タイトル:【観察】 実装石の日常 渡り
ファイル:実装石の日常 渡り 10.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:6298 レス数:2
初投稿日時:2007/10/15-20:58:04修正日時:2007/10/15-20:58:04
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 実装石の日常 渡り

ここまでのお話
双葉児童公園は愛護派の餌付けと放置で野良実装の増加と飢餓が起こる。
親実装は生き延びるため今の公園を捨て、家族を引き連れ新天地となる公園を目指す 「 渡 り 」 を決行。
だが公園はあまりに遠く旅路は危険が多い。

渡りの一家
親実装:仔実装を生き残らせるため非情に徹する…?
長 女:生存
次 女:3女を救うため轢死
3 女:生存
4 女:生存 親実装への反抗を扇動
5 女:渡りに参加できない蛆ちゃんとダンボールに残って生き延びようとするが、わずか数分で食い殺される
6 女:猫に襲われた傷が元で死亡
7 女:水流に巻き込まれ脱落
8 女:はしゃぎすぎて体力を浪費、渡りから脱落
9 女:レストランのゴミ捨て場に残留して死ぬ
番 外:蛆ちゃん 5女と共に家族から見捨てられたがそれも理解できず食い殺される



坂道を登る一家に降り注ぐ雨。そんな中7女は水流に巻き込まれた。

「7女……!!!」

7女が流されたとき親実装が悲鳴を上げたが、肉親を失った感傷に浸っている場合ではない。

「ママ、7女ちゃんがぁー!」

長女が涙目で救いを求める視線を送ってくるが、親実装は首を横に振るだけだ。

それ以上流された仔のことは考えず、ひたすら、ひたすら歩みを続ける。

天からは容赦のない雨が小さな一家を打つ。

どうして自分たちはこうも過酷な目にばかり会うのか、恐ろしいことが続くのか、低い知性でも疑問に思うしかないが、
圧倒的な何かの前にはただ歩くだけだ。

辛うじて一家は河を渡り、坂道を歩き続けるがナイロンロープは手放さなかった。相変わらず水流があるので、
仔が流されかねない。


……

………

…………

どれだけ時間がたっただろうか。

一家の4匹はトンネルの歩道で倒れこみ、やっと息をしている。

命がけの坂道を登りきったのだが、歓声も喜びも無く、あるのは疲労感だけであった。

(実装石にとっての)凄まじい雨に打たれ続け喜びを感じる気力さえ失われていた。

しばらくして親実装が立ち上がる。とうとう山を登りきったが、生き残った仔はわずか3匹。

しかも1匹はただの糞蟲だ。

なけなしの家財道具と食料は身を軽くするため、投げ捨てて残ったのはナイロンロープ一つ。

頭巾からは水が滴り、足元のコンクリに滲む。

「7女ちゃんが流されちゃったテチィ!」

這った姿勢で3女が叫び、声がトンネル内でこだまする。

親は外の雨模様を黙って見ているだけだ。とても仔実装が1匹で生きていられるとは思えない。

長女が3女の頭を少し撫でてやっている。相変わらず4女はふてくされた様に何も発さなかった。



よろよろと仔たちも立ち上がり始めると、親実装はトンネルの向こう側を見た。

「出口はあっちデス、向こうまで歩くデスー」

のそのそと一家は歩き始めた。

「大きな穴テチ、すごいテチ」

長女は生まれて初めてのトンネルに感動していた、声が響くのにも驚く。

「……でも暗いテチ」

実装石の視点で見れば魔界への入り口のようだろう。底知れぬ恐ろしさを感じ始め、仔実装の足が止まる。

それに気づいた親実装だったが、自分も照明があるとは言え、やはりトンネルは怖い。

自動車の騒音も大きく響くのでなおさらだ。

結局一家は入り口付近で座り込んだ。

のどが渇いたのか、衣服の水分を吸い始める一家。

やがて4女。

「お腹減ったテチ」

激流の中坂道を登りきった一家は誰もが空腹を覚えていた、肝心の食料はすべて流したというのに。

「……もうゴハンはないデス」

「テヒャア!ママは役立たずテチィ!今からゴハンとって来るテチ、すぐ持ってこいテチャアアア!!!!!!」

相変わらずなので、家族の誰も本気で相手にしない。

状況は相変わらず厳しい、トンネルは300mほどあり、そこから下り坂が5kmも続く。

水が流れる下り坂を歩くのがどれだけ危険なのかは言うまでもないが、かと言って立ち止まるには食料が必要だ。

おおよその距離を感じる親実装は仔には理解できない心配をしていた。

「あ、やっぱり居たー」

子供の声だった。




*************************************




一家の前にはトンネルに入ってきた雨合羽の少年がいた。小学生、といった年頃だろうか。

「デヒャアアーーー」

人間の子供に公園の野良実装、特に仔が踏み潰されるのを見てきた親実装は悲鳴を上げた。

3匹の仔は慌てて親の背中に逃げ込んだが、狭いトンネルの歩道ではそれ以上行き場がない。

だらだらと汗をかく親実装の前で少年は小さなケージを持ち出して、中から仔実装を取り出した。

「はい、お前の仔でしょ?」

少年の手には7女がいた。

「ママー!!」

飛び出すと驚いている親実装に抱きついた。

「お前!どうして……」

「私があっぷあっぷしてたらニンゲンさんが助けてくれたテチィ!」

普通野良の実装石が流されてきたら、よけるか踏み潰すかだろう。

親実装もそうだと思っていたので、意外な驚きで少年を見上げた。

「僕じゃなくてさ、こいつがその仔を見つけたんだよ」

少年が掲げるケージの中には、綺麗な身なりのまだまだ幼い、小さな小さな仔実装の姿があった。

「ねえグリューン?」

テチテチうなづく飼い実装。優しげな少年に飼われ、仔実装も優しげである。

「で、お前たちなにしてんの、こんな小雨の中」

少年はちょっとした事情で出かけざるを得ず、しかも途中で自転車が壊れたので歩いていたのだ。

親実装が事の詳細を語るとリンガル越しに少年は聞き、納得した。

「それは大変だったね、まだまだ距離があるよ」

その声に仔実装たちは固まる。まだ歩かねばならないのか。

「う〜ん。途中まで送ってあげようか?」

「デ!」

「その仔たちをこのケージに入れれば良いよ、お前は歩けるだろ」

あまりの幸運に親実装は目がくらみそうだ。弱い仔実装が人間に守られるのなら安心して歩けるし速度も早くなる。

「本当にいいデス?!」

「うん、途中までだけどね」




*************************************




ケージの中に渡りの仔4匹と飼い1匹だとかなり狭いが、文句は出ない。

飼いは行儀が良いし渡り4匹は生まれて初めての体験にドキドキだ。

ケージの床は布製、小さなクッションがいくつか入れてあり、どこからか芳香が漂う。

格子越しに高い位置から世界を見るのも刺激的だ。

恐ろしかったトンネルも観光気分で抜けられた。もし、一家だけだったら自動車の大音響と暗闇で混乱し、幾匹か犠牲になったはずだ。

トンネルを抜けると、今だ雨が降っていたがケージの中では問題ない。プラスチックの窓越しに外の光景に夢中である。

親実装は途中から少年に抱えられ、坂道を下る。

……こんなにいいニンゲンさんもいるんデス

飼い実装になれればどれだけ幸せなのだろうかと思う。だが、それは無理な話だとも分かっていた。

途中、人家の窓際の水槽に気づいた。そこには飼い実装の親指が数匹見かけられた。

あの親指も幸せなのだろうな、とうらやましい親実装。

今運んでくれているような人間に飼われているのだろうか。それとも自分が幼い頃公園でふんだんにゴハンをくれた

人たちのような飼い主だろうか。

親指実装の1匹と目が合う。

水槽が光で反射してよく見えないが、ため息が出るほど羨ましい親実装であった。




この下り坂だが、山の茂みからはカラスや狸が一家を狙っていたし、側溝から水が10cm以上溢れている箇所もあった。

一家が何回か全滅するであろう要素であり、実際無数の渡りの実装がここで果てたのだが、
ただ少年が送ってくれたおかげで全てなんなく進めた。

この渡りの一家は結局のところかなりついているのである。



一時間後、坂道を降りきったあたりで少年は親実装を降ろし、ケージから4匹を出した。

雨も止み、回りも人家があるのでなんとかなるだろう。

もっとも若干のトラブルは発生したが。

「ほら、出てきなよ」

「何言ってるテチご主人様?私はグリューンテチー」

「……ん?」

薄汚れた服装で、4女がテチューンと媚をしそばではグリューンが困った顔をしている。

人間と接触できた機会を逃さずに 成り代わり をしようとした4女は意外と賢いと言えるだろう。

ただ、手法があまりに稚拙だったため少年は成り代わりが図られたことにも気づかず、ケージから出るよう催促する。

相変わらず4女は媚をやめない。

「ご主人様〜それよりも〜早く野良を追い出して欲しいテチ〜、私野良怖いテチ〜」

必死に飼い実装を装うとしているが、少年はとうとう手を突っ込んで4女を引っ張り出しケージを閉じた。

「テヒャア!違うテチ、中にいるのは野良テチィ!」

4女、必死である。

「そんなの放り出すテチ!私を飼えばいいテチ、飼え!飼えと言ってるテチャアアアアアアアアアアアア!」

「お世話になったデス、今日のことは忘れないデスー」

「はは、大げさだよ」

「今なら特別に私を飼わせてやると言ってるテチ!!実装フード持ってこいテチ、ステーキ持ってこいテチャアッ!」

「これはせめてものお礼デス」

おもむろに頭巾へ手を突っ込み、なにかを出す親実装。

「コンペイトウかい?」

「そうデス、こんなものしかないデス」

親実装の手にはレストランで拾ったコンペイトウが3粒。
それを見た仔実装たちから歓声が上がる。
特に4女は目の色を変えた。

「テヒャアアアア!コンペイトウゥ!コンペイトウテチ!私に全部よこすテチャアア!」

見もせず、4女を殴り倒す親実装。

「ま、ありがたくもらうよ。ところで公園だけど、あと2kmほどまっすぐ歩いて、そこから左の住宅地を行けばすぐだから」

もう丸一日歩けば到達できる距離だ、興奮したのか仔実装たちがテチテチ騒がしい。

渡りを始めて5日。

多くの犠牲を払い、苦難を乗り越え、ついにすぐそこまで来たのだ……。

今までのことを思い出すと一家はいつしか涙ぐむ。

ぐるぐる、とその一家から腹の虫が鳴いた、あれだけ激しい運動をして昼食を抜いたのだから当然だ。

「……さっきグリューンを連れて行ったショップでさ」

少年は小さな袋を出した。

「試供品だから小さいけどどうぞ」

小さな袋には「マエストロ・牛肉味」と印刷され笑顔でフードをかじってる仔実装の写真が載っている。

袋が透明なところからは、かなり大粒の実装フードが見えた。

「デエ!」

驚いて少年の見返す実装石。

「お返しだよ、お腹すいてるでしょ?グリューンは家に帰れば食べられるから」

テチテチ幼いグリューンが頷いている。

親実装が礼にコンペイトウを出さなければ、少年もここまでしなかったかもしれない。

「ありがとうデス、ありがとうデス」

何度も頭を下げる親実装を少年は笑顔で撫でてやる。

じゃあ、と手を振って去っていく少年に渡りの一家は手を振り返す(殴り倒された4女除く)。

感動した親実装はあんな人間に飼われてみたい、とつくづく思うがそれは夢のまた夢。

袋をありがたく抱きかかえると、あたりを見渡す。

「私たちはあの辺で寝るデス」

親実装が指す方向には神社があった、探せば一晩寝る場所くらいはあるだろう。

「コンペイトウが無くなったテチ!テエェェェェェン!」

4女は倒れたまま大騒ぎだが親実装は無視していく。

コンペイトウ3粒では腹の足しにはならないし、なぜか少年にはどうしても何か贈りたい気持ちだったのだ。

親実装が後ろを振り返ると、3女が大きく遅れている。走って追いかけてくるのですぐ追いつくだろう。

4女も騒いでいるが単身の危険性はわきまえているので、すぐついてくる。

親実装は寝床を探そうと境内に入った。



……こうして一家は最大の難所を越えられた。











実装石の「 渡り 」の成功率はおおよそ5%とされている。

END











あとがき
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1 Re: Name:匿名石 2016/11/16-22:50:55 No:00002814[申告]
幸運すぎる
ここで運を使い果たしたレベルの幸運だった
2 Re: Name:匿名石 2016/11/17-02:19:46 No:00002824[申告]
結果的にニンゲンさんを連れてきてくれたから7女突き落とした4女ナイス!
ではないんだよなあ
行く先が同じ方向だったからたぶんそのまま進んでも遭遇してたぶん助けてくれたろうし
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