タイトル:【観察】 実装石の日常 ある冬の日に
ファイル:実装石の日常 28.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:25334 レス数:1
初投稿日時:2008/01/07-23:26:07修正日時:2008/01/07-23:26:07
←戻る↓レスへ飛ぶ

 実装石の日常 ある冬の日に



秋は足早に過ぎ去り季節はすでに冬。
人々は厚着をして、それでも寒そうに白い息を吐きながら歩いて行く。

道の隅で仔実装の姉妹2匹は人に踏まれないよう、よろめくように歩いていた。
どちらも服は汚れ擦り切れている。髪もホコリまみれ、典型的な野良実装の姿だ。

良くあることだが、姉妹の親や他の姉妹はダンボールとともに永遠に失われた。
珍しくも無いのでその話は省こう。
とにかく生き残った2匹は路頭に迷った。

最初は公園にやってくる愛護派の餌撒きでなんとか食いつないできたが、
しょせん仔実装、力ある者に押しのけられ立ち行かなくなってきた。

ゴミ捨て場は競争がさらに激しい上、人間に見つかれば問答無用で殺される。
2匹はゴミ捨て場で駆除される同族の光景に、泣きながら逃げ出した。

それからは空腹を抱えながら拾い食いの生活である。
公園の周辺をうろついて、落ちていれば例え腐った木の実でも食らいついた。
運よくガムが吐き捨てられていたら、2匹で舐め続けた。

疲れきった2匹は空が暗くなりだすと、諦めて家路に就く。

プラスチックの板を公園の木に立てかけて屋根まがいにした我が家に戻る。

今日も収穫は無かった。

しかし愚痴を口にする気力さえ、2匹は失っている。


湿った落ち葉の上に座り込む2匹。

「・・・・・・お姉ちゃん、なでてテチ」

かろうじてそれだけを言う妹を姉が撫でてやる。

安心と疲労から、妹はすぐ寝付いた。

妹の寝顔を見ながら、姉は少し前のことを思い出す。
まだ一家が健在だった頃を。




*************************************




「ママ! きれいなお花があったテチ!」

「あったテチ!」

幼い妹2匹が小さな花を見つけてダンボールに走ってくると、親も他の姉妹も笑顔で迎える。

「本当にきれいな花を見つけたデスー」

「お家の中で飾ればいいテチ」

「きれいなお花テチィー」



ペットボトルのフタを花瓶代わりにして、小さな花を生ける。
それを囲むようにして一家は食事を始めた。

「白くて美味しいご飯テチー」

「沢山噛むほど美味しいデス、ちゃんと噛むデスー」

「ママ、いつもゴハンありがとうテチー」

「ゴハンが終わったらお話を聞かせてあげるデスー」

食後は楽しいお話だ、姉妹そろってママの話に熱中する。



*************************************



気がつくと姉仔実装は涙を流していた。
親はいなくなり、姉妹のほとんどが路上のシミとなり、あるいはネコに切り裂かれた。
今もその時の姉妹の悲鳴が耳から離れない。

「テベッ」

「痛いテチ! 痛いテチャアアアアア!」

「テビャー!」



・・・・・・暖かいダンボールも無くなり、枯れ葉の山で眠り、雨に打たれては凍えた。
プラスチックの板を手にしたとき、2匹は驚喜したものだ。

家財道具と言えば腐りかかった紙コップが一つだけであるが、これが水瓶代わりに重宝していた。
親もタオルもペットボトルもおもちゃも何もない生活。
それでも生きねば、と痩せた妹の寝顔を見ながら思う姉だった。

その時である、あばら家の外で何かが動く気配があった。

まさかネコではないか、そうなら命に関わることになる。
一瞬背筋が凍る思いの姉実装、目を凝らして暗闇を見る。
姉が外を見るとやや大柄の仔実装が険しい目つきで見ていた。

「ここを出て行けテチャア! たった今からここは私のものテチャアア!」

服は擦り切れて埃まみれ、やつれた表情からやはり家族を失った個体だろう。
寒空の下、姉妹のあばら家を見つけたわけだ。
大声を上げながら立ち上がる姉。

「何をいうテチ! ここは私たちのお家テチ!」

「うるさいテチ! さっさと出て行けテチャアーーーーーーーーーーーーー!」

血走った目で睨みながら大声を発する仔実装。
妹も声に気づいて起き上がり、震えながら姉に背中にしがみ付く。

「ここは私たちのお家テチ!」

「出て行かないとぶっ殺すテチ!」

「・・・・・・お、お姉ちゃん・・・・・・」

現れた仔実装の気迫に怯える妹はもう涙を流している。
姉も怖い、怖いがここを出て行けば本当に行く場所が無いのだ。
虚勢を張って大声を張り上げる。

「私は強いテチャア! やっつけてやるテチャア!」

テシャアアアアアアアアアアアアア!

精一杯の威嚇の声を上げる姉仔実装!

大柄の仔実装は無言で駆け寄ると、腕を振り下ろす。

「テベッ」

姉仔実装は鼻血を流してうつ伏せに倒れ、襲い掛かった仔実装は無言でペチペチ殴り続ける。

「テ、テシャアアアアアアアア! テシャアアアアッ!」

執拗に殴り続けられて、鼻血を流しながらも、姉は威嚇をやめなかった。
しかし頼りない威嚇など無意味。
ひたすら殴られ、姉は息も絶え絶えだ。

「お姉ちゃんをいじめたらだめテチャアーーーーー」

妹仔実装が叫びながら突っ込む。

「テチィ!」

大柄の仔実装が乱暴に振るった腕が顔面にヒットし、あっけなく吹っ飛ぶ。
その光景に姉が叫んだ。

「やめてテチ! 私たちが出てくテチ!」

やっと殴打をやめて、侵入者は姉妹をじっとにらんでいる。
姉妹はふらつきながら手に手をとって、当ても無く外へ出て行く。
姉は鼻血を拭い、闇夜を見るが何もありはしない。

しばらくすると背後でむせび泣く仔実装の声がした。
おそらくやっと寝床を手にしたのだろう。

負傷とひもじさ、そして惨めさから2匹の姉妹は何も言わない。

ぎりぎり露命を繋いでこれたのは、粗末な巣があったお陰である。
風雨に晒されることもないし、気持ちの拠りどころであった。

それすら失った今、2匹はふらふら公園を出た。

どこかもぐりこめる所は無いか、ぼんやりとした目で街中を見るがなにもない。
仔実装がもぐりこめそうな物はなく、自動販売機なども金網で下や後ろに入れないようになっていた。


歩き疲れて街灯のある電柱の下で座る2匹。

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

肉体も精神も限界かと思われたとき、きれいな服を着た健康そうな実装石が歩いてきた。


その首にはきれいな首輪を着け、左右の手には仔実装を1匹づつ連れている。
中年の女性が飼い実装の首輪から伸びたリードを握り、実装親仔にあわせてゆっくりとした歩みでやってきた。

飼い主と飼い実装家族の視界にぼろぼろの姉妹が入ったが、あまりに有り触れた光景なので彼らは意識もしない。
路頭に迷う仔実装はあまりに多く、路上で死んでいる虫の死骸となんら変わらないほどである。

それに対して野良仔実装2匹は目だけで飼い実装家族とその飼い主を追ったが、すぐに遠ざかっていく。

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

それから少し通行人もいたが夜も更けてくるとそれらさえ疎らになった。

2匹は何かしら行動をとるべきなのだが、もう生きる意欲を摩滅させていた。

視線を落としていた路面に、なにかが落ちてくる。
気のせいか、と姉が考える間もなく、頭巾の上に何かが乗った感触があった。
にぶい動作で頭を振ると、白いものが地面に落ちていく。

「・・・・・・何テチ」

妹も不思議がってじっと見るが、それはしばらくすると消えていった。

「あ」

姉が不意に声を上げる。
白いものが空から降ってくるではないか。
それはゆっくりと地上に舞い降りると、つかの間その姿を保ち、消えていく。
しかし消える頃には次の白いものが空から降ってきている。

暗闇に差し込む街灯が、それらが降る光景を一層美しく見せていた。

なぜかしら嬉しい気持ちになる2匹は立ち上がって空を見上げる。
はるか高みから、白いものが無限とも思えるほど降り注いできた。

「すごいテチ・・・・・・」

「お花よりきれいテチ・・・・・・」

感想を口にしただけで、後は魅せられた姉妹はただ空を見上げるばかり。

しばらくそうしていると、姉が呟く。

「ママたちにも見せたかったテチ」

妹は姉の顔を見ると言った。

「きっと、ママたちが私たちに見せてくれてるテチ。お空にいるママたちが私たちに贈ってくれたテチ」

その言葉に姉はうなづいて笑う。

「きっとそうテチ、ママたちの贈り物テチ」

限りなく降り注ぐ白いものを前に、2匹ははしゃぎ出した。
一家揃って芝生の上を駆け回った思い出がよみがえり、気がつくとあたりを走り出していた。




*************************************



・・・・・・ある暖かい日。
一家は人も他の実装石もいないのを見計らって芝生にまでやってきた。
いつもは余りに小さい仔実装の安全を考えて外出させない親実装であったが、開けた場所なので目が行き届くので連れてきたのだ。

「いつも暗くて狭いダンボールの中でごめんなさいデスゥ」

親実装の声は興奮する仔実装たちには聞こえなかった。
思いっきり声を出し、思いっきり走り回る。

ダンボールの中と違い、草花は輝き、日光が惜しみなく降り注ぐ。
満面の笑みで、仔実装たちが走る。

「テチャ」

転んで悲鳴をあげるも、照れ笑いしながらすぐ立ち上がり走った。

「広いテチ、すっごく広いテチ!」

「お家よりずっとずうううと広いテチ」

「一番向こうまで駆けっこテチ」

幼い彼女らは思う存分遊び、やがて昼食に貴重な生ゴミを食べ、笑って帰宅した。

今思えば、それが最後の家族の団欒となるのだが。




*************************************



「クシュ!」

「テシュ!」

姉妹は寒さにクシャミをした。

あの暖かい日と違い空気は凍てつき体は凍えた。

いつの間にか、手足がよく動かない。

それでも2匹は圧倒的な自然現象の美しさに目を奪われていた。

幻想的な光景にいつまでも2匹は見せられていた。

雪は深々と降り続けている。




*************************************




『・・・・・・昨夜、双葉市では今年初の降雪を観測し・・・・・・』

テレビのニュースを背にその家の主人は外に出た。
街中は一面雪に覆われていた。
息を吐くと大きく白い塊ができる。
バス停まで億劫だな、と寒さに震えながら思うがしょうがない。
それにさっさと両手のゴミ袋を捨てていかないといけない、歩き出そうと足を出す。

すると、足元に2匹の仔実装が雪にまみれ死んでいるではないか。

顔は真っ青で口から舌を出し、最後に足掻いたのか手足がそれぞれ違う方向へ伸びていた。

「うわ、朝から最悪だな」

主人はゴミ袋を開けると、不快を我慢して死骸を中に放り込んだ。

そして近場のゴミ捨て場に捨てると、職場へと急いだ。

こうして姉妹の生きていた証はこの世から跡形も無く消え去った。



ある冬の日の出来事である。


END

■感想(またはスクの続き)を投稿する
名前:
コメント:
画像ファイル:
削除キー:スクの続きを追加
スパムチェック:スパム防止のため3518を入力してください
1 Re: Name:匿名石 2018/04/14-04:36:15 No:00005177[申告]
楽しい記憶を思い出しながら
美しい景色に目を奪われつつ
最も苦痛の少ない凍死という死に方をし
その死骸は無傷のまま人間が葬ってくれる
これほど幸福な死を迎えた野良実装石はおるまい
戻る