タイトル:実装石になった少年
ファイル:実装石になった少年.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1871 レス数:0
初投稿日時:2008/02/03-16:52:00修正日時:2008/02/03-16:52:00
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              「実装石になった少年」







ある時間になると必ずその男の、家の庭に野良実装が数匹集まってきた。
男はいつもの様に実装フードを取りに台所へ向かった。
庭の実装石は親子と思わしきグループで、いつも男は餌を与えている。
母実装は頭の良い個体らしく、他の実装石達にここの場所を絶対に教えない。
教えれば卑しい実装石の事、たちまち噂が広がりこの庭は実装石で溢れる事になる。
そうなれば自分達のえさ所か、男が怒って実装石を追い払う事が目に見えていた。

『ほら、餌だぞー』

男がペット用の皿に実装フードを移し親子を呼びながら皿を置いた。

「テチー、テチテチー」

色めき立つ仔達をなだめると母実装は男に「デスン、デスー」と挨拶をした。
母実装は男に感謝の言葉を言ってるのだが、
男はリンガルを持っている訳でもないし言動に興味も無かったので適当に相槌を打った。

「デスー・・デスデス」

母実装が仔実装に何か話すと、仔実装はやっと餌にありつけた。
そして仔実装を押しのけるように母実装も餌を食べ始める。

全ての餌を食べ尽くすと母実装は男に一言「デスン」と挨拶をして庭から仔を連れ消えてしまった。

男は野良猫に餌を与えるような感覚で親子に餌を与えていた。
普通の野良実装なら庭に居座り続け、飼わせろと言ったり、餌をもっとよこせと要求して来るだろう。
だがあの母実装は決して男にそれ以上の要求をしてくる事は無い。
素晴らしく賢いと行動と言う訳ではない、単に人間が信用できないだけだ。
野良猫と一緒で依存しているのではなく利用しているだけなのだ。
男もその事は勿論分かっていた、そして人間にある程度の距離を置く母実装を男は気に入っていた。
馬鹿みたいに甘え全てを人間に依存する、そんな性格の実装石が男は嫌いだった。
どこか自分と同じ所を感じてその関係を楽しみ、男は親子に餌を与え続けていた。

空のえさ皿を手に取りガラス張りの戸を閉めた時、誰かがガラスを叩く音がした。

カンと渇いた音に男が振り返るが誰もいない・・
暫く戸を見てると何かがカツンとガラスに当たった。

また癖の悪い野良実装かと男は思った。
たまにあの親子以外にも偶然この庭に迷い込む野良実装がいる。
一度窓を投石で割られた経験のある男は、慌てて戸を開けた。

目の前には一匹の実装石が男を見上げていた、手には小石が握られている。
その実装石は小石を地面に落とすと、男に対しデスデスと言いながら両手を差し出した。

『ちっ、また糞蟲か乞食め』

男はシッシと手で実装石を追い払うと、実装石は身を斜めにして男を睨みつけた。

『なんだコイツ?実装石の癖に僕に文句でもあるのかよ』
『おい!ここはお前のような者のくる所じゃないんだ、
 餌なら他で漁ってろ、お前にやる餌は無い』

「・・・・ガタガタうるさいデス」

えっと男は思った、実装石が男に文句を言ってきたが何を言ったか理解できたからだ。
別にリンガルを通してはいない、確かに素で男の耳に声が聞こえたのだ。

『え??おまえ実装石だろ・・なんで・・』

「デスゥ?・・デスデス」

『誤魔化すんじゃない、さっき普通にしゃべっていただろ』

実装石はちっと言う顔をしたが、諦めたのか話し始めた。

「さっき実装石に餌を与えていたのを見てたデス」
「だからオマエは愛護派だと思ったデス」

実装石が喋った、男は驚くと実装石の顔をまじまじと見つめた。

『うーん・・見た目は普通の実装石に見える』
『ちょっと・・』

男が手を出すと実装石は警戒して後ろに下がった。

「な、なにするデス!」
「はは〜ん、おまえ俺を虐待する気デス」

俺?今俺って言ったな、って事はこいつマラ付きなのか。

『虐待する気は無いよ、君がとても珍しいから・・』
『そうだ!ゴハンをあげるから部屋に上がってきなよ』

「ほ、ほんとうデス?!」
「俺の名前はタクヤって言うデス」

なんだか人間みたいな名前だな、男はタクヤという実装石を家に上げた。

「ここがオマエの家デス、一人で住んでるデスか?」

『ああ、両親も死んだし、今は僕一人だよ』

「死んだデスか、親なんて死ねばいいんデス」

変な奴だと思ったが、その言動もどこと無く人間ににて興味を引かれた。

『待ってな、いまフードを持ってくるから』

「ちょ、ちょっと待つデス、出来ればフードじゃなくてニンゲンの食べ物が良いデス」

男は贅沢な奴だと思ったが『ああ、分かった』と返事をして台所へ向かった。

『あり合わせだが実装石じゃご馳走だろ』

男は昨夜の残り物をチンして持って来た、スーパーで安売りしていたコロッケだ。

皿を実装石の前に置くと「こんな物しかないデスか」と文句を言いながら食べ始めた。
コロッケ二個をきれいに平らげると実装石は落ち着いたのか、大の字になりくつろぎ始めた。

『さぁ落ち着いた所で聞かせてくれないか、君が人間の言葉を喋れる訳を』

実装石は起き上がると両手を組んで暫く考えた。

「オマエ・・俺の話を信じるデスか」と聞いてきた。

『人間の言葉を話すだけでも信じられないんだ、今更信じるかって言われても』

「分かったデス、オマエを信頼して話す事にするデス」
「俺は今こんななりをしてるデスが、元はニンゲンだったデス」

元人間と話すこの実装石は、以前住んでいた家にミドリと言う実装石を飼っていた。
14歳だった少年は苛めが原因で家に引きこもり、登校拒否を続けていた。
部屋からまったく出て来ない日が続き、両親もそんな少年をとても心配していた。
母親が寂しいだろうと、近所で拾った実装石を少年の話し相手に与えたのが始まりだった。

少年は次第にミドリに心を開き、何でも話すようになった。
それと比例するように部屋からまったく出てこなくなる。
以前は食事の時くらい部屋から出てきたが、今はそれすらなくなった。
母親が食事を部屋の前に置くと、いつの間にかきれいに平らげられていた。

部屋からはミドリに対し自分の不満や色んな事を話す声が聞こえるだけになる。


「俺の顔色を伺う両親が嫌いだったデス、はっきり言ってうざいと思ってたデス」
「学校の奴らもそうデス、苛めた奴らやただ見てる奴らや何もしない先生みんな嫌いデス」
「俺の言う事を黙って聞いてくれるミドリだけで良かったデス、他はいらないデス」

『おいおい、引きこもりの君を支えていたのは両親だぞ、
 君のご飯や着てる物も両親が与えてくれたんだろうに』

「話はまだ途中デス、まぁ最後まで聞くデス」

「そんなある日俺はミドリに言ったデス、ミドリが羨ましいって」
「ミドリは将来の事や色んなことは人間に依存すれば生きていられるデス」
「でも俺は両親が死んだら一人で生きていかなきゃ行けないデス」
「あー俺も実装石に生まれたかったって言ったデス」

「そしたらミドリの目が光ったデス」
「リンガルには(丁度良かったワタシも人間になりたいと思っていたデス)と表示されたデス」

「気がついたら目の前には俺がいたデス、自分の姿を見ると俺がミドリになっていたデス」
「俺の姿のミドリは(実装石の人生はそんなに甘くないデス)人間語でそう言うと俺を持ち上げたデス」

(ガタガタうるさいご主人様だったデス、聞く方の身にもなれってもんデス)

「(ご主人様は必死に生きて行く事を知った方が良いデス)俺は窓から外に捨てられたデス」
(デププ♪心配しないで大丈夫、ご主人様の役目はミドリが立派にやって置くデス)
(馬鹿なご主人様よりワタシは上手くやって行く自信はあるデス、
 ご主人様みたいなのがいたらワタシの世界じゃ間引き確定デス)

「そして俺は必死に今まで生きて来たデス、残飯を漁って同属食いから逃げ回ってデス」
「幸い脳みそと言語は変わらなかったから、他の実装石を出し抜いてきたデス」

話を聞いて男は目の前の実装石が元人間だった事を知る。
ただし同情といった感情はまったく生まれなった。
それより少年と入れ替わったミドリと言う人間の姿の実装石が気になった。

『話は分かったよ、でっ君は今からどうするつもりだい』

「そ、それは・・・考えても見なかったデス」
「元の家に戻りたいデスがこの姿じゃ信じて貰えないデス」
「それに毎日生きる事で精一杯で今日食べる餌や
 同属や虐待派からどうやって逃げ回るか色々とやる事は多いデス」

男は『ふふふ』と鼻で笑った。

「何がおかしいデス、俺は真面目に話してるデス」

『いやごめんごめん、笑うつもりは無かったんだけどね』
『今の君は引きこもってた時より、よっぽど充実してるように見えてさ』

「じゅ、充実してる訳じゃないデス、生きていく為に仕方なくデス」

『興味がある、聞かせてくれないかい実装石の感想って奴をさ』

実装石姿の少年は今までの生活を話し始めた。
人間とは違い指も無く他の実装石に言葉も通じない。
とても丈夫だと思っていたこの体も、暑さ寒さ全て同じだった。
怪我をすればすぐに直ってしまうが、痛みは人間と変わらない。
それにこの服はとても薄く、すぐに破れやかすれが出来てしまう。

人間が公園に来た時、助けてくれと人間の言葉で話したが、
「なんだコイツ!」と言い全く信じて貰えない。
それどころか信じたくないと殺されそうになった、それ以来人間の言葉を喋るのは隠してきた。
餌を取るのも他の実装石に隠れるようにコソコソしなければいけない。
縄張りのある実装社会はよそ者を嫌う、見つかればよそ者として殺されかねないからだ。

汚れたタオルで身を包んで寝ても、寒さはしのげず体が凍って眠れない日もあった。
ただ人間なら死んでしまう現状も、実装石の体は回復力だけは異常なものがあった。
凍りついた体も日に当たって解凍すれば何事も無かったかの様に元に戻る。

空腹感はいついかなる時も不思議にあった。
どんなに食べてもすぐに空腹感がでてしまい、行動の殆どは食料探しに費やされた。
その結果、腐った食べ物も平気になってしまい、とにかく何でも腹に詰め込んだ。
食当たりなどは無い、実装石はこんな所はいい加減で強く出来ている。

一度家に行った事があったが、自分の姿をしたミドリに殺されそうになった。
ミドリは「次に来たら完全に殺すデス」と言って、
少年を威嚇した後どこか知らない所まで連れて行き開放した。

少年は実装石には無い知識を使って餌の場所や、危機回避能力を身に付けていた。
そして目の前の男にこう話した。

「事情を知ったからには、オマエには俺を飼う義務があるデス」

男は『はぁ?』っと首を捻った。

『なんで僕が君を?』

「可哀相だと思わないのかデス」
「俺は元人間だし、一緒にいれば話し相手にもなるデス」
「それだけじゃない、知識は人間と変わらないデス、人間の出来る事なら何でも出来るデス」
「存在自体が奇跡に近い俺は希少動物と一緒で、保護するのは必然デス」
「オマエは俺を飼うデス!いやそうじゃない俺がこの家にいてやるデス」
「だから感謝するデス、俺はとっても有能で役に立つんデス」

男は『なるほど君のいう通りかもね』と答えた。
実装石はフフンそれ見ろと言う顔をした。

『でもね』

男は実装石を抱え上げるとガラス戸を開け、庭に放り投げた。

「デベッ!」っと顔から地面に落ちると、信じられないと言う顔をした。

男は頭を掻きながら冷たく言い放った。

『悪いけどさ、僕は糞蟲って奴が大嫌いなんだ』
『君の姿は人間でも実装石でも充分糞蟲だよ』
『僕は糞蟲を飼う気なんて一切無い』

『ああそうそう、君に良い事を教えてあげる』
『ミドリを説得してくれないか』

実装石は「説得デス?」聞き返した。

『君の家のミドリなら僕が出来うる限り良い暮らしを約束しよう』
『君は家に帰りミドリを説得するんだ、ここに来れば約束された素晴らしい暮らしが待ってるってね』
『僕は君には興味は無いがミドリにはとても興味がある』

「な、なにを言ってるデス!ミドリはとても危険な実装石デス」
「人間を実装石に入れ替えてしまうデス」

『だからさ』

実装石は意味が分からない、この男は一体何をしたいのか。

『君を見て思ったんだ、こんなに充実した暮らしが出来るなら実装石も良いなって』
『全ての時間を人間でいるのに僕は疲れてしまったんだ』
『上下関係や人間関係とか、仕事もストレスが貯まる一方だ』
『もしミドリが僕の家に来たらこうお願いするつもりだ』


『ああ実装石に少しの間でも、なってみたいなってね』


実装石姿の少年は男の話を聞き終えると、男の元から逃げるように走って行った。




終わり




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