休日の昼下がり。 家でぼんやりしているのも非生産的なので、私は自宅から出て散歩をする事にした。 二葉市近郊の漁師町に在るメイデン社の実装製品工場機械技師をやっている身ではあるが、最近はデスクワークが多くて躰が鈍り気味だ。 実装業界黎明期には、食用や繊維用の実装石の自動解体機や禿裸剥き装置などを開発した身だが、寄る年には勝てないかもしれない。 家でダラダラしてると妻に文句言われるのもそうだが、実際お腹が出て来ているのでこれを機に散歩を習慣化させようと思い立ったのだ。 やや早足で二葉市駅の方に向かって歩いていく。 今日は休日だけあって、昼間から親子連れが多い。 …………最近、家族で何処か行って無いな。 大学を出て東京で就職した長男はさておきまだ実家に居る娘の方も最近はつれないし。 反抗期のように突っかかって来たり喧嘩腰には成らないが、何かと疎遠になりがちなのだ。 「今度、家族旅行でも企画するか……」 私はヘソクリの残高を考えながら、陽が差して尚肌寒い初冬の昼前を散歩で過ごしていた。 「デスーデスー!」 「テチー」 汁粉缶を片手にぼんやりと歩いていた私の前に、緑色の小人が立ち塞がっている。 言うまでもない。職場で散々見ている実装石だ。50cm級だから多分一年は生きているだろう。 そいつが土下座しつつ捧げ持っているのは12cm程度の仔実装だった。 寒さでガタガタ震えながらも、親の手で私の方に差し出されつつ頬に手を当てて媚びへつらっている。 目付きが悪く、媚びの鳴き声に特有の卑しさが含まれているから糞蟲だろう。 そして、冬場の時期にまでこんな落第点な奴を生かして置く辺り、親実装も低脳か糞蟲の類で間違いない。 何となくだが解る。 実装石の面つきは基本的に無表情に近いが職業上付き合いが長い所為で、こいつ等の表情が読めるようになっていた。 「……はぁ」 折角人が休日を楽しんでるって時に無粋な事をしてくれるもんだ。 大方、冬になったので秋に産んだ仔をダシにして人間に取り付こうという寸法だろう。 多分、母親実装の頭の中では仔を引き取った人間の家に自分も連れて行って貰い、何不自由ない生活で冬を乗り切る素敵プランでも展開してるんだろうな。 そう言えば、ウチの工場でもこの時期になると、大量の野良実装が工場の前にやって来ては冬場を乗り切る為に出入りする人間に媚びたりする。 ちなみに、成功率は0%。 2割は警備員や従業員の足蹴、5割は工場の外周を巡回している警邏実蒼石班の鋏、3割は業者や工場の車のタイヤで落命してしまう。 そもそも、実装石を搾取し食い物にしている場所に保護を求めてどうするつもりなのだろうか。 1回、侵入を試みた実装石を何匹か捕らえさせ、リンガルで尋問した事がある。何故、此所にやって来るのかと。 鋏で四つ股を断ち切られた実装石達が言うには「此所には同族が沢山居る気配がするし、美味しそうな匂いがするから天国に違いない」との事。 それ以来、防臭対策を行い、防音措置も強化した。 しかし、それらの対応をしても尚奴らは懲りずにやって来る。 誰も彼もが同じように無根拠な希望を抱いて。しかし地獄行く。 「デスデス、デスッ」 「テチューン♪」 私の目の前で媚びている親仔も、工場にやって来る実装石と同じなんだろうなぁ。 浅はかな一方的な願望で人間に近付いて不愉快な媚びを売り、拒絶されては勝手に怒って糞を投げて殺される。 殊勝に土下座なんぞしているこの親も、私がこの仔を要らないと言えばたちまち怒り出して悪罵した挙げ句糞を投げようとするだろう。 結論、実装石の茶番に付き合う義理は無し。 なので、フェイントをかけて退散させて貰うとしよう。 散歩の為にそれなりに服装には気を使って来たのだ。汚い糞や血液で汚されては堪らない。 実装石の血が付いた服など、クリーニング屋から丁重にお断りされてしまう場合が多いしな。 「おーい」 親仔に向かって声をかけ、親が頭を上げたのを見計らって手にした汁粉缶を左右に振って見せる。 ちゃぷんちゃぷんと音を立てる缶を見て、親実装の目がギラリと輝いた。 よし、良い具合に気を引きつけれた。後は、簡単だな。 ゆらり、ゆらりと大きく缶を持った手を左右に揺らす。 甘い匂いがする缶を親実装は口から涎を垂れ流しつつ、私の手の動きに合わせるようにして凝視しつつ顔と躰を動かす。 親実装が動くので仔実装も同じくゆらゆら揺れているが、仔の方も目をぎらつかせ口から唾液を垂れ流している。 全く単純な連中だ。賢しい芝居をうって人間の関心を得ようとしても、こうして少し揺さぶってやれば直ぐさま本性をさらけ出す。 ま、そのお陰でいなすのも楽だからいいか。 本当は、蹴り飛ばして近くの側溝に落としてやるのが一番楽だけどもな。革靴の爪先が汚れるのは嫌だ。 「ほいっ」 汁粉缶を明後日の方に放り投げてやる。 「デデ、デェースゥゥゥ!!」 「テテ、テチァァァァァ!? ……ヂベェ!」 汁粉缶の軌道を追って猛ダッシュをキメた親実装と。 親実装に放り投げられ、数秒間の空中遊泳を堪能した後で頭から着地をキメた仔実装の声がハモって聞こえた。 私は、早足でその場を去る。 これ以上関わってもろくな事にならないのは、例え体験が無くても解るほど明白だからだ。 仕事以外では実装石になど関わりたくない。それが、私の本音だった。 「デスゥー!」 「デスァァ!」 「デベッ」 「デギャアア!!」 幾分離れた後、振り返って見る。 親実装と数匹の野良実装が、汁粉缶を巡って血みどろの略奪戦を演じているのが見えた。 その手前では、一匹のマラ実装がいきり立った一物に仔実装の死体を突き刺し、その手足を千切り取って食べている。 「…………全く」 気分良く散歩していたと言うのに、実装石が出て来たお陰で気分が悪くなった。 駅前の本屋にでも行って気分転換でもしよう。 後ろから聞こえる悲鳴や絶叫を聞き流し、私は早足でその場から去っていった。 もう一度、振り返ってみる。争いにマラまでが乱入し、既に禿裸にされている奴も居た。 禿裸……ぞくりと来た。 来た? 我に返り、慌てて脚を早めてその場を去る事にした。 「参ったなぁ……」 駅前に通じる小道で、私は困っていた。 「この糞蟲共が、よくも俺の昼飯のスペシャリティ・イベリコ豚生姜焼き定食弁当を!」 「デギャアア!!」 「テピィィィ」 「テギャー」 何だか、道の中央で怒り狂った青年が成体実装を足蹴にしていた。 傍らではパンコン状態の仔実装が2匹腰を抜かして怯えている…………あ、1匹親を指差して嘲笑ってるな。 地べたに落ちてるビニール袋には緑色の糞にまみれた空の弁当箱と、弁当箱の上で上半身と下半身の向きが逆になっている瀕死仔実装。 「俺の弁当を、俺の弁当を、週一の贅沢をぉぉぉぉ!!」 言うまでもないが、『託児』されたようだ。 ビニールがゴソゴソ動くのに気付いて覗いてみたら、喰われた弁当箱と喰って糞を垂れて媚びている仔実装を見て呆然とする青年。 追い掛けてきた親実装と連れ仔が勘違いして自分も連れてけと媚びを売り、青年が激発して虐待ショー開演……と言ったところか。 いや、何度も同じ状況を見ると解るんだ。多少の差異はあれど、奴らのやる事で起きるイベントなんてパターン化しているのだから。 「しかし、参ったなぁ……」 若者の怒りは解る。 実装石が虐待されるのは別に構わない。 だが、道路が塞がれているのは問題だ。 丁度、若者が実装を虐待している道が狭く、私が通るには至近距離を横切らなくてはならないのだ。 糞や血の飛沫が飛んでくるだろう。頭に血の上がった青年に因縁を付けられたり、実装石共に助けを求められる可能性だってある。 やれやれと嘆息し、私はこう呟いた。 「……迂回するとしよう」 来た道を戻る途中、私は少しだけ振り返る。 制裁の為か、親実装を乱暴に禿裸にしている青年の姿が見えた。 禿裸…………ぞくりと来た。 殆ど走るようにして今まで来た道を戻った。 その後、駅前に行こうとする度に実装石と人間のトラブルに遭遇し、迂回しなければならなくなった。 何だか目的から遠離って行くのは気のせいか? はぁ、バスかタクシーでも乗って移動すれば良かったか。 しかし、禿裸か……最近直で見てないな。 機械の試作を行っていた頃は、自分の手や試作品の機械のパーツで何千何万と禿裸に剥いたものだが。 どうすれば綺麗に毛が抜けるか、奴らの躰はどうなっているか、どんなバリカンが良いか、熱を加えるのが良いか、そんな事ばっかり考えてたな。 夜なべして命乞いする実装石を慈悲も許容もなく禿裸にしていった頃かぁ。あの頃は俺も妻も若かったなぁ……。子供らもまだ小さかった。 仕事場は開発部のデスクに移ったけれども、また生産ラインの方を見に行こうか。 ……と、何だ? 「誰か来てぇ! 私の赤ちゃんが、赤ちゃんが実装石に!」 「っと、こりゃいかん!」 数匹の成体実装に担がれて運ばれていく赤ん坊を見て、流石に私も走り出してしまった。 と言うか、そこまでやり始めたかこの街の実装石どもは! 近くに落ちていた角材を手にし、路地をチョロチョロと走っていく実装石共を私は追い掛けていった。 …… ………… ……………… 変に悪知恵の効く実装石どもだった。 私や母親の背丈では通りにくい場所ばかり選んで逃げ込むので、かなりの鈍足であるにも関わらず距離を詰められなかった。 一緒に追跡していた赤ん坊の母親ともはぐれてしまい、私は1人で小刻みに遮蔽物を利用して逃げていく実装石を追い掛けていった。 そして、出た先は……。 「中央公園か、嫌な所に逃げ込まれてしまった」 二葉市中央公園。 悪名名高き実装公園であり、市民にとっての憩いの場であるどころか禁忌の場。 あふれ出る程に繁殖した実装石と、バール持って暴れている虐待派しか居ない場所だ。 「拙いな。ここではどいつが赤ん坊を連れ込んだのか解らないぞ」 それはそうだ。実装石は殆どが生き写しのように造成が変わらない。 赤ん坊を担いでた連中にしても、薄汚れている以外は一般的な成体実装の外観だ。 赤ん坊を隠した後なら、私の前に出て来られても見分けは付かないだろう。 「くそ、もう警察を呼ぶしかないか……?」 焦りながら空を見上げると中央公園の上空に沢山の実装燈が飛んでいた。 2匹の実装燈と多数の実装燈が二手に分かれ、交互に地上に向かって急降下を繰り返し、地上にいる実装石に何かをしているようだ。 「……っと、呑気に観察なんかしてる暇じゃない!」 こうしている間にも、食欲の塊である実装石の群れの中に赤ん坊は居るのだ。 実際に幼児が実装石に喰われる事件は過去に何件かある。急がなければ手遅れになる! 急いで携帯を取り出し、110番をプッシュしようとしたその時。 「堅気の衆がこの様な場所に参られるとは如何なる理由であろうか?」 「わっ!?」 突然、背後から声を掛けられて私は驚いてしまった。 振り返ると、其処にいたのは編み笠を被った着流し風の男が立っていた。 長髪を後ろに流した美丈夫。笠に隠れがちな細長い瞳は、鋭い。 何時の間に背後に居たのだろうか。全然気が付かなかった。 「いえ、その、ここに赤ん坊を掠った実装石が逃げ込んだので、追い掛けて来たんです」 「ほほぅ、なるほど。それは難儀。して、こやつらの事では無いかな?」 男がゆるりと指先を向けた方向に居るのは、 「……デーデー」 「デー」 口々に生気を感じない虚ろな鳴き声を上げている数匹の実装石達と。 「すーすー」 ベンチの上で羽織りに包まれている赤ん坊が呑気に寝ていた。 「あ……」 だが、私の意識は肝心の赤ん坊の方には殆ど向けられていなかった。 さっきまであんなに懸命に探していたのに、心配していたのに意識がそちらへと傾いていく。 「ああ……、なんて、綺麗なんだ」 「ほぅ、解るのか?」 「ええ、解りますとも。私が全自動実装剥き機を開発した時のコンセプトが揃っている……!!」 私の網膜と意識を捕らえて話さないのは、禿裸になった実装石達だった。 毛根から剃り上げられた頭皮、服も糸くず1つ残してない。 まさに生まれたままの姿。これが野良実装で無ければ、直ぐさま食肉用解体装置や実装フードプロフェッサーに放り込んでも良いくらいだ。 センサーでの検査や送風、洗浄も無しにここまでやれるなんて……どうやって? 私はその禿裸を観察するのに夢中だった。 赤ん坊の母親が追いついて来た事も、赤ん坊を取り戻した母親がお礼を言った時も上の空で返事をしただけだった。 「1つ、聞いてもよろしいですか?」 「ふむ、何事かは知らぬが、答えれる事なら答えて進ぜよう」 「これを……この実装石を剥いたのは、貴方ですか?」 ごぅっと風が私と編笠の男の間を吹き抜けていく。 実装石達の周りに散らばっていた髪や服の切れ端が吹き飛び、我に返った禿裸達が泣きながらそれを追い掛けていく。 「如何にも私がやった。この」 鞘走りの音と同時に、私の眉間の直ぐ先に日本刀の鋒が突き付けられる。 私程度では認識出来ないレベルの動きで、男は何処からか取り出した日本刀を抜き放ち、私に突き付けたのだ。 恐怖はない。寧ろ、得体の知れない恍惚だけが私を包んでいた。 何だこの感触は? 私は、何を期待している? 「斬実剣によってな。あの禿裸は、我が愛刀と私の技量によって作り上げられた至高の禿裸」 「至高の……禿裸」 「その通り、やつらめ、私が姿見で己の姿を確認させるまで気が付かなかったわ」 男は愉快げにカラカラと笑うと刀を鞘に収めた。 そして、ふと真面目な顔付きになり、私を凝視した。 「しかし、私の技をただ『凄い』と言ったり『珍奇』と言った輩は数えきれぬが……初対面でここまで見抜くとは。御主、名のある虐待派か?」 「い、いえ違います。私は虐待派などではありませんよ!」 「そうか、御主からは凄まじいまでの緑蟲どもの声なき悲鳴が聞こえるが……」 「ひ、悲鳴って……確かに、確かに私は実装工場の技師で、実装加工用の機械などを開発してますが」 「それだけでは、あるまい。機械などではなく、己の手を持って緑蟲どもをいたぶった事もあろう?」 ドクリと私の心臓が鳴ると同時に、編笠の下の口がニヤリと歪んだ。 「なるほど、図星か。しかも、相当数をこなしてきたようだな」 「は……はい。私は、機械の試作時に実装石を禿裸にしました。何千、何万も。どうすればアレを綺麗に禿裸に出来るのか。その為だけに」 「そうか……しかし、それだけでは無いのではないかな?」 再びドクリと私の心臓が鳴る。 編笠の下の慧眼が私を射抜いた。 「楽しかったのであろ? 緑蟲を禿裸に剥くのが」 「うぅっ!」 「無様に泣き喚き、命乞いをし、媚びを売り、自らの不細工さも省みずに誘惑しようとする奴らを、服と髪を剥いで絶望のどん底に突き落とすのが」 「あ、あああ……」 編笠の男が、私を暴いていく。 夜なべしてまで装置の開発を急いだのは何のため? 会社の為か、家族の為か、給料の為か? 「無自覚から覚め、迷いを捨てよ。御主の顔に、答えは描いてあるわ」 「!!!」 編笠の男が見せた姿見。 それには、私と編笠の男の周りに集まって来ている実装石。そして、 「ああああ、あああ……!」 恍惚、その一言で尽きる私の面持ちだった。 私は、あの開発時期に、こんな顔をしていたのであろうか? 毎晩毎晩、こんな顔をして実装石を剥いていたのか。 実装石はこんな私の顔を見て、絶望の声を上げていたのだろうか。 そうか。今なら解る。 同期の技術者が「最近、疲れてません?」「私、作業代わりますから休み取ってください」と盛んに声を掛けてきたのも。 数人で実装石を機械で剥いている時、私の所に来た実装石だけが異常に怯えていたのも。 全て、全てこの顔の所為だったんだ。 この、楽しくて楽しくてしょうがない、そんな笑顔の所為だったのだ。 「解ったようだな」 「……はい、解りました。全て、解りました!」 「解ればよい。御主の隠された願望は、今、さらけ出された……ならば、後の事は解るな?」 「後の事?」 訳が解らず男に聞き返すと、男は破顔してみせた。 全てを悟ったような、そんな穏やかな笑みを浮かべて。 「心の赴くまま、魂の求めるまま、思いの丈を込めて天に向かって叫べ。それだけでよい」 「叫ぶ……叫べばいいんですね!?」 「そうだ、後は一声上げるだけでよい。さすれば、汝は我等の同志となろう」 ああ、何て事だろうか。 心の底から、臓腑の底から沸き立つ『ソレ』を押さえれない。 『ソレ』は明確な形を取り、私を『解放』する為のキーワードを私の脳内に投影し、言語化する。 後は、言語化した『ソレ』を天に向かって解き放つのみ! 海老ぞりになって、私は心行くまで絶叫した。 「ヒャッッッッハァ————————————!!」 私の目蓋の奥で、柿のタネの様なモノが弾け飛んだ。 躰の隅々まで意識が届く。厄年を過ぎ運動不足ですっかり中年スタイルになった肢体に力が漲る。 股座がいきり立つ。まるで妻を毎晩グロッキーにしていた頃の迸り。 私が感じている、放っているモノに全く気付かず、私にまとわりついて愚鈍にも媚びている実装石達。 いや、もう実装石なんて呼ばない。奴らに相応しい名称があるじゃないか。 そう、糞蟲。 糞しか出さないから糞蟲。 まさに、奴らの為にあるような名前だ。ああ、ピッタリ。 糞蟲共の気配、個数、息遣い、そして何故か話している事まではっきりと解った。 奴らが何を喋ったかは敢えて言うまい。どいつもこいつも似たような事しか言わない愚物だからだ。 愚物。そう愚物だ。ただ糞を放りゴミを漁り不愉快な声で鳴き存在するだけで街を汚染させる生きる愚物だ。 そしてその愚物は分際も弁えずに私に横柄な態度でモノを要求している。 潰れ饅頭のような、馬鹿面下げて割に合わぬ供物だの飼えだの口から糞の如き羅列を垂れ流している。 ああ、嘆かわしい。愚物が日の下に出て、堂々と活動するなんて。 糞蟲が、人目に付くなんて。糞蟲が、街を出歩くなんて。 糞蟲が、小汚いなりにも服を着てるだなんて。糞蟲が、生意気にも毛を生やしてるだなんて。 「絶対に、絶 対 に 許 さ な い よ ? 」 極限まで活性化した五感が、私の躰を信じられない程のスピードで動かす。 丁度飛んできた緑色の糞を、すれすれの所で回避。回避した糞は、向かいに居た同族の顔にぶつかった。 良い案配じゃないか。糞にまみれれば、その腐れ面も少しは見れた顔になるかもしれないぞ? そちらを見ずとも、どの糞蟲が糞を投げたかは解る。何故だか解る。 人様に糞を投げるだなんて。躾のなってない蟲だ。 蟲には蟲として相応しい姿がある。そんな、虚勢と疑似と欺瞞に過ぎない無様さを解消してあげようではないか。 そうすれば、己の分際と言うモノもちょっとは自覚する事が出来るだろう。私に感謝したまえ。 頭巾を剥ぐ。頭巾を破く。 前髪を抜く。 後ろ髪を抜く。 前掛けを剥ぐ。前掛けを破く。 服を剥ぐ。服を破く。 パンツを剥ぐ。パンツを破く。 靴を剥ぐ。靴を破く。 速やかに、軽やかに。 反応すら許さず、反撃も許さず。 数秒足らずで作業完了。 いやー何だか開発時代よりも早くなってるね。 破いた服や抜いた髪は糞蟲の周りにアクセントとして散らしてやる。 よし、これでいい。 糞蟲は、何も装着していない禿裸がやはり似合いだ。 シンプルイズベスト。気に入って貰えただろうか。 「デ、デデデ?」 糞蟲は目をギョロギョロさせている。 自分の周りに散らばっている服や髪の残骸を見ても、現実を理解してないようだ。 私の動きについて来れなかったのだから仕方がない。 しかし、私は糞蟲に対しても親切を行う事を厭うつもりはないのだ。 身嗜みの為持ち歩いているコンパクトを開き、鏡の部分を糞蟲に合わせてやる。 「デェ……デープププッ!!」 ああ、笑っている。自分の姿だと気付かないようだね。 私は親切だから、糞蟲の豚耳を軽くつねってやる。 「デギャアア! ……ア?」 痛みで暴れた自分と鏡の中の糞蟲の動きの連動を見て、それが何なのか気が付いたようだ。 目を見開いてワナワナと痙攣した後、血涙を流しつつ口から泡を吹き発狂して暴れ始めだしてしまった。 良かった。気に入って貰えたようだ。そんなに嬉しそうだと本当に嬉しいよ。 「デプププ、デーププ!」 「チプププッ」 「デピャーピャッピャッピャ!」 禿裸にイメチェンした糞蟲に対し、賞賛の声を浴びせる他の糞蟲達。 何という同族愛だろうか。小石や糞まで投げている。 どうだね、彼は新しい境地に達し、単なる糞蟲から惨めな糞蟲へと進化を遂げたのだ。 羨むのも無理はない。そう、羨んでいるのは、悲しい事。 そうだ。たった一匹だけってのも不公平だね。 幸せというのは独り占めするものではなく、多くの仲間に分け与えるものだ。 どうせなら……。 「デプププ、デーププ! …………デ?」 「チプププッチピャピャピャ……テェ?」 「デピャーピャッピャッピャ! ………………ピャ?」 君達も、同じ風にしてあげようか? うん、そうしよう。ちょっと、動かないでいて貰おうかな。 「デヒッ、デ、デギャアアアアアア!!」 「テッチィィィィィィィィ!?」 「ヒギャアアアアアアアアアア!!!」 …… ………… ……………… 「いや、実に見事。素晴らしいお手前。拙者、感服致したぞ」 「はは、いやぁお恥ずかしい。年甲斐も無くはしゃいでしまいました」 編笠の賛辞を受ける私の周りには、数十匹の禿裸が居る。 成体蟲も居れば、仔蟲も居る。親指蟲に抱えられた蛆蟲も居る。 どれもこれも、私が全て剥いてあげた。 普段の傲慢さや醜悪さが抜けたかのように、糞蟲達は「デーデー」「テーテー」と嬉しそうに鳴き続けている。 そうだ、これでいい。これが、こいつ等に相応しい分際なのだ。 「しかしこれはどうした事か。これ程までに躰が動くとは思わなかったですね」 「それが汝の虐待師としての資質というものよ。さぁ、参ろうぞ。汝が赴く場所へ。我等の居るべき場所へ」 「……どちらへ、ですか?」 編笠の言葉に、わざと意地悪な返答を言う。 もう、解っているのだ。私が何処に行くべきか。そこで何を為すべきか。 私の心は既に焦燥で焼け付きそうだ。 早く、早く指し示してくれ! 「決まってる、糞蟲共の巣を灰燼に変えてくれる為、いざ、円卓へ!!」 「いざ、円卓へ!!」 後はもう、まっしぐらに走った。 頭はスパークしている。清々しいほどに、躰も心も軽やかだ。 ひたすらに進行方向に居る糞蟲共を片っ端から禿裸に剥きつつ、走る走る走る。 途中にあったダンボールハウスを掴み、前方に放り投げる。 天井が固定されて無かったのか、すぽっと3匹の親仔が飛び出して来た。 「デ?」 「レ」 「テ」 食事中だった親仔実装が空中で両目をぱちくりさせている間に、素早く剥き去る。 走り抜ける私の耳に、後ろで禿裸親仔の潰れる音と悲鳴が同時に聞こえた。 ああ、良いぞ。この感触。愚物の反応。堪らん。正しくエクスタシーだ。 歓喜の雄叫びを上げつつ円卓の外周部から、内側———大噴水のエリアに入る。 「デスー?」 「テフテフ」 「テチー?」 私の網膜に映るのは、大噴水の周りに広がる害蟲の群れ。 「さぁ、前戯は終わりだ……」 無様で糞のような糞蟲の群れが山と居る。 腕が鳴る。早くしたい。さあ、虐待はこれからだ。お楽しみはこれからだ。 ハリー!! ハリーハリー!! ハリーハリーハリー!!! 「私の、私の本番はこれからだ!!」 ああ、早く、早く彼女らの全てをイメチェンしなければ。 涙が、頬を伝う。嬉しい、嬉しい、嬉しすぎる。 感極まった私は、今一度大声で喉も裂けよと大声で叫んだ。 「ヒャッッッッハァ—————————————————————!!」 「お、新入りの気合いがいいね。負けてらんないぜヒャッッッッハァ————————————!!」 「あのおっさんに続くぞヒャハ————————————!」 「おっさんばっかりに良い格好させないぜヒャッハァ————————————!」 数人の同志達と共に噴水広場へ突貫する私の耳に、糞蟲達の出迎えの合唱が聞こえた……。 fin 「昭子、お前なんでこんな所に!」 「え、お父さんこそ何でこんなトコ居るのよ!?」 すっかり実装石虐待に嵌ってしまった私。 休日の散歩がてらに円卓へ行き実装石を片っ端から剥いでいたら娘の声が聞こえた。 日頃疎遠だった娘が何故か、バールを片手にヘタクソな手つきで仔実装を禿裸に剥いていた。 いや、あれでは禿裸と言うより実装石版の人体模型作りだな。 趣味が小物作りの割には、随分とぶきっちょな事だ。 「はは、不器用だなぁ。ほら、こうすれば綺麗に剥けるよ」 「テヂィィィィッィィィィ」 「わー、綺麗にすぽっと剥けた。お父さん凄いねー」 普段は素っ気ない娘の尊敬の眼差しが心地よい。 娘との溝も埋まり、虐待を通して家族の縁が戻ったような気がする。 「後ね、こうして髪を一房残して調子に乗せてから最後に抜くと、これまた絶望感溢れる顔付きをするんだ。面白いからやってみなさい」 「あ、ホントだー。お父さん、これからも面白い事もっと教えてね♪」 「ああ、今度は母さんも呼んでみんなで遊ぼうな♪」 「デギャアアァァァ!!」 やっぱり、実装虐待っていいよな♪ 今度こそ完

| 1 Re: Name:匿名石 2014/10/24-21:55:22 No:00001502[申告] |
| エエ話や |
| 2 Re: Name:匿名石 2014/10/24-22:42:42 No:00001504[申告] |
| GJ |
| 3 Re: Name:匿名石 2014/10/24-23:26:21 No:00001505[申告] |
| 糞蟲に死合せを
家族には幸せを |
| 4 Re: Name:匿名石 2023/09/22-01:57:03 No:00007997[申告] |
| いたたたた・・・ |