タイトル:夢見る実装石 1
ファイル:夢見る実装石.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4079 レス数:0
初投稿日時:2007/09/24-20:46:51修正日時:2007/09/24-20:46:51
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              「夢見る実装石1」






その実装石はたいそう夢見がちな性格をしていた。
いつも頭の中で妄想を繰り返し、ありもしない何かを追いかけている。
次第に回りの同族からも煙たがれ、いつの間にかいつも一人ぼっちでいるようになった。

今日も公園の片隅で一人妄想にふけっている。
妄想の中身はこんな感じだった。

「実はワタシにはイケ面のご主人様がいるんデス」
「今はこんな所に住んでるデスが、もうすぐ迎えに来てくれるんデス」

その実装石の家は、汚れたダンボールに穴を開けただけの粗末な物だった。
そしてみんなが集まって住んでいる場所から、随分と離れた場所にある。
最初はこの実装石もみんなと一緒に住んでいた。

だがこの実装石は自分が特別な存在だと勝手に思うようになると、
他の実装石をバカにするようになった。

やれ自分は高貴な出の者だとか、餌は残飯なんか食べた事もないとか。
そして誰も食べた事がない、実装フードの話を想像で話したりもした。

そんな風に嘘を嘘で塗り固めるようになると、次第にこの実装石の相手をする者はいなくなってしまった。
この実装石にしても相手にされないではなく、こちらから相手にしないのだと、
自分から同族を見下し見るようになり、一緒に住むのはおかしいと離れて住むようになる。

今、目の前には近くのゴミ箱から拾ってきた残飯がある。
実装石は「これはステーキで、これがデザートデス」と妄想をすると、
もしゃもしゃとなかば腐りかけている、残飯を食べ始めた。
ステーキ代わりの半分齧ったコロッケは痛み始めて酸味がついている。
それをこの実装石は妄想力で完全に変換してしまっていた。

「うーん、このマッタリとした脂身が堪らないデス」

もちろんコロッケに脂身など無いのだが、時間が経ってしまった為に腐った脂が浮いていた。

「次はデザートデス、ワタシ位の実装石にはデザートは当たり前デス」

半分だけのコロッケを食べ終わると、次はカピカピに干からびたリンゴの皮を、
バッグ代わりのコンビニ袋からガサガサと取り出した。

そのリンゴの皮をクチャクチャと音を立てて咀嚼するが、乾いている為か堅くて中々噛み切ることが出来ない。
それでもほのかに甘酸っぱいリンゴの味はちゃんとした。

その皮を無理やりゴクンと飲み込むと、今日の夕飯は終わりである。

ゴロリとダンボールハウスの中で横になると、その実装石はまた妄想を始めた。

「そう言えばワタシには名前があったデス」
「大好きなご主人様につけて貰った名前・・・えーっと何だったデス?」

実装石はどう言った名前が自分に相応しいかを考えると、以前公園に散歩に来ていた飼い実装を思い出した。
フリルの付いた実装服を着る飼い実装に、公園のみんなや自分も羨望の眼差しで眺めた。
左手にはJISSOUと書かれた肩掛けバッグを掛け、右手にはその飼い実装のご主人様が手を繋いでいる。

そして肩掛けバッグに手を突っ込むと中から金平糖を取り出した。
かつて母親から話だけは聞いている金平糖。
飼い実装はそれを無造作に口に突っ込むと、自分達の目の前でボリボリ美味そうに食べ始めた。

よだれを垂らして「デスデス!」と色めき立つ野良実装を、飼い実装は「デププ♪」とあざけるのだった。
その時、飼い主が『美味しいかいミミ』とやさしく微笑んだ。
ミミと言われた飼い実装は満面の笑みで「ご主人様のくれた金平糖は最高デス」と答えた。

その様子を見ていた妄想好きの実装石は、心の底から羨ましいと感じた。
そして自分の理想とする現実がそこにある事を認識すると、
いつかは妄想ではなく、現実の飼い実装になりたいと思うようなる

思えばあの日から自分の性格が変わった、飼い実装を夢見て妄想を繰り返し、
いつしか現実の物だと錯覚するようになる。

「そうデス・・ワタシの名前はミミデス・・」

妄想回路が自分の名前をミミだと決め付けると、あの人間がご主人様なんだとこれも勝手に決め付けた。

「ミミはいつまでこうしていれば、迎えに来てくれるデス?」

この日からこの実装石は自分の事をミミと名乗る様になる。
あの実装石の様に自分にも幸せが待っている、それはご主人様となる人間が与えてくれる筈だと。
ミミはご主人様が教育の為に自分をこんな環境に放り込み、
野良としての経験を積ませると迎えに来てくれる筈、そんな妄想を始めてしまう。

こうしてミミの毎日は過ぎて行った、その環境に何の変化がある訳でもない。
妄想するだけで行動に移す事はないからだ。

人間に媚びて飼い実装をお願いすれば、確立は天文学的に低くても0では無い。
事実この公園で何匹もの野良実装石が、人間に飼ってやると言われ連れて行かれている。
ただし本当の飼い実装になり、かつ幸せが待っているかどうかは定かではない。





                △





ある日ミミがいつもの様に公園の端で、一人妄想にふけっていると人間が近くのベンチに座った。
その人間をミミは草の影から眺め溜息を付いた。

「はぁ・・あのニンゲン・・かっこいいデスゥ」

憂いをまとったこの人間に、ミミは一目で恋をした。
あんな人間が自分の飼い主だったら・・・
そう思ったが思うだけでミミは行動に移ることは無い。
そもそも何で自分が媚びなければいけないのか。
自分を飼って欲しいのなら人間の方からお願いするべきなのである。
それ位は当たり前だ、自分は特別な実装石なのだから。

デスデスと独り言を呟くと、ミミは勝手に脳内で納得をした。
だが今日のミミはいつに無く積極的だった、自分の名前を決めたからかもしれない。
あの飼い実装を連れた優しそうな人間とは違うが、この人間もミミには優しそうな人間に見えたのだ。


ミミは木の影に移り様子を伺うと、あの人間は暇そうに辺りをぼんやりと見ていた。
実はこの男、きのう彼女に振られてしまった。
理由は男にある訳ではなく、単に彼女には新しい男が出来てしまったからだ。
最近になり彼女はやけにキレイになったなと感じていた、それは新しい男が出来た為だった。
新しい恋は女をキレイにする、男はそれすら振られた後もなぜか悔しく感じた。
特に喧嘩別れをした訳ではない。
彼女は別れる際も『これからは友達として付き合おうよ』と残酷なまでにさっぱりとしていた。

『あ〜あ、俺の足りなかった物って何だろうな?』

男は空を見上げると彼女の事を思い出した。

『お互い相性も悪くは無かったのに、女の気持ちってのは難しいもんだな』

「デッスン、デッスン」

『んっ?』

声がしたので視線を下に向けると、薄汚れた実装石が目の前を歩いている。
その実装石は時折、自分の方を見ると、さっと視線を前に向けまたチラチラとこちらを伺っていた。

実装石は暫くすると右の方へ歩いて行き見えなくなる、男は特に気にする事も無かった。

『チッ、うざってー実装石だ、物思い一つ満足に出来ないじゃないか』

男はまた彼女の事を考えると、また視線を空へ向けた。

「デッスン、デッスン」

『あん?』

視線を下に向けるとまたあの実装石が、今度は右から左へ歩いて来た。
やはり時折りこちらをチラチラと伺っている。

男はこの実装石に少しだが興味を持ってしまった。
どうやら自分にこの実装石は好意を寄せているらしい。

『人間の女に振られたばかりだというのに、今度は実装石か・・・』

皮肉にもなりゃしないなと男が考えていると、実装石はそのまま左へ歩いて行った。
男がまたわざと視線を空へ向けると、またこの実装石がこちらに歩いて来た。
その時、男はある事を考え付いた、この実装石にも俺と同じ気持ちを味合わせてやろうと思ったのだ。

男の目の前を何度も歩いて来るミミは、何とか自分を男に気付いてもらいたくて必死だった。
自分の方から声を掛ければそれは簡単なのかもしれない。
だがミミには変なプライドが邪魔をして素直にはなれず、どうしても自分から声を掛ける事が出来ない。
その結果ミミの足りない頭で考えた事は、男が自分に声を掛けるまで目の付く場所にいようだった。
ミミは自然に振舞っているつもりだったが、その歩き方や視線は実にぎこちなく男の目に止まった。

『ちょっと』

「デス?」

男は目の前のミミに声を掛けた。

『やぁこんにちは』
『可愛い実装石だね』

もちろん嘘だ、言った自分も心の中でゲーっとばかりに声を出している。
だがいきなりそんな言葉を言われたミミは、天にも昇る気分だった。
ポカンと口を開けたまま、歩くポーズのままで固まっている。

『実は君みたいな可愛い実装石を、僕は捜していたんだ』

ミミは手を広げ「デスデスデス」と必死に自分をアピールした。
男は何を話しているのか分からなかったが、リンガルが無ければ実装石と話せ無い事を思い出した。
携帯を取り出すと備え付けられているリンガルモードを開いた。
本格的な物ではないが、それでも最低何を言っているのかは分かる。

『どれどれ、何て話してるんだろう』

「ワタシの名前はミミデス、ニンゲンさんは運が良いです」
「偶然にもワタシに目を付けるなんて、本当に幸せ者デス」

何だか勝手な事をほざいてるなと男は感じたが、これぐらい性格が悪い方が騙しがいもあるだろう。
心の中でほくそえむと、歯が浮くような台詞を実装石のミミに続けた。

『なんで君みたいな可愛い実装石が、公園で野良をしているんだい?』
『普通なら君みたいな仔は、誰でも放って置ける訳無いだろうに』

ミミも全く同じ考えだった、本物のミミより私の方が遥かに可愛いく賢いのに実際は飼い実装ではない。
この人間は今まで自分が思っていた事を、分かってくれているのだろうか。

「ち、違うデス、ミミは飼い実装だったデス」
「嫌なご主人様から逃げて来たんデス」

ついプライドが邪魔をして嘘を付いてしまった。
この人間には惨めな自分を見せたくないと思ったからだ。
勿論、男はこの実装石の言っている事が作り事だと、その汚れた姿から分かっていた。
元飼い実装なら少しは小奇麗にしている物だし、
第一こんな不細工で小汚い実装石を飼おうなどと言う物好きな人間はいない。

男はそんな事をミミと名乗るこの実装石を見て考えていると、このミミなる実装石は調子に乗ってきた。

「ミミの事を可愛いと思うなら、ニンゲンさんが飼えば良いデス」
「どうしても飼いたいって言うなら、飼われてやらんでも無いデス」

何をふざけた事をと、男は思ったがここはぐっと堪えた。

『い、いや、そう言う訳じゃないんだよ』
『その・・なんて言うか・・僕は君に惚れてしまった様なんだよ』

「デ、デスゥー!!」

『飼いじゃなくて正式にお付き合いをしたいなと、思ってるんだよ』

男は心の中で自分の首を両手で絞めて、ゲボァッとゲロを吐くのを我慢した。
幾ら目的の為とは言え、自分のやっている事が耐えられない気がしたのだ。

惚れた・・お付き合い・・ミミはその言葉を何度も頭の中で繰り返し、呆然としている。
飼い実装なんて上下関係では無い、そんな物は飛び越えた男と女の関係をこの人間は欲している。

『好きだよミミ』

男の言葉を聞いた瞬間ミミは立ち尽くしたまま、ブッバァーと盛大に糞を漏らした。

(ゲッ、コイツ汚ねー、何で糞を漏らしてんだよ、信じられねー)

男はそそくさと立ち上がると『明日また来るよ』と言って、去っていった。

ミミは口を開け、立ったまま失神していた。
糞や小便はパンツの脇からはみ出て、その液体は足を伝い地面を緑色に濡らしている。
はたとミミが気付いた時には、男はミミの目の前から消えていた。

「い、いないデス!・・あのニンゲンはどこへ行ったデス?」

辺りをキョロキョロと見回したが既に男の姿は無く、ミミはガックリと肩を落とした。
ベチョベチョと地面に糞を落としては、公園内をウロウロと男を探し回った。
糞の垂れた後は青い鳥のチルチルミチルの様に、ミミの移動した場所を指し示した。

そしてこの公園にはもう男はいないと知ると、ミミはヘタリとしゃがみ込み両手をダラリと垂らし、
「オロローン」と大粒の涙を落とし泣き始める。

せっかく自分を認めて好きだと言ってくれた人間が今はもういない。
ミミは飼い実装になりたいと言う事など、もうすっかり忘れてしまっていた。
あの男に再び会えるなら、他には何もいらないと感じた。

うな垂れたまま立ち上がると、ミミはトボトボと自分のダンボールハウスへ帰って行くのだった。






                 △



翌日になり朝からミミはあのベンチの近くで、あの男が来ないかと待っていた。
もう一度会えたらどんな事を言おうかと、昨日寝るときに妄想で色々と考えた。
ミミの妄想はあの男との甘い生活を夢見ている。
自分を抱きしめ甘い言葉を耳元で囁き、お互いを見つめ合い熱いキスを交じわす。

その時の事をミミは今も考えていた。
そしてぽわんと顔が熱くなり、胸が熱くなり、股間の総排泄腔が熱くなるのを感じるのだった。
ミミは明らかにあの男に対して、発情をしていた。

「あのニンゲンさんはなんて言う名前デス?」
「今日会えたら名前を聞いてみるデス」

ふと股間から異様な匂いが立ち上るのを感じた。
総排泄腔が熱く濡れた為に、昨日の固まった糞が柔らかくなったのだ。

「こんな姿あのニンゲンさんには、見せられないデス・・」

ミミは隠れている草むらから出ると、公園の中央へ走っていった。







公園の真ん中には大き目の噴水がある。
ミミはその場所へ勢い良く走って行くと、そこで洗濯をしている実装石を押しのけた。

「お前らどけデス!ワタシの邪魔をする奴は何ぴとたりともゆるさんデス」
 
「デギャ」っと蹴飛ばされ声を上げる実装石達はいきなりの事に驚くと、その原因であるミミを全員が注目した。

「オマエはあの頭のおかしな奴デスね」
「ここはみんなの噴水デス、勝手は許さないデス!」

幾分からだの大きな実装石が、今まさに噴水へ入ろうとするミミを叱りつけた。
この実装石はここら辺のボス実装で、力も強いが穏やかな性格からみんなからも慕われている。

「う、うるさいデス!」
「オマエもワタシの邪魔をするデスか?」

噴水に入ろうとしているミミの体は、さっきの糞はもとより元々の汚れがこびり付いていた。
文句を言った実装石はこんな汚い実装石に、噴水に入られては大変だと声を上げた。

「な、なに考えてるデス、水浴びしたいならそこらの水溜りでやれデス!」
「ここはみんが使う噴水デス、洗濯や飲み水用デス」
「水を使うなら外で水をすくって使えデス」

ミミは「フン」っと鼻を広げると他実装を無視して、ボチャンと噴水に入った。
その瞬間ミミを中心に汚水がブワーっと広がった。

さっきまで透明だった噴水は緑色の糞や、垢や汚れでいろんな色が入り混じった汚水場へと変わる。
それと同時に乾いていた汚物も体から剥離すると、噴水を猛烈な匂いで覆った。

「デジュァァアア」
「コイツ汚すぎデスゥー」
「むわぁー鼻が曲がるデス」

噴水にいた実装石達はあまりの汚さに、その場から走って逃げた。
ボス実装も鼻を押さえたが、ツンとした刺激が目を襲い涙を流した。

一匹で離れて暮らしていた為に、みんなのいる噴水へ近づく事は今まで無かった。
ミミは生まれて初めて体を洗うという行為をしたのだ。
ついでに服も洗おうと、ギューっと実装服を絞ると、
糞で緑がかったどす黒い汚水がダバダバと滴り落ち、更に噴水を汚した。

「ふー、さっぱりしたデス」

ベチャベチャと汚水を辺りに撒きながら、ミミは回りを見た。
回りにはたくさんの実装石達が、噴水を取り囲むように自分を見ている。
その目は憎しみでギラギラと光っていたが、汚水で汚らしいミミに触りたくなかった為、
遠巻きで見ているしか手は無かった、基本的に実装石はきれい好きなのだ。

とは言え汚れた体や服を汚れた水で洗った所で、キレイになる事わけではない。
ミミの体や服に糞や垢の固まりがヘドロ状に溶け、何とも言えない色を醸し出している。
何度もキレイな水で洗えば状況は変わるのだろうが、今のその姿は洗う前より汚れて見えた。

「フン!ワタシは特別なんデス」

実装石達に一瞥をくれると見下した目を向け、ミミはまたベンチの方へ走って行った。

ミミがベンチに近づくと憧れの男が、昨日と同じ様に座っていた。
とたんにミミの顔が真っ赤になった、これが恋をすると言う事なのかとミミは顔を押さえた。

「デ、デスゥ・・」

ミミは男の視線の死角へ歩いて行くと、オズオズと声を掛けた。
男は昨日の実装石が来たんだなと思い振り返る。
だがその姿を見て男は「ブフゥッ」と噴出し、ガタガタと音を立てベンチから立ち上がった。

(なんだぁコイツ汚ね!糞溜まりにでも突っ込んだのか・・)

あまりの汚さに男は実装石を凝視する。
だが当のミミは男が惚れた自分を見つめていると勘違いをしていた。

「デスゥ・・またミミに会いに来たデス?」
「今日は気分が良いから、話をしたいデス」
「ニンゲンさんは何て名前なんデス?」

男は言葉もなく突っ立っていたが、取り合えず実装石の問いには答えようと携帯を出した。

『や、やぁ・・また君に会いに来たんだよ』
『僕の名前は敏明って言うんだ』

「敏明って言うデス?ミミと敏明デスね」

ミミは敏明の名前を何度も心の中で反芻すると、この名前が自分の愛する男の名前だと喜んだ。
敏明の名前を呟きニヤつく実装石、敏明にしてみればなんとも気味悪く映る。
だがそんな事はおくびにも出さず、目的の為に敏明はミミを褒め称えた。

『いやぁー、また来てくれるなんて光栄だよ』
『君みたいな可愛い実装石と僕じゃ、釣り合わないんじゃないかな』

そう問いかける敏明にミミは「デスデスゥ!」と手を振ると、
実装石の決めポーズ右手を頬に当て、顔を少し斜めにすると「デスゥーン♪」と媚びた。

「可愛いポーズに、敏明イチコロデスゥ」

敏明は後ろを向くと、震える右手を左手で押さえ何とか怒りを静める。

(チィィ・・調子に乗りやがって・・メンドーだから殺しちまうか)
(いやいや、それじゃ面白くないもんな)

敏明は両手で口元を掴むと広げ、無理やり笑顔を作り振り向いた。

『今日は君の為に良い物を、持って来たんだよ』

そう言うと敏明はポケットから金平糖を一粒だけ出して見せた。

「あ、あれは、金平糖デスッ!」

金平糖を見たとたんミミは色めきたった。
あれは夢にまで見た金平糖、飼い実装が美味しそうに飼い主から貰って食べていた。
空想はするのだが、一体どんな味がするのか気になってしょうがなかった。
あの形、色、艶、匂い、全てが光り輝いて見えた。

ミミは我を忘れて「デスデス」と両手を上にあげ、懸命にその金平糖を取ろうとする。
だが敏明は金平糖を摘んだ手を意地悪く上下させた。
と、その瞬間ミミは敏明の足にしがみ付いた。

『ゲェー!』

奇声をあげると敏明は摘んでいた金平糖をポトリと落としてしまう。

「デスゥゥゥゥー」

すかさずミミがその金平糖にしがみ付くように倒れこむと、
四つん這いに這いずったまま金平糖を口に入れた。

「あんまーいデスゥ♪」

ミミはその脳天から響くような甘さに酔いしれた。
敏明はベチョリと汚れが付いた、ズボンの裾を右手で摘み上げ「あー・・』と呟く。

汚いパンツをこちらに向けて後ろを向くミミを、敏明は踏み潰したい衝動に駆られた。
が、すんでの所で思い止まる。

敏明は怒りを胸に収めると、濡れた裾が素肌に付かないように「明日もまた来るから」と言って去って行った。

敏明が去った後、寂しさの中ミミは金平糖の甘さを敏明に重ねた。

「金平糖って甘いデス、ホッペが落ちちゃうデスゥ」
「それにしても敏明は優しいデス、ミミの彼氏だなんて夢の様デス」

勿論、敏明はミミの事をそんな風には思っていない、夢と言っても間違いでは無いだろう。
ミミは金平糖の甘さを脳裏に刻み込むと、自分のダンボールハウスへ帰って行った。
そして敏明との甘い生活を何度も何度も夢見て、妄想するようになる。

その妄想の間ミミは幸せな気持ちで一杯になった、この時間がいつまでも続けばと思った。





                  △



ミミと敏明の奇妙な関係は一週間ほど続いた。
その間、敏明はミミの為に金平糖や実装フードを持って来てプレゼントした。
まるで好きな女性に男がプレゼント攻勢を掛けているかのようだった。

ミミは何度も餌を貰う内に、貰ってばかりでは何だか悪いと思うようになる。
そして敏明が望めば自分の清い(?)体を差し出そうと心の準備をしていた。
毎日、他実装の迷惑も考えず噴水で水浴びをして、体を清めたりもした。
その甲斐もあってかミミの体は、次第にキレイになって行く。

そんな時、何の気なしに公園を歩いていると、何かの雑草だが花が咲いていた。
ミミはその花を何本か抜き取ると、敏明の為のプレゼントにしようと考えた。

女が男に花を贈る、人間の様な行為にミミは自分を人間の女の様に妄想した。
そして花を受け取る敏明が、自分に愛を打ち明ける場面を妄想するのだった。

ミミは顔を赤らめると花を片手に、急いで待合い場所へ向かう。

「トシアキー!ミミを待ってたデス?」

『あ、あぁ?まぁね、それにしてもミミは今日も可愛いな』

ミミは「デプッ」っと笑うと、後ろに隠した花を敏明に差し出した。

『はぁ?・・なんだいそれ』

ミミは「トシアキにプレゼントデス」と満面の笑顔を讃える。

(ククク・・幸せそうにしてやがるぜ)

花を手にすると敏明は『ありがとう、ミミみたいに可愛い花だね』と喜んだ振りをする。

「そんな花よりミミの方が可愛いデス」と厚かましくミミは答えた。

敏明は花を握り締めると(もうそろそろだな、落とし所は)と思った。


敏明はその日を境にピタリと公園に現れなくなる。
ミミは毎日毎日、雨の日も風の日もベンチで敏明を待ち続けた。
まるで悲劇の主人公の様にミミは不安な日々を送った。


そんな事があったある日、ミミは公園の外の道路であの花が無造作に捨てられているのを見つけた。

「これは違う花デス」と勝手に思い込むと、ミミはまた敏明の為に違う花を捜しに行った。







続く




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