「今日も大漁デスー」 一匹の成体実装石が公園をボロボロになったビニール袋片手に歩いていた。 袋の中にはゴミ捨て場で拾った生ゴミや木の下で拾い集めた木の実等が入っている。 他にも愛護派が撒いた実装フードや金平糖もだ。 我が家で待つ仔の事を考えると歩みも速くなる。 「きっとお腹を空かせて待ってるデス」 仔が自分の持ってきた餌を食べる光景を思い浮かべると自然と笑みがこぼれてしまう。 そうしている内に家の前に到着した。 つっかえ棒がしてあるドアを開けると仔が迎えてくれた。 「ママ、お帰りなさいテチ!」 寂しさからか母親の姿を見た仔実装は母親に抱きついてきた。 「ただいまデスー」 そんな仔実装の頭をなでてやる。 頭を撫でられて親の愛情を認識したのか、目を細めて喜んだ。 「テッチューン」 親実装は餌の入った袋を降ろすと中から食べ物を取り出し始めた。 まずは野菜の皮。 白い大根の皮を仔に渡して自分の分を取り出し食べ始めた。 シャクシャクと音を立てて皮を齧っていく。 他にも人参の皮、ネギの使われなかった部分、キャベツの芯などを食べていった。 そして、メインの肉と魚。 フライドチキンの骨にこびり付いた肉、魚の骨に付いた身をしゃぶりつくように食べていく。 今日は思わぬ収穫もあった。 ゴミ捨て場を同属と漁っている時に生肉を見つけたのだ。 おそらく賞味期限がすぎ、腐り始めてたのを人間が捨てたのだろう。 それを同属達が取り合いを始め、壮絶な戦いが始まる。 親実装はその隙を付いて生肉を少量取ってその場を離れていった。 「うまいテチー」 生肉をむさぼる仔実装を見て親実装は微笑む。 今は仔実装一匹だけだったが出産当時には三匹いた。 最初の仔は出産直後に同属の仔食いに襲われ命を落した。 「テジャァァァァ!ママァー!助けてテチー!」 「デップップ、うまそうな仔デスー」 「デシャァァァァー!ワタシの仔を食べないでデスー!」 「安心しろデス!そっちの仔達もすぐに食ってやるデス」 親実装は決断を迫れられていた。 捕まっている仔実装を助けようと思ったが、相手の体格が一回り大きいので絶望的だ。 そして、親実装は最良で最悪の案を思いつき行動にうつす。 出産した仔二匹を抱きかかえると公衆便所から逃げ出したのだ。 突然の事で驚いたのは捕まっていた仔実装だった。 「ママァー!何でテチィ!?助けてテチィー」 「デップップ。お前見捨てられたデス」 「嘘テチィ!ママァー!」 「では、いただくデース」 仔食いの実装石が仔実装の足を口に入れる。 そして足を軽くかみ始めた。 足に歯の感触を感じたのか仔実装が足を動かし抵抗を試みる。 「デププ、口の中で足が暴れて活きが良いデッスーン」 仔実装にとっては必死だったが、仔食いにとっては口の中をくすぐられている様なものだった。 「テチャァァァァ!あんよ食べないでテチー!」 徐々に噛む力が強くなっていく。 やがて皮が裂け始め血が吹き出てきた。 「イタイテチィ!アンヨイタイテチィ!」 肉が裂けとうとう歯が骨まで到達した。 ゴリッという硬い感触が歯に伝わる。 仔食いは仔実装の顔を見てにやっと笑うと噛む力を最大まで強めた。 ゴキンという硬い感触が仔実装の下半身と仔食いの顎に伝わる。 「テギャァァァァァァ!!」 足が噛み切られた事により仔食いの口からずるりと解放される仔実装。 切断面と仔食いの口には血と体液が糸を引いていた。 仔実装は怯えきった目で自分の下半身を確認する。 そこには仔食いの涎と自分の血と体液が付着した太ももの付け根までしかない足が見えた。 断面は切れたというよりは千切れたという感じだった。 「アンヨガ…、ワタチノアンヨガァ…」 仔実装に痛みと絶望が同時に押し寄せていた。 だが、どうすることもできない。 ただ食われるだけという立場にある。 仔食いはその状況を楽しみながら食事をしていく。 手を食らい、耳を食らう。 その度に暴れて哀願する仔実装を見て楽しむ。 やがて、頭と胸部だけ残された仔実装は仔食いの胃へと収まっていった。 公衆便所から駆け出すとき背後から仔実装の悲鳴が響いた。 「ママァ!ママァァァァー!!」 「許してデス…!許してデス!」 親実装はただ涙を流し背後に振り返ることなく走った。 家に付く頃には全ての力を出し切ったかの様に倒れこんだ。 次の仔は糞蟲だった。 親の持ってくる生ゴミに文句をつける、家の中で糞を普通に漏らす。 親実装がいくら言いつけても一向に良くならなかった。 むしろ躾けようとすればするほど糞蟲化が進み、親と姉を見下すようになっていく。 姉実装と喧嘩をしてる所に親実装が来ればわざと大袈裟に泣いたり自分で傷を作り親に助けを求める。 そして姉が親に怒られるのを楽しんでいた。 「チププププ、オネチャは馬鹿テチ」 最初は親実装も姉が妹に暴力を振るっていたと思っていた。 が、次第に親も妹の行動を疑うようになっていた。 いつものように喧嘩の声が聞こえる家に戻ると親実装は忍び足で家に近づく。 そして窓用の穴から家の中を見て真実を知った。 そこには姉を足蹴にする妹がいたのである。 「チプププ、オネチャはワタチを殴りたいテチ?」 「や、やめてテチー」 倒れている姉の頭を足で踏みつけて笑う妹。 「殴りたければ殴るといいテチ」 グリグリと足に力をこめて姉の頭を地面にこすり付ける。 「そしたらまたママに言いつけてやるテチ」 親実装は知ってしまった。 今までのは妹の演技だと。 同時に姉を疑い叱りつけた事に後悔した。 親実装は決心をした。 あの仔は間引こうと。 翌日。 親実装に連れられて妹は餌探しに来ていた。 姉よりも自分が選ばれたと思い込んだ妹は蔑みの目を姉に向ける。 親実装は後で姉には甘いものをお土産に持っていこうと思った 初めて見る外の世界は妹にとっては刺激の強いものだ。 今までは狭いダンボールハウス内とその近辺しか知らなかった。 走る車、人間の家、歩く人々。 全てが新鮮に見えた。 親実装はいつもと違うルートを歩いていた。 意図的にそうしたのである。 これからこの仔実装をどうするかを親実装は決めていたのだ。 「テ!?」 妹の目にある建物が見える。 それはコンビニだった。 そこはカラフルな看板が目立つコンビニだった。 しかも実装石用品が売っているデーソンだ。 よくみると綺麗な服に身を包んだ飼い実装の姿も見えた。 妹にとっては衝撃的な光景だった。 「ママ!あのお家は何テチ?」 「あれはコンビニというニンゲンサンのお店デス」 「コンビニテチ?」 「そうデス。あそこでニンゲンサンが色々な食べ物を買うデス」 親実装はわざと食べ物と強調して妹に教えた。 この妹はその明るい店内に視線が止まっていた。 その横で親実装は何も言わず妹の横顔を見ている。 「さ、行くデス。もう少しで餌のある場所デス」 親実装は妹に先に進むよう促す。 だが、妹からは正反対の返事をした。 自分よりも綺麗に着飾った同属がいる。 憧れと嫉妬が同時に妹の中で生まれ始めていた為だ。 「嫌テチ!」 そういって親実装とは反対へ走り出した。 「デェ!?どこに行くデス!?」 「ワタチはコンビニに住むテチ!ニンゲンから餌を貢がせるセレブになるテチ!」 「戻ってくるデス!」 「ママは馬鹿テチ!ワタチの様な可愛いくてキュートな乙女はセレブになるのが運命テチ!」 「デー…」 親実装は声だけは妹をとめようとしたが足は決して動かなかった。 妹の姿がコンビニの方へと行ったのを見届けると親実装はコンビニから離れるように歩き出す。 「これでいいデス…」 親実装の足取りは心なしか寂しげだった。 「テッチ!テッチ!」 妹はコンビニを目指して走った。 あの中にあるおいしい食べ物を貪れる飼い実装になれるに違いないと勘違いをして夢中になって走り続けた。 「ワタチの物テチ!あの中のご馳走はワタチの物テチ!」 コンビニの駐車場に到着して目的地が近づいたことでテンションがあがっていく。 頭の中で先ほど見た飼い実装の服を着た自分の姿を思い浮かべる。 自然と顔がにやけてしまった。 コンビニの駐車場に到着する頃には妹の服は汗と涎で汚れていた。 そんな自分の姿など知らず、妹はコンビニの入り口へ向かい走り続ける。 このコンビニの自動ドアは実装石でも開くようにとセンサーが低い所にも設置してあるので仔実装くらいでもドアを開けることが出来るのだ。 妹は勝手に開くドアを下僕が開けていると勘違いをして更に優越感に浸る。 そして店内にある実装石用お菓子の陳列棚の商品に手を伸ばそうとしたその時。 —バシン!! 乾いた音が店内に響く。 妹は突然の痛みと衝撃で吹飛ばされた。 「テチャァ!」 妹が何事かと思い顔を上げると、そこには実装タタキを持った店員が立っていた。 妹は知らなかったのだ。 このコンビニでは野良でも買い物ができる。 ただし、野良であろうと飼いであろうとも先に店員に所持している金銭を見せて確認させないと、店内の商品を触る事はおろか見ることも出来ないのである。 過去に店員の目を盗んで万引きをした実装石がいたので、対策として考えられたのがこの方法だった。 妹はいきなり商品に手を出そうとしたのでタタキで叩かれたのだ。 「何するテチャァァァァ!」 妹は突然叩いてきた店員に威嚇し始める。 しかし、店員はそんな威嚇を無視して叩き続けた。 —バシン!バシン! 店内に叩く音が木霊するが、客達は気にせず買い物を続ける。 それだけこの光景が日常的なのだ。 「痛いテチ!痛いテチー!」 次第に服が破れ始めてきた。 叩かれた際に髪も少し千切れ、ボサボサになっていく。 下着もパンコンをしてこんもりと緑色に膨れていた。 「許してテチー!ごめんなさいテチー!」 叩くのを止めない店員にとうとう恐怖で謝りだした。 目からは血涙を流し、すでに下着はパンコンで汚れて膨らんでいる。 そんな妹を店員は専用のトングで掴むと床に垂れ落ちた糞をふき取るように仔実装を擦り付ける。 「テチャァァァァ!臭いテチ!止めてテチー!」 店員はある程度床の汚れが落ちた所で外へと放り投げる。 「テビィ!」 放り投げられて妹は顔面から地面に落ちた。 顔面を打ち痛みで苦しんでいる妹の耳に声が聞こえてきた。 「チプププ」 「惨めテチ」 「哀れテチ」 「チププププ」 声のする方へ顔を向けると4匹の飼い仔実装がいた。 この仔実装達はこのコンビニに集まって雑談をするのが日課にしている近所の飼い仔実装だ。 飼い主の家が近所同士だったのでこの飼い仔実装達も知り合いだった。 そして、今日もこのコンビニで雑談をしにきたのである。 そこに妹が店員に追い出されるという場面に出くわした。 彼女達にとってはいい話のネタである。 「見るテチ。あのぼろぼろの服」 「哀れでみずぼらしいテチ」 「髪もボサボサで汚いテチ」 「ニンゲンサンに追い出されてるテチ」 妹の汚れた服とぼろぼろの髪を見て笑い出す飼い仔実装達。 そんな4匹の言葉に妹は顔を真っ赤にして怒り出す。 「テシャァァァァァ!!黙れテチ!パーフェクトでプリティなワタチを笑うなテチ!!」 鼻息を荒げて抗議する妹。 一瞬飼い仔実装達が黙るがすぐに笑い声の合唱が始まった。 「「「「テピャピャピャピャピャピャピャ!!!!」」」」 4匹同時に笑い出した。 よほど面白かったのか地面に転がって笑う者や地面を叩きながら笑う者もいる。 この光景を見て妹は馬鹿にされていると理解した。 「お前本気で言ってるテチ?」 「鏡を見ろテチ」 「糞まみれの臭い服テチ」 「髪も臭いテチ」 飼い仔実装達からの指摘で改めて自分の体を見る。 服は糞の水分と臭いを吸って深緑になり異臭を放っていた。 顔と髪には緑色の糞がこびり付き強烈な異臭が漂う。 「テェェ!?臭いテチー!!」 言われるまで気がつかなかったのか鼻に入ってくる異臭に驚く。 その様子が更に飼い仔実装達の笑いに拍車をかけた。 「テヒヒヒヒヒ!」 「テピャピャピャ!」 「は、腹がよじれるテチー!」 「テプププ!息ができないテチー!」 「テシャァァァァ!わ、笑うなテチー!」 妹は笑い続ける飼い仔実装達に威嚇するが聞こえてる様子は無かった。 笑い続ける飼い仔実装に怒りを感じ、4匹の輪へと走り出す妹。 「テチャァァァァァ!お前らぶん殴ってやるテチ!!」 勢い良く走り出したが近づくにつれて足の動きが遅くなっていく。 「その顔をボコボ…、コに…?」 近づいて解ったのが体格の差だった。 かたや公園で質素な食事で生きる為に最低限必要な栄養しかとっていない仔実装。 かたや飼い主の家で栄養たっぷりの食事を続けてきた仔実装が4匹。 あきらかに分の悪い状況だ。 しかし、宣戦布告した後でもう手遅れであった。 「テ、テェェェ…」 すっかり怖気づいた妹。 だが、そんな状況でも飼い仔実装達は妹を許すつもりは無かった。 飼い実装である自分達にたてついた野良を見逃すわけもない。 その顔は怒りで皺が出ている。 「誰をどうするテチ?」 「もう一回言ってみろテチ」 「お前覚悟は出来てるテチ?」 「絶対に許さんテチ」 だが糞まみれの体に触れる者はおらず妹から距離を取っている。 その状況に気がついた妹は自分に手出しできないと解り小声で笑う。 「チプププ」 その声が飼い仔実装の耳に聞こえたため、4匹の怒りは更にヒートアップする。 「テシャァァァァ!ぶっ殺してやるテチ!」 だが、手を出せないのは相変わらずだった。 そんな状態が続いている時に人間達の声が聞こえてくる。 「あー、アイスうまかった」 4人の子供が食べ終わったアイスの棒をゴミ箱に捨てに来たのだ。 そんな子供の持つアイスの棒を見た飼い仔実装が人間にアピールし始めた。 「ニンゲンサン!そのアイスの棒をくださいテチ!」 ピョンピョンとジャンプして話しかけてくる仔実装に子供達も気がつく。 「なんだ?こいつら」 「飼い実装じゃん」 「この棒が欲しいって?」 「あげれば?どうせ捨てるんだし」 そう言って4本のアイスの棒を飼い仔実装達に渡す。 各々が棒を持ちお礼を言って妹の方へと振り返る。 妹が何事かと様子を見ている顔に横からアイスの棒が打ちつけられた。 「テピャアァァ!」 横から殴られ吹っ飛ぶ妹。 その様子を見て笑う飼い仔実装達。 人間の子供達はアイスの棒を渡し終えると何事も無かったかの様にコンビニの店内へと入っていった。 「テプププ、これならお前に触らなくて済むテチ!」 「よくも馬鹿にしてくれたテチ!」 ペシペシと叩いているようにしか見えないが仔実装にとってはかなりの痛みらしい。 叩かれている肌が赤く染まり腫れだした。 「テェェェェェン!痛いテチ!許してテチ!」 痛みでうずくまってしまうが容赦なく棒を撃ちつけられる。 叩かれ突かれ続ける内に脳裏に母親が浮かぶ。 「ママァァァー!助けてテチー!」 ママと言う単語に一瞬反応し辺りをキョロキョロと見回し警戒し始める。 しかし、誰も来ないとわかるとリンチを再開した。 「ママァァー!なんで来てくれないテチ!?」 必死に母親を呼ぶが来る気配は無い。 そんな必死な仔実装を見て飼い仔実装達は言葉で弄りはじめる。 「お前捨てられたテチ」 「お前のママはお前の事いらないテチ」 「捨て仔テチ、捨て仔テチ」 「お前はもう一人ぼっちテチ」 「嘘テチ!嘘テチィィィィィィ!!」 耳を押さえて飼い仔実装達の言葉を聴かないようにするが無意味だった。 やがて叩き疲れたのか4匹は叩く手を止めた。 その隙に妹は力を振り絞って走り出す。 「あ、逃げたテチ!」 「もういいテチ。放っておくテチ」 「いい運動になったテチ」 「お片づけするテチ」 走って逃げ出した妹を放っておいて4匹は協力してアイスの棒をゴミ箱へと捨てた。 「テッチテッチテッチ」 腫れた体が痛むが妹は必死で走った。 「帰るテチ!ママの所に帰るテチ!」 コンビニの駐車場を抜けて道路へと飛び出す。 ヨチヨチと走るが反対側へ抜けるのには遅すぎる速度。 そんな妹へと一台の車が近づく。 「帰ったらオネエチャンを苛めるテチ!ストレス解消チベェァ!?」 タイヤにつぶされ地面の染みに変わり果てた妹。 妹を轢いたのに車の運転手が気づいたのは自宅へ帰宅した後だった。 こうして親実装は1匹の仔を失い、1匹の仔を間引いたのであった。 今は1匹しか残っていないが、2匹と比べて賢く親の言うことも良く効くいい仔である。 親実装は愛情をこの1匹に全部注ぎ込んだ。 次の日も親実装は餌探しに出かけた。 「ご飯探してくるデス。おとなしくお留守番してるデス」 「ハイテチー」 親が出かけてからしばらくして姉実装が外の様子を確認し始める。 ダンボールに開いた穴兼窓から両目を動かせる範囲でギョロギョロと動かし様子を伺う。 「もう行ったテチ?」 窓から顔離してハウスの中央にごろんと寝転がる。 「馬鹿な親を持つと大変テチ」 親がいなくなった途端、親に対する悪態をつきはじめる。 この仔は確かに賢かった。 しかし、それは自分の本性を隠すための賢さ。 妹よりも賢くふるまい、わざと苛められている様に親に見せる。 そうする事で計画通りに妹は間引かれた。 親実装とは別れて人間に飼われたいと思っていた姉だったが今のままでは公園での生活もままならない。 そこで、仕方なくしばらく親実装の愛情を受けることにしたのだ。 今は小さいが大きくなったら親実装とは縁を切って人間の住む所へ行こうと考えていた。 そうこう考えていると腹の虫が鳴る。 親実装が餌を探して帰ってくるのは早くても昼過ぎだ。 その為、仔実装である姉は飢えを我慢しなかればならない。 しかし、それは先日までの事だった。 「お腹減ったテチ。おやつ食べるテチ」 そういうとハウスから出てハウスの周りを歩き始めた。 そして手ごろな小石を見つけるとハウスへと戻っていく。 小石を片手にハウスの隅へ行き、そこにある枯葉をどかし始めた。 枯葉がある程度どかすとビニールがしかれた穴があった。 そこには実装フードや色とりどりの金平糖や飴が入っている。 姉は底から金平糖を一つ取り出すと底の方へ小石を入れて上からフードや金平糖を乗せていく。 「今日は甘々金平糖テッチューン」 枯葉を元通りに戻しすと、ハウスの中心に座って金平糖をしゃぶり始めた。 実はこのフードや金平糖は親実装が集めた物だ。 餌を取ってきた親実装が食事が終わり姉を昼寝させると隅の穴へと入れていた。 その光景を寝たふりをして見ていた姉は勘違いをする。 「あれはきっとママがワタチに内緒で食べる物テチ」 そうして次の日からそこから餌を出して食べ始めた。 頭が賢い姉は抜き出した餌の分だけ小石を底に入れていく。 こうすることで餌が減ったと親に感づかれない様にするのである。 「カリカリフードうまいテチ」 「金平糖甘々テチー」 「この甘々スースーするテチ」 親実装が帰ってくるまで食べ盛りの仔実装は餌を食い続ける。 この行動をし始めて一週間経つがいまだに気がつかれていない。 親にばれていないという認識が仔実装の行動に拍車をかけていく。 だが、いくら賢い仔実装とはいえこの餌がいつまでもあるとは気がつかなかった。 これらの餌は親実装が公園に餌を撒きにくる愛護派の人間から得たものである。 しかし、100%餌がもらえるとは限らない。 自分が外のゴミ捨て場で餌を探している間に撒きに来ている事もあった。 たとえ餌を手に入れても他の同族からの攻撃にあい、餌を奪われることもある。 そんな中で手に入れた餌を親実装は大事に少しずつではあるが貯めていった。 将来もしもの事があった時、仔の為の非常食として。 だが、そんな事とは知らず姉は餌を食べ続けた。 しかし、賢い仔実装はある程度食べると食べるのを止める。 窓から見える太陽の位置で親が帰ってくる大体の時間を覚えていたのだ。 「ただいまデスー」 親実装が帰ってきたので食事の時間が来た。 しかし、出てくるのは生ゴミばかり。 自然と目線が親実装の持つビニール袋へと移ってしまう。 だが、我慢して食べればまた明日あの甘いのが食べれる。 姉は我慢して生ゴミを口へと運ぶ。 フードや金平糖の味を知ってしまった姉にとってはまずいとしか言えなかった。 ある意味姉にとっては苦しい時間だった。 そんな生活を続けている内に非常食の量が減り始めていた。 ここのところ愛護派が餌を撒きに来なかったのでフードや金平糖が手に入らないのである。 姉はあせっていた。 このまま食べていくと確実になくなり親実装にばれる。 そうすれば糞蟲とみなされハウスから追い出されるかもしれない。 食べるのを止めればいいのだが一度甘美なる味を覚えた口が止まるはずもなかった。 いつもの様に小石を取りに外に出て家に戻ろうとした時、頭に水滴が落ちてきた。 「テ?」 雨が降ってきたのだ。 パラパラと振ってきた水滴はやがて本降りとなる。 「テチャァ!家に逃げるテチ!」 家に入っていつもの様に餌を食べる。 石をつめようと穴を見たとき姉は絶句してしまう。 そこには金平糖は無く、フードが3粒ほどしか残っていなかった。 「テェェ、甘々無くなったテチ」 だがそんなことより親実装への言い訳だ。 食べたなんて言ったら何をされるかわからない。 姉は頭をフルに回転させて考えた。 そして考え付いたのが 「知らないオバチャンが来て食べていったといえば平気テチ!」 どう聞いてもつじつまが合わない言い訳だった。 それでも安心した姉はいつもの様に親実装の帰りを待った。 数時間後、親実装が全身を雨に濡らして帰ってきた。 「ママ、おかえりなさいテチ」 いつもの様にいい仔にしてたふりをする。 だが、親実装の様子がおかしかった。 体の所々から血液が流れ出て床に落ちていく。 どうやら、同族食いに遭遇して命からがら逃げ出してきたようだった。 「ママどうしたテチ?」 姉はまだいい仔のふりをし続けている。 親実装は何も言わずにハウスの床に倒れこんだ。 「よく…、聞くデス…」 かすれている声で弱々しく話始める。 「ワタシはもうダメデス…」 自分の体が限界なのを感じ姉に遺言を話しはじめる。 姉にはわけがわからなかった。 「お前だけは生きて欲しいデス…」 もう目がかすんでいるのか天井を虚ろな目で見ながら話す。 「あそこの葉っぱをどかすデス…」 姉はその言葉にぎくりとした。 そこの葉っぱの事は姉はすでに知っている。 「そこにご飯が入れてあるデス…。それを食べて生きるデス…」 仔実装は脂汗をダラダラとかき始めた。 「お前のためにいっぱい集めたご飯デス…。生きて人間に飼われるデス…」 もうフード3粒しかない非常食で生き残るのは不可能だった。 姉はあせった。 餌が無い、親もいない。 圧倒的に絶望的な状況だった。 「ママァ!!ママァァァァァーーーー!!」 「生きる…デス…」 親実装はそのまま動くことは無かった。 「どうすればいいテチ!どうすればいいテチ!」 今までの自分の行動がしっぺ返しされてきた。 たった3粒では明日はおろか今日を生きられるかも解らない。 姉はいつもの様に頭をフル回転させて考えた。 しかし、死が迫ってる状況でまともな考えがまとまるはずも無い。 ただ泣き叫んでハウス内を走り回るしかなかった。 「ご飯!ご飯が無いテチィ!」 姉は運が悪かった。 親実装が仔に対して過保護すぎたのだ。 ある程度育ってきた仔実装には餌を取る場所を教えておく。 しかし、親実装は初めての出産後2匹の仔を失った悲しみがあった為最後の仔は過保護気味に育ててきた。 故にこの仔実装は餌取りはもちろんの事、公園での生活の知恵は何一つ教えられてこなかったのだ。 ドアを開けようと手で押す。 しかし、振り出した雨によってぬかるんだ地面が泥を作り出し窪みに水を溜めてドアを止めてしまっていた。 非力な仔実装にとってはドアを地面に打ち付けられたかのように動かない。 「開かないテチ!開けて!開けてテチィィィィ!」 ドアを押したり引いたりするが泥のせいで開く事が無い。 ハウス内に閉じ込められたという現実が姉の頭に広がっていく。 「助けてぇ!助けてテチィィィィー!」 叫んでいた為か外に気配を感じた。 「デ?仔の声が聞こえるデス」 「!!」 成体実装石の声が聞こえてきた。 「開けてテチ!助けてテチ!」 「何やってるデス?ドアくらい開けられるはずです」 成体実装はドアの前に移動しようとしたが泥水が溜まったドアの前を見て止まってしまう。 「デェェ…、汚れたくないデス」 「テェェェン!ここから出して欲しいテチィ」 しばらく成体実装はドアの前で考えていたが、自分に得が無いと結論を出すとダンボールハウスから離れていってしまった。 何も音がしなくなった為姉はあせった。 「テェ!?誰もいないテチ!?」 雨がダンボール染み込み天井から水滴が落ちてきた。 「テヒャァ!?冷たいテチ!」 次第に床にも水溜りを作っていく。 やがて床全体が水で覆われると仔実装は水溜りにより体温を奪われていく。 「助けてテチィ…」 ドアを叩きすぎて内出血を起こした手でドアをたたき続ける。 そのたたき方ももはや力が無く撫でている感じになっていた。 「誰かァ…助けてテチィ…」 限界が来たのか水がたまった床に跪く。 しかし、草むらに隠れるようにしてあるダンボールハウスには誰も寄り付かなくなった。 数ヵ月後。 駆除と公園の清掃が同時に行わ1つのダンボールハウスが発見された。 茂みに隠れるように置かれたダンボールを手に取った作業員が持ち上げた際にカサカサという音が聞こえたので箱を開けてみる。 そこには実装石親仔の白骨と粉末となった実装フードが混ざり合っていた。
