実装石の日常 渡り ここまでのお話 双葉児童公園は愛護派の餌付けと放置で野良実装の増加と飢餓が起こる。 親実装は生き延びるため今の公園を捨て、家族を引き連れ新天地となる公園を目指す「渡り」を決行。 だが公園はあまりに遠く旅路は危険が多い。 渡りの一家 親実装:仔実装を生き残らせるため非情に徹する…? 長 女:生存 次 女:3女を救うため轢死 3 女:生存 4 女:生存 親実装への反抗を扇動 5 女:渡りに参加できない蛆ちゃんとダンボールに残って生き延びようとするが、わずか数分で食い殺される 6 女:猫に襲われた傷が元で死亡 7 女:生存 8 女:はしゃぎすぎて体力を浪費、渡りから脱落 9 女:レストランのゴミ捨て場に残留して死ぬ 番 外:蛆ちゃん 5女と共に家族から見捨てられたがそれも理解できず食い殺される 渡りを始めて5日目の夕方、親1匹仔4匹となった一家は神社に潜り込むと、 雨に濡れていない大きな木箱を境内のすみに見つけられた。 あたりは草もあまり刈られておらず、放置気味であった。 その近くの地面には消えかかっているが直径1mばかりの円があり、その周囲にはやはり消えかかっている緑と赤のシミが あちらこちらに散っていた。 一家が知るはずもないが夏祭りに毎年繰り広げられた仔実装の死闘の名残りである。 「今夜はここで休むデス」 横に口が開いている木箱はひと一人がなんとか入れるほどの大きさだ、一家には大きすぎるほどである。 「7女、よく帰って来たデスー。ママは嬉しいデス」 頭を撫でてやると7女は親実装に抱きつく。 「怖かったテチ、すっごく怖かったテチ」 「お前は生きて帰ってきただけでなくて、ニンゲンさんに手助けまでしてもらえた切っ掛けになったデス」 小さな袋を持ち上げる。一家に残された唯一の食料。 「これもお前のおかげデスー」 得意げな7女の前で開封すると親実装は数粒づつ仔に手渡す。 「お前たちもみんな良くがんばったデス。新しい公園まで、すぐそこデス。一日くらいの距離デス」 そう、新天地はもう手が届く。 一家の助けになった7女はある意味ヒーローだ、長女と3女は憧れるような目で、4女は妬むような目で見る。 その7女は晴れがましい顔つきである。 「しっかり食べて、明日は新しい公園に着くデス。 そうしたらダンボールを探すデス、ゴハンがある場所を探すデス。 タオルを探すデス、ペットボトルを探すデス。きっと住みやすい公園デスー」 苦労した分、つい期待も大きい。緑豊かで優しい人間ばかりという願望が肥大化していた。 夢語りを聞きながら、大粒のフードをカリカリ食らう仔実装たち。 親実装は思う。 ……あの難所を生き抜けたのだから、もう大丈夫。きっとこれからも生きていける。 そう。あれほどの難所を踏破したのだからもう怖いものなどない。 自信をつけた親実装にテチテチ4女が寄り添う。死を実感した恐怖がまだ抜け切らないのか、親実装の体温を求めている。 ……今夜だけは甘えることを許そう。 公園につけば忙しくなり、満足な相手も出来ないだろうと考えると多少甘えるのは受け入れられる。 カリカリと実装フードを口に運びつつそう思う親実装である。 雨雲は夕焼けの中消え去っていく。山陰に沈み行く夕日が一家を照らす。 「……日が沈むテチ」 3女が呟くと家族全員が沈み行く太陽に見とれた。 見渡す限り夕焼けに染まった世界。 峠越えに成功した一家には感慨深いものがある。 ************************************* 「あのね、あのね、ママ。私グリューンちゃんとお友達になったテチ」 テチテチ3女が親実装に知り合ったグリューンの話をする。 飼い実装と話したのが初めてなのだ、嬉しくてしょうがないらしい。 3女よりずっと幼い仔実装であったが飼い実装である、大人しく礼儀正しかったであろう。 「また会いたいテチ、それに私もああいう実装石になりたいテチ」 楽しげに夢を語る3女であった。 もう公園がもうすぐだと思うと嬉しくて、親実装も笑みがこぼれてしまう。 7女も助かり難所は越えた。 親実装はにこにこしながら仔に早く休むよう命じた、なにしろ雨の中歩いて体力を使っている。 親実装が奥の板に持たれると、4匹も左右にわかれて眠りにつく。日ももう落ちていた頃だ。 疲れ果てすぐに寝入る一家が、境内に近寄る小さな影に気づくはずもなかった。 親実装がもぞもぞと動く気配にまぶたを開けると、7女が起きようとしている。 「どうしたデス」 「おトイレしたいテチー」 「箱の外でするデス」 「はいテチ」 「……」 2匹の声で目が覚めたのか、4女も起き上がる。 小さな体で2匹がテチテチ入り口まで歩いていき、おもむろにパンツを脱いで尻を外に向ける。 なにか、動いたように感じた4女が暗闇に目を凝らすと二つの輝く瞳があった。 それがうごめいて自分に迫る! とっさに4女は7女を引き寄せて自分の盾にした。 「テ」 小さな声に親実装は顔をしかめた。排泄する時にしてはおかしな声だ、よく見ると7女は空に浮き頭から血を流している。 黒い、真っ黒なネコが頭から7女を咥えていた。4女は這いつくばりながら、親の足元へ逃げてくる。 「デスゥ!!!!」 絶叫して親実装が立ち上がると物音に驚いて長女と3女も目を覚ます。 野良猫は頭から7女をくわえてじっと渡り一家を見ている。 これほどまでの距離までネコに迫られたら、普通の実装石ならパニックだ。 逃げ惑い悲鳴をあげパンコンし……。 しかし、この一家は違う。五日間の苦労と峠越えですっかり自信をつけている。 じろり、とネコを睨む親実装。3匹もネコを睨みつける。 「デジャアアアアアアアアアアアア!」 「「「テチャアアアアアアアアアアアア!」」」 一家が揃って歯を剥き出しにして声の限り威嚇する! 黒猫がその美しい瞳で睨み返すと、 ブリ、とパンコンする親実装。続いて長女・3女・4女とパンコンしていく。 仔実装たちは顔を引きつらせ全身を硬直させている。 ……しょせん実装石である、ネコの敵ではない。 小さな彫像と化した3匹はともかく、親実装はなお諦めない諦めきれない。 「ここまで来て仔を盗られてたまるかデーーーース!」 ネコを追い払ったことを思い出し、木箱の中の木屑を拾うと全力で投擲した。 ペチ どうしたことか、珍しくネコの背中にとどき当たった。 「や、やったテチ!」 硬直からとけた長女がこぶし?を振り上げて歓声をあげる。 「……ち、ちょろいもんデスー!」 「…………」 ネコはつぶらな瞳で親実装を見ると、そっと獲物の7女を地面に横たえる。 仔実装はぴくぴくと痙攣しているので、死んではいないようだ。 「よし、この辺で勘弁しておいてやるデスー!!」 大声をあげる親実装に、すっと黒猫が近寄る。 バリ!! 軽く右前足を一閃させると、音も立てず引き返していく黒猫。 「……なにをしてデギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア アアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 もんどりうって絶叫する親実装の木屑を投げた右手は大きく裂かれていた。 鋭いネコの爪は容赦なく親実装の手を切り裂いていた。 「デギャアアアアアアアーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」 黒猫はすこし振り向くと、再度7女を咥えて悠然と立ち去っていく。 その黒い体が闇夜に溶け込んでいくのを、姉妹はただ眺めているだけだ。 痛みに耐えて親実装が立ち上がるが、ねこの後姿を見ることしかできない。 ……なんで!なんで!ここまでやっと来たのに!一度助かったのに!!! しかし追う気力はないし、追いつけないだろう。戦っても万に一つ勝算はないのだ。 「ママァ!」 震えながら3女。 「追いかけるテチ!追いかけてあいつをやっつけて7女ちゃんを奪い返すテチーーーー!」 士気旺盛な3女だか親実装にその気はないし、長女と4女はいつの間にか木箱の隅で丸くなって震えている。 猛獣の強さを思い知らされたのだから当然だ。 「もう、7女ちゃんは諦めるデスー。……しょうがない、しょうがないことデス」 親実装は3女から視線をそらす。 一滴の涙がほほを伝う。 一度諦めた7女の生還。それが夜には奪われ、それを見ながら何も出来ない。 どうして自分たちはこうも無力なのか。何がどう悪いのか。 目で連れ去られた7女の後を追うが、もう闇夜が広がるだけだ。 天空の星々のまばたきがやたらと美しい静かな夜であった。 「テビャアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」 ……闇を切り裂くように仔実装の悲鳴がよく響く。 一家はただうな垂れていた。 実装石の「 渡り 」の成功率はおおよそ5%とされている。 END あとがき 感想・ご指摘ありがとうございます。
