タイトル:【観察】 実装石の日常 厳しいのは仔を生かす為
ファイル:実装石の日常 18.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:9710 レス数:1
初投稿日時:2007/12/30-12:18:17修正日時:2007/12/30-12:18:17
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 実装石の日常 厳しいのは仔を生かす為




公園の片隅、茂みの中にあるダンボールから喧噪が聞こえてくる。

「なんで言う事を聞けないデス!」

「テチャ!」

叱られながら殴られる3女。倒れこんで頭を抱えているわが仔に、親実装は容赦なく拳を振り下ろす。

「ママがいないときはお家で留守番デス! お外に出て悪いニンゲンさんや同族に見つかったらどうするデス!」

「ゴメンなさいテチャア、ゴメンなさいテチャア!」

「謝っても許さないデスー!」

この親実装は仔に厳しい。自分が留守のときは絶対、ダンボールから出てはいけない事を徹底していた。
多少なりとも賢ければ、やはりそうするだろう。
仔実装が人間や成体の同族に攻撃されれば、反撃どころか逃げることも不可能なのだから。

故に、親が不在のときは静かにダンボールの中で過ごす。

これが生き残る唯一の方法なのだが、遊びたい盛りの仔実装には難しいことだ。
そうでなくてもダンボールの中は暗くじめじめとして、排泄物を溜め込んでいるので悪臭が篭る。

すぐそこに明るく緑豊かな世界が広がっているというのに。

止める姉を振り払い、外で遊びほうけた3女を待ち構えていたのは、先に帰宅した親実装の姿であった。

「何度! 何度言えばいいデス!」

汗を流しながら叩く親実装に、他の仔も震え上がっている。

「お前たちも悪いことしたら許さないデス!」

ガクガクとうなづく姉妹に、親実装は安心したが

……いつになれば本当の危険を知ってくれるのだろうか

内心、親実装は仔が心配でならないのだ。

今日も人間に踏み潰された仔実装を見たのだ。恐らく巣から出て遊んでいたのだろう。

人間の子供は、そうした仔実装を見つけると面白がって踏み潰す。

数や早さを競っているのだから、容赦がない。

そうでなくても駆除や虐待といった人間の猛威が降りかかれば、仔実装は死しかない。

親実装がそれをどれだけ恐れているのか、なかなかわが仔には伝わっていないのだ。

「3女姉ちゃん!」

4女の声にはっとする親実装が見たのは我が家(横倒しにした大きなダンボール)の入り口から、涙を流しながら飛び出す
わが仔の姿だった。

3女は一瞬、立ち止まり振り返ると・・・

「ママなんか大嫌いテチ!」

捨て台詞を残して走り去った。

と、言っても、すぐそこの木陰なのだが。

親実装はため息を大きく吐くと、コンビニ袋から生ゴミを取り出し、昼食の支度を始めた。


「ママ、3女ちゃんを迎えに行かないテチ?」

「お腹がすけば帰ってくるデス!」


心配する次女にけんもほろろの親実装。

長女が次女と何かテチテチ相談し始める。


「ママ、次女ちゃんと4女ちゃんが3女ちゃんを迎えに行ってもいいテチ?」


ちらり、と姉妹と木陰を見やる親実装。
危険は見えないし、何かあっても自分が飛び出せば良い距離だ。

「いいデス、でも気をつけていくデス」

ハイ、と笑顔で2匹がテッチテッチ駆けていく。

残された長女は昼食の準備を手伝いながら、親実装に言う。


「3女ちゃんは悪かったけど、どうしても我慢ができなかったテチ」

「辛いのはみんな一緒デス、ママだって仔の頃は辛かったデス」

「お家の中は寂しいテチ、チョウチョもいないテチ、暗いテチ」

「ママが見ているときなら、お家の側で遊んで良いデス」

「でも、ママはめったにいないテチ……」


エサ不足は深刻だ、足を棒にして探し回って家族が生きていくのにようやく足りる量を確保できる。
いや、それでも時々1食を抜かねばいけない。

仔を遊んでいる暇はないのが現実だ。

「ママも悪いと思ってるデス……」

疲れとも後悔とも取れる表情を、長女は見つけた。



*************************************



木の根元で3女が泣き続け、次女と4女が途方にくれたようにしている。

「もう帰るテチ、3女ちゃん」

「帰ろうテチー」

イヤイヤしながら、涙を流す3女。

「遊びたいテチ遊びたいテチ!お家の中は狭いテチ暗いテチィ!!」

両目から涙が止まらないのを見て、次女がぬぐってやる。

「でもお外はママがいないと危ないテチ」

「ママはいっつもいないテチャア! 帰ってきても寝てばかりテチ!」

「ママもがんばって疲れているテチ。それも私たちのためにゴハンを探してきているテチ」

涙でぐちゃぐちゃの顔を上げる3女。

「でもママは私のこと嫌いになったテチャー」

「そんなこと無いテチ、一緒にお家に帰るテチ」

「そうテチ、3女姉ちゃんがいないと私たちもゴハン食べられないテチ」

まだしゃくり上げる3女を立ち上がらせると、次女は妹2匹を連れて帰路を急いだ。



*************************************




「ただいま、テチ」

3女が恐る恐るダンボールに入ると、入り口で親実装が待ち構えていた。
素早く3女を持ち上げ、自分の口に近づけると

「あんまり泣いちゃ駄目デスー。ゴハンが美味しくなくなるデース」

ペロペロと顔を舐めてやる。
怖がっていた3女も、とたんに顔を緩めテチテチ笑い出す。

「くすぐったいテチー」

「さ、ゴハンにするデース」

3女がおろされ、食器代わりのプラスチック片の前に座らせられる。そこには、野菜クズと木の実、そしてパンの耳があった。

「パンの耳テチ!!!!!!」

「今日は運よく見つけたデース。さ、みんなゴハンデスーー」

それぞれ食器代わりのプラスチック片の前に座って食べ始める。

美味しい、美味しいと口々にいう仔実装。実際、量は豊富で質も良いので親実装も満足げだ。

……たまには満腹にさせてやりたい

仔の笑顔を見ながら切実にそう思う。
特にパンの耳が好物の3女のはしゃぎっぷりはどうだ、さっきまで家出同然だったとは思えない。

3女と視線があうと、自然に笑みが浮かぶ。

食事が終わると、おもむろに親実装が仔を見渡して言う。

「今日はゴハンがたくさん見つかったデス、だからもうゴハン探しは今日しないデス」

静まり返る4姉妹。

「だから、これからお外で遊んでいいデース」

さっと潰れかけたピンポン玉を出す親実装に、仔たちは瞳を輝かせる。

「ボールで遊んで良いテチ!? ボールで遊んで良いテチ!?」

興奮が一方ならぬ3女に、大きくうなづく親実装。

めったにピンポン玉は許さない、なぜならどこに転がっていくか分からないし、それを追う仔がどこまで良くか分からない。

これほど危険が大きな遊びも少なくないのだ。


だが、親実装が見守る前でなら問題ない、長女がぱっとピンポン玉を受け取ると、妹たちを促して外へ飛び出す。



「久しぶりテチ!」

「うんと、うんと遊ぶテチャ!」

「ピンポン玉テチィ!」

「すごいテチィ!」



テチテチ、テチテチ大騒ぎしながら、転がしたり、投げたりして遊ぶ仔実装。
たわいも無い遊びだが、こんな事さえ満足にできないのが彼女らの世界である。


親実装もゆっくり外に出ながら遊ぶ仔たちの姿を見て嬉しい。
胸に去来するのは幸福感、と言っていいだろう。

……こうして、たまに遊ばせてあげないといけないなぁ

いささか厳しすぎたか、と省みる親実装。

……でもゴハン探さないといけないし、そうそう簡単には

ピンポン玉が親実装の足元に転がってくる、それを追いかけてくる4匹。

玉を次女に投げ返してやると、楽しそうに追いかける。

すこし3女だけ立ち止まって、親に向かって言う。

「ママ、大好きテチ!」

すぐ走っていくのは照れ隠しだろうか。続いていく長女も少し親実装を振り返る。

「ママと3女ちゃんがまた仲良くなって嬉しいテチ!うれしいテチ!」

微笑み返す親実装。

思えば、親実装もわずかに遊んだ日々を覚えていた。ほんの数えるほどだが、家族の団欒を思い出すと暖かい気持ちになる。

……そろそろ、教えてあげようか

親実装は小さな丸い飴を取り出す。今日はついていた、お菓子まで入手できたのだ。
彼女のゴミ漁りでも初めての大物である。

交互に舐めさせてやろう、その時ひと悶着あろうから、どうしてやろうか、と考える。


……甘いお菓子を食べたことが無い仔たちだ、今日の思い出とともに生涯わすれない味になるだろう。

……辛い生涯が待ち受けているが、きっと忘れないだろう。

自然に微笑んでくる親実装である。




   それが油断だったのだろうか、一家に近づく少年の影に気づけなかった。





親実装が見守っている目前で1人の少年が、素早い動きで足を仔実装めがけて下ろす。


         
     「テベ!」

     「テベ!」

     「テェ!」

     「ヂ!」


少年は靴裏の汚れを地面にこすり付けて落とすと、得意げな表情をしながら用は済んだとばかりに
待っていた母親らしい人物と立ち去っていく。

親実装は何が我が仔におこったのか理解しながら、あまりのことにまだ顔は半分ほど笑みを浮かべたままだ。
急なことに頭が理解しても顔に幸せの笑みの残滓があったのだ。

慌てて立ち上がり、そのまま飴を落とすと、それは地面にへばり付くシミの上まで転がった。





END

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1 Re: Name:匿名石 2023/10/14-04:58:25 No:00008112[申告]
うーん気持ちがいい
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