タイトル:【観察】 実装石の日常 助け合う姉妹
ファイル:実装石の日常 15.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:22164 レス数:1
初投稿日時:2007/12/27-20:04:34修正日時:2007/12/27-20:04:34
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成体となった実装石は、ほとんどが親仔であれ姉妹であれ、独立して生きていく。
ごみあさりなど作業を共同で行なうことはあっても、生活は別々だ。

理由は様々だ。
姉妹そろって成体になれること自体少ない。
実装特有の性格から仲違いしてしまう。
生活圏を同じくすると収穫などが難しくなる・・・・・・。

だが中には成体になっても行動を同じくする例もないこともない。




 実装石の日常 助け合う姉妹




人通りの少ない住宅地を2匹の成体実装が歩いている。
服は風雨にさらされ劣化しており、埃にまみれている。

「お姉ちゃん、少しお腹が減ったデス」

「今日は獲物が見つからないデスー」

この野良実装、姉妹である。

かつては親も他の姉妹も居たのだが、たまたま親を失い、残された姉妹は路頭に迷った。

保護者なき仔実装の運命は凄惨である。
飢えて死ぬ者、人に踏まれて死ぬ者、烏に食われる者・・・・・・。
気がつけば2匹だけになっていた。
途中、姉は髪の半分近くを失う災難にまであっている。

筆舌に尽くしがたい苦労の末、2匹は無事成体となった。
仔実装と比べれば圧倒的に有利な状態になったのだ。

もう通行人にそれと気づかれず踏み殺されることも無い、風に飛ばされ死ぬこともない。
エサの奪い合いでも他者を押しのける立場である。




*************************************





公園の隅に古びたダンボールがあり、2匹は体を丸めて中に入って休んだ。

たまに愛護派の給餌があれば、2匹は必死の形相で集めて回った。




ところで、こうした時、つまり給餌の時、いわゆる愛護派の表情を御覧になった方はいるだろうか?
その時人は大抵、給餌する時いわゆる愛護派のゆがんだ笑顔を見る。
「ほら、私が恵んでやっているんだぞ・・・・・・」
という優位な立場に酔っているように思えるのだ。

それは実装石をなぶり殺しにする、いわゆる虐待派の狂人とどう違うのだろう・・・・・・。

閑話休題。




乏しい収穫の代償にあちこち擦り傷だらけの姉妹。

それでも笑顔だ、久しぶりに雑草や虫ではない、腐った生ゴミでもない実装フードを入手した喜びで笑顔をかわしている。

たまたま、すれ違った野良実装がちらりと姉実装を見てあざ笑う。

「・・・・・・デヒャヒャ。あいつ、髪が半分しかないデス」

大きな声ではない、公園の実装石が他者を笑いものにするのは珍しくも無い。

だが、姉妹のとった行動は特筆に価した。

「やめるデス!」

と叫んだ姉をほおって置いて、妹が笑った実装石に駆け寄って一撃で殴り倒す。

デヒャ、と血を吐きながら吹っ飛ぶ野良実装。

「この口かデス! この口でお姉ちゃんを笑ったデスゥ!?」

逆上した妹は大きめの体で殴りつけ、蹴飛ばす。

強打の一撃で戦意を喪失した野良実装、地面に這いつくばって頭をかばっている。

容赦なく蹴りつける妹。

姉が後ろからしがみ付いた。

「無駄に体力を使うのは駄目デス—!!」

そうである、野良実装が何かを得るため以外に体力を使うのは浪費以外の何者でもない。

暴力を振るって一段落した妹、荒い息をしながら野良実装に唾を吐きかけると、姉と帰宅していった。

この2匹、よく助けあい公園で生きていた。




*************************************






とは言え公園の生活は大変だ、2匹で協力し合い効率よくエサを得てきたものの、限界であった。

あるとき、賢い姉は妹に言う。

「エサを持ってる奴を襲えばいいデス」

「・・・・・・・・・・・・」

気が進まない妹だが、ひもじい思いはもう十分である。
それに姉の言う事はいつも正しい。

2匹は人目につかない場所で、単独行動する成体を見かけると襲い掛かった。

「死ね! 死ね! 死ねデス!」

鬼の形相で倒れた実装石の顔面に石を振り下ろす姉実装。
気の弱い妹実装はやや怯えた。

「お姉ちゃん、勝負がついてるデス。もう十分デス!」

「何をいうデス!」

妹を睨みつける姉。

「ここでこいつを生かしておいたら、2匹組の私たちのことが知れ渡ってしまうデス!」

そうなれば警戒され仕事がやり難くなる、と言う。

「・・・・・・ま、待ってデス、誰にも言わないデスー。仔がお家で待ってるデス、殺さないでデスゥ!」

親が死ねばまず仔は助からないのは言うまでもないが、その死にいたる道は惨い。
この姉妹はそれを知り尽くしていたので、妹は顔色が真っ青だ。

「お姉ちゃん、やっぱり・・・」

「デヒャヒャヒャ! 知るかデス! 糞蟲のガキが何匹死のうが構わないデース!」

そう言って振り上げた石を野良実装の顔面に叩きつける。

「デジャッ」

断末魔は短かった。
返り血を浴びた姉実装は満面の笑みで妹の顔を見る。

「さ、お家に帰ってゴハンデスー」

2対1の戦力差はいかんともしがたく、多くの実装石が襲われ貴重なエサとついでに命を奪われた。



こんな姉だが、妹に対しては態度が全く違う。
今日も奪ったエサ(生ゴミ)の良い物を妹に差し出す。

「お姉ちゃん、私ばっかり悪いデス」

「気にすること無いデス、お前は私より大きいから当然デース」

エゴの塊の実装石とは思えない心配りで、姉実装は自分より少し大きい妹にエサを与える。





*************************************




しかし収奪を基本とした生活は破綻しつつあった。
彼女らの活躍で近隣の野良実装が激減したのだ。
なにしろ不意打ちと2対1の戦いの上、降参しても絶対殺すのでは当然である。
姉妹の行動範囲から野良実装はいなくなった。

人間たちは喜んだものの、彼女らは嬉しくともなんとも無い。

今さら生ゴミを自力で探すのも面倒である。

ガチャン。

ある民家の庭に面したガラス戸が割られた。
家人が出かけたのは、賢い姉が確認済み。
この家、野良実装対策の強化ガラスを使っているのだが、2匹がかりで持ち上げた石には耐えられなかった。
おそらくただの野良実装2匹では無理であろう、指が無く不器用な実装石では協力が難しい。
そこは姉妹である、息のあった動きで石を持ち上げたたきつけた。

「すごいデスー!」

妹は歓声を上げ、姉は自慢げだ。
無理も無い、あれほど鉄壁であった見えない壁があっさり砕けたのである。

「さ、いそぐデスー」

しかし喜ぶのは後回し。
今は急いで頂くものを頂く。

その夜2匹は豪勢な夕食を堪能した。

まさに味を占めた2匹は空き地の隅のダンボールからエサが無くなると、人家を荒らしに出た。

「お姉ちゃんのお陰で美味しいものが食べられるデスー」

妹は大喜びだ、奪ってきた菓子パンをほお張りながら。

「力のあるお前の協力のお陰デスー」

ポテトチップを食べ散らかしながら姉も満更でもない。

姉妹にとっては極楽のような生活だ。
仔実装の頃、親が居ても1食ぬきは珍しくなかった。

親を失ってからは空腹が当たり前、死んだ姉妹の死骸を食い、泥水を啜っていた。

「生きていて良かったデスー」

特に妹は幸せそうであった。





*************************************





賢い姉、力持ちの妹という組み合わせも良かったのだろう。
2匹は向かうところ敵なしであった。

ネコに遭遇したときも2匹で必死に暴れて、なんとか追い返した。

満身創痍で姉妹は抱き合って喜んだ。

「とうとう、あの化け物に勝ったデス!」

「もう私たちに勝てる奴はいないデス—!」



ますます勢いづく2匹、人家に行くときも以前は留守であることを慎重に確認し、それが出来なければ諦めた。

「なかなか出てこないデス」

電信柱の影から目当ての人家を見張るが、住人がなかなか出てこない。
が、いまさら違う家を狙うのも面倒である。
人目につくか、エサをダンボールまで持ち運ぶ距離は短いか。
それらを考慮すると、他にとりあえず目標は無い。

「・・・・・・お姉ちゃん、そろそろ帰ったほうがいいデス」

「いまからこのニンゲンの家を襲うデス」

「でも出て行ってないデス」

「きっと寝てるデス—。さっさと終わらせれば問題ないデス—。
もし見つかっても、私たちなら大丈夫デス」

自信満々の姉実装の言葉に、消極的だった妹もうなづく。

「お姉ちゃんの言うとおりデス、万一みつかっても2匹なら大丈夫デス」

ガチャン。

いつもの手はず通り、ガラス戸を石で叩き割る。

さすがに緊張の面持ちで侵入する2匹だが、人気はない。

「寝てるか、気がつかない間に出掛けたデス、さっさとゴハンを探すデス—」

姉の言葉に妹はうなづくと、あたりを見渡してさっそく食べられる物は片っ端から手を伸ばす。

机の上のバナナと菓子類、キッチンのパンをコンビニ袋に入れていく。

姉はまだ用心して、警戒しているが、ふと床に置かれた大きな壷に気づいた。

・・・・・・中に何かあるかも知れないデス

以前中々旨い菓子を見つけた経験から、姉実装は壷の中を覗き込む・・・・・・が中身はない、空だった。

「下らない物を置いておくなデスゥ!」

期待が裏切られ逆ギレした姉実装、壷を蹴飛ばす。
菓子が入っていた壷とは全然違う古めかしい壷は、
横になってごろごろと転がり、勢いよく壁に激突し、割れた。

「お姉ちゃん、もう沢山手に入ったデス!」

暴れている姉実装に妹実装が言う。
コンビニ袋は収穫でパンパンに膨れているので、姉実装の不機嫌な顔も笑みが浮かんだ。

「こんなにあったデス!」

と、袋の口を開いて姉実装に盗んだ物を見せた。

菓子、パン、果物、ジュースと十分すぎる内容である。

「では長居は無用デスゥ♪ とっととこんなところは、おさらばデス」

「こんなところはひどいなぁ」

大人しげな人の声であった。

姉実装が慌てて振り返ると、若い男性が割れた壷に視線を落としている。
ゆっくりと破片を注意深く拾い上げ、光に照らす。

「南宋の壷だ。青磁輪花鉢のような代物じゃないけど、爺ちゃんの形見分けだったんだ」

「お、お姉ちゃん、ヤバイデス。早く逃げないと・・・」

「何こいつブツブツ言ってるデス?」

突然現れた住人に、妹は怯んだものの、姉は持ち直していた。

なにせ、穏やかそうな青年である。
自分たちを見つけたが、攻撃してこない。
リンガルがなくて分からないが、なにか呟いているだけ。

・・・・・・こいつはちょろいデスゥ

舐め始めていた。
こうなると実装石である、驕りと侮りの相乗効果で負けない気がしている。
いや、最初から人間に対して恐怖心が弱くなっていたが。

「こいつ、弱いデス。やっつけてここに私たちが住み着くデス」

「デ! でもニンゲンは怖いデス、大きいデス」

「私たちは今まで負けたことがないデス! それに、2対1デス! 負けっこないデス! この家をもらってやるデス!」

姉は妹を説得すると、人間に向う。

「おいニンゲン! ここは今から私たちのお家デス! さっさと出て行くデスゥ! そうしないと痛い目を見るデス!!」

姉妹が話し合っている間にか、青年の手には携帯電話が握られており、リンガル機能を立ち上げていた。

「耳が悪いニンゲンかデス!」

「・・・・・・」

青年は無言でどこかに消え去る。

「お姉ちゃん!?」

「見ろデス! ニンゲンは恐れをなして逃げていったデス! これからはここで暮らせるデス!」

ダンボールと比べれば人家は宮殿に等しい。

姉妹は高い天井、家具、広い室内を改めて見直す

この立派な建物が、たった今から自分たちのものになったのだ!

立派な布団もあるだろうし、水だって使い放題。

寒さに震えることも無い。

じわり、と妹は涙する。

「とうとう、こんな立派な家まで手に入ったデス。全部、お姉ちゃんのおかげデスゥ」

そんな妹に姉は寄り添い肩を抱く。

「違うデス、姉妹でがんばってきたからデス! お前が居なければお姉ちゃんはここまでがんばれなかったデス!」

「お、お姉ちゃん・・・・・・」

と、大きな妹は姉のしがみ付いて涙を流す。

そんな妹の頭を姉が撫でてやっていると、消えた人間が戻ってきているではないか。

「まだいたかデス! さっさと消えないと痛い目見るデス!」

姉は気づくべきだった、青年が黒い安全靴を履いていたことに。

「妹ちゃん! こいつを完全に追い出すデス! デジャアアアアアア!」

姉は青年に向って威嚇し始める。

妹も涙を拭うと、人間を睨みつけて威嚇する。

「ここはもう私たちのお家デス! デジャアアアアアアア!」

デジャアアアと威嚇する2匹に、つかつか、と青年は無防備に近づいてきた。

「2対1で勝てると思うかデスゥ! デジャアアア!」


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


30秒後、姉妹は久しぶりに懐かしい感情を思い出していた。

それは圧倒的なまでの無力感、である。

体長10cmや20cmのころは毎日感じていたものだ、慣れ親しんだ感情と言っていい。

何かを取ろうとしても届かない、走っても追いつけず、攻撃されれば悲鳴をあげて逃げ惑う。

しかしそれは過去のはず。

そう思おうとした姉は、血反吐を吐いてむせる。





30秒間の戦闘はあまりに一方的だった。

威嚇する姉は、ヒュバッと靴音を聞いたかと思うと靴先が顔面にめり込み、ガラス戸をぶち破って庭先にたたき出された。

「お姉ち」

言い終わる前に、妹は腹部に蹴りを受けて割れたガラス戸から庭に蹴りだされた。

・・・・・・なにがあったのか、なにをされた!?

考えようと姉があちこちから出血しながら立ち上がると、目の前に青年が立っている。

「よう、糞蟲」

またしても蹴り。

姉は顔を歪められて地面の転がった。

「デジャアアア!」

威嚇の声ではない、顔面骨折の悲鳴だ。

「お姉ちゃんをいじめるなデス———!」

力自慢の妹が立ち直って、渾身の力で人間の足を殴る!

殴って殴って殴る。

「吠えるな糞蟲」

青年が少し身を翻し、かかとで妹を蹴飛ばす。

殴りかかっていたこぶしと真正面からぶつかり、妹は激痛に絶叫した。

「デ、アアアアアアアアアアアアア!」

右腕は付け根から引きちぎれ、無残に転がっている。

傷口を押さえて転がりまわる妹実装。

そこへ上から足で踏みつける。

「デジャッ!」

悲鳴と共に、口から血が吹き出た。

「お前らでも血が赤い、というは理不尽な話だな」

青年は痙攣する妹を残して、苦痛とショックで身動きできない姉に近づく。

「デ、デジャアア・・・・・・」

か細い威嚇に構わず、青年は姉を持ち上げると、地面に頭からたたきつけバウンドさせた。

「デボゥ!」

この間、わずか、30秒の出来事であった。



無力感とダメージで姉妹はへたり込んだ。

頭上からは右手にリンガル、左手に壷の破片を手にした青年が見下ろす。

「やあ野良実装さんこんにちは。
まあ招いた覚えはないが、細かいことはかまわない。
問題は祖父の形見を粉々にしてくれたことだ、これに比べれば家を荒らしたことなど、物の数ではないからな」

壷の破片を握るのだから手から血が少し流れた。

「で、この壷を割ったのはどっちのほうだ?
俺にとってお前らの命の兆倍は価値のある壷を割ったのはどいつだ?
虐待は嫌いだが、命できっちり償ってもらう。
生まれてきたのを後悔するほど償ってもらう。

そこでもう一度尋ねるが、壷を割ったのはどちらだ?」

青年の声は冷静だが、凄まじい怒りに覆われていた。
瞬く間に半死半生とされた2匹はたとえリンガルがなくても理解出来たろう。

2匹の姉妹は視線を交し意思疎通した。

・・・・・・こ、こわいよ、お姉ちゃん・・・

・・・・・・だ、大丈夫!必ずお姉ちゃんが何とかするから・・・

怒りの前に、2匹は痛みも忘れてパンコンしていた。
侵入前の傲慢な思いなど吹き飛んでいた・・・。

「よし、壷を割った奴を教えれば、教えた方は許してやるぞ」

その一言を姉は聞き逃さなかった、慌てて青年の顔を見る。

だがちらりと妹の顔も見て、言葉は発さなかった。

「耳が悪い実装石さんかな? 壷を、割った奴を、聞いてるんだ」

噛んで含むように青年は言う。

「・・・・・・壷を割ったのはどっちだ?」

忍耐も限界に近づいた様子だ。

おずおずと、指のない手が1匹を指す。

「こいつが割ったデスゥ、ニンゲンさん」

と、姉は妹を指差した。





*************************************





姉は隣りにいる妹を指すと、青年だけを見て言う。

「割ったのはコイツデス!」

妹は、黙って姉を見た。
驚いて妹は声も出ない。

「私はニンゲンさんの家には入りたくなかったデスーでもこいつに脅されて…」

・・・・・・お姉ちゃん

「ニンゲンさんは間抜けだから大丈夫だってコイツは言っていたデス」

・・・・・・きっとお姉ちゃんに何か、考えがあるんだ

「こんな糞蟲は死んだ方がいいデス」

そう、今までも姉の知略で姉妹はいく度も切り抜けてきた。
今度もなにか考えがあるはずだ。

妹は不安に押しつぶされそうになりながら、姉を見ていた。

姉は全身から滝のように汗を流して言う。

妹が言い出し、自分はついてきただけだ。壷を割ったのも、家を荒らしたのも妹。

悪い奴なので手を切りたかったが、怖くて言えなかった。

「私たちはママが早く死んだデス、すっごく苦労して生きてきたデス。
だから妹を見捨てられなかったデス」

じっと、見つめる妹の視線。

「でも、妹はほかの実装を襲ってゴハンを手にしてたデス!
私が殺さないでって言っても、仲間を殺したデス!
ママを殺されたら、私たちと一緒で仔が大変なことになるのを知ってるのにデス。
いくら生きるためでもこいつは許せないデス—!」

いつの間にかすり替えを展開して、妹を極悪非道に仕立て上げようとしている。

しかも自分の罪をそのまま擦り付けて。

・・・・・・お姉ちゃん


舌を良くまわして生き残ろうと必死の姉の姿に、それでも信頼を寄せる妹。


・・・・・・でも、なんで私の目を見てくれないの?


今まででも色々な局面はあったが、それでも目で合図を送ってくれた。

だが今は一目も見ようともしない、ただ人間に自分の言葉を並べるだけだ。

「もういい」

「そこで妹にやめるよう言ったデス」

青年はいらだつ。

「黙れ!」

一喝され、姉は縮み上がった。

そんな姿を一瞥すると、青年は妹のほうを向く。

「本当なのか?お前の姉はああ言っているが」

「・・・・・・・・・・・・」

「黙っていたら分からないだろ、認めたと判断するぞ」

むしろ優しいと言える口調で、青年は続ける。

「言っておくが、一度決まったら冤罪だろうと何だろうと、お前に償ってもらうぞ。真犯人を匿ったんだからな」

そこで、と青年。

「お前騙されてないか? 壷を割ったのは姉じゃないのか? それとも、あいつの言うとおりなのか?
黙っていたら姉の証言を認めたと判断するぞ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

なおも、黙って青年を見上げる妹。

滝のような冷や汗をかきながら、そんな妹と青年をみやる姉。

妹が口を動かそうとした瞬間、姉が叫ぶ。

「ニ、ニンゲンさん! 約束どおり私は見逃して欲しいデスゥ」

表情から怒りを消し去った青年は硬い声で言う。

「まあ、約束だからな。逃がしてやるさ……」

青年は少し動いて道を作ってやると、顎をしゃくる。

姉は青年の顔を見るがもう興奮した表情はない。

だが、恐ろしいまでの侮蔑の感情が込められた目であった。

デ、と悲鳴ともなんとも言いがたい声を上げて、姉は走り出す。

庭を駆けていき、外へまっしぐら。

そんな姉の背中に青年が一言かける。

「お前みたいな奴はどうせ地獄行きだよ」



妹は何も言わず、逃げていく姉の姿を見ていた。

「さて」

青年は残された妹に声をかけてやる。
妹は彫像のように動かず、表情も読めない。

「多分、あいつが助けに戻るとか考えてるんだろうけど、まずそれはないな」

安全靴にこびり付いた血肉を地面にこすり付けて言う。

「だが今いきなり殺すのも不憫だ。10分だけ、待ってやる」

妹は口を閉ざして青年の顔を見、そして視線を地面に落とした。



・・・・・・お姉ちゃんは考えがあるんだ、きっと助けに戻ってきてくれる

・・・・・・一度ニンゲンから離れる必要があったんだ、だから、嘘をついて私のせいにしたんだ

・・・・・・必ず、必ずお姉ちゃんは戻ってきてくれる



姉は力の限り走ったが、傷口が傷み、さすがに座り込んだ。

青年の家から50mほどは走っただろうか。

気がつかない間に両目からだらだら血涙が溢れていた。

目の前の死から逃れられた安堵感・妹を陥れた罪悪感でパンコンする。

「しょうがなかったデス!」

呼吸も整えず、吠えるように言う姉。

「私が死んだら、間抜けな次女だけじゃ生きていけないデス、
それなら賢い私が生きのびるべきデス、合理的な考えデス。
別に自分の身が可愛かったわけじゃないデス、しょうがないことデス!」

涙が止まらなかった。

「しょうがないことデス!」





「来なかったな、当たり前だが」

10分が経つと青年は妹に言ってやる。

「分かったろう? お前を見捨てて、あいつ・・・・・・お前の姉は逃げたんだよ」

彫像のように固まっていた妹、ゆっくりと口をあける。

「・・・・・・ア」

どっと涙が出る。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

両手を地面につく。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
アアアアアアアアアアアアアアアア!
ア——————————————————————————————、アアア————!」

喉が破れんばかりの慟哭が響く。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

黙って青年は見下ろしている。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

離れた姉にまで、裏切られた妹の凄まじい慟哭が聞こえた。

地面にしゃがみ込み、届かない手で耳を押さえようとする。

やむことの無い慟哭が嫌でも聞こえてくる。





・・・・・・2月ほど前。

姉妹がやっと成体になるかどうかのときだ、彼女らは駆除されそうになった。

とくに妹は捕まってしまい、状況は絶望的。

「妹ちゃんを放せデスゥ!!」

姉はそこへ突進した。

とにかく暴れまわり、2匹は命からがら逃げ出した。

代償として、暴れたとき掴まれた髪の半分を引き抜かれながら。

あまりに痛ましい姿に妹は泣いた。

「お姉ちゃん・・・・・・・」

「泣くほどのことはないデスゥ。妹のお前が無事でお姉ちゃんは嬉しいデスゥ」

・・・・・・ほんの、2月ほど前の話だ。





「アアアアアア!ア————————————アアアア!アアアアア————アアア————————アア!」


姉の涙も止まらない。



「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
アアアア————————————アアアアアア!」



妹も血涙を流していた。



慟哭はよく響く。

まるで割れ響く歌のようだ。





END

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1 Re: Name:匿名石 2016/11/19-00:52:09 No:00002883[申告]
せっかくライバルを駆逐した公園
虫や雑草、たまに来る愛護派の餌やりでも独占して生きていれば競争もなく平穏に生きられたのに
ニンゲンさんに手を出したのが運の尽きだったな
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