであった。
 姉実装が本当に糞蟲になってしまったかはわからない。が、話しの前後からしてそれ以外に
は考えられないだろう。
 今更そんな話しも聞きたくないので中井は意図的に仔実装の話しを無視したのだった。

「で、俺にどうして欲しいんだ? 黙って泣き言聞いてやったんだ。どうして欲しいかくらい
はちゃんと言えよ」
「ママを……殺してくださいテチ」

 敢えて表現するなら「鎮痛な面持ち」だろうか。
 限りなく無表情に近い実装石の表情は虐待慣れした中井にもさっぱりわからなかった。

「——で、お前は俺に飼われたいと言うんだな」

 つまらないな。と心から思いながら中井はぶっきら棒にそう言った。きっと、虚を突かれた
仔実装は何も言い返せなくなるに違いない。そんな確信があったが、仔実装の返答は中井の予
想を大きく裏切った。

「それはいいテチ。ワタシにはワタシのためだけのヒゴシャがいるテチ」
「……ママ、死ぬんだぞ?」
「ママじゃないテチ。あんなクソムシに……少しの間だけでもヒゴされてたとは思いたくない
テチ。それは、ワタシのハートが許せないんテチ」

 ふむ。と、中井は唸った。

「なら、そのヒゴシャにママを殺してもらえよ」
「それは……無理なのテチ」
「なんで?」
「……言わなきゃ、駄目テチ……?」
「そら興味あるな。お前、まさか既に飼い主見つけてて、最後っ屁にママ殺して復讐を遂げて
いこうなんて事を考えてるんじゃないだろうな? はっきり言っておくがな。俺を遣おうなん
て思うなよ。俺は、そんな扱いを受けたらお前を殺すぜ」
「そんな事は思ってないテチ……ただ、ニンゲンサンならワタシを助けてくれると思ったテチ
ワタシのためにママを殺してくれると思っただけテチ」

 また中井は唸った。

(一つ。こいつ、実は頭よさげに見せて頭悪い可能性。もう一つは、信じがたいほど、頭がい
い可能性……どっちであったとしても、まだ真意は読めねえ)
 
 色々納得出来ない。
 結局、ヒゴシャが何故ママを殺せないかのくだりは話しが逸れたので話す気はないようだし
どうにも、信用できない。

(こいつ。ゼッタイ俺の事、遣う気だな)

 実装石風情が……それも、チリィ仔実装が人様を遣おうとはいい度胸だ。
 中井はまだそうとははっきりした訳でもないのに半ば決めてかかって怒り出していた。

「ま、今日は帰れよ」
「……殺してくれないテチ?」
「母親、もう帰ってくるんじゃねえのか」

 空を見ながら、仔実装に告げる。
 よく考えれば、中井も昼休みの途中である。夕食を探しに出かけた親実装もそこそこに帰っ
てきて昼食を摂るだろう。

「疑われてお前が殺されちゃ、話しにならねーだろ」
「……でも、でもテチ」
「いいから帰れ」

 面倒になって、中井はぶっきら棒に言い放った。

「……テチ」

 渋々。といった感じで仔実装は立ち上がり、当然の事のように中井の手にしがみついた。瞬
間、殺意が中井の中で噴いたが、中井は背筋を震わせながらもそれに耐え、優しく仔実装を草
のある地面に下ろしてやった。

「また明日もここに来て欲しいテチ」
「……」
「ママを殺すための手順を話したいテチ」
「……」

 結局、中井は仔実装の姿がやぶの中に消えるまで、身じろぎ一つしなかった。

「糞蟲が」

 一袋に纏めたマックのゴミを傍のゴミ箱に放り込んで立ち上がる。もう少し、様子を見てか
らあいつだけは殺そうと心に決めて歩き出す。
 が、その背に今度は人の言葉が飛んできた。

「ちょっと」

 ぎょっとして振り返ると、そこには、先ほど少し離れた所で実装石を見ていた壮年の紳士の
姿があった。

(まさか、聞かれたか?)

 実装石を糞蟲と表現するのは虐待派だけである。最悪、聞きとがめられていた場合、この紳
士に何をされるかわかったものではない。

「貴方、さっき見てたでしょう」
「は? はぁ……?」

 何の事だろうか。さっき、紳士を見ていた時の事を言っているのだろうか? 今度は中井
が伺う番であった。下から紳士を見上げ、次の出方を待つ。

「仔実装はね。体がとても弱いんですよ。あんな何度も何度も高いところから落ちて……死ん
でしまったらどうするつもりだったんですか」

 強い詰問するような口調。ああ、割り箸から落ちまくってた時の話しか。ほっとする反面、
紳士への反意がふつふつと湧き上がってくる。

(どうもしねえよ、糞ジジイ)

 喉まで出かかったその言葉を飲み込みながら、中井は素直そうに「すいません」とだけ謝っ
た。

「次からは気をつけてくださいよ。みんな、この公園に実装石を見に来ているんですからね」

 オマエラだけな。と、胸中で舌を出すのも忘れず、中井はもう一度だけ「すいません」と謝
ってその場を離れた。
 昼休みの終わりまでに職場に帰れるかは微妙な時間になっていた。


  つづく

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
義眼実装たちよ
で、サブキャラとして出ていた中井が今回はメインになってます
どの程度、前のと繋がるかは微妙ですが……次で終わると思います

では、また……

【過去作】

お掃除実装石ちゃん危機一髪! 
まぁこんな夜もある 
義眼実装たちよ

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