-----------手袋------------ 仕事の帰り道。 駅からマンションへショーカットする為、公園の中を通る男。 「テチュー・・・」コシコシ あるダンボールハウスの前に仔実装がいた。 寒いのだろう。両手を合わせしきりに擦っていた。 『どうした?』 携帯のリンガルを開き男が尋ねる。 「テェッ!」 急に声をかけられ愕く仔実装。 「マ・・・ママをまってるテチ・・・」コシコシ 答える間も手を擦り続ける。 『寒そうだな』 「おててがつめたいテチ・・・」コシコシ 男はしゃがんで仔実装の手を取る。 その手は酷いあかぎれと霜焼けだった。 『可哀想に・・・あ、これを上げよう』 ポケットに手を入れると缶入り汁粉を取りだす。 カイロ代わりに駅で買った物だ。程よく冷めている。 「あったかいテチ〜♪」 男はプルタブを開けてやる。クンカクンカと匂いを嗅ぎ、一口飲む仔実装 「テ・・・テ・・・テチューン♪」 初めての甘味なのだろう。恍惚とした表情。 「デスゥ・・・」 その時、遠くから声がした。コンビニ袋を提げた成体実装がこちらに歩いて来る。 「ママテチ!マァーマァー!」 缶を置き、親に手を振る仔実装。 『じゃ、ママと仲良く飲みなさい』 そう言うと男は帰路に着いた。 「ありがとテチー」 リンガルを切った背後からはデスデステチテチと聞こえるだけだった。 翌朝 昨日と同じルートを逆に歩く男。昨日と同じ場所に仔実装はいた。 親が餌を取って来る間はいつもここで待っているようだ。 『おはよう』 仔実装に声をかける。 「おはようテチ!昨日はゴチソウサマテチ!」 元気に挨拶を返して来る。 『よしよし。良い仔にはご褒美を上げよう』 ポケットからビニル袋を取り出すと中から布を取り出す。 「テチィ?」 不思議そうに見つめる仔実装。 『両手を前に出してごらん』 ”前へならえ”の格好の両手に布を装着する。 それは手袋のようだった。 「ありがとテチュ♪あったかテチュ♪」 「テッチュ・・・!」 ひとしきりはしゃいだ後、媚のポーズをしようと右手を口元に当てた瞬間・・・ ・・・仔実装は固まった・・・ 『じゃ、仕事行くから』 男は駅に向かって歩き出す。 それから30分後 親が餌袋を抱え、ハウスの前に来ると、仔が媚ポーズのまま固まっていた。 慌てて声をかける親。我に返る仔。 「テ・・・テ・・・テェェェン!クサイテチー!!」 仔は火が点いたように泣き出す。 「デェェ?」 親は訳が解らず、首を傾げる。 「とにかくオウチに入ってゴハンにするデス」 「クサイ!クサイ!クサイデスゥ〜〜〜〜〜!!」 「クサイ!クサイ!クサイテチー!テェェェン!テェェェン!」 ダンボールハウス内はパニックに陥っていた。 「こんな臭い初めてデスゥ!」 親は堪らず外に飛び出す。 「ママァ!!」 仔も後を追う。その手に見慣れぬモノが被っていた。 「ソレは何デスゥ?」 「テ?・・・きのうのニンゲンサンにもらったテチ・・・」 親はクンカクンカと鼻を鳴らすと・・ ウッ!と唸って吐きだした。 「デェデェ・・・原因はソレデス!」 手袋を外そうとするが、腕にぴったりフィットしているソレは 実装石の不器用な手では外せない。 再び吐き気を催す親。 「お前は外に出てるデス!ゴハンも外で食べるデス!」 リンゴの芯とフライドチキンの骨を放り出すとハウスの扉を閉めてしまった。 「テ!?ママ!ママァ!」 ぺしぺしと壁を叩くが返事は無い。 その様子を蔭から覗いている者達がいた。 「デププ・・・ゴハンが落ちてるデス・・・」 「アイツ、すてられたテチィ? ワタチのドレイにしてやるテチ! チプププ・・・」 「アノ ドレイニ オナカプニプニ サセルレフ」 絵に描いたような糞蟲親仔であった。 「オイお前!その餌を寄越すデス!」 「オマエをコウキなワタチのドレイにしてやるテチ!カンシャするがいいテチ!」 「プニフー!プニフー!」 手袋仔実装に詰め寄る糞蟲親仔。 「テッ!テテ・・・テチィ!テェェェン!テェェェン!」プリプリプリ・・・ 恐怖で尻餅をつき、パンコンする 「チプププ!おもらししやがったテチ!くそむしテチィ!チプププ!」 「こっち来るデス!」 親糞蟲が仔糞蟲に餌の回収を命じ、仔実装の手を掴もうとした瞬間・・・ 「レ?レ?レフレフ・・レレレレレレレレレフィィィィィィッ!!クサイレフ!」 親の腕に抱えられていた蛆が暴れ始めた。 「レ・レ・レフィィィィィィッ!!」パキン! 顔が紫色に染まり、舌をだらりと伸ばす。 「うじちゃん?うじちゃぁぁぁぁん!・・・ウッ!」 「デデッ!何デスゥ?この臭い・・・」 手袋の臭いと糞の臭いが入り混じり強烈な悪臭を放っていた。 「デッ!デデーッ!覚えてろデスーッ!」 「テチーッ!うじちゃんのカタキはあとでとるテチャーッ!!」 その臭いに仔蟲は餌を抱え、親蟲は蛆を咀嚼しながら糞蟲親仔は逃げ出した。 後に残された手袋仔実装。 そんな事件の二日後に異変は起きた。 あの日以来男はここを通らない。 未だハウスには入れて貰えない。 親が外に出してくれた新聞紙に包まって寝ていた仔実装。 腕がムズムズし始めた。 「かゆいテチ・・・」 ふと目が覚める。日はもう高かった。 腕に凄まじい痒みが走る。 「かゆい!かゆい!かゆい!かゆい!かーゆーいーテチァーーーーッ!!」 手袋の上から右手と左手を交互にボリボリ掻き毟る。 皮が裂けたのか、手袋のあちこちに血の滲みができる。 「テェェェェェェン!!テェェェェェェン!!テヒィ!テヒィ!」 公園では仔実装の泣き叫ぶ声がいつまでも響いていた。 とあるマンションの一室 洗面所から女の子の声が響く。 「もう・・・!お父さん!私とお父さんの服、一緒に洗濯しないでって言ってるでしょ!」 女の子はゴム手袋を装着すると、父親の洗濯物をヒョイヒョイと選り分ける。 「特にこれは臭いがキツいんだから!」 と靴下を割り箸で摘み上げた。 「・・・小学生も高学年になると扱いが難しいな・・・特に女の子は・・・」 足に水虫薬を塗りながら溜息をつく。 その背中には哀愁が漂っていた。 「そういえばあの実装石は元気かな・・・寒そうにしてたから俺の靴下をプレゼントしたけど・・・」
