デギャァァァァァッ・・・ まだ熱帯夜で蒸し暑い夜だというのに、ここふたば公園では実装石の断末魔が絶えることは無い。 今、夜の公園で思い思いの得物を携え幽鬼のごとく彷徨っているのは、自称虐待派と称する者たちである。 多くは無能ゆえに周囲から冷遇されている者ばかりであり 自らの怠惰を棚に上げ、やり場の無いうっぷんを晴らすために実装石の寝ぐらを襲撃しているのだ。 だが、中には単に実装石を嬲り殺すだけでは飽き足らず手の込んだ悪質な行為に及ぶ者もいる。 自分よりも恵まれ幸せに暮らしている思われる飼い実装やその飼い主達を不幸にすることで 憂さ晴らしをしようとする捻じ曲がった思考の持ち主だ。 奴らにしてみれば自分よりも幸せに暮らしている飼い実装や、その飼い主の存在は絶対に許せないのだ。 そして、そんな幸せ一杯に育てられて生きてきた実装石に苦痛と絶望を与えて、 苦しみぬいて死んでいく様を見ることはこのうえない快感なのだ。 さらに無残な死体と共に虐待の様子や死に様を記録したDVD等を、飼い主の元に送りつけるのも欠かさない。 もちろん着払いだ。 そうすることで溺愛していた飼い主にも精神的な苦痛を与えることが出来るので一粒で二度美味しいというわけだ。 通常であれば飼い実装を拉致して虐待や殺害をする行為は、窃盗及び器物破損の罪に問われるのだが ここ、ふたば公園は基本的に実装石は以前からここに生息しているもの以外は野良・飼い共に外部からの 侵入を禁じており、侵入した実装石を一般市民が排除してもなんの咎めも受けない。 これは市の職員だけでは駆除が追いつかないことから自主的な駆除を容認してしまったのが 原因であり、以後なし崩しに駆除を口実に虐待派が公園内を闊歩する事態を招くと共に、 悪知恵が働く一部の者達が様々な手段で、飼い実装を拉致して公園に連れ込み 堂々と虐待を行う事がまかり通っているのが現状であった。 夜もふけ虐待派の連中もほとんど去って静けさを取り戻したふたば公園に一人の若者が自転車で侵入してきた。 後部の荷台には、ゆうパックのダンボール箱が括り付けられており時折中からガサガサと物音がしていた。 「フフフッ、今回の獲物は捕獲するのに苦労したぜ、だがそれだけ今夜の虐待のしがいがあるというものだ。 覚悟しろよ糞蟲め!いままで幸せに暮らしてきたことをたっぷりと後悔させてやるぜ。」 自分勝手な独り言をいいつつダンボール箱を開けて中から丸々と太った成体実装石を引きずり出す。 フリルのついたピンク色の実装服に包まれた典型的な飼い実装であり、 その首には登録証明のプレートが付いた首輪が付いていた。 例に漏れず食後の散歩で住んでいる家の庭をうろついていたところを侵入し待ち伏せていたこの若者に捕まり この公園に連れて来られたのだ。 飼い実装はここに連れて来る間に騒がれて発覚するのを防ぐために、ビニール紐で拘束され口は粘着テープで塞がれていた。 それにも関わらずパンコンしていないところから、この飼い実装は躾がいきとどいた賢い個体なのは間違いないだろう。 それは若者の加虐心を刺激するのに十分であった。 「ククククッ、こうでなくてはな・・・こうでなくてはな! こういう賢くて愛情を一杯に受けて生きてきた奴ほど哀しみと苦痛に満ちたイイ顔を見せてくれる。 オマエはいつもよりもタップリと手間隙かけていたぶってやるから光栄に思えよ。」 一方的な事を言いながら地面に転がした飼い実装をつま先でグリグリと弄る。 「と、その前に撮影準備をしないとな・・・」 若者は背負っていたディバッグから小型ビデオカメラを取り出した。 メモリーカード記録型のコンパクトモデルだ。 そしてディバックのサイドに括り付けていた三脚を手に取ると手際よく展開して ビデオカメラをセットすると撮影位置の確認をして微調整をした。 この若者もご他聞に漏れず虐待の様子を撮影して飼い主に送りつけたり 実装石虐待画像サイトに投下して悦に至るタイプであった。 普段であれば虐待行為は自宅のアパートで行っているのだが、近頃手口がマンネリ化しており そのことを度々閲覧者から指摘を受けていたのだ。 そこでこの若者はいつもと趣向を変えて野外での飼い実装虐待に踏み切ったのだ。 狭いアパートの浴室とは違って公園での虐待は様々なシチュを演出できる。 すでに若者の脳内は、歪んだ創造力でフル回転状態になっており様々な虐待のプランで溢れていた。 「よぉし、最初に軽くいたぶってから禿裸にして偽石摘出処理、次に地面に穴を掘ってドドンパを飲ませて 逆さに突っ込んで糞の噴水ショーだ・・・ それが済んだら強制出産させて産ませた蛆をコイツの口に押し込んで喰わせて・・・ それから・・・、そうだ野良実装共を叩き起こしてその中にコイツを放り込んでみよう。 さぞかし見物になるぞこれは、久しぶりの傑作になる予感がするぜぇ!」 そう言ってビデオカメラの録画ボタンを押すと自転車のフレームに固定していたケースからバールを取り出した。 「まずは景気付けといきますかっ」 若者はバールを上段に構えると一気に振り下ろした。 狙いは胴体、勿論殺さない程度に加減はしている。 低反発ウレタンのような感触の胴体にバールが鈍く食い込み、実装石の苦悶に満ちたうめき声が漏れる・・・ そのはずだった・・・だがそうならなかった。 なぜなら若者はバールを振り下ろせなかったのだ。 どういう訳か突如として振り上げたバールが動かなくなったのだ。 ************************************************ 「だ、誰だ?」 若者は酷く狼狽した。 今まで周囲に人はいなかったはずなのに、何の気配も感じさせずにいつの間にか背後に 何者かがいるのだ。 しかも途方も無い怪力の持ち主なのか掴まれたバールを放そうとしてもビクともしない。 背中からビンビン伝わる殺気に若者の背中に嫌な汗が滲み出す。 あきらかな身の危険が迫っていることを本能が警告している。 若者は恐る恐る後ろを振り向き相手の顔を見た。 だが、目に映ったのは実装石の顔を模したお面であった。 実に間抜けなデザインのお面であった。 だが、全身黒尽くめで顔を覆うお面のみが闇夜に白く浮かび上がっており、 それは見た者の原初的な恐怖を呼び覚ますのには十分であった。 とっくに若者はパニック状態に陥っていた。 「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃっ」 恐怖で裏返った悲鳴を上げながらバールを放り出して逃走する。 だが、背後から若者を追いかけてくる足音が聞こえてくる 普段からロクに運動をしていない若者は追跡者を振り切ることなど適うはずも無く たちまち追いつかれてしまう。 次の瞬間、若者は背後から腰部に鈍い衝撃を受けた。 「ギャッ!」 短い悲鳴と共にその場に崩れ落ちる。 そこへ容赦なく背中や肩、両手足にと重い衝撃が走った。 あまりの痛さに身をよじり転がると、そこに一人の男が立っていた。 体格は自分と大差ない感じだが、相当鍛えている感じはした。 そして右手にはさっき放り投げたバールが握られており、さっきの鈍い衝撃がそれによるものなのは容易に理解できた。 「オマエは誰なんだ?どうして俺がこんな目に・・・」 若者は男を見据えながら、震える声で問いかけた。 「正義の味方・・・」 男は抑揚のない声で一言いうと若者にバールを振り下ろした。 ************************************************ どうしてだろう?・・・いつのころから俺はこうなってしまったのだろうか・・・ 俺は昔からどちらかといえば冷めていた性格の人間だった。 特に物事に強い感動を覚えたことも無く、ただなすがままに生きてきた。 だが、こんな俺が変わったのはひょんなことだった。 休日の何もすることがなかった俺は近所の公園に散歩にきていた。 この公園もご他聞に漏れず野良実装が繁殖して一般市民に迷惑をかけていた。 だが、その日に限っては様子が違っていた。 一人の男が実装石を虐待していたのだ。野良実装の虐待自体は珍しいものではないのだが、 そいつが虐めていたのは明らかに飼い実装だったのだ。 奇妙に思って様子をうかがうと、どうやら何処からかあの飼い実装を拉致してきたようだ。 そして、男は飼い実装に向かってなにか文句を言っていた。 内容は単なる八つ当たりでしかないくだらないものだった。 要約すると自分よりいい暮らししているのがけしからんというものだ。 そしてお決まりの虐待が始まった。 衣服を奪い髪を毟り目の前で燃やす。 それから殴る蹴るを繰り返し四肢の骨を折り、偽石の摘出を始めた。 栄養剤と思われる液体が入ったフイルムケースに偽石を入れると、 男はアーミーナイフを取り出して飼い実装を切り刻みだしたのだ。 それを見た時、俺の脳裏に今まで忘れていた。 いや、忘れようとしていた記憶が一気に甦った。 小学生のころ俺の家では一匹の猫を飼っていて、俺はその猫をとても可愛がっていた。 だが、ある時何者かの手によって殺されてしまったのだ。 全身刃物でメッタ刺しにされて変わり果てた姿となった猫の死体の前で俺は大声を上げて泣いた。 その怒りと悲しみの記憶が凄まじい勢いで溢れ出し全身が震えた・・・ 気が付いたら俺は男を半殺しにしていた。 だが、俺はその行為に恐れも後悔も感じなかった。むしろ逆に今まで感じなかった 爽快感と達成感を感じていた。 これはきっと天啓なのだ。 俺のなすべき使命がこれだと思った。 その時を境に俺は変わった。 飼い実装をさらって虐め殺して喜ぶクズどもに然るべき報いを下してやるのだ。 他の奴がやらないのなら、この俺がやってやる。 俺は己の全人格をかけた独善をもってして奴らに鉄槌を加える。 きっとこれは他人から見れば狂人のそれなんだろう。 他によい方法があったのかも知れないけど、今の俺にはこれしか思いつかない・・・ そして、今夜も奴らを狩りに行く。 そしてちょうど今、俺の目の前に飼い実装を虐待しようとする下衆がのこのこやって来た。 今夜は自分が狩られるという事も知らずに・・・ ************************************************ 翌日ふたば公園では早朝から大騒ぎとなっていた。 毎朝公園をジョギングするのを日課としている老夫婦が瀕死の重傷を負った 若者を発見し通報したのだ。 現場周辺の捜査で若者の所有と思われる自転車とその側で拘束され放置状態にあった 成体サイズの飼い実装石が発見された。 外傷は軽度のものであったが、強いショックを受けており「この自転車でここに連れてこられたデス・・・」 と繰り返し言うばかりで他には何も聞き出せない状態だった。 首輪の登録証の照会により、この実装石は昨夜から行方が分からなくなって捜索願いが出されていた ものと判明し飼い主に連絡、確認を取った後引き取ってもらった。 現場にはこの若者の所有物と思われるビデオカメラが残されており。 記録を調べたところ若者が飼い実装にバールを振り下ろそうとしている場面と 直後に実装石のお面を被った人物によって阻止され逃げるまでの様子が録画されていた。 現場周辺ではここ数ヶ月の間裕福な家で飼われている実装石が何者かによって連れ出され行方不明に なる事件が多発しており警察は事件との関連がないか捜査を進めると共に、 事件に何らかのかかわりがあるとみて、若者の回復を待って事情を聞くことにした。 数日後意識を取り戻した若者から事情を聞きビデオカメラに残された記録について 追及したところ犯行を認める供述を始めた為、 若者を窃盗と器物破損及び住居侵入の疑いで取調べると共に家宅捜査に踏み切った。 その後の家宅捜査で若者の住んでいたアパートの一室から行方不明になった飼い実装の首輪や 衣服の一部、虐待の様子を記録したPCとDVD数点が押収された。 また若者はかつて中学生のころ近所の飼い実装を公園に連れ出して虐殺していた 前歴があることも判明し常習的に犯行を繰り返していたものと判断した。 警察は若者の容疑が固まり次第起訴する方針とした。 ************************************************ 今回の事件でふたば市で発生していた飼い実装の連続失踪事件は一応の解決をみた。 また、警察は押収したPCの履歴から幾つかの実装関連のアングラサイト及び関連するプロバイダーを 特定し全国で発生している類似事件の捜査の手がかりを得ることができた。 だが、その一方で若者に暴行を加えた人物の捜査は手掛かりが少なく遅々として進まなかった。 現在わかっているのは身長170cm位の中肉で黒っぽい服装と、自作と思われる実装石を模した お面を付けていたということだけであった。 当初この人物については捜査班内のみの情報として外部には秘密にしていたのだが、 あろうことか捜査班の一人の私的なPC内に入れていたファイル交換ソフトを通じて一部の情報が流出する 不祥事が発生し、実装石掲示板等で話題となってしまった。 その実装石の仮面を付けた異様な風貌から誰彼と無くこの怪人のことをジッソマンと呼ぶようになり、 様々な憶測が飛び交いネット上にあっという間に広まり、虐待派、愛護派の間で話題となった。 怪人ジッソマンの活動に愛護派は絶賛し虐待派は怒り狂った。 やがてふたば市では、怪人ジッソマンをめぐって様々な悲喜劇が巻き起こる事となるのだが、 それはまた後のお話である。 END
