「レフゥ?」 その蛆実装は薄暗闇の中で目を醒ました。 「ココハドコレフ? ママハドコレフ、ダレカプニプニシテレフーン」 辺りは薄暗い闇で満たされていた。 蛆実装が胡乱な面持ちで周りを見渡しても同じ。 横に長くて丸い場所。其処が蛆実装の居る世界だった。 「ママーママー、ドレイニンゲーン、ウジチャンニプニプニスルレフー」 レフレフ大声で叫んで見たが、返事はない。 暫くその場で仰向けになってプニプニしてくれる存在を募集してみたが、誰も来なかった。 「ママモイナイレフ、ダレモウジチャンニプニプニシテクレナイレフ〜サビシイレフーオネイチャモイモウトチャモイナイレフー」 蛆実装は顔も見たことも無い母親と母胎で一緒だった姉妹に思いを馳せる。 が、直ぐに空腹によってその事を忘れた。 蛆実装の鳥頭は総じて物忘れの激しい実装石の中でも最強クラスだ。 「オナカスイタレフー、ノドモカワイタレフー。レフ? ナニカタレテイルレフ、ナメナメシテミルレフ」 床に垂れていた液体を蛆実装は舐めてみる。 「アマクナイレフ、ウジチャンアマイノナメナメシタイレフー」 不満の意を表し、ブピピっと軟便を洩らす。 しかし、結局はその液体を舐めるしかなくなった。 蛆実装が難儀しながらも徘徊した結果、その液体以外に食べる物も飲むものも見つからなかったのだから。 当然、誰も居なかった。蛆実装が尺取り虫の様に張って(恐ろしく動作が遅く、直ぐにばてる)十数分程度の広さしか無いこの空間。 それが、蛆実装の居る世界の全てだった。 「レフーレフー、モウイヤレフ、プニプニモシテクレナイ、ママモイナイノハイヤレフ、ウジチャンパキンシタイレフ-!」 蛆がこの世界に放り込まれてからどれだけ経っただろうか。 自分でゴロゴロ転がって疑似プニプニを行い、定期的に流れてくる液体を舐め、ブピピと糞を垂れる。 それの繰り返し。極めて単調で意味の無い生活。 食べ物は無かったが、液体を舐めるだけで何とか生きられた。 保護者は居なかったが天敵もいないので、蛆はひたすらに孤独だった。 実装石という種は、孤独を大変嫌う。 特に保護者が居ないと生存出来ない蛆実装なら、尚更の事だった。 「レフレェェェェ、ウジチャンサビシイレフー、ママーママー、ナントカシテレフー」 孤独に苛まれた蛆実装は、ひたすらにママを呼び続けた。 そして、いよいよ偽石がきしみ始めた頃。 「レフッ! ママ、ママガイッテイタコトヲウジチャンハオモイダシタレフ!!」 意識が混濁した為だろうか、蛆実装はママの言葉を思い出していた。 蛆実装が、他の姉妹達と一緒に母胎に居た頃。 何時も、母親実装の声が聞こえて来たものだ。 母親の声は、何時も何時も同じ事を言っていた。 「蛆ちゃんは繭を作るデス〜繭を作ればパラダイスデス〜手と足が生えて楽しい事が一杯デス〜手と足が生えた仔はお姫様デス〜デッデロゲ〜デェェェ……」 蛆実装にとって、ママとは自分に語りかけて来た唯一の存在。 母胎の中に居た時も、この世に生まれ出た後も声を聞いたのはママだけだった。 「ママガイッテタレフ。マユヲツクッテオコモリスレバ、ウジチャンハオオキクナレルレフ、オオキイノハオヒメサマレフ。ドレイニンゲンニカシズカレテ、オーキューセイカツヲタノシメレルレフ」 だからこそだろう。 蛆はママの教えを無条件で信じた。 そもそも、蛆程度の知性では言葉の意味を吟味したり疑問を抱いたりする事は無理だったが。 「ワカッタレフ、ウジチャン、ママノイウトオリオマユヲツクルレフ、オマユヲツクッテオオキクナレバオヒメサマレフ、サクセスストーリーノハジマリレフ〜」 蛆はそう呟くと、目を閉じてひたすらに祈った。 繭が出来るように。 繭が出来るように。 繭が出来るように。 繭が出来るように。 繭が出来るように。 蛆実装の意識が、深い場所へと落ちていく。 体内にあった糞と老廃物が急激な代謝によって糞袋に集められ、総排泄孔から排出される。 「オマユヲダスレフー、ウジチャンノマユレフー、ステキナアンヨトオテテヲツクルレフー」 蛆実装の寝言と共に、蛆実装の口と鼻から薄緑色の糸がシュルシュルと出て来た。 糸は薄汚れたタイツ状の実装服の内側に入り込み、肉体と服を糸の層によって遮断する。 やがて分厚く膨らんできた糸の層によって内側から実装服は破り捨てられ、服の破片となって床に散らばった。 「アタラシイフクガタノシミレフー、ママトアソンデニンゲンニホウシサセルレフー」 糸は壁に張り付き、蛆実装を完全に包んで行った……。 冬のとある日、二葉市郊外で実装石の飼育を行っているとある農家のビニールハウス内。 農家の親子が、ビニールハウス内にある土壁の前で収穫の準備を行っていた。 「今日は回収日だな」 「この間よりも数が多ければいいな親父」 「まぁな、お前がこの話を持ちかけて来たときゃ半信半疑だったが、良い具合に育つようになったで」 「さてさて、蛆ちゃん達の様子はどうかな?」 息子は、土壁に挿入してあるパイプ管を蓋している発泡スチロールをキョポンと抜いた。 開いた穴からは僅かに糞の臭いが洩れだして来る。 息子は顔を顰めながら雑巾を取り出し、パイプ管の中にある緑色の軟便を拭き取ってから中を覗き込んだ。 薄暗い奥まったパイプの壁に、張り付いている薄い緑色の繭。 それを確認した息子の表情が綻んだ。 「お、幸先良いぞ親父。一発目から越冬蛹になってるぜ!」 山実装は季節が冬に近付くと、蛆実装を穴に閉じ込めて孤独とストレスを与え、生存本能を活性化させて蛹化を促す習性がある。 通常、山実装は生産性が皆無な蛆実装を必要とはしない。蛆実装は基本的に餌を食いプニプニを要求し糞を垂れるだけの穀潰しだからだ。 春に生まれた蛆達は群れにとって不要と判断され、直ぐさま間引かれてしまう。 そんな蛆実装達が、秋に産まれた場合はある時期まで生かされるのは越冬蛹を作る為だ。 蛆達が冬を越す為に作る繭は非常に保温性が優れていて、集落が厳しい冬を凌ぐ為に貴重な防寒具になる。 繭を取った後の中身も、栄養価の高い非常食となる。 消耗するだけの蛆実装が群れに貢献できる方法は、唯一これだけなのだ。 故に越冬蛹を作った蛆実装が春を迎え仔実装に成れる可能性は皆無に等しい。 十中八九、繭は実装服か敷き藁代わりに使われ、中身は群れを生かすための滋養になる。 今までは、越冬蛹が人間の口に入る事はあまり無かった。 農家や猟師が冬山で山実装の集落や郷実装の家を暴いた時に、住処の壁に付いているのを『幸運にも』入手出来た場合のみ。 市場に出回る事は極めて希で、伝説の食材扱いされてきた。 のだが、人間の食にかける執念と貪欲さは実装石以上かもしれない。 山実装の習性を研究し、越冬蛹が作られる仕組みを暴き立てた。 数百にも及ぶ山実装の犠牲と、数万にも及ぶ蛆実装の犠牲を経て、越冬蛹の養殖化に成功したのである。 養殖方法は、山実装が越冬蛹を促成させるのに似通っている。 ビニールハウスの中に作られた土壁に短いパイプを何本も差し込み、横穴を作る。 横穴の中に蛆実装を一匹ずつ放り込んだ後、小さい孔の開いた蓋で横穴を閉鎖。 蓋は発泡スチロールで出来ているので外の明るさが僅かに差し込み、真っ暗な横穴で唯一の灯りにもなる。 空気は孔から入り込んで来るので問題はない。ただ、蛆実装にとって肌寒い程度にパイプの中は気温調整されている。 蛆実装が垂れ流す軟便は、下側になっているパイプの壁に幾つも孔が開いていて其処から流されていた。 換気も土壁の中央に張り巡らされている通気口のお陰で、糞の臭いや実装臭が篭もらないようになっていた。 食事は一日に僅かに孔を通してストローで流し込まれる栄養ドリンク(甘くないタイプ)のみ。 栄養はあっても食いでは0なので、当然蛆実装は不満と空腹感を募らせていく。 数日間とは言え、何より他者も同族も居ない薄暗い空間は、蛆実装にとってこの上ないストレスを発生させる。 普通なら蛆実装は孤独に耐えきれず偽石を自壊させて終わりだろう。 しかし、ここで飼われている蛆はとある『教育』を受けているので、別の行動に出る。 そう、繭を作ろうとするのだ。 繭を作り、この暗い世界から逃れようとする。 母親に胎教で教わったように、必死に繭を作る事を念じて。 繭を作れば、何とかなる。 繭を作って中に篭もれば、自分達は手足が生えてついでに幸せにもなれる。 そう信じて、蛆実装達は越冬蛹になるのだ。 越冬蛹の行き着く先が、人間の食卓以外に無い事を全く知らずに。 「よーし、こいつも繭化してる。良い案配だな」 父親は慎重にパイプから剥がした越冬蛹を、緩衝材入りの仕分け箱にそっと優しく入れる。 折角手間暇掛けて作った商品だ。この段階で傷物にするのは罰が当たる。 「息子よ、そっちはどうだ?」 「ああ、上手い具合に繭化してるよ……ありゃ」 1つの横穴を覗き込んだ息子が、少しだけ残念そうな声を上げた。 そこのパイプに入ってた越冬蛹の繭は、出荷するにはやや大きさが足りなかったからだ。 「……ちぃーと、早すぎたかな。少し小振りだぁ」 「ありゃ、これじゃ出荷するにゃ足りないぞ」 「だなぁ」 まぁ、こういう事もある。その程度の事でしかないので直ぐに作業は再開された。 親子は次々と横穴の蓋を開け、中にある糞を雑巾で拭い去ってから越冬蛹、もしくは繭を作れず死んだ蛆実装の死骸を摘み出した。 「こっちは死んでるぞ親父。今回は350匹中196匹だ。繭作ったの」 「そーか、まぁ最初の頃に比べりゃ随分安定して来たのぅ。今夜はこのミソッカス肴に一杯やるか」 「ああ、楽しみだぁ。越冬蛹の中身を自家製味噌と混ぜ込んで田楽に塗って焼くと、酒が進んでたまらねぇからな」 「親父、確か食肉用で親が死んだ仔蟲が数匹居たよな? あれ、田楽用に使っちまおう」 小振りな繭———即ちあの蛆実装の越冬蛹を、父親は出荷用の仕分け箱とは別のタッパの中に静かに置いた。 仕分け箱に入れられた繭ほど丁重な扱いではないが、あくまでも繭を壊さない注意した扱いだ。 全ては晩酌のツマミの為である。少しでも美味しく食べてあげるのが、食物に対する農家の礼儀だ。 「じゃ、俺は出荷の手続きするから親蟲共の仕込み頼むぞ」 「解ってるって」 仕分け箱とタッパを大事に抱えて家の方へ歩いていく父親とは逆の方向に、息子は歩いていった。 その手には篭がぞんざいに抱えられており、篭の中には繭化出来ずに衰弱死や孤独死した蛆達が無造作に重ねられている。 息子の行く先、其処には牛舎を改修した食用郷実装石の飼育舎が幾つもあった。 その中の1つ、越冬蛹用の出産石を飼育している所に息子は入っていく。 「ったく、何時来てもうるせーなこいつ等はよ」 自分が入って来るなりデスデスの大合唱。 合唱を奏でている出産石は須く禿裸であった。 唯一、品番が記されている首輪を付けては居たが。 食肉用は例外を除けば衛生上原則的に禿裸にするのが決まりである。 冬場は禿裸が凍死や衰弱死し易いので、暖気にかけるコストは農家にとっては悩みの種ではあった。 「デシャアアアアアア!!」 「デッスーン♪」 「デ、デスッン、デスー!」 反応は様々で、怯えきって敷き藁の隅でかたまり震えているもの達。 柵に引っ付いて喚いているもの、開脚して悦に浸りながら息子を誘うもの。 血涙を流しながら泣き叫んで命乞いするもの。 自分の腹を抱えつつ威嚇の声をあげる両目を緑色にしたもの。 かなり膨らんだ腹を抱えつつ、血涙を流してさめざめと泣くもの。 デーデーと鳴きながら白くなりかけた目で虚空を眺めているもの。 果てには合同で練習したのか、ラインダンスのようなものを踊っているもの達も居る。 なかなか息と動作があっていて練習の甲斐はあっただろう。 禿裸で肥満体をタプタプ動かしながら血涙を流し、引きつった媚び笑いを浮かべてるので全部台無しではあったが。 息子はそれらの一切合切を無視して作業を行う。 食肉用の畜生が何を叫ぼうが、息子には関心が無いからだ。 息子の実装石に対する概念はただ2つ。『畜産』か『害獣』のどちらか。 愚かだの賢いだの、醜いだの馬鹿だのには微塵も興味はない。 テーブル上に置いてある業務用フードプロフェッサーに、篭の中の蛆実装を放り込む。 テーブルの上にある配合用飼料を適量注ぎ込み、準備完了。 「お、そうだ」 男は気が付いたように呟くと、1つの囲いの中でデーデー鳴いている実装石を摘み出した。 通算84回越冬蛹用の蛆を産んだ出産石である。 出産石の周りに仔実装は居ない。此所は蛆を産む為の舎なので成体だけだ。 此所の出産石は基本的に蛆実装しか産まさないし、生まれた蛆達は直ぐに先程のビニールハウスに放り込まれる。 先程のビニールハウスの蛆達は主にこの個体によって生み出されたのだ。 この出産石が蛆を産んだ回数は84回。長く保った方だ。しかし、こうなってはもう使い物にならない。 こうなってしまった出産石の大半は躰を開くと、偽石が崩壊寸前になっている。 そんな状態で仔を産んだとしても死産か奇形を産むのが関の山。 使い物にならない穀潰しを飼う程、農家は甘くは無いし実装石に情けを掛ける奇特な農家もまた居なかった。 息子はそいつに実装ゲロリを無理矢理飲ませて糞袋の中身を吐き出させる。 それから変色した赤と緑の染みが無数に付いているプラスチック製の俎板に置き、首輪を外してから牛刀で無造作に首を落とした。 「デビュ!」 こぼれ落ちて来た黒ずんでいる偽石を包丁の背で叩いて砕き、ザクザクと適当にブロック状に刻んでいく。 勿論、解体ショーの様子は飼育柵内の実装石達から丸見えであり、生実況のライブさながらだ。 大半が歯をガチガチ鳴らしながら震え上がり、残りは意味のない命乞いや媚びを続けていた。 精神的負担でパキンしないのは食用実装石の品種改良が進み、偽石が野良よりもかなり強化されているからだ。 尤も、偽石が強化されたからと言って実装石にプラスに働く訳ではない。 丈夫になった分肉質向上の為苛烈に苦しめられ、今まで以上に仔の増産の為出産を強いられるのみ。 結局、更なる生き地獄を強いられているだけである。 「ほいほいっと」 刻まれブロック肉と化した出産石をフードプロフェッサーに放り込み、蓋を填め込んでからボタンを押す。 ヴィーザリザリゴリゴリと生々しい音が一分少々続いた後、プロフェッサー内に緑色のペーストが形成された。 もはや、元が成体実装石と蛆と飼料の混合体だとは思えない。 ところどころに赤いプツプツしたものが浮いている、おどろおどろしい程に緑色なペーストになっていた。 息子は完成したペーストをバケツに入れて舎の奥へと歩いていく。 これは餌である……が、食肉用の実装石達に喰わせるものではない。 食肉用の実装石達には実装肉を与えないのは食用実装飼育の原則だ。 共食いした実装石の肉は、強烈なアンモニアのような臭みが出してしまい食えたものではない。 ならば、この実装ペーストは何に与えるかと言うと……。 「おいマラ公、餌の時間だぞ」 「コブー、ゴフー」 奥の厳重な囲いの中に居る70cm級の実装石に、息子は声を掛ける。 ×の形に組んだ木枠に手足を鉄杭で打ち付けられ、節目節目を針金で堅く巻き付けられた大柄な実装石。 大柄なだけではない。股間には40㎝はあろうかという巨大な野太い男根がそびえ立っている。 男根の根本にはゴムの拘束輪がギチギチに巻き付けてあり、どう足掻いても射精出来ないようになっていた。 「ブモ、ブヒ、フブヒィィィィ!!」 「全く、相も変わらずさもしい奴だ。ほれ、口を開けれ」 「ホボ、ホゴゴゴ!?」 息子は漏斗の付いたゴムホースの先端をミツクチの中に突っ込む。 顎骨を完全に砕いた後、顎の筋肉を焼き切っておいたので口は開きっぱなしだ。 胃に到達するかと言うぐらいにゴムホースを突っ込んだ後、漏斗を持ってその中にペーストを注いでいく。 「ンゴフ、ンゴフ、ンゴフ……」 「美味いか? はは、まぁ解らんだろうな。餌飲ますのに邪魔な舌も切り取って根本を焼いてしまったしよ」 このマラ実装は、この実装農家の種付け専門実装石。 偶に生まれてくるマラ実装を選別し、その中でも体格が大きく精力の強い個体を使用する。 選別から洩れたマラ実装は須く本命に与えられる餌となり、本命はこうやって種付けの為だけに生かされていた。 食事は廃棄用の出産石や出荷に適さない仔実装、越冬蛹に成れなかった蛆実装を飼料と一緒に与えてる。 体の良い廃物処理に成るし、粉砕された偽石と同族の肉を喰らうと生気が漲るらしい。(野良のマラ実装の大半が同族食いであるのも、この為だとか) マラ実装のマラは毎日はち切れんばかりだ……種付けの作業が無い限りは、射精させては貰えないが。 このマラ実装の偽石は特別に実装活性剤の入った試験管の中に入れてある。 その為か、幾らマラ実装が性欲を発散できずにストレスを溜め込んでも偽石は割れたりはしない。 マラ実装はストレスで死ぬことも許されず、自らを慰める事も許されず、発狂する事も出来ず。 ただひたすら人間による解放の時(専用の吸引機による強制射精)を待ちながら苦悶するしかないのだ。 そうやって我慢に我慢を重ねて溜め込んだ精液は良質の仔を産む種になる事が多い。 現にこのマラ実装石は他所の農家が買い付けを頼み込むほど、良い肉質を持つ血統を生み出している。 他にある2つの実装飼育舎にもマラ実装(このマラの娘)は居るが、そいつらもこのマラ実装には及ばない。 多少コストが普通の実装石より高く付こうとも、マラ実装の飼育に手間暇を掛けるのは実装農家として当たり前なのだ。 餌を与えた後は、種絞りの時間だ。 待ちかねたかのようにギンギンに反り返ったマラに無造作に押し込められる専用吸引機。 根本の拘束を外した息子がスイッチを押すとギュポポポ〜と、まるで掃除機のような音を立てて巨根の先端を飲み込んで吸い立てる。 堪らず溜まりきった精液を凄まじい勢いで発射するマラ実装。見る間に吸引機のタンクは黄ばんだ精液で満タンになっていく。 「はい、お終い」 数十秒で機械を止め、再びマラの根本にゴムの拘束輪をはめ直す。 マラはフゴフゴ鳴いてまだ足りない、もっと出したいと言う意志を表明するが、息子は完全に無視した。 吸引された子種を持って郷実装達の居る場所に戻る。 何十回も繰り返している為か、まだ妊娠してない実装石達が騒ぎ出す。 「デスゥーデェェ!!」 「デギャア、ヒ、ヒギャアアア!!」 「ズアアア、デシャアア……デギャ!!」 泣く、喚く、威嚇する、命乞い。 行動は様々だったが、結果は同じ。 威嚇したり囲いにしがみつくものには、棍棒で天誅が加えられた。 無造作に囲いから引き摺り出され、タンクから浣腸注射器で吸い取った精液を総排泄孔に注ぎ込まれた後、囲いに戻される。 こうすれば、普段与えている飼料の効果と相乗して、98%以上の確率で妊娠する。 翌日、種付けを行った実装石を確認して妊娠していればそれでよし、妊娠してなかったら即座に二回目の種付けに移行する。 仔を付けた後は、胎教による越冬蛹になる為の教育だ。 郷実装達には、ひたすら仔達に『繭を作るように、繭を作れば素晴らしい結果が待っている』と胎教するよう命じてある。 命令に背けば即座に殺すとも、嘘を付いても直ぐにばれる(リンガル付きの集音機)とも告知済みだ。 多少は仔に愛情があろうとも、所詮は我が身が一番大事な実装石の事。 試しに眼前で『命令に背いた実装石を処断』する様を見せてやれば簡単に従う。 どんな馬鹿な個体でも、数メートル先で生きながら全身の生皮を削ぎ落とされ、神経を引き抜かれる同族を見せられれば考えが変わるものだ。 偶にそれでも尚人間に逆らう特級の馬鹿も居るが、居たら居たで見せしめ用の処断する実装石が増えるだけの事。 繭に対する基本的なフレーズさえ入れれば、胎教の細かい部分までは介入しない。 要は親が腹の仔に『繭を作る事の大切さ』を刷り込むよう仕向ければいいのだ。 実装石の胎教は、仔達の知性や性格に大きく影響する。 大概の仔実装が糞蟲や馬鹿なのは、大概の親実装が胎教で調子の良い夢想や戯れ言ばっかり言っているからだ。 その点、ここの親実装は胎教で殆ど『繭を作れ、繭を作れば実装生はパラダイス』としか言わない。 実際、この胎教を利用した越冬蛹用蛆実装の育成を行ってから、蛆実装が越冬蛹になる確率がグンと高まった。 蛆達の鳥頭以下な知性でも、母胎の中に居る間延々と聞かされた事は覚えている場合が多い。 それが自分達に都合の良い事柄なら尚更。減っていく食事の量と暗い住処にストレスと不安と孤独を体感した蛆の殆どは繭を作ろうと試みる。 繭を作れば大丈夫。 繭を作ればママはとても楽しい事になると言っていた。 だから大丈夫。繭を作って、中で手と足が生えれば自分はお姫様になれる。 刷り込みに従い繭を作れば現在の苦境を打開出来る。 蛆達は胎教によって植え付けられた思い込みと、薄暗く寒い横穴と乏しい食糧事情から逃れる為、越冬蛹へ蛹化するのだ。 越冬蛹になるのは、救いではなく人間の食料になる事を知らずに。 そして今日も新しい蛆実装が生まれて数分も経たない内に親から引き離され、ビニールハウス内に作られた土壁の横穴に入れられる。 「さぁ、繭を作れ。繭を作って美味しい美味しい越冬蛹になれよ……」 息子の囁くような声が途絶え、封鎖された横穴の中は薄暗くなった。 「レフゥ?」 そしてまた、蛆実装は目を覚ます。 「ココハドコレフ?ママハドコレフ、ダレカプニプニシテレフーン」 暗い横穴の中。 蛆の声に答えるものは居ない。 了 ※スク『家族の温もり』から、越冬蛹の設定をお借りしました。この場を借りてお礼申し上げます。
