承前 男が仔実装一匹を残し、実装一家を皆殺しにした。 仔実装は男の手で精神をいたぶられ続けた。 男は仔実装に自分が同族殺しであるという意識を与えた。 * 「テェ・・・?」 仔実装が興味深そうに内装を眺めていた。 「仔実装、こっちへ来い」 「テェ・・・」 「お前、自分の偽石がどこにあるか知っているか?」 「テエェ!!」 かぶりを振る。 「そうか・・・それは残念だ」 カッターナイフを取り出し、まずは腕に当てる。仔実装の叫び声が響く。無い。次に足に当てる。無い。胸に当てる。無い。 「・・・頭か」 「テェ・・・テェェェェェェェェェェ・・・チャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 偽石を取り出し、栄養剤に漬ける。偽石は半ば黒ずんでいた。 リンガルのスイッチを入れる。 「元気かい?」 「痛いテチ・・・辛いテチ・・・石を返してテチ・・・」 「ああそう。どこが痛い」 「おててが痛いテチ・・・あんよが痛いテチ・・・おむねが痛いテチ・・・おつむが痛いテチ・・・」 「それはお気の毒に。で、なにが辛い」 「同族を殺したことが辛いテチ・・・」 「そうかいそうかい。それはよかった。あとな、石は返さないからな」 「テェ・・・ェ?」 「代わりにというわけではないが、いい物をやろう。名前だ」 「テ?!」 仔実装の顔が輝く。 「まあ、とりあえず元気になったらな」 一晩もすると偽石は輝きを取り戻していた。 「お前の名前は・・・」 「テッチューーーーーン」 「・・・っていうか、そんなに名前が欲しいのかよ?」 「テ、テエッ、テエ!テェェッ!!!!」 「ちょっと待ってな・・・リンガル使うから」 画面には、「名前を下さいテチ!!それでやっとワタチがワタチになるテチ!!!!」と表示されていた。 「今までもお前はお前だったんじゃないのか?」 「違いますテチ。今までワタチはあくまで“仔実装”だったですテチ」 「それでいいんじゃないのか」 「“仔実装”はワタチ自身の名前ではないですテチ。ワタチの名前が欲しいですテチ」 「そこまで言うなら自分でつければ良かったろうに」 「違いますテチ。それは自分で名乗っているだけテチ」 「はあ?」 「名づけてもらうということは認めてもらうということテチ。ワタチがワタチだと認めてもらうことテチ!」 「つまり俺がお前を認めるということか」 「そうですテチ!」 「・・・家族を皆殺しにした俺に認められて嬉しいか?」 「・・・独りよりはまだましテチ・・・」 パンが焼けていた。 「で、お前の名前だが」 「テッチューン」 「カルマ、だ」 「テチュテチュ!!!!」 「意味は“業”。分かるか?」 「分からないですテチューン」 「今まで殺してきた同族の罪を背負う者、って意味だよ」 「テ?・・・テエ・・・?」 「同族殺し」 「テ・・・テェェェェェェェェェェェェン!!!!!!!!!!!!!」 カルマは泣き止まない。 「さ、カルマ、出発するぞ」 「テ?」 「虐殺にだ」 「テェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!」 線路を越える。実装親仔が歩いている。 「カルマ、これを手渡してこい」 「コロリテチ・・・?」 「そうだ。うまくいって皆殺しにしてこい」 親仔はコロリを分け合い、そして死に絶えた。 公園に着く。今日は実装愛協会の炊き出しの日であるらしく、数人が慌しく準備していた。その周りには多くの野良実装が群がっている。 十メートルほど離れたベンチに腰掛ける。 「カルマ、これを撒け」 「テェ・・・」 野良実装が寄ってくる。 「カルマ、お前も食べな。ただの金平糖だ」 「テチ!」 野良実装の数が増える。 「デズァ!!」「デシャアアアアア!!!!」「テギャアアアア!!!!」「デアアアアアア!!!!」 数少ない金平糖を巡って血みどろの争いになる。 女が近づいてくる。 「あら、あなたも愛護派の方なんですか?」 「いえ、うちの飼い実装にやるついでですよ」 「それが愛護の第一歩なんです!素晴らしいですわ」 野良実装のほうを見やる。争いは既に目的を失していた。 「・・・みんな必死に生きようとしているのよ」 「殺し合いにも見えますがねえ」 「ううん、違うの。これは飢えているからなのよ」 「確かに、飢えているのは間違いありませんね」 「そうなのよ!この飢えを解決するために、私達はこうして炊き出しをしているの」 「そうなんですか」 女の顔を見る。悦びに満ちた表情。 「どれくらいの頻度なんですか?」 「ひと月に一度。私たちも忙しいのよ」 「テチ!テチテチ!!」 カルマが何か叫んでいる。 「あらあ、可愛いわね。お名前は?」 「・・・まだ、付けていないんですよ」 「私たちが付けてあげましょうか」 「いいえ、自分の飼い実装ですから、名前は自分でつけますよ」 「そうね、それがいいわ」 女は微笑み、そして名を呼ばれて去っていった。 携帯のリンガルモードを起動する。 「なあカルマ、お前が言いたかったのは“焼け石に水”か?」 「そうテチ!ひと月に一度の炊き出しなんて、何の役にも立たないテチ!!」 「それをあの人に言っても、それこそ“焼け石に水”だよ」 「どうしてテチ!言えばもっと良くなるはずテチ!!」 「・・・なあカルマ、殺し合いに変わった金平糖の奪い合いを見て、あの人はなんと言った?」 「殺し合いじゃないと言ったテチ・・・」 カルマはそれきり押し黙った。野良実装は同族食いに熱中していた。 炊き出しが始まる。 「カルマ、俺たちも手伝いに行こう」 「テチ!」 遅効性実装コロリを一袋配り尽くす。 「それじゃ、私は用事がありますので」 「ありがとう。協会の連絡先はここだから。よろしくね」 公園を出る。 「お疲れカルマ」 「テチ!」 「分かってたと思うが、あれは実装コロリだぞ。百五十はあった」 「テェ・・・」 「分かっていたんだな」 「テチ・・・」 「それなのに今日のお前はいかにも楽しそうだった」 「テ・・・」 「殺すのを楽しんだわけだ」 「テェェ!テェェ!」 「事実だろう?」 「テェ・・・」 「もうしばらくしたら皆死んでしまうだろうなあ」 「テエェェェェェ・・・・・・・・・」 「ひどい奴め。やっぱりカルマの名を付けてよかったよ」 家に帰るまで、カルマはずっと押し黙ったままだった。 ================================================= 仔実装に名前付けました。
