『ぷにもえレフ』 「ぷにもえ?」 『蛆チャンのおなかプニプニするとニンゲンさんはぷにもえするレフ』 「なんだそれ」 『とにかくおなかプニプニするレフ』 プニプニ。 『レフレフ、プニプニきもちいいレフ』 プニプニ。 『もっとレフ、もっと蛆チャンのおなかプニプニするレフ』 プニプニ。 『レヒャァ、きもちよすぎて蛆チャンうんちでちゃうレフ』 プニプニ。 ビチビチ。 「それで、ぷにもえは?」 『ぷにもえしないレフ?』 「しない」 『もっとプニプニしたらぷにもえレフ』 プニプニプニプニプニプニプニプニ。 「何にもならないけど」 『レフフフ・レッフーン☆』 「何だそれ」 『蛆チャンいっちゃったレフ、ニンゲンさんのテクはすごいレフ』 ブチリ。 道ばたに落ちていた蛆実装を踏みつぶすと、赤緑の染みになった。 これが蛆実装の言っていた『ぷにもえ』というものだろうか。 暴力的な衝動にまかせて蛆実装を踏みつぶすことが『ぷにもえ』というのならそうなのだろう。 もっとも、自ら望んで踏みつぶされる蛆実装がいる筈もない。 実装石の中でも、蛆実装の言動は不可解であることが多い。 きっとリンガルでは翻訳不能な表現もあるのだろう。 『ぷにもえ』というのはリンガルの誤訳というか、バグの一種か何かだろうか。 『ニンゲンさんがいるレフ、おなかプニプニしてほしいレフ』 道すがら、またしても蛆実装に出会った。 野生の蛆実装は生まれ落ちた瞬間に即死することもある非常に脆弱な代物だ、生きて お目にかかることは珍しい、それが日に二度も続けざまとは妙である。 「プニプニしたらぷにもえなのか?」 『レフ? プニプニしてくれないレフ?』 「ぷにもえって何だ?」 『プニプニしたらニンゲンさんはぷにもえするレフ』 「しないよ」 ブチリ。 歩く先には、またしても蛆実装。 ブチリ。 またしても蛆実装。 ブチリ。 蛆実装。 ブチリ。 ブチリ。 ブチリ。 ブチリ。 ……。 まるで道しるべのように蛆実装が続く道。 その道を蛆実装を潰しながら歩く。 まるで迷わないようパン屑を蒔いたヘンゼルとグレーテルの童話のよう。 ぼくはさながらパン屑を啄む小鳥のよう。 この蛆実装が招く先にはお菓子の家でもあるのだろうか。 ブチリ、ブチリ、ブチリ、ブチリ。 元来た道のしるべに赤緑。 ぼくは知らない道を歩くに不安もなく、蛆実装を潰して進む。 何か楽しい。 これが『ぷにもえ』だろうか。 いや、『ぶちもえ』と言った方がふさわしい。 靴底で弾ける蛆実装の感触は、幼い頃に霜柱を潰してひたすら歩き回ったことを彷彿とさせる。 童心にかえって夢中になって、ぼくはひたすら蛆実装を潰して歩く。 『ここが終点レフ』 下ばかり見て歩いて、急に頭上から声がして驚いた。 見上げた先には電車の車両ほどにも大きな蛆実装がいた。 お菓子の家よりありえない。 『蛆チャンは女王蛆レフ』 「女王蛆?」 巨大な頭の頂には小さな王冠がちょこんと載っている。 口調こそ蛆実装のそれだが、その言葉には妙な重みがある。 女王とのたまうだけの威厳であろうか。 『ニンゲン、オマエは最初の蛆チャンが言ったにも関わらず、ぷにぷにどころかブチンしたレフ 絶対に許されざる悪行レフ、しかも此処に至るまでの道筋で改心することもなくブチンを繰り返したレフ その罪、万死に値するレフ、よってここで罰を与えるレフ 死ぬまで飲まず食わずで蛆チャンをぷにぷにする刑に処するレフ』 女王蛆はごろんと転がり、仰向けになって腹部を露わにした。 『さあ、始めるがいいレフ、抵抗は無意味レフ、矮小なニンゲンにワタシをブチンすることはかなわぬレフ』 そこでぼくは女王蛆の鼻面を思い切り蹴飛ばした。 顔の真ん中に陥没ができて、鼻の穴から額に向かって赤緑の筋が垂れ落ちる。 『レフェェ、痛いレフ、やめるレフ、蛆チャンは女王様レフ、無礼は許さないレフ』 足下の髪束に手持ちのライターで放火する。 火は毛髪から頭巾、そして体へとみるみる燃え広がる。 『熱いレフ、燃えてるレフ、こんなのプニプニじゃないレフ、蛆チャンはブチンに負けない 大きな体なのに、ニンゲンに簡単に殺されちゃうレフ、熱いレフ、苦しいレフ』 女王蛆は火だるまになった。 それでも絶叫は止まない。 『レフェェェェェ、レファァァァァァァ、死ぬのは嫌レフ、ブチンは嫌レフ、 燃えるのはもっといやレフ、痛いのも熱いのも嫌いレフ』 「最後に一つだけ聞いておこう、ぷにもえって何だ?」 『ぷにもえは蛆チャン全ての願いレフ、プニプニしてお持ち帰りしてもらうことだけが 蛆チャンがニンゲンに言いたい全てなのレフ、レフ、熱いレフ、蛆チャンもぷにもえして ほしいレフ、助けてほしいレフ』 変な略し方。 ぼくはそう思いながら死に行く女王蛆を眺める。 体液が沸騰して眼球が弾ける、空を仰いだ腹が膨張していく。 身の危険を感じて、その場から駆け足で退避する。 背中で爆音、頭上から赤緑の雨。 見渡す限りが女王蛆の飛び散った体液の色に染まった。 ぼくはそこで、道しるべを失ったことに気がついた。 見知らなぬ街並み、知らない道で、帰りの道がわからない。
