タイトル:【馬】 前半は体験談デスゥ
ファイル:加牟波理入道.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1728 レス数:0
初投稿日時:2008/02/16-01:20:53修正日時:2008/02/16-01:20:53
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子供の頃、夜トイレに行くのが怖かった。
薄暗い裸電球の灯りに照らし出される便壷。いわゆる汲み取り式というやつだ。
換気のため開けっ放しの窓からは生暖かい風が吹き込んでくる。
近くの寺から住職の読経の声が聞こえ、心なしか線香の匂いが漂う。
思い出すのは怪談の数々。便壷から伸びる白く細長い手、そして・・・


「かんばり入道」


それはトイレに出る妖怪。夜になると鳥のような鳴き声を出し、トイレの中を覗き見る。
大晦日(おおみそか)の夜にトイレに行き、「かんばり入道ホトトギス」と唱えると一年間は遭わずに済むという。

子供の頃、この妖怪が酷く恐ろしいものに思えた。
妖怪図鑑を見る限り、人間を襲うことはないらしいが、個室でお目にかかりたくはない。
それからというもの、大晦日の夜、トイレで例の呪文を唱えることが毎年の恒例行事となった。




あれから20年余。
よりによって、この恒例行事を怠ってしまった。
一昨年までは欠かすことは無かった。もっとも呪文を唱える時、顔から火が出そうだったのだが。
それが去年の大晦日に限って忘れてしまったのだ。


妖怪なんて出るはずがない、そうタカをくくったのかもしれない。
そのツケが廻って来たのだ。



*************************************



寒い夜のこと。
冷えた体を温めるため、お茶をガブ飲みしていた私は、急に尿意を催した。
何気なくトイレに向かい、用を足す。その時・・・

「テチッ・・・」

鳥のような鳴き声がして思わず窓から外を見る。外は漆黒の闇。何も見えない。
でも何かいるような・・・まさか?

「チィィ・・・」

声のする方を見る。暗闇にぼんやりと浮かぶ、赤と緑の光・・・

「ひいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

声にならない悲鳴を発しながら後ずさる。

出た!かんばり入道だ!!
呪文を唱えなかったから・・・


私は、もんどりうってトイレから出ると、ドアを閉めてへたりこむ。
まさか本当に出るなんて・・・

トイレの灯りを消そうとして、窓を閉め忘れたことを思い出す。
やばい!!これじゃ覗かれっぱなしだ。朝までトイレに入れない。どうしよう・・・


トイレのドアの前で考え込む。
明日になったら窓を閉め、ロックして、更に見えないように蓋でもしよう。
そうすれば安心だ。そう思ったところへ・・・

「トントン」

トイレのドアを中からノックする音。
空耳だろうと耳をすませる。しかし・・・

「トントン」

空耳じゃない!!
恐ろしい想像が脳裡を駆けめぐる。
「入ってきたんだ!!!」
かんばり入道がノックしてるのに違いない。


「ど、どどどどうしよう・・・・・・」


必死になってトイレのドアを押さえる。
朝まで持ちこたえなければ・・・そう思いつつ腕時計を見ると午前2時。
6時になれば明るくなる、それまでの辛抱だ。

かくして私の人生で一番長い夜が始まったのである。


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