『ノリとリク』 —————————————————————————————————————————————— 【18禁】 〜このスクは性描写があります。18歳未満の方はご遠慮下さい〜 【ジックス】 〜このスクはジックスがあります。ジックス不可の方はご遠慮下さい〜 【愛 護】 〜このスクは基本愛護描写で進行します。虐待ヒャッハーのかたはご遠慮下さい〜 【厨 房】 〜このスクは厨スクです。『 厨 は 絶 対 許 さ な い よ。 』という方はご遠慮下さい〜 【犯 罪】 〜このスクには犯罪行為があります。自身の行動に責任が持てない方は、ご遠慮下さい〜 * * * * 尚、上の注意書は、該当する方々が、このスクを読んで不快に成らないようにする為の注意書きです。 「ぐわぁあ、スク読んじまった、不快になったぜぇ!!」という分に対してクレームなり罵詈雑言なりを 寄せることは全然おkです。ただし、筆者にはクレームに応えるつもりは無いです。 —————————————————————————————————————————————— 『プロローグ』 * * * * …テチャァアア!! 夜の公園に仔実装の悲鳴が響く。 見れば、公園の中に、一匹の成体実装と、何匹かの仔実装がいた。 悲鳴はその中の仔実装の一匹が上げたもののようだ。その仔実装は右肩をざっくりと喰いちぎられ、片腕 を無くしていた。激痛に涙を流す仔実装。 …ママ!? どうして? どうしてこんな痛いことするテチ!? ワタチは何も悪いことはしてないテチ!! 公園の植え込みを背に、その仔実装を正面から見下ろす成体実装。2匹は親仔であった。だが、親実装が その仔実装に向ける目は、決して優しい母親のモノではなかった。罪人を見下ろす裁判官のような、非情 にして冷酷な目つきだった。その親実装の周りに、何匹かの仔実装が寄り集まっていた。 …チププ …テププ …プププ 親実装の周りにいる仔実装達の何匹かが、傷ついた仔実装を見て嘲りの嘲笑を浴びせる。 それとは別に、傷ついた仔実装に哀れみの視線を向ける仔実装もわずかにいる。その中の一匹は、先天的 なものか、片耳の先が桜の花びらのように、切り欠きのある不自然な形をしていた。 その仔実装達の様子を見て、親実装はどの個体を残し、どの個体に『悲しいこと』をするか、その見当を 付けてゆく。親実装は、間引きの必要性を理解する程度には『賢い実装石』だった。 まぁ、この仔供達は今日産まれたばかりだし、自分にとっても初めての仔達だ。慌てて選別を行う必要も 無い。10日程掛けて、ゆっくり見極めればいい。親実装はそう考える。 再び意識を、腕を喰いちぎってやった仔実装に向ける。 …テェエーン、テェエーン… オテテ痛いテチ、オテテ痛いテチィ!! あまりの痛みに泣き叫ぶ仔実装。 だがその痛々しい姿を見ても、親実装にはその仔への同情一つ沸いてこなかった。 忌々しい。 この屑め。 美しく、気高く、高貴なワタシの血統を汚す屑め。 許せない。 よくも産まれ落ちてこれたものだ、恥知らずめ。 殺してやる。 今すぐ殺してやるッ!! …デジャァアア!! オマエは産まれてきてはいけない『邪悪の仔』デス!! 今すぐッ!! 今すぐ殺 してやるデス!! 覚悟しろデス!! そう言って襲いかかろうとする親実装。 その姿を見て、恐怖に駆られた仔実装は、共に産まれたばかりの姉妹達に救いを求める。 …テチャァア!! 助けて!! オネェチャン、イモウトチャン、助けてテチィ!! だが姉妹達は、嘲笑なり哀れみなりを顔に浮かべているだけで、何一つ行動を起こすつもりはなさそうだ った。仔実装は自分が姉妹からも見捨てられていることを理解した。 迫り来る親実装。瞬間、仔実装は迫り来る脅威に対し、予想外の反撃に出た。 親実装は、実装石にしては賢明だったが、仔実装はそれ以上に賢明な実装石だった。 …ッチャァアアアアア!!! 自らを勇気づけるように一鳴きすると、親実装の方向に走り出し、親実装の脇ぎりぎりをすり抜けた。そ のまま、呆気にとられている姉妹の横を通り、公園の植え込みの中に駆けてゆく。 …デッ!? 親実装は不意を突かれた。彼女の予想では、仔実装が自分に背を向けて逃げ出すものとばかり思っていた。 そうならば、足の速さで劣る仔実装を捕らえるのは容易だった。だが仔実装は予想に反して自分の脇を抜 け、背後に回った。勢いよく飛び出していた彼女は、急に反転することもできず、対応に若干のタイムラ グが生じた。 しかも仔実装が潜り込んだ公園の植え込みの木は背が低く、密集しており、仔実装の身長ならば通り抜け ることができたが、背の高い親実装には入り込むことができなかった。 …ジャアアアアアァアアア!! おのれ、屑が!! 『邪悪の仔』が!! 何処までも手間を掛ける!! 激怒した親実装は、仔実装達にゆっくりで良いから、決して逃がさないように『邪悪の仔』を追跡するよ う指示を出した。 …テチテチ …テッチュ〜 …チュタ! …テチュ〜 …テププ …チプププ 言いつけに従い、植え込みの中に入ってゆく仔実装達。一方、親実装自身は多少の大回りを覚悟の上で公 園の出口に向かう。植え込みの反対側は、公園に面した歩道なのだ。 …テッ、テッ、テッ… 一方、植え込みの下を必死で駆けてゆく仔実装は、右腕の激痛に耐えつつ、絶望していた。 とっさの判断で親実装に捕らえられることだけは回避したが、それだけだった。 姉妹達が植え込みの中をゆっくりではあるが、包囲網を完成させつつ追ってくる。数で負ける以上、捕ま ったら最後だ。植え込みの中に隠れ続けることはできない。 しかし、植え込みの外には親実装がいる。多少遠回りさせることはできたようだが、基本的に足の速さが 違う。多少距離のアドバンテージがあってもすぐ追いつかれてしまうだろう。 結局、どうしても生き残れる方法を見つけることができない。 駄目だ。 どうして? どうして自分だけ、母親にあれほど憎まれているのだろう? 一体、他の姉妹達と何が違うというのか。 わからない。今日産まれたばかりの仔実装にはわからなかった。 もうすぐ植え込みが終わる。中には留まれない。外に出てもすぐに捕まる。駄目だ。どうにもならない。 駄目だ。 植え込みが終わる。 駄目だ。 視界が開ける。 植え込みを突破して歩道に出たのだ。 駄目だ、もう駄目だ… もう駄目だ… …死にたく無い!! 産まれたばかりで死にたく無いっ!! 仔実装は、植え込みから歩道に飛び出したとき、そう絶叫していた。 オッドアイの両目は、現実から逃げるように閉じられていた。 だから、自分のすぐそばに、親実装よりも巨大な影があることに気が付かなかった。 …ひゃぁああ!! …って、あれ? 今聞こえていた声は… この仔? …これ… ジッソウセキ、だよね。 へぇ〜、初めて見た。あら… やだ、酷い怪我をしてる。 . . . 親実装が公園の入り口から歩道を覗き込んだとき、そこに『人間』がいた。 親実装はニンゲンの姿を見たことで、『邪悪の仔』の追跡を止め、物陰に隠れた。仔実装達にも植え込み の中に止まるように、そっと指示を出す。 この親実装はかって人間に親や姉妹を殺されており、ニンゲンが凶悪で危険極まりない存在である、と 認識していた。相手次第では『ニンゲン』をメロメロにできる自信があったが(ブザイクなママや姉妹 達とは違うのだ)、なるべくニンゲンに近づかないようにしていたのだった。 . . . しばらく時間が過ぎ、ニンゲンは『邪悪の仔』を抱き上げて歩きだしていった。 為す術なくその後ろ姿を見送る親実装。 そのまま、ニンゲンの後ろ姿を見つめていた親実装だったが、そのうち、踵を返して公園のダンボールハ ウスに向かって帰り始めた。途中、植え込みに止まっている仔実装達にも付いてくるように言いつける。 ほとんどの仔実装はその言葉に、 …テチィ〜♪ と鳴いて従った。 ただ一匹だけ、ずっと『邪悪の仔』とそれを抱いたニンゲンの後ろ姿を見つめている仔実装がいた。 …先ほど、『邪悪の仔』の命乞いを、…チププ♪ と嘲笑っていた仔実装だった。 …何をしているテチ、皆行っちゃうテチよ? 早くコッチに来るテチ。 片耳に切り欠きのある仔実装がそう声を掛ける。 ニンゲンを見つめていた仔実装は、その呼びかけに応え、名残惜しそうにしながらも皆の元に駆けだした。 . . . 親実装は、仔実装達を引き連れてダンボールハウスに戻りながら考える。 『邪悪の仔』め。 『ニンゲン』のせいで潰し損なった。 …まあいい。自分の手で始末したかったが、 『ニンゲン』に連れて行かれたのなら結果は同じだ。どうせ散々苦しめられて殺される事だろう。ならば、 むしろ手間が省けたと言うものだ。 親実装はそう考えることにした。凶悪な『ニンゲン』によって、『邪悪の仔』がすぐにも殺されるだろう と確信した。 残念ながら、この『ニンゲン』は相当のお人好しだった。 —————————————————————————————————————————————— 第一話『ノリ』 少女の名前は、『紀子』という。 ただ、周囲の人々からは、『ノリ』と呼ばれていた。だから、ここでは少女を『ノリ』と呼ぼう。 ノリは、この春に故郷・北海道の高校を無事卒業した。 運良く都内のそこそこレベルの高い大学に合格 することができた彼女は、両親や弟のいる実家を離れてこの春から東京で一人暮らしを始めた。 新しい住まいはワンルームマンション。その8階。 不動産業者が近隣の開発を期待して、とりあえずそのマンションを建ててみたものの、結局周囲の開発は 進まなかった。結果、ただそのマンションだけがぽつんと孤高を保つようにそびえ立っていた。並び立つ 高さの物と言えば、何かの工場だろうか、1km程離れたところに何かの煙突が一本。それも煙を吐いて いるところを見たことはないから、きっとその煙突の会社かなにかは潰れてしまっているに違いない。 大学からは最寄り駅から直通電車で6駅ほど。決して近くは無いが、さりとてとても遠い訳でもない。地 域自体が開発から取り残されたような場所のおかげで、駅からもそれほど遠くないのに、家賃は安かった。 少しでも入居者を増やすためか、ペットも自由だったが、選ぶときにはさして気にしなかった。 ベッド。テーブル。本棚。衣装ケース。洗濯機。冷蔵庫。炊飯器。TV。パソコン。 生活に必要な物を運び込む。今の大学生らしく、インターネットも接続した。もっとも、設定は引っ越し を手伝ってくれた2つ違いの弟任せだったが。 4月になり、大学が始まる。 同じ年頃の男女が集まる場所。 ノリのような年齢の女性には、時々、はっとするほど大人びた雰囲気を漂わせた者がいる。 モデルのような高い背。長い髪。紅い口紅。ノースリーブの肩。たわわな胸。引き締まったウエスト。す らりと伸びた足にハイヒール。煌びやかなアクセサリーの数々。 毎日のように夜の街に繰り出し、女を磨くため一夜の恋の相手を探す。 文字通り、『大人の女』。 …残念ながら、ノリはそういう世界とは無縁だった。 152cm。Aカップ。広いおでこ。どちらかといえば実用向けで、あまりおしゃれとは言えないメガネ。 三つ編みに編まれた髪は、少し色素が薄いせいか、栗色をしていた。 ここ数年あまり変化の無い体型。中学の制服を着て、母校の中学に行けば、たぶん誰も彼女を少し大人び た中学生と信じて疑わないだろう。高校三年分の肉体的成長はどこかに置いてけぼりだった。化粧っけが 無い、という訳ではないが、あまりお化粧上手という訳でもなく、ほんの少だけの、簡単な化粧。服や靴 の選択も、どちらかといえば地味目だった。アクセサリーの類もほとんど持っていない。 うち解けた相手にはそれなりに快活な話ができるものの、どちらかといえば人見知りする性格のためか、 同性の友人も少なく、異性の友人に至っては皆無だった。だから、この年まで『お付き合い』というもの もした事はなかった。 * * * * 大学が始まり、暫くが経った。 ノリは高校3年間の間、美術部に在籍していた。 だから、大学でも美術部、いや美術サークルに入会した。 一人で描く風景画。それがノリの専門だった。 4月半ば。 入会したサークルで、週末、つまり翌日は休日という日に新入生の歓迎コンパが行われた。 場所は大学の近所の飲み屋。 新入生は、本来なら飲酒できない年齢ではあるが、実際にはそれなりにアルコールを口にしていた。 とはいうものの、比較的穏やかな会であったため、特に無理な飲みを強要されるわけでもなく、皆程々に 飲み、程々に酔っていた。 * * * * …それじゃあ、ここで新入生には簡単に自己紹介をして貰おうかな。できれば、なんて呼ばれていたかも 言って貰えると、こっちもこれから呼ぶときに助かるな。 サークルの副会長がそう言ったことで、新入生の自己紹介が始まった。 … …… …大村 早苗です。 特にあだ名とかはありませんでした。だから『大村』でお願いします。 …鈴凪 純也です。 『ジュン』と呼ばれていました。宜しくお願いします。 …佐藤 浩太です。 高校の頃は『コータ』って呼ばれていましたので、それでお願いします。 ノリの順番が来る。 自分に視線が集まる。 ちょっと緊張。 …柏谷 紀子です。 北海道から来ました。 周りには『ノリ』って呼ばれていました。え、えと、宜し くお願いします。 …閂 美樹です。 みんなには『みきちー』って呼ばれてましたぁ。宜しくお願いしますぅ。 …… … ふう。 緊張して少言いよどんだノリだったが、特に問題なくやり過ごすことができた。ほっと一息つく。 程なくして、新入生全員の自己紹介が終わった。先輩達が拍手して歓迎の意を示してくれる。 . . . それから暫くして、歓迎会はお開きになった。 …それじゃあ、失礼します。 二次会があって、何人かは続けて参加するようだったが、少々遅い時間でもあり、慣れないお酒を飲んで 少し参っていたノリはマンションに帰る事にした。 大学の最寄り駅からマンションのある駅まで電車に乗る。 10時過ぎと結構遅い時間なのに、思うよりも遙かに早く電車がやってきた。実家のある北海道では、 1時間に1本しか電車が来ないことがざらにあり、電車の時刻に人間が合わせていたのだが、東京ではあ っという間に電車が来るためその必要がない。こんな時にやっぱりこっちは都会だな、などと改めて実感 する。それから電車に乗って15分程でマンションの最寄り駅に着いた。 * * * * 駅からマンションまではおよそ200m。 …ふう。 ノリは一息をつく。 桜の花びらが混じった夜風が、酔って少し上気した肌には涼しくて気持ちいい。 人通りは無かったが、街灯が煌々と辺りを照らしていたためあまり寂しくはなく、落ち着いて歩く事が できた。 …公園の脇を通りがかった時、声が聞こえてくるまでは。 …ィ …! え、なに? 何か聞こえた? 辺りを見渡すノリ。道路の方には人影はない。 空耳かな…? …チィ …やだ!? まだ聞こえる! もう一度辺りを見渡す。やはり道路側には誰もいない。居るとしたら、公園の方だ。しかし、わざわざ公 園の中に入ってそれを確かめる勇気はノリには無かった。 …いやだ、気味が悪い。 さっさと行ってしまおう。 少し早足になり、急いで公園横の歩道を通り過ぎようとするノリ。 ガサッ。 たたっ。 そのノリの前に、小さな影が飛び出した。 突然の事に、つい声を上げてしまう。 …ひゃぁああ!! 突然の事に驚くノリ。しかし、飛び出てきた『それ』は、どこか人間に似た姿の、子猫のような小さな生 き物だった。 …って、あれ? 今聞こえていた声は… この仔? …これ… ジッソウセキ、だよね。 へぇ〜、初めて見た。 彼女は知識としてはその生き物を、『実装石』を知っていたが、実際にそれを見るのは初めてだった。 彼女が住んでいた北海道には野良の実装石は居なかった。年に一度やってくる厳しく長い冬の環境に、野 良の実装石は耐えられないのだ。北海道の冬に耐えられるのは、人とは距離を保って暮らす山実装のよう な野生の実装石か、さもなければ人間の庇護下にある飼い実装のどちらかである。 あいにく彼女の実家の近所には実装石を飼っている人物は居なかったし、東京で暮らすようになってまだ 一月足らず、積極的に実装石に関わろうとしない、というかまるでそんな事を考えなかったノリは、公園 に行って野良実装に遭うことも無かったのである。珍しくてじっとその姿を覗き込む。と、ある事に気が 付いた。 …あら… やだ、酷い怪我をしてる。 右腕が肩からばっさりと失われていた。ただ、その腕にも薄皮のようなものが張り、小さな肉の突起も見 える。実物を見た事は無かったものの、実装石は恐ろしく生命力が強い種だと聞いていたから、たぶんこ の突起が右腕の『芽』なのだろうと思う。とはいえ、大怪我には違いない。 …テチィ…。 自分を見上げながら仔実装が鳴く。 ノリには、 …助けて… と懇願しているように聞こえた。 きょろきょろと辺りを見回す。親は居ないのだろうか。 …他には動くモノは見あたらない。 実装石は、殆どは人に積極的に関わろうとする、というか飼われようとするらしいが、まれに警戒心が強 いタイプがいるらしい。もしそうなら、この仔の親は何処かに隠れながら、様子をうかがっているのだろ うか。 街灯があるとはいえ、夜の事だ。物陰に隠れてじっ、とされていたら分からない。自分がこの場 を離れれば、警戒を解いて隠れているところから姿を現すかもしれないが、確実にそうだという保証もな い。大怪我をしている以上、放置すれば死ぬかもしれない。 どうしようか。 …テチュ…。 もう一度仔実装が鳴いた。 やはり救いを求めているように思える。 実装石は賢い生き物で、産まれたときから成長した人間と同様に明確な『自己』を持つという。 ならばこの仔実装は自分に助けを求めているのだろうか。 う〜ん。 とりあえず預かって、元気になってから親を捜せばいいよね。 基本的にお人好しな上に、多少の酔いと物珍しさが手伝ったのだろう。 結局、ノリはそう結論づけて仔実装を連れて帰る事にした。 血が服に付かないように気を付けつつ、そっと仔実装を抱きかかえる。仔実装も抵抗しなかった。 暴れてない、よね。やっぱり助けて欲しいのかな? 仔実装は小さくて軽かった。まるで産まれたばかりのようだった。 * * * * マンションの自室に戻ると、ノリは仔実装をとりあえず入れておく場所を作ることにする。 引っ越しの時に使ったダンボールの中から適当な大きさの物を組み立て、中にティッシュペーパーを敷き 詰めて、そっと仔実装を置いてやった。 何か適当な食べ物は無いかと思って辺りを見渡し、菓子箱の中にクッキーがある事を思い出した。 まだ産まれたてのようなので、皿に暖めたミルクを注ぎ、その中にクッキーを浸して柔らかくしてからダ ンボールの中に置いてやる。 …テチュ〜!! 一度自分を見上げ、コクコクと何度も頭を下げてからミルク漬けのクッキーに齧り付く。 もしかしたらお礼を言っていたのかもしれない。 …いや、まさか、ね…。 どうやら腕の傷はかなり治っているようだが、引き替えに相当体力を消耗していたらしい。 仔実装はミルクを舐め、クッキーをあらかた食べ尽くすと、そのまま倒れるようにして寝込んでしまった。 …テスー、テスー…。 小さな寝息を立てて眠りこける仔実装。 カワイイな♪ その寝姿を見て、ノリは素直にそう思う。 もし親が見つからなかったら、このままここで飼ってあげようかな。 …って、いけない、いけない。 そんなことを簡単に決めちゃ駄目よね。 動物を飼うという事はその命に責任を持つ事だ、とノリは思っている。 ペットOKのマンションではあ るが、安易にそんな事を決めるとロクな結果にならないだろう。まずは親探しが先だ。飼うだの何だのは それが駄目になってから考える事だ。 とりあえず、明日は休みだから少々夜更かししても構うまい。ノリはインターネットで実装石について調 べる事にした。 実装石の生態、能力、言語機能、思考、思想、食性、天敵、…。 飼い実装、野良実装、食用実装、山実装に海実装、…。 成体実装、仔実装、親指実装、蛆ちゃん、…。 パンコン、多産、偽石、虐待派に愛護派、ヒャッハー、etc,etc…。 色々調べている内に、すっかり遅くなってしまった。時計を見ると日付は変わって2時を廻っている。 さすがにもう眠たい。 ノリは、仔実装が眠っているダンボールのエサ皿にミルクとクッキーを足すと、そのままパジャマに着替 えてベッドに入った。 …おやすみなさい。 ZZ… zzzz…… zz…。 * * * * 翌朝。夜更かしが祟ったのか、どちらかといえば早起きなノリがすっかり寝過ごしてしまった。 もう10時である。ダンボールの中の仔実装の様子を見るとやはりスヤスヤと眠っている。しかし、よく 見てみると寝る前に足したミルクやクッキーが無くなっているし、ダンボールの隅に緑色のフンがしてあ った。昔、猫を飼っていたノリは、動物はフンをする物だと理解しているので、仔実装がフンをしていて も別に気にならない。寧ろダンボールの隅を選んで、パンツも汚さずにすませた事に感心した。 とりあえずその様子を見て、ノリはこう判断する。 私が寝ている間に一度起きて、また寝直したんだわ。だったら、暫くは起きないかしら。 腕の怪我も殆ど治っているみたいだし、今の内に買い物に行こうかな。 昨晩、正確には未明のことだが、ネットで実装石のことについては色々調べた。その上での判断として、 この仔実装を親元に帰すにせよ、ここで飼うにせよ、とりあえず準備が居ると思った。 ネットで検索すると、今まで気が付かなかったが、近所の商店街の中に実装ショップがあった。もう開い ている時間だろう。ノリは仔実装が起きないよう、静かに扉を開けて買い物に出かけた。 実装リンガル。実装石というのは産まれながらにして言葉を放す事ができるらしい。とはいえ、話せるの は『実装語』なので、人間と会話をするためにはこの『実装リンガル』が必要らしい。本人から事情を聴 くことができれば、親を捜すにせよ何にせよ、かなりやり易くなるに違いない。とりあえずのことだから、 1000円くらいの安物でいいだろう。 実装フード。離乳食系の柔らかいタイプ。あまり良い物を与えると今後ややこしくなりそうなので、栄養 価は高いが味は並の物を選んだ。 あとはプラスチックの安物の水槽、簡易トイレ、エサ皿に水の補給器、寝床セット。 まずはこれで充分だろう。全部で3000円位だった。一通りを抱えてマンションの自室に戻る。 * * * * …テェエエーン、テェエエーン… 自室に戻って、玄関で靴を脱いでいると、中から仔実装の泣き声が聞こえる。 あ、仔実装ちゃん、目が覚めたんだ。 って、ええと、まずは『実装リンガル』よね。 脱いだ靴を整えながら、実装リンガルのスイッチをONにする。モノクロ液晶の表示画面に、仔実装の泣 き声の内容が『日本語』で表示される。 …ママー、ママー、何処テチ!? 何処行っちゃったテチィ… …テェエエーン、テェエエーン、ママー、ママー… …わぁ、本当に喋れるんだぁ。 ふう〜ん、ママが居ないから寂しくて泣いていたのね。 やっぱりまだ 仔供なんだ。 これまで実装石に接したことの無かったノリは、リンガル越しとはいえ、実際に仔実装が、というより人 間以外の生き物が言葉を喋っていることに少し驚きを覚えながらつい独り言を呟いた。そのまま、ダンボ ールの中を覗き込んで、中の仔実装に声を掛ける。 …仔実装ちゃん、ただいま〜。 そのノリの姿を見て、仔実装は安堵の声を上げる。 …ママー!! ママテチ、ママテチ、寂しかったテチー!! もうどこかに行っちゃ嫌テチ〜!! …? 違うよ? ママじゃないよ? 仔実装ちゃんのお母さんは、実装石でしょう? お母さんのこと、 何か覚えてない? ノリは仔実装に母親のことを訪ねる。 …覚えてるテチ。 ワタチのことを『邪悪の仔』と読んでオテテを引きちぎったテチ。 ミンナでワタチを殺そうとしたテチ。 ママはワタチのことを助けてくれたテチ。だからワタチのママテチュ。 ? よく分からない。 仔実装はどうやら、ノリが『本当の』母親では無い事は理解しているらしい。ただ『本当の』、つまり仔 実装の母親は仔実装のことを殺そうとした。だから、仔実装を助け、保護してくれたノリの事を『ママ』 と呼んでいるようだ。 …? 本当のママはそんなに酷い事をしたの? …したテチュ!! …産まれた時は、ワタチの周りのヌルヌルを取ってくれたテチュ。でも、その後、『お前は邪悪の仔デ ス!! 殺してやるデジャァア!!』と言って、ワタチの腕を引きちぎって投げつけたテチュ。 オネエチャンやイモウトチャンにもワ タチを殺すように言いつけたテチュ。 だから必死で逃げたテチュ。 ママが助けてくれなかったら、きっと殺され ていたテチュ…。 どういうことだろう。 昨晩ネットでノリは実装石のことを色々調べた。仔実装の言う『ヌルヌル』とは産まれたばかりの仔実装の周 りを包んでいるという粘膜のことだろう。つまり親実装は産まれたばかりの仔実装の粘膜を舐め取ってあ げた。そこまでは普通だ。だがその後がおかしい。 賢い実装石の中には、間引きをする個体が居るという。愚かな仔供をそのまま育てていると、金平糖一粒 の為に家族を売るなど、家族全体に危険が及ぶ行動を取る仔実装に育つ場合が有る。というか、極わずか な例外を除き、殆どの実装石は先天的にそのような性格をしているらしい。このため、そのような愚かな 仔供が害をなす前に『悲しいこと』と称して処分してしまうのだ。ただ、その場合でも普通は数日を掛け て仔実装の性格や能力を見極めるはずで、この仔実装のように産まれて粘膜を舐め取ってすぐにも間引き の対象にするような事は無いはずだった。 何か訳があるのだろうか? 見た限り、この仔実装は何か問題があるようには思えない。昨晩からの行動 にしても、この会話にしても、特にあまり問題があるような感じではなかった。寧ろ、極わずかに居ると いう『賢い実装石』という印象を受ける。 …分からない。 う〜ん。 分からなければ、分からないなりに行動するしかないよね。 ノリはそう思った。取り合えず母親を捜して事情を聴こう。誤解が有るならば、それを解いてやればこの 仔実装も母親の元に帰れるはずだ。 よ〜し、行動有るのみ!! 早速公園に、 …っと、その前に、おふろ、入ろう。 ふっと自身の汗の香りが気にかかった。昨晩は酔っていたせいもあるが、ネットに夢中になっていてお風 呂に入る事を忘れていた。みっともない。朝風呂になるけど、いっか。 普段は風呂といってもシャワーで済ますのだが、今日は仔実装も一緒に入れてやるつもりだったので、お 湯を湯船に張ることにした。用意して暫くすると、お湯張りが完了する。 …よ〜し、お湯張り完了、っと。 仔実装ちゃん、お風呂はいろう。 …テチ〜、お風呂テチ、お風呂テチ〜、ママと一緒にお風呂テチィ〜!! はしゃぎ回る仔実装。ずいぶんと喜んでいる。 …お風呂といっても、ユニットバスだから小さいんだけ どね。 それでもちゃんと脱衣場(洗濯機や洗面台も一緒に置かれている)や洗い場がある風呂場であっ た。ビジネスホテルのような、トイレの隣に湯船があるお風呂には入る気にはなれなかったので、このマ ンションのお風呂がこのような作りだったのは幸運だった。 脱衣場に入るとまずはノリが服を脱ぐ。 靴下。スカート。シャツ。アンダーシャツ。ブラジャー。 それから、最後の一枚。 全裸になったところで、下を向いて自分の身体を確かめる。 …もうちょっと おっぱい、大きくならないかなぁ。 ノリにもコンプレックスがあった。 それから、今度はテチャテチャ喜んでいる仔実装の服を脱がせてゆく。 実装石という生き物は髪と服をとても大切にし、他者に触れられる事を酷く嫌うと言うが、仔実装はノリ の事を信頼しているのか、何も抵抗しなかった。 まずは頭巾を脱がし、前掛けをはずしてからバンザイをさせて、翠色のワンピースを脱がす。後には白い パンツが残った。 …はい、仔実装ちゃん。脱ぎ脱ぎするよ〜。 そう言って仔実装のパンツを脱がしていたノリの手が、半ば脱がしたところでピタリ、と止まった。 …テチ? 不思議そうな表情でノリを見上げる仔実装。しかし、ノリの表情は驚愕に見開かれたまま、凍っていた。 と、慌てて仔実装を放し、両手で顔を隠す。 でも、指の隙間から、つい仔実装を …正確にはその一部を… じろじろと見てしまう。 ええと、ちょ、ちょっと待ってよね。 こ、これ、え、えと、昨日みたネットの画像の中に有ったよね。 あ、あれ、イ、イタズラだとばっかり思っていたけど、そうじゃなかったの? ほ、本当にこうだったの? ええ〜っ! ま、待ってよ〜!! * * * * ノリの家族は両親とノリ、そして弟の4人家族である。家族の半分が男である以上、父や弟と一緒に風呂 に入った時などに、ノリも『それ』を見たことが一度ならずあった。もっともそれは子供の時の話で、ノ リが中学校に上がる頃にはそんな事はすっかり忘れるほど、昔のことになっていた。おそらく『それ』を 見たのは10年ぶりくらいだっただろう。同時に、なぜ親実装が産まれたばかりのこの仔実装を『邪悪の 仔』と呼んで殺そうとしたのかも理解できた。確か、そのような場合の実例も昨日ネットで見たはずだ。 そのときは、『それ』に関する全てが、アンダーグラウンドな世界でのタチの悪い都市伝説だと思って いたのだが。 …ママ? どうしたのテチィ〜? そう言う仔実装に、どうにか受け受け答えしようとしながら、結局何もできないノリ。 その目は、仔実装の『股間にある物』の処をいったり来たりしている。 『股間にある物』 …仔実装の股間には、『おちんちん』が付いていた。 仔実装は、『マラ実装』だった。 − 『ノリとリク』 第一話 ・ 終 − —————————————————————————————————————————————— 一年程前に一瞬だけ投下した物を、当時から全く書き進んでいないのに自分を奮起させるため再投下。 完結しなくても許してください。
