タイトル:【愛……?】 義眼実装たちよ
ファイル:【愛……?】義眼実装たちよ.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2934 レス数:0
初投稿日時:2008/02/18-00:07:59修正日時:2008/02/18-00:07:59
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 最近は変わったものが出回るようになったなあ。と、思ってついつい仕事帰りに寄ったコン
ビニで手にとってレジへ運んでしまった。
 何と、実装石の箱ものフィギュアである。一箱500円也。

 街中を適当にぶらついていたら野良猫を一匹見つける前に実装石は100匹は見つけられる
事だろうし、ショップに行けば500円もしない安価な個体だって手に入る(処分品か糞蟲な
らだが)この状況では幾ら実装石ブームがきてもこんな製品は売れない。

 確かに、今再び俺が生きてきた20余年の中でも最も大きいと断言できる大型の実装石愛護
ブームがきている。だが、しかし、幾らなんでもこれは売れまい。
 生きてすらいないわけだから。

 俺は何となくそれで自己完結してしまって、箱を開ける事もなく部屋の隅に放り出してしま
った。あーあ、勿体無い買い物したかなぁ。などという思いもあったが、すぐに忘れてしまっ
て、俺は今更ハマっていたガンダム無双を少しだけ遊んでさっさと床についてしまっていた。

 翌日。今日は朝一番から野良実装への避妊処置に追われていた。尤も、俺は医者ではない。
 役所の装害科に勤務している。俺の仕事は、まぁ色々あるが、広く知られているように人に
害を与える(及び恐れのある)実装石の駆除だ。

 が、ここの所は随分毛色が違っている。先にも言ったように、ここしばらくでまた実装石の
愛護ブームがきている。実質、ここ半年は駆除らしい駆除も行っていない。普段なら駆除依頼
が来ても不思議ではない事件が起こっても、今は愛護派がまた発言権を増しており、大体の場
合『人間側にも反省すべき点があるはずザマス』なんて意見に打ち負かされている。

 結果、再び捨て実装の増加や、虐待派の衰退によって、実装石の数は膨大な数に膨れ上がっ
ており、公園など一体誰のために存在しているのかさっぱりわからないような状態になってい
る有様だ。

 で、そこで今や愛護派の……もとい愛誤派の台頭によってほぼ開店休業状態の我々装害科に
指令が下ったわけである。『実装石に避妊処置を行え』と市長から直々にね。
 隠れ虐待派の同僚などは気早くトイレで『ヒャァァァァッハァァーーー!!』と絶叫して喜
んでいたが、話しにはまだ続きがあった。

 これまで、実装石から生殖能力を奪うには総排泄口を焼き潰すか、右目を焼き潰すくらいし
か方法なかったわけだが(しかも双方とも避妊処置としては不完全だ)、これらは言うまでも
なく愛護派からのウケは悪い。しかし、これ以上実装石に増えられても困る。

 そんな要望を受け、ローゼン社が開発したのが『実装義眼』である。これにはどんな機能が
あってかは知らないが、ガラス玉を右目の代用にはめても左目を染める事で妊娠してしまう実
装石から完全に妊娠能力を奪ってしまう代物だ。

 問題は成体実装にしか使用できないことだが、中サイズ以下の実装石が出産するという事自
体、実装社会では異常な事のようだし、恐らく成果は上がるだろう。
 
 一応、視力も徐々にだが回復し、一月もすれば完全に見えるようになるとの触れ込みで、愛
護派も渋々ではあったが、実装義眼の使用を認めたわけだ。
 個人的には市長を褒めてあげたい。
 何せ、市長のお内儀は筋金入りの愛誤派だ。
 しばらくして離婚とかしたら精一杯、できる限りの同情をしてあげたいと思う。

「デー……デー……デー……デーズズズズ……デーズズズズズズゥ……」

 俺の手の中では成体実装が実装ネムリのスプレーにやられて、腹を向けて眠っている。傍の
林からは、この成体の仔なのか、中実装も含めた7匹ほどの実装石たちが不安げにこちらを見
ている。一見して糞蟲らしい個体も見受けられず、中々によくできた一家に思えた。

 俺は手早く、成体実装の右目を引っ張り、手にした鋏で神経節ごと切り落とす。実装ネムリ
には言わずと知れた麻酔作用もある。この成体実装は、無痛のはずだ。

「ヂャアアアアアアアアアアアアア!!!ママァァ!!ママァァァ!!ニンゲン!!!!ママニナニスルテチャアアアアアアア!!!!!」
「や、やめるテス親指チャ……こらえるテス……」

 長姉なのだろう。中実装がこちらに飛び出そうとした親指実装を抱き締めて血涙を流してい
る。見立て通り、いい家族らしい。

(これなら、平気だろう)

 切り落とした眼球を素早く瓶に詰め、代わりにポーチからガラス玉そっくりの赤い玉。実装
義眼を取り出し、はめ込む。
 当初は『義眼をはめた個体の識別ができないのでは?』という疑念もあったが、実際に実装
義眼が納入されて考えが変わった。義眼には、大きくローゼン社のエンブレムが刻まれている
のだ。これなら、二度手間になる事もない。

(仔を産めず、苦しむ事もない)

 不思議と実装義眼は最初からそこにあったもののように、するりと成体実装の眼窩に張り付
き、すぐに神経の根を張る。
 無事生き延びられれば、ちゃんと視力も回復する。
 俺は、実装義眼と共にローゼン社から納入された実装キツケを成体実装の顔に振りかけた。

「デ? デ? ……デ?」

 俺は、何が起こったのかさっぱりだ。そんな顔をしている成体実装を背にさっさと歩き出し
次のターゲットを探していた。後ろのほうでは、親子が無事感動の再会を果たしたようで、中
実装の大きな鳴き声と、仔たちの小さな泣き声が未だ状況を把握し切れていない成体実装の周
囲で唱和していた。

 それから、夕方になるまで俺は公園で不妊処置を続けた。
 無痛とは言え、実装の目を取ってしまう作業をする。一応、人目はなるべく避けないといけ
ない。今は実装石を傷つける者には何が起こっても不思議はない。

「でも、気疲れしてるのは多分それだけが原因じゃないよなー」

 仕事を終え、帰宅して俺は自宅の天井を見つめている。
 別に、俺は自分が愛護派だとは思っていない。どちらかと言えば無関心なほうである。過去
に家宅侵入を喰らって手酷い目に遭った割には実装石がそんなに嫌いでもない。
 甘いなァ、とは思うわけだが焚きつけられて憎しみが増すほどシンプルな方でもないので仕
様もなし。

(多分、向いてないな。この仕事)

 嫌なのだ。
 身勝手に、実装石から未来を奪っているようで。犬や猫なら去勢するのも常識としてわかる
のに、家族の輪を持ち(勿論それが全てではない。最早雪ぎようもない汚点があるのも承知し
ている)、あんな……人間みたいな反応をされると、本当に辛く感じる。
 虐待派の同僚などは、つまらんと言いながらも、こっそり実装ネムリを使わず処置を行った
りしてそこそこ楽しんでいるようだが、俺は大分堪えているらしかった。

 そして、翌日。

「おう、来たか。いつもより、早いな?」
「そうすかね」

 意外そうに腕時計を見る演技などしつつ、俺は上司の言葉に答えた。
 速水健勇。この部署、装害科の部長に当たる人で、俺の直属の上司でもある。しょっちゅう
飲み食いに連れて行ってくれる人で、慢性的に手元不如意な俺にとっては結構有難い人である
月末など特に。

「ま、茶でも飲んでゆっくりしてな。今日は、ちょっと変わった仕事があるんだ」
「……はぁ」

 速水部長は、装害科が全員揃うと、珍しく朝会をやると言い出した。
 豪快な人で、いつも『喋る暇があったら動け』なんて言う人だ。とても珍しい。それに、机
の上には何故か、一昨日前に買った箱もの実装石フィギュアの箱が置いてある。

「今日は、近くのセブンに張ってもらいたい」
「……は? セブンて、コンビニの?」
「ああ。そこのー、ほれ。二階堂さん家のセブンイレブンだよ。お前らン中にも普段世話にな
ってる奴、いるだろ?」

 モロに俺とかそうですね。ハイ。

「なんで、コンビニに?」

 俺ではない。隠れ虐待派の同僚がごく当然の疑問を口にした。

「うん。まぁ、俺も悩んだんだがな」

 速水部長は、そこで机の上に置いてあったフィギュアの箱を取り、みんなに見せた。途端、
愛護派の女の子が声を上げた。

「それ、今人気のやつですよね?」
「うんうん、どこ行っても売ってないんだよね」

 マジで? ふうむ、そう言えば、あんまり残ってなかった気もするな……。いや、どうだっ
たかな。

「おう、詳しい奴もいるみたいだな。これなんだよ、問題は」

 まぁいい、話しを聞こう。

「今、米村と金井が言ったように、このローゼン社発売の実装石フィギュア『糞い奴ら』のフ
ィギュアが大人気でな。売れに売れてる」
「バリエーションは大した事ないんですけど、無茶苦茶できが良いんですよ。特にお母さんの
できが良くって、まるで本物の親指ちゃんみたいで……」
「うむ……だからか知らんが、実装石を飼育している家庭を中心に今、爆発的に売れている。
特に避妊処置を受けた飼い実装が欲しがるらしい」

 なるほど、手慰みという事か。

「が、問題はここからだ。ここしばらく、二階堂さんとこにも人気で品薄で、入荷がなかった
そうなんだが、丁度一昨日に大量に入荷できたらしい……しかし、ほとんど全部、店内に侵入
してきた野良に奪い去られちまったらしい……50かそこらはいたらしい」
「「「はぁ?」」」

 これには俺も声を上げてしまった。
 ありえない。つか、どうやって入ったんだ。

「野良に、ですか?」
「ああ。侵入してきた野良は全て成体。しかも……全て、避妊処置済の個体だったらしい」
「あー……」

 大分に話しが読めてきたぞ。

「中のコンペイトウ目当てだったんじゃ?」

 隠れ虐待派の同僚が発言する。
 そんなの入ってたのか。

「俺も一瞬そう思ったが違うらしい。箱が持ちきれないとわかるや、箱を潰して中のフィギュ
アだけ持ち去った個体が幾つもいたらしい。後ほど公園でフィギュアの入ったビニールを引き
千切っている個体も確認されている」

 仔の、代用品という事か……。

「ま、つまりだ。今日は俺らが総出で二階堂さん家のコンビニの警備に当たる事になった」
「警察の仕事のような気もしますが……」
「人間相手ならな」

 はぁ、と速水部長は短く息を吐き。

「俺たちは、装害科だからな」

 と、苦笑して見せた。
 そして、俺たちは就業時刻と共に対実石装用装備を大量に持ち出し、二階堂さん家のコンビ
ニに向かった。

 二階堂さんは、よく見ればいつも夕方の客の応対に出ている人で、向こうからは兎も角、俺
にとっては結構馴染みの顔だった。
 聞けば、今日も結構な数の『糞い奴ら』が入荷されてくるらしい。
 10時のトラックで来るらしいから、もうすぐだ。
 俺たちは二階堂さんから渡されたうまい棒とジュースを片手にその時間を待った。

 程なくして時間が来て、トラックがやってきた。納品が始まると、俺たちは一様に身構えた
50匹の成体実装。ひょっとしたら入手できた奴らは来なくなって総数は減ってるかもしれな
いが、こっちは俺や戦力になりそうな隠れ虐待派の同僚も含めて9人。

 納品と共に襲ってきたという報告はなかったにせよ、奴らが学習していたら事だ。
 『警戒を怠るなよ』と、速水部長が言った次の瞬間だった。
 向かい側の公園で、緑の小山が動いた。

「な、何だ?」

 これは誰の発言だったのか、俺にはよく聞き取れなかった。

「デスーーーーーーーー!!! デェェェェスーーーーー!!!!」
「デース! デース! デーーース!!」
「デェェェェェーーー!!! 逝くデェェェェーーーーーース!!!!!」
「アルファ小隊は自分に続けデス! ベータ、ブラッド隊はジョアンナとペッシモンドに続く
デスーーー!!!」
「みんなの命、ワタシが預かるデス!!」

 100……いや、200は下らない!? 全て成体実装だ!!

「お前ら! リンガル切れ! 音拾ってちゃ間に合わんぞ!」
「納入急いで! 中に入って自動ドアの電源切っちゃってください! あんなの……防ぎきれ
ないッ!!」

 最悪だ! こいつら、勉強してやがった!! このトラックに『糞い奴ら』が積まれている
かは賭けだったろう。無かったら無駄死にだ。それさえ、覚悟して奴らは突っ込んできやがっ
たんだ!

「米村と金井も納品手伝え! 中に入ってろ!」

 部長が的確に指示を飛ばす。愛護派の女の子二人はどうせ戦力にはならないだろう。正しい
判断だ。

「来るぞーーーーーーーー!!!!」
「ニンゲンサン……ワタシたちを……見逃して欲しいデスーーーーー!!!!」

 そうも、いかないんだよーーーーー!!!

「ヒャッ……じゃ、ねえ……うぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!」
 
 虐待派の同僚が実装ネムリのスプレーを両手にいち早く特攻を開始する。だが、一瞬で成体
実装に取り付かれ、顔に糞を垂らされている。うおー、あれはきついぃぃぃ。

「中井ー! 下がれーーーーー!!!」
「お、俺がぁーーーー! 糞蟲なんかに負けるわけにはいかねえんだよぉぉぉーーー!!」

 そして、遂に人目も憚らず最終兵器が飛び出す。赤と銀のコントラストを描く対実装用の必
殺兵器バール(rが飛び出す。

「ヒッ……ヒッ……ヒッ……ヒャァァァーーーッハーーーー!!!!」

 あああああ、あいつ人生終わったかも知らん。赤と銀のコントラストを赤緑のシミに染めな
がら隠れ虐待派の同僚改め中井が物量の中心で大暴れを開始した。

「デギャアアアアアアアアアアア!!! こ、こいつ虐待派デスーーー! デボォァ!?」
「怯むなデス! ワタシたちの仔は……目の前デス!」
「デーデーデー! アルファ小隊全滅デス、我らは奮闘したデス、我らはよく戦ったデス」
「ブラックシグマ隊! アルファのヤツらの仇を取るデスーーー!」
「デボォォォ!! このニンゲン強いデボォォォォーーー!!」

 今、何か聞き逃しちゃいけない台詞を聞いた気がしたが……くっ。数が……。

「俺も行きます。中井(隠れ虐待派の同僚)無理するなー!(今からでも遅くないからそれ仕
舞えー!)」
「くそ、バカやろうどもめ!」

 続いて、俺、部長が中井の支援に突っ込む。

「ヒャハハハハ!!! ヒャーッハハハハハ!! ヒャァァァーーッハァァーー!!」
「ネムリスプレーがーーー!! ほ、補給をーーー」
「駄目だ、袋が足りねぇ! 眠らせたやつらを後方に運んでる奴らがいる。そいつらから……
ってうぉぉぉぉぉーーー!!?」
「ぶ、部長ー!? って、うわぁぁぁぁぁ!!?」

 部長が成体実装になぎ倒される。
 それを助けようとした俺も倒される。

「イヒヒャハハ! ヒャァーッハハハーーーハハーーー!!!」

 結局、完全に成体実装たちを駆除しきるにはたっぷり二時間もかかった。無論、名前の出な
かった残り四人も必死に頑張った。だが、流石にこれは数が多すぎた。
 店主の二階堂さんが、駆除を終え、すっかり仰向けになってぐったりしている俺たち全員に
おずおずとコンビニ弁当を差し出してきたが、赤緑色の血のりと糞臭に塗れぐったりしていて
とてもじゃないが、その好意には甘えられそうにも無かった。
 中井などは、スポーツドリンクを受け取るなり、頭からかぶって糞を洗い流そうと必死にな
っていた……あーあ、結局最後までバール(r隠さなかったよあいつ。

 既に周囲は黒山の人だかり。下手したら俺たち全員、何かお咎めがあるかも知れないなあ。
俺たちは、市民の目もある事だし、何とか捕獲できた分の成体実装だけは、「もう二度とする
なよ」と言い含めて公園にリリースし、役所に帰ってからは……あまり何も思い出せない。

「はぁ……」

 取り合えず、免職はなかった。三ヶ月の減俸と一ヶ月の自宅謹慎を命じられた。中井だけは
どちらも一ヶ月長い。
 こんな時は身内に甘い公務員の我が身が有難い。
 酷い目に遭った。が、丁度休暇は欲しかった所だ。いい骨休めになる。
 俺はまた、自宅の天井を見上げていた。謹慎はまだ半分を過ぎた所で、時間は有り余ってい
た。既にガンダム無双も完全クリアしてしまって、やる事が無い。武者ガンダムつぇー。
 ぼんやりしていたら、既に夕方だった。

「まだ、臭う気がするな……」

 くんくん、と袖口を嗅いでみて、嫌な糞臭がして俺は顔をしかめた。普段なら使いもしない
香水も使ったし、途中からはやけくそになって柑橘系の果物の皮を直に皮膚にも刷り込んでみ
た(なんか炎症起こした)がまだ臭いは消えない。

「はぁ……」

 なんか、溜息ばっかりついてる気がするな。
 俺は起き上がって、何となく部屋を見回した。部屋の隅には、随分前に放り出したままのコ
ンビニ袋がまだそのまま転がっていた。一度、意識の外に落ちた物などこんなもんである。
 俺は、放り出した時のように何となく、『糞い奴ら』が入ったコンビニ袋を拾い上げた。気
がつかない内に踏んでいたのか、自然劣化なのか、少し箱の側面が凹んでいる。
 上部にはセロファンテープで比較的厳重に封がなされていた。俺は、ついつい面倒で箱の側
面に爪を立て、箱を大きく損壊させながら箱を開いた。
 
(親実装、か?)

 何も持たず、右手をこちらに向けて振っている少し大きめのフィギュア。ビニールの中には
土台も入っていた。
 確かに、かなりできはいい。愛らしさだけを振りまくこのフィギュアは確かにウケが良さそ
うだった。

(何で、これをあいつらは欲しがったんだ?)

 仔の代わり、か? だが、それにしたって……。
 実装石には群れの中において、乳母のような。他の実装石の仔を好んで保育する個体が存在
する事も確認されている。
 そして、そういった個体は先天的にせよ後天的にせよ、仔を産む力が無い個体が多い。
 乳母になれば、良かったのではないだろうか?

「わからんなぁ……まぁ、わかるはずもない、が」

 その時、ふとどこかで犬の鳴き声と、実装石の声がした気がした。『デスゥゥゥ』という叫
び声。小さな声。それは屋内からのものではなくて、外から響いてきていた。

 俺は窓から庭を覗いた。隣の家の犬に吼えられて慌てたのか、その大柄な図体を無理矢理ブ
ロック塀の隙間に通して、服を少し破きながら成体実装が俺の家の庭に泣きながら逃げ込んで
きた所だった。

「あいつ、避妊済……か」

 一目でわかるローゼン社の刻印入りの赤い義眼。
 なら、餌を探して徘徊してきたにしてはおかしい。ここは、ゴミ捨て場からは少々離れすぎ
ている。迷ったのか、それとも……。
 俺は手にした親実装のフィギュアを見た。
 まさかな。

 庭に侵入してきた成体実装は『デスンデスン』とぐずぐず泣きながら、庭を抜けて外に出て
行こうとしている。このまま軒下に入ってきたら流石に叩き出すつもりだったが、出て行くの
ならいい。

 俺は、踵を返して部屋の中に戻ろうとした。
 が、少し考え直して再び窓から外を覗いた。本当に出て行こうとしている。なら……。

 ガラ……と、音を立てて窓を開く。
 丁度出て行こうとしていた成体実装はビクッとして振り返った。媚びるかな? と思ったが
成体実装は媚びなかった。そして、さっさと出て行けばいいものを、その場に留まって震えて
いた。

「はぁ」

 本当に溜息が多い。
 俺は、手にした親実装のフィギュアを何も言わずその成体実装に向けて差し出した。

「デ……?」

 不思議そうに、成体実装は一瞬俺を見た。だが、その視線はすぐにフィギュアに向かった。

「お前にやるよ」

 こいつを処置したのが俺かどうかはわからない。
 
「デ……デェ……」

 すりすりと、ほとんどすり足で成体実装は寄ってくる。かなり警戒しているようだが、この
フィギュアの魅力には勝てないらしい。
 たっぷり二分はかけて寄ってくると、俺の手元からフィギュアをひったくるようにして受け
取り、脱兎の如く駆け出して、門の辺りで一度お辞儀し、そのまま走り去った。

「別に、罪滅ぼしのつもりじゃないからな。ただ、くれてやりたくなったんだ」

 そして、俺は窓を閉じ、部屋の真ん中でまた仰向けになって寝転んだ。
 この仕事をやめる事は多分ないだろう。愛護ブームもそう長くは続かない。恐らく、もう少
しの辛抱だ。そうすれば、義眼なんてものが商売になる事もなくなる。
 それまでだ。それまでの商売さ。

 そうして、俺は夕日の中、親実装のフィギュアを抱いて走り去る成体実装の姿を思い浮かべ
ながら、瞼を閉じた。


   END

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【虐】お掃除実装石ちゃん危機一髪! 【虐】まぁこんな夜もある 
を書かせていただいた者です。沢山、感想をくださってありがとう御座いました。

 何故か、掲示板に書き込めませんのでこちらでお礼を述べさせていただきます。
 全体的に「もっと丁寧に」とのご指摘をいただいておりましたので、なるべく丁寧に書いてみました。
 皆様に楽しんで頂けたら幸いです。では……。

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