タイトル:【虐】 リハビリ作品
ファイル:冬を見る傘.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:11306 レス数:0
初投稿日時:2007/12/13-13:43:56修正日時:2007/12/13-13:43:56
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冬を見る傘

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それは、ある風がとっても強い日の出来事だった…。

その日に、とても強い風が吹いて、雨がイッパイ落ちてきて、
ワタシは、大切なお家と我が仔の蛆ちゃん達を失った。


それまでは、タクサンの仔に囲まれ幸せで、食べ物も地面にイッパイ落ちてて苦労もなかった。

とても暑い日を耐えて過ごして、さらに新しい仔を授かって幸せで、
何も考えなくても日々を過ごせていた。

誰も飢えていないから、みんな仲良く、ワタシと同じ様に仔を作って楽しくお散歩も出来たのに、
強い雨と風のあった時に、ドンドンご近所さんが少なくなって、
ワタシのお家も壁がヨレヨレになって、寝られなくなって、お外のゴハンもだんだん手に入らなくなった。


しかし、ワタシ達はそのお家も無くなった。

せめて、雨だけでも凌ごうと、ワタシ達はイッパイ歩いた…。
ニンゲンの捨てた”傘”という物を拾って雨を凌いだ。

でも”傘”だけではお家の代わりにはならないからイッパイ歩いた。

そしたら、”傘”を目印にイッパイナカマが集まってきた。

そして、今はミンナでココにたどり着いた。

ナカマがイッパイいる場所…とてもウルサイけど雨を凌ぐおっきな屋根もある。

ワタシ達は、イッパイで寄り集まって、その”傘”の陰で過ごした。


でも今はゴハンが無い…。

その日は、目が覚めてから、雨が降っていなかったので、
ワタシ達は、まだ気力のある仔達を選んで、一緒に行く気力のあるナカマ達とゴハンを探しに外に出た。

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冬も間近に迫った秋の終わり…

その実装石達は、川を跨ぐ線路の架線橋の下で寄り固まるようにして生を繋いでいた。

夏の始めと秋の始めに多い台風だが、めずらしい季節外れの台風が通り抜けたのはつい数日前の出来事だった。

その台風の襲撃で家を失った実装石達は、それぞれ雨風を凌ぐ場所を求めて住みなれた場所離れ、
この線路の高架橋の下、ゴミが不法に捨てられている場所に集まってきていた。
時折響く轟音にさえ慣れればコンクリートの壁と屋根が、捨てられたゴミが彼らを守っていた。

特に橋脚の壁と不法投棄の冷蔵庫、そして、半壊した大型テレビの囲いになった部分では、
数十…仔を含めれば100匹超える実装石が、まるで越冬するてんとう虫の様に固まっていた。

そして、その囲いの最後の面には玄関の様に、薄汚れた赤い傘が開いて立てかけてあった。
汚れてはいるが、布に大して損傷も無く、傘の骨が1本、先端から数センチ申し訳程度に折れているだけで、
彼らはその傘を非常に頼りにしていた。

風を凌げ、周囲から身を隠せ、実装石の力でも動かせる。

彼らは、コレを地面に穴を掘り柄の部分を差し込む事で容易に飛ばないようにして、立てかけて玄関とした。
折れた部分を下に、その布を内側に引き込んで石を置いて動かない様にして、
外に出るときには石を外してずらして隙間から出るのだ。

彼らは家を持ち、暑く厳しい夏を生き延びて、
木の実を豊富に食す生活を経験して温和化の時期にあったために、
イザ家を失った後も、無力さを否定するために、そしてなによりいがみ合う気力も無くし身を寄せ合った。
まったく共食いやケンカが起きないわけではないが、
冬を控えてエサの無い状況に、暴れるだけの気力の方が先に失せていた。

真に寒さと飢えが限界を迎え、それを身に染みて知れば本来の性格を剥き出しとするであろうが、
まだ、彼らは豊富なエサが溢れていた数日前までの記憶を頼りに、
その季節が明日にでも戻ってくるという幻想に未だに浸って体を動かすのを止めていた。

いま、こうして風雨を凌ぐ場所があるという安心感に寄りそって怠惰に…。



その日は珍しくとても暖かかった。


”温かい日は、気分も良い、いいことがある”


そう信じた実装石の家族が数十組程、朝からこのゴミの要塞を抜けて河川敷を彷徨いだした。

その1組がこの家族である。
この一家の親実装が、自分の信念でそう言い出し、周りを誘ったことが始まりだった。


一家は、時間を掛けてエサを探し続けたが、収穫の方は大してない…。
何故か、天気が良いのに人の流れはまばらであり、コンビニでも収穫は無かった。


仕方なく、彼らは河川敷の散策で、まだ背の高い草が茂る場所を見つけて、
その草で腹を満たす事を思いついた。

「結構集まったデス♪お腹も膨れてきたデス♪」

「「テーチィ♪妹ちゃんやオバチャン達のお土産もあるテチ♪」」

空腹が進行しているために、何も無いよりは、味覚が受け付けなくても貴重な栄養源である。
たっぷりと時間を掛けて腹を満たし、さらに動く気力が戻ると、
その草を引き抜いて、ゴミの山から見つけた愛用のビニールの買い物袋を拡げて、
その草を家族総出で集めだした。

彼らには、まだ、分け合うという事をするだけの精神的余裕が残っていた。
いや、余裕ではなく、これから冬を迎えるという危機感がまったく無いだけであるが…。


「温かい日はとってもいいことがあるデッスゥ♪」

「ママの言う通りテ…」

ビュー…
ベチャ!

「チョパ!!」

「強い風デスゥ…ビックリデス…さぁ、帰るデ…デデェ!」


強い風が吹いて倒れそうになって驚いた親実装。
我が仔の無事を確認するために振り向くと、仔が一匹倒れていた。

仔は、飛来した空の缶ジュースの容器が当たって頭が潰れ首がヘンな方に曲がっていた。

「どうしたデスッ!起きるデス!目を覚ますデスゥ!!!」
「テェェェェェン!あのおっきいのがお姉ちゃんに当たったテチィィィ!怖いテチィィィ」

親実装も姉妹達も、何が起こったか判らずにオロオロと死んだ仔の周りに集まり周囲を見渡す。

付近に居たナカマの家族達も不安そうに辺りを見回しだす。

「何があったデス!?」
「突然、モノがお空から降って来たデス!あそこで誰かの仔が潰されたデス!」


キョロキョロと辺りを見回していた親実装が、突然、何もない空間に向かって歯を剥き出した。


ビュー…

「デシャァァァァァ!!  ヒキョウデスッ!ワタシ達がナニをしたというデス!」

親実装は、缶を人間が投げたもの…でなければこんな事が起こる筈がないと、
怒りを何もない空間に向けて放ったのだ。

ビュー…ヒュン!
ビュー…カランカラン…

「お姉ちゃん…お返事するテチ…息をするテチュ…テェェェェン テェェェ ビボッ!!」
「ママー、怖いテチッ!ニンゲン居たら怖いテチ!何処に居るか見えないけど怖いテッテテェ  ヂポァ!」

しかし、さらなる風が吹くと、
その風の先から空のペットボトルや缶が次々と転がり、あるいは飛来して来た。
強い突風に、河川敷の土手の上にある自動販売機の空き缶入れが倒れて中身が飛ばされたのだ。
運悪く家族を介抱していた仔実装がそれに直撃され、
オロオロと親の後ろで右に左にグルグル回っていた仔実装が轢かれた。


付近でも、実装親仔達は、突風にみんな同じ様に身を伏せて飛ばされないようにしたが、
その身動きの取れない姿で、物が飛んで来るのも見ることが無いまま、
飛来物が叩きつけ、轢いていき、そこらじゅうで悲鳴が上がっていた。

「デズゥ!」「デアッ!イタイデスゥ!」
「テチャァァァァ!!」「テビッ!」「テチャ!?テェェェェェェ!!」

辺りから沸き起こる悲鳴に、突風の中顔を上げたその親実装や姉妹達は、
その視線の先に、無数の飛来物が迫る光景を認めて顔面を蒼白にさせた。


「ニンゲン!やめるデス!今なら許してやるデス!    デッデデデェェェ!
 デズッ!イタイデスゥ ゴメンナサイデス ヤメテクダサイデスゥ〜」

その光景に最初は仔達を守るために気丈に風と飛来物に向かって体を晒した親実装も、
頭上を掠めた缶に、一瞬にして背を向けて後頭部を抱えて突っ伏し、激しくパンコンさせた。
奇しくも、そのパンコンしたケツに別の缶が直撃すると、
マヌケな1オクターブ上がった叫びを上げ、あとは顔を上げる事無く謝罪の言葉を羅列し始めた。

幸いにも、そのパンコンの膨らみが緩衝材となって、
親実装はそれ以降も怪我をすることが無かった。
実装石が、脅威に対してケツを向けて突っ伏す習性には、意識していない理由があったのである。


「テェェェ!ニンゲン怒ったテチィ!イッパイ来るテチ!ママのアホマヌケ!ニンゲン怒らせたテチィィィ!」
「逃げるテチ!こんなアホママだけ怒られればイイテチー!」
「テェェェェェッ…逃げたいけど、風が強くて逃げられないテチ」

仔達は一斉にパニックに陥る。
パニックには陥るが、缶やペットボトルが飛散する程の風であり、
それはだんだん強くなっているために、軽い仔達は立ち上がろうとして風に煽られ、
片足ケンケンのまま後ろへ後ろへと下がっていったり、転がされたりが精々で、
身体が勝手に動かされるという恐怖をとめるためにその場に伏せるしかなかった。
迫り来る飛来物や回転体をかわすとか防ぐとか言うレベルではない。

ほぼ、それらになすがままにされ、身を掠めていくそれらに恐怖を与えられて、
兎に角、漏らし、泣き、口が開く限り人間を怒らせる動言をした母親への文句を叫ばせた。
もちろん、身を掠める恐怖とは実装石独特の大袈裟な感覚がもたらすものなので、
身体2つ分は離れた場所を通過しても、まるで服に掠ったかのように感じて騒ぐのだから、
今の状況では、恐怖が止まる事を知らない状態になってしまう。

缶に混じって、新聞の切れ端や木の葉も舞って来るが、
最後は、それらにすら激しい絶叫を上げてパンツの隙間からも噴射するほど漏らして怯えを表した。

彼らだけではない、辺りの実装石親仔全てが同様の阿鼻喚起に満たされていた。


実装石達にとっては長い長い襲撃も、風の勢いがやんでくると共に終わりを迎えた。


「おまえ達、ダイジョウブデス?ニンゲンはもう居ないデス」

膝下まで膨らませ、垂れた緑色のパンツから糞汁を滴らせ、
泣きはらした目のすっかり貫禄もクソもない姿の親実装が身体を起こして周囲を見回す。

「「テ…テ…テチッ…」」

親の呼びかけに、似たような姿になってガタガタ震えていた仔達も顔を上げ始めた。


そこかしこで、まだ充分に立てるほど風は弱まっては居ないが、
大きなものが飛んでこないのが判った者達が、顔を上げて家族を呼び合い無事を確かめ合った。

風の中、血飛沫、肉片のある草と土の上を、
ワラワラとハイハイする大小の実装石がせわしなく駆け巡りだした。


その家族も仔達がそれなりに広い範囲に散らばってしまっていたが、
幸いにも、最初の3匹を除いて大きな怪我を負ったものは居ないようだった。
勿論、磁石の様に缶をひきつけるわけではないので、
そうそうにランダムで広い敷地に飛来する空き缶が直撃するものではない。

ただ、全体を見れば犠牲者は割りに少なくても、確かに全滅した家族すらある。
身体は磁石の様に缶を引き付けはしないが、磁石の様に不幸は惹き付けるのが実装石である。


「ママ…ママ…ドコテチ…おメメが見えなくなったテチ…サムイテチ…ネムイテチ…」

親実装が抱えて介抱しているのは、勢い良く転がる缶コーヒーに撥ねられ轢かれた仔である。
他の物体の直撃を受けた2匹は、既に息絶えていた。
たいした重量物でないために一命は取り留めたが、
転がる勢いが強かったために小さく弱い仔には致命的でもあった。

「テェェェェン…ママ怖いテチ…お姉ちゃんも妹ちゃんもチンじゃうテチ」

パンツの中身を掻き出して、ようやく親の周りに戻ってきた仔達も疲労困憊していた。
その親仔達を嘲笑うかのように、ポタポタと雨が降り出した。
雨は小降りだが、風の勢いを借りて、容赦なく遮るものの無い実装石達を叩きつけ出した。

「ニ・ニンゲンはもう居ないみたいデス…お天気が悪くなってきたデス、もう帰らないといけないデス」

親実装は、天気の豹変を苦々しく見上げ、抱えた仔を見つめながら呟く様に言った。

もう、餌をのんびりと取っている状態ではないとようやくに気が付いたのである。


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『散々だなぁオイ』
『ああ』

予報では台風が来る事が判ってはいたが、仕事は台風が来るから休みますとはいえない。

夜勤明けの昼…退社間際、携帯のラジオをチェックすると台風がドンピシャで通過している事を告げている。
この季節ではありえないムシムシした暑さも、ポツポツと雨が降り出すと一気に冷え始めた。

昨日の予報では、今日の昼は、まだ台風は沖に居る筈だったのが、
進路も速度も不安定で、これからまさに直撃と言う状態になっていた。
とはいえ、会社で無為に暇を潰す余裕はない…出来れば早いうちにちゃんと横になって寝たいのだ。

一応、傘はもってきた…会社から駅までいつもの時間でたどり着ければなんとか強くなる前に…
そう考えて、憂鬱な足を俺達は前に出した。

強い風と雨が降り始めた中を…。

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風はドンドン強くなり、雨は瞬く間に土砂降りとなり容赦なく体を痛いほどに叩いて行く。
それにより、秋独特の冷たい上空から降りる雨が瞬く間に気温と実装石達の体温を奪って行った。

風はもう、先程の缶を飛ばしたものがそよ風であるかのように荒れ狂っており、
成体の実装石ですら踏ん張らずに立っていると風の方向に流されるほどである。

「テチャァ!!   テチィィィィィ!!」

「しっかりするデス…決して手を離してはイケないデス!!」

その親実装は、身を屈め、両手にもはや死体となった3匹の仔を抱え、
生きている仔達は服にしがみ付かせて、ほぼ匍匐前進の様にして足で地面を蹴ってかろうじて前に進んでいた。

周りには、似たような状態で前に進む親仔達が見える…
もはやそれしか非力な実装石達が、より非力な仔を連れて前に進む術はない。
他は仔を失ったのか見捨てたのか、
そうした”荷物のない”成体実装が懸命に風に向かって傾斜姿勢を取って少しでも早く前に進もうとしていた。
いや、仔を連れているものもそうやって進もうとしているものも居る。

「テチャァァァァァァァァァァァァァァァ…」
「テェェェェェェ ママァァァァァァ… テテテテテ!ワタシ飛んでるテチ! ママァァァァ…」
「止まらないテス デ! デッ!  テスッ!回りすぎテスゥ 吐くテスッ! テッ! 止めてテスゥゥゥゥ〜」
「ママァ!ママァ!ママァ!ママァ!マッ、マッ、マ、マ、テッ、テッ、テッ、テッ…」

そうしていない家族の仔達が、あるいはしがみ付く手を緩めた仔達が、
風上から飛ばされ、あるいは猛烈な速さで転がされていく。
悲鳴を上げているものも居れば、失神していたり既に息絶えているものも居る。
軌道がそのまま茶色く波打つ川に直行しているものも居る。


そうした仔達がより風下の親仔への悲劇の原因となる。



「テチャァァァァァァ…ベボァ!」
「デギャァ!デズゥゥゥゥゥゥ!!イタイデスゥ!顔が!顔ガァァァァ!」
「テェ!ママッ、ワタシが背中にいっ…ペパァ!」
飛来した仔実装が顔面に直撃した親が、思わず潰れた顔を抑えて転がると、
しがみ付かせていた仔が、そのまま親に潰された。

「デェェェェ!イタイデスゥ!見えないデスゥ!
 ワタシはニンゲンドレイを持っていたエライ実装だったデス…
 セレブだったのデスゥ!なんでこんな目に遭うデスゥ…
 イタイ、イタイデスゥ〜…許してやるからワタシを助けにこ…デスゥ!!!(ボチャン!)」

顔面を覆い痛みにのた打ち回る親実装は、地面を掴んでいないのもありズルズルと風にも流され、
ついには川に転落して濁流に流されていった。


そうでなくとも、仔実装と共に小石や木の枝が飛んでくる。
それは弾丸や矢に等しい、実装石には充分な脅威…
落ち葉すら当たり方が悪ければ、刃物の様に柔い肌を傷付けるには充分である。
そして、親が傷付けば不注意で仔を殺し、仔が傷付けば風にさらわれる。



「テェェェェェェン… これじゃ、お家がなくなったときと同じテチィィィィ…」
しがみ付いた仔が泣き叫んだ一言に、その名も無き親実装は、ハッ!と思い出した。


”そうだ…これは、あのお家が無くなった日と同じデス…。
 あの時も、いつもと違うとても温かい日だったデス、
 何かいいことがあると蛆ちゃんと子守の親指ちゃん達を置いてゴハンを探しに行ったのデス。
 そうして、歩けないほどの風が吹いて、雨が降って…お家があったところには何もなくなっていたデス。”


親実装は、生まれたときから度々経験しているのに、こうして、身に降りかからない限りは、
”あれが危険の予兆だったのだ”と気が付かなかったのだ。

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「テチッ…テチッ…ママ、どうして重たい石をお家にも入れるテチッ?」
「寝る場所ないテチィ…」
「お家の中が狭くなるテチッ!ママはおバカテチッ!お外にも石を置いてあるからイラナイテチッ」
「「そうテチィ!そうテチィ!今日は温かいからお散歩するテチィ!!」」

「オマエタチ…良く覚えておくデス!こんなに蒸し暑い天気になったら、
 ニンゲンが”タイフウ”と呼ぶお天気になるデス!
 とてもスゴイ雨と風が来るデス!屋根も壁も厚くしないとカンタンに壊されるデス…
 何もしなくても壊れないお家はタマタマなのデス、過信は禁物デス。
 これから冬も来るデス…ちゃんと冬と言う天気の過ごし方も教えるデス…覚えておくデス!」

「「ハーイ!賢いママからお勉強テチュ♪」」

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だが、この親実装は、そこから何も学ばなかった…。
それが、今の自分のこの姿である事に気が付いた。

親実装はしばらくその姿勢のまま動きを止め、自然と目から溢れる涙に身を震わせた。

賢い親に育てられた…その記憶を思い出した。
それを最初から真摯に学んでいればと自分の愚かさを直視させられ、認識させられる。
それが、さらにこの親実装をさらに責め苛んだ。

それを思い出さない、元から知らないならば思い出すことも無く幸せかといえばそうでもない。
眼前に突きつけられた死神の鎌の刃は、死を極端に恐れる実装石と言う種族には、真に平等に畏怖な存在である。




ビュゥ!バサバサバサ…

「テチャァ!フヘッ! ファファ!  フヒァ!  フヘェェェェェェェェ…    ファファー…」

服にしがみ付く仔の顔面に、風で飛ばされた白いビニール袋が纏わり付いたかと思うと、
ソレが抵抗となって揚力を生み出し、仔を風下へと引っ張り、
顔に間と割りつく袋を取ろうと片手を顔にやった瞬間、その抵抗の力に負けて親の服を掴む手が外れた。

助けを叫ぶ間も無く、瞬く間に風の力で舞い上がった仔は、顔を支柱にして風を受ける帆の様に張った袋のお陰で、
他の飛ばされた仔とは格段の速度で、あっと言う間に空へと舞い上がっていった。

「ヘヒッ    ヘヒッ   テッ…テエッ、テエッ…息が出来るテ…    テェチャァァァァァァァァァァァァ…」

顔に付く袋が仔実装を窒息させながら、その死の寸前で顔から袋が外れ、
仔実装は苦しい思いをし続けたうえに、
8m近い高さから、河川敷からかなり離れた車が走る国道のアスファルトまで
風の影響を受けながら落下する恐怖を味わってピチャっと肉片すら留めないシミとなった。

「デ!!」

最初の仔の叫びに気が付いて振り向いた親実装には、
仔の顔に袋が纏わりついてから仔が宙に消えていくまでに、その一言を発するのが精一杯であった。


「デェェェェ…ここは本当に地獄になってしまったデス」

見えなくなった仔を見送るのを止めた親実装は強くなる一方の風と雨の前に、
この親実装に出来うる限りの速さで這って進む事に集中しようとした。

大事に手に抱えながら進んでいた3匹の仔の死体は、流石にこの状況ではあきらめるしかなかった。

そんなものに気を取られているために、前に進むのが遅くもなるし、
生きている仔の異変に気が付くのも遅れたのだと、やっと理解したようである。




ビュウ!バタバタバタ…

「テッ…テテテテチャ!? ママァ!! 背中が誰かに掴まれているテチィィィィ!!」

再び突風が吹きつけ、響く悲鳴に自分の足元を振り返った親実装の視線の先には、
懸命に捕まる仔実装と、その背中にパラシュートの様に開いたビニール袋があった。

「デェ!オマエ、背中のソレを外すデス!なんでそんなもの背負っているデス!このバカがデス!」

拾い集めた草を入れた使い古しのコンビニの小さな買い物袋…。
この仔実装は手提げ部分に腕を通してリュックの様にしていた。
そうする事で運びやすくもなるし、何かの拍子に落としたり置き忘れる事も無いし、簡単に強奪もされない。
だが同時に、急に背中から外すというわけにも行かないし、背中に背負っていると言う事自体を忘れる事もある。

そう、この仔実装は自分で袋を背負った事を忘れていた…賢い工夫が悲劇をもたらした。

だが、親は目で見ているからバカに出来るが、
風が強くなって自分にしがみ付かせる時に荷物を捨てろとは注意しなかったし、
先程まで自分達でその袋の中身を集めていた事すら頭になかった。


先程の仔実装とは違い、この仔実装は両手が使える状態で、袋も小さく中身が入っているので今まで耐えられていた。

だが、強くなる風は、パラシュートにもはや仔実装の力では抗えない揚力をもたらしていた。
ズルズルと後ろに飛ばされながらも、両手を駆使して何とかズリ下がるたびに親の服にしがみ付き続けていた。

「テチィィィィィ!!もう掴んでいられないテチィ!!」
「危ないデスゥ!!」

今度こそ助ける…そう願って手を伸ばし、今にも吹き飛ばされそうな仔実装の手を…ガシッと捕まえた。

「テチュァ!イタイテチ…でも助かったテチィ♪ママ、ダイスキテッ…(ビュゥ…ブチッ)   チョワァァァァァァァァァァァァ」

親実装は仔実装を捕まえ、仔実装は宙を泳ぎながらも捕まれた手のお陰で助かったと安堵した。

しかし、仔が母親の手を握り返したその時、風の方向が急に変った…風が捲いていたのだ。

その風に煽られ、急激に流される方向が変った仔実装の手は、
風に引かれるパラシュートの揚力が、飛ばされそうな仔の手を親実装が瞬間的に留めた事で、
力が全て仔実装の腕に掛かって、肩間接が既にその時に外れていた。

さらにソレが捲いた風に煽られた事で、申し訳程度とはいえ支えを失った腕は引っ張られながら捻られて、
その親が掴んでいる手が、リュックの肩紐がある位置からブチブチと音を立てて裂け切断された。

「デジィィィィィ!!テチャァァァ!おててぇ!おててがぁぁぁ!ママァァァァァ!!」
「デェ?!」

仔実装と親実装を繋ぎ止めるのは、仔実装が片腕で掴む親の手だけとなった。

だが、風に引かれるパラシュートを背負い煽られる仔実装の身体は、か弱い自身の腕力で支えられるものではない。
しかし、今度は親実装は状況を目にしているために、先程の様に何も出来ずに仔が飛ばされていくのを見上げはしない。
実装石にしては素早い反応で、その手を握り返した。

「もう安心デ(ブチャッ!)」そう口にした瞬間、掴んだ手も肩から千切れた。

そちらの手は肩が外れていなかったが、パラシュートの力が両肩から片方に集中したのだ。
その瞬間から肩紐がグイグイと仔実装の肉に食い込んで、その力で千切ってしまったのだ。


「デェェェェ!!デデェ!?」
「テチャァァァ…テチャ!テチャ!テッ!テッ!テッ!テッ!テッ、テッ、テッ、テテテテテテテテ…」

母親の手には、まだビクビク躍動する仔実装の肩より先の手だけが握られ、
視線の先には、その手と胴体を切り離したビニール袋が中の草をぶちまけながら飛ばされていく姿と、
腕のない仔実装が、その捲いた風に翻弄されるがままにランダムに地面を跳ね、転がされ、飛ばされていく姿が映っていた。

全身をあらゆる角度から叩きつけられ呻きながらも、千切れた痛みによって泣き叫び続け、
ドンドンと親実装の視界から転がり消えていく。

「デェェェェェ!ワタシの仔ぉぉぉぉぉぉ!」
残された千切れた手を眼前に持って来て親が泣き叫ぶ。


「つ・連れて来た仔はとうとうヒトリになってしまったデスゥ…。
 オマエは絶対、ママが守ってみせるデスゥ!さぁ、ママが胸元に抱えて守るデス!
 さぁ、手を掴むデス!早く掴むデスゥ!!怖くないデス!早く掴めデス!まったく世話の焼けるウスノロデス!
 何しているデス!何して…いるデ…」

親実装が連れて来た仔は、まだ、服の背中に懸命に捕まっている感触がある仔が1匹居た。
親実装は、何とかその仔を腕に捕まらせようと、苦しい体勢でその仔を見て手を伸ばした。

しかし、仔は一向に親実装の手を掴まなかった。

癇癪を起こし罵倒しながらも、仔を手元に持ってこようと、何とか体勢に無理を重ねて捻って延ばした手で、
仔実装を引っ張り込んでみた親実装は、仔実装が手を掴まなかった理由を知って言葉を詰まらせた。


仔実装の顔面には、濡れた新聞紙が張り付いていた。
大きく口を開けて歪んだ表情を、その滲んだ文字の埋め尽くすキャンバスに浮かび上がらせて仔実装は窒息死していた。

懸命に服に掴まり耐え続けていたのではなく、掴まっている間に顔に張り付いた濡れ新聞で窒息死して硬直していたのだ。

顔の物を取るために片手でも離せば飛ばされ、必死に掴んでいてもやはり死からは逃れられないのだ。


ゴォォォォォォゴォォォォォォォ…

叩きつける雨と風がさらに強さを増し、満足な成体ですら前に進む事も出来なくなりつつある。
まだ前に進む事が不可能ではないが、かなりの体力を浪費してしまうので進む気力が沸き起こらなくなっている。

殆どの生き残った実装石は仔を失い、もはや前進を諦めてその場に身体を丸めて伏せるしかなくなっていた。
そんな中、仔を全て失ったこの親実装だけは、狂ったように泥まみれの身体をズルズルと前に這わせていた。

「ワタシは負けないデス…きっと生きてミンナの所に帰るデス。
 あそこはタイフウなんてヘッチャラデス…残りの仔達がワタシを待ってくれているデス。
 そうデス、そもそも欲張って食べ物を探しに行ったのが悪いデス!
 まったく、誰デス!温かい日はいい事があるなんて言い出したのはデス!
 今度は騙されずにあそこで待つデス…すぐにイイ天気がやってきていい事あるデス。
 食べ物イッパイで、ワタシ達家族だけのお家を立てて、仔もイッパイ産むデス。
 幸せは…ワタシの幸せはスグそこにあるデスゥ…
 あの傘デス…赤い傘デス…アレを拾ったから生きてこれたデス」

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『うわ!!』

正面から吹き抜ける風に向けていた傘が、
突然、吹く方向が変った風に持っていかれてオチョコになるどころか、
その一瞬の油断で、完全に骨ごと破壊されてしまった。

それまでも大して役に立っているとは言い難かったが、それでもあるのと無いのとでは大違いだ。

友人の傘は、布の部分がキレイに吹き飛んでしまっていた。

周りを見れば強風に、様々なものが巻き上げられている。
木の葉、ゴミ、そしてマヌケな叫び声をかき消されながら舞い上がっては落下する小さな仔の実装石達。


「ンフゥゥゥゥゥゥゥゥ…  テチャ!? テェチャァァァァァァァァァァァァ…」

飛ばされた傘の布を見上げた俺たちの頭の上を、
まさに、顔にビニール袋を貼り付けたままの仔実装が猛スピードで通過すると、
国道の辺りで落下する様子が見え、俺たちは状況を忘れ思わず笑いを堪えた。

『今のかなり飛んでたな…くくく』
『ドコから飛んだかしら無いが、ありゃ、速度も飛距離も新記録モノだぜ』


だが、笑い続けていられるほどの余裕はない。
駅まではまだ距離がある。
台風は、今まさに予想以上の速度で通過中で、かなりの風と雨をもたらしていた。

判断は誤りだった…よりによって、一番酷くなる時に外に出てしまったのだから。

『こりゃ、たまらんな…あそこで雨宿りをしよう…』

俺達は雨を凌げる場所を目指しながら、なんとか駅までたどり着く方法を探した。
コンビニでもあれ傘を買ってもいいし、弱まるまで時間を潰しても良いのだが、
こう言う時に限って探すものが手近に無い。

雨宿りで、何も無く時間を潰す事は苦痛だ。
コレならば、会社で台風の目に入るまで時間を潰して入ればよかったと思った。

次は…よし、あの川沿いの高架橋の下に行こう。
あそこなら濡れずに時間を潰せる…。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

『こりゃ、流したら堤も限界になるぞ』

雨合羽を纏って、黄色の回転灯を付けた軽のバンから降りた作業服の男は降りるなりそう呟いた。

『本部から連絡は?』
『ダメです、もはや上流水門は放流限界を超えつつあるそうで、急ぐようにとの催促です』

『仕方ないか…この天気で河川敷に留まるバカも居ないと思うが…この辺りのホームレスは?』

『大丈夫です、さっきの場所の集団で最後です』

そう言って、河川敷に降り立った男達は、まず、水位を確かめようとした。


グニュ

「デベァ!!」

『うわ!何だコリャ!?』

踏みつけたのは雨風に打たれ丸まった実装石達であった。

「「デェェェェ!デスゥ〜ン♪デスゥ〜ン♪」」

仲間が踏み潰された悲鳴と物音で人間の接近を察知した実装石達は、
恐れるとかいう事を頭の端にも考えずに、極限状況ゆえに皆が皆、
人間が自分を助けにきてくれたと考えて、藁にも縋るように気力を振り絞り顔を上げると、
一斉に人間達の足元に集まりだした。

「デェ〜スゥ〜♪デスゥ〜ン♪(ようやく助けに来たデス♪遅いデスでも許すデス♪)」
「デスゥ!!デスデスデスゥ!!(コレはワタシを助けに来たデス!!ワタシを優先するデス!!)」
「デスッ!デスデッ…デギャァァ!!(なにデス!この下僕はワタシの魅力に…イタイデスゥゥゥ!!)」

そして、一斉に甘い声で鳴き出し、体力あるものは我先にと人間の足に取り付き、
あるいは取り付くために先を競い、そして争いだした。

『うわっ!離せ! コラ!   邪魔だ! クソッ!』
「デギャ!!」
「デスゥ〜…デベァ!!デスゥ!」

足から振りほどかれ、引き離され投げ捨てられ、踏み潰され…
それでも、これしか楽に助かる手段はないと感じる実装石達は必死に甘い声で媚び、縋り、殴りあった。


体力的に厳しいものも、何とか気を引いて抱き上げてもらおうと、
すっかり泥まみれで体温が低下した中、股を広げて自慰を見せたり、服を脱いでポーズを決めて見せていた。

「デスゥ〜♪デスゥ〜♪デップゥ〜〜〜〜♪(ワタシの♪ワタシの♪蜜壷はメロメロにするデスゥ〜♪)」

人間に向かってM字開脚で腰を上下に動かし、パンツの秘部をチラチラズラしていた実装石は、
「デギャァァァァァァ!!お股がぁ!お腹がぁ!デビッ!潰れたデスゥゥゥ!!」
足に縋る実装石を払った人間の足が着地して、腹が足型に潰され、
そのまま仰向けに動く事も出来ない雨曝しとなった。

「デッスデスゥ〜♪デスデスゥ〜〜ン♪(トクベツにお色気3割り増しデスゥ♪悩殺キッスデスゥ〜ン♪)」
腰をクネクネとさせながらスカートをチラチラ上げて踊る実装石は、調子に乗って脱ぎだしポーズを決めたが、
調子に乗りすぎて、両手で投げキッスを放ったり、決めポーズで手を離した服は一瞬にして風に飛ばされた。
「デ!?服ゥゥゥゥゥ!ワタシの服がなくなったデスゥゥゥゥ…」
飛ばされた服を目で追うことしか出来ずに泣く者。

「デデデデ!服、服、服、服…(ポチャン)デギャァァァァァ…」
服を追いかけ、止まれずに川に飛び込む者など様々だ。




『水位確認!要らん事で時間をとられた…引き続き周辺警戒』
『まったく、ズボンが臭くなって堪りませんねぇ』
『あそこ…架線橋下に人が居るようです』
『よし、いくぞ』

人間達が走り出した後、後に残ったのは、大量の肉塊となった実装石と半死の実装石…
僅かに、まだ取っ組み合う者と、服がなくなって途方に暮れる者と、悦に入って自慰を続ける者、
何も出来ずに人間に去られて、悲嘆したまま再び風雨を耐えるために丸まる者。

雨曝しの中、見捨てられた実装石達は、無駄に体力を使い死期を早めるだけであった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

ひどい目に遭ったものだ…
もう、完全にビショビショになったとはいえ、ここから駅まで嵐の中を突っ切るのも気が乗らない。

俺の傘は完全に使い物にならないほど破壊されており、思わず下に叩きつけた。

友人も、既に布の部分がない傘を形だけ折りたたんで手にしている。

そんな俺達の目に留まったのはゴミに紛れて目立つ赤い傘であった…。

傘がカサカサと音を立てて揺れたかと思うと、カタッと動いて、赤と緑の目が大量にこちらを覗いた。

「デスゥ…」
「テステステッスゥ?」
「テッチャ〜  テチャテチテッチャ〜♪」

『いい事を思いついたんだが…』
『どうせロクなことじゃないんだろ?』
『いいじゃん、暇潰しも出来るし』

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

泥を啜る様に這い蹲り、気力を振り絞り歩を進めてきた実装石は、
ようやくに目指すところにたどり着こうとしていた。

慣れた橋の下…もう、弾丸の様に叩きつける雨はない。

息を整え、身体を上げ、重い足取りでアノ場所に向かう。
だが、いつもなら遠くからでもわかる目印の赤い傘がない。

「「デスゥゥゥゥ!!」」
「「テチャァァァァァ!!」」

響く悲鳴と怒号に疲れた顔を上げると、
あの隠れ家の前に大量の裸の実装石達が居た…。
正確には皆、不潔な色に染まったパンツ一丁だ。

一瞬、何が起きたか理解できずに立ち止まった実装石は、
その裸の実装石達が固まり見上げる先に、人間の足があることに気が付いた。
そして、目印の赤い傘も…。


「テチャ!!」
その人間の足元に裸の仔実装が落下する。


「テ!?何するテッ…大切な服テチィ!!ママァ!ママァァァァァ!」

その声に人間を見上げれば、まさにその手の中で仔実装が服を剥がれているところであった。
服を破らないように、無理に抵抗する者は肩を折ったり外したりして服を脱がしポイッと投げ捨てる。
そして、その今脱がされている中の1匹の声が偶然、我が仔の1匹であることを理解した。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

『そろそろ完成だな…とりあえず形にはなった。  足りてよかった』
『何十匹分だよ…本当にロクでもない…まさに暇潰しだよ』

服を剥ぎ取った仔実装を投げ捨てた男達は、その服の形を生かし傘に張っていた。
骨に服を通して、袖同士を結んだり工夫をして、骨だけの傘を使える形に復元していた。

成体・仔…この場所に住んでいた者たちの服を全て剥ぎ取って…。

最初は人間を見てノコノコ自分からエサや飼う事をねだりにいった実装石達も、
次から次へと服を剥がれては投げ捨てられる仲間の姿に一部は異常を感じ出すものの、
彼らにこの場所から嵐の外へ逃げ出す考えも術もなかった。

投げ捨てられ、大半の者達は死ぬか大怪我を負った。

傷が軽い者達の一部は恐怖に住処となったゴミの囲いに引き篭もり身を寄せて震え怯え、
一部は、果敢にも人間に服を返せ、さもなくば責任を取って飼い実装にしろと、
その足元で抗議の叫びを上げ、中にはその足に縋りついたり叩き出す者達も居た。

しかし、作業に没頭する間は人間達はそれらを完全に無視していた。

だが、作業が終った人間達からすれば、それは無視できない”邪魔者”にしかならない。

そうなる事を理解できない実装石達は、責任を取れ、服を返せ、傷を治せ、
謝罪だ賠償だと叫びを上げ続けた。

そこに泥まみれのまだ服を着た実装石が加わった。

今まさにポイっと捨てられ身体を半分潰した半死の我が仔を抱きかかえたその実装石は、
他の者達より大きく迫力のある声で抗議をした。

「これはワタシの仔デス!何て事をするデス!
 その”傘”はワタシ達の拠り所デス!その服はワタシ達のタイセツなモノデス!
 オマエ達はナニサマのつもりデスゥ!
 ワタシ達はただ、ただ、この場所でひっそりと暮らしているだけデス!
 泥水を啜り、草を食み、ニンゲンの捨てたものでも喰ってやっているデス!
 好きでこんな物を食べて生きているわけではないのに、我慢して惨めな生活に耐えているデス!
 全ては、ひっそりと暮らしささやかな幸せを守る為の我慢デス!
 スシもステーキも食べたいのに我慢デスゥ。
 それなのにオマエ達は、ワタシ達のそんな小さな幸せを何故奪うデス!!
 物を投げつけられてイッパイ死んだデス!飛ばされてイッパイ死んだデス!
 なのに、ようやく戻ったのに、またイッパイ死なされたデスゥ!!
 タイセツなタイセツなワタシの産んだ仔は、全部居なくなってしまったデス…。
 ワタシ達がオマエ達に何をしたと言うデス!ワタシ達のささやかな幸せを奪って何が楽しいデス!
 亡くなった者を返せとムチャは言わないデス…その位はワタシにも判るデス…。
 せめて、せめて、その飾っているミンナの服位は返して欲しいデス。
 心の拠り所の傘を返して欲しいデス…その傘を頼りにミンナが集まって助け合ったデス。
 そうすれば、ワタシ達はオマエ達に何の迷惑もかけずにひっそりとココで幸せに生きていけるのデス
 服と傘はそのためにとてもタイセツなモノなのデス」

半死の仔を抱え、力強く、そして切々と語り涙するその実装石に、周囲の実装石達も聞き入り、
その言葉が終る頃には、全員が感銘を受けて涙して、一斉に声を上げた。

「「服と傘を返して欲しいデスゥ!」」

人間に対して怯えながらも無意味に命令口調で”かえせ””しろ””くれ”としか言えなかった実装石が、
”して欲しい”と懇願の言葉に切り替えたのだ…一斉に。



人間は、そっと手を、その泥まみれの実装石に伸ばすと、優しく掴み上げた。
一瞬、殺されると緊張した実装石だが、
自分は悪い事は言っていないと言う妙な自信を持って毅然としていた。

そして、優しく掴み上げられた事で和解が成立したと感じた。


『コイツらやたら五月蝿くね?五月蝿いだけならまだしも、
 さっきは人が無視してりゃ蹴ったり噛んだりやりたい放題で…』
『確かに、でも役目が終ったのに今更ただ殺すのも酷だよなぁ…俺たちが』
『でも、どのみちこのデタラメナマモノが人間に迷惑掛けない訳がないし、
 裸に剥いたとして生かしておくのもなぁ』


『『ただ殺すのはやる気出ないけど…』』


男の視線に、先程捨てた全壊の傘が目に映った。

同時に、その会話を聞いて理解できたこの実装石の顔は絶望に包まれた。

そもそも、実装石は人間の言葉が判るとしても、リンガルをしていない男達には、
この実装石の一見立派なご高説はデスデスと五月蝿い壊れたラジオ並みの迷惑でしかなかった。


そして、この実装石が何を言おうが、実装石は一括り、人間に迷惑をかけるだけの害虫でしかない。
仮に言葉が通じたとして、その”この場に篭もり、仔を産み育てるささやかな幸せ”
それこそが人間に害をもたらすとは、この実装石には理解できもしなかった。


所詮は、生物としての括りが違う種族同士なのだ。
理解などと言うのは幻想に過ぎない。


少しして、辺りは再び実装石達の阿鼻喚起に満たされた。



『おい、君たち!サイレンや放送が聞こえなかったのか?上流の水門を開けるからここは危険になる。
 速やかにここから上がりなさい!』

『ああ、そうなんですか?すいません、丁度、傘が2本出来たもので、いま上がります』
『なんだ、ずいぶん風も雨も弱くなっているなぁ…コレならコレ以上濡れずにいけるぜ助かった』
『どっちがどっち使うかジャンケンだな』

男達は、実装石付きの壊れた傘を投げ捨てると、
薄汚れた赤い傘と、実装石の服の傘を広げて作業着の男達とその場を離れた。


後に残されたのは、壊れた傘の骨に団子の様に串刺しにされて、
呻くだけしか出来なくなった大量の実装石達と、
それをゴミの山から震えながら眺める少数の裸の実装石達だけであった。



傘を差した男達が駅を目指して歩いている。
雨も風もすっかり弱くなり、何も急ぐ必要はない。
台風は予想以上の速さで駆けているのだ。
烈火のごとく侵略した暴風雨は、同じ速さで止んで行った。

『おっ、どうやら台風の目に入ったみたいだな。 駅までは余裕で静かなものだぜ』
『傘いらなくなったな…そもそも、こんな形だけの傘じゃ飛来物避けにしかならねぇし、
 本降りだったら役にたたねぇ…    どうする?こんなのハズくて持ってられねぇよ』

男達は顔を見合わせ、先程まで居た架線橋を振り返った。

『仕方がねぇ…せっかく時間掛けて作ったが、俺たちは使わないけど、アイツら生きていたら使うかもな?』
『取りにこれたらだけど』

男達は薄汚れた赤い傘と、不恰好な実装服の傘を、同時に河川敷の方に投げ捨てて歩を進めた。

サイレンが鳴り響き放水が始まった事を知らせていた。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「デッ…デェー…デェー…」

すっかり水の引いた川の中洲にゴミが溜まっていたが、
その中で、ゴミに引っ掛かって流れに揺れる腐った肉団子の付いた壊れた傘、
そこに1匹だけ、幸か不幸か奇跡の確率で生きている実装石が串刺しのまま宙を見上げていた。


あれから放水によって川の水位は河川敷まで上がった。

ただし、全てが水没するまではいかず、あのゴミの山に残った裸実装の中で、
咄嗟に粗大ゴミに登れた僅か数匹は生き残れた。


肉団子傘もしっかり流されたが、運良く浮遊物ゴミの塊に引っ掛かり、
運悪く水没死出来ずに10匹前後が串刺しのまま漂うハメになった。
そして、運良く流されながらも、その浮遊ゴミ塊に救われた裸実装達も居た。

ゴミ塊は、これまた奇跡的に丸太や岩すら流される超特急の本流に乗らず、
かといって水が引いてくる頃には、陸になる河川敷を離れていった。

そうしてゆったりとゴミは雨の一夜と、晴れてなお寒い4日間の夜を優雅な川降りと洒落込んだ。
ゴミは優雅に漂ったが、1夜過ぎるごとに飢えで凶暴化した生き残り裸実装達は、
3日目の朝には、まだ意識を保ち救いを求める者も居るかつての仲間…串刺し実装達を食い始め。
4日目の夜には、その肉の奪い合いで無事な裸実装達も髪を失うほどに争い、
ゴミ塊から転落して脱落するものもでた。
5日目には、流石に死んだ者達の腐敗が激しくなった頃に、
僅かな石の山にゴミが溜まって出来た中洲にたどり着いたのだ。



「デー…デー…デー…」

あるものは早々に体力が尽きて死に、あるものは腐敗臭と自分の状況に絶望して狂い死にした中、
その実装石だけが生きていた。

自身も何度も発狂と恐怖と絶望を繰り返していたが、まだ、死ねずに何かを考える事は出来た。


この中洲にエサなどない…。
串刺しのワタシ達は下から、そして、なるべく新鮮な順に喰われた…。
下が食い尽くされるたびに、ワタシは傘の中心、すなわち下に向かって自らの重みで深く深く刺さっていく。
今は、無事な生き残り達が中州に引っ掛かった事によって、食べるものがないかと出払っているが、
こんなゴミたまりの中州に食べられるものなどあるわけがない…猫の額ほどの石とゴミの陸地だけ…。
水の流れに隔絶され、助かる術のない飢餓の陸地だ。
スグにヤツらは戻ってくるし、ソイツらが真っ先に争って食べようとするのは、まだ呻くワタシだろう。


その実装石は、そう悟ったように考えた。

狂い続けた事によって、その名も無き実装石は、確かに実装石として狂っている…。
だが、狂った事によって非常に冷静で正常な思考が出来るようになっていた。


ただし、それは生命が尽きる一瞬の輝き…残酷な奇跡である。


冷静に考えて、もう実装石は偽石も限界を迎えている事も理解していたが、
自分では動けないからと、少しでも早い死を求めて呻き声を上げ続けた。
自分を新鮮なエサと認識させるために…。

空を見上げ、もはや涙を出す事も出来ないながら、心で泣きながら自身を振り返った。


自らの愚かさで死なせた仔達、せっかく自分達に色々知恵を授けようとしてくれた親と過ごした日々、
自分は愚かだと、何度も自身に呪詛の言葉を投げかけた。

なにより愚かだったのは、自身が実装石などと言う代物に生まれた事を理解できなかった事だと慟哭した。
それを理解していれば、生まれた瞬間から潔く死を選べたのにと…。

”いい天気デス…こんな天気の時には、きっと良いことがあるデス”

晴れ渡る空を見上げていた実装石の視界に、
薄汚れた黄色い歯と白く濁った涎、そして口内の赤が最後に覆いかぶさった。

”この傘の赤が目立つデス…ミンナ目印にするデス…”

それは、下らない実装石という生き物として生きたなかで、
他者を従えたという輝かしい一場面を思い起こさせた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

時を同じくして、あの架線橋下のゴミ山では、生き残り達が寒さの中、数匹で身を寄せていた。
服がないこの状況の中では、外の風に耐える事も、同族の迫害に耐える事も出来ない。
それ以前に服があったときから、この場に固執してロクに行動をしなかった者達だったのだ。
その時点で飢え死ぬか凍え死ぬかの選択しか残っていないようなものだ。
この付近に打ち上げられた実装石の水死体で食い繋いでいられるだけだった。


そこに、5日前の台風で家を失った漂流者がゾロゾロと現れた。


「ここはとても住み心地がよさそうデス」
「歩いた甲斐があったザマスデス…せっかくのお家が無くなって野良になるところだったザマスデス」
「テチャチャチャ…ママ〜、オバチャン達〜、あんなところに裸のブタどもが居るテチュ」
「丁度良いデス…ハラペコデス♪あんな醜いウンコブタなら共食いにはならないデスゥ〜♪」
「デプププ…スグに食べてはダメデス…痛めつければ肉が柔らかくなるデスゥ」

「そうデス、ここを我々の新しいお家に定めるデス!このニンゲンの傘の色が目印デス」

大集団が裸の生き残り達に襲い掛かり、このゴミ山の所有者が代わる中、
その中の1匹が、下流から河川敷を歩いている途中で拾った、壊れかけの傘を掲げた。
既に半分が壊れていたが、その傘は、ここの先の所有者達が目印にしたあの傘だった。

そして、もう1匹が、別の傘を幟の様に上下に振って、全員の士気を鼓舞した。

「ワタシ達はとても強いデス!逆らうものの服はこうデス!こんなに服を奪えるほど強いデスゥ!」

彼らは自分達で勝手に想像した武勇伝で心酔できてしまう程度の知能しかなかった。

「デデェ!判ったデス!ヤメテ欲しいデスゥ!あなたたちのウンコを喜んで食べるデスゥ!
 毎日、身体を舐めてキレイキレイにしてあげるデスッ!だから食べないでデッデギャァァァァ!!」

「デギャッ!許してクダサイデス!ようやく新しい仔を身篭ったデス!この仔達は生ませてほしデギャァァァァ!
 吸うなデ、吸わないで欲しいデス!ワタシの仔を吸いださなデギャァァァ!ワタシの仔ぉぉぉぉぉ」

追われる生き残り達は、その傘に結び付けられた物が自分たちの服であることに気が付く暇すら与えられなかった。
ただ、無意味な相手の自信と売り文句に、”奴隷でよいからせめて食べないで欲しい”と懇願するだけであった。



久しぶりの肉系の食事を味わい、雨風を凌げる場所を手に入れた大集団だったが、
これから冬の寒さが襲い掛かり食べ物が手に入らなくなることは、誰一匹として想像だにしていなかった。

ココに居た、先の所有者達が同じ様に流れてきて、そして彼らより程度は良かったのに滅んだ事を知るのは、
使い物にならない、この2本の傘だけである。

傘だけが、新たなるこの場の支配者達に訪れる”冬”という地獄を記憶する事になるのだ。

傘は静かに冬の訪れを見つめていた。

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