「悲しみのチュワワ 3」
『ケイコもチュワワちゃん見たいなぁ』
馴れ馴れしく近づいて来たケイコに、健太はどこか嫌な空気を感じ取った。
『悪いけど・・見ず知らずの君を、家に連れて行くわけにはいかないよ』
それでも健太の性格が大人しい事を見透かしたケイコは、腕にしがみついたまま甘えた声を出す。
『それじゃぁ私と友達でもいいから、お付き合いしませんかぁ』
健太の心臓が高鳴り、唾をごくりと飲み込んだ。
ケイコと名乗る女は健太がこれまで見てきたどの女性よりも美しかった。
すらりと伸びた足、くびれた腰、形のいいバスト、整った顔立ちや濡れた唇、腰まである長い髪。
男ならばそんな女に言い寄られて断れる訳も無い、気の弱い健太ならばなお更だった。
ドギマギしている健太の腕を引き摺るようにケイコは実装ショップを出て行く。
そしてそのまま健太を近くのラブホテルまで連れて行ってしまった。
女の正体は通称「ストーンクラッシュケイ」虐待師の間では知らない人間がいない位有名な女虐待師だった。
自分のブログに今まで壊してきた偽石を展示して、その詳細の一部始終を書き込むほどの虐待マニアだ。
残忍かつ執拗な虐待はプロの虐待師も舌を巻くほどだ。
特徴は精神的虐待を中心に、最終的には実装石自身の約束で納得させて虐待をする。
単純な暴力的虐待を嫌い、徹底的に追い詰めて苦しむ顔を眺める事に快感を見いだしている。
一度狙われたらどんな賢い実装石でもケイコの術中に嵌ってしまう。
ケイコは実装石の苦痛に歪む顔を見ているだけで、この世の幸せ全てと引き換えにしてもいいと断言して見せたりもした。
そして狙われた実装石を自分の物にする為には、どんな事でもやってのけてしまう。
興味の欠片も無い健太に自分の体を差し出す事など、ケイコにとっては料理の香辛料程度でしかない。
チュワワと鳴く珍しい実装石はケイコの虐待魂に火をつけてしまった。
ケイコと別れ家路につく健太の心はここにあらずと言った風だった。
健太が帰った事を知ったチュワワは、痛む体をおして玄関で出迎えた。
チョコンと正座をして丸まり、健太に「お帰りテチュご主人様」と言った。
健太は『あ?ああ』とそっけない返事をしただけで気にする様子もない。
スタスタと玄関を通り自室へ入っていく、そんな健太を見てチュワワは少し悲しくなってしまう。
自分は偽石を取り出す為にあんなに頑張ったのに、体が痛いのに健太を出迎えたのに。
少し位は優しい言葉をかけて貰いたい。
健太の部屋の扉を見上げ、すぐにこの扉が開いて健太が出てくるかもと思っていた。
いつまでたっても扉が開く様子はない、それでもチュワワは健太が扉を開くのを待った。
扉が開いたのは一時間ほどして、健太がトイレに出てきた時だった。
「見てテチュ、見てテチュ、チュワワの傷もうすぐ治るテチュ」
スカートを巻くり上げ傷口を見せるチュワワに健太は気付かない。
「チュワッ!チュワッ!チュワァァァァァ!!」
チュワワが叫ぶとやっと健太が気が付いた。
『あれチュワワ?パンツ見せて何してんだよ、風邪引くから早く寝なさい』
トイレのドアがバタンと閉まりチュワワは「チュゥ・・」っと言ったっきりとぼとぼと自分の寝床へ向かった。
△
健太あれからはケイコと恋人として付き合いだした。
惚れてしまった弱みか健太はケイコの願いなら、なんでも叶えたいと思うようになる。
ケイコは健太の前では自分の本性を隠し、わざとらしく純粋な性格を装った。
そして少しづつ確実に健太を虜にしていく、いまや健太はケイコの言う事ならなんでも聞く便利な男だった。
ケイコは健太に家に行ってみたいとおねだりをする、標的のチュワワに会いに行く為だ。
健太にすれば将来の事を考え、母親へ紹介に行くつもりだった。
ケイコにしてみればそれすら鼻で笑うほど馬鹿らしい話で、
出来れば健太もろとも不幸のどん底に叩き落してやろうと思っている。
『始めましてお母様、橘圭子です』
健太の母親は息子が女性を連れて来ると聞いて、健太も一人前の男になったんだなと感じた。
そして目の前のケイコはとても美しく、健太には勿体無い位だと思った。
ケイコは心の中で(ふん!婆あが、こっちはおまえらなんぞに興味ないんだよ)と、蔑んだ。
チュワワといえばケイコの後ろで、障子の隙間からじっと様子を伺っていた。
「きれいなニンゲンさんテチュ、きっとご主人様のメステチュ」
健太に対し主人と言う意識以外に、チュワワはほのかな恋心が芽生えていた。
ただまだ仔実装の好きは恋愛のそれとは違い、幼稚な夢物語に近い。
健太が自分の事を『好きだよ』と、言ってる夢を寝る前に見る程度である
「チュチュッ」
『あら』
ケイコがチュワワに気付く、可愛くチュッチュとさえずる声がケイコの体をゾクゾクとさせる。
(何?なによこの仔実装、可愛すぎるわ、あぁぁ今すぐにでも滅茶苦茶にしてあげたい)
健太もチュワワに気付くと『こっちへおいでチュワワ』と、手招きをした。
チュワワは健太の元へ走っていく、その際もチュワチュワとさえずりをさせながら。
(本当だわ、チュワチュワ鳴いてる、欲しい・・・この仔実装絶対に欲しい)
『この仔がチュワワだよ、可愛いだろ』
ケイコは『こんにちはチュワワちゃん』と、優しく微笑む。
「チュワ?」
あわてて健太の後ろに隠れるとそうっとケイコを見た。
その仕草さえケイコの虐待心を燃え上がらせるほど可愛く映る。
一瞬だが口元が卑しく曲がってしまう。
生まれた時から苛められて育ってきたチュワワは、ケイコが危険なニンゲンである事に気づいた。
顔を見てピンと来たのか、虐待派が特別に発するオーラを敏感に感じ取っていた。
健太の後ろでぶるぶると震え、ケイコをとても怖がった。
程なくすると母親は台所に行ってしまう。
『ごめん、ちょとトイレに行ってくるよ』
部屋を出ようとする健太をチュワワは慌てて追いかけた。
このニンゲンと二人っきりになるのは危ない、弱者が持っているセンサーにビンビンと反応した。
『チュワワはケイコの相手をしておいてくれ、それじゃ』
扉が閉められ部屋にはチュワワとケイコだけとなった。
脂汗を流しチュワワは部屋の隅でケイコを見ている。
静かにチュワワを見るケイコが不気味で仕方がなかった。
『うふふ・・・くくく』
ケイコが不気味な笑い声を上げる。
「チュワッ!」
チュワワは扉まで走って必死にペシペシと扉を叩く。
『やっと会えたわねチュワワちゃ〜ん♪』
静かに立ち上がるとチュワワの近くにやってくる。
「チュワ!チュワ!」
チュワワは更に扉をペシペシと叩いたが、全く反応はなかった。
ピシッ!
ケイコはチュワワの後頭部へデコピンを食らわせた。
「ヂュゥゥッ!!」
後頭部を押さえうずくまると、ケイコの方へ振り返る。
ケイコは既にリンガルを取り出して準備万端だ。
『安心しなさいチュワワ、今日は痛い事を見逃してあげる』
『痣でも出来たら厄介だしね』
チュワワはガチガチと歯を合わせ、恐怖に凍り付いた。
『あんたさぁ、健太に惚れてるでしょう?』
「チュチュッ!」
いきなりの言葉にチュワワは顔を真っ赤にしてしまう。
『やっぱりねぇ、くくくく・・あんた自分の姿を鏡で見た事あるの』
そう言うとケイコは髪をかき上げ、姿見鏡の前で腰をくねらせて見せる。
『ほら、あんたも同じポーズをやってごらん』
「い、いやテチュ・・チュワワの事はほっておいてテチュ」
ケイコは語気を強めチュワワに命令口調で話す。
『やれって言ってるのよ、あんた殺されたいの!』
ケイコが怖いチュワワは恐る恐るケイコの横で同じポーズをした。
『見てごらん、あなたは実装石なのよ、どう私ってきれいでしょう』
『それに比べてあなたの姿なんて太った肉団子と一緒、人間様に恋するなんて笑っちゃうわぁ』
「チュワァァ・・」
ケイコの言う通りだった、チュワワは自分の姿とケイコの姿を見て、その違いを実感する。
『でも心配しないで良いわよ、私ねぇ健太なんかなーんとも思ってないから』
「チュワッ!」
「どういう意味テチュ、ケイコさんはご主人様のメステチュ」
『メスゥ・・?まぁ良いわ、よおくお聞きなさいチュワワ』
『私はねぇ健太の事を騙して金を奪い取るつもりよ』
『それとあのばばぁ・・善良そうな顔がむかつくのよね』
チュワワにはケイコが何を話しているのか分からなかった。
ただ健太や健太の母親に何かよからぬ事を考えている、それだけは理解できた。
『そうねぇ・・事故を装ってあのばばぁには痛い目にあって貰おうかしら』
「オマエーー!!何言ってるテチュかぁぁ!」
「そんな事させないテチュゥゥゥゥ!!」
大好きな母親が痛い目にあう、その言葉を聞いてチュワワは怒りだした。
そんなチュワワをケイコは軽く蹴っ飛ばす。
「チョベェ!」倒れこむチュワワを見下ろし「クスクス♪」といやらしく笑った。
廊下から健太の足音が近づいてくる、ケイコは何事も無かったかのように元の位置に静かに座った。
扉が開き健太が入って来るとチュワチュワ!!と必死に何かを訴えている。
『なんだいチュワワ』
健太はリンガルのスイッチを入れた。
「このメス悪魔テチュ!ご主人様早く追い出すテチュ」
「ママさん痛めつけるって言ってたテチュ、ご主人様だますって言ってたテチュ!」
『おいおいいきなり何を言い出すんだ、リンガルが壊れているのか?」
「違うテチュ、違うテチュ、ご主人様はコイツにだまされてるんテチュ」
『いい加減にしないかチュワワッ!!』
バシ!
健太はチュワワの頬を叩いた。
「チュ・・チュゥ・・」
「なんで・・なんでチュワワが・・チュワワ悪くないテチュ・・・悪いのアイツテチュ」
『まだ言ってるのかチュワワ!』
『悪い仔にはお仕置きが必要だな!!』
健太はチュワワを押さえつけると、顔といわず体といわず滅多打ちにした。
『ケイコがそんな事を言うわけ無いだろ!この!』
バシッ!
「ほんとテチュ!チュワワ嘘いってないテチュ!」
『まだ言うか!この!』
「チュバァァァ!」
バチンバチンと叩く音とチュワワの短い悲鳴が交互に響く。
次第にチュワワの顔が紫色にはれ上がっていく。
「やめてテチュ!!わかったテチュ!チュワワ反省したテチュゥー!」
『やめて健太さん!』
チュワワへのお仕置きをケイコが止めた。
健太の腕にしがみつくと、チュワワの前で両手を広げた。
『ケイコ・・・』
『これ以上見ていられないわ、これじゃ虐待よ』
『かわいそうなチュワワ・・』
健太に背中を向け大事そうにチュワワを両手で救い上げた。
そして健太に聞こえるか聞こえないくらい小さな声で語りかける。
『分かった?これが現実なのよ、あなたが幾らわめいても誰の耳にも届かない』
『私は人間であなたは実装石、健太はどっちを信じると思う・・クスクス』
チュワワはわなわなと震えケイコを睨みつける。
いきなり現れて自分の存在を巧妙に貶める、コイツは一体何なのだ。
今も主人に見せないような嫌味な笑い顔で自分を見ている。
『ケイコ、チュワワと何をひそひそやってるんだ』
振り返り健太にチュワワを見せるとケイコが答えた。
『チュワワちゃんはねぇ、健太さんが好きで好きで堪らないんですって』
『それで私に嫉妬してるんだって、ウフ可愛い』
チュワワの顔が真っ赤になる、健太はそれを見て嫌な顔をする。
『バカ!チュワワは実装石だぞ、ペットと家族の差をわきまえなさい』
「そんな・・チィィ・・」
ケイコに隠していた恥部を暴かれた様な気がして恥ずかしい気持ちで一杯だった。
殴られて頬が腫れ痛い筈なのに、健太の言葉の方が何倍も痛かった。
△
あれからケイコは健太の家に度々やってくるようになる。
チュワワの前で健太にかいがいしく振る舞い、見せ付けるように甘えた。
健太の前ではチュワワに優しく、いない時には健太や母親の悪口を言う。
決まってチュワワはケイコに怒りをぶつけるが、健太はそれを咎め決して信用しようとはしなかった。
そして必ずケイコはチュワワを庇うような行動に出る。
そんな事を繰り返していくと次第に健太の態度が冷たくなっていった。
ある日、その事件は起こった。
母親が階段から転落したのだ、廊下でウンチをしていたチュワワが階上にいるケイコを目撃する。
階段の一番上でケイコがニヤニヤとした顔をして下を伺っていた。
チュワワは大声を出して健太を呼んだ。
「チュワァァァァァァァッ!!」
「ご主人様!ママさんが・・ママさんがァァ!!」
大きな物音とチュワワの声で慌てて健太が駆けつけた。
見ると母親が階下でうずくまってピクリとも動かない。
『母さん!』
駆け寄って確認すると、息はあるが蒼白として息も荒い。
ケイコは階段を駆け足で下りてくると、『お、お母様!』と、心配する振りをした。
健太は電話で救急車を呼ぶ間も、チュワワは母親の回りを心配の余り「チュッチュァー!」と走り回る。
『いま救急車が来るから』
健太が母親の元へ戻ると、チュワワはケイコを睨みつけた。
「コイツテチュ・・」
「コイツがやったんテチュ!」
健太の裾を引っ張りケイコを指差した。
『ば、ばかな、そんな事ありえる訳がない』
母親がこんな目にあっても信用しようとしない、チュワワの怒りは頂点に達する。
チュワワはケイコの足元に走り寄ると「コイチュメ!コイチュメ!」とケイコの足をペチペチと叩いた。
『やめないかチュワワ!』
健太の声も怒るチュワワには届かない、更に激しくペチペチと叩いた。
ケイコがポツリと漏らす。
『チュワワは私が嫌いなのよ』
『この家でチュワワと一緒に住むのは無理みたい』
『ケイコ、いきなり何を言ってるんだ』
するとケイコは涙をポロポロとこぼした。
『だって・・私はチュワワにとって恋敵だから、こんな状態で健太さんと一緒に住むなんて出来ない!』
ケイコは健太の家を出て行ってしまった。
チュワワは「もう二度と来るなテチュ!」とケイコの背中に叫んだ。
フンフン!と鼻を鳴らし勝ち誇ると健太を見上げた。
健太は悲しそうな顔でチュワワを見つめていた。
やがて救急車が到着して健太は母親と一緒に病院へ行く。
帰ってきた時はもう夜中だった。
母親の状態は左足関節脱臼骨折と診断され、全治に半年から一年は掛かると言われた。
死ぬような事はないが以外に重症で、完治後も歩ける様になるにはリハビリが必要とされた。
もしかして治っても普通に歩けるかどうか、年齢から判断は難しいらしい。
△
翌日健太はチュワワを呼ぶと『散歩へ行こうか』と聞く。
いきなり散歩と聞いてチュワワは、これはあの女をやっつけたご褒美に違いないと思った。
「行くテチュ、散歩行くテチュ♪」
最近健太はチュワワに冷たく、散歩所か遊んでもくれない。
きっとチュワワを見直してくれたんだと勘違いをしてしまう。
やってきたのはいつもの公園ではなく、なぜか遠く隣町の公園だった。
『ほら、遊んでおいで』
健太に促されチュワワはチュッチュと楽しそうに公園を駆けずり回る。
久しぶり味わう外の空気、まだ仔実装のチュワワは開放感で一杯だった。
そんなチュワワを見ている健太は心が重かった。
今日ここに訪れたのはチュワワを捨てに来たからだ。
ケイコと連絡を取った健太は、結婚というキーワードをちらつかされチュワワを捨てる約束をしてしまった。
ケイコを取るかチュワワを取るか、ケイコに惚れている健太には選択の余地すらなかった。
健太はそうっとチュワワに気づかれないよう、その場を後にする。
「チュー・・ご主人様どこ行ったテチュ?」
チュワワは健太がいなくなった事に気づく。
少し心配だったがトイレか何かだろうと、また駆け回ると砂場に行って遊んだ。
健太に自分が捨てられるなんて事は、その時点のチュワワには露とも思っていなかった。
暫く砂場で遊んだが健太が戻ってこない事が心配になってくる。
キョロキョロと辺りを見回したが、公園には人影すらなかった。
「なんでご主人様いないテチュゥ・・」
砂場から立ち上がると健太の座っていたベンチへ走って行く。
ベンチにも回りにも健太はいない、段々と不安がチュワワの脳裏をよぎって来る。
「チュワ!チュワ!」
公園中を探し回ったが、健太の姿はどこにもいない。
「ご主人様ー!どこテチュ!どこいったテチュゥ!」
汗だくになって公園の入り口でチュワワは叫ぶ。
ガサリ!
公園の方から音が聞こえた、チュワワは慌てて音のほうへ走って行った。
「きっとご主人様テチュ、チュワワを捜しているテチュ」
音はこの公園を棲家にしている成体の実装石だった。
実装石がチュワワに気付く。
「おまえ必死になって何してるデス」
チュワワは成体実装石の前で固まってしまう。
健太に拾って貰う前の自分の状況を思い出したからだ。
同属はチュワワにとって恐怖の対象でしかない。
生まれた時から非常食として運命付けされ、
母実装や姉実装から苛められ続け、良かったという事は一度として味あわせて貰っていない。
「チュ・・チュワワのご主人様がいなくなったんテチュ」
恐る恐る答えると「オマエは捨てられたんデス」あっさりと返事を返した。
「ち、違うテチュ、ご主人様がチュワワを捨てるはずないテチュ」
デプッ!小さく笑う実装石。
「ワタシはここで捨てられる同属をたくさん見てきたデス」
「捨てられた奴はみんなそう言うデス」
チュワワも何となく分かっていた、はっきりとした答えを貰っても信じない。
信じてしまえばその瞬間にチュワワの全てが崩壊する、信じる訳には行かなかった。
「おばちゃんには分からないテチュ」
「チュワワはご主人様から愛されていたテチュ」
「きっと今頃チュワワを捜してるテチュ」
笑っていた実装石の目が哀れむような目になった。
「オマエはニンゲンの事を知らな過ぎデス」
「ニンゲンから見れば実装石なんて、オモチャと一緒デス」
「飽きたらポイデス、オマエも飽きられてポイされたデス」
うんうんと頷いて自分に納得する成体実装。
チュワワはわなわなと体を震わせると成体実装に突っかかって行く。
「いい加減な事を言うなテチュ!」
チュワワはその場を逃げてしまった。
「チュワワのご主人様は違うテチュ!違うテチュ!」
「きっと心配してるテチュ、早くご主人様みつけるテチュ」
涙目で走るチュワワは目の前が霞んで見えなくなってしまう。
「チュワッ!?」
何かにぶつかるとチュワワは尻餅をついた。
見上げると健太がそこに立っていた。
全ての不安がかき消され、こらえていた涙が一気に流れ出す。
「チュワワーン、心配してテチュ」
「チュワワ捨てられたと思ったテチュ」
健太の表情は硬いままだ、しゃがみこむとチュワワを立たせ実装フードの箱を目の前に置いた。
「これはフードテチュ?」
「まだゴハンにははやいテチュ?」
少し間を置くと健太が喋りだす。
『これから僕の言う事を良く聞いておくんだ』
『大事な事だからね』
「チュー?」
『このフードは置いていくから、すぐに食べないで少しづつ食べるんだ』
『ベンチの後ろにダンボールが見えるだろ?』
健太が指差す先にダンボールがあった。
『ダンボールハウスには毛布と、この実装フードを置いておくから』
そう言うとチュワワを抱えてダンボールハウスに入れた。
ハウスは横を切り抜いて出入り口にしている、
チュワワはそこから顔を出し「チー」と不安そうに一声鳴いた。
『ごめんよチュワワ、僕とケイコの間にチュワワは邪魔になってしまったんだ』
『謝っても仕方がないよね、これからはチュワワだけで生きていくんだ』
『それじゃ行くから・・・さよならチュワワ』
立ち上がると健太はスタスタと歩き出した。
「チュワァァァァァァァァァア!!!」
慌ててチュワワは追いかける、完全に捨てられたのだ。
小石につまずき「チョベッ!」っと倒れた。
顔を上げると遥か遠くに健太の背中が見える。
チュワワは懸命に叫び声を上げ、健太を呼んだ。
「チュワワァァァァァア!!チュワワァァァァァン!!」
ご主人様はこの声を珍しいと言ってくれた、母親もチュワワと鳴く声が可愛いと言ってくれた。
この声が届けばきっとご主人様も戻って来てくれる、だが健太は振り向きもせずに去ってしまった。
「チュワワァァァ!!チュワァァァァァァァ!!」
健太が見えなくなっても公園にはチュワワの叫ぶ声がいつまでも聞こえていた。
△
『やっぱり捨てたわね、あの甘ちゃんにしては早い決断だったわ』
じっとトイレの影から様子を伺っていたのはケイコだった。
ケイコは健太の家を見張り、チュワワの捨てられる時を待っていた。
『ククク・・・それにしてもチュワワのあの顔ったらないわね』
『やっぱり仔実装はいじらしければいじらしいほど、拷問のし甲斐があるわ』
続く
