タイトル:【虐蒼】 定番ネタとか
ファイル:実蒼石の初夢.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2752 レス数:0
初投稿日時:2008/01/06-23:40:51修正日時:2008/01/06-23:40:51
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『……ボク?』

その実蒼石、アオが目を覚ましたとき、辺りは真っ暗だった。

『寝過ごしたボク!?
  マスターと糞蟲狩りに行く約束ボクゥ!』

慌てて飛び起きると、頭が何かにぶつかった。

(……?)

恐る恐る手をやってみると、どうやらダンボールの感触のようだ。
ダンボール箱の中にいるらしい。

(……なんで、いつものベッドじゃないボク?)

居間のソファの上で居眠りをするのがアオは大好きだった。
そうすれば、いつも飼い主か家族がベッドまで運んでくれる。

今日だってソファの上で寝ていたはず。それなのに、どうしてこんな所に……

『マスターもママさんも冷たいボク……あ、パパさんもボク』


『かたいボク……』

ちょっと押したぐらいでは、ダンボールの蓋が開かない。

『ボクゥ!』

帽子から取り出した鋏を逆に構え、柄で天井を思い切り突き上げてみる。

それを何度か繰り返し、ようやく小さな裂け目ができると光が差し込む。
まだ日は高いらしい。

裂け目を両手で押し広げ、どうにか外へ出たアオの目の前に広がっていたのは
よく見知った風景だった。

いつも飼い主と一緒に実装石を虐めに来ていた、いつもの公園。




しかし、いつもとは違う所があった。

実装石がいないのだ。あの、デギャデギャと泣き喚く不細工で
不快極まりない生き物が1匹もいない。

(これは……どういうことボク……)

その代わりに、何匹もの同属、すなわち実蒼石が公園のそこかしこにいた。

(いったい、どれぐらいいるボク?)

成体の数はせいぜい20匹程度だろうが、それぞれが連れている仔実蒼まで数えれば
何十匹になるのか見当もつかない。

生後間もない頃、ブリーダーの下で生活していたときでさえ、
アオはこれだけの数の同属に会ったことがなかった。




『オマエ、見かけない顔ボク』

『!?』

ダンボール箱の傍らで立ちすくむアオに声をかける者があった。

背後からの声に慌ててアオが振り向いてみると、そこにはひどく汚らしい実蒼石がいた。

シャツやズボンは所々に青い染みがあり、顔と髪はもちろん、
実蒼石にとって鋏と並ぶトレードマークである帽子までもがひどく汚れている。
この個体が長く野良生活をしているのは間違いなさそうだ。

汚らしい実蒼石は、合点が行ったとでも言うように大きく頷いてみせると言葉を続けた。

『……もしかしてオマエ、捨てられたボク?』

『!?……そ、そんなはずないボク!』

アオはひどく狼狽した。

汚らしい実蒼石に言われるまで、自分が捨てられたなどと思ってもみなかったのだ。

『捨てられたヤツはみんなそう言うボク……
  早く現実を認めないと、オマエも生き残れないボク』

『す、捨てられてなんかないボク!』

目が覚めたらダンボールに閉じ込められて公園に放置されていたなど、
普通に考えれば、捨てられた以外の何ものでもない。

実際、実装石がそういう風に捨てられているのを何度も見てきたアオにも、
それぐらいのことはわかる。だが、それを受け入れることはできなかった。

『気持ちはわかるボク……ボクも昔は飼い実蒼だったボク。
  でも、捨てられたときに、名前は捨てたボク』

『ボクは違うボクッ!捨てられてなんかいないボク!』

『じゃあ、首輪はどうしたボク?』

『!?』

汚らしい実蒼石の言葉に慌てて首に手をやるが、そこに首輪はなかった。
去年のクリスマスの日に飼い主が新しくしてくれた、お気に入りの首輪はなかった。

『そ、そんな馬鹿なボク……』

(あの首輪には……なんだっけ……そうだ、マスターは"カンサツ"って言ってたボク。
  "カンサツ"がないと飼い実蒼じゃないボク……
  じゃあ、ボクは…………ボクは…………)

『慣れれば野良も悪くないボク……』

汚らしい実蒼石は優しくそう言うと、ポンッと励ますようにアオの肩を叩いた。




『……』

去って行く汚らしい実蒼石の背中を無言で見送っていたアオだが、
やがて思い出したようにポツリとつぶやく。

『……オウチに帰るボク。きっと、何かの間違いボク。』

これはきっと何かの間違い。

自分にそう言い聞かせて公園の出口へと足を向けるのだが、その足取りは重い。

怖いのだ。

”間違いでも何でもない、俺はオマエを捨てたのだ”と飼い主の口からハッキリ言われるのが。




ただ、初めて見る同属の群れに目が行っているのも、アオの歩みが遅い理由の1つではある。


成体の実蒼石と、おそらく親代わりになって妹たちの面倒を見ている中実蒼が
楽しそうに話しながら歩いているのとすれ違った。

『今日はパンの耳が拾えたホク。
  オウチで待ってる妹ちゃんたちも喜ぶホク』

『ボクはランチボックスが拾えたボクゥ♪
  久し振りに仔たちにお腹いっぱい食べさせてやれるボク』

仲のいい御近所さんとでも言ったところなのだろうが、会話の内容にしろ、
ゴミの入ったコンビニ袋を大事そうに抱えている姿にしろ、
まるで実装石のようだとアオは思った。


公衆便所脇のダンボールハウスの中からは、自分の耳を疑いたくなるような会話が聞こえてきた。

『ママ……ポクにもご飯分けて欲しいポク』

『オマエなんかボクのウンチで十分ボク』

『ポク……もうウンチ食べるの嫌ポク……』

『オマエもお姉ちゃんみたいに食べられたいボク?』


公園を我が物顔に占拠している実蒼石たちの中には、
アオの知っている同属の姿とは程遠い、実装石で言うところの糞蟲もいるようだ。

(これは……どういうことボク……)


しまった。さっきの実蒼石に聞いておけば良かった。

どうして公園から実装石が姿を消したのか。

どうして公園中に実蒼石がいるのか。

その辺にいる同属に聞いてみることにしよう。




『あの、ちょっと聞きたいボク』

『なにボク?』

『『……』』

2匹の仔を連れた実蒼石に声をかけてみた。

見知らぬ実蒼石を警戒しているのか、仔実蒼たちは母の背後に隠れるようにして
アオの様子を窺っている。

『どうして、ここには実蒼石がいっぱいいるボク?
  どうして、実装石がいないボク?』

『は?』

『だから、どうして実装石がいなくて実蒼石がいっぱいいるボク?』

『オバチャン、そんなこともわからないポク?』
『馬鹿ポクゥ、そんなのポクでもわかるポクゥ』

『こ、こらボク!オマエたち、そんなこと言っちゃいけないボク』

これが当たり前なんだろうか。

自分がおかしいのか。おかしくなってしまったのか。

アオは呆然とした。


『……変なこと聞いたボク?』

どうにか気力を振り絞って会話を続ける。

『天敵である実装石がいないから、ボクたちはここにいるボク』

そう答える親実蒼の表情は笑顔だが、それは取り繕ったものであるのがはっきりわかる。
目が笑っていないし、心なしか口元も引きつっている。

アオの質問に相当驚いたか、呆れたかしたのは明らかだった。

『『ポククククク……』』

『オマエたち、本当にやめるボク!
  悪い仔は、実装石がさらいに来るボク!』

『『ポクゥ!?』』

『わかったら、この石に謝るボク』

『……オバチャン、ごめんなさいポク』
『ごめんなさいポクゥ……』

『い、いいんボク。ボクが変なこと聞いたのがいけないボク』


実装石が天敵?

仔実蒼も実装石を恐れている?

実装石ごときを?

もう嫌だ。訳がわからない。

やっぱりオウチに帰ろう!

(きっと、きっとマスターに聞けば全部わかるボク!)

手を振って去って行く仔実蒼たちに手を振り返しながら、アオはそう思った。




アオが再び公園の出口に足を向けたとき—————


「「「「「ひぃいいいやっはあああっ!!」」」」」

イカれた奇声を上げて虐待派なだれ込んできた。

『ぎゃ、虐待派が来たボク!いっぱいいるボク!』
『みんな逃げるボクゥウウウッ!』
『殺さないでボク、殺さな……ボギャアアアッ!』

いきなり悲鳴を上げて逃げ出す実蒼石たち。


同属たちの聞きなれぬ悲鳴に、アオは反射的に手近な茂みに身を隠していた。




『裂けちゃうボク……裂けちゃうボクゥ!』

茂みに身を潜め、どうにか一息ついたアオが最初に目にしたのは、
両足を掴んで逆さ吊りにされた実蒼石の姿だった。

男は実蒼石の両足をゆっくりと開いていく。

既に実蒼石の股間は限界を超えて開かれているらしく、
ズボンにはべっとりと赤と青の血が滲んでいる。

『お股裂けちゃうボクゥ……』

吊るされた実蒼石は、股間が裂けるのを食い止めようと両手で股を押さえるのだが、
そんなことで止まるはずもない。

『ボクゥウウウッ!?』

派手に血飛沫が飛び散り、一際大きな悲鳴が上がる。

「ひゃっはあああ!!」

男はさらに力を込めて一気に実蒼石を胸まで引き裂く。

『ボ!』

派手な殺し方だったわりには実蒼石の断末魔は小さく、
それが気に入らなかったのか、男は死体を乱暴に放り捨てると、
すぐに次の獲物を探して走り出した。

(どうしてボクたちが、こんな目に遭うんボク……
  ……あいつらに見つかったら、ボクもああなるボク?)

アオは理解した。理解せざるを得なかった。

ここでは実装石たちではなく、自分たち実蒼石が虐待される存在なのだと。

咄嗟に隠れたのは幸いだった。


公衆便所の脇では、実蒼石が虐待派に向けて仔実蒼をかざしている。

『ボクの可愛い仔をやるから、ボクは見逃して欲しいボク♪』

『ママッ!?ママアアアッ!?』

(ひどい糞蟲ボク……)

アオの胸をやりきれない思いがよぎる。

賢い実装石は、糞蟲な同属をこんな気持ちで見ていたのだろうか?

虐待派の男はそれまでの暴れっぷりが嘘のような優しい表情になり、
無言で仔実蒼を受け取る。

『なんだったら、ボクも一緒に飼われてやってもいいボ……!?』

『ポキャアアアッ!?』

男は仔実蒼のズボンとパンツを手荒に引き千切り、手にしたエアガンの銃身を
その小さな総排泄口にこじ入れた。

「ひゃっはー!」

『ポ……』

『ボキャ……』

引き金が絞られると、親実蒼は顔面をざくろのようにして倒れた。

仔実蒼の上半身は完全に失われ、銃身に引っかかったままの下半身が
それを拗ねているかのように足を揺らしていた。


「行け、ミドリ!」

信じ難いことだが、実装石をけしかけている者もいる。
仔実蒼にではなく、れっきとした成体の実蒼石に向けて、だ。

こちらの実蒼石は、仔への愛情があるらしく仔実蒼を背中にかばっている。

『糞蟲は死ねデス!』

『ボクゥウ!?』

実装石がどこからともなく取り出した大きなヤカンのようなもので殴りつけると、
実蒼石の顔が熟れたトマトのように爆ぜた。

『ママァ……死んじゃ嫌ポクゥ……』

親実蒼が隠していたのだろう、すぐ脇の茂みから走り出てきた仔実蒼が
親の死体にすがりつく。

「ミドリ、仔蟲もやっちゃえ」

『はいデス、マスター』

実装石のヤカンから、大きな湯気を立てる熱湯が仔実蒼に降り注がれた。

『熱いポクゥ!熱いポクゥ!』

『デプププププ』

実装石は嬉しそうに、逃げ出した仔実蒼をさらに熱湯で追い立てる。

『ゴキブリと糞蟲を退治するには熱湯が一番デスゥ』

『熱いポクゥウウ!』

必死で走る仔実蒼だが、そのうち火傷で身体が引き攣れて倒れ込む。

『あ……つい、ポ……ク…………』

苦しそうにもがいていた仔実蒼だが、さらに熱湯を浴びせられると
最後に1度だけ大きく仰け反って動かなくなった。

「こんな楽に死なせてやるなんて、ミドリは優しいなあ♪」

『そんなに褒めないでデスゥ。ミドリ、照れちゃうデス♪』

火傷による水脹れでブヨブヨになった仔実蒼の顔を眺めながら、
1人と1匹は楽しそうにじゃれあった。

(どうして実装石に殺されるボク……)

アオに殺された実装石たちの多くも同じことを思っていたことだろう。


砂場の向こうでは、親実蒼石が2匹の仔実蒼を背中にかばい、虐待派を必死に威嚇している。

『どっか行けボクゥ!仔に手を出すなボクゥウウッ!』

「人間様を威嚇するとは……ひどい糞蟲だな」

男はそう言って、仲間の1人に目配せした。

『仔だけは助けてボク!お願いボク!』

「人間様と交渉しようとは……やっぱり実蒼石は糞蟲だな」

男が親実蒼の注意をひきつけている間に、親実蒼の背後へと回り込んだ仲間が
素早く2匹の仔実蒼を奪い取る。

「仔蟲げっとおおお」

『ボクゥ!?返してボク!返してボクッ!』

男の両の手にそれぞれ掲げられた仔たちを取り返そうと、
親実蒼がピョコピョコと飛び跳ねるがまるで届かない。

「ほらよっ」

『ポクッ!?』

右手に掲げられていた仔実蒼が信じられないほど遠くへ放り投げられた。
このまま落ちれば墜死は免れない。

『ボクゥウウウッ!』

親実蒼は悲鳴に近い絶叫を上げ、宙を飛んで行く我が仔を追って走り出す。

「あ〜あ、ママはあっちの仔の方が大事だってさ」
「おまえ、見捨てられちまったなあ、かわいそうに」

その場に残されたもう1匹の仔実蒼に向って、男たちは意地悪く笑いかける。

『そんなことないポク!ママはすぐ帰って来るポク!』

「人間様に反論するとは……」
「糞蟲だな!」

『ポクゥ……』

…………

それがどんな生き物であったかわからぬ程に原形を失った仔実蒼の死体を
抱えて親実蒼が戻って来たとき、そこに男たちの姿はなかった。

そこには、赤と青の染みがあるだけだった。

(賢いヤツだけでも助けてやって欲しいボク……)

虐待派の男たちは皆、イヤホンらしきものを左耳にしている。
それが、音声変換式の実装リンガルだということがアオにはわかっていた。

(あの機械があれば、ボクたちの言葉もわかるはずボク……)

その機械が何なのかわかったのは、アオの飼い主も使っていたからである。

果たして、アオの飼い主が賢い実装石を見逃してやったことがあっただろうか?

そもそも、その機械は何のために使っていただろうか?




突如として現れた虐待派たちによって、アオがこれまで見たこともないような
地獄絵図が公園に繰り広げられていた。

いや、アオは何度も見たことがある。

ただ、殺されているのは実装石たちで、自分は殺す側だった。




すでに倒れて動かなくなった実蒼石も多いものの、大怪我で済んでいるものもいる。

そんな中の1匹に、腰から下を完全に潰された中実蒼がいた。

『助けてホク……助け……』

逃げ場を探して這いずっていた中実蒼と、アオの目が合う。

まだアオが無傷らしいことに気づいた中実蒼は、そこへ逃げれば安全だと思ったようで、
アオが身を隠した茂みへと必死になって這って行く。

『助けてホク……痛いホク……』


運の悪いことに、男たちの1人がその中実蒼を目で追っていた。

中実蒼が逃げて行く先に何気なく目をやった彼は、茂みの中のアオに気づいてしまった。




「おーい!ここにも糞蟲がいるぞー」

男の言葉に仲間たちがぞろぞろと集まって来る。

見つかった!

アオは茂みから飛び出し、一気に男たちの間を走り抜けようとするのだが、
恐怖のせいで思うように身体が動かない。

「糞蟲げっとおおお」

あっさりと1人の男に襟首をつかまれ、軽々と持ち上げられてしまう。

『は、放せボク!放せボク!』

「人間様に向って命令とは……とびっきりの糞蟲だな、オマエ」

『ボクは糞蟲なんかじゃないボク!
  ちゃ、ちゃんとした飼い実蒼ボク!
  ボクに手を出したら、マスターが黙ってないボク!』

「ふーん、それにしちゃあ首輪がないなあ。
  首輪がないなら、鑑札のタグはどこかなあ?」

アオの顔を覗き込みながら、意地悪く笑う。

『こ、これは何かの間違いボク!
  本当にボクは飼い実蒼ボクッ!』

「飼い実蒼を騙るってのは珍しいな」
「これまででも5本の指に入る糞蟲だな」
「どうやって殺す?あっさり死なせちゃ失礼だよなあ、これ」

『本当ボクゥウウウッ!』


「おまえら、ちょっとタイム」

それまで押し黙っていたリーダー格と思しき男が口を開く。

「こいつは殺さないことにしよう」

「え、何で?飼い実蒼なんて嘘だぞ?」
「糞蟲は断固、皆殺しにするべき!」

「俺に考えがある」

そう言って、男はアオをそっと受け取り、優しく抱きかかえた。

「とりあえずウチに来るといい。
  絶対に殺さないと約束しようじゃないか」

『あ、ありがとボ……』

礼を言いかけてアオはやっと気づいた。

男の口調は穏やかで、その顔には笑みさえ浮かんでいるが、
それは、アオの飼い主がよく実装石相手に見せる表情と同じものだということに。

実装石にとびきりの苦しみを、死にも勝る苦しみを与えるときに見せる表情と
全く同じものだということに。

「そうとも、絶対に殺さない。
  たとえ、”殺してくれ”とどんなにオマエが頼んでも、だ」

『ボクゥッ!』

ありったけの力で男の手から逃れようとするが、とても力では敵いそうにない。

飼い実蒼にとって、無闇に他の生き物を傷つけることは本来、最大のタブーである。
ましてや、人間相手に鋏を向けるなど、問答無用に処分されても不思議はない。

しかし、アオはその禁を破った。

自分の飼い主が実装石にしてきた仕打ちを考えれば、
保健所で処分される方がずっとマシだということを知っていたから。

帽子の中から素早く鋏を取り出し、男の喉笛に振るう—————


パキン


偽石が割れるのにも似た小さな乾いた音を立て、鋏の刃は飴細工のように砕け散った。

『ボクッ!?』

「……なんで、こいつらは無駄なことするんだろうなあ」

「そりゃ、馬鹿だからだろ。実蒼石の鋏で切れるものなんて無いのにな」
「何のための鋏なんだよ、おい」

「共食いや仔喰いのときには役立ってるみたいだぞ?」

『ボクゥウウウッ!?』

「悪い、俺は先に帰るから」

「そいつとお楽しみですかい、ゲヘヘヘヘ」
「アオックス派だ!みんな、逃げろ!アオックス派が伝染るぞ!」

「いや、おまえら。冗談でもひど過ぎるだろ、それは……
  まあ、後で動画送るから。楽しみにしててくれ」

『放してボクゥ!放してボクゥッ!』

男は両腕でしっかりと抱きしめたアオに、変わらぬ穏やかな口調で
嬉しそうに話しかける。

「いい声で鳴くなあ……久し振りに楽しませてもらうよ」

『マスタッ!マスタ、助けてボクッ!』

「ああ、そう言えば、ずいぶん前に上げ落とししてやったヤツにそっくりだ」

『助けてボクッ!マスタァアアアッ!!』

「あの頃に比べれば、俺もずっと腕を上げてる。
  オマエもきっと満足してくれると思うよ?」

『助けてボクゥ!マスタ、助け—————








 ————てボク……う〜ん……』

「おい」

『助けてボク……マスター……』

「アオ!」

『う〜ん……』

「起きろってば!」

『マス………………?』

「起きたか?」

『ここは……』

最初に目に入ったのは、自分の顔を覗き込む飼い主の心配そうな表情だった。

慌てて身を起こし、辺りを見回してみれば、いつものベッドにいた。

飼い主か家族かが居間のソファから運んでくれたらしい。

いつものように。


「ひどくうなされてたぞ、大丈夫か?」

『う、うんボク……』

「……ったく、親父のヤツ、面白半分に御屠蘇なんぞ飲ませやがって」

飼い主の表情が一転して、怒りの表情になる。

『パ、パパさんは悪くないボク!ボクがお願いしたボク!』

「……そうか」

今度は嬉しそうに微笑えんだ飼い主は、ひょいとアオの帽子をつまみ上げ、
むき出しになった禿頭を優しく撫でまわした。


「少し遅くなっちまったが、どうする?」

帽子をアオの頭に載せながら、飼い主が言う。

『何をボク?』

「やっぱり、まだ調子悪いみたいだな」

『?』

「ほら、今年最初の糞蟲狩りだよ。もう3時だぞ?
  本当は初詣帰りに公園に寄るはずだったんだが、オマエがぶっ倒れちまったからな」

『ご、ごめんなさいボク』

「いいさ。で、どうする?明日にするか?」

『……』


夢の中で虐殺されていた実蒼石たちの姿が鮮明に蘇る。

これまで殺してきた実装石たちも、あんな悲しくて、苦しくて、怖い思いをしていたのだろうか……


『やめておくボク……』

ゆっくりと首を横に振る。

「そうか、じゃ、明日にしよう」

『……しばらく実装石を狩るのはお休みボク』

「え、え?何それ?
  オ、オマエ、大丈夫か?熱でもあるのか?」

飼い主はまた心配そうな顔になってアオの額に手を当てる。


これからは実装石にもうちょっとだけ優しくしてやろう。

掌の温もりを額に感じながら、アオは思った。




(終)

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