その日は朝からクリスマスだった。 そして、その実装石親仔は路頭に迷っていた。 「デスゥ……」 「チィー」 「テェェン、テェェン、テェェン」 「テチャアアア、ヂィヂィ!」 寒風の中、焦燥と絶望に包まれた面持ちで途方にくれる親実装。 そんな母親を憂いの篭もった目で見上げる長女。 ただ、破綻してしまった生活を嘆くのに精一杯な次女。 訳は解らないけど兎に角ヒステリックに喚くだけの糞蟲な三女。 「デスゥ……」 クリスマスソングが遠くで流れ、木枯らしが吹き荒ぶ路地裏で、親は仔達を宥めながら回想する。 そう、ボロ屋ながらも家が有り、蓄えもそこそこ有った今朝方までの事を……。 その日は朝からクリスマスだった。 そして、その実装石親仔にとっては、普段通りの冬の朝だった。 朝起きれば公園全体の数%が凍死か衰弱死し、生き残りがそれらが残した服や物資を剥ぎ取り、屍肉を奪い合う。 冬場は実装石にとって死の季節だ。その親実装も生き残る為に、近くの全滅したダンボールハウスから親指実装の死体を持ち出し家に帰る途中だった。 「デスゥ?」 後ろで壮絶な略奪戦が行われている中、数発殴られながらも首尾良く死体に有り付けた親実装は、その騒音に首を傾げた。 乱闘中の実装石は気が付かないものの、周りで機会を窺っている奴や要領よく抜け出して来た連中は気が付いたようだ。 車の停車音だった。 そして降車音と共に慌ただしく堅い足音が多数聞こえて来る。 実装石達が首を傾げているウチに、相手が直ぐに姿を現した。 そう、今は年末『大掃除』の時期。 緑色の汚物によって年始年末に不愉快な思いをしたくないと思う人々は彼らを呼ぶ。 そう、実装駆除業者にとっても書き入れ時だ。 「イェア! メリークリスマスだ糞蟲ども!」 サングラスを掛けた金髪男を先頭にして、屈強な男達が十数人やって来る。 総員が手にごつい対実装用駆除銃を持ち、迷彩服の上にサンタ服と赤い帽子を引っかけていた。 「俺からの素敵なクリスマスプレゼントだ、受け取れ!」 愉悦に満ちた男の号令と共に繰り出される雨嵐のような銃撃。 たちまち冬の朝の公園は地獄絵図と化していく。 発見されれば即座に蜂の巣にされる実装石達。もはや、家を捨てて公園から逃げるしかない。 この時期に家と蓄えを捨てる事は死ぬ事と同義だが、逃げなければ100%殺される。 「デスゥーデスゥー!」 銃声と奇声と絶叫が木霊する中。 親実装は手にしていた死体を泣く泣く放棄し、我が家に向かって逃げ出した。 彼女ほど決断力が無い奴は、重い荷物を持ったまま移動しようし、銃火に補足されて四散していく。 「野郎共、クリスマス・ダンス・パーティーだ! 逃げる奴にゃ総排泄孔を1つ余分にこさえてやれ!!」 銃弾によって強制的にダンスを踊らされる実装石達。 壁の花になろうとした者達も、片っ端からダンスを強いられていく。 呑気な「赤鼻のトナ○イ」のBGMが公園内に流れ、実装石達の断末魔をより凄惨に引き立てた。 「ダンスが済んだ糞蟲は必ずチェックしろ。俺は生きている糞蟲が大っ嫌いなんだ」 デ、デなどと呻き痙攣しながら地べたに張り付いている死にかけにも、容赦なく銃弾が振る舞われる。 冷酷な男の声は、殺戮場と化した公園にどこまでもどこまでも響いていくのだった……。 そして数時間後。 親実装は此所に至る。 家で寝ていた仔達を起こし、脱出を開始した時に居た仔達は非常食用含めて7匹。 家を出て茂みを潜るようにして移動している間にはぐれたのが2匹。 途中で癇癪を起こして自ら離脱し、保護を求めて男達の前に姿を現した瞬間に媚びる暇すら無く肉片に変えられたのが1匹。 公園から脱出する直前、待ち伏せていた狙撃手によって頭を瞬時に爆ぜさせられたのが1匹。 何とか生き延びたのが長女と次女と三女。 春まで生き延びさせる候補筆頭の、比較的頭が良くて落ち着きのある長女。 糞蟲では無いものの、情緒が弱く泣き虫な為非常食用指定されていた次女。 糞蟲そのもので非常食指定筆頭兼囮役兼反面教師な三女。何事も無ければ、翌日には夕食の肉として潰す予定だった。 「デスゥ……」 本命が生き延びたのは僥倖だとしても、残りの2匹は正直足手纏いだ。 全員でこれから生き延びるという選択を、親実装は早々に放棄した。 だが、住処も蓄えも無くした。住み慣れた公園も当面は危険なので近づけたものではない。 2匹を間引き、食料にして本命の仔と生きる事を選択しても生き残れる可能性は極めて低い。 どうにかしなければ、自分達は破滅だ。 「デデデデ……」 堂々巡りな思案を頭の中で駈け巡らせる親実装。 長女はそんな親実装を心配げに見詰め。 次女は泣き疲れてしゃがみ込んだまま。 三女はチプチプ鳴きながら虚空をうっとりと眺めている。どうやら妄想の殻に閉じ籠もったようだ。 どうすればいい。 自分と本命の仔が生き延びる為にはどうしたらいい? 「デ!」 そうだと、親実装は手をポムと打った。こんな時は託児しかない。 普段なら一蹴してしまう方策を、トコトン追い詰められた親実装は思い浮かべてしまった。 親実装は平均以上の知性の持ち主ではあったが、実装石の性から逃れ出れる程賢くも無かった。 状況が切迫してしまうと、普段は押さえられている本性が顔を出してしまうのかもしれない。 ちらりと本命以外の仔達の方を見る。 「テェ……」 この仔は人間の反応を試す為に使おう。 「チプ、チププププププ!!!」 親実装は、自分が託児をした事の無いのを思いだした。 そうだ、投げる練習をしなければなるまい。 親実装は、三女にゆっくりと近付いていった……。 2時間後。 1人の青年がコンビニの駐車場で喚きながらコンビニの袋を踏み付けていた。 「糞蟲共、一体俺に何の恨みがあるんだぁぁぁぁ!!」 「ヂィィッィィィヂベッ!?」 ガスガスと足蹴にされるビニール袋と、ビニール袋から漏れ出た悲鳴と断末魔。 沈黙したビニール袋の内側から、緑と赤の液体がドンドン内部に広がっていく。 「この間のイベリコ豚生姜焼き弁当に引き続き、俺のお楽しみのローストチキンクリスマスパックをクソで穢しやがってぇぇぇ!!」 怒りの収まらない青年を、親実装は駐車場の隅にある物置の影からそっと窺っていた。 初めての投擲にしては上手く行った。これなら次女を投げる時にも支障は無いだろう。 親実装は青年に見つからないようにそっと後ずさり、近くの路地に隠れさせている仔実装の元へと帰って行った。 1時間後。 親実装と残り2匹の仔実装は別のスーパーマッケートの側に居た。 自分の腕の中でオドオドしている次女を優しく宥めながら、親実装はクリスマス用に飾られた出入り口を行き交いする人間達を観察していた。 後2、3匹仔実装が居れば、様子見も兼ねて具合の良さそうな人間に託児していた。だが、手元には予備が一匹しかいない。 親実装のプランはこうだ。 まず、次女を人の良さそうな人間に託児する。 次女には『人間の食べ物には決して手を出すな』と厳しく言い含めてあるので問題ない。 後は、預けた人間がどう反応するか、見極めるだけ。 先程の青年のように怒り狂ったり、帰った先で虐待が始まったら外れだ。 逆に保護されて可愛がられたり、世話されていたりしたら当たり。 そして当たりの場合は、その親と姉妹である2匹も優しい人間に飼われるべく、姿を現すという寸法である。 ぶっちゃけ、そこらの実装石が企む託児の計画と殆ど変わりはない。 多少賢しかったりはするものの、所詮は実装石の考える事だと言うのだろうか。 「デスッ」 観察を続けること暫し。 穏やかそうな面持ちの青年が1人、携帯電話で何事か話しながらスーパーから出て来た。 「すんません先輩、こっちのスーパーのコーナーにもでかいのは売ってなかったっす。玩具屋に行ったトシの方は……え、サイズの小さいのしか売ってなかった?」 電話の会話に集中してる為、男は隙だらけだった。 手にぶら下げてあるビニール袋もサイズが大きい為か、仔実装を投げ込むには最適。 丁度人通りも少なくなっている為、他の人間が青年に警告したり駆除しようとする可能性も低くなっていた。 今しか無い。 親実装はそう判断し、次女にもう一度言い含めた後携帯電話で話している所為か足取りが遅くなっている青年の後ろ姿に近付き始めた……。 30分後。 「あれ、アキ君。なんで仔実装がビニール袋に入ってるん?」 「いやぁ……行きつけの実装ショップには行った覚えはって先輩、こりゃ託児っすよ!」 次女は人間の持つビニール袋と共に、何やら温かい空間に侵入していた。 そして、自分を見下ろす青年と妙齢の女性が何やら話している。 「テェェェ」 オドオドビクビクしている次女は、自分を見下ろして話している人間達をただ見上げるだけ。 買い物袋の中身には手を出してない(美味しそうな匂いがしなかったのが最大の原因だが)とは言え、少しでも機嫌を損ねれば殺されるかもしれない。 「弱ったなぁ………トシの方もデパートに行ってみたけどやっぱり無かったみたいだし」 「しょーがないっすよ。教授の買い込んできたアレはサイズがでか過ぎるっすから……って仔実装の事はスルーっすか!?」 「良いのよ。大人しそうだし。これでテンプレ叫んでたら必殺技発動してたけどね」 そう言う人間達が別の所を見るので、仔実装もそちらの方を見てみた。 色取り取りの飾りで飾り付けられた大きな部屋の中央に、一本のモミの木が設えてあった。 大きい、とても大きい。一般家庭用というよりも、デパートなどの入り口に飾る類では無かろうか。 そのモミの木も既に飾り付けが済んでいた。だが、その飾り付けを見て人間達は困ったような顔をしている。 「別に無理して木のサイズに合わせたモノを付ける必要無いっすよ。ほら、店で売ってた奴を上手い具合に据え付ければ」 「テヒィ」 取りなすように、青年が仔実装を押しのけてビニール袋から何かを取り出した。 それは、小さな星形の飾りだった。ツリーの頂上に据え付けるアレである。 「そりゃそーだけどさ、完璧主義の教授が見たら『不自然だ』とか言いそうよ?」 「……そーですよねぇ。今からじゃ隣町行くのは遅すぎだし。後もうちょっとでみんな来ますしねぇ」 「「うーん」」 考え込む人間。無視され続ける仔実装。 次女は困った。人間の怒りを買うのは怖いけど、無視されたり放置されるのはもっと辛かった。 なので、取り敢えず 「テ、テ、テッチューン……♪」 本能に従って媚びて見た。 目が笑ってなく、顔付きも引きつっていた為媚びと言うよりは命乞いといった感じだが。 「お!」 「どうしたんアキ君」 次女の媚びを白けた顔付きで見ていた青年の方が、ポンと手を打った。 「先輩、俺良い事思いついたっす。おいお前」 「テ?」 青年に掴みあげられた次女は、媚びポーズのまま恐怖で凍り付いた。 「俺の創作に付き合えや、な?」 2時間後。 親実装と長女は一軒の邸宅の前に立っていた。 その家からは香しいご馳走の匂いと、沢山の楽しそうな笑い声とクリスマスソングが流れてくる。 「デスー♪」 「テチューン♪」 実装石親仔は上機嫌だった。 何故なら、自分達を迎え入れてくれる筈の場所が見つかったからだ。 人間達の家から香しいご馳走の匂いと楽しそうな笑い声とクリスマスソングが流れてくるのは、この日に置いては珍しくない。 だが、この大きな家からは彼らが喜ぶ要因がある。 それは、 「テチューンチューンチューン…………チチューン♪」 陽気な、仔実装———次女の鳴き声が微かに聞こえて来るからだ。 此所に来るまでは非常に不安だったが、次女の鳴き声は親実装達にとって福音だった。 次女が可愛がられているという事は実装石に優しい人間だという事だ。 と言うことは、その親である自分や娘の長女にも優しくしてくれるだろう。 同じ様な人間が沢山いるなら、その人間達が自分達を可愛がってくれたり飼い主として名乗り出てくれるかもしれない。 「デププ」 「チププ」 思わず笑みが零れる。長女も嬉しそうに笑っていた。 昼間の頃、冬の空の下で絶望に悲嘆していた頃が嘘のようだ。 2匹は幸せを噛み締めるように顔を見合わせて笑った後、開け放たれた門を潜り抜け、笑い声が聞こえてくる方へと近付いて行った。 2匹を祝福するように、白い雪がチラホラと降り出し始めた。 今日は、ホワイト・クリスマスになりそうだ。 同時刻。 クリスマス・パーティー会場は佳境に差し掛かっていた。 忙しなく人々が行き交い、ご馳走を食べ酒を呑みながら楽しく語らうのを、次女はグルグルと回転する意識の中で見下ろしていた。 その中で眼鏡をかけてオーダーメイドの背広姿の男が、サンタ姿の青年と一緒に此方を見上げながら何やら話している。 「あれを仕立てたのはアキ君かね?」 「そうでっす教授。お気に召しましたでしょうかー?」 「ああ、いいねぇ。これなら在り来たりな星形よりも、私達のパーティーには相応しいかもしれんな」 「教授にお気に召してもらって嬉しいっす! と言うわけで、来年こそは俺達にもツバメちゃん達を貸してくださーい!」 「ハハ、全く図々しいなぁ……まぁ、考えておこう」 どうやら自分の姿を褒めてくれているらしい。 次女は酩酊した気分の中、頬を染めてテチューンと鳴いた。 次女は髪と服を取り除かれ、禿裸にされていた。 偽石を摘出して実装活性化剤に漬け、クソ抜きを施された後全身をマジックインキで塗りたくられ、真っ黄色。 両手と両足と背中に太い針金を直接通して体勢を『☆』にして固定。 後はダンボールを黄色く塗ったモノを背中に貼り付けて形を整え、モミの木の先端を総排泄孔に突き刺せば立派な仔実装スターになる。 今日の善き日に仔実装がテェェンテェェンと鳴くのは流石に気が引けるので、仔実装が陽気になる様にアブサン(アルコール度数89%)を10cc程注射しておいた。 後々木の上で小便を垂らしたりクソを出したりしないように、喉から下の胃や総排泄孔は完全にガスバーナーで焼き潰しておいたが。 パーティー会場を流れるクリスマスソングに合わせるように、テチュテチュと鳴く実装スター化した次女。 彼女を見上げる人々+αは、その様を見て陽気に笑ったり腹を抱えて悶絶したり、興奮してハサミをシャキシャキ動かしたりした。 やがて、スノースプレーやシール状の飾り付けで彩られ、暖房によって白く曇った窓ガラスがトントンと叩かれる。 5本のバールでジャグラーをキメて満場から拍手を受けていたサンタ姿のアキが、窓ガラスの向こうに居る存在を見つけ叫んだ。 「みんな、一足早い実装サンタのお出ましですぞ! 素晴らしい僕達のゲストもといプレゼントにみんな拍手拍手〜!!」 開いた窓から、上機嫌で室内に入って来る親実装と長女。 拍手に迎えられデッスンテッチンと胸を張った親実装と長女が、木の上で嬉しそうな鳴き声を上げる次女に気が付いた。 後ろで、開いてた窓(強化ガラス)が閉まり鍵が掛けられる。 親実装と長女の周りにいる人間達+αはみんな笑顔でこう叫んだ。 「ようこそ糞蟲ちゃん。冥入リー苦死実増スー!!」 高らかに鳴るクラッカーとシャンパンの抜ける音に、実装親仔の悲鳴は掻き消されたのであった。 清しこの夜 実装石を除く全ての存在が健やかに聖夜を過ごせますように。

| 1 Re: Name:匿名石 2023/06/01-08:33:11 No:00007262[申告] |
| 託児されたお兄さんが気の毒すぎる…
どうかこの実装親仔が地獄以上の苦しみを味わって逝く事を祈るしかない |