『公園の日』 飼い実装のアリサは、男の家に飼われてもう半年が経つ。 仔実装の頃、男の家の庭先で保護されて以来、男の家で暮らして来た。 野良出身であるが、アリサは賢い実装石であり、この家のルールを遵守して暮らして来たつもりだ。 飼い主である男は、そんな聡いアリサを愛しく思い、大事に育ててきたつもりだ。 飼い実装とルールと言っても、そんな特別なことじゃない。 1日3食の食事。玩具の時間。お風呂の入り方。 夜更かしはせず台所の隅のダンボールハウスに入り、朝は男よりも早く起きて 自分が食べる朝食の食器の準備をして、チョコンと座り男が起きるのを待つ。 そんな特別なことじゃない。実装石にとっては、とても難しいことだが、男もそう難しいことを 要求したつもりはない。 アリサはない頭を駆使しながらも、この家の飼い実装としてのルールを理解し、遵守してきた。 そんなアリサが大好きな習慣がある。 それは週末の公園への散歩だ。 基本的に部屋飼いであるアリサは、男が仕事中は24時間、家の中に篭る。 男がいない間は、与えられた積み木や絵本で遊んで時間を潰すが、やはり飽きて来る。 そんな遊びに比べて、公園の散歩はとてもとてもアリサにとって新鮮なものだった。 デッスゥ〜ン♪ デッスゥ〜ン♪ 公園でリードを外されて、自由一杯に駆け回るアリサ。 元・野良ではあるが、野良だった頃は物心つかない仔実装の頃だ。 ほとんど純正の飼い実装に近いアリサにとって、この公園の野生的な環境はとても刺激的でエキサイティングなのだ。 デスゥ〜? 公園の花壇に咲く花々を見て、首を傾げるアリサ。 ない指でチョコンとつついて、デププと笑う。 普段みない他の実装石も、この公園では会える。 デッデロゲ〜♪ デッデロゲ〜♪ 両目が緑の妊娠実装石のお腹を擦り、胎教の唄を歌うアリサ。 頬を赤らめ、いつか自分の母になることを想像しながら、デププ デププと笑う。 デス? デスデェース!! 何かに気づき、ベンチで缶コーヒーを飲む男の下へと駆けてくる。 デスデェース!! 男のズボンを引っ張り、何かを指差している。 そのアリサの指の先には、よくこの公園で出店を開いているアリスクリーム屋。 アリサはここのアイスクリームが大好きなのだ。 毎日要求されれば、それは閉口ものだが、それは週1の娯楽である。 男は一番小さいアイスクリームを購い、それをアリサに与える。 ングッ!! ムグッ!! ピチャッ!! アリサは夢中でアイスを両手で頬張る。 口の周りはもちろん、前掛けも実装服もアイスでベトベトだ。 デー… 食べ尽くしたアイスの殻を見つめて、デーと鳴くアリサの口をティッシュで拭いてあげる男。 「さ、帰るぞ」 再び男にリードで引かれ、公園を後にするアリサ。 また来週。また来るからね。アリサはリードに惹かれながらも、後ろ髪を引かれる思いで、 チラリチラリと小さくなる公園を後ろ見に見ながら家路についた。 ◇ そんなある日、男の仕事に都合がついた。 いつもは平日遅くまで働き詰の男なのだが、その日は偶然ぽっかりと仕事の都合がついた。 溜まり溜まった有休を消化するためにも、男はその日会社を休むことにした。 「アリサ。明日、会社が休めることになったんだ」 会社から帰った男がアリサに言う。 よっぽど嬉しかったのだろう。 仕事のことをアリサに話すことなどない男が嬉しそうにそう言った。 デス〜? アリサは何の事だかわからず、ただ首を傾げるだけだった。 「明日は家でゆっくりしよう。そうだ。時間があれば公園にも連れてってやるぞ」 デスゥゥッ!? 「ははは。現金にやつだなぁ」 デスゥゥゥゥゥッ!! デスゥゥゥゥゥッ!! 「公園」と聞いたアリサは嬉しくて、居間の中を大声で走りまわった。 「公園の日」は、1週間の1回。まだ何日も待たなければならないのに、 明日「公園」に行けるなんで夢のようだ。 デッスゥゥ〜〜ン♪ デッスゥゥ〜〜ン♪ アリサは台所のダンボールハウスに向かい、毛布の中からお気に入りのケロピーのポーチやら、 道で拾った宝物のビー玉やらを取り出したり、明日の公園の準備に躍起だった。 よかった。喜んでくれて。 男も休暇を取った喜びをアリサを共有できて、満更でもない顔でその日は休んだ。 久しぶりの遅寝。 男は頭を掻きながら、花まるマーケットを見るなんでいつぐらいぶりか。 そう思いながら、遅い朝食とコーヒーを口にしていた。 デスゥ〜〜… 「お、アリサ。珍しいな。おまえが寝坊だなんて」 眠気眼で台所の隅のダンボールから起き出すアリサ。 おそらく興奮で眠れなかったんだろう。他所行きのピンクの実装服にケロピーのポーチ。 どうやらその格好のまま、昨日は眠ってしまったらしい。 「まったく、気の早い奴だ」 男はそう言いながら、身支度をしてアリサを公園に連れて行こうとした矢先だった。 デェ〜〜… クシュンッ!! 「…どうした?アリサ」 デェー… 見ればアリサがくしゃみをして、べっとりと鼻水を垂らしていた。 よく見れば顔も赤い。近くに寄ると、デーデーと息も荒い。 「アリサ… おまえ」 男がアリサの額を触ってみると、それは焼けるように熱かった。 「おまえ。熱があるんじゃないのか!!」 ◇ デスゥ〜〜ッ!! デスデェ〜スッ!! 「駄目ったら、駄目だ!!」 アリサがリードを持って玄関の前で大声で鳴いていた。 「公園は駄目。今日は一日、寝てなさい!!」 デスッ!! デスデェースッ!! 顔を左右に振って、男の命令を拒絶するアリサ。 デスゥ〜!! デスゥ〜!! ぺしんぺしんと玄関と叩き、リードを男の方へ持って行っては、また玄関の扉を叩き続ける。 「アリサッ!! おまえは熱があるんだ。家で寝てなさい」 デェェェェーーンッ!! デェェェェーーンッ!! 楽しみにしていた公園を反故にされたためか、アリサは玄関で足で地団駄を踏み、 公園に連れて行けと抗議をする。 「馬鹿ッ!! 別に意地悪してるんじゃない。おまえ、熱があるんだぞ!!」 デェックッ!! デェックッ!! デズァ〜〜ッ!! 「駄目ったら駄目だっ!!」 男はアリサの要求を拒絶し、そのまま居間に戻ろうとする。 デッ!? デスンッ!! デスンッ!! 居間に向う男の後ろをトテトテと駆けながら追いかけるアリサ。 手に持つのはリード。それを廊下に引き摺りながら、必死に公園に連れて行けと強請るアリサ。 デー… デー… 「ほら。顔が赤いじゃないか。今日は大人しく寝ていなさ…」 デゲェェェェ〜〜ッ!! デゲェェェェ〜〜ッ!! 駆ける途中で、いきなり嘔吐をするアリサ。 デェックッ!! デェックッ!! デズアァ〜〜ッ!! 吐瀉物まみれになったピンクの実装服で、男のズボンにすがり寄る。 そして、リードを男の方へ突き出し、口からデボッと黄色い胃液を吐きながら、 しきりに玄関の方を指差すのであった。 「馬鹿野郎ッ!!」 デッ!? 「アリサッ!!」 デデッ!! 「寝なさいッ!!」 デェックッ!! デェックッ!! 「大人しく寝てなさいッ!!」 デェェェーーンッ!! デゲェェェ〜〜〜ッ!! その日、夕方までしつこく男に食い下がったアリサだが、5回目の嘔吐でついに目を回し、 その場に青白い顔で痙攣するように倒れこんでしまった。 その夜、アリサはひっそりと息を引き取った。 (終わり)
