実装石の日常 渡り ここまでのお話 双葉児童公園は愛護派の餌付けと放置で野良実装の増加と飢餓が起こる。 親実装は生き延びるため今の公園を捨て、家族を引き連れ新天地となる公園を目指す 「 渡 り 」 を決行。 だが公園はあまりに遠く旅路は危険が多い。 渡りの一家 親実装:仔実装を生き残らせるため非情に徹する…? 長 女:生存 次 女:3女を救うため轢死 3 女:生存 4 女:生存 親実装への反抗を扇動 5 女:渡りに参加できない蛆ちゃんとダンボールに残って生き延びようとするが、わずか数分で食い殺される 6 女:猫に襲われた傷が元で死亡 7 女:生存 8 女:はしゃぎすぎて体力を浪費、渡りから脱落 9 女:レストランのゴミ捨て場に残留して死ぬ 番 外:蛆ちゃん 5女と共に家族から見捨てられたがそれも理解できず食い殺される 渡りを始めてから5日目の朝日を迎えたとき、一家は昨夜の昔話に(4女を除いて)気持ちを切り替え高揚さえしていた。 困難を乗り切ってきた実績と昨日の休日が、心身ともに彼女らの調子を良くさせた面もある。 「どんどん食べるデス」 豪勢な朝食である、少し腐敗してきているが野良にとってはまだまだご馳走だ。 がつがつ威勢よく食べる仔実装に親実装は自信を深める。 ……これは、うまく行くデスー 4女が糞蟲化してきたのが気がかりだが、まだ間引く気にはならなかった。 全滅を覚悟した時もあったが、なんとか長女・3女・7女の面々が頼もしい。 いや、渡りを通じて成長してきているのだろう、誇らしく思う親であった。 「さあ、今日はがんばるデスー!」 「「「はいテチーーーーーー」」」 午前7時すぎ、一家はビニールの休憩所を出てトンネルを目指し始めるが少し空が曇り始めていた。 国道27号線沿いの歩道を一歩、また一歩と歩む一家ではあるが、きつい坂道に息が荒れる。 およそ1時間で約200m歩くと親実装が休憩すると言う、一家は円陣を組んで座る。 ……幸運デス、ニンゲンがいないデス− この山(双葉ヶ岳)の坂が普通の人間にとってもなかなか辛いものがある、越えるときは近所の住民もバスなり自動車なりを 使用するおかげで渡りの一家はバス停以降ほとんど歩行者に遭遇していない。 あいかわらず国道を疾走する自動車は途切れないが、もう慣れてしまっていた。 「お前たち、疲れてないデスゥ?」 「全然平気テチ!」 「まだまだ大丈夫テチー」 「あんよは平気テチ」 「…………」 ふてくされた様な4女以外は士気旺盛、笑顔で親実装がうなづいていると、水滴が足元に落ちた。 空を見上げると雲が立ち込めている事に気づいた。だが朝から雲がかなり出てたのだが、油断した親実装は天候を見落とした。 ……私は馬鹿だったデス!! 天気に恵まれすぎていて忘れていたが、雨具も何もない野良実装は雨に弱い。 まして坂道を登っているとき、仔づれで雨に降られたらどうなることか。 うかつと言うしかない自分の愚かさを呪いながら、親実装は血相を変え立ち上がって言い放つ。 「すぐ出発デス!雨が降ったら大変デスー!」 だが足元には複数の雨粒が落ちていた。 ************************************* 「休憩はしばらく無しデス!歩けるだけ歩くデス!」 「テッチ!テッチ!テッチ……!」 怒鳴った親実装の後を1列になって追う姉妹4匹。 しかし天からは無情にも雨が降ってきている。 一心不乱に足を動かす仔実装も真剣だ、雨に打たれ始めると痛く冷たい、濡れれば不快だ。 身の丈が15cmの仔実装にとってすでに雨は負担になりつつあるが、歩道に石ころや砂利が混じり始め歩きにくくなっている。 少し上に採石場の入り口があって、出入りするダンプカーから零れてしまうのだが、やはり小さな実装石には障害になる。 採石場の出入り口を越えると足元の石は激減したが、もう雨が本格的になっていた、叩きつけるほどに。 テッチテッチの掛け声も雨音にかき消されて先頭を行く親実装には聞こえない。 時々振り返って、雨の中を行進するわが仔を見るだけだ。 普通野良実装は雨天時には当然雨宿りする。 我が家があればそこへ、なくても何かしらの影で雨を凌ぐ。 そうしなくては濡れて肺炎で死ぬ、そこまで行かなくても体力を消耗して他の野良に襲われたりする危険は高い。 もっとも我が家もなく雨宿りできる場所も見当たらない彼女らは、ひたすら歩くほかないのだ。 遥か後方まで下がれば、あるいは雨宿りできるだろう。しかし、いちいち雨宿りで引き下がるわけにはいかない。 先に見えるトンネル(もちろん彼女らはそんな名称さえ知らないのだが)にまで逃げ込むしか、 生き残る道はなかった。 雨はますます強くなり側溝は激流となっているし歩道も水が早く流れていく。 仔実装の足が見る見る遅くなる、流れに足元をすくわれそうだ。 もっとも水位は1cmあるかどうか。 その1cmが小さくひ弱な仔実装には脅威になっている。 自動車が通過すれば飛沫が上がってどうしても頭からかぶってしまう。 親実装が何度目かに振り返ると、仔実装は例外なく弱っていた。勢い良く振り上げていた手足もよたよたと動かすのみ。 前方をみるがトンネルまでまだ500m以上はあるだろう、仔実装にとっては大変な距離である。 突然の雨、しかもゴールは遠い、仔実装らはもう挫けそうだ。 朝の覚悟はなんだったのかと人間なら思うだろうが、幼稚園児程度の知能しかない彼女らにはあまりに大きな障害だった。 テエ、とだれかが言うと空気が抜けたようにふらつく。今転べば麓まで転がり流されるだろう。 それがわかっていてもずぶ濡れで坂道を登り続ければもう耐えられない。 「お前たち!しっかりするデスー!」 叫ぶとおもむろに背負ってきたビニール袋をおろすと、中身をぶちまけた。 まだまだ残っていた食料、そして貴重なペットボトルが全て水に流されていった。 姉妹がそれを力なく見ていると、親実装は残ったビニール袋からナイロンロープを取り出し左手で垂らす。 「これを掴むデス、必ず山を越えるデス!」 気迫をこめた声に、仔実装に血色が戻る。 「お前たちならこの山を越えられるデース!ママのママのママも越えられたデス!絶対できるデース!!」 ばっと勢い良く前を向くと親実装が進む。仔実装姉妹が慌ててロープをつかみ、行進が再開した。 速度があがった。折れかかった心だが今は力強く母が引く綱がある、それを支えにテッチテッチと坂を登る。 いくばくか登ったところで勢いがついてきた、が、前からは雨音とは違う音が聞こえてきた。 側溝の水が溢れかえっていた。 枯れ木やら枯葉が詰まった側溝は大量の雨水を受けられず、歩道から車道へ横切るように小さな河を作っている。 その水量はかなりのものだ、水位は3〜4cmあるだろうし流れも速い。 この河は迂回すべきだが、国道27号線の4車線の向こう側に行くのも無謀と言うものだ、引っ切り無しに自動車が走っている。 ************************************* 「お前たちー!あの河を渡るデース!」 「……」 悲鳴ではなく無言である、もう進むしかないのは身に染みている仔実装たちである。 「もう少しガンバルデス!必ず渡りきれるデース!」 頭から大粒の雨水を受けている仔実装はずぶ濡れだ、靴の中も水がはねるほど。 下着も水を吸収できるだけ吸収したので重く動きずらい。 それでも前へ、前へと足を運ぶのみだった。 最後尾の7女が恐怖のあまりパンコンすると溢れた中身が下流へと流れていく。 振り返った7女の視界からあっという間に消えていくほどの早さだ。 「ついて来るデス!」 雨音に負けないよう張り上げる親実装の声が7女にも聞こえる。 ロープを掴みなおして、一家は進む。 親実装が河に足を突っ込むと彼女でさえ水流の強さに驚いた。 しかも厄介なことに水は斜めに流れている、正面から来るよりも歩きにくいことに気づく。 だが、気づいたからどうだというのだ? 渡りの一家は前に進むほか無い、親実装はそのまま無言で進み、仔も続く。 仔実装から悲鳴があがるが、倒れないようしっかり綱を握り締め、親に続いた。 ほとんどしがみ付くように綱を握る仔たち。 周知のとおり、指のない彼女らの握力はきわめて弱く、4匹は少しずつ後ろにずれる。 長女と3女は2cmほど。だが、4女は10cm以上一気に下がった。そこには7女がしがみ付いている。 「テチャア!」 前からぶつかって来た姉に悲鳴をあげる7女。 「危ないテチャ!危ないテチャア!」 ロープにゆとりはほとんどない、これ以上後ろに下がれば掴むところを失い放り出されてしまう。 しかも、水量は単独で歩けないほど仔実装にとっては脅威だ。 そこで不安定な彼女らが転びでもすれば、致命傷である。 猛烈な抗議と悲鳴を無視して、4女はロープにしがみ付く。 彼女とてずり落ちたのは不本意。後ろに下がり続ければ自分の生命が危うい。 できれば持ち直して前に行きたいが、とても無理な相談だ、一瞬でも片手を離せば水に身体を運ばれていく。 うるさい妹をひと睨みすると 「うるさいテチャア!」 怒鳴ると黙々と歩き続ける。だが密着した2匹は歩きにくい。 足がもつれ、7女がバランスを崩しかけ水で手が滑る。 綱を、文字通りの命綱を手放してしまうが、幸運にもくっ付いている4女の背中にしがみ付いた。 テチャ、と後ろから重くしがみ付かれた4女。 「離れろ!離れろテチ!私まで危ないテチー!」 「今離したら私まで、危ないテチッ!」 どちらも自分の命がかかっていた、殺気のこもった視線がぶつかる。 「テヒャア!」 顔面に頭突きされた7女が悲鳴を上げる。 「離せ!離せテチー!」 そこには家族愛など欠片もない、ただただわが身がかわいい夜叉の姿だ。 親実装はかろうじて背後の騒動に気づいたが、自身も歩くので精一杯。 だいたい、自分が引っ張る綱で姉妹全部を支えているので、前に歩く以外はなにもできないが。 そうこうしていると、車道を自動車が走っていく。 人がいれば水溜りではねないよう気をつけるのだが、運転手からは人影は見えない。 盛大な水しぶきがあがり、一家の頭上に降り注ぐ。 「デヒャッ!」 「テヒャ!」 「テチ!」 「テハ!」 「テジャアアアアアア!」 7女がひときわ大きな悲鳴を上げた。親実装が瞬時に振り返ると、綱を離し仰向けに倒れる7女と目があう。 「7……!」 「テチャアアアアアアア…!………アアア………………」 あっという間に水が仔実装を下流へ押し流す。悲鳴も聞こえなくなり、水しぶきと雨が姿を隠した。 長女・3女・4女もその光景を見ていた、凄まじい恐怖を感じながら そしてただ雨音だけが残った。 ************************************* バケツの水をぶっ掛けられたほどの衝撃だった、訳も分からず仰け反って倒れる7女。 ゴポッと自分が水に沈む音がする。 あ、と思うまもなく身体は水に運ばれていく。立ち上がろうにも重たい頭を下にして、坂道で転んだのだ。 しかも水流の中で。 慌てて命綱へ手を伸ばすが、それはもう彼方。 一家のほうを見るがすでに1mは引き離され親実装は悲鳴をあげ、姉妹は恐怖に顔を引きつらせている。 「ママ!ママ!助けてテチャアアアアアアアアアアアアア!」 悲鳴さえ届かない。圧倒的な水が小さな身体を揉みくちゃにしながら押し流す。 「テベッ!」 石か何かに当たり、窪みにすくわれ、加速して坂を下っていく7女。 「マァマ!マァマァ!……ジュベッ」 なんとか立ち上がろうと暴れるが、足の裏が地面につくことも敵わない。ただひたすら流されている。 悲鳴を上げ続ける口に水が入る。視界も水でよく見えない、パンコンした分が回りの水に混じるが、それもかき混ぜられ消えていった。 側溝から溢れた小河はもう途切れたか、下もかなりの水量で下へ流れている。 仔実装の身体を押し流すのは十分であった。 しかも下からは雨合羽と着込み長靴を履いた人影が進んでくるが、雨を避けてか顔を下に向けていた。 その姿を見た7女はさらに絶叫を上げた。 実装石の「 渡り 」の成功率はおおよそ5%とされている。 END あとがき 感想・ご指摘ありがとうございます。

| 1 Re: Name:匿名石 2016/11/16-22:45:25 No:00002813[申告] |
| 四女が糞蟲気味なのは既にわかってたんだから四女を最後尾に置いてれば七女が犠牲にならずに済んだのに…
とはいえ生死がかかれば善蟲っぽい長女や三女でも怪しいか… |