心配しても、いいですか? 1 その仔実装は、生後二週間の赤ちゃんだ。 高級飼い実装の長女として産まれた彼女は、賢くて優しい母親や、ペットショップの店員から丁寧に色々な事を教わり、 また沢山の妹達の世話をすることで様々なものを学んでいった。 元々賢い個体だった彼女は、生まれつき善悪の判断力や学習能力が高く、特に厳しい躾をされなくても、言いつけられた 事はすぐに覚えられたし、忘れる事も決してない。 しかも、言われた事がどういう意味を成しているのかを推察して的確に判断する能力にも長けており、言いつけを守らない という事が「自分が痛い目に遭わされる」としてではなく、「言いつけた者に迷惑をかけてしまう」ものと解釈する事が出来た。 実装石としては大変希有な、ペットとして最良の才能を生まれつき持っていた彼女は、だからこそ母親を、店員を困らせない ようにと、懸命に躾を身に付けようと努力した。 同時に、なかなか躾を覚えられない妹達が受ける厳しいお仕置きを目の当たりにして、心を痛めた。 他者の痛みが理解できる彼女にとって、それが最も辛く厳しい。 単に賢いだけでなく、実装石らしからぬ過剰な優しさをも持ち合わせていたのだ。 仔実装自身は何の問題もなく育つ事が出来たが、当初七匹もいた妹達は次々に間引かれ、ついにたった二匹にまで減って しまった。 彼女は、残された妹達を必死で庇い、優しく接し、厳しい躾や訓練で心傷ついた心身をいたわろうとした。 だが当の妹達は、そんな姉の想いに反して「自分だけ特別扱いされているからって調子に乗っている」として、彼女を拒絶 するようになってしまった。 それから数日後、子供を産んだため売り物にならなくなった母親実装は、仔の養育係の役を解かれ店から連れ出されて しまい、姉妹だけが残された。 続いて、妹が一匹、二匹と売れて行き、なぜか彼女だけが最後まで残ってしまった。 既に生後一ヶ月に達しようとしていた仔実装は、当初の価格の半額にまで値引きされたが、それでもなかなか売れなかった。 孤独に耐えながら、仔実装はいつか自分が売れた時の事を夢見続けた。 ご主人様が出来たら、精一杯尽くそう。 自分が身につけた優しさをフルに活用して、ご主人様に喜んでもらおう。 実装石にあるまじき「自分よりもまず他者を幸せにしたい」と願う彼女は、本来ならば真っ先に売れてしかるべきだった。 だが、既に15センチに達した身長は商品としての“仔実装”としてはぎりぎりのラインであり、これ以上大きくなってしまうと、 彼女の母親同様、また別な商品として取り扱われなければならなかった。 店員達も、今後彼女をどうするべきか検討を始めている状態だった。 やがて、あれだけ優しく接してくれた店員の態度もぞんざいになり、仔実装の孤独感・焦燥感はピークになろうとしていた。 このまま大きくなってしまったら、売れ残ってしまった母親のように、子供だけ産んで処分されてしまうのでは… そう考えると、とても怖くなってしまう。 一ヶ月と二週間を過ぎ、気温が少しずつ下がり始めたある日、ようやく、仔実装に買い手が付いた。 当初の価格の六分の一まで値下げされた彼女は、近所に住むある青年に買われたのだ。 ようやく「ご主人様」と呼べる存在と出会えた仔実装の心は、激しく躍った。 夢にまで見た……しかし、普通の実装石とは少し違った夢の生活が始まる。 紙袋の隙間からふと覗いた青年の顔は、穏やかでとても優しそうだった。 仔実装は、この人に誠心誠意努めようと、心に固く誓った。 「よろしくな、仔実装ちゃん」 テッチー♪ 「そうだ、名前付けないとな。お前はちっこいから“ぷち”でいいかな?」 テェ? テチーテチー! テッチー♪ 「そうか、気に入ったか。よしよし♪」 買われた早々、家に入るより先に名前を貰え、仔実装は幸福にその身を振るわせる。 「ぷち」…ワタシは、ぷち 飼い実装最大のステイタスである名前を貰えた事で、彼女は、それまでの不幸をすべて忘れ去る事が出来そうな気がした。 そして青年も、一千匹に一匹いるかどうかという「生まれつき完成された仔実装」を飼うという幸運に見舞われていた。 ——自覚の有無はさておいて。 ※ ※ ※ ぷちを購入した青年としあきは、初めて実装石を飼おうとしている初心者だった。 身長15センチのぷちに対して、縦横約20センチ強しかないプラスチックの水槽を買ってしまったり、その中に入れるにしては 大きすぎる餌皿やトイレを購入してしまった事からも、性格のそそっかしさが窺える。 しかし、だからと言って決してぷちを粗末に扱おうとはしない。 家に着くと、すぐに温かいシャワーを浴びせて身体を温め、丁寧に洗ってやる。 勿論、服はしっかり手洗いし、ドライヤーですぐに乾かして着せ直してやる。 水槽が使い物にならないと理解すると、すぐに大型ダンボールを加工して箱庭を作り、中に小さな小屋を設置して部屋の 一角に置く。 箱庭といっても、ぷちが全力で走り回れるだけの広さは充分にある。 箱庭の中にトイレと餌皿・水皿を置いて、それを丁寧に教え込む。 家の中で初めてのおトイレも、最後までしっかり手伝ってやる。 更に、高級実装フードをたっぷり与え、綺麗な水も沢山飲ませる。 その間、笑顔で気軽に話し掛け、ぷちのご機嫌を取ってやる事も忘れない。 お腹一杯になったら少し休ませて、今度はたっぷりと遊んでやる。 テチテチ、テチー♪ 「気に入ってくれてよかったよ。ごめんな、水槽が小さすぎて」 テェェ? フルフル 「気にしてないのか?」 コクコク 「良かった。さあ、今日からここはお前だけの家だぞ。早く慣れような」 テッチーッ♪ 手の中に乗せられ、おしゃべりを楽しむ。 ぷちの意志は当然通じていないが、ぷち自身はとしあきの言葉の意味を確実に汲み取り、心の底から喜びを表現した。 大好き、だいすき、ご主人様♪ ワタチは、ご主人様に飼われてとても幸せな実装石テチ☆ これからよろしくお願いしますテチ♪ 手の中で抱っこ、ボール転がし、お腹こちょこちょ、箱庭の中でかくれんぼ。 絵本を読んだり、一緒にテレビを見たりもする。 そんなとしあきは、ぷちにとって「大好きになる条件」を満たしまくった、理想通りのご主人様だ。 ほぼ丸一日たっぷりとかまってもらったぷちは、ペットショップで味わわされていた孤独から完全に解放された。 これからは、毎日かまってもらえる。 視界のどこかに、ご主人様の姿を見止められることが、何よりも嬉しかった。 遊び疲れて夕食前にうたた寝してしまったぷちを、としあきは丁寧に抱き上げて、段ボールで作った小屋の中に置いてやる。 定番の、古タオルを加工した厚手の布団をしっかりかけてやり、寒くならないようにとエアコンで室温を適度に調節すると、 としあきは部屋の明かりを落とす。 そして、卓上蛍光灯の明かりだけを灯して、いつものようにパソコンの電源を入れた。 ※ ※ ※ 翌朝、すっきりとした目覚めを迎えたぷちは、としあきが覗き込んでくるより先に布団から出ると、おぼろに差し込んで来る 明かりを頼りに、まず寝床を丁寧に整え、乱れた後ろ髪や実装服のめくれをチェックする。 これは、店員が教えてくれた身だしなみの整え方だ。 売り物の実装石は、いつどんな姿をお客に見られるかわからない。 そのため、少しでもマイナスポイントを減らすために、自分で自分の周囲を綺麗に出来なくてはならないのだ。 ぷちは、店員の教えに従い、一匹だけになっても毎日身だしなみを整え続けてきた。 しばらくすると、クゥ〜…とお腹が鳴る。 夕べは、晩御飯を食べる前に遊び疲れて寝てしまったのだ。 ぷちはお腹を両手で押さえ、必死に空腹感に耐えながら、こういう時の約束事を思い出す。 餌皿の前で待ち構えているような、意地汚い真似はしない。 どんなにお腹が空いても、絶対におねだりしてはいけない。 口に出さなくても、媚びたりして態度に出してはいけない。 時には忘れられてしまう事もあるが、そんな時でも決して泣いたり喚いたりしない。 この四つの鉄則は、母親が何度もしつこいくらいに教え込んだ、最重要ポイントだ。 ぷちは、これを今まで一度たりとも破った事がない。 せめて空腹を紛らわせようと、ぷちは、朝一番のおトイレをしようと考えた。 ご主人様に手をかけさせず、また汚らしいところを極力見せないようにするのも、高級飼い実装としての努めだ。 テッチテッチテッチテッチ 昨日としあきが購入してきた、実装石用のトイレに向かう。 だが、そこでぷちの動きが止まった。 テェェ……これじゃあ、一人でおトイレできないテチ! 昨日はとしあきに支えられて用を足したから気付かなかったが、箱庭の隅に置かれた実装トイレは、明らかに「中実装」 以上の個体用サイズだった。 このトイレは、高さ約17センチ、直径約20センチの半球型で、ドーム状の天板の約半分が斜めにカットされている形状だ。 実装石は、この15センチ弱ほどの直径の穴に尻を収め、洋式便器の要領で用を足す。 すると、緩やかなスロープになっている床を糞便が流れ、内部奥に溜まる構造になっている。 実装石の身体が穴の中に入り切らないよう、穴には高さ5センチほどの段差が設けてあり、中実装サイズの体格なら容易 に腰掛けられるようになっているが、ぷちにとっては身長の三分の一にも及ぶ高さだ。 彼女がここで一人で用を足すためには、その短い足でまず段差をよじ昇り、穴の中に後ろ半身を入れてパンツを下ろし、 奥に転がらないように気をつけながらふんばるしかない。 しかも、縁の僅かな部分を除く床のほぼ全てがスロープになっているため、ぷちの足場は中実装の尻が軽く乗るくらいの 狭い幅しかない。 幸いにも、今は特に強い便意を感じていないぷちは、一旦諦めて後でご主人様に手伝ってもらう事にした。 いくらなんでも、このままでは中に転げ落ちてしまう。 それくらいは、ぷちの頭脳なら充分に計算できた。 小屋に戻り一人静かに待ち続けていると、やがて部屋の明かりが灯り、としあきが顔を覗かせた。 すかさず小屋を飛び出すと、ぷちは丁寧に頭を下げ、「おはようございます、ご主人様」と元気な挨拶を述べる。 いきなり両手を上げて抱っこをせがんだり、まがりなりにも媚びなどやってはいけない。 これも、母親から厳しく躾けられた事だった。 だがとしあきは、そんなぷちを見てなぜか不満そうな表情を浮かべる。 「おかしいなぁ——」 テチ? テェェ? 顔色を読んだぷちは、何かまずい事があったのかと思い、もう一度ぺこりと頭を下げて挨拶をし直した。 だがとしあきは、そんなぷちを無視して小屋の中を調べ、続けてぷちの身体を確認し始める。 そして、もう一度「おかしいな」と小さく呟いた。 「ぷち、お前トイレはどうだ? お腹は空いてないのか?」 テチテチ、テッチー! 「そうか、大丈夫なんだな。待ってろ、今餌を用意するからな」 テチテチ、テチーッ♪ 餌という言葉に反応して、もう一度ペコリと頭を下げる。 としあきは、まだ何か納得がいかないといった顔付きだったが、すぐに実装フードの箱とミネラルウォーターの入ったペット ボトルを運んでくる。 手早く準備を整えてやると、ぷちの頭を指先で軽く撫でた。 「はい、食べていいよ」 テチィ♪ テチテチ、テチーッ 「おっ、ちゃんといただきますできるんだな。感心感心」 両手を合わせてお辞儀をするぷちに、としあきはようやく微笑む。 ぷちは、としあきの機嫌が治ってよかったと思った。 目の前にある、直径10センチ弱のプラスチック皿には、三粒の実装フードが盛られている。 脇には、それより小さな深皿が置かれ、なみなみと水が入れられている。 ぷちにとって、この食事は第一関門だ。 昨日は、としあきが直接手の中で食べさせてくれたので粗相はなかったが、これからは彼の監視下で、一人で食べ なければならない。 ぷちは、とても緊張した。 ご主人様の目の前で食事をする……この成功・失敗次第で、その後の扱われ方が変わってしまう事もあるのだ。 高級飼い実装の娘として理想的な成長を遂げてきたぷちは、普段なら何の問題もなくこなす事が出来るが、いざ本番と なると、どうしても緊張してしまう。 練習時の力を本番で発揮出来ないのは、人間だけでなく実装石も同じだ。 恐る恐る実装フードを一粒取り上げると、ぷちはチラリととしあきの顔を見つめ、角の丸まった宝石型のフードの端に歯を 立てた。 実装フードは、クッキータイプの硬いものではなく、半練りの柔らかいタイプだ。 ぷちは、勝利を確信した。 クッキータイプだと、実装石の口の構造上どうしても端から細かい破片が零れてしまうが、半練りのものならかなり回避 できる。 仔実装の弱い咀嚼力でも適度な大きさに噛み千切れる上に、塊で口の中に入るため、こぼしにくいのだ。 これならなんとかなりそうだと考え、一心不乱に食事に取り組む。 こぼさないように、みっともなくならないように、無駄に時間をかけないように…… 頭の中で、過去に学んだ食事のマナー・ルールが駆け回る。 一つ目を無事食べ終わり、二つ目を齧り始めたぷちは、食べる事に全神経を集中させる余り、いつしか自分を見つめて いるとしあきの存在すら頭から飛ばしてしまった。 一つの事に集中しながらも、周囲の変化に気を配れるゆとりなど、さすがの彼女にも無理だった。 「なあ、ぷち」 カリカリ、カリカリ… 「ぷちったら」 もぐもぐ、もぐもぐ 「おーい、聞こえてるのか?」 カリカリ、カリカリ 「ぷちーっ」 もぐもぐ、もぐもぐ…… 「返事をしなさい!」 カリカリ、もぐもぐ、カリカリ…… もうすぐ二つ目を食べ終わろうとしているぷちの耳に、としあきの声はまったく届いていない。 二つ目も問題なく食べ終わり、三個目に手を出そうとしたその瞬間、ぷちは、額に強烈な痛みを覚えて後方に吹っ飛ばされた。 ビシッ! テチャアッ?! フードを取り落とし、10センチほど転げる。 何が起こったのか咄嗟に理解できなかったが、餌皿の真上にとしあきの手がある事に気付く。 激しく痛む額を押さえて、ぷちは初めて、自分がデコピンを食らった事を理解した。 テ、テェェ?! 「なんで話し掛けているのに、無視するんだ?」 テ、テチィッ? 「ご主人様に話し掛けられたら、ちゃんと返事をしろ」 テ? テ、テェェ… 「なんだ、その不満そうな顔は?!」 ビシッ! テチャッ?! 再びデコピンを食らい、更に後方へでんぐり返る。 今度は後頭部をしこたま床にぶつけてしまい、その衝撃で、つい総排泄孔を緩めてしまった。 ブリブリ、ブリリ…… テ、テェェェッ?! それは、ぷちがトイレの事を躾けられて以来、初めて冒してしまったパンコンだった。 大きなコブの出来た額の痛みよりも、その方が何倍もショックだ。 ぷちは、さっきまでほとんど便意がなかった筈なのに、どうしてこういう時だけ漏らしてしまうのかと、自身を激しく呪った。 ダンボールの箱庭の外では、としあきが嫌そうな顔つきで鼻を摘んでいる。 「こら、お漏らししたな! 返事もしない上に粗相とは、なんて悪い仔なんだ」 テ、テチィィッ?! テェェ、テチーテチー!! 「言い訳するな! えーと、こういう時は確か…」 何か独り言をぶつぶつ唱えると、としあきはすっと両手を伸ばし、ぷちの胴体と右腕を押さえた。 次の瞬間、パキッと乾いた音が響き、今まで経験した事のないような壮絶な痛みが全身を支配した。 テ、テジャアアァァァァ————ッッッ!!! ブリブリブリ、ブリブリブリ…… 「うわっ、臭いっ!! まだ漏らすかっ!」 続けて左腕が押さえられ、再び、パキッと鈍い音が鳴り響く。 デジャアァァァァ——ッ、テジャアァァァ———ッ!! 両腕をほぼ付け根からへし折られたぷちは、パンツを水風船のように膨らませながら、激しくもんどり打つ。 パンツの隙間から漏れた糞がダンボールの床を汚し、実装服にまで付着するが、今のぷちにはそんな事を意識するゆとり すらない。 ただ、全身に襲い掛かる恐ろしい痛みに身悶えし、必死で叫び続けるしかない。 十分以上も暴れまわった後、さすがにやかましいと思ったのかとしあきに捕まり、無理矢理パンツと実装服を取り上げられる。 薄汚い裸に剥かれたぷちは、乾いたティッシュペーパーで身体を拭かれ、ダンボールの小屋の中に放り込まれた。 「いいかいぷち。俺の言う事をちゃんと聞かないとお仕置きなんだぞ。ちゃんとしっかり覚えるんだ!」 小屋の向こうから、少し厳しい口調でとしあきが話し掛けてくる。 さすがにこれ以上痛めつけられる事はなかったが、ぷちは、なぜ自分が傷つけられたのか、どうしても理解出来なかった。 テェェ……テスンテスン、テスン…… 両腕の痛みが引き始めたのは、それから一時間も後だった。 額のコブは早々に引っこみ、ようやく、自分が裸にされている事に気付く。 ぷちはよろよろと小屋から出て餌皿と水皿を探したが、既に片づけられたようで何もない。 長時間泣き叫び続けたせいで、かなり喉が渇いていたが、これでは水分補給など出来そうにない。 ぷちは、寂しそうに部屋の天井を見上げると、その場にペタンと座り込んでしまった。 以前ペットショップに居た時、妹達が店員に腕を折られた所を見たことがある。 それは、彼女達が店員の言う事を聞かず、食事時なのに遊び回っていたせいだった。 ぷちも必死で止めようとしたが言う事を聞こうとはせず、結局はお仕置きされた。 その記憶があったため、ぷちは、自分がお仕置きされてしまったんだという理解は出来ていた。 だが。 どう反芻しても、自分がお仕置きされる理由が思い浮かばない。 確かにパンコンしてしまった事はいけないが、最初にデコピンを受けたのは何故なのか? しかも、なぜ二回も? それに、不可抗力のお漏らしでいきなり両腕を折るなんて、酷すぎるのではないか? 朝起きて、布団と身なりを整えて、餌を要求したりはせずじっと待ち、としあきが来てからも丁寧に挨拶を繰り返した。 食事の前にはちゃんといただきますをして、その時は褒められた。 餌を溢さないようにと、真面目に集中して食べていた筈だった。 どう考えても、自分には落ち度はない筈だ。 それは、なんでも自己中心的に考える実装石なら当然持ちうる思考パターンではあったが、ぷちはそれに捕らわれず、 客観的に自身を分析する能力を持っている。 だが、それを持ってしても納得が出来ない。 それでもお仕置きをされた以上、自分が気付かない何かがあった… 「自分が叱られた理由が絶対ある筈だ」と思い込み、必死で悩むが、いくら考えても回答に辿り着けない。 いつしか腕の痛みすら忘れてしまうほど悩み続けたぷちは、やがて、としあきがおかしな表情を浮かべた事と、自分が パンコンしてしまった事を結びつけ、「朝食の前にトイレを済まさなかった事が原因だった」のだと結論立てる事にした。 というより、もはやそれしか該当する要素が存在しないのだ。 テェェ、やっぱり、あのおっきなトイレでウンチしなきゃダメなんテチ? でも、ワタチのちっちゃい身体だと無理テチ! どうすればいいんテチ? ぷちは、もう一度あのトイレへと移動し、あらためて中を覗き込む。 段差をよじ登り、薄暗い内部を見つめるが、やはりどう考えてもここで用を足すには無理があるとしか思えなかった。 実際、今も足下がおぼつかず、ヘタしたらバランスを崩して奥に転がってしまいそうだし、便意が強ければ段差を上る時の 力みで漏らしてしまうかもしれない。 どう考えても、これはあまりにも非効率的だ。 だが真面目なぷちは、二度と今朝のような事を起こさないように、今ここで練習を兼ねて用を足してみようと考えた。 そして、もう二度ととしあきを怒らせないようにしようと、固く決心する。 それが、最悪の選択である事に気付かぬまま—— ※ ※ ※ テチャアァァァァ————ッ!!! 部屋に戻ってきたとしあきは、突然聞こえてきたぷちの叫び声に驚き、箱庭を覗き込んだ。 だが、どこにもぷちの姿はなく、小屋も空っぽだ。 洗濯を済ませた実装服とパンツを握り締めながら、としあきは焦って声のする方向を辿る。 ぷちの泣き声は、トイレの中から響いていた。 テチャァァァァッ!! テチャアアァァァッ!! ドーム状の実装トイレの一番奥、糞が溜まる部分に、ぷちは頭から落ち込んでいた。 しかも、昨日家に来たばかりの時にひり出した糞の中に、全身をべっとりと浸している。 そのおぞましい光景に実装服一式を取り落とし、としあきは、しばし呆然と眺め続けていた。 ご、ご主人様ぁっ! 落ちちゃったテチ、トイレに落ちちゃったテチぃっ!! おっきすぎて、ワタチここでウンチできないテチィィ!! た、助けてテチィッ!! それから数分後、ようやく我に返ったとしあきは束ねたコンビニ袋を手袋代わりにして、全身糞まみれのぷちを救い出した。 おかげで、トイレとその周辺は黒ずんだ濃緑色に染まり、室内に漂う臭気も凄まじいものになった。 解放されたぷちは、そのまま風呂場に運ばれ、洗面器の中で全身お湯攻めにされる。 ろくに呼吸も出来ない状態で、40度近い熱湯の中に叩き込まれたぷちは、思わず窒息死しかけてしまった。 全身を洗浄され、飲み込んだ汚水を吐き出されたぷちは、そのまま怒り心頭のとしあきによって「両脚粉砕の刑」を叩き 込まれてしまった。 デジャアァァ————ッ!?!?! 「あそこはトイレだと教えたじゃないか! どうしてそんな所で遊ぼうとするんだ! 悪い仔だなっ!!」 テジャァ——ッ!! テギャア———ッ!! (違うテチーッ! ウンチしようとして失敗しただけテチーッ!!) 「罰として、明日の朝まで餌と水はナシだ! まったく、どうしてこいつはこんなに出来が悪いんだ…」 今のぷちにとって、唯一幸運だったのは。 あの巨大トイレに落ちる直前、体内に残っていた糞をかろうじて搾り出せていた事だ。 そのおかげで、両脚粉砕という大衝撃にも漏らす事はなかった。 指で押し潰され、引き千切られた時の出血で身体が汚れはしたが、それでもさっきよりは遥かにマシな状態だった。 その後、乱暴に傷薬を塗りつけられ、適当に包帯を巻かれて小屋に戻されたぷちは、その日はほぼ丸一日泣きながら 過ごすしかなかった。 勿論、どんなに泣いてもご主人様は覗き込んでくれない。 ぷちは、自身が受けた不幸だけでなく、あれだけ考えたにも関わらずご主人様の怒りを買ってしまった事が、悲しくて 仕方なかった。 一万匹に一匹いるかどうかという、希少な「理想的仔実装」のぷちは、本来なら決してありえないほどの不幸を体感 させられていた。 (続く) ------------------------------------------------------------------------------------------------ ※完成して上げています。 追伸:ID:P1IR2kqYさん愛してる
