※ご面倒ですが前スク(sc1253)をお読みになってからご覧下さい
季節の風物詩『山実装の友狩り』 続編
−− 1 −−
… ・・・・・ザッザッザックザック
アタマの上から土を掘る音が響く
アクマが くる・・・
もうすぐニンゲンがやってくる
クラヤミにミンナの息づかいが重苦しい
ウデに抱いたムスメがモゾモゾと動く
抜けアナの向こうにぼんやりとヒカリが見える
でも抜けアナもニンゲンに見張られている
ああ… どこにも逃げられないデス
昨日まで…
秋仔ちゃんたちがあのアナを通って土をセッセと運んでいたのを思いだした
ちっちゃなオテテでほっくりほっくり
泥まみれだったエガオが浮かぶ
・
・
・
おっきなオウチをつくるテチ
春までポカポカに暮らすテチュ
あとチョットテチ がんばるテチィ
−− 2 −−
人間社会と関わりの深い実装生物、実装石。
自然の実装石といえば公園の不快害蟲として悪名高い野良実装が一般的に知られる。
これとは違い、深い山や広大な森林に生息する野生実装石は野良実装と区別して山実装と呼ばれる。
野生動物として合理性を追求した山実装は個体の資質のみならず、集団としての生存能力において一般の野良より遙かに優れる。
群れで協調することにより個体の脆弱性を克服し、また道具を扱える高い知能ともあいまって在来の希少生物に悪影響を及ぼすことすらある。
ただしあたりまえの生物として常識の範疇で収まることを求めた結果、デタラメ生物(ナマモノ)として実装生物がもつカオス属性は大きく減少したといわれる。
そのためか山実装には蛆実装以外の蛹化がほとんど見られない。
故に山実装のコロニーで実装石の上位存在である実翠石、実超石、その他の特殊実装が見つかったという報告は現在までに確認されていない。
山実装の生態は野生動物に近く、人間にも人間社会の廃棄物にも依存しようとしない。
野良実装は人間に極端に依存したがる。
そればかりか人間からの過剰な保護を本能的に求める。
託児、窓割り(家宅侵入)、成り代わりと呼ばれる迷惑行動はこの精神構造に由来する。
だが山実装はこの点でも完全に一線を画している。
ただし人間の飼育下におかれた山実装の仔は野良実装に近い糞蟲性を短期間で獲得することが多い。
数世代、数十世代の厳しい淘汰を経て、浅はかなシアワセ回路から開放されたように見える山実装。
しかし偽石情報に深く深く刻まれた実装石の業は克服できていないとみなされている。
−− 3 −−
チヌノイヤーチヌノイヤイヤ コババサマユルチテェェー テェェェンテェェン
ママータチュケテェーッ テチュケテェェ チュワァァァアアアァァーー
アンナニガンバッタノニ… ウソツイテタテチッ ダマシタテチィィィ…
・
・
・
やっと冬越えの大アナができた
バンザイするナカマ… と秋仔ちゃんたち
コババさまがワタシにミミ打ちした
・・・・オミオクリ ・・スル デス
またワタシがお手伝いについていくことになった
コババさまがアナ掘りにガンバってくれた秋仔たちを連れだす
コンペイトウのようにアマい声… 食べたことも見たこともないけれど
よくガンバってくれたデスゥ よい仔にごホウビがあるデスよ
アナタたちにトクベツなゴチソウがヨウイしてあるデス
「「「テッチューン♪」」」
この仔たちで最後になる
とびきり出来のよい仔供たちだった の に
アシが オモい デ ス
オソラが とってもアオいデス・・・
この前も… こんなオソラだったデス
コババさまのおコトバに
あの仔たちは大喜びしてついてきた
なにも疑うことなく・・・ そして
ェェェン… …
ァアアアァァーー…・・ ・ ・
ゥ ラ…ム テ …チャァァァァァ…・・ ァ・ ・
秋仔ちゃんたちが谷ゾコへ消えていく
仔消し谷のソコは深い川 先には滝
なのにあの泣き声と叫び声、恨みの声がいつまでも聞えてくるような気がした
これはオキテデス
オヤマで暮らす石のサダめデス
谷ゾコを見つめるコババさまがつぶやいた
秋の仔はオヤマのカミさまからの客石
ありがたくおフクをいただいたら、カミさまのもとに帰すのがオキテ
それをカッテにアナ堀りお手伝いをさせていたデス
長いことお引きとめしてスマなかったデス
早く帰してあげなくて悪かったデス
ここはサムくなるデス オヤマのカミさまのところに帰るデス
こん夜はカミさまがゴチソウをヨウイして待ってくれてるデス
コババさまもこういっている
オオババさまもそういっていた
だからきっとそうなんだろう
・・・だけど ゆるしてデス
秋仔のフクはカミさまからの贈りもの
テイネイにたたんで持って帰る
あの仔たちのニオイが …するデス
ゴメン デス
冬越えのアナに…
アナタたちの居場所はなかったデス
あるのはフクだけだったデス・・・
−− 4 −−
山実装の越冬方法は極めて地域差が大きい。
ある地方の山林にはわざと蛆実装にした自分の仔を保存食にすることでうまく越冬する山実装がいる。
厳寒地である北海道の山実装の中にはヒグマの冬ごもりに寄生して問題化したという報告もある。
山実装の越冬には気温、積雪量、確保できる食料のパラメーターが複雑に絡みあっている。
また人間との関わりや地域変異によっても越冬風習は大きく異なる。
日本海側積雪地であるこの地域に生息する山実装はおおよそ以下のような生活サイクルが観察されている。
春に出産する山実装は互いに近接した家族単位の巣穴で生活する。
成体20〜30匹の群れには年長のリーダーと2〜3匹のサブリーダーが見られる。
春仔は梅雨が終わる頃にはほぼ成体の大きさに成長する。
夏から秋にかけての過ごしやすい期間はリーダー、サブリーダーに指導されコロニーの一員としての教育を受ける。
野良実装石は計画性なし、のべつ幕無しに年中仔を産むことで悪名高い。
しかしこの地域の山実装には何らかの妊娠制御が働くようで、繁殖期は春と秋に1回ずつ見られる。
ただし秋に生まれた仔が親に育てられることは少ない。
秋に生まれる秋仔の実装服は春に生まれる春仔の実装服より布地が厚手で保温性がある
この現象は野良実装や人間の飼育下におかれる実装石ですら見られる。
その秋仔の実装服を山実装は巣穴の保温材や生活用品として利用する。
そして服を奪われた秋仔は生まれてすぐに捨てられる。
もちろん自然界で禿裸の仔実装が生き延びることは不可能といってよい。
−− 5 −−
秋仔ちゃんたちをお見送りした戻り道
ゴハン探しに行っていたワタシのムスメがテッステッスと息をきらせて走ってきた
ムスメはトナリヤマに続くクラい森の方へ行っていたはず
ムスメはまだほっそりした体型の中実装
この仔は春に産まれた仔供たちの最後の生き残り
産まれてきた時にはちっちゃなオヤユビちゃんだった
この仔が夏まで生き残れると思っていなかった
だけどこの仔は運がよい仔だった
仔供たちが一石減り、二石減りしていくなかでただ一石生き残ってくれた
少しオツムは足りないけれど・・ ワタシの大事な タ カ ラ モ ノ
去年の秋仔のフクとツル草を編んで作ったゴハンぶくろがカラッポだ
コババさまがメを吊り上げた
テぶらで帰ってきたデスね あのフクロをいっぱいにするまで帰ってくるなといったデス
……しかたないデス ただでさえアッチはゴハンが少ないデス
コババさまはクチうるさい
オオババさまもクチうるさかったけど
コババさまはカリカリデスデスいってコマる
いつもオコゴトを聞かされてきた
トゲトゲハリ葉のクラい森でとれるゴハンは少ないデス
コババさまのホンネはわかってるデス
ゴハンを満足にとってこない石は追いだされるデス
あの仔に冬越しさせないつもりデス
ずっと追いだすつもりだったデス
でもあの仔は運がよい仔デス
ちょうどナカマが「抜け妊」して喰いブチが減ったり
オオ風で落ちてきた大バチの巣を拾ってきたりして
その度に命拾いしてるデス
きっと今度もダイジョウブデス… きっとダイジョウ フ ゛ デス
そのムスメがテーテー息を詰まらせながらナミダ目でしゃべった
テーース テーース ・ ・ ・ た たいへんデチー!
−− 6 −−
晩秋に入ると山実装の生活様式が大きく変化する。
仔育てに使っていた個々の巣穴を引き払い、本格的な集団生活に入る。
この時サブリーダーが率いる小グループをわけて越冬の準備をすることが多い。
これはコロニーの全個体を収容できる大きな越冬場所を確保することが難しいこと。
それに主グループが越冬に失敗した場合でもコロニーの全滅を避ける保険の意味がある。
また両集団が無事越冬できた場合、条件次第では小グループが別コロニーとして独立する「巣別れ」が生じることも確認されている。
ただし春に生まれた新成体も無条件で冬越えを許されるわけではない。
越冬個体をコロニーのリーダー、サブリーダーが厳しく選別するからだ。
コミュニティを崩壊させる恐れのある危険個体、いわゆる糞蟲は激しいリンチの上で追放される。
越冬穴に協調性のない糞蟲がいることは多大なストレスになる。
糞蟲の存在は越冬の成功率を破滅的に低下させてしまう。
山実装の協調性が高いのはこの淘汰によるところが大きい。
また能力的に劣る劣等個体も口減らしのため縄張りを追放されることが多い。
そういう個体は糞蟲と違ってリンチをうけることはないものの、どちらにしても追放個体が冬山を生き延びる可能性はまずない。
コロニーを追放されたはぐれ石や、秋仔の間引きが嫌でコロニーから抜け出した妊娠実装(俗に「抜け妊」と呼ばれる)が秋の里山で見られる。
地域によって「お山流れ」、「お山崩れ」と呼ばれる元山実装は肉質において山実装とほとんど変わりがない。
そのため貴重な秋の恵みとして農村の人々を喜ばせている。
−− 7 −−
テッテッ クサのオヤマができてて カッテに ずぶぬれのオバちゃんが アカイチゴがないデチッ
ナカマたちといっしょにトゲトゲハリ葉のクラい森を注意しながら歩いていく
要領を得ないムスメの説明にコババさまがカリカリしている
どうやらヨソモノがカッテにナワバリに入ってきたようだ
アタマ数が多い方がいいデス なめられるデス
用心したコババさまの命令でミンナで追っぱらいにいくことになった
クラい森でとれるゴハンは少ない
だけどほっておいたらズにのってドンドン押し入ってくるかもしれない
クラい森を抜けるとトナリヤマが正面に見えた
あっちはヨソのナワバリ
この近くにちいさな川が流れてたハズ
そこから向こうには用心して踏み込まないようにしてきた
少し進むと カタい草がキレイに刈り取られていた
その中にクサを組んでつくったオウチ それもリッパなヤカタが堂々とたっていた
いつの間に作ったんだろう
コババさまがメをむいた オバカなムスメに怒鳴り散らす
クサのオヤマ ってコレだったデスか!
このノータリン! コレはヨソモノのオウチデス!
ヨソモノがココに居つくつもりなんデスッ
アレを見ているとナゼかだんだんムカムカしてきた
フシギなくらいアタマに血がのぼってくる
……石のメをかすめてナニしてくれやがるデス
そのとき、ヤカタの中から歌声が聞えてきた
デッデロゲー
デッデロゲロンゲー
・・・?! … このヨソモノ 仔を産むつもりデスか?
アナタ達が生まれてきたらママもシアワセデス〜
カラダもココロもポカポカになるデス〜
だから早く生まれてくるデス〜
アレはシアワセのウタ
春にはココロから大きな声でウタいたいオウタ
秋には泣きながらつぶやくようにウタうオウタ
生きてるってすばらしいデス〜
つらくてもあきらめないデス〜
生きてたらシアワセになれるデス〜
それを 今 ホンキで… 大喜びでウタっている?
ナニヲカンガエテ!
さっき間引きした仔のママだった石がギリリ と歯軋りした
ワタシたちがこんなに苦 労 し て る のに
ヨソモノがのうのうとシアワセのウタをウタっている・・・
イツカ コノオヤマを……
ワタシ ノ 仔 デ イッパイ ニ……
フザケルナ!!!!!!!!!
このオヤマはワタシたちのモノダッ
カッテに入るなっ ゴハンを盗むなっ 仔を産むなっ ヨソモノは出ていけっ
ゼッタイにユルサナいテ゛ス(チ)ッ!!!!!!!!!
ミンナのココロがヒトツになった
−− 8 −−
晩秋になると山実装コロニーの間で縄張りをめぐる衝突がおこることがある。
これが餌場を巡る境界争い程度ならまだ平和なケンカですむ。
野生動物の縄張り争い同様お互い致命傷はあびせない。
ポフポフ殴りあって戦意を失くした方が逃げ出す。
山実装のほとんどは弱者を甚振って悦ぶ性根をもたないので必要以上の暴力を振るわない。
過剰な暴力はそもそもエネルギーの無駄遣いである。
だからそれだけで済む。
牧歌的なその様子から地域によって「実装の山相撲」と呼ばれることもある。
ただし越冬穴である棲み家を巡る争いは血みどろの戦いになる。
この時にだけ見られる現象であるが、本能的な敵意に駆り立てられた山実装は他集団の個体を偏執的に憎悪する。
これには自グループの結束を強める要素もあるらしい。
そのため越冬穴を襲撃した山実装は相手を徹底的に痛めつけ、時には禿裸にして追い払う。
自分達がそこを奪って使うのでないなら、敗者が二度と戻ってこないよう破壊していく。
そして貯蔵していた食物や巣の資材に使えそうな物は全て略奪する。
必要以上の暴力を振るわないのが合理性に基づいた本能なら、越冬穴への容赦ない攻撃も合理的な生存本能に由来する。
越冬穴を巡る争いには自然が養うことができる個体数の調整という重要な意味があるのだ。
−− 9 −−
ヤカタの中にはブクブクとデブったハゲハダカがいた
コババさまより一回りデカイ
だけど逃げない ゼッタイに負けられない
ワタシたちのオヤマをまもるデスッ
チカラをあわせてタタカうデスーー
「「「「「「「「デス(チ)ーー!!!!!!!!」」」」」」」」
やられる前にやる
あのデカいガタイで殴られたらたまらない
無我夢中だった
気がつくと目の前には太いウデを引きちぎられたヨソモノが転がっていた
ムスメもミミに飛びついて片方を引きちぎっていた。
… ・・ オ… オトモダチ ・ ・ オトモダ ・・チ
どうせトナリヤマから追いだされたクソムシデス
コババさまが罵った
オナカ ニ 仔 ガ イルデス ヒドイコト シナイデ デス
どうみても間違いない
仔喰いグセがついてナカマに追いだされたクソムシだ
仔のフクがビッシリ敷き詰められている
オハナのニオイがプンプンする
仔を次々産んで奪いとったフクだろう
それでいてこれだけブクブクとデブっているのは仔喰いだからに違いない
チガウデスー ニンゲン ニ オイシク サレチャッタ デスー
オヤマには生えてないオイシそうな草がある
それに器に入ったフシギなタベモノがある
たまらないほどいいニオイがする
アレこそコンペイトウのように伝え聞く「実装ふうど」だろう
禁断の地 ニンゲンのナワバリにしかありえないもの
ゴチソウジャナイデス ガ ヨロコンデ ゼンブケンジョウスルデス
こんなゴチソウを食べていたらオヤマのゴハンが食べられなくなる
掟を破った石は追放デス
戻ってきても追いだすデスッ
オオババさまはいつもそういっていた
仔実装のころから何度もデスデス聞かされたオヤマのオキテ
あのオキテの意味がよくわかった
コノ オヤマデ クラシタイデス オネガイデスー
ニンゲンのナワバリで暮らした石はケガれる
戻ってきても もう元の石には戻れない
もうオヤマで暮らせなくなる
ワガママ イワナイデス ダカラ ナカヨクシテ デス
オヤマにケガれ石がいると生まれてくる仔供たちがケガれに染まる
生まれてくる仔がクソムシになる
ラクしてズルして生きたがるようになる
見たこともないコンペイトウを欲しがる
アクマに媚びてオヤマのナカマを裏切る
こんなクソムシがオヤマにいちゃいけない
ナンデデスー ドウシテデスゥゥゥ ゼンゼン ハナシ キイテクレナイデスゥ??
オヤマからでてけデス(チ)ッ!!!!!!!!!
残ったミミも引きちぎり、ミンナで近くの川に投げ落とした
デ゛ェェェンデェェェン ユメモ キボウモ ナカッタ デスゥゥゥ…・・
−− 10 −−
『山実装の友狩り』は冬越えを控えた山実装の攻撃本能を利用した狩猟法だ。
山実装のいる山に実装石の棲み家をつくり、「おとり」となる実装石(おとり実装)を置いておく。
棲み家には臭いを追跡しやすい戦利品(「土産」と呼ばれる)を入れてやる。
やがて自分達の縄張内で定住している「おとり」に激しい敵意をかき立てられた山実装のグループが襲撃にやってくる。
その後「土産」の臭いを猟犬にたどらせて越冬穴を見つける。
もちろんうまくいかない年もある。
キツネやイタチに「おとり」が喰われたり、急に雪が積もって「土産」の臭いが消えてしまったりと失敗したことも多い。
なにより仕掛けた棲み家が縄張りの外だといくら「おとり」を置いたところで獲物は喰らいついてくれない。
せいぜい餌場でポカポカ叩かれて追い払われてしまうだけだ。
要するに運次第。当たれば儲け。
山の神様は気まぐれという。
だから山神神社に奮発して100円玉をお供えしてきた。
ご利益がありますように
−− 11 −−
仔のフクがいっぱいあるデス
クソムシだからどうせ自分の仔を喰ってたデス
あんなアクマ追い出してトウゼンデス
半ゴロしじゃなくブッコロしてやるべきだったデス
これだけあったかいフクがあれば大アナもヌクヌクデス
それにオハナのいいニオイがしてるデス
ヤカタのカベもいろいろ使えそうデス
ゼンブ持って帰るデス
この葉っぱヤワらかくてアマくてウマウマデスーン
「実装ふうど」にオサカナが入ってるデスッ オイシイデスー
葉っぱとイッショに噛むとたまらないオイシさデスゥ
冬の前にうれしいゴチソウデスーーーーーー
カミさまからの贈りものデスーーーーーー
ナカマたちが嬉しそうに笑っている
いつもカオをしかめてカリカリしているコババさままで笑っていた
すっかり機嫌のよくなったコババさまがムスメにいった
オマエはフクのカミデス
いままでメのカタキにしてすまなかったデス
イッショに冬を越すデスー
ムスメも照れくさそうに笑っている
今度はコンペイトウのような甘い声じゃなかった
コババさまがムスメを認めてくれた
ワタシもココロが温かくなった
−− 12 −−
「おとり」を仕掛けてから数日後の日曜日、成果を見にやってきた。
どうやらうまく仕掛けに引っかかってくれたようだ。
それからが大変、鉄砲撃ちの爺さんと猟犬達の後ろを追っかけて道無き道を山登り。
あの爺さん… 元気すぎる・・・
生物として戦中の人間とオレ達の世代には山実装と野良実装くらいのスペック差があるような気がする。
置いてかれないように、ひーこら言いながら一心不乱に登っていく。
まってくれぇー
−− 13 −−
昨日の夜はうれしくてうれしくてミンナとしゃぎすぎたデス
あの「実装ふうど」食べたらノドがカラカラになったデス
オミズが欲しかったけど朝までガマンしたデス
朝になってからオミズガブガブ飲んだらオナカがゴロゴロするデス
ウンチ場でモタモタしてたらすっかりオヒサマが高くなってたデス
コババさまがまたカリカリしてるデス
ミンナとそろそろゴハン集めにいくデ
デ?!
デデッ! ニンゲンがくるデスッ
ガウガウもいるデス
アレはヤバいデス ミンナかくれるデスッ
−− 14 −−
2時間近く歩いて、やっと山実装ちゃんのお住まいにたどりついた。
そこには松くい虫に喰われて枯れた松林があった。
その中に台風で根こそぎひっくり返った松がある。
根元の地面が根回りの土ごとえぐられた穴が開いていた。
その穴の壁面に実装石が通れるくらいの横穴がポッカリと開いている。
横にはススキの束が立てかけられていた。
あれは「おとり」に使った棲み家の材料だ。
み ー つ け た
−− 15 −−
・
・
・
ザックザック ザックザック
あの音がだんだん大きくなっている…
もうそこまで近づいている・・・
ザッ ザッザックサ゛ック
オヤマは広い… なのに
どうしてここがバレたんだろう
ザック ザックザック
…・・ヤートットエンヤートット
この仔は運がいい仔だった
その運も昨日でオシマイだったデスか…
ザックザック
ヨーサソーレー ドッコイショー
−− 16 −−
越冬穴の出入り口は入ってすぐL字型に曲がることが多い。
風除けと内部の様子を外から直接覗えないようにするためだ。
また山実装の集団越冬穴には出入り口の他に必ずカモフラージュされた非常脱出口がある。
これは換気用の空気穴を兼ねている。
そこを押さえておかないとせっかくの獲物に逃げられることになる。
この越冬穴の非常口は倒れた松の幹の陰にあった。
ちゃんと石を組んで水や土が入ってこないように細工がしてある。
大雨が降っても水が中に流れ込んでこないよう周囲に溝まで掘ってある。
もっともそれでバレたわけだが。
覗きこむと山実装の丸い手先が見えた。
鉤棒で引っかけてやろうとしたがうまくいかず、そのままズリズリ後ずさりしていたった。
まあいい。どのみち逃げ場はない。
普通は枯れ枝や落ち葉でもっと分かりにくくしてある。
爺さんと一緒に周囲をぐるりと回ってみたが他に逃げ道はないようだった。
近くに穴を掘った残土が積みあがっていた。
まだ柔らかいところをみると、穴が完成したばかりでカモフラージュの時間が足りなかったのかもしれない。
出入り口と非常口に農協米袋と肥料袋を細工して作った簡単なドウ罠を仕掛けておく。
遮光性紙袋の奥に穴を開けて半透明の肥料袋をくっつけただけの単純な代物だ。
光りを求めて奥の穴から明るい方に入り込んだらなかなか戻れないようになっている。
さて、こっからどうするか爺さんと相談する。
越冬穴の出入り口から枯葉を焼いた煙で燻して煙攻めにするのが一番手っ取り早い。
車の発炎筒を放り込んでやるのも手だ。
ただし煙攻めは手間こそかからないものの確実性に欠ける。
優れたリーダーに率いられている場合、酸欠で仮死するまで全員耐え抜く時がある。
だから時間と手間こそかかれ確実な方法を選ぶことにした。
その方法は単純そのもの。
ひたすら掘る。
時間さえ許せば全部捕れる。
ヤマイモを丁寧に堀るよりむしろ簡単といえる。
ただ出入り口から掘っていくのは難しいようだ。
松の根が込み入っているのと足場が狭くて作業しにくい。
非常口から掘り進んでいくのも松の幹が邪魔で面倒だ。
ならばどうするか。
こういうとき便利なのがワンコの聴覚。
というか既に猟犬達がせっせと地面引っかいてココ掘れワンワン始めてるし…
どうやら出入り口と非常口の中間くらいに越冬スペースがあるようだ。
おおよそ目星をつけたらスコップでひたすら掘る。
この土の向こうに美味しい石が待っている。
明日の筋肉痛だって気にしない。
えんやーとっとえんやーとっと よーさそーれどっこいしょー
−− 17 −−
嬉しそうに歌うニンゲンの声まで聞えてきた
ミミを塞ぎたい、気が狂いそうだ
とうとうダレかが耐えられなくなった
出グチに駆けだすアシ音
抜けアナに潜り込む音
何かを蹴飛ばした音
右から左から泣き声が 叫び声がするデス
ヒッシになって土をひっかく音がするデス
土がアッチからコッチから飛んでくるデス
ゴハンをクッチャクチャ食う音もするデス
冬に備えてみんなでじっしょうけんめい貯めたのに
ぜんぶムダだったデスゥ・・・
それにコババさまの怒鳴り声
とってもウルサイ デス ・ ・ ・
アシ元のフクを拾って両ミミに押しあてる
フクの端がハナに当たった
オハナのいいニオイ ガ すノレ テ ゛ ・・
ス… ・ ・ !
カラダが震えた
かぐわしいオハナのカオリ
待ちどおしい春のニオイ
そんなものが・・・ 冬のオヤマにあるはずがない…・・・
… ワ ナ… だったデス…
思わず声に出ていた
ママ?・・・
ナ…なんでもないデス オマエはなにもワルくな
ガッカツンと石を小突く音が響く
そしてバラッと土が落ちてきた
コババさまの悲鳴が聞えた
クラヤミにヒカリがあふれる
あああ・・
見上げたオソラは
どこまでもアオかった
アオいオソラを背にアクマが立っていた
クロい目がワタシたちを見つめていた
−− 18 −−
30分ほど掘り進めると半畳ほどの空洞がポカッと開いた。
抱き合って震えている山実装と最初に目があった。
崩れた土の下敷きになってデスデスもがいている山実装がいる。
仔実装服が地面いっぱいに敷いてある。
車の芳香ビーズで臭いつけをした「土産」はずいぶんお気に召してくれたようだ。
「土産」につけてやったミニバケツが転がって中身の「へしこ」が散らばっている。
それをオカズに剥きドングリをモシャモシャ貪っているヤツもいた。
糞抜きの手間を増やしたくない。まずそいつを鉤棒に引っかけて穴から引っ張りだす。
出入り口や非常口に向かって逃げ出した連中はそのまま出口に仕掛けたドウに納まってくれた。
親玉らしい年食った成体が1匹
普通の成体が4匹
春仔の新成体が3匹
中実装が1匹
大当たりだ。
越冬穴にいる獲物の数は運次第。
特に晴れた日は総出で餌取りに出かけている可能性もある。
巣穴の留守番にいた1匹しか捕れなかった年もあった。
それが全部で9匹も捕れたのだから大猟だ。
畳んで持ってきた米袋に詰めて担いで帰る。
奥穴に仔実装服を袋にした越冬食料の貯蔵袋がたくさん押し込んであった。
俗に「お宝」と呼んでいるものだ。猟果が少ない時はアレも漁っていくが今回はいい。
どうせ中身はドングリがほとんだ。
秋蛆の越冬蛹もなさそうだし、他はせいぜいクリやヤマグルミ。
重さはともかくかさ張るから捨て置いていくことにする。
荷物は重いが足は軽い。
戻りは下り坂だからというツッコミは無しだ。
−− 19 −−
デチンデチン…… ワ タチ たち・・ デチッ これから・・・ どうな る デチ?
この仔は運がよい仔 だ っ た
だけど・・・ いくらなんでももうダメ…
震えるムスメを抱きしめて 諦めなさい と言い聞かせる
・・・・・・なんにもコワくないデス
アナタはこれからオヤマのカミさまのトコロにいくデス
あったかいトコロデス オイシい木の実がたくさん成ってるデス
これからはもう… ゴハン探しの苦労もしなくていいデス
オトモダチとお別れするカナシいこともなくなるデス
−− 20 −−
戻ってきたらずいぶん薄暗くなっていた。
クタクタだが今日のうちに爺さんの作業小屋で獲物を捌いておく。
この方が鮮度落ちしなくていい。
小屋の脇に消防用防火用水に使っている水路があるので堰止めを勝手に持ち出して水を溜める。
コンクリートの溝に赤黒い染みがあちこちに見えた。
そう言えばついこの前、ここでデカいイノシシの血抜きをしていたな。
爺さんと水場と流しを交代しながら一匹づつ捌いていく。
元気に暴れる山実装の背中を踏んづけてしっかり押さえ込んだら木槌で肩骨と腰骨を砕く。
こうするとかなり扱いやすくなる。
ただし骨をたくさん折るといくら山実装でもショック死してしまうことがあるので加減が必要だ。
そのまま背中から鋏を入れて実装服を縦に切る。それから後ろ髪を掴んで引っ張ると脱がしやすい。
実装靴とパンツも取り去っておく。
次は近くを流れる水路に連れて行く。
洗濯機の延長排水ホースを細工して作った管を口に突っ込む。
ホースの反対側は堰止めで溜めた水底に沈めてあるので、水路の川下だと水圧で水が勢いよく出てくる。
山実装にしても今回はなぜか糞の分量が少な目だったので助かった。
綺麗に糞抜きできたら糞と泥で汚れた身体を洗って流しに移る。
今まで持ちやすいように残しておいた髪は鋏で切り落とす。
包丁で喉元から尻までスッパリ割って偽石と内臓を切り取る。
取り出した偽石はどれがどの石だったかわかるように一つずつ蓋付きの瓶に入れ、偽石保存液を満たしておく。
蓋付き瓶はノリの佃煮の瓶を後生大事に取っておいて使っている。
ちなみに偽石保存液は爺さん特製マムシ酒だ。
これは効くぞ。
腸抜きした腹腔をガストーチでさっと焼く。
喉元と尻穴は少し念入りに焼き潰しておく。
こうしておかないと生命力がとりわけ強い山実装は冷凍していても内臓が再生して肉が目減りすることがある。
ついでに切り残った毛髪も綺麗に焼いておく。
腸と糞袋、それと肺は猟犬達へのご褒美だ。
爺さんが適当に切り分けて小屋の犬達に放り投げてやる。
3匹の猟犬たちはワンキャンワフワフとお祭り騒ぎだ。
山をあれだけ走っといておめーらは元気だな。
胃は丁寧に洗って後で日干しにする。
串に刺しておでんダネにすると美味しい。
心臓を兼ねた太い血管と肝臓は身と一緒に冷凍してとっておく。
腎臓やその他よくわからない臓物は犬のご褒美に追加してやる。
実のところ実装石の内臓は個体差が大きいので重要臓器以外の器官は(時として重要器官でも)あったりなかったりする。
鉄砲撃ちの爺さんは業務用の冷凍庫を作業小屋に持っている。
一匹捕ったらたいてい余って食べきれない猟獣肉の冷凍に使っている。
これで腸抜きした山実装を一気に冷凍する。
市販の食用石も生冷凍で売られている。
それでも解凍した時に生きているなら肉質の低下はほとんど生じない。
まして山実装ならいわんや。
むしろルイベにした方が衛生的だ。
−− 21 −−
・・・ア ク マ デチィィィ… ミンナがイタイイタイされちゃったデチ コワいデチ コワいデチィィィ
でも でもママならダイジョウブ デチ
今度もきっとママがタスけてくれるデチ
ダイジョウブ デチ ママがいるデチ
きっときっとダイジョウブ デチ
−− 22 −−
オレの分け前として春仔の新成体を3匹とも貰えることになった。
手子の駄賃としては破格の取り分といえる。
2匹は弟妹に贈ってやることにしよう。
地元で『吊るし餓鬼』と呼んでいる吊るし干しにした仔実装とセットで故郷の味を送るつもりだ。
中実装は爺さんが商売で使うあてがあるので冷凍せずそのまま飼うことになった。
運のいいやつだな。
もっとも成長期の中実装は脂ののりがいまいちになる。
料理屋でも中実装は少し肥育してから使うそうだ。
どこに出荷されるか知らんが、たぶん遅いか早いかの違いだけだろう。
その中実装と2匹一組でいた成体が最後になった。
困ったことに無傷で生かしておくつもりの中実装を抱きかかえて放そうとしない。
ジャージャー威嚇してくる山実装を前に逡巡していると、今度は中実装まで調子に乗ってデチデチ喚きだした。
売り物を痛めたら爺さんに悪い。どうしたものか。
−− 23 −−
ママすごいデチ
ニンゲンがおびえてるデチ
やっぱりママはツヨいんデチ
おっきなヨソのオバちゃんだってオテテちょんぎってたデチ
おっきくてもウドの木デチ デクノボーデチ
だったらコワくないデチ コケオドシデチ
ママ あのニンゲンのオテテもちょんぎってやるデチ
ワタチもガンバるデチ
アクマをやっつけてイッショにオヤマに帰るデ … ・・
−− 24 −−
そこへ年食った親玉を冷凍庫に詰めてきた爺さんが後ろから忍び寄ってきた。
そして切れ味のよい包丁でサクッと実装服ごと両腕を切り落とした。
両腕を切り落とされた成体は威嚇顔そのままコテンと転んだ。
棒のようにすっ転んだままブバブバ糞だけ垂らしている。
自分の身に何が起こったかわからないような顔をしていたが、すぐ2匹そろって絶叫をあげた。
爺さんは邪魔な中実装を蹴り倒すと、成体の頭巾をずらして耳をサクサク切り取った。
爺さんが「こいつで祝杯あげるべ。すまんけんど残り捌いといてくれんか」と言って、嬉しそうに台所に入っていった。
オレも酒の肴にちっと食べたい。うれしい。
−− 25 −−
ママが倒れた
ママのオテテが見えなかった
ずっと守ってくれたママのオテテ
ずっと抱きしめてくれたヤサしいオテテ
そのオテテがアシ元に落ちていた
ふりかえると後ろにもニンゲンが立っていた
ヒキョーモノ! ママになにするデチッ オミミ引きちぎってやるデ ベッ
倒れたママを助けようとしたらニンゲンのアシにふきとばされた
ママが遠くなる
−− 26 −−
床に倒れている中実装を捕まえて、また米袋に閉じ込めておく。
米袋に入れられても中実装はまだ チ゛ッ!デチーーッデチ゛ィィィッ!と元気に暴れていた。
お前は助かるんだ。ガタガタ文句いうな。
腕を切り落とされたショックで放心したのか、成体の方はほとんど暴れなかった。
手順どおり腸抜き処理をして冷凍庫に入れることにする。
−− 27 −−
イ タイ・・イタ イ・ ・ 立てな いデチ マ マ ママ…
今度はママのオミミがちょんぎられた
やめるデチ゛ャァァ ママにヒドイことしたら許さないデチ゛ィィィ
ママが見えなくなった
またオオブクロに閉じ込められた
フクロの向こうからママの声が聞えた
さよな ら デス
イヤイヤ ママーーッ いなくなっちゃヤダ ずっとずっとイッショにいるんデチーー
オマエと春のオハナを見たかったデス
オマエがシアワセのウタをウタうのを… 聞きた かっ た デ ス
オヤマのカミさまッ!ママをタスけデチーーッ アクマをやっつけデチ゛ィィィッ!
−− 28 −−
しばらく道具の後片付けをしていたら、台所から爺さんがワンカップ酒と刺身にした山実装肉を持ってきてくれた。
耳は熱湯をかけて皮を剥き、細切りにしてポン酢をかけてある。
ちょうどフグ皮みたいな感じだ。
腕肉は薄切りにして氷の上に並べてあった。
これをガストーチで上から炙り焼きにする。
この方が脂の旨みが出て山実装特有の風味が楽しめる。
減った腹に珍味がとびきり美味い。
疲れた体に酒が沁みる。
故里の山よ、今年も幸をありがとう。
山神様に感謝してお礼参りにちゃんと行こう。
爺さんを見ると偽石保存液に使った特製マムシ酒の残りをチビリチビリとやっていた。
瓶の底に残ったそれには何かツブツブっぽいモノが混ざっている。
「悪ぃのう、マムシ酒無うなってもうて」
爺さんが詫びてくれたが
イヤ… ちょっとそれはご遠慮したい。
−− 29 −−
ママ・・・ ママァ・・・・・・
オネチャがコワイコワイにバラバラにされたときも
コババさまにネチネチデスデスいじめられたときも
ママがいればコワくなかった
ママがいればへっちゃらだった
でも ママはもういない
オヤマに 帰りた いデチ… … 昨日に 戻り た いデチ
タスけデチ ダレか… タスけデチ カ ミさ ま タスけデ ・・・ ・・ ・
ワラい声が聞えた
アクマたちが ワラっていた
ずっとタノしそうにワラっていた
−− 30 −−
数日後、爺さんと神社へお礼参りをする。
しきたりどおり、親玉の心臓と肝臓を串にして炙って持っていく。
御神木の大銀杏の前に串を挿し、今年の豊猟を感謝した。
ありがとう。来年もよろしくね。
戻りに業務用冷凍庫で凍らせてもらった山実装をもらいに寄る。
1匹は家で食べる。
2匹はそのまま発泡スチロールの箱に入れてクール便で弟妹に送るつもりだ。
猟犬たちの歓声を浴びながら猟犬小屋の側を通ると“ゲシャン”と大きな音がした。
見ると犬小屋の隣に檻があって、中にはこの前の中実装がウリ坊(猪の仔)と一緒に檻に入れられていた。
さっきの音は檻に近づいたオレに向かってウリ坊が突進してきた音だった。
しょうこりもなくブーブカ鳴きながら“ゲシャン”“ゲシャン”と何度も檻にぶつかってくる。
爺さんに聞くと、前にくれたシシ肉の仔だと教えてくれた。
そうか、先々週もらって食べたボタン鍋の仔か。
お前のママはおいしかったよ。ごちそうさん。
あの猪のことは村の人からも聞いていた。
隣村の畑の檻にウリ坊が入ってしまい、檻の周りでウロウロしていた母猪を爺さんが鉄砲でズドンとやったそうだ。
そのウリ坊が捕まってここの檻に入れられてたのか。
まだこっちに突進しようとするウリ坊を引きとめようと中実装が抱きついている。
人間に親を捕って食われた者どうし境遇が似ていて仲がよいようだな。
爺さんの話だと、この中実装は瀬戸内の畜産試験場にそこそこの値段で売れることになったらしい。
なんでも品種改良用の試験出産石として使われることになったそうだ。
ついでにこのウリ坊も一緒に送られる。
そこで食用獣装石開発用のタネ牡として使われるとのこと。
−− 31 −−
ロウヤごとニンゲンの乗り物に乗せられた
オトモダチのブーちゃんが驚いて暴れる
ブヒーブヒヒー
ニンゲンの乗り物がすごいはやさで走っていく
遠くにトナリヤマのテッペンが見えた
風がツメたい
ブーちゃん…
オヤマが遠くなってくデチ
ブヒッブッフィー
トナリヤマのテッペンもやがて見えなくなった
オヤマのカミさまはナニもしてくれなかった
ブーちゃん…
ワタチ達これからドコにいくデチ・・…
・・ ずっと イッショに いられるデチか
ブーブヒー
オソラはドコまでいってもアオい
さよならママ… … さ よ な ら
−− 32 −−
翌年の春、爺さんから食用蛆獣装詰め合わせをもらった。
とある畜産試験場が夏の正式発売に先駆けて新製品の試供品を何箱か送ってきたそうだ。
実装石と獣の合いの仔である獣装石は肉に臭みがあることが多い。
今までにもジビエ料理に用いられる特殊食材としてローカル名産品扱いで販売されることはあった。
しかし獣装石は牙や爪を持つ上に気性が荒いことが多く飼育の手間がかかる。
また実装服の他に獣由来の体毛が生えていることが調理コストを増やしてしまう。
手間の割りに収益があがらないので安定して一般に流通することはなかった。
箱から中身を出してみると黒い縦縞模様が入った蛆獣装がパック詰めされていた。
ついてきたパンフレットの見出しには
ビールにぴったり
新感覚蛆獣装
『ウリちゃん』
新発売
しまなみの太陽と潮風に育まれた天然実装石と
野生のパワーいっぱいの猪から生まれた新製品
山と海の力あふれる大自然の味をご賞味下さい
と書いてあった。
パンフレットの続きを読んでみる。
愛媛と広島を結ぶ「しまなみ海道」の途中には山の神の元締め「おおやまつみ」の総本社が祀られる島がある。
昔は神の島として漁が禁忌とされていたので今でも漁業が盛んではないらしい。
名物といえばミカンくらいなものだ。
だから過疎化対策の地域おこしの一環として、山実装の全国ブランドにするべく気合を込めて商品開発中とのこと。
パンフレットの写真には猪と実装石が仲良くミカンを食べている牧場の様子が写っていた。
どうでもよいので適当に読んだらゴミ箱に入れる。
ちなみに茹でた食用蛆獣装はカルパスのような噛みごたえがあってなかなか旨い品だった。
−− 終わり −−
