タイトル:【日常】 実装が居る世界の新聞配達(微修正)
ファイル:新聞配達.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3513 レス数:0
初投稿日時:2007/10/05-20:59:43修正日時:2007/10/05-20:59:43
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新聞配達の朝は早い。
その日も、男は誰もが眠りについている午前2時過ぎ頃に目を覚ました。

「……」

外の様子を伺う。雲は多いが、雨はまだ降らないだろう。
朝方雨が降ると言っていたので憂慮していたが、これなら配達に支障はあるまい。

手早く着替えると、販売店が契約しているアパートを出る。
季節は秋だ。春と並んで新聞配達にとって比較的楽な時期。
雨の多い梅雨や台風が来る夏、雪が降る冬はこの仕事がきつく思える時期だから。

販売店に駆け込み、同僚に挨拶しながら置いてある新聞を机に積み上げ、分配する。
自分の務めてる新聞社の新聞が一番多く、その後に委託分、スポーツ新聞、小誌と続く。
これらに前日組み込んでおいた広告の束を挟み込んでいく。朝までの猶予は少ない。手早くやる。
男にとって雨や雪の時期が嫌なのは、それらが降るとこれにビニール袋を張らなければならないからだ。
手間はかかるし、梱包する機材は限られてるので当然順番待ちとなる。
朝の時間が僅かなりとも惜しい時に、長蛇の列の中で待つのは非常にストレスが溜まるのだ。

ともあれ、準備は整った。
ビニールの帯を配達用原付の荷台に敷き、その上に数が多い自社の新聞を置く。
数の少ない委託分や小誌、スポーツ新聞は前の籠に置く。
前の籠の脇に数枚のビニール袋を挟み込み、鉄製のトングを隙間に差し込む。
ポケットには細長いスプレー缶を押し込んでおく。
荷台に積んである新聞にビニールの帯を被せた後、原付のタイヤチューブを利用して作った紐で縛り付け固定すれば何時でも出れる。

だが、出発の前にやる事がある。周囲をよく改め、路面に何か居ないか確かめる必要があるのだ。
販売店の傍には公園がある。そう、この辺にはよく実装石が出るのだ。

スプレーを取り出し路上近くの茂み、路面上、公道に出る前にある信号機付近を軽く確かめる。
よし居ない。出よう。
男は原付に跨ると勢い良くキックをかましてエンジンを始動させる。
他の配達員達が次々と販売店前から発進し、闇に消えていくのはなかなか壮観だ。
やがてエンジンがかかり、男も販売店前から自分の配達地区へと走り去っていった。


新聞販売店にとって、実装石は害物に他ならない。

路上に鈍くさく飛び出して来ては配達の妨害をする。
ポストやドアポストに投函した新聞紙を盗み、巣に持ち帰って寝藁の代わりにする。
道路上で死んだり轢かれた個体は配達バイクの事故を誘発させる。新聞を大量に積んでいて重心が不安定な時は特に。
配達員にまとわりついて媚びたり、果てには糞を投げては配達物である新聞紙を駄目にする。
まさに百害あって一利なしの存在。故に、配達員の面々も実装石に対しては非常に注意深く、そして情け容赦が無かった。


出発してから30分が経過。
今の所、順調に配達は進んでいて、荷台と篭の新聞紙は順調に軽くなっている。
道順と各家に配るべきモノは完全に把握してるので問題は無い。

ドアポストに対しては、新聞を完全に押し込んでドアの内側に落とし込む。
以前のように半端にポストの開口部に挟んでおくと、実装石に取られてしまうからだ。
郵便ポストにしても、軽く内側に曲げるようにしてポストの中に収納する。
その際、必ずポストの中を一度確かめてからでなければならない。
何故なら、時折『先客』が居るからだ。

「テチュウ……」
「……」

確認の為、郵便ポストの蓋を開けた男の動きが止まる。
中には薄汚れた一匹の野良仔実装が膝を抱えて蹲っていたからだ。
おおよそ、親実装に投げ込まれたのだろう、一種の託児である。
仔実装は痩せこけ、泣き疲れた様子でぐったりとしている。
託児されてから数時間、人間に気付かれもせずに居たのだろう。

「……」

男は軽く嘆息する。仔実装の境遇に思いを馳せたのではない。
ただ、手間が増えた事を嘆いただけだった。

「チュ?」

接近する「それ」に気付いた仔実装はノロノロと顔を上げる。
それは白い手だった。白い手が郵便ポストの中に忍び入って来る。

「テチィプ!」

危険を感じ叫ぼうとした仔実装の口を、手袋の内側にある男の手が塞いだ。
別に怪しい事をしたわけでもない。篭の脇にぶら下げていたポリエチレン手袋で仔実装の上半身を掴んだだけの事だ。
騒がれては困る。明け方に仔実装の甲高い鳴き声は耳障りな騒音以外の何者でもない。

仔実装の上半身を丁度包み込むようにして握り締めた男は、実装回収ビニール袋(5リットル)を広げその中に握り拳を入れる。
握り拳の中では仔実装が掌に握り込まれながらも必死に藻掻き、手に噛み付こうとしていた。
実にささやかな抵抗を歯牙に掛けた様子も無く、男は一気に握力を強める。
柔い上半身の骨が次々と砕け、脆い両腕と胴が潰される。ミチミチと内蔵が圧迫され穴という穴からはみ出し破裂する音が聞こえた。
まさに圧殺。口が利けたらさぞや甲高い絶叫が聞けただろう。男が手慣れた手管で口を押さえて断末魔の1つすら出させなかったが。
やがて「ゴキャ!」という鈍い感触が男の掌に伝わった。どうやら、煮込んだ軟骨程度の強度しかない頭蓋が圧壊したようだ。
同時に小実装の抵抗がなくなった。時折、潰されなかった両足がピクリピクリと痙攣している。
身体全体が弛緩したのか、ブリブリと派手な音を立ててパンツが膨らんでいった。

「…………」

男は素早く手袋をひっくり返すようにして外す。
潰れた仔実装はひっくり返された手袋に引き込まれるようにして収まった。
緑と赤を内包したポリエチレン手袋を無造作に回収袋に投げ込み、袋を篭の脇に短く調整してぶら下げる。
男は時計を見る。ロストした時間は1分30秒程。憂さ晴らしの為少し潰すのを楽しんでしまったようだ。
やっぱり一番時間と手間を掛けずに済むのは首スッポンの刑かもしれない。
次からは時間短縮の為にそうしよう。

男は再度嘆息すると空になった郵便ポストに新聞を収め、素早い動作で原付に跨りアクセルをふかした。





配達開始から1時間程が経過。
既に前半分を配り終えた男は、残りの半分を積むために販売店に戻ってきた。
販売店の奥の食堂からは灯りが漏れている。
味噌や惣菜の匂いが僅かながらに洩れて来て、男の腹がグゥと鳴った。

篭に乗せる委託新聞やスポーツ新聞を抱えて道路に出た時、自分の原付の側で荷台に載せた新聞の束に手を伸ばそうとしている成体実装石が目に映った。
ピョンピョンと跳んで何とか新聞を覆っているビニールとゴム帯を外そうとしている。運悪く、店外に人は居なかった。
男は静かに店内に戻り委託新聞とスポーツ新聞を長テーブルの上に置くと、忍び足で実装石の背後に迫る。
店の周囲に近寄る野良は片っ端から殺した所為か、最近は店の近くで実装石の姿を見る事は無かった。
他所から流れてきてこの辺のタブーを知らない個体だろうかと、男は頭の片隅で考えて直ぐ打ち消した。
そんな事はどうでもいい。肝心なのは、あの糞蟲を早く排除しなければならないと言う事だ。

一度、仲間が新聞を積んでいる最中にトイレに行き、その間に新聞を荒らされて酷い目にあった。
高く積んだ新聞紙は路上一面に広々と散らばり、広告とばらけた誌面が風に煽られて空を舞っていた。
その中で新聞紙をせしめた実装石が、占有を主張したかったのかデププと笑いながらビニールの帯と原付に糞を塗りたくっていた。
被害は甚大であり、予備の新聞が根こそぎ動員され、近隣の系列店に頭を下げて回り配達分の新聞を確保する羽目となる。
実装石は怒り狂った配達員に瀕死寸前まで殴打された後、数日間苛烈な虐待を受けてから禿裸にされ、公園にリリースされた。

「デスゥ?」

後ろから差した影に気付き、実装石は飛び跳ねるのを止めて後ろを振り返った。
それは、大柄な人間が作り出す影だった。人間の表情は店から洩れる灯りによって影になり、覗う事は出来ない。
取り敢えず、媚びようとして手を口に当てた実装石だが、機先を制すようにして人間は何か細長い筒を突きつけて来た。

何だろうと、媚びスタイルのまま顔を近づけて見る。
次の瞬間、細長い筒はプシュウという音と共に霧を吹き突けて来た。
顔面、目の粘膜部、鼻の穴、だらしなく開いたミツクチに霧が勢い良く吹きかけられる。
全身が強張り、視界がグルグル回り始めた。
その場で藻掻くようにして手足をばたつかせるが、痺れはドンドン強まり身体が動かなくなっていく。
ミツクチの端から泡を吹き、血涙を流し、ブリブリとパンコンしながら実装石は加害者である男を見上げた。

自分が一体何をしたというのか。何故こんな酷い事をするのか。
自分はただ、この寝床に敷くと暖かい紙が欲しいだけだったのに。
これだけ沢山あるのだから、高貴なる自分が幾らか持っていっても罰は当たらない筈だ。

リンガルを持っていない男は実装石の問いには答えなかった。
代わりに白い手袋を嵌め、前の篭にぶら下がっていたビニール袋を篭から取り外す。
事切れた仔実装が三体入っている袋の中に、実装石を足から放り込む。
身体が痺れていたので無防備に袋の底に叩き付けられ、両足の関節部が砕ける。
何とか抗議の視線を向けようとした実装石がゆっくりと面を上げようとすると、頭を男の両手がガッシリとホールドした。
そのまま持ち上げられ、男に向かって強制的に顔を向けられる。男の顔がはっきりと見えた。
男は実装石の間抜け顔をしみじみと見た後、ハァと嘆息を漏らし。

ゴキッ。

実装石の頭を横に180°回転させ、首の骨をへし折った。
首が明後日の方に曲がった実装石を脊髄付きの仔実装の首が2個転がっている袋の底に落とす。
男はビニールの口を厳重に結んだ後、焼却炉の側にある実装回収ボックスに放り込んだ。




数十分後、男は順調に後半の配達を続けていた。
時刻は五時に迫っている。
幸い、後半の配達区域では、実装石達の妨害は少なかった。
ポストに居た仔実装を一匹屠ったのと、まとわりついて来た成体実装を一匹水路に蹴り込んだ程度である。
段々空が白んでくる。夜空が少しずつ去っていく。
その下を、原付特有のパタパタという走行音を軽快に立てながら、男は新聞を配り続けた。

ようやく、最後の配達場所に辿り着いた。
荷台のビニール帯は既に篭に突っ込んであり、スポーツ新聞と販売店の新聞が一部ずつ残るのみ。

さっさと配って販売店に帰り、飯を喰って寝よう。

そんな事を考えながら残りの新聞を引っ掴み、新築の家のドアポストへと向かった。
郵便ポストもあるのだが、起きがけでポストまで歩いていくのが億劫なのかドアポストに配達するよう指定されている。

半分開け放たれた格子戸に身体を滑り込ませた男は、何気なく玄関の方を覗い硬直した。

「デス、デスス、デース」
「チュチュ、チューン、チチ?」
「デスス、デププ……!」
「チププ」

何時も新聞を投函するドアポストの前で、小さなダンボールを足場にして成体実装石が何やら作業をしている。
足下には3匹の仔実装が居る。10㎝に満たない大きさからして、生まれて十日も立ってないか親指実装かもしれない。
ともあれ、男が様子を伺っていると親実装は3匹の内の一匹を手に取り、空いてる方の手でドアポストの蓋の部分を押し開けた。
空いた隙間———郵便物などを通す場所に、そっと仔実装を通していく。
服が少し引っかかりそうになってる所を見ると、サイズ的にはギリギリなのだろう。
頭が通り、胴の部分で少し引っかかるものの、子供が匍匐するようにして何とか通し、やがて足が消える。
カコンという僅かな音が聞こえた。ドアの内側にあるボックスに入ったのだろうか。
集金の為玄関に入った時、ドアポストの内側を見た事がある。多分あれなら、仔実装が墜落死する事もあるまい。

「…………!」

そこまで考えて、男は僅かに顔を引きつらせた。
つまりだ、この親蟲が今まで何匹放り込んだか定かではないが、このお宅の中には家宅侵入した仔実装が確実に居ると言う事だ。
たかが仔実装と侮るなかれ。奴らは喰う事と荒らす事と汚す事と糞を放る事に関しては決して成体に劣らない。
前半の配達区域に住んでいる爺さん(78歳 購読歴50年)の仏間は、侵入した僅か3匹の仔実装によって糞地獄と化したのだから。
その有様は爺さん曰く「まるで緑色の肥を満載した桶をひっくり返したようじゃった」らしい。
仔実装達は旧帝國軍人である爺様のビンタ制裁を喰らい糞の華と散ったが、それにしても割に合わない話である。

「…………」

そんな事を考えている内に、親実装は更に一匹の仔実装を郵便受けに通した。もたもたしてはいられない。
早く家人にこの事態を教え、愚行を行っている実装石に然るべき制裁を与えよう。
そうすれば、感謝の代わりに次の契約の時に長期を組んでくれるかもしれないし。

幸いな事に、台所の電気がついている。家人の誰かが起きてはいるだろう。
確か、この家では奥さんが実蒼石を飼っている筈だ。そいつが起きていれば、被害も最小限に済むかもしれない。

「…………」

まずは最後の一匹を郵便受けに通そうとしている親蟲に、労いの蹴りでもかまそう。
その後にインターホンを押し、家人に仔実装が侵入した事を教えれば大丈夫だ。

男は考えを実行する為、格子戸からドアの方へゆっくりと移動を開始し。

「待って」

肩を掴まれて動きを止めた。

「……?」
「静かに、ね?」

いつの間にか、男の側にこの家の奥さんが立っていた。
契約の時に何時も会うのだが、物腰が静かでとても美人だ。
その奥さんが自分が気付かない内に側に来ていて、尚かつ肩を掴んでいる。
無言ながらも、男は当惑したような表情で奥さんとドアポスト前に居る親実装を見比べた。

「いいんですよ。あのまま、あのまま」

穏やかだが、有無を言わさぬ迫力を秘めた言葉。
そうこうしている内に、親実装は最後の仔実装を郵便受けの向こう側に送り込んでしまった。

「デプ、デプププ!」

託児が成功し、愉悦に満ちた胸糞の悪い鳴き声を上げる実装。
そして、足場にしていたダンボール箱を畳み、帰ろうとしたところで男と奥さんに気付いた。

「デス!」

てっきり逃げるか媚びるものかと思っていたが、そうではなかった。
親実装はズンズンと男と奥さんに近付いて来たかと思うと、胸を張りながらデスデス鳴き始めた。

『この家はワタシの仔が占領したデス。従ってこの家はワタシのもの。大人しくワタシを家の中に入れるデス、一番風呂に入れた後ステーキ金平糖寿司を(以下略』

隣から聞こえてきた合成ボイスに男は目を丸くした。
奥さんの手にいつの間にか、最新式の実装リンガルが握られていたからだ。
やがて、奥さんはリンガルの電源を切ってからエプロンポケットにしまうと、水仕事用のゴム手袋越しに実装石の頭を優しく撫でる。
構われてるのが嬉しいのか、実装石は顔の皮を醜悪に歪めていた。笑っているようだ。

「さ、こっちに来ましょうね。家の中に入る前に、まずは綺麗綺麗しないと」
「デズス、デププ!!」

当惑の表情を浮かべる男を他所に、実装石を引き連れ奥さんは庭を横断していく。
すっかり飼い実装気分なのだろう。親実装の態度は愛護派に溺愛され堕落しきった飼い実装のそれだった。

「大丈夫ですよぉ、そんなに心配しないでくださいな」
「デププッ!」

奥さんにゴム手袋越しに頭を撫でられ、調子に乗った実装石は男に嘲笑を向ける。
そして、奥さんに誘導されるように、裏庭の方へと歩いていった。
男は、ただ見送るしかない。建物の角を曲がって裏庭に入る時に奥さんが見せた、意味ありげな目配せを受けながら。
後ろ手に持っていた、小振りなバールのような(ry だけは非常に気になったが。

「ボクゥ」

少し呆然としていた所為か、下からかけられた声でハッとする。
玄関のドアがいつの間にか開いていた。
そして身長70cm程の帽子を被った右目が緑、左目が赤のヒトガタが左手に小型バケツを提げながら男を見上げていた。
この家の奥さんが飼っている成体実蒼石のアヲである。ちなみにパジャマ姿だった。

「ボク」
「…………」

アヲの指差す方向を見て、男は大切な事に気が付いた。
その手には新聞が握られたまま。そう、まだ配達を済ませていなかったのだ。

「……」
「ボクゥ」

気恥ずかしい想いでアヲの右手に新聞を渡すと、アヲはペコリと頭を下げてから玄関まで移動し新聞を靴箱の上に置いた。
そして玄関から出てドアを閉める。ちらりと見ただけだが、仔実装が侵入したにも関わらず玄関も廊下も荒らされたり汚れた様子は全く無かった。

「ボクボクゥ」

男に対し会釈の様な仕草をした後、アヲはバケツを持ったまま庭の方へと歩いていく。
そして数分前に奥さんと成体実装が入っていった裏庭の方へと去っていった。

「チ、チィ……」

アヲが裏庭の方へ消える直前。
微かに仔実装の声が聞こえたような気がした。

「……」

尤も、男にはどうでも良いことである。
男は何かを誤魔化すように頭をガリガリと掻いた後、ノソノソと配達用原付の方に戻った。

早く販売店に戻って飯を喰おう。
アヲが持っていたバケツの上に被せられたチラシに赤と緑の染みが僅かについていた事も。
"何かに被せてあった"チラシが僅かに動いていた事も、さっさと忘れてしまおう。

そう、自分には関係の無い事なのだから。



こうして男の朝の仕事は終わった。片付けも終わり、男は朝食を掻き込んでいる。
今日はホッケの焼き物と出汁巻き卵、ほうれん草の胡麻和えに白いご飯、食用蛆実装と溶き卵の味噌汁だった。
喰う分には細かいことに拘らない。食卓に着いた男は出された食事を黙々と食べ、両目が真っ白になっている蛆実装が数匹浮いている味噌汁を啜った。
今の時代、食用実装は珍しくもない。普段は実装石を忌み嫌ってる人間も、食べれる実装石は普通に食える、そんな時代になっていた。

「テ、チィ……チ」

小さな鳴き声が聞こえたので、飯を喰いながらそちらの方を見てみる。
台所の生ゴミボックスの入り口に、両目が白く濁った赤になっている禿裸の食用仔実装が引っかかっていた。
賄いのおばさんが放り込み、入り口に引っかかったままになっているのだろう。
どうやら、食用仔実装に味噌汁の具である蛆実装を偽石が尽きるまで出産させた後、捨てられたらしい。
まだ生きてはいる。後1時間後には死んでいるだろうが。

仔実装はまだ鳴き続ける。
自分の運命の理不尽さを訴えるように。誰か助けてと言わんばかりに。
何人かは気付いていた。しかし誰1人として相手をせず、黙々と食事を続けた。
たかが食用実装の嘆き程度に一々反応を返すのは実装慣れしてない奴か馬鹿な愛護派だ。

彼等はそのどちらでもない。
故に、肉として喰われるか蛆を産む為の腹としてこの世に生を受けた仔実装の事など気にすら留めていなかった。

男は食事を食べ終えた後、おばさんにご馳走様を言い、食器を洗って食堂を出た。
もう一度だけ、ゴミ箱の方を見る。鳴き声に気付いたおばさんが今度はしっかりとゴミ箱の奥に押し込んだのだろうか。
ゴミ箱の入り口に仔実装の姿は無く、鳴き声は既に聞こえなくなっていた。




徐々に人の往来が多くなって来た街を歩く。
男はこれから帰って昼間の拡張の仕事時間になるまで朝寝する。
人々はこれから仕事に出かける。中には、男が配達した新聞を読んだ後に仕事に出る人々もいるだろう。

だが、男にとってはどうでもいい。男は糧の為にこの仕事をしてるだけであり、新聞自体には愛着は無い。
軽い欠伸をかみ殺し、アパートの入り口にある自販機でお茶を買い、のったりとした足取りで自室に向かう。
部屋の中はカーテンを引いたままなので薄暗かったが、電気を点ける程でもない。
カギを開けて自室に滑り込み施錠、人目が無くなったのを良いことに大きく伸びをしだらしのない欠伸を一発。

カツ、カツ、カツ、カツ……。

「……?」

2時過ぎに脱ぎ捨てたままの草臥れた寝間着を再度着込み、煎餅布団に潜り込もうとした男の耳に、妙な音が聞こえた。
カーテンが掛かっている窓の方を覗う。朝日が差している為、カーテンの向こう側が僅かに窺えた。
カーテン越しに見える背丈の短いヒトガタが幾つも浮かんでいるのを。

「……」

男は脱力し、こめかみに手を添えて頭をフルフルと振る。
確か、二ヶ月前にもこういうシチュエーションがあった。
仕事が終わり、休日だと寛いでいた時に同じ様な音がした。
何事かと思ったら窓のガラスが派手に割れた。
そしてカーテンを掻き分けるように男の部屋に侵入して来た十匹近くの慮外者ども。

結果だけ言えば、男の休日はガラスの交換と派手に荒らされた部屋の掃除で費やされた。
結果だけ言えば、慮外者達は自分達が割ったガラスの破砕片を無理矢理喰わされ、髪と服を奪われてから自分達の領分に強制送還された。
男はこの痛ましい事件を教訓とし、部屋の窓ガラス全てを強化ガラスにした。

男は溜息を吐いた後、部屋の隅に置いてある重い古紙の束を手にして部屋を出た。
足音を殺して、アパートの窓側の方へと回り込む。

「デ、デデ!」
「……」

自分の部屋の窓前で、赤ん坊の拳ほどの石を手に強化ガラスと格闘していた親実装と目が合った。
数冊の週刊誌を足場に薄汚いビニールを手にしていて、足下には2匹の仔実装がまとわりついていた。
自室を標的にしているようだ。普通なら昼間に家宅侵入を行うのに珍しいと言えば珍しい。

全く、人がこれから安らかな朝寝を楽しもうって言うのに。
実装石というナマモノは、どこまで間が悪い生き物なんだろうか。

「デ、デッスーン♪」
「「テチューン♪」」

不法侵入しようとした事を誤魔化す為か、それとも単に条件反射なのか。
実装親仔は手を口に当ててから、小さく首を傾げてみせた。

「……」

媚びへの返答として、男は新聞紙の束を彼女達の上に落とす。
何かが潰れる音と醜悪な悲鳴が短く響く。

これ、かたづけないとなぁ……でも、眠いから後でいいか。
男は大きな欠伸を放ち、頭をボリボリと掻きながら部屋へと戻っていった。


完


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実際に実装石が居たら、新聞販売店にとって凄い迷惑でしょうねー

10/05 微修正 両目の色が逆だったので刺客を送られる前に修正。



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