秋が深まる頃、ある野原に生息する実装石を駆除する計画が実行される事になった。 野原と言っても土地の持ち主が手入れを怠って雑草が茫々と生えてしまっていてとても中の様子が見れる状態では無い。 おまけに実装石達はその中心部あたりでコミュニティを築いているとの情報が出てきている。 別におとなしければ近隣の住人は何も言わなかっただろう。 しかし、実装石達は近所にあるゴミ捨て場を当たり前のように荒らしだした。 ゴミ捨て場には実装石対策として網がはられたりもしたが、賢い個体がいるのか簡単に突破されてゴミを荒らされていた。 他にも近隣の住居への侵入、近くを通りかかった子供を集団で襲い持っている菓子を奪うなど行動が目立つようになってきている。 水にいたっては近隣の住居の庭先にある蛇口を集団で器用にひねりペットボトルにいれて住処へと運んでいく。 住人が針金などで蛇口を回らないようにすると違う家の庭先へ移動するという行動を繰り返していた。 住人に見つかってもこの鬱そうと生い茂る野原に逃げこまれてしまう。 人間に取っては視界を奪うこの雑草群は生理的に嫌悪感を感じ、入るのを戸惑ってしまい結局逃げられてしまった。 この事態を重く見た自治体はこの野原の実装石を駆除する事を決定した。 以前からこの野原の持ち主は手入れを怠っていた。 それ故に野良実装達が近所や遠方の公園からダンボールを持って移住をしてきたのだ。 1匹住めば後は連鎖式で増えていく。 気がつけば一大コミュニティが形成されるまでに増えていた。 そして先の実装石達による迷惑行為。 近隣の住民が怒りをあらわにするのは当然だ。 持ち主に詰め寄るが知らぬ存ぜぬで適当に追い払われてしまう。 おまけに自分の土地だから何をしてもいいだろうと無茶苦茶な理論を出してくる。 こうして今まで住民からの苦情を適当に聞き流していた持ち主だった。 しかし、今回は勝手が違う。 住民では無く役所の人間が来たのだ。 おまけに弁護士付きで。 これには持ち主も適当に追い払うわけにはいかなくなった。 話を聞くと近隣の住民達が署名をし、この土地に住む実装石達の駆除を要請したとの事。 このままだと自分が近隣の住人達へ慰謝料を払う羽目になる事。 しかし、役人も鬼ではない。 持ち主にある提案を持ちかけてきたのだ。 —某日某時刻 野原の周りには作業服を着た人間が何人か集まっていた。 彼らは市役所の実装石駆除の担当者達だ。 今回の駆除は実装コロリや手作業でやると時間がかかるということなので短時間で尚且つ大量の実装石を駆除できる装備を使う事になった。 その装備とは草焼き用バーナーである。 背中のタンクから伸びたホースの先に口径のでかい筒がついている。 手元の引き金を引くと筒から炎が噴出され、標的を焼き尽くすのだ。 作業員達が野原の入り口から入り横一列に並ぶ。 近隣の住居への飛び火を防ぐために端の草を刈り取り、実装石が逃亡しないように金網で野原を囲んでいた。 野原の入り口に立つリーダー格らしき男が作業開始の合図を出す。 その合図で作業員達のバーナーに火が灯る。 そして発射口がまるで竜の口のように火を吐き始めた。 パチパチと音を立てて燃えていく枯れ始めていた雑草。 その音には実装石達も気がついていた。 「デ?何の音デス?」 「何か臭うデス」 まさか自分の住処が燃やされ始めてるとは思いもしないだろう。 次第に音が大きくなってきたので不審に思い始める個体も出てきた。 「こっちから聞こえてくるデス」 そういって雑草の間から顔を出す。 視線の先にはまるで獲物を待ち構えていたかのようにバーナーの発射口が向けられていた。 「デ、デ、デ…」 叫ぼうにも恐怖で口がうまく動かない。 そんな実装石を待たずに発射口からオレンジ色の光が舞い降りた。 「デギャァァァァァァー」 顔を焼かれた実装石が巣への方へと転がってきた。 服に点いた火が辺りの雑草を燃やし始める。 「デェェェェ!?火デス!!」 「逃げるデス!!」 「テェェェン!!」 「熱いデス!顔が熱いデスー!」 先ほど顔を焼かれた実装石が地面を転げまわって苦しんでいた。 「ワタシの顔!どうなってるデス!?」 もはや顔といえる形状ではなかった。 鼻腔は完全に焼け爛れて使い物にならず、目はすでに炭化している。 口も皮膚が焼け溶けて骨が見えていた。 すでに神経が焼ききれているのか痛みを感じていないようだった。 地面で突っ伏しているとそこに再び炎が降り注いぎ完全に息途絶えた。 同族達の叫び声が聞こえている中、ダンボールハウスに逃げ込んで閉じこもる個体も出てきた。 「早くお家に逃げるデス!」 一家の親はダンボールハウスへと仔達を誘導する。 だが、どうしても個体によって差が出始めてしまう。 ここでは足の速さに差が出ていた。 足が普通以上の速さを持つ者は何の問題なくダンボールハウスに入れた。 しかし、足の遅い個体が2体ヨチヨチと走る。 すでに何体かはハウス内に避難できた。 しかし、あの2体が入らない限りはハウスの入り口を閉めることは出来ない。 親実装は早々にハウス内に入りドアを閉める。 「テェ?」 「ママ?」 息を切らせて一生懸命走っていた仔実装達は目を丸くする。 家の入り口の前に到着した仔実装達はドアをポフポフと叩いて中にいる親実装を呼ぶ。 「ママー、開けてテチ」 「これじゃ入れないテチ」 だが、一向に気配は無かった。 「ママー!ママー!」 「火が怖いテチー!」 周りに響き始める仔実装の悲鳴。 その悲鳴を聞きつけた人間が近づいてきた。 ダンボールをたたき続ける仔実装を確認するとバーナーの狙いを定める。 放たれた火が仔実装達を包み込む。 「テギャァァァァァァ!!」 「ママァー!!開けてテチー!!熱いテチー!!」 外から聞こえてくる仔実装の悲鳴に開けたくなる衝動に駆られるが親実装は歯を食いしばって我慢した。 やがて声が聞こえなくなり仔が死んだと思った親実装はダンボールハウスのドアを開けてしまう。 そこには焼け焦げた仔実装の死体が2つとバーナーを持った人間がいた。 「デ、デ、デ、デ…」 親実装は恐怖で歯をガチガチ鳴らす。 ドアを閉めようと腕の筋肉を動かそうとするが恐怖で動くことが出来ない。 そして発射口から放たれた火がダンボールハウスを棺桶に変えた。 「テェェェン!ママァー!熱いテチー!」 服に火が付いた仔実装が親に助けを求めて駆け寄る。 しかし、親実装は燃えている我が子を蹴り飛ばして逃げ出した。 「テェェ!?ママ、どうしてテチー!」 「他の仔が燃えてしまうデス!お前はそこで燃え尽きるといいデス!」 「ママァー!!」 そういって親の元へ再び走り出す。 既に皮膚が熱で焼けて骨と筋肉繊維が見え始めている。 「熱いテチー!助けてテチー!」 「逃げるデスー!」 親実装は生き残った仔実装達を連れて走り出す。 その際に雑草に足を取られた仔実装が1匹転んでしまった。 「テチャァ!」 「デデ!?」 地面に転んだ仔実装に影が覆いかぶさった。 「タァースゥーケェーテェーテェーチィー」 全身を火に包まれた仔実装が転んだ仔実装に倒れこんだ。 「テギャァァァァァァァァ!!」 あっという間に全身を炎に包まれる仔実装。 「ハナザナイテチー!イッジョニイルデチ-」 「熱い!熱いテチー!ママァァァァー!!」 「デェェェェ!?」 燃え行く我が子と生き残った我が子を見比べると親実装は決断する。 生き残った仔を連れて走り出した。 「ママァァァー!?ママァァァァァァァー!!」 「イッジョデヂー」 やがて2匹は1つの炎となり燃え尽きた。 生き残った我が子を連れた親実装は必死に走る。 末っ仔を脇に抱えて残った仔は自力で走らせた。 「ママァー!待ってテチー!」 「置いてかないでテチー!」 「早く逃げるデス!燃えて死んでしまうデス!」 親実装は命がけで走り続けた。 後ろにいた2匹の仔実装がどうなったかも知らずに。 親との距離がどんどん離されていく仔実装2匹はあせっていた。 早く追いつかないと置いていかれる。 力が続く限り走り続けた。 しかし、それでも距離は離れていく。 「ママァー!」 親を呼ぶがこっちに振り向く事無く走り続ける。 そんな仔実装達の前に脇の雑草から飛び出してきた者がいた。 「ワタシの仔はどこデスー?」 全身を火に包まれて、目が見えなくなった成体実装だ。 「テチャァ!?」 「テェェェェン!」 飛び出してきた同族に驚いて声を上げてしまう。 その声を聞いた火達磨実装が仔の方へ顔向ける。 「ワタシの仔供ー!」 そう言って仔実装達に駆け寄ってきた。 「テェェェ!火!火テチー!」 逃げようとしたが走り続けていた足が動くはずもなかった。 そして、そのまま炎に包まれた腕に抱き上げられた。 「ワダジの仔デスー」 「テギャァァァァァ!アジュイ!アジュイデチー!」 「離してテチー!火がァァァァ!テジャァァァァァァァ!!」 火達磨実装が力尽きて倒れる頃には仔実装2匹は炭と化していた。 「何でデス!?何でワタシ達が燃やされてるデスー!?」 親実装は必死に走った。 脇に抱えた末っ仔を思いっきり抱きしめながら走る。 「ママァー、苦しいテチー」 親実装の耳には仔実装の声は入っていなかった。 ただ、生き残りたいという意思だけで走り続けた。 その為腕に力が入り仔実装の体を締め付けていく。 「ママ!ママ!お腹痛いテチ!イタイテチ!」 めりめりという音が仔実装の体を伝わって耳に聞こえてくる。 「ゲホ!ゲホッ!イギガデギナイデヂ…」 上半身を締め付けられていた為肺に必要な酸素が入ってこない。 加えて炎による酸素の消費が仔実装の息を困難な物にしていく。 「テヘェ…ヒィ……」 そして、仔実装は窒息死した。 親の脇に抱えられて頭と手足をダランと垂らして息絶えた。 そうとも気づかず走る親。 走り続けて仔実装がおとなしくなったのに気がつく。 「デ?どうしたデス?」 脇に抱えていた仔実装を抱き上げる。 しかし、その顔は苦悶の表情を浮かべ息途絶えている仔実装の顔だった。 「デェェェェ!?」 自分が殺してしまったとは気づかずに驚く。 しかも、立ち止まってやっと後ろを確認すると仔が1匹もいないことに同時に気がついた。 「仔供達がいないデスー!!ワタシの仔供達ガァァァァァ!」 仔が全員いなくなったことが解ると親実装は泣き出した。 「デェェェェン!仔がみんないなくなったデスー!」 探しに行こうかと思ったがこの火の海を逃げられるはずも無いと判断をし諦めた。 それに火の手が自分の方へ迫ってきている。 「デェェェン!!」 血涙を流しながら走り出す。 まだ燃えていない草を掻き分けて野原の裏を目指して走る。 野原の裏手には雑木林があったからだ。 「あそこまで行けば助かるデス!」 あの林の中なら人間達から姿を隠せる。 また、仔を作って幸せに暮らせる。 そんな幻想を抱きつつ走り続けた。 草むらの中に生えている包丁草で体に切り傷が出来るが、生きるために必死な親実装には気にしてる暇など無かった。 「もう少しデス!もう少しで安全な場所に逃げれるデス!!」 野原を抜けて雑木林の入り口が見えた。 「やったデス!これで逃げれデ!?」 ガシャンと音を立てて何かにぶつかった。 それは雑木林へ抜ける道を完全に塞ぎ、親実装の行く手を阻んでいた。 「コレはなんデス?」 ガシャガシャとソレを揺らすが動く気配は無かった。 それはこの野原の四方を囲むように設置された1m弱の金網だ。 事前に逃亡する実装石を出さないようにと設置されていた。 「何でデス!?どうして出れないデス!?」 親実装はパニックに陥り金網を揺らし続ける。 そんな親実装に近寄る影が数体いた。 カチャッという音を立ててバーナーの発射口を親実装に合わせる。 その音を聞いた親実装が恐る恐る振り返った。 「デェェェェェェェェェェ!?」 後ろに逃げようとするが背中に金網が当たって逃げる事すら出来ない。 人間たちが扇型の陣形を組んで親実装に近づく。 「嫌デス!!死にたくないデスー!!」 その叫びを引き金にいっせいにバーナーから火が噴出した。 「デギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」 あっという間にオレンジの火に包まれて体を焦がしていく。 数十秒と言う短い時間だったが親実装は消し炭と化した。 こうして駆除作業は終了した。 雑草で生い茂っていた野原は真っ黒に染まり草木一本生えていない不毛の土地となった。 しかし、数ヵ月後には再び雑草が芽吹き元通りになるだろう。 話を少し戻す。 役人が野原の持ち主に提案した内容。 それはあの土地を役所が買い取るという内容だった。 持ち主としてはあの土地を買ってくれるというのは嬉しい。 商談は二言三言で決まった。 役所の思惑はこの野原を撒き餌にする事だ。 野原が元通りになればまた実装石達が住みだす。 そして、また火で焼き払う。 野原には餌があるという根も葉もない噂を流しておけば実装石達も勝手に住み着くだろう。 そうすれば再びあの業火の饗宴が見られる。 役人は帰り道、自然とその顔がにやけてしまうのを感じていた。 そう、この役人は虐待派だ。 —数ヵ月後 雑草が生い茂る野原に一組の親仔が来た。 「デー、ここが安全な場所デス?」 「草がいっぱいテチ」 生い茂る草を掻き分けて野原の中心へ進んでいくと信じられない光景が広がっていた。 「デデ!?ダンボールが一杯デス!」 野原の中心地は雑草が踏み均されてダンボールが数個設置されていた。 しかも一つ一つが家として使えるように作られている。 もうすでに他の個体がいるのかと警戒する親実装。 「ママー、このお家誰もいないテチ」 「デ?」 他のダンボール内を確認すると確かに仔の言うとおり誰もいない。 どうやら自分達だけがこの場所にいるようだった。 「家が選び放題デスー」 親実装は喜んでダンボールを物色し始めた。 そして、気に入った家を自分の物として住み着いたのだった。 「きっとここが楽園デスー」 先ほど野原の入り口にゴミ捨て場があった。 網もかかっていないので簡単に取れる。 おまけにこの雑草群のお陰で外敵からも身を守れた。 だが、全ては人間の思惑通り。 ゴミ捨て場を野原の入り口に移したのは実装石達が住み着きやすい様にするため。 また、近隣の住居への侵入をしようとする考えを無くすためでもあった。 こうして住みやすい環境を整えて実装石達が増えるのを待つ。 そして、また駆除をする。 この繰り返しだ。 こうする事で近隣の住人に害虫の実装石達が焼け死ぬ姿を見せてストレスを解消してもらう。 今まで迷惑をかけていたのだから当然の報いだと住人達は思いこの宴に見入るのだ。 「やはりいい街づくりは住人の皆さんの意見を取り入れないとな」 そう言って次回の駆除予定日が書かれている書類を見てほくそ笑む役人だった。
