点描 (御注意:虐待色薄めです) * ある日のローカルニュース こんばんは、FHK 8時45分、関東地方のニュースです 本日、横浜市のみなとみらい地区赤レンガパークにて、横浜市の主催で実装石駆除訓練が行われました。 この訓練は、市民に実装石の効率的な駆除法を知ってもらうために、異常繁殖性生物対処専門委員会が主催して 開催したものです。 参加者は主催者から貸し出された様々な駆除器具の使い方の説明を受け、用意された実装石を実際に駆除して、 少しでも実装石の数を減らす為に汗をかいて訓練に勤しんでいました。 次のニュースです。 本日未明、神奈川県相模原市のF公園にて身元不明のホームレスが遺体で発見されました。 遺体は死亡後1日程度しか経過していないとみられますが、損傷が激しく神奈川県警では事故と事件の双方の 可能性があるとみて捜査を続けています。 また、遺体の周辺には共食いによって食い荒らされた物を含む、多数の実装石の死体が散乱しており、異常繁殖性 生物対処専門委員会では、なんらかの関係があるものとして県警と共同で調査を開始することになりました。 ・・・ただいま、臨時ニュースが入ってきました。 臨時国会にて政府が提案していた、異常繁殖性生物対処専門委員会、通称、実装石対策委員会への特別権限付与に 関する法案が、先ほど与党の強行採決を持って可決されました。 詳しくは次のニュース9でお知らせします。 引き続きまして関東地方の明日の天気です。まずは天気概況から・・・・ * 同日の全国版ニュース こんばんは。9時のFHKニュースです。 臨時国会にて政府が提出していた異常繁殖性生物対処専門委員会、通称、実装石対策委員会への特別権限付与に 関する法案、『異常繁殖性生物対策強化法』は、本日午後8時30分に政府与党の強行採決を持って参院で可決され ました。 本法案は、世界中で異常繁殖を続ける実装石の対策を、省庁の垣根を越えて強力に推進する為に、同委員会に 対して実働部隊を除き、警察に準ずる権限を与える事を目的としていましたが、法律論的に問題が多く野党と 対立していました。 強行採決の背景として、先月の国連安全保障理事会において、日本への問責決議案が全会一致で可決された事が あります。 日本は実装石の発生国であり、一部愛好者が諸外国の法を無視して実装石を世界に広めてしまった経緯があるのにも かかわらず、肝心の国内の対策が遅れたままで各国の批判を浴びていました。 今回の政府の動きは、本格的に強硬な対策を約束することで、国際社会に対する責任を示そうとしたものと受け 取られています。 後ほど首相官邸から官房長官の会見を中継します。 * 異常繁殖性生物対処専門委員会・第4期合同執行委員会 「以上、委員会調査部から実装石の増加と環境負荷増大に関する調査結果の発表でした。それではご質問など ありましたらどうぞ」。 これといって特徴のないスーツに身を包んだ初老の男が、委員会の参加者に発言を促す。 彼は異常繁殖性生物対処専門委員会の委員長であり、この合同執行委員会の議長も兼任していた。 数名がパラパラと手を挙げ、議長は一番に挙手をした参加者に発言を依頼した。 「私は、農林水産省のものですが、発表の中頃にあった実装石による食害被害の拡大データに関して疑問があります。 実装石による食害は国内のデータでは、全生産カロリーの0.5%にもなりませんが、発表の内容では、各主要穀物 生産国の平均値において既に8%にも達しています。この国内データと海外データの差異は何が原因なのでしょうか?」。 発表者がパワーポイントのページをめくり、当該ページを再表示してみせた。 「この差の主な原因は、農業にどれだけ労働力を集約できるかが関係しています。こちらのデータをご覧ください」。 参加者が注目する中、発表者は別のページを表示してみせる。 「こちらは国別の農業従事者の労働時間の比較です。ごらんの通り我が国の時間は比較的短いのですが、小さな 作付面積の農家が多く、単位面積当たりの労働時間は世界でもトップクラスです。 ご存じの通り実装石を殺す有効な薬剤は既に存在しません。かつては様々な駆除薬が存在しましたが、 ライフサイクルの短い実装石は次々と耐性を持った個体が発生します。 つまり、駆除には人手をかけるしかないことになり、結果的に我が国では被害が相対的に小さくなります」。 委員長が発言の流れをまとめるかのように言う。 「つまり大規模農業を行うアメリカ、ブラジルのような国では被害が大きくなり、また十分な労働力を投入 できない最貧国でも被害が拡大する一方ということですね?」。 「その通りです。しかし食料自給率の低い我が国ではこの8%という数値は他人事ではありません」。 会場全体を重苦しい雰囲気が覆う。 実装石を殺すのはたやすい。しかし単に殺す事と、効率的に大量に駆除するのは根本的に違う。 現在、世界中で恐ろしい勢いで増加の一途をたどる実装石は、世界的に大きな問題となっていた。 特に実装石による食害と、二酸化炭素の増加は食糧問題と環境問題に暗い影を落としている。 さらに、かつては駆除に有効であった実装コロリに代表される駆除薬は、耐性を持った個体の発生と繁殖によって 完全に有効性を失っていた。 当然、新たな駆除薬の開発が強く望まれていたが、しかしながらそれは遅々として進まずにいた。 「他にご質問の無いようですので、委員会調査部からの報告は以上とさせていただきます」。 議長は議題を次へと進めた。 * ある実装ちゃん市民サポート隊の活動 深夜、郊外にある自然公園のフェンスを乗り越え、幾つもの影が公園内に入った。 その影はフェンスの針金を切断すると、中に更に多くの影を招き入れた。 後から入った影の大きさや動きから判断するに、中には女性や子供、老人もいるようだ。 リーダーと思しき男が、口元にヘッドセットのマイクを寄せて小声で話し出す。 「実装ちゃん市民サポート隊に志願された皆さん、私の声が皆さんのイヤフォンから聞こえてますか?」。 無言で小さくうなずく面々。男はそれを確認すると話を続けた。 「これから私たちは、ある筋から得た情報により、この公園の奥に隠れ住んでいる賢い実装ちゃんたちに、 食事や生活を助ける道具を配ります。この行為は違法行為になりますので、深夜の公園とはいえ、監視カメラが ある可能性の高い照明のある場所や、トイレなどには絶対に近寄らないでください」。 賢く、人間と共同して生きていける実装石は、愚かな実装石の増大で徐々に生活圏を奪われる一方だった。 愚かな実装石は毒でも何でも食べて自滅する。しかし、毒に対して耐性を備えた個体が増え始めて、賢い実装は その生活圏を奪われ、事態は悪化する一方だったのだ。 老若男女を含むメンバー達は静かにうなずくと、賢い実装石達が潜んでいそうな公園の深部へ移動を開始しよう とした。 その時である。 「そこまでだ!この腐れ愛護派どもめ!」 闇の中に大声が響いたかと思うと、幾つもの大光量ハンディライトでメンバー達が照らし出された。 暗闇に慣れきった目が瞬間、その能力を失う。 「残念だったな。え?この人類の敵どもめ。お前達が糞蟲どもに餌を配る話はとうにバレてるんだよ。内通者って 言葉、知ってるだろ?」 バールを肩に担いだ短髪の男が、ライトに照らし出された侵入者を憎々しげに睨み付ける。 いつの間にか、手に手にバールを持った数十人の男達が、実装ちゃんサポート隊のメンバーを囲んでいたのである。 明確に敵意を露にした屈強な男たちに囲まれ、サポート隊の間から小さな悲鳴が上がる。 しかし、怯えるサポート隊の中から、ボブカットにメガネをかけた小柄な中年女性が一歩前に出てきて、先ほど 大声を上げたバール男のリーダーを指差すと、甲高い声で叫び出した。 「あなた達、恥を知りなさい。実装ちゃんは心をもった人間と同じ生き物なのですよ。そんな実装ちゃんを…」。 「うるせぇんだよババァ!」 リーダーと思しき男が一喝する。 「おめーら愛護派が無制限に餌をまいたり、外国に持ち出したりするから、糞蟲どもがデタラメに増えすぎて、 世界中が糞蟲で溢れ返って大変な事になってるんだよ。そんな事も知らないのか?あぁ?こうして俺たち 『良識派市民有志』が毎日毎日潰して回っても到底追いつきゃしねぇ。だから臭いものは元から絶つことに したんだよ」。 ボブカットの中年女性が負けずに大声で叫ぶ。 「だから私たち愛護派を暴力で押さえつけようって言うわけ?」 「バーカ!痛めつけるだけじゃ問題解決にならねぇだろ。元から絶つって言ってるんだからそのウレタン脳でも 理解出来るだろ?」。 男は唇を舐めると言葉を続けた。 「おいオメーら、そろそろ頃合だ。全員生かして帰すんじゃねぇぞ」。 『良識的市民』を自称する虐待派達がバールを振りかざし、今まさに愛護派に襲いかかろうとした、その瞬間で あった。 「全員動くな!」。 拡声器から大きな声がして全員が動きを止めた。 深夜で消灯されていた、公園全体に配置された水銀灯に一斉に電源が入り、一体が徐々に明るくなって行く。 ある程度視界が確保できる程度に明るくなると、『良識的市民』と『実装ちゃんサポート隊』が多数の機動隊に 囲まれている事がわかる。 それを確認したかのように、現場指揮官車の上に立った、機動隊指揮官が拡声器で叫んだ。 「こちらは神奈川県警です。貴方達を凶器準備集合罪と異常繁殖性生物の繁殖幇助罪の現行犯で逮捕します!」。 指揮官はいったん息を継いで再度叫んだ。 「全員逮捕ッ!」。 号令一声、機動隊が一斉にその包囲の輪を縮めて、片っ端から逮捕を始めた。 一人で何人もの機動隊員に囲まれた虐待派のリーダーは、何本もの警杖に絡め取られて大声で悪態をついている。 「おい!何でだよッ!なんで俺たちが逮捕されるんだよ!俺たちは腐れ愛護派が餌撒きに来るって教えられたから ここに…って、あいつオレをハメやがったなーッ!チキショーッ!」。 そんな叫びも空しく、リーダーはダークグリーンの護送車に連行されて行く。 先ほどの気丈な愛護派の中年女性は、地面に座り込み必死で連行されまいと抵抗していたが、程なく機動隊員に 両脇から支えられ宙ぶらりんになり、甲高い声で抗議をした。 「これは不当逮捕です!私達は弁護士の立会いを要求します!」。 しかし、彼女も他の逮捕者と同じようにダークグリーンの護送車に運び込まれていった。 こうして1時間もしないうちに、夜の自然公園の静けさを破る捕り物は、ほぼ完了しようとしていた。 指揮官は逮捕者にも、部下たちにも怪我人がなかった旨の報告を受けて、ほっと一息つく。 そんな彼の元に1人のスーツを着込んだ男が近づいて来た。 「深夜の捕り物ご苦労様です。実装石犯罪に関係する被疑者は、全て当委員会で管理することになっています。 逮捕者引渡しの書類にサインをお願いします」。 「いえ、委員会もこんな夜遅くにお疲れ様です」。 指揮官は書類に事務的にサインをすると、委員会のメンバーに渡した。 メンバーは軽く会釈するとダークグリーンの護送車へと向かった。 一連の受け答えを見ていた指揮官車の運転手の隊員が、指揮官に尋ねる。 「隊長、実装がらみの犯罪者の逮捕の時には、いつも委員会から人が来てますよね。しかも裁判所の許可もなく 逮捕者を引き渡すなんて本来おかしいと思うんですが」。 「うむ、しかし3年前に異常繁殖性生物対策強化法が成立してからは、委員会は事実上、捜査権と逮捕権を持つ 特別の組織になってしまったからな。我々も公務員なんだから法に従うほか無い」。 「それにしても、委員会が連れて行った容疑者ってどうなってるんですかね。今日みたいな大きな逮捕劇も殆ど ニュースになることがなくなりましたね。ちょっと不気味ですよ」。 「まぁ深く考えてもしょうがないさ。法に従って適切に処分されていると考えるしかない」。 「・・・だと良いんですが」。 指揮官と隊員が見守る中、容疑者達を乗せた窓のないダークグリーンの護送車は夜の帳の中へ静かに消えていった。 * 愛護団体「愛護の泉」 時は深夜、ここは繁華街のはずれにある古い雑居ビルである。地下には今では使われていない小さな映画館がある。 その上映ホールでさながら映画の様な奇妙な光景が進行していた。 所々破れが目立つ映写スクリーンの前で、上半身を裸にされた若い男が、目隠しをされたまま椅子に縛り付けられ、 映写機からの強い光に照らし上げられている。 若い男の顔は打撲で膨れ上がり、既にかなり暴行を受けたような痕を見せていた。口の端から血をたらしている のは、いずれかの歯が折れているからなのだろうか。 どうやらこの場所に拉致される前に、かなり手荒い事をされた様だった。 彼の後ろには中年の男性が立っていた。その男性は彼の肩に手をかけると、耳元にそっと口を近づけて囁く。 「さぁ、貴方の罪状を読み上げましたよ。ご自身が今まで実装ちゃんにどんな酷い事をしてきたか理解できましたか?」 若い男は横に首を振って否定した。 「俺は糞蟲を始末しただけだ。何も悪いことなど・・・ウ、やめろ!やめてくれ!。 初老の男性は10個ある小さなダイヤルの一つをキチキチと回している。ギアで増力されたワイヤーが少しずつ巻き 上げられて、それに固定された若い男の指の一本を、本来曲がらない方向に曲げていく。 「糞蟲なんて汚い言葉を使うのは感心できませんね。きちんと実装ちゃんと正しく言ってください」。 中年の男は続ける。 「貴方は少々思慮が足りないようだ。よろしい、私は他人様よりほんの少し忍耐力があるんです。もう一度、 貴方の『虐待日記ブログ』から調べ上げた罪状を読み上げて差し上げますよ」。 彼はプリントアウトされたA4の用紙をめくりながら、まるで朗読するかのように読み上げ出した。 「全く貴方は酷いお方だ。罪の無い仔実装ちゃんを踏み潰す。泣き叫ぶ親実装を焼き殺す。公園の池に投げ込む。 生きたまま刃物で切り刻む。強酸性の液体に放り込む」。 男の罪状を一つ一つ読み上げるたびに、中年の男の声はオクターブを徐々に上げていく。 「仔実装ちゃんにベンジンを飲ませて、火のついたタバコを押し付ける!」。 そこで感極まったかのように、ダイヤルの一つを一気に巻き上げる。 「バキン!」「ギャァッ!!」 若い男の指は大きな音を立てて折れ、同時に悲鳴があがる。 「貴様!自分のやった事を理解しているのかッ?あの仔実装ちゃんは健気にも・・・たった1匹で妹の蛆ちゃんを 5匹も養っていたんだぞ。貴様があの仔を面白半分に殺さなければ、蛆ちゃんたちも干からびて死ぬことは なかったんだ!自分の命でその愚行を償え!!!!」 激昂した中年の男は、一気に9つのダイヤルを巻き上げ始める。残された指が徐々に曲げられ、苦痛に耐える 若い男の顔がさらに恐怖にゆがむ。 「やめ!やめてくれッ!頼むッ!俺が悪かっ・・・・たっ・・・」。 若い男はがっくりと首をうな垂れた。 その姿を見た中年の男は満面に笑みをたたえ、若い男の目隠しを外しながら見下すように言った。 「非常に結構です。ではここで自分の罪状を認めた証拠に自己批判をしていただきましょう。自分が今まで行った 数々の行いを言っていただいて、虐待行為の悪辣さをあなた自身の口で批判してください」。 中年の男の声が映画館内に響くと、館内に拍手が鳴り響き、徐々に館内が明るくなる。 無人と思われた客席では、満員の観客がこの陰惨な脅迫劇を、息をのんで見つめていたのだ。 この奇妙な集まりは、実装石愛護団体行動派の急先鋒、「愛護の泉」の虐待派狩りを締めくくるセレモニーだった。 これは。と目をつけた虐待派を拉致し、拷問を加えて自己批判をさせてその光景をネットで公開する。 一連の流れは虐待派に対する愛護派からの、警告を込めた一種の復習劇であった。 「さぁ、ご覧なさい。こちらの皆さんがあなたの晴れの舞台に立ち会う皆さんです」。 中年の男が観客席を指さすと、緑と赤の瞳を持った百を超える実装石がじっと舞台を見つめていた。 思わず短い悲鳴を上げる若い男。 しかし、それは実装石ではなく、実装石のマスクを被った男女であった。彼らは「愛護の泉」の構成メンバーであり、 暴力で屈服させた虐待派に屈辱的な自己批判をさせて、それを見て暗い悦びを味わう事を無上の楽しみとしていたのだ。 中年の男が、若い男に向けてカメラを向けた。すると、今まで真っ白な光を投影していた映写機が演台に立つ若い 男自身の姿を投影し出す。 自身を投影する光に照らされて呆然と立ちつくしていると、突然、上映ホールの外がなにやら騒がしくなった。 「なんですか!あなた方は!ここは私的な場所なんですよッ!」 若い女性が刑事らしい男に向かって大きな声で抗議をしている。 「ここは私達『愛護の泉』が所有する私的なホールですっ!勝手に入る権利なんか無いはずです!」。 「捜査令状です。貴団体には、逮捕・監禁致死傷罪の疑いがかけられています」。 「そんな・・・リーダーは・・・誰かリーダーを呼んできて下さい!とにかく、私たちの責任者が来るまでは立ち入りを 認めることは出来ません!」 「令状が出ていますので、立ち塞がるのなら強制的に立ち入るまでです。そこを退いていただけますか?」。 刑事が一歩前に出ようとすると、映写室に続く通路からメンバーの一人が息を切って走ってきた。 「た、大変です!リーダーがいません!どこを探しても…携帯も電源が切られっぱなしで連絡が取れません!」。 若い女は呆然としてその場に立ちつくした。そんな彼女の横を機動隊員達が次々と上映ホールに入り込んでいく。 「君たちのリーダーは一足先に逃げたようだね」。 刑事はそう言って上映ホールへと入って行く。そのホールの中では、愛護の泉メンバーが逃げ場を探して混乱が 始まっていた。 「どうするのよ?」 「とにかくここから逃げるんだ」 「マスクは取るな!顔を見られるぞ!」 「無理だ!もう全ての出口から警官が入って…」 「まだ非常口があるでしょ!?」 マスクをかぶったままのメンバー達が、狭い通路を右往左往しながら逃げ惑う。 マスクで視界が一部遮られている事が禍してお互いにぶつかったり、その拍子で転んでコンクリートの床に 強かに尻を打ち付けてうめき声を上げている所を拘束されている。 そんな騒乱を舞台上から見つめる若い虐待派の男。 先ほどまで彼を脅迫していた中年男性は舞台下に逃げ出していたが、機動隊員に拘束されてホールの外へ 連行されている所だった。 「はははっ、まるで公園を逃げ惑う糞蟲どもじゃないか!いい眺めだ!」 折られた指の痛みに顔をしかめながら、いくばくか溜飲の下がった彼は邪悪な笑みを見せる。 「あなたは愛護の泉に監禁された方ですね?」 刑事が、スーツ姿の男を伴って男の下へ駆け寄って来た。 「そそそ、そうです!あいつら俺をこんなところに閉じ込めて脅迫した挙句、指までこんな…クッ」。 「直ぐに鎮痛剤を打ちます。ちょっと我慢してください。あ、それと今回の事件に関していろいろお聞きしたい ことがあります。警察病院で処置をした後に事情聴取をさせて頂いても結構でしょうか? 「ああ、もちろん良いですとも。あいつ等が俺にどんな酷い事をしたか、洗いざらい証言してやりますよ!」。 刑事が看護士を呼び寄せると、看護士は馴れた手つきで若い男に注射をして直ぐに立ち去った。 「あれ?手当ては…」。 そう言うか言わないうちに、若い男は頭をカクッと落とすと眠りに入った。それを見てスーツ姿の男が刑事に 話しかけた。 「今回は実装石愛護団体と虐待派が絡んだ事件ですので、逮捕者の身柄はこの男も含めて委員会が確保します」。 「ええ、分かっていますよ。不思議と委員会から人が派遣される捕り物では、この手の実装石がらみの事件が 多いから今回もそうだと思ってました」。 スーツの男は返事をする代わりに目礼をすると、その場を立ち去ろうとした。その後姿に刑事が語りかける。 「なぁ、あんた。俺も刑事生活は長いけど、どうしても腑に落ちない事があるんだ。刑事の様に鼻の効く職人が いない委員会が、どうしてこんな地下組織じみた団体のサバトの場所と時間まで特定できたのかってな…それと 逮捕できなかったリーダーって本当に存在したのかな…とかな…」。 「そこから先は深く考えない方が貴方の為だと思いますよ」。 スーツ姿の男は振り向きもせずにそう言って、ホールの外に向かって歩き出した。 雑居ビルの外には窓のないダークグリーンの護送車が何台か停まっている。逮捕者はその護送車に次々と 飲み込まれ、最後にスーツ姿の委員会の男を乗せると何処へとも無く静かに消えていった。 * 会議資料 異常繁殖性生物対処専門委員会 非公開会議資料 (注:本資料は機密保持の為に会議後に回収します。資料に記名と捺印をした上、事務局へ返却お願いします。) 1)相模原市 F公園における実装石大量死に関する考察 異常繁殖性生物対処専門委員会 実装石生理研究部作成 F公園の路上生活者の遺体近辺で発見された大量の実装石の死体を解剖・調査したところ、全ての死体の 消化器官内に人間の脳の一部と思われる未消化物があったことが確認された。 死亡した実装石達が摂取した脳は、事故で死亡した路上生活者の物と推測される。 また、この路上生活者は公園を貫通する公道をまたぐ跨道橋から泥酔して誤って落下し、頭部に致死性の 重大な損傷を得ていた事から、非力な実装石達にも脳を摂取することが可能となったものと推測される。 あらゆる毒物に対して抵抗力を持つ実装石は、効率的な駆除が非常に困難であり、その個体数が 指数乗的に増えている昨今、生物の脳組織に含まれる何らかの成分が実装石を死に至らしめた 可能性があるのは非常に興味深い。 今後、各研究機関に研究を検討するように指示されたい。 2)脳組織内成分の実装石に対する効果の研究報告の抄録 H大学畜産学部の報告 1.各種脊椎動物の脳を含む神経組織を実装石に与えたが、有意な反応を見出すことは出来なかった。 2.同様に人間以外の霊長類の脳を含む神経組織を与えたが、有意な反応を見出すことは出来なかった。 3.前項1,2の結果を受けて、ヒトの脳組織で研究を続ける必要性があると結論付けられる。 T大学医学部の報告(その1) H大学畜産学部の報告を受け、医学部に献体されたヒトの遺体を実験材料に、ヒトの脳組織を摂取した実装石の 生理反応変化を調査した。 1.一部の実装石には劇的な致死効果が見られた。 2.他方、まったく効果の見られない個体も多数みられた。 3.今後、その差異に関して調査を続けたい。 T大学医学部の報告(その2) 確実に実装石を死に至らしめる要因の確定に成功した。 実装石に対して過剰な感情を持つ『実装石強度依存症患者』の脳組織が、それを摂取した実装石を速やかに死に 至らしめる事実が確認された。 致死効果は、一般に虐待派と呼ばれる『攻撃型』でも、同様に愛護派とよばれる『溺愛型』でも違いはなかった。 また、一般のヒトの脳組織では全く有意な反応が見られなかった。さらに数世代の観察でも耐性体の発生が全く なかったことも確認できた。 その生化学的根拠は未だ不明であるものの、今回の調査結果は実装石を効率的に駆除する薬剤開発の突破口になる ものと期待される。 補足事項 今回の調査のきっかけになったF公園の路上生活者は、その後の調査で公園に繁殖する複数の実装石を飼って 溺愛していたことが判明している。 * 愛護派団体連合の抗議デモ 「実装ちゃん生存権闘争」と書かれた横断幕を持った実装石愛護派達が、国会議事堂に向けてデモ行進をしていた。 「かわいい実装ちゃんを虐待なんて許してはいけません!」 「実装ちゃんに人権を!」 「実装ちゃんに生存権を!」 「政府は差別法を撤廃せよ!」 「テチーテチー!」 訳もわからずに人間の声に合わせて鳴き声を上げる仔実装を肩に乗せたリーダーを先頭に、参加者達が議事堂へと 気勢を上げながら行進していく。 このデモ行進は、相次ぐ法規制によって個体数管理計画が進んでいる実装石の権利を守る事を目的に、国内の複数の 愛護派団体の連合組織がデモによって輿論にアピールすべく開催したものであった。 しかし、既に実装石の大繁殖によって、表立って飼育することは憚られるような雰囲気がこの国を支配していており、 現状を覆う慢性的な閉塞感に苛立ちを感じていた一部の愛護派は、市民活動家や過激派と結びつき、その活動を徐々に 先鋭化させていた。 本来、愛護派団体連合主流派が平和的に自分たちの意見を世に問うべくして企画されたこのデモは、反主流派の 暗躍によるなし崩し的な「プロ活動家」の招聘が災いし、デモ隊の中にはヘルメットやマスクで「武装」した者達 まで混在する有様であった。 警察もこの状況を鑑み、届出の為されたデモではあったが、万が一の事を考えて機動隊による警備をしないわけには いかない状態となっていた。 やがてデモ隊の先頭が国会議事堂の前に到着すると、そこにはデモ隊に対するものとは思えない想像を絶する 厳重なバリケードが築かれており、何台かの放水車がそのノズルをデモ隊に向けて立ちふさがっている状況だった。 デモのリーダーは、その異様な警戒態勢に違和感を覚えた。しかしここまで来て後に引くことは出来ない。 心情的には実装石の未来が掛かった抗議デモなのだという自負があった。 リーダーは仔実装を肩に乗せて、今まで繰り返してきたシュプレヒコールの音頭をとる。 「実装ちゃんに人権を!」「テチーテチーテチー !」 それに呼応してデモ隊からシュプレヒコールがあがる 「「「「「実装ちゃんに人権をー!」」」」」 「政府は差別法を撤廃せよ!!」「テチーテチーテチー !」 「「「「「政府は差別法を撤廃せよー!!」」」」」 何度かシュプレヒコールを上げている間にデモ隊の全てが先頭に追いつき、やがて全員の声が合わさる。 参加者の心は一つになり、リーダーもバリケードを見たときの不安が段々薄らいでくる。あとは抗議文書と署名を、 委員会の代表に渡すだけだ。 そんなデモ隊の気持ちが一瞬緩んだときである。デモ隊の人ごみの中から、誰かがバリケードに向かって火炎瓶 を放り投げた。 火炎瓶はゆっくりと放物線を描いてバリケードに向かった。しかしそこまでは届かず、デモ隊の先頭辺りに落ちて 燃え広がり、運悪く丁度その場所にいたリーダーと仔実装が火達磨になった。 「うわっ!?うわわわわッ!?ひぃーッ!ギャァァァァァァァッ!」「テチャァァァァ !! テチテチ ?! テッチャーッ !!!!!」。 その悲鳴が機動隊とデモ隊の間の緊張を破った。指揮官が叫んだ。 「放水開始ッ!鎮圧ッ!」 火達磨になった愛護派は高圧の水流に翻弄されアスファルトの上をゴロゴロ転がって行く。仔実装は水圧に 耐えられず一瞬でバラバラになって消え去った。 向かってくる機動隊と放水に恐れをなして、デモ隊の先頭が崩れる。後ろは何が起きたのか分からず、崩れる 人ごみの圧力に翻弄されて転倒する者が続出する。愛護派と一緒にデモに参加させられていた飼い実装もその 下敷きになり、デギュッと悲鳴を上げて一瞬で絶命する。 現場は混乱が混乱を呼び、一方的な逮捕劇と化していた。 「最悪の展開ですね」。 指揮官の後ろに控えていたスーツの男が指揮官に話しかけた。 「ええ、一通りシュプレヒコールを上げさせれば連中満足して帰って行くものなんですよ。それがなんで火炎瓶 なんて物騒なものを投げたのか…」。 「最近は愛護組織も活動が先鋭化してます。そのために我々委員会もある訳でして…」。 「警備局の内偵では、愛護団体連合には一部の跳ねっ返りは居るものの、本格的な活動家と繋がっている危険分子は マーク済みで、このデモ自体、決して危険な物ではなかったはずなんです。あの火炎瓶一本がなければ実力行使に 出る必要も無かったのですが…」。 「しかたありません。不慮の事故はいつでも存在するものです」。 「事故ですか…そうだと良いのですが」。 指揮官はため息をついて考え込んだ。最近、警察内部でも実装愛護派や虐待派の取り締まりが厳しくなっていて、 中には逮捕後の消息が不明の市民もいるという噂も聞いている。 スーツの男が物思いに耽る指揮官に再度話しかけた。 「それより、今回の件で国内活動に限界を感じた愛護団体が、海外へ活動拠点を移す事も考えられます。公安には 色々と御迷惑をおかけすることになるかもしれません」。 「私達実働部隊は公安からは情報を得るだけです…今回の逮捕者はかなりの数になりますが、委員会で身柄を 確保しますか?」 「いいえ、今回は正式な届出のあったデモですから、彼らは被害者の様なものです。委員会としては暴力沙汰に なったのは残念ですが、愛護派団体が国内での自分達の限界を認識してくれればそれで良いと考えています」。 「まるで愛護派が海外に活動拠点を移して欲しいと言わんばかりですね」。 「ハハハッ!まさか。この国には実装石も、そしてそれらを愛する者も、憎む者も、その居場所はどこにもないと 理解させる事ができれば良いという意味ですよ」。 指揮官とスーツの男はそれきり言葉を交わすことなく、指揮車の上から逃げ惑う愛護派達をいつまでも見つめ続けた。 * 実装石対策委員・委員長の通勤風景 特徴のないスーツに身を包んだ初老の男性を乗せた高級乗用車が、早朝の首都高を走る。 リアシートに深く身を沈めこんだその初老の男性が、目を通していた書類から顔を上げて運転手に話しかけた。 「今日はいつもの公園を経由して行って下さい」。 「承知しました、委員長。また、あれをご覧になるのですね」。 「そうです。一応、仕事に関係あることですから」。 会話はそこで途切れ、車は静かに官庁街へと向かう一般道へ降りた。 人気の無い交差点で信号待ちするその車の中から、委員長と呼ばれた男は公園の実装石駆除作業を眺める。 ダークグリーンの作業着に身を包んだ作業員達が、撒いた餌を食べて死んだ実装石達を次々に麻袋に詰めている。 「実装駆除剤を仕込んだ駆除フードの効き目は確かなようですね。しかし、世界的な実装石の根絶にはもっと その生産を増やさないといけないようです。問題は原材料の入手が国内で難しくなった事ですね。反対に委員会の 仕事はまだまだ減ることはなさそうですが…」。 委員長はそういうと運転手に車を出発させるように言った。 彼はブリーフケースに今まで目を通していた書類をしまいこんだ。 その書類には「海外における実装石愛護派と虐待派援助プログラム」と表題が書かれていた。 おしまい 鍋屋◆LCl66aXKxk
