東北地方の農家をイメージして書きました。非常に申し訳ありませんが方言がかなり適当です。 その家の庭の隅には一本の鉄の杭が立っていた。直径は約3cm、高さは地上60cmで地下約1.5mの深さまで刺さっており、 動かそうとしてもピクリともしない。 その杭の先端には太さ5mm,直径5cm程のリングが強固に溶接されていて、そこから太い鎖が伸びている。 その鎖の先には…これを読みに来て下さった皆様にはもうお分かりの事かと思われるが… 『実装石』が繋がれていた。 その実装石は既に死んでいた。両の目が白く濁り仰向けのままピクリとも動かない。 全身の皮膚はズル剥けになったまま、再生しようとした形跡すら無い。恐らく灯油か何かをかけて火を点けられたのだろう。 全身を膿と泥とが混じったものが覆っている。 そこへ家主が皿を持って現れた。皿の上にはその実装石の朝食が載っている。 実装石が死んでいる事に気付いた家主はそのまま家に引き返した。 「おとう、どうした?」 「あぁ、庭のヤツが死んだでな。役場に電話して新しいの持ってきてもらわねぇと…」 「わかったぁ…」 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 【ジリリリリリリリリリリリリリリリリ】 「もしもし…はい穂間湖町役場です。あぁ、お久しぶりで…ええ、ええ、丁度今日処分する分が1匹…」 電話を受けた男は裏の倉庫の方を一瞥した。 「ええ、そらもう…昨日お隣の畑を狙った奴が居ったでしょう、あいつで…分かりました。帰りに寄らせて頂くんで…はい」 【チン】 ----------------------------------------------------------------------------------------------------- 夕方、役場の男が実装石を連れて現れた。 「それじゃあ、ここに置いてくんで…」 連れて来られた実装石はケージの中から周囲を見回し、自分が人間の家に連れて来られた事を知った。 広い庭と高い塀に囲まれた大きな家、中でも実装石の目を奪ったのは軒下を埋め尽くさんばかりの大量の干柿であった。 「デ…」 目の前に広がるオレンジ色のカーテン。彼女は涎を垂らしながらケージに顔を押し付ける。 『人間の家に連れて来られた事』,『大量の食べ物』 この二つの情報から彼女が導き出した答えはというと… 「デププププププププ…」 ——やったデス、ワタシは飼い実装になったデス。 「デププププププププ…」 ——なかなか広そうな家デス…高貴なワタシに相応しいデス。 「デププププププププ…」 ——タベモノもたくさん有るデス…全部ワタシの物デス。 一体何故『高貴な生き物』が『人間の畑を荒らす』のか? 一体何処を如何すれば『人間の畑を荒らし』て『人間に飼われる』のか? 「デププププププププ…」 ——この間ニンゲンのオイモをタクサン食べてやったデス。 「デェプププププププププププププププ」 ——ワタシがオイモをメチャメチャにしたのを見たニンゲンが、強いワタシをオソレてドレイになりに来たデッスン♪ そう、この実装石はこの農家の隣家の芋畑を荒らした。 この芋畑は隣家の老人が秋にやって来る孫と芋掘りをして楽しむために わざわざ気候に合わないサツマイモを、狭い畑ながら丹精込めて育てていたものだった。 主食でも商品作物でも無かったため電気柵等の警戒を怠っていたのが仇になってしまった。 ところが掘って食べるどころか、腹一杯になった実装石は自分が食べ切れない分まで掘り返しあまつさえ…。 ——ニンゲンに食べさせるのはモッタイナイデッスン♪ 『ブリブリブリブリブリ・・・・・・・・』 人間の作った物をメチャメチャにする有力感と、食べ物をオモチャにできる余裕に実装石は酔い痴れた。 食べ物をオモチャにするのは人間だけでは無かったというのも甚だ驚きなのだがそれはさておいて。 「こぉのクソムシがァァアァ!!」 幸運もそこまで、彼女は老人に現場を押さえられてしまった。 老人は畑を荒らしていたこの実装石が所謂『美味しい山実装』では無い事は分かっていた。 すぐに殺しても良かったのだが、この農村地帯では野良実装石にもまた別の利用法が有る。 必要な人が居ればと言うことで老人はこの野良実装を役場に渡したのだった。 男と家主は実装石を見ながら。 「どうです?なかなかのモンでしょう。」 「ああ、これなら十分使えそうだ。」 「『山の』じゃ有りませんで、間違えても食べたりせんで下さい。」 「ハハ、『山の』は人を嫌うでな。畑に出たんなら、まず『野良』だろうよ。」 「ほれ、出て来い…」 家主がケージの扉を開けると実装石がのそのそと這い出してきた。 「デーッ!!デーッ!!」 実装石は家主に向かって吠え立てる。 「デーッ!!デスッ!!デシャーーッ!!」 ——気が利かんヤツデス!!さっさと食べる物と着替えを持って来るデス!! 家主は実装石の首を掴んで持ち上げるとそのまま庭の隅へと歩き出した 「デシャアアアアァァァアアァァァッッッ!!」 ——ナニするデス!!このクソニンゲン!! そして男が向かう先には。 「デッ!?・・・??」 例の『杭』が有った。 先程まで幸福回路をフル回転させていた実装石も様子が違う事に気付いた。 『杭』の先から伸びる『鎖』、そして『鎖』の先に有る『同属』の『無惨』な『死骸』 「デシャアアアアアアアアアア!!!!!!」 家主はジタバタと暴れる実装石を片足で地面に押さえつけながら、『死骸』から首輪を外し、それを彼女の首に巻きつける。 「デシャアアア!!デスデシャアッ!!」 ——やめるデス!!今ならまだ許してやるデス!! 飼い実装のシンボルとして野良実装供が欲して止まない首輪であるが、さすがにこの場合は話が違う。 この首輪に繋がれればそこの『死骸』と同じ目に遭うのは明白だ。 どんなに暴れても、腹にめり込んだ人間の足はピクリともしない。口から泡を吹き、パンツの中はすでに糞まみれだ。 「デギャアアアアア!!デギャアアアア!!」 家主は仰向けのまま狂った様に暴れる実装石の上から足を退かす事無く、その上にドパドパと灯油をかけて行く。 「デギッ!!デパッ!!プエッ!!ペッペッ!!・・・・・・」 ——ヤメルデス!!クチに入るデス!!ハナに入るデス!! そしてひとしきり灯油をかけ終わると家主は実装石から足を離した。 「デェプゥッ…デエェ…ブファァ…」 ——ナンテコトするデス…このクソニンゲンめェ… 家主を睨みながら実装石はパンツを下ろし、その中に溜まっていた『糞』を手に取り投擲の構えを取った。 ところが家主はそれを尻目に残りの灯油を元からあった『死骸』にかけ、 【ボッ】 おもむろに火を点けた。 たちどころに『死骸』は炎に包まれ、徐々にその姿を変えてゆく。 「デヒッ…」 実装石はその様子に息を呑み、手に取った糞を落とした。 炎に対する恐怖心が、先程までの怒りをかき消し、冷静な(実装石にしては)判断力を呼び戻す。 実装石は自分の体を見、そして臭いを嗅ぎ、自分にもあの死骸と同じものがかけられている事を再確認した。 そして… 「デヒイイイイイイイイィィッィィィィィイイイィィィィ!!!!」 実装石は地面を転がりまわった。 ——『あれ』を落とすデスッ!!あの『クサイ水』を落とさないと燃やされちゃうデ…グボッ!! 転がり回る実装石の腹を再び家主の足が押さえつける。 そしてポケットからマッチを取り出すと【ボッ】火を点けて、それを実装石の眼前に差し出した。 「デヒッ!!」 差し出された小さな炎に実装石は息を呑む。 「デ……デッ……」 ——どうすればイイデス!?どうしたら助かるデス!? 実装石は小さじ一杯程度の脳味噌をフル回転させて考えた…。そして… 「…デ…デッス————ン♪」 『媚び』た。 男に向かって最高にウツクシイ(と自分で思っている)ポーズをとり、最高にウツクシイ(と自分で思っている)笑顔を向ける。 ——どうデス?ワタシはこんなにウツクシイデッスン? その目の焦点は合わず、口は引きつっている。 ——このウツクシイワタシにヒドイコトするわけないデスッン? 額には脂汗が浮かぶ。 ——今ならまだユルしてや… 「アァチチチチチチチチチ」 家主が叫び声を上げたかと思うとマッチを取り落とした。 「デェ?」 何のことは無い、実装石の媚を見ている内に火がマッチの根元まで来てしまったのだ。 「デェ?!」 そして家主の手を離れたマッチはそのまま… 「デッ!!」 そのまま実装石の体の上に 「デェッ!!!」 『糞蟲1匹媚びた程度で結果が変われば誰も苦労しない』 体の上に落ちた。 「デギャアアアアアアアアアアアアアアアァァァアアァァァアアァァァアアァァアアァアアァァアアァアァ」 炎はあっと言う間に実装石の全身に回った。 「デギッ!!デギィッ!!ギャアァ!!」 転げ回って火を消そうとする実装石。 タダでさえ燃えやすい実装服に灯油が染みたそれは、一瞬火が消えたと思っても直ぐに他から火が移って来る。 「デギャアアアアアアアアアアアアアアアァァァアアァァァアアァァァアアァァアアァアアァァアアァアァ」 服を焼き尽くした炎はその下の皮膚を焦がして行く。 「デギヒッ!!デヒイイイィィィ!!」 聞き苦しいまでの悲鳴を上げて転げ回る実装石。 そしてその炎は皮脂が染み込んだ不潔な髪へと燃え移りさらに大きな炎となる。 こうなっては多少転がった程度で火が消える事は無い。 このまま放置すれば『薪』に例えられるほどに良く燃える皮下脂肪に引火し、それほど時間をかける事無く実装石は炭になる。 そこに 【バシャァッ】 火が消された。家主がバケツで水をかけたのだ。 「…デ…………デヒイッ」 実装石は一命を取り留めた物の、その姿は凄まじい物であった。 宝で有るはずの『服』も『髪』も完全に失い。全身は焼け爛れ、燃え残った皮膚が体中に焦げとなって残っている。 「ヒィッ…ヒイィッ」 想像を超える事態にパニックに陥る実装石をさらに激痛が襲う。 【バシイッ】 「ゲヒイイイイィッ!!?!?」 突然家主がその背中を鞭で打った。 【バシイッ】「デヒイッ!!」【バシイッ】「ギャヒイッ!!」【バシイッ】「デガッ!!」【バシイッ】 【バシイッ】【バシイッ】【バシイッ】【バシイッ】【バシイッ】【バシイッ】 実装石が声も出さずにその場に蹲ったのを見て、家主はその鞭を止めた。 「デエエエエエ————ン…」 蹲ったままわざとらしい泣声を上げる実装石。 「デェック!!デェック!!」 ヒックヒックとしゃくりあげながらチラチラと様子を伺うその目を家主は見逃さない。 【バシイッ】【バシイッ】【バシイッ】【バシイッ】【バシイッ】【バシイッ】【バシイッ】【バシイッ】【バシイッ】 「デギャアアアアアアアアアアァァァアアあぁあぁあぁぁアアアァァァ————————————……………」 【バシイッ】【バシイッ】【バシイッ】【バシイッ】【バシイッ】【バシイッ】【バシイッ】【バシイッ】【バシイッ】 これはこの地方に古くから伝わる風習『糞除け』である。 この風習の起源を語るには、まずこの地方に伝わる昔話をせねばならない。 歴史上この地方を治めていた藩は2つある。最初この地方を統治していた藩は江戸時代にある事情で取り潰しとなり、 次の藩へとその統治者を代える事になるのだが。その間には約50年の空白期間が有る。 ある時この集落に突然実装石が現れた。『採取民』としての性格を持つ実装石は当然の如く人間の作物に手を伸ばした。 山の産物とは比べ物にならないほどの田畑の恵みに『寄生』して、実装石はその数を急激に増やした。 その被害は止まる事を知らず。人家に侵入してその蓄えを食い荒らし、さらには眠っていた赤ん坊までがその餌食となった。 事態を重く見た時の藩主は兵を挙げて実装石を駆除しようとしたがそれにも限界が有る。 そこで学者が一計を案じ、『毒』を使用して実装石を駆除する運びとなった。 学者が古今東西の毒物,劇物を混ぜ合わせて作り上げたその『猛毒』を飲んだ実装石は三日三晩悶え苦み抜いた後に死んだと伝えられる。 その『猛毒』を少しでも長く実装石の体内に留め置くための策として、腹持ちの良い『餅』の中に入れて実装石に与える事となった。 藩を埋め尽くすほどの実装石を駆除するためには、膨大な『毒』と『餅』が必要となり、 そのために藩の『金蔵』も『穀倉』も底をついたが、背に腹は代えられない。実装石を駆除しなければ、人間が全滅するより他無いのだ。 藩の各所にばら撒かれた『餅』を実装石達は大喜びで貪り食い、次々と毒に倒れて行った。 「ヘッ、ざまぁ見ろ。」 悶え苦しむ実装石を踏みつけて領民は勝鬨を上げた。 そこまでは計算どおりだった。 人々が異常事態に気が付いたのはその翌日の事で有った。 「てぇへんだ!!井戸が!!井戸が!!」 全ての村の井戸は水を求めて苦し紛れに飛び込んだ実装石で埋め尽くされていた。 毒によって強烈な『渇き』を覚えた実装石達が『水源』に殺到したのだ。 「名主様ァッ!!川を見て下せエッ!!」 緑色に染まる川を見て驚いた村人は急いで上流の溜池へ向かった。 そこに居たのは池の縁を埋め尽くし、水を飲みながら大量の『下痢糞』を垂れる無数の実装石達で有った。 実装石達はその本能から、大量の水で毒を希釈しようとしていたのだった。 この光景はさらに上流まで続き、藩の最大の水源である『穂間湖(ほかんこ)』までが汚染されている事を知った領主はその場に がっくりと膝をついた。 後で分かった事だが、さらにその『猛毒』の中に含まれていた『水銀』が土壌,水源の重金属汚染を引き起こし、結果この地方だけでなく、 流域全体が不毛の荒野となった。 この騒動の責任を取らされ藩は取り潰し、藩主は磔刑に処された。 武士の身分、それも大名が武士としての最後を許されず磔刑に処された点からも、この騒動の大きさが伺える。 結果この地域に人は住めなくなり、寄生する対象を失った実装石もその数が激減した。 新たな寄生先を求めてさらに周辺へと移動する実装石達は隣の藩へと移動した。 先の騒動を知っていた藩主は国境で侵入を阻止しようとしたが。相手は動物、国境封鎖にも限界がある。 (これも後で分かった事だが実装石は他の動物と違って『歩きやすい』との理由から街道を好んで移動するため、 街道を封鎖すれば6割は侵入を阻止できたらしい。) そして国境近くのある村落に実装石が迫った時にそれは起こった。 「デプププププ……」 ——タベモノがイッパイ有るデスゥ…♪ 畑の豊かな実りを前に涎を垂らす実装石…ところが 「デガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」 「デヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!」 「デギャッ!!デギャッ!!デギャッ!!デギャッ!!デギャッ!!デギャッ!!デギャッ!!デギャッ!!」 「デ??」 その耳に飛び込んで来たのは同属達の悲鳴であった。 一匹や二匹ではない。実装石が村全体を見渡すと、各家の庭先に杭が打たれ、そこに同属が結わえられている。 「デグウウウウウ……」 「デェ……」 どの実装石も酷く怪我を負っていて歩く事も侭ならない。するとそこへ1人の村人が通りかかった。 村人は実装石を見るや否や手に持った棒で一撃を食らわせた。 「デギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……ッ」 のた打ち回る実装石。 ここだけではない、村のあちこちで同様の光景が繰り広げられている。 「ブンギイイイイいいイイイイィィイイィィイイィイィイイイイイイイイいいいぃぃイイイィィッッ!!」 村人皆が通りすがりに各家庭の実装石に一撃を加え、その度に叫び声が響き渡る。 大人がそうなら子供も子供で、 「テチイイイイイイイッッ」 「テシャアアアアアアアアアアッッ」 それぞれが首に紐をつけられ、切り株の上で闘わされる禿裸の2匹の仔実装。 『仔実装相撲』だ 「それ、負けんじゃねぇぞ!!」 「やれ!!ぶっ殺せ!!」 「テチイイイイイイイイイイイイイイッ」 「チュワッ!!」 両の目から血涙を流しながら殺し合う二匹。 見れば近くに1匹の禿裸にされた成体実装が居る。 「オロロオオオオ—————ン…オォロロオオオオ—————ン…」 ガキ大将格の男児に下半身を踏みつけられたまま、殺し合う我が仔を見て絶望の叫びを上げる母実装。 そう、切り株の上の仔実装はこの実装石の娘達、切り株の下には闘いに負けた姉妹達の死骸が転がっている。 「テヂイッ!!」 「テチャァア」 勝負が付いた、決まり手は押し出し、負け仔実装は切り株から転落した。 「テェェ…ン」 落下の衝撃で潰れかけた下半身を引きずって泣きながら母の元に這いずる仔実装、ところが… 「ほれ、負け蟲!!逃げんな。」 男児は仔実装を捕まえるとそのまま思い切り仔実装の頭を切り株にぶつけて止めを刺すと、生き残りの最後の1匹を捕まえた。 「ほれ!!歩け!!」 母実装の首にかけた縄を引き、仔実装と供に無理矢理に歩かせる。 「オロロオオオオ—————ン…」 「テエエエエエエエ——————ン…」 傷だらけの親仔を引き歩く男児に大人達はねぎらいの声をかけた。 隣国での騒動が届いているため、誰も実装石に甘い顔はしない。 実装石の捕獲は、遊びを兼ねた子供たちの『仕事』なのだ。 そして… 「おっかァ!獲って来たぞぉ。」 母実装を庭に打たれた杭にしっかりと結びつけ、用意されていた木の棒で念入りに下半身を打ち据える。 「デアアアアアアアアアァァァァァ……」 下半身の骨を完全に粉砕され、立つ事も出来ない母実装は叩かれる度に叫び声を上げる。 仔実装も母と同じ杭に繋がれた、生き残りは次の『仔実装相撲』までは生かされる決まりだ。 動く事も侭ならない親仔の元へ再び男児がやってきた。 「デシャアアアアアアアアアアッ」 動けない下半身のまま、我が仔を後ろに隠して威嚇する母実装、ところが。 「ほれ、エサだぞ」 そう言って男児は藁の束を実装石の前に置いた。 「デ!デスゥ!」 『エサ』という言葉に反応した母実装が藁の束を掻き分ける… 「デ?…デ?…デシャッ!!」 ところが藁の中には何も入っていない。抗議しようと頭を上げた母実装を男児が殴りつける。 【バシィッ】「何してる!!?」【バシィッ】「『それ』がァ!!」【バシィッ】「オマエのォッ!!」【バシィッ】「エサだァ!!」 ひとしきり殴りつけると男児は家に戻って行った。 『もそ』 母実装は藁を口に入れて咀嚼した。 「デェ…」「テチュ…」 味のしない乾いた藁を噛み締めながら、仔実装にも食べるように促す。 「…チィ…」 どうやら固くて噛み切れないらしい。母実装は仕方無く自分が咀嚼したものを口移しで仔実装に与えた。 「ムグ……!!プヒェッ…ペッペッペッ…チイイイイイイィィィィィィ…」 味もそっけもなく口の中がチクチクする。こんなのはタベモノじゃない。 母が口移しで与えてくれた物を、母に吹き返した仔実装。 「ヂイイイイッ!!……テチュッ♪」 空腹に耐えかねた仔実装はある事を思いついて、母親の体に張りついた。 乳をねだろうと言うのだ、しかしいくら乳首に吸い付いても乳は出ない。 離乳してから暫く経っている上に、母親自身も栄養状態が良かった訳ではない。 それどころか。 「デシャアアアアアアッ!!」 生え揃った歯で思い切り乳首に噛み付かれた母実装はその痛みに腹を立てて仔実装を払いのけた。 「ヂュベッ」 跳ね飛ばされた仔実装はそのまま動かなくなった。 「デ?…デ…?」 物言わぬ我が仔に驚いた母実装は慌てて仔実装の元まで這いずって行く。 「…デ…デ…デ…!!」 払いのけられた衝撃で首を折られた仔実装は既に息絶えていた。 「オロロオオオオ—————ン…オォロロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ—————ン…」 真白な両目を見開いて苦悶の表情のまま凍りついた我が仔を抱えて絶望の叫びを上げる母実装。 しかし彼女の地獄は終わらない。 この『見せしめ』が『糞除け』の始まりである。 この『見せしめ』の効果を確認した人間達は、少しずつ実装石を追い詰めて行った。 その過程で、人に依存する事を止め、人の立ち入らない山奥へと活路を見出した物が現れた。 それが後に『山実装』と呼ばれる様になった。 『渡り実装』の様な特殊な例を除いて、『山実装』が人間との接触を極端に避けるのはこの様な歴史に起因する物であると考えられるし、 また『渡り実装』が人間に『手土産』を持参し、さらに軒先を借りながらも相互不干渉を貫くのも、 「ニンゲンがタダで頼みを聞いてくれる訳が無いデス」 という人間に対する『恐れ』に起因していると分析する者も居る。 そして、雨が湖の汚染を洗い流し、『客土』によって農地を蘇らせ、新しい『藩主』を迎え、『藩』が元の姿を取り戻すまでには、 莫大な費用と時間,そして人員を必要とした。 この様な歴史からこの地方の人々は実装石に対して良い印象を持っていない。 『糞除け』の様な一見野蛮な風習が生き残っているのも、この歴史に由来する。 『秋祭り』で行われる実装石の姿を摸した提灯を神社に集め、積み上げて火を放つ『糞焼き』も、 つい20年前までは『本物』を使用して行われていたのだ。 再び話は現代へと戻る。 「ほれ、エサだぞ。」 家主が『糞除け』に藁の束を放り投げた。 「デ!デスッ!」 『エサ』という言葉に反応して藁の束を掻き分ける『糞除け』… 「デ?…デ?…デシャアァッ!!」 当然藁の中には何も入っていない。抗議しようと頭を上げた『糞除け』を家主が殴りつける。 【バシィッ】「何してる!!?」【バシィッ】「『それ』がァ!!」【バシィッ】「オマエのォッ!!」【バシィッ】「エサだァ!!」 「オロロオオオオ—————ン…オォロロオオオオ—————ン…」 惨めさと絶望に泣き叫ぶ『糞除け』 「オロロオォオオオ—————ン…オォロロオォオオオ—————ン…」 「オォロロオオオオ—————ン…オォロォロオオオオ—————ン…」 「オロロオオオオオオオオオオ—————ン…オォロロオオオオ—————ン…」 「オロロオオオオ—————ン…オォロロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ—————ン…」 彼女だけでは無い。この地域には無数の『糞除け』が現役として活躍している。 「オロロオォオオオ—————ン…オォロロオォオオオ—————ン…」 「オォロロオオオオ—————ン…オォロォロオオオオ—————ン…」 「オロロオオオオオオオオオオ—————ン…オォロロオオオオ—————ン…」 「オロロオオオオ—————ン…オォロロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ—————ン…」 夜中まで響き渡るこの叫び声も、もはや風物詩であり、文句を言う者はいない。 そして12月 前の晩から降り始めた雪は朝には吹雪となり、糞除けの顔を殴り付けた。 「オロロオォオオオ—————ン…オォロロオォオオオ—————ン…」 糞除けはもう何日も餌を与えられて居なかった。 「オロロオォオオオ—————ン…オォロロオォオオオ—————ン…」 稲刈りも終わり、干柿も片付けられ、野良実装石が狙える様な物は無い。 何よりこの豪雪地帯では、冬に出歩ける実装石など居はしない。 「オォロロオオオオ—————ン…オォロォロオオオオ—————ン…」 つまり、『糞除け』は… 「オロロオオオオオオオオオオ—————ン…オォロロオオオオ—————ン…」 用済みとなったのだ ここ数日、『糞除け』は水飲み皿に溜まった雪解け水を飲んで命を繋いでいた。 「……」 今朝も皿の水が凍り付いている。初めての時は驚いたが、舌を押し付けていればその内に氷が解けて水を飲む事が出来る。 そう思ってその朝も氷に舌を押し付けていた。 「?」 違和感を感じて皿を見てみると、皿の上に何やら『肉片』の様な物が載っている。 「デデ…」 それは、凍傷により壊死した自分の舌だったのだが舌の感覚を失っていた『糞除け』にはそれが分からなかった。 何にせよ久しぶりの形の有る食べ物だ…。『糞除け』はそれを口に入れて咀嚼した。 味は無い…当たり前だ、味覚を感じる舌はもう存在しない。自分でそれを食べてしまったのだ。 「オオホオオオオオオオオ—————ン…オォホオオオオ—————ン…」 再び『糞除け』は叫び始めた。 舌を失ったせいで思った様に叫べないがそんな事は気にならなかった。 「オオホオオオオオオオオ—————ン…オォホオオオオ—————ン…」 幸福回路によってもたらされた『もしかしたら家に入れて貰えるかも知れない』という甘い期待は 何時の間にか『これだけやったんだから家の中に入れて貰えるはずだ』という根拠のない確信へと、その姿を変えていた。 「オホォホオオオオ—————ン…オォホホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ—————ン…」 『糞除け』の叫びは吹雪に呑まれ…そして聞こえなくなっていった。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------ 毎度駄文にお付き合い頂き有難う御座います。 感想を下さる皆様、有難う御座います。 過去スク 託児?①②③番外編 早朝 夏の蛆実装 遊びの時間は終わらない 前,中,後編 飼育用親指実装石 死神絵師 破滅の足音 あんしんママ 命拾い 実装石のクリスマスイブ(執筆中) 仔実装相撲は『日常』様のスク『夏休み』からお借りしました。有難うございます。

| 1 Re: Name:匿名石 2016/11/05-22:31:38 No:00002696[申告] |
| ただ害獣を駆除して国を護ろうとしたら領土壊滅、藩主磔って酷すぎる
糞蟲処すべし、慈悲はない |