タイトル:【虐】 冬の月
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作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:6607 レス数:0
初投稿日時:2008/02/05-19:36:18修正日時:2008/02/05-19:36:18
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冬の月


 ルトー!
 昼下がりだった。
 半夜行性である筈の実装燈の泣き声が聞こえた。
 一年前から飼っているインの声。
 男は二階に居た。
 しまった。
 男は瞬間的に考えたくない現実を予想して唇を噛み、階段を駆け下りた。
 途中から空気の匂いが変わる。
 無味無臭の空気にむわりと熱を感じるねとついた臭気が混じり始め、めまいを起こしそうな腐臭が鼻腔にまとわりつく。
 実際目眩がしかける例えようのない悪臭が不安を後押しする。
 かくして招かざる予想は現実となる。
 今日は最近の冬日の中では暖かい日であり、空気の入れ換えを兼ねて一階の居間の窓を開けていた。
 それが実装燈の災難であり、災難を与えたそれの地獄の始まりだった。

 実装燈。
 それは実装種の中で唯一と言える貧弱な個体。
 他の、特に実装石が無駄に、正しく無駄に生命力が強いのに対して実装燈は弱い。
 大きさも成体でリカちゃんサイズであり、ぶくぶくと肥満体の見本の如く太った実装石に比べれば、ジャバハットとヨーダである。
 その生命力は例えれば夜祭りで買った金魚と同程度であり、例えば冬、実装石なら身の危険を感じた途端生きたままの子を喜んで
貪り喰らってでも体力を付けて意味もなく生き残るのに対し、実装燈はコロニーを作り、助けを求めれば誰でも家に入れてくれるにも
かかわらず、ただひたすら皆で体を寄せ合って寒さに耐える事を選ぶ。その場合、辛うじて数匹の個体が朝生き残ればと幸運と言う
程度であるにも関わらず。
 人里近い所に住み、それで居て必要以上に人に近づかない存在の実装燈。
 だが容姿、声、共に小鳥を思わせるその存在は人々から疎まれる事は無く、むしろ見かければ微笑みを引き出す存在として馴染ん
でいる。
 飼われる個体は性格的に少ないが、庭を間借りして巣を作らせてくれたり、小皿に時々ヤクルトを入れておけば、そのお礼にウグイスの
様な鳴き声を楽しませてくれたりと、その人気は非常に高い。
 ある日もそんな人気を実証する例があった。
 とある庭先の小さなコロニー。
 七匹の実装燈達は垣根の植え込みに巣を作っていた。
 最近で一番寒かったその夜。コロニーで一番小さい二匹を真ん中に押し込み、他の五匹が身を寄せ合って寒さをしのいでいた。
 だが、五匹はその夜の寒さに耐えきれず、一番真ん中にいた二匹を残して命を落としてしまう。
 残った二匹は、お願い、起きてと言いたげに、寂しく静かに涙を流して鳴いていた。
 そこへ、鳴き声につられて庭に出てきた家族がやって来て、さめざめと鳴く実装燈を見つけた。
 幼稚園と思わしき少女が巣に近づき、よしよし、と実装燈達の頭を撫でると、二匹は堰を切った様に泣き出して少女の腕にしがみついた。
 両親は顔を見合わせて頷き、少女に飼ってもいいよ、死んだ子のお墓を作ろう、と優しくささやいた。
 かくして二匹の実装燈は大きな悲しみの代わりに小さな飼い主を呼び寄せる。
 少しだけ大きくなった実装燈二匹は、猫の様に気まぐれに甘えたり逆らったりしながら、今日もすやすやと眠る少女の両脇で静かな
子守歌を歌っている。
 これが実装石となると話は180度どころか次元を二つ三つ飛び越えたと言わんばかりに変わる。
 極寒の夜を、我が子だった肉のカロリー、及びねちゃねちゃとした肉片、血糊で粘つく服の破片を被って生き延びたそれ。
 繰り返される同族食いによって染みついた、魚の臓物が腐った様な腐臭を全身から漂わせ、ヘドロの泡が割れる様な声、と言うか音で
生き延びた歓喜を上げた瞬間、それは漂って来た悪臭によって祖父が具合を悪くしたとある家族から通報を受けて駆けつけた市の処理班に
見つかる。
 それが公衆便所の大便器の中に蹲っていたのは幸運である。職員にとって。
 ここなら血をまき散らしても水で流せる。
 職員はまず動きを止める為に巨大なバールの様なものを取り出す。
 二足歩行等という高度な歩き方をする癖に三半規管が粗末、もしくは考えられないがそもそも無いと思われる程に、連中は歩くのが
絶望的に下手である。
 その為逃げられる事はあり得ないが、これは儀式の様なものであり職務とはいえ朝っぱらからこの腐臭を嗅がされる鬱憤晴らしも兼ね、
職員はそれの頭を蹴り上げて仰向けにするとバールを力一杯振り下ろした。
 胴体をあっさりと貫通し、バールの先端がコンクリートの床にガチリと音を立てて止まる。
 突然の痛みにそれは怒号し、何度見ても同じムービーを再生しているとしか思えない同じ動作、傲慢な泣き方で職員を睨み、反吐を
吐きながら壊れたブザーの様な不快な悲鳴を断続的に上げる。
 その目は、外道が何をする。今すぐ食い物を持ってこい。足を舐めたら許してやると言っているように思えた。
 鉄の棒が体を貫通しているというのに。痛みは有るはずなのにこれである。
 この無意味で半端な生命力は何の為に備わっているのか。
 研究する物好きが居ない為にその意味は不明だが、少なくとも理解する価値がないのも確かであり、元よりそのような能力の理由、
分からなくても誰も困らない為、これから先も謎のままだろう。
 どのみちやや死ににくいだけであり、ちゃんと殺せば殺せるのだから。
 職員は個体差というものの存在しないその無様で身の程知らず、と言うかそれ以外の考え方を持たぬ哀れとすら言える暴君に一種の
悲しみを…覚える事はなく、不快に鼓膜を震わせるその音を消す為だけに、次の行動に移る。
 まず、蘇生の可能性を完全に断ち切る為頭蓋を鋼鉄の鉈で二、三回叩き割る。
 半端な打撃は神経が粗末故にあっさり麻痺して痛みを遮断、結果泥から泡が吹き出ているかの様な音の怒声を産むだけだが、肉体的
には何の意味もない。その為、力一杯叩きつければ、そのまま何が起きたも分からず絶命する。
 生命力はあるが根性がないので、トカゲの尻尾の様に断末魔が無いのは実装石唯一の良い部分だろう。
 絶命後、子供ならば卒倒する危険すらある悪臭の糞が弛緩により漏れ出る前に分厚いビニール袋に投げ込まれ、袋の口を熱着。
 そのままゴミ焼却炉の一番奥へ投げ込まれ、全ては終わる。
 その一部始終は、利用価値が肉片の欠片一つ、一円一銭の価値もない作業と言う点を除いては屠殺と変わらない。
 これが伝染病だの遺伝子的な異変だのと言うバイオハザードならば対応は変わるだろう。
 臭気、肉片が散らばらぬ様に周囲の土砂ごと回収し、呵る後に液体窒素で凍らせ、凍結してから密閉型の専用回収箱に保管。
 その後、DNAの飛散や汚染物質がまき散らされない様に厳重な監視の下で二千度以上の炉で完全焼却、蒸発処分により処理完了。
 その様なところだろう。
 だが、実装石の問題点は臭い、醜い、とにかくこれに付きる。
 異常な容姿、不快な思考、嫌悪を抱く声、怒りを通り越して泣きたくなる様な悪臭と、これだけ歩くバイオハザードと呼ぶに相応しい
存在でありながら、それには他の生物への影響と言ったものが一切無い。
 あまりにも体のつくりが不細工なので他の生物に一切相容れない為とも、単純に他の生物に影響を与える様なレベルに及ばない存在
だからとも言われる。
 とにかく連中は人間、他の生き物から嫌われる能力と生命力だけが突出し、そしてその差を埋め、且つ山盛りにしても余る程に他の
能力が劣っているのだ。

 そんな存在の放つ特異な匂いが居間から漂う。
 男は口を塞ぎながら部屋のドアを開けた。
 ル…ト…。
 そして現実が視界に飛び込む。
 居間がめちゃくちゃだった。
 そこには四匹もの実装石が居る。
 成体が二匹、子が二匹。
 いや、他に子が抱きかかえている蛆が四匹いた。
 ル…。
 声はする。生きている。
 インはどこだ?
 ふと男に気付いた一番大きな実装石が、不快感をあおる為にあるとしか思えない醜い顔を歪ませた。
 笑っているつもりなのだろう。奇形の蛙より醜いその表情からゲップの様な声を出して笑い、床にふんぞり返って座ると片手でほらほら、
とジェスチャーする。
 飯を持ってこい。高級な金平糖だ。甘いジュースも寄こせ。今すぐだ、この愚図人間。
 実装石の数少なく高い、かつ不要な能力、と言うか特徴に、テレパシーに近いと言っても良い様な感情表現がある。
 その原因不明の自信、自分を生物の頂点と信じて疑わぬ頭。全ての生物を下僕と見なして疑わない神経。
 それらが相乗効果になるのか、まともなコミニュケーション能力も無いのに、こういった表現だけは異様に的確に理解できてしまう。
 その要求が、水一滴とて適った事は無いのに。
 男は実装石の笑いと共にひり出された屁の音を合図に動き出す。
 まず、手に匂いが付くのも構わず四匹を力の限り頭蓋の上から殴りつける。頭がそのまま拳の形でへこみ、首が胴体にめり込む。
 四匹は反吐を吐いて卒倒した。
 倒れた子の手から、蛆が排泄口から液状の糞を漏らしながら逃げようとする。
 男は四匹を鷲掴み、ビニール袋に投げ入れて口を固く結ぶと庭に投げ捨てた。
 甲高くなっただけで大人と変わらぬ不快な悲鳴が小さく聞こえた。
 すえた悪臭が漂う中、ひときわ鼻をつんざく汚臭がテレビの方からした。
 何て事だ。
 男が思わずジーザス! と言う言葉が似合うジェスチャーで頭を抱える。
 液晶の角。そこに、実装石が投げたのであろう糞がべったりとくっつき、そしてその糞にまみれて液晶に張り付いた実装燈が居たのだ。
 ル…ト…。
 実装燈はデリケートだ。
 涙を流して痙攣している。腐臭、そして不快な糞の感触に耐えられないのだろう。
 男は急いで糞まみれの実装燈を剥がし、洗面所に湯を張っておぼれない様に体を洗う。
 風呂の躾が出来ているのが幸いし、意識朦朧とした状態でも最低限水を吸わずにしていたのが良かった。
 多少乱暴に洗わなければならなかった為、男は申し訳ないと思いつつ衣服を剥いで捨て、赤黒い土気色に染まった髪や体を石鹸で洗う。
 ル…。
 少しの後、鼻を突き刺す匂いが減ったおかげか実装等が目を覚ます。
 体力が弱いのに対して、逆に精神的には実装シリーズで一番強いのが実装燈。
 こうなれば安心して良い。
 良かった。
 男は安堵した。
 男はお湯を張った洗面台をソープで泡立て、暫くそこに入って匂いを落とす様に言う。
 その後はそこのタオルにくるまって、万が一他の実装石が出ても大丈夫な様に冷蔵庫の上で大人しくしている様に言いつけた。
 ルトー…。
 実装燈は何処かに行こうとする男に怖い、寂しいと訴えたが、お前の敵を取る為だ、とやや強く言われて大人しくなる。
 その瞳はもう、自分の欲求ではなく主人を心配する瞳に変わっていた。

 男は居間に戻ってきた。
 部屋には相変わらず異臭と、その原因の汚物が四匹横たわっている。
 男は厚手のゴム手袋を二重にはめ、赤黒く変色した髪を掴むと一匹一匹を庭に無造作に放り投げた。
 生ゴミの袋を放り投げた様な音を立てて四匹が庭に転がる。
 流石に目が覚めた四匹は、たった今どんな目にあったのかも忘れて再び憎悪に歪んだ顔で非難の咆哮をあげはじめる…事は出来なかった。
 男が、臭い口を開けるな、とその口に次々と庭の石ころを押し込んだのだ。
 形もサイズも気にはしない。
 醜く三角形に開かれた口は押し込まれた石の大きさに合わせて顎を砕かせ、口を裂けさせ、口腔一杯に石と苔を味わう。
 子実装の口から半分ほど石がはみ出ていた。吐き出すかも知れないので、仰向けにして上から靴の裏で押し込んだ。
 柔らかな骨が砕ける音がかすかに聞こえ、頬が裂けて石がはみ出る。
 上あごが砕け脳に骨が刺さったのかも知れない。子実装は痙攣していた。
 他の実装石はと言えば、立ち上がろうと両手をついて頭を上げようとするが、そのたびにぐらりと頭を揺らして、頭から転がって
ばかりである。
 実装石はとにかく体の比率が悪い。
 その為、数百グラム程度の石を口に詰め込まれただけで重心が崩れ、まともに立ち上がる事も出来なくなっていた。
 最早、実装石が逃げる術はない。
 男は、改めて何故こうなったのかを考えた。
 この家は住宅街より離れた場所にあり、裏に山がある。
 恐らく住宅地から逃げてきたそれらが自宅を見つけ、更に運悪く窓を開けていたが為にこうなってしまったのだろう。
 実装石にとっては、見つけてやった奴隷の小屋。そこに自分たちが住んでやるからありがたく思え。
 といった風で間違い無い。
 居間はリフォームが必要だ。
 男はこの寒い中、燃料費も馬鹿にならないのに更なる出費がかさむ事実に、不幸なる現実感を増していた。
 制裁は受けて貰うがこの様な汚染物質に時間をかけるのも愚かだ。
 何より実装燈の体が心配だ。
 男はとあるコピペを思い出し、速効且つ効果的な制裁を実行する事にした。
 さて、話のくだりはどうだったか…。


   ちょっとムシャクシャしてるから、ちょっと猫を虐待しようかと思う。
   他人の目に触れるとまずいので家に連れ帰る事にする。
   嫌がる猫を風呂場に連れ込みお湯攻め。 充分お湯をかけた後は薬品を体中に塗りたくりゴシゴシする。
   薬品で体中が汚染された事を確認し、再びお湯攻め。 お湯攻めの後は布でゴシゴシと体をこする。


 そう言えば。
 男は思い出した。
 インの最初の出会いは、まるでこの通りだったと。
 雨に濡れ、庭先の縁側に倒れていた。
 流石に放っては置けないとその体を掴むと、最初は鳴いて抵抗したが、抵抗する体力すらほとんど残ってなかったのか、すぐぐったりと
してしまった。
 男は明らかに下がっていた体温を暖める為洗面所にぬるま湯を張り、おぼれない様にそっと浸からせた。
 やがて頬が赤みを帯び、目を覚ました実装燈は最初こそびくりと身を強張らせたが何をする体力も残ってはおらず、大人しくなる。
 男は見た目が少女故に罪悪感を少々覚えつつも服を脱がし、ハンドソープで体を洗う。
 泡を舐めた実装燈は苦そうに涙を流したが男はその仕草に思わず笑ってしまい、実装燈はぷい、とむくれる。
 泡を洗い流し、ハンカチで体を拭いてから居間へ移動。服がそのままなのを不安がっていたが、洗って返すと言ったら頷いて身を預けた。
 これが馴れ初めだった。

 さて。
 まず一番死にかけている子実装をつまみ上げ、庭の水場へぶん投げる。
 口の中の石の質量のお陰で、見かけの割りに軽い体が勢いよく飛ぶ。
 そのベクトルはむき出しの水道パイプに顔面を強打する事で消失し、乾いた音を立てて落ちた。
 空を移動していた運動エネルギーは、無論そのまま頭蓋を砕く質量エネルギーに変わったのだ。
 パイプが赤緑に染まる。
 汚い。後で熱湯消毒が必要だ。
 足で仰向けにすると、醜く歪んだ顔でこちらを見上げる実装石。
 その腐ったブドウの様な眼球は未だに非難と攻撃の色を表している。
 男は園芸様スコップを口にねじ込み、顎が砕けるのも構わず石を掻き出した。ごり、と耳障りな音がし、顎が完全に機能を失う。
 その様相は口を血まみれにしたプレデターに近いと言える。
 喉も一緒に裂いた様だ。もう声は出ない。流石にその腐った眼にも恐怖が滲みはじめていた。
 恐怖で股間からぐじゅぐじゅと耳を塞ぎたくなる排泄の音が聞こえる。
 男はホースを喉に突っ込みむと顔を踏みつけ一緒に固定。そしていきなり水道を全開にした。
 腹がフーセンガムの様に膨らみ、汚れて柔軟性を無くした緑色の衣がぶちぶちと裂ける。
 眼は飛び出んばかりに見開かれ、手足は虫の様に動いていた。
 男は水道を止めてから顔を踏みつけた反対の足で腹を踏みかけ、思いとどまる。
 このままではどこが裂けるか分からない。
 男は近くにあった塩素系漂白剤を手に取る。いわゆる酸の成分が入っており、原液なら皮膚も多少は溶ける。
 男はそれを実装石の下半身にボトル一本分全部ふりかける。
 実装石の皮膚は脆い。程なく、皮膚から小さくぶつぶつと繊維の裂ける音が聞こえ始める。
 男は改めて腹から上をもう片方の足で踏みつける。
 実装石の声なき悲鳴が聞こえた気がした。
 次の瞬間、下半身が総排泄口からザクロ状に裂け、大量の濁った水と泥の様な糞、そして内臓までもが一気に流れ出た。
 男は頭を踏みつぶすと、臓物共々庭の隅にスコップでうち捨てた。
 起きあがれない起き上がりこぼしの様な姿勢でそれを見ていた三匹は流石に自分の状況が分かってきたのか、蒼白だった。


   風呂場での攻めの後は、全身にくまなく熱風をかける。 その後に、乾燥した不味そうな塊を食わせる事にする。
   そして俺はとてもじゃないが飲めない白い飲み物を買ってきて飲ませる。
   もちろん、温めた後にわざと冷やしてぬるくなったものをだ。


 体を拭い、ようやく落ち着いた実装燈を居間のテーブルの上に座らせた後、男はガスヒーターの温度を少し高めにして部屋全体に
温風を循環させた。
 直接熱風を当てると実装燈はそれだけで簡単に脱水症状を起こしてしまう。
 間接的な温風で心身共にリラックスしてきた実装燈だったが、不意に咳き込む。
 そうか、喉が渇いたのか。
 男はヤクルトを少しだけ温め、お猪口に入れて前に置いた。
 ヤクルトとは実装燈にとって麻薬。
 最初こそ男の顔を見上げて不安そうにしていたが、男が指にヤクルトを付けて実装燈の口にそっと押しつけると、その味、飲んで
良いのジェスチャー確認と共に欲望が堰を切り、猫がミルクを飲む様に一心不乱にヤクルトを飲み続けた。
 ヤクルト以外の何を食べるのかはよく知らなかったので、次に男は冷蔵庫から人参を出して細長く切り、ヨーグルトディップを添えて
置いてみる。
 再び食べて良いの? と頭をかしげる実装燈。
 男は人参にディップを付け、実装燈の口元に運ぶ。
 実装燈は食べて良いと理解し、教わる機会が有る訳も無い筈なのに、行儀良く人参とディップを食べ始めた。
 その日から、実装燈は初めて見る食べ物の場合、男が口元に持ってきたものだけを食べる様になった。

 男が実装石達に近づく。
 壊れた独楽の様に無様に回転しながらもがく実装石三匹のうち成体一匹に狙いを定め、髪の毛を掴んで持ち上げる。
 手入れという言葉すら知らないであろうその汚れきった髪は古くなった洋紙の様にぶちぶちちぎれる。
 植物の根っこよりみすぼらしい髪でも自分にとってはシルクなのか、石の詰まった口で何か叫ぼうとしている。
 男は丁度口の後ろの後頭部に、力一杯ストレートをぶち込む。
 脊髄が前にずれた。同時に口の中の石が上下の顎を削り壊しながら豆鉄砲の様に飛び出る。
 だが、声は出ない。口はめちゃくちゃであり、後頭部を殴った時、喉も一緒につぶれたから。
 男はもう一度実装石を地面に叩きつけ、動けないのを見てから先ほど庭に放り投げたビニール袋を見る。
 白い袋の内面が赤緑色に染まり、もぞもぞと動きながら間抜けな鳴き声が力なく聞こえる。
 男は袋を拾い上げ、封を開けて中を覗いた。
 袋の中の耳障りな鳴き声が男に気付いて大きくなる。はやくだせ。ごはんもってこい。おなかぷにぷにしろ。
 やはり欲求のイメージだけが異様に正確に伝わる。
 男は緑色のヘドロを塗り固めて身にまとっている様な蛆を四匹まとめて鷲掴みにして外に出す。
 鳴き声が非難で更に大きくなる。少し強く握ると、一匹の口から糞が逆流した。
 他の三匹も糞、もしくは胃の中のものらしき吐瀉物を口と排泄口両方から垂れ流している。
 その眼はもう正気ではない。痛みと痛みと痛みが、なけなしの脳を切り裂いている事だろう。
 後ろの成体が暴れている。あれがみんなの生みの親か。
 男は意に介さずうめき続ける蛆の手に力を込める。
 やがて一匹の両目が飛び出し絶命。残り三匹も裂けそうなほどに大きな口を開け、赤黒い舌を限界までひりだしながら次々と絶命した。
 男は子実装の口にそれをそのまま押し込め、そのまま拳を喉の奥に進ませる。
 喉が裂ける。それでも構わずぐいぐいと手の中の汚物を押し込んだ。
 胸まで裂けてようやく胃に到達したのだろう。手の感触が少し広くなった。
 後ろでは実装石が暴れ、今胃の中に兄弟だった汚物を押し込められた子実装は意識が飛びかけている。
 だが、男はそんな実装石の頭を掴み、胸に向かって後頭部から押しつける。首の骨が折れ、外れ、背中がぶちぶちと裂け始める。
 子実装は手足を痙攣させる。
 抵抗しているのかもしれない。だが何の意味もない。男はそのまま頭を裂けた胸に押し込み、胃の中に収まらせた。
 最後の一押しで体がビクリと痙攣しそのままとなる。
 男は異様に膨らんだ腹とその中にある頭を踏みつぶして同じく庭の隅に捨てる。


   その後は棒の先端に無数の針状の突起が付いたふわふわした物体を左右に振り回して
   猫の闘争本能を著しく刺激させ、体力を消耗させる。


 次の日。実装燈はもう殆ど体力を回復していた。
 乾いた服を返すがなかなか服を着ようとしない。
 じっとこちらを見ているその目を見て男は気付いた。
 男は背中を向ける。
 ルトー。
 ここに来て実装燈が初めて鳴いた。
 それはこう聞こえた。
 ありがとう、と。
 暫くして振り返ると、既に服は着ていた。
 その姿は正しく実装燈。
 実装等は頭をぺこりと下げ、おもむろに鳴きだした。
 実装燈のコーラスだ。これは実に珍しい。
 暫くその美しい声に聞き入っていたが、やがて歌は止む。
 実装燈を見ると、窓を開けてと指さしていた。
 そうか、行くか。
 実装燈は元よりコロニーを除いて独りを好む。
 もう行くと言うのだろう。
 確かに、礼は今の歌で充分だ。
 お釣りにヤクルトを一本渡し、男は窓を開ける。
 実装燈はもう一度頭を下げ、羽を広げるとふわりと浮かび、大きく開けられた窓から大空に向かって飛ぼうとした。
 飛ぼうとした。
 だが、机から飛び立った実装燈は、上に上がる事は出来ず、グライダーの様に滑空してそのまま部屋の床に着地してしまった。
 まさか。
 男は嫌な予感がした。
 ルト…?
 実装燈も思いがけない事態に体を見回す。
 ルトー!
 ヤクルトを置き、その場から飛び上がろうとする。
 だが、翼は風をつかめなかった。
 羽が…。
 男も、実装燈も、現実を認めた。
 あの夜、体が過度に凍えた事で背中の羽の一部が麻痺していた。
 今や実装燈は飛び上がる事適わず、せいぜい滑空する事しかできなくなってしまったのだ。
 ル…ト…。
 目に見えて落ち込む実装燈。
 男は実装燈を手に載せ、机の上に座らせて言った。
 ならここに居ろ、と。
 実装燈は驚いた顔をしていた。
 居てもいいの? 飛べないのに。ジャンクになっちゃったのに、と。
 男は小さく頷き、飯にしよう、と台所に消えた。
 ル…。
 実装燈の瞳からぽろぽろと涙がこぼれて止まらなかった。

 一番暴れている実装石に男が近づく。
 先ほどと同じように髪を掴んで立ち上がらせ、後頭部に蹴りを入れた。
 口から間抜けな音を立てて石が飛び出てもう一匹の子実装のこめかみに直撃する。
 柔らかいせんべいが割れる様な音がして、子実装は口の間から泡を吹いて卒倒した。
 ぶら下がっているそれの腹を見ると、醜く歪みながら変に膨らんでいる。
 理由は言うまでもない。
 男は髪の毛を輪にして結び、木の枝にぶら下げ、見たくもない赤茶けたパンツの上から、総排泄口を狙って太い角材を胃の辺りまで
突き刺した。
 根性のない皮膚はさきいかより脆くぶちぶちとちぎれ、角材を吸い込む。
 激痛に血泡を飛ばしながら何をする、と言いたげに叫ぶとそれが合図となった。
 男はささくれだらけの角材を手にして実装石の体をめちゃくちゃにぶちのめした。逆向けた木材の破片が腹、顔、手足に刺さり、皮膚を
こそぎ取る。
 更に叫び声が大きくなったので顔面をぶちのめすと、横一文字に顔面が陥没して大人しくなる。
 恐らく両の手を合わせる事すら適わないと思える短い手では防御のしようはなく、そもそもそれほど強靱でもない手足は角材がぶつかる
毎に細かくちぎれる。
 痙攣した虫の様に醜く空気を掻いていた手足はやがて肉か骨がいかれたらしくぴくりとも動かなくなった。
 男は次に醜く膨らんだ腹を集中的に左右から打ちのめし始める。
 腹の中の子供の危険を感じた実装石は再びガマガエルがソプラノを歌う様な悲鳴を上げるが、同時に顎を砕かれ発声の手段を失う。
 当たる毎にへこむ腹は流石に一番厚い部分だけあり何度かは形状を戻すが、やがて布が裂け、垢にまみれて変色した皮膚が露わとなり、
赤緑色の体液にまみれ、そしてへこんだまま戻らなくなる。
 手応えの変化も感じていた。
 時折、腹の中で腐ったソーセージが破裂した様な感触を感じる。恐らくは胃の中の胎児が破裂しているのだろう。
 その感触もやがては無くなり、仕舞いには泥の入った革袋を叩いている様な感じとなった。
 実装石は最早ぶら下げられたゴミ袋だった。
 恐怖を軽減する為と言われる垂れ流しの排泄行為も適わず、ただただ胎児だった汚泥で腹を醜く膨らませた実装石の眼に精気はない。
 男は尻に棒が刺さった状態のまま木から実装石を下ろすと、庭の隅にある岩めがけて放り投げる。
 頭から岩に当たった実装石は水風船の様に破裂し、汚物をまき散らして絶命した。
 土を焼いて消毒する必要があるな。
 男はため息をついた。


   ぐったりとした猫をダンボールの中にタオルをしいただけの質素な入れ物に放り込み
   寝るまで監視した後に就寝。
   こうして猫を虐め上げてやろうと思う。 


 実装燈にはインという名を付けた。
 事実を受け入れたとは言えしばらく落ち込んでいたインに、ドールハウス用の天蓋付きベッドを与えると、少し顔色を明るくする。
 この辺の現金さが逆に子供に受けるのだろうか、と男は恥ずかしい思いをしながらベッドを買ってきた甲斐があったと満足する。
 最初のうちは元が夜行性なのでなかなか目覚めの良い時に会えなかった。
 大人しい性格だが寝覚めは悪いらしく、時々ぞっとする程きつい顔で睨まれた事を覚えている。
 ちんこが反応したのは秘密だ。
 だが、少しずつ生活のサイクルが合い始めると、夜寝るのが遅くて朝起きるのが遅い程度まで順応してくれた。
 自由に飛べない以外は至って健康であり、男はペットとはまた違った生活のパートナーとして生活、仕事に充実を感じていた。

 そのインをあんな目に遭わせてくれたこいつらである。
 残り一匹となった子実装。
 さて、どうしてやろうか。
 パンツをもりあがらせ汚物を漏らし、その異臭を放つ自分の汚物の中で必死に起きあがろうとのたうち回る子実装。
 今や人間に対して自分は優等種、世界の頂点こそ相応しい等と言う幻想は欠片も残さず崩れ去り、口の中に押し込まれた岩と苔の味を
血反吐と共に嘗め回しながら逃げようとする蛆虫だと言う現実がのし掛かる。
 それでも生存の欲求は捨て去れず、持ち上がらない頭を引きずって軸の折れた独楽は反吐の中をはいずり回る。
 インが待っている。体の状態も心配だ。
 もう面倒だと一気に頭を踏みつぶそうとした瞬間。
 ルトー。
 今の机の上にタオル一枚のインが立っていた。
 危ない。もしも他にも隠れていたらどうする、と男は駆け寄るが、インはその子実装を殺さないでとジェスチャーした。
 何故? そう問うとインは羽を一枚抜き、みるみる黒い剣の様な形に変化させた。
 切っ先は子実装を指している。そしてお腹をさする。
 男は理解した。
 子供が欲しいのか。
 男は万が一にも逃げられない様、腹を鉄棒で地面に串刺しにしてから子実装を放置し、実装燈の生態を調べた。
 やはり実装燈は幾つかパターンがあるらしいが、主に実装石を宿として卵を産むらしい。
 あの腐った肉体にそんなものを産んで大丈夫かと思ったが、あの黒い剣で偽石を刺された実装石は仮死状態となり二度と目を覚まさない
様だ。
 そうなれば流石に悪臭が悪臭を生み出す新陳代謝にならない新陳代謝も停止し、ある程度時間が経てば耐えられる程度の匂いに抑え
られると言う。
 そして抑えているとはいえ悪臭に変わりないその匂いは他の生物を寄せ付けず比較的安全。
 生まれた時にその匂いにさえ我慢でき窒息しなければ、晴れて新しい生命として飛び立てるらしい。
 男はインを見て呟いた。
 生まれた子は、空に飛んで消えていくのか?
 ルトー。
 インは少しだけ寂しそうに頷く。
 だが瞳は輝いている。
 それはこう言っている様だった。
 でも、自分が飛べない代わりに子供はあの広い空に飛び立てるの。
 何人残るか分からない。
 みんな死ぬかも知れない。
 でも、可能性は何よりも大切だから。
 実装燈は、空を飛ぶものだから。
 男は実装燈の頭を撫で、繁殖の計画を立てる事となる。
 庭で地面に張り付いて凍えている子実装を洗う必要がある。
 塩酸でいいだろう。皮膚も服も一度溶かせば匂いは大幅に消える。
 手足を切り落として眼と喉も一緒に焼き潰せば五月蠅くない。
 後は時々砂糖水でも垂らせば最低限生きるだろう。
 確か、シーズンは春先だったな。
 ルトー。
 インは嬉しそうに鳴いた。

 男はその夜夢を見た。
 暖かな日差しの中、青空に向かって飛び立っていくインそっくりな実装燈達を見送る夢を。
 インはその夜、冬の月を見上げながら、特別に美しい声で歌い続けていた。



おわり

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