「テ〜♪テッテロテ〜♪」 舌足らずな上、派手に音を外した歌が聞こえる。 どうやらうちの仔実装が今日も胎教をしているようだ。 声の聞こえるリビングの水槽まで近づくと、仔実装は歌うのを中断して俺を見上げて話しかけてくる。 「テチュ〜♪」 そして自分の大きく膨らんだ腹を優しくさすり、その腹に何か語りかけていた。 おそらく「この人がご主人様テチュ」とでも教えているつもりなんだろう。 俺はそんな仔実装の頭をそっと撫でてやる。 仔実装はくすぐったそうな声をあげて喜んでいた。 鳴る前に起きてしまったため、再び消しに行く事になった目覚ましを止める。 着崩れた寝巻きを意味もなく整え、顔を洗う。 今日もいつものように仔実装に三粒の実装フードを与えた。 しかし仔実装は一粒のフードをちまちま齧り、それを食べ終えると 「テチュー・・」 と小さく一声鳴いた。 水槽の出口を半分塞いでいる蓋に取り付けたリンガルには『お腹いっぱいテチュ・・』と表示されていた。 残った二粒のフードを袋に戻して、俺は仔実装の頭を優しく撫でてやる。 腹を押さえて苦しそうな声を上げていた仔実装だったが、それで多少楽になったのか表情も和らいだように見える。 「テェ・・テッチュ〜・・♪テテッテレ〜〜♪」 まだ腹に痛みが残っているのだろうが、それでも仔実装は慈しむようにその腹をさすりながら歌った。 「可愛くて賢い子が生まれるといいな。頑張れよ」 「テチュン♪」 励ましの言葉を放つと、仔実装は任せてとでも言うように胸を叩いた。 また子守唄が流れる。 意味の無い子守唄。 リンガルの表示を見ても「テッチュ〜♪」としか出ていない。 意味をなさない子守唄。 胎教では無い、ただ自分の中のモノに向かって自分の声を聞かせるだけ。 「まぁ、別にいいけどな」 誰に言うでもなく、俺の口からは言葉が漏れた。 二週間後。 先日の徹夜がたたって何度目か数えるのもやめた欠伸をする。 少し滲んだ視界の端に、膝を抱えて座る仔実装を捉えた。 いつもなら子守唄を歌っている時間なのだが・・。 俺は心なしか不安気に見える仔実装に話しかけた。 「おーい、どうした?」 「テェッ・・?!ご主人様・・」 急に声をかけたせいか驚き飛び退く仔実装だったが、声の主が俺だと確認すると安心してまた座り込んだ。 「元気無いじゃないか。腹痛いのか?」 仔実装は首を横に力なく振った。 「違うテチュ・・・。お腹の赤ちゃんがなかなか出てこないから心配なのテチュ・・・」 「なんだそんなことか。大丈夫だ。お前の子はきっと他の子より少し大きくなるのが遅いだけさ」 「・・・ほんとテチ?赤ちゃん大丈夫テチィ・・?」 出来るだけ優しく笑顔を作り、不安が解消されるような言葉を選ぶ。 「安心しろって。ほら、早くいつもみたく歌ってやりな。腹の子も今日は何で歌ってくれないのかって 不安になってるかもしれないぞ?」 「テェ!そうテチュ・・ママのワタチがさぼったら赤ちゃんも生まれる気をなくしちゃうかもテチ!」 立ち上がって己を鼓舞する仔実装。 今の一言が沈みかけていた母性と使命感を呼び戻したようだ。 しかし、いきなり立ち上がったせいか腹の痛みが襲ってきたようだ。 今日もその痛みに必死に耐える仔実装。 その横で、あえて俺は頑張れと言った。 二ヶ月が経過した。 仔実装は大きさ的には中実装より一回りほど大きくなっており、ほぼ成体の体型に近づいていた。 鳴き声も変わり、以前のような可愛さは無い。 今日も仔実装は歌い続ける。 「デデッデ〜♪デッデロデ〜〜♪」 相変わらず調子外れな酷い歌声。 三ヶ月前の愛らしい仔実装の姿は微塵も無くなっている。 素直に潮時だと思った。 「デッデ・・デグゥ?!デデェェィィィズアァァァ・・・・」 俺が決意したとき、仔実装が苦しそうに呻きだした。 毎度お馴染み腹痛のようだ。 仔実装の腹痛は日にちを重ねるごとに酷くなっていった。 だが、生まれてくる子供のためを思ってか、今日も必死で耐え続ける。 一ヶ月程前からはいきんで出そうとしている事もあったが、腹痛の数倍の激痛を総排泄口に受けて すぐ絶叫してあきらめていた。 それでも毎日一度は出産を試みているようだ。 「デェェェ・・・デーッデーッスー・・・・デーッデーッスー・・・・」 痛みが和らいできたのか、水槽に両手をつけて呼吸を整える仔実装。 ある程度呼吸が整うと、今度は腰を下げ始めた。 「デェーー!デスァァァーーー!!!」 水槽から片手を離し、俺に向かって何か言葉を投げる。 俺は意図を理解し、小さな桶を仔実装の下にひいた。 それを確認すると、仔実装は本格的に下半身に力を入れだした。 ブルブルと体が震えているのは力んでるからというだけでは無く、この後に確実に来る激痛を思い出しているのだろう。 それでも母性が仔実装を突き動かす。 「デェ・・・デ・・デスッ!!・・・・・・・・デギャァァァァァァァアアーーーーー!!!!!」 思いっきり力んだときに、ほんの少しだけ総排泄口から緑色がのぞいた。 が、その痛みはいつにまして強烈だったようで、すぐに仰向けに倒れて転がりまわってしまった。 「デェェェァァァァーーーーーーーーー!!!!!!!デビュアァァァアァァァァアアアアアア!!!!!」 この日も出産は失敗に終わった。 そして夜を迎える。 痛みで疼く腰を抑えながら横になる仔実装に、俺は決断を迫った。 「腹の、生みたいか?」 「当たり前デスゥ・・ここまで頑張って育ったワタシの子供デスゥ・・・」 「そのためにお前が犠牲になるかもしれないぞ?」 「いいデスゥ!それでもこの子が外の世界を知る事が出来るならワタシは喜んで犠牲になるデスゥゥ!!」 真っ直ぐで純粋な気持ちだ。 そこまでソレを愛しているとは・・。 それなら俺も喜んで宣告しよう。 「少し強い薬を使えば、取り出せるかもしれない」 「デスッ?!」 「だけど痛いぞ?しかも今までと違って我慢しても引っ込まない。生み終わるまではあの激痛が続くんだ」 「・・・・生むデス・・・。この子をこの手に抱きたいデスゥ!!」 すでに自分の頭二つ分も前に出ているを腹を抱き、仔実装は叫んだ。 決行は明日に決まった。 「準備はいいな?」 「デス・・!」 四肢を全て磔台のような物に固定された仔実装が強く頷く。 しかしその体は恐怖に震えていた。 恐怖の対象は俺の持つ一本の注射器。 これが昨日言っていた薬だ。 先端の針が真上の蛍光灯の光を反射して不気味に輝く。 そのアクセントが余計に仔実装の恐怖を煽った。 ガチガチガチガチ・・・ 「デスデスデスデス・・・・」 歯を鳴らせて震える仔実装の右手に俺は注射針を近づける。 ズブリ 「デッ!!」 ズブズブ 「デッデッデッ」 自分の体に深く差し込まれる針を見て、痛みよりも恐怖で涙を流す仔実装。 内部の液体が徐々に注入されていく。 「デェェ・・・」 完全に液体が仔実装の体内に入りきった後、俺は告げた。 「今から三分後あたりにお前をかつてない激痛が襲うだろう」 「デェェェェェェ・・・」 「そしたら見に来るからそれまで一人で待ってな」 「デスゥ・・・」 俺はいそいそと自室を出ると、倉庫と貸した元自室に向かった。 「デズァッ!!!デギャッデギャ!!!!!?デビュアアァァァァァアアァァァァーーーー!!!!!!」 戻った頃には丁度仔実装が苦しみ始めていた。 今日は四肢を封じられているため、足を閉じることも腹を抑えることも適わない。 ただただ目から鼻から血を流して叫ぶのみだ。 「デェェェアグアオォォォッ・・・・デグァァァァァァアッァアアアアアア・・・・・」 喉が擦り切れるのではないかと思う程の悲鳴が部屋中に反響する。 総排泄口から緑色が顔を出し始めたのは仔実装の声が枯れかけた頃だった。 ミチッ・・ 「テグェァァァアアアア・・・」 ミチッミチッメキッ・・・ 「ジュオァァァァァアア・・・・」 そしてついに三ヶ月もの間、仔実装を苦しめたモノの全貌が現れた。 ベキィッ!!!!ブボンッッッ!!!!! 「デ・・・・・・・・・・!!!」 ついに痛みで声を失ったようだ。 それもそのはず、その腹は人間で言うと肺にあたる辺りまで完全に裂けている。 千切れかけた両足はすでに感覚が無いのか、色も紫色に変わり始めていた。 「・・・・・・・?」 完全に生まれた「我が子」の姿を見て、仔実装は再び声を失った。 痛みもそれによる恐怖も一瞬忘れ、ただ生まれてきたソレを見て愕然とした。 緑色、ヌルヌルした全身、猛烈な悪臭。 「・・・・・・・・デス・・?」 自分の腹から出た、自分と同じくらいの体積を誇るもの。 だが目も鼻も口も無い。 髪も服も頭巾も無い。 産声も上げない。 「ブッ・・・・ブアハハハハハハハッ!!!」 仔実装が現実に戻ってくる前に、俺が耐えられずに噴き出してしまった。 生まれてきた「我が子」・・・滑稽だ。 「だってお前それただのウンコじゃん!」 「デ・・・・?」 大笑いする俺と自分の足元に転がる汚物を交互に何度も見て、ようやく仔実装が現実に帰ってきた。 そしてその顔に浮かんだのは怒り。 「デ・・・デジャァァァアアーーーー!!!」 「なんだよ、まだ声出るじゃないか」 「デェェェァァァァーーーー!!!!デッジュアァァァーーーーー!!!」 「何?今まで騙してたのを恨んでるのか?」 リンガルの表示を横目に見る。 「ワタシの可愛い子供にウンコとは何事デスゥーーーー!!許さないデスゥゥーーーー!!!!」 「・・・・・」 俺は慌てて口元を押さえて片膝をつく。 笑いが止まらない。 こいつは目の前にある出したてほやほやのウンコを見て「子供」と言ったのだ。 怒ってる理由すらすれ違いをしている。 さらにリンガルには次々と文字が羅列されていく。 「早くこの縄を解くデズゥ!!」 「粘液を舐め取ってやらないと蛆になってしまうデスゥ!!!!!!」 「あと子守唄も歌ってあげなきゃいけないんデスゥゥゥゥウ!!!!」 言われた通り、俺は仔実装の戒めを解いてやった。 満身創痍の体を引きずって、汚物の前までたどり着く。 並の野良実装ですら近づくのを躊躇うだろう三ヶ月分溜め込んだ糞。 その糞をあろうことか舐めはじめた。 俺は笑っていた顔が少し強張るのを感じた。 「デス、デス、デスゥ」 ベチャベチャと不快な音をたてて糞の周りに張り付く自分の体液を愛しそうに舐め取る仔実装。 生粋の虐待派である俺すらも眉をひそめる程の光景。 「デスゥ・・・デッデー♪デッデロデ〜・・・」 そしてある程度舐め終えると、今度は両手を糞にまわして歌いだした。 見れば仔実装の目はとうに焦点を失い、濁っていた。 唄を口ずさみながらも涎が止め処なく溢れ、再生しはじめた下腹部を濡らしていく。 この仔実装は偽石の崩壊より自我の崩壊を選んだのだ。 「・・糞蟲、糞と戯れる蟲ってところか?」 眼前の光景に見飽きた俺は自分が言った言葉に感心すると、部屋を出た。 翌日、何もしていないのに足までしっかりと再生した仔実装を、俺は近所の空き地に戻した。 「もともとあそこで拾ったものだしな」 肌身離さずあの巨大な糞を抱えているため、悪臭が酷く、空き地まで持っていくのに五重にしたビニール袋を 使った。 それでも微かに臭いが移ったような錯覚があって、ついつい自分の手を嗅いでしまう。 「臭・・くないよな・・?」 この後家に帰ってから何度手を洗ったかは覚えてない。 「テチテチィ♪」 「おぅ」 右手に下げた新しいビニール袋の中から、一匹の仔実装が顔を出した。 さっきの空き地で捨ててきた汚物の代わりに拾ってきた生まれたての仔実装だ。 その顔はまだほとんど知らない外界への期待に満ち溢れている。 実装石は子供のうちは非常に可愛い。 だが世話が非常に面倒だ。 餌代はかかるし糞の処理も嫌だ。 見てる分にはいいだけ。 だから考えた、飯も少なく糞も出なくなる手段。 『下痢止めを餌に混ぜてしまえばいい』 案の定、腹に糞を溜め込んでいく仔実装は次第に食欲を失い、糞も出なくなった。 パンコンも当然しない。 それを不安に思った仔実装には「妊娠したのだ」と言えばいい。 自分の腹の中に溜まった大量の汚物に話しかけ、あまつさえ子守唄まで歌う。 さて問題は成体になったときの処理だ。 成体実装はどこをとっても不快感の塊のため、家に置きたくはない。 が、ただそこら辺に捨ててくる、殴り殺すなどはご法度。 せっかくこんな画期的な方法を生み出したのだから、虐待に組み込めないかと考えた結果、こうなったわけだ。 「テチュ〜ン♪」 「はは、おいおい、あんまり乗り出すと落ちるぞ〜」 今日から一週間くらいは虐待とは無縁の生活かもしれない。 仔実装が悪さしなければ、の話だが。 「デッスデェ〜ッスゥ♪デッデロ〜ン♪」 夕日が町全体を等しく鮮やかに照らし出す頃、広い広い空き地の片隅で調子外れな歌声が流れ始める。 「デッス〜ゥン♪デデデ〜〜〜ン♪」 歌い続ける彼女の周囲は異臭で包まれていた。 野良実装ですら鼻をおさえる程のあまりにも凶悪な臭い。 その悪臭を毛ほども感じていないかのように、彼女は歌っていた。 「デッデデェェ〜〜ン♪」 手の中には大きな排泄物の塊。 その糞を優しく抱き、頬擦りする。 よく見れば背後にも大量の糞が盛られていた。 「デスデェェ〜ッデデッデビョ〜ン♪」 どう見ても気が触れている。 そんな事は知能の欠片もない野良達でも十分に理解できた。 普通、精神崩壊した実装石は、他の狡賢い実装石に利用されたり、ストレス解消の道具として嬲り殺されたりする。 が、彼女と周囲の糞が放つその悪臭が彼女を守っていた。 皮肉にも、狂ってしまったおかげで「我が子」と勘違いしている「糞」に救われているのだ。 「ディディディスィ〜♪」 他の実装石達が遠巻きに彼女を嘲笑している。 だがそれ以上は出来ない。 糞を投げても彼女には効き目が無いから。 近づきすぎて臭いでショック死したものもいる。 「デッスゥ〜ン♪」 今日も彼女は歌う。 沈む夕日を虚ろな瞳に映して歌う。 新たな「我が子」を生み出しながらも歌う。 意味の無い唄を。 意味をなさない唄を。 虚ろな、唄を。 「落下さん」は馬鹿スクだったので、今回は普通の虐待に戻しましたm(_ _)m
