タイトル:猟師の手は震えて 7/8
ファイル:猟師の手は震えて7.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2058 レス数:0
初投稿日時:2007/12/10-00:28:34修正日時:2007/12/10-00:28:34
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『 畜生!畜生!畜生ぉぉ!!! 』

「 ギャアアアアアア……!! 」

今日も公園内に実装石達の悲鳴が絶えず響き続く。
一見するといつもの俺達の姿かもしれない。
けれども実際は大きく違っていた。

『 死ね!死ね!死ね!死ねええええええ!!! 』

『 お、おい……どうしたんだよ。 』
『 いくら何でもお前、この前から少しおかしいぞ? 』

手当たり次第に実装石を虐殺する俺を見て、ダチ2人が訝しがる。
今までも自分達は実装石を殺してきたが、あくまで楽しみながら殺してきた。

『 なぁ、もう少しリラックスしながらやろうぜ? 』
『 その通りだ、一瞬であの世に送っちゃ楽しくないだろ。 』

『 るせぇ!! 』

振り下ろすバット、飛び散る肉片、赤と緑の返り血。
逃げ惑う実装石達を手当たり次第にブチ殺す。
視点は合ってなかったかもしれない。
肩で息をして、ただひたすら何かに憑かれたかのような虐殺。

いつもの陽気な公園実装虐待とは異なっていた。

『 おい、いくら何でも少し落ち着け。 』
『 今のお前はヤバイって……警察に通報されてもおかしくないぞ。 』

ダチ2人の言うことは尤もだ。
しかし、この時の俺はそんな言葉を冷静に受け止めるような精神状態で無かった。


結局俺は一番モドキを奪われた挙句、あの建物から放り出された。

この俺を騙し、まんまとモドキ達を手に入れた吐き気のするような愛護派達。
床に押さえつけられた俺を見下していた身の程知らずのモドキ達。

あれから悔しくて夜は眠れない日が続いた。

どうしても眠れない夜は公園に行き、疲れて身体が動かなくなるまで実装石を虐殺していた。
今の俺に虐待を楽しむ余裕など有りはしない。
どんなに公園の実装石をブチ殺しても、脳裏に浮かぶのは建物のモドキ達。

アイツ等が幸福な生涯を送った後、仔に看取られて死ぬだと?
しかも愛護派に手厚く埋葬されるだと?


『 ざけんなっっ!!! 』


また一匹、実装石が肉片となり、地面に赤と緑の華を咲かせた。

『 ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……。 』

分かっている。
ここで何百匹、何千匹という実装石やモドキを殺したところで俺の気は治まらない。
しかし、せめてこうでもしていないと怒りで気が狂いそうになる。
要するに今の行為は八つ当たりに過ぎない。
そして八つ当たりをするしかできない自分に、また怒りが湧いてくる。

そんな朝から夜までムシャクシャする日が続いた。




『 くそっ……。 』

あの一番モドキを奪われた日から一ヵ月が経った。
その日の俺は片手にバットを持って、近所の公園に向かっていた。
確かに怒りは多少収まったものの、根本的な憤りが消えることは無い。

辺りの実装石は俺達だけでかなりの数をブチ殺した。
おかげで近くの実装石の数はめっきり少なくなってしまったため、最近は遠征していた。
わざわざ遠くまで出かけて虐待というのもアレだが、仕方ないであろう。
だが、そろそろ近所の公園の実装石達も数は増えている筈だ。
どれだけ絶滅寸前に追い込んでも、奴等は1週間あれば元の規模に戻る。
実装石達が居なくなった公園に、また別の場所から実装石が流れ込んでくる。

そろそろ良い頃合だろう。
今日、ダチ2人は用事が有って一緒には来れない。
自分1人だが、それも良い。
寧ろ回りに気を使う必要が無い。

ダチ2人が居ない寂しさと自分1人の気軽さを感じながら、俺は公園の門をくぐった。





門をくぐり、暫く公園内をうろつく。
元々、実装石に占拠された公園を散歩する一般人なぞ、滅多にいない。
殆ど無人の公園を闊歩すると、ちらほらとダンボールハウスが点在してるのが見える。
見ない間に、それなりに数が戻ってきたようだ。
しかし俺は直ぐに始めようとはしない。
小手調べにどの辺りの連中をブチ殺してやるか……と、暫くは品定めをしていた。


『 やぁ、久しぶりだな。 』

不意に声をかけられる。
手にはカバンを持った1人の男……そして男が何者か理解できた瞬間、怒りの沸点を越えた。

『 テ……テメェは…! 』

ブローカーの男。
あの建物の愛護派の連中とつるみ、俺からまんまと一番モドキを騙し取った奴だ。
バットを持っていた手に力が篭もる。
辺りには人も居ない。
思わずここで撲殺してやろうか、なんて考えさえ浮かんでしまう。

『 話が有って今日は来たというわけさ。
  時々、この公園に来て君を探してたんだがね……。 』
『 …話だぁ? 』

俺から大事なモドキを奪っておいて何寝言を吹いてやがる。

『 君にとって悪い話じゃない筈だ。
  だが聞いてくれないのなら、それはそれで構わない。
  私はこのまま立ち去るが……どうするかね? 』
『 ……あぁ、聞いてやろうじゃないか。
  アンタには言いたいことが山ほどあるしな……。 』

とりあえず話だけは聞いてやることにした。
その話次第では傷害で訴えられたって構うものか…。
今まで数え切れない程の実装石を地面のシミに変えてきたこのバットでブン殴ってやる!

場所を移して、俺達2人は公園内のベンチに肩を並べた。
辺りには相変わらず人影は見えない。

『 まずはこれを見てもらおうか。 』

男は持っていたカバンからノートPCを取り出す。
膝の上に置くとモニターを広げ、電源を入れた。

『 今日は顧客の所を回っていてね……そのついでに立ち寄ってみたのさ。
  丁度君が居て本当に良かった…。 』
『 俺は最悪だがな…。 』

男はPCを起動させると、モニターの画像を此方に見えるように向きを変えた。

『 …" ユウ "は元気にしているよ。 』
『 "ユウ"……?なんだソレ? 』
『 それは酷いな……君は名前も知らなかったのか。 』
『 何のことだ…? 』

『 君が私達に渡したモドキの名前さ。 』

『 モドキって……どのモドキだよ? 』
『 君が最後に渡したモドキだ。 』
『 ひょっとして、それは一番か…?一番モドキなのか!? 』
『 なるほど、君はそう呼んでいたのか…。
  君があの施設内に立ち入る交換条件として、私達に渡したモドキだ。
  そのモドキは……今、このような状態だ。 』

ブローカーの男はモニター上に視線を移す。
すると何かしらの動画ファイルが再生されていく…。


柔らかな温かみのある照明の部屋。

その部屋の中、クッションの上に座っているのは緑の服を着た亜麻色の髪の小人。

大きく丸い瞳、殆どストレートの髪、僅かに高い鼻。

明らかにモドキだ。

< ですですですぅ〜〜♪ ですですですぅ〜〜♪ >

これ以上無い程の幸せな笑みを浮かべながら、お腹を撫でつつ何かを歌っていた。

カメラがズームインされる。

そのお腹は僅かに膨らんでいた。


『 ユウは妊娠したんだよ。 』
『 なに…!? 』


俺の部屋のシャワー室で這い回っていた一番モドキ。

いつも面倒を見ていた仔モドキ達を俺に殺され、泣いていた奴が今は笑っていやがる。

すると画面外から男が1人現れた。

《 どうだい、お腹の仔の様子は? 》
〈 順調ですぅ……お医者さんも問題無いと言ってたですぅ 〉
《 それは良かった…。 》

その男は20代半ばくらいの青年。

男は柔らかな笑みを絶やすことなく、一番モドキの隣に腰掛けた。

隣に男が腰掛けると、一番モドキはその身体へもたれかかるように身体を傾けた。

《 ユウには、僕の大切な赤ちゃんを産んで貰わないといけないからね。 》
〈 わたし、頑張るですぅ……頑張って、元気な仔を産むですぅ………でっ! 〉
《 ど、どうしたんだい? 》
〈 ……今、動いたですぅ♪ 〉
《 はは…。 》

男は一番モドキの肩に手を置いた。

暖かな部屋、何不自由の無い生活。

最愛の夫と、自らのお腹に宿る新しい生命。

一番モドキは幸せの絶頂に居た……のだが。


『 おい……話ってのは、まさかこれを見せたかったのか? 』
『 あぁ…。 』
『 オマエ等の慈善事業を俺に見せて、改心でもさせるつもりだったのかっ!? 』

( ギリリ… )

持っていたバットが軋む程、強く握りこんだ。

もう我慢できない。

返答次第では、目の前の男を半殺しにして次はあの建物だ。
あの建物の中のモドキを一匹でも多く地獄に叩き落してやる…!!

『 …もう一つ見てもらいたい。 』

男はモニター上にもう一つのファイルの再生を始めた。

『 何を見せるってんだ………ぁ…? 』


モニターに映し出されたのは薄暗い部屋の中。

視界に窓は無い。

部屋の中には家具など何も無い。

有るのは頭上に古びた電球が一つ……弱弱しい光で部屋の中を照らしている。

そして部屋の中央に棺桶が一つ。


『 …見覚えが無いかい? 』
『 あ……あれ…。 』

そんな部屋は見たことも無い。
だが、あの棺桶はどこかで見た覚えがある。


すると画面外から1人の男が姿を現す。

薄暗くて顔はよく分からない。

しかし口元には邪悪な笑みを浮かべている。

視線の先は棺桶。

目を血走らせ、息を荒くしているのが分かる。

男は棺桶に手を伸ばし、その蓋を開けた…


『 ……あぁ!! 』


蓋を取り外すと、棺の中にはモドキが一匹横たわっていた。


思い出した。
あの棺桶は、あの建物の礼拝堂で見た奴と全く一緒だ。

『 これはね、あの施設から納品された商品の一つさ。 』
『 納品…?商品…?…アンタ、何を言ってる………あぁぁ!!?? 』


〈 で……ですぅ…? 〉
モニターの中、映っていた棺の中のモドキが動き始めた。〈
死んでいた筈なのに……目元を抑え、辺りを見回し、声を出している。


『 …仮死状態だったのさ。 』
『 は……はぁ!? 』
『 あの棺桶は商品を詰め合わせるための箱さ。
  そして、この商品の納品先が動画の男性というわけだ。 』
『 し……死んでなかったのか? 』
『 当然だ。死んでしまっては虐待できないだろう。 』

『 …アンタ、今なんて言った? 』


〈 こ……ここはどこですぅ?ニンゲンさんは、誰なのですぅ…? 〉
《 く……くくっ… 》

呑気な声を出し、モドキは傍に立っている男に問いかける。
そして男は、笑いが止まらないといった感じで震えていた。
薄暗くて分からない……だが、コイツは満面の笑みを浮かべているのが分かった。
そしてコイツは俺と同じ虐待派だということが…!

〈 でっ!……でしゃあっっ! 〉

男はモドキを棺桶の中から引きずりだし、何も言わず床に叩きつけた。

〈 でっ…!でっ…! 〉

額と口から血を流してやがる。
今まで味わったことの無い痛みに、モドキはパニックに陥っていた。

〈 な、なぜこんなことをするですっ!? 〉
《 くくっ… 》
〈 こ、ここは何処なのですっ!? 〉
《 くくくっ… 》
〈 わたしはどうしてこんな所に……仔供はどこに……ですぅ…? 〉
《 くくっ……ギャハハハ! 》
〈 で……しゃああああ!!! 〉

男は今まで堪えていた笑いを抑えることなく発散させると、全力で笑い始めた。
そして地面に蹲っていたモドキを全力で蹴り飛ばし、壁に叩きつける。

〈 ででっ……でっ…い、痛いですぅ……手が…手がぁ… 〉

更に追加された痛み。
モドキの目から涙が頬を伝って流れる。

〈 ……た、たすけてですぅ…! 〉

そしてモドキは痛みの治まらない身体を起こし、男から逃れようと走り始めた。
けれども部屋は狭く、男から一番離れた部屋の端が精一杯。

〈 あの場所に戻してですぅ…!たすけてですぅぅ!! 〉

モドキが声を上げるたびに、男の口元の笑みが大きくなるように見えた。
そして男はゆっくりと……ゆっくりとモドキに近寄り、怯えさせ…

〈 ですぅぅぅぅぅぅぅ!!! 〉


『 ……分かったか? 』

ブローカーの男の一言で、画面を見入っていた俺は我に返った。

『 あ、あぁ……何だ、やっぱり、あ、上げ落としだったんじゃないか。 』
『 そのつもりは無いのだが……君達虐待派の中では、そんな風に言うらしいな。
  それだけでは無いのだが。 』
『 ん……他に何が有るってんだよ? 』
『 紹介映像を用意してないが、あの施設内ではモドキ達との性行為を有料サービスという形で提供している。 』
『 なるほど……そういうことか。そういうことだったのかよ……! 』

全ての謎が解けたような気がした。
なんだ、結局のところコイツらはモドキ達を金儲けの道具にしていたに過ぎない。
建前は愛護派で、その実は虐待派だったというわけだ。

『 …それでだ。今回、君に会いに来た用件だが……あのユウというモドキを引き取る気は無いか? 』
『 え…! 』
『 今直ぐでは無いが、あと二ヶ月か三ヶ月で君にどうだろう? 』
『 か、返してくれるのか…?か、金なら用意するぞ! 』
『 いや、金なら必要無い。あのモドキは十分な働きをしてくれたからな。
  上と交渉して、君用にあのモドキの枠を貰っておいた。 』
『 は、はは……そうか、そうなのかよ…! 』

( カランッ )

今まで握っていたバットが零れて、地面を転がる。
俺は久しぶりの清清しさを全力で感じていた。

『 ……そうだ、そういえば聞いていいか? 』
『 何だね? 』
『 他のモドキ達はどうなるんだ? 』

一番モドキが俺の手に戻ってくるのは良い。
だが、アイツの仲間のモドキ達にも借りは有る。

『 全て、あの施設内で客を取ってもらう。
  そして妊娠が確認され、出産すれば例外無く" 納品 "される。 』
『 納品というと…全て虐待派にか? 』
『 当然だ。
  君の言った通り、モドキなんてゲテモノを飼う客なんぞ滅多に居ない。
  しかも今更、あんなに成長した個体をペット用に誰が欲しがるのかね? 』
『 そうかよ……確かにその通りだ! 』

『 この世界にモドキの居場所なんて何処にも無いのさ。
  せめて我々は、懐が暖かくなるように有効利用させて貰っている、それだけだ。 』

なんだ、そういうことだったのか。
聞くと、あの施設内にいたモドキの末路は全て決まっているらしい。
あの施設の維持費を補填するため、それなりの額で引き渡される。
顧客には、施設でどのような生活をしてきたのか、つまり" 上げ "の映像を見せられる。
それが有れば虐待にも力が入る。
簡単に殺されることはまず無いと、ブローカーは語る。
じわじわと嬲り殺しだ。
それでも一月以上生き残ることは難しく、そんな顧客がリピーターになってくれるという。

最高だ

マジで最高だ

あれだけ溜まっていた鬱憤が一気に解消された。
俺を笑っていたモドキ共は全て地獄に落ち、一番モドキも俺の手に戻ってくる。
何も問題無い結末。

全ては丸く収まり、俺は今日からぐっすり眠れそうだ。


『 ふふ……。 』
『 ……ん? 』

俺が清々しい気分に浸っている横で、ブローカーの男が笑いを零していた。

『 どうしたんだ、アンタ? 』
『 ふふふふ……! 』

その笑いは徐々に大きくなり……抑えきれなくなり——



『 ははははは……!!! 』



『 …なんだ?何がおかしい? 』

堪えきれなくなった男は高らかに笑う。
乾いた笑い声で。
俺達以外、誰も居ない公園にブローカーの笑いが木霊する。

『 いや、何……おかしくてね。 』
『 何がだよ…? 』
『 君が、あそこを単なる上げ落とし施設とか、モドキ専門の売春施設だと素直に信じている所がさ! 』
『 …なに? 』
『 あの施設の本当の目的は、そんな生易しいことじゃない。 』
『 それじゃ、何だっていうんだ? 』

『 それは…。 』

すると男は乾いた笑いを止め、俯いて言葉を続けた。


『 あの建物はな……モドキに人間の仔を産ませる場所なんだよ。 』


『 ……はぁ?』

その言葉は余りにも深刻な表情で発せられた。
だが意外なその内容に、思わず間抜けな声を上げてしまった。

『 モドキに仔を産ませて、どうすんだよ。 』
『 …… 』
『 それが何だっていうんだ…? 』

世の中には実装石とヤるのが趣味の人間も大勢いる。
だからこそモドキが存在し、そのモドキとヤれば結果として仔もできるだろう。
現実に俺もあの建物内で多くの仔モドキを目にした。
しかし、なぜこの男はそこまで深刻な表情を浮かべているのか。

『 キミが見た1階のフロア。
  あそこには、様々な場所から集められたモドキが飼育されている。 』

忘れもしないモドキだらけのフロア。
そこでは、この世の幸せを満喫している間抜けな奴らの姿があった。
俺が渡したモドキ達もあのフロアに居た。

『 そしてモドキ好きの人間と交配し、結果として仔が産まれる。
  我々はそれを" 第2世代 "と呼んでいる。 』
『 第2世代…? 』
『 …そう、第2世代のモドキだ。
  連れてきたモドキ達を第1世代とし、その個体から産まれたから第2世代。
  そして第2世代のモドキ達は2階フロアに送られる。 』
『 2階…?上は普通のマンションじゃなかったのか? 』
『 違う、あの施設内は全てモドキの飼育と売春に使用されている。 』

ブローカーの男は更に言葉を続けた。

『 2階に送られたモドキ達も頃合を見て交配相手の人間の男があてがわれる。
  更に産まれた混血の仔は第3世代として3階フロアに送られる…。
  つまり世代が進むにつれ、上のフロアに送られるシステムだ。
  だが……だが…。 』

そこで男は頭を抱えて、言葉が続かなくなってしまった。

『 ……それがどうかしたのかよ? 』
『 モドキと人間が交配を重ねるというのはな、非常に難しいことなんだ。 』
『 言ってる意味が分からねえよ。 』
『 交配を続け世代が進むことによって、着床の確率は激減する。
  それまで比較的容易だった妊娠も極めて困難となる。 』

その時、俺はこの男の声の中に憤りが含まれているのに気付いた。

『 更に世代が進むことによってモドキ達の知能は上昇し、自分達の境遇に疑問を持つ。
  なぜ自分達は、この建物から外に出られないのか…。
  なぜ人間の仔を産まなくてはならないのか……とね。 』

その憤りの度合いが徐々に高くなってくる。

『 そして更に世代が進み、モドキ達は人間との交配を拒否するようになる。 』
『 拒否…? 』
『 そうさ。
  仮に人間の仔を宿したとしても、自分や仔達に未来は無いと気付き始めるんだ。
  一生出られない生活を過ごすくらいなら、産まない方が良いってね。
  仔に同じ苦しみを味あわせるくらいならと、出産を拒否する。
  だから人間の男達がどんなに求愛してもモドキ達は応じなくなる。 』
『 んじゃ、どうするんだよ? 』

『 ……それでも産ませるのさ。 』

男は忌々しく言い放った。

『 嫌がるモドキを抑え付け、強引に行為を強要するんだ…。
  泣こうが叫ぼうが、そんなことお構い無しでね。
  しかし、そこまで世代が進めば着床の確率は更に下がっている。
  だから着床するまで延々とモドキ達は犯され続けるのさ…。 』
『 へぇ…。 』
『 それはもう地獄絵図だ。
  モドキ達は泣きながら代わる代わる人間の男に無理矢理犯される。
  昼も夜も区別無く、ね。
  しかも嫌がるモドキは、そういった趣味の連中には堪らないらしい。
  時には数人がかりで無理矢理さ。
  そうなってくると交配とは呼べない、文字通り強姦、もしくは輪姦だ。
  そして交配相手の男達のやり方もエスカレートしていく。
  なにせ妊娠さえさせれば問題無いのだから、無茶になってくる。
  モドキ達は飽きるまで男達の性処理の道具にされるんだ。
  その結果、モドキは大抵精神がおかしくなり、最終的に発狂する個体も少なくない。
  仮に辛うじて着床したとしても、母体の状態は最悪だ。
  流産、辛うじて産まれて来る仔は死産か、奇形か……。
  もしくは母体が出産を拒否して最終的に自殺するか、だ。

  どちらにしてもロクな物じゃない。 』

『 なんだよソレ……最高じゃねえの! 』

重々しく話す男に反し、俺は聞いてるだけで身震いしていた。

『 俺はモドキとヤりたいとか思わないけどよ、それは聞いてるだけで最高だぜ!
  精神的に発狂するまで追い詰めて、無理矢理仔を孕ませるか!
  すげえよ……!
  えげつなさすぎる……!!
  虐待派として、マジで尊敬するぜ…!!! 』


 最高だ。


あの幸せそうなツラをしてたモドキ達の子孫さえ、末路は生き地獄。
虐待派として、これ程痛快な話は無い。

『 ……分かっちゃいない。 』

『 は…? 』

笑ってる余り、ブローカーの呟きを聞き逃してしまっていた。

『 キミは……何も分かっちゃいない…。 』

『 …何がだよ。 』

『 キミはモドキに仔を産ませ続ける行為に、どんな意味が有るか分かっていないね…。 』

『 はぁ? 』

『 モドキに人間の仔を産ませ続ける。


  …つまり、そのモドキの仔は人間に近づいていくということさ。 』


『 ……え? 』

『 モドキは元々、実装石より人間に近い。
  更にそのモドキに人間の仔を産ませれば当然だが、より人間に近くなる。 』

『 アンタ、何言ってるんだ…? 』

『 事実を正確に言ってるだけさ。
  世代が進むごとにモドキは、より人間に近くなってくる。
  1階の第1世代よりも2階の第2世代が、
  2階の第2世代よりも3階の第3世代が人間に近づく。
  頭身は徐々に高くなり、四肢は長くなり、髪の毛の色は黒味を帯びてくる…

  上の階に上がるほど、モドキは人間に近くなっていくわけだ。 』

『 おい…。 』

『 しかし、これは自然の摂理に背いた行為だ。
  着床率は低くなるし、母体であるモドキ達も交配を拒否する。
  世代が進むことによって精神と肉体に大きな負担がかかり、
  その結果として血統は途絶えていく。
  最初は大量に飼育されていたモドキ達も、目に見えて減って行くのさ。 』

なぜか身震いがしてきた。
しかし、それは先ほどの歓喜ではない、言いようの知れない……何か別の薄気味悪さを感じていたからだ。

『 しかし個体数は減少する一方、ほんの僅かな例外が存在する。
  とてつもなく低い確率…いわば奇跡的な存在さ。

  我々の仕事は……そのほんの一握りの奇跡を追う事なんだ…。 』





1階

フロア一杯に集められたモドキ達。大半が野良生活出身であり、そこが楽園であると信じて疑わない。


2階

施設で産まれたモドキ達。何時までも幸せな生活が続くと信じている。


3階

知能の高くなってきたモドキ達。他の生活を知らないため、施設の外に憧れ始める。


4階

四肢が伸びたモドキ達。施設内の職員に外に出たい、見たいと要望を出し始める。


5階

求愛を拒み始めるモドキ達。自分達がなぜ産まされたのか、その境遇に疑問を持つ。


6階

部屋で悲鳴を上げるモドキ達。更に高い知能と理性を併せ持つモドキ達が男達の欲望の捌け口となる。


7階

廊下は奇声を上げて歩くモドキ達。精神の病んだお腹の大きなモドキ達が施設内を彷徨う。


8階

2日に1匹は自殺をするモドキ達。首を吊るモドキ達のお腹は例外無く大きい。


9階

静まり返ったフロア

かつて騒がしかったモドキ達の姿は無い

住人の居ない空き部屋

いや…1匹だけいる

広々とした部屋の真ん中に椅子が一つ

何時もと代わり映えのしない外の風景

その中 既にモドキとは呼べない個体

椅子に座りお腹を撫でている

黒髪に僅かな亜麻色を残した頭髪

瞳は大きく鼻は高い

四肢は椅子に座るのに十分の長さ

お腹を撫でる手には五本の指

けれども痩せこけた頬

生気の無い青白い顔

この個体は我が仔を産むために全てを捨てようとしていた

そう 自分の生命さえも





『 ……そうして10年以上の歳月が費やされ、
  その間に莫大な費用、膨大な労力が投入される。
  そして更に数え切れないモドキ達の犠牲。

  しかし、その気の遠くなるような過程の果てに産み出される、
  数千の血統の割合に対して僅か1体だけ産み落とされる奇跡的な存在……それが第10世代だ。 』


男はズボンのポケットをまさぐり、一枚の古ぼけた写真を取り出す。

写真を見た途端に男の表情は柔らかくなった。

先までの憤りはみるみるうちに薄れていく。

しかし同時に哀しげにも見える。


俺の視点からでは何が写っているか見えない。

ここからでは何も見えない。

だが、その写真を知っている。

以前、俺は見せてもらったことがある。

男が見つめる写真に、誰が写ってるのか。

そう、男が見つめていたのは…





『 君は……あの10階フロアで飼育されているモドキが、どんな姿なのか想像できるか? 』







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