実装石の日常 渡り ここまでのお話 双葉児童公園は愛護派の餌付けと放置で野良実装の増加と飢餓が起こる。 親実装は生き延びるため今の公園を捨て、家族を引き連れ新天地となる公園を目指す 「 渡 り 」 を決行。 だが公園はあまりに遠く旅路は危険が多い。 渡りの一家 親実装:仔実装を生き残らせるため非情に徹する…? 長 女:生存 次 女:3女を救うため轢死 3 女:生存 4 女:生存 親実装への反抗を扇動 5 女:渡りに参加できない蛆ちゃんとダンボールに残って生き延びようとするが、わずか数分で食い殺される 6 女:猫に襲われた傷が元で死亡 7 女:生存 8 女:はしゃぎすぎて体力を浪費、渡りから脱落 9 女:レストランのゴミ捨て場に残留して死ぬ 番 外:蛆ちゃん 5女と共に家族から見捨てられたがそれも理解できず食い殺される 山間部は日が沈むのが早い。薄暗くなると親実装は仔を歩道の隅に寄せて休息した。 渡りを始めて3日目の夕方、レストランで補給した生ゴミに舌鼓をうちながら坂道の先を見る。 あと1kmほど先にはトンネルが見え、後は下り坂。 しかしあと1kmがなかなか曲者である。渡りの一家はすっかり疲弊していたので、それだけの距離、 しかも今までより急勾配を踏破できるとは考えられない。 大量に得られた食料も問題になっていた。ビニール袋に詰めるだけ詰め込んだので、 ペットボトルを出して片手で抱えねばならなくなった。 500mlのペットボトルだが、幼稚園児の半分もない体格の彼女にとっては大変な重荷になってしまう。 食料自体の重量も無視できないが、これを担げるのは彼女のみ。 「一日ここで休んでいくデス」 思い切った判断を下した。 一日休息して有り余る食料と水を消費して体力を回復させ、一気に上りきる。 重たい荷物も減らせられる。 ただし、問題はろくな寝床がないことだ。 歩道に落ちていたボロボロのビニールシートを路面に敷き、余りで身を包む。 優雅とは程遠いがないよりは遥かにマシである、秋風はもうかなり冷たいのだから。 歩道と山を隔てる柵には消費者金融の無許可看板が設置されているので、それを壁代わりにする。 雨がないのは実は大変恵まれているのだ、場合によっては肺炎をおこして仔実装の大半は死ぬ。 苦難に満ちた渡りを経験すれば、その方が良いと思う仔実装も多いだろう。 目の前の国道を引っ切り無しに走る自動車の騒音とライトにも慣れ、いつしか一家は眠りについた。 翌朝、目を覚ます一家であったが、今日は歩かなくて良いと聞かされていたので4匹の仔実装はご機嫌だ。 まだ豊富な生ゴミで朝食を済ますと、痛んだビニールの上に寝そべる。 親実装は生ゴミを入れたビニール袋を漁っていると、中にナイロンロープが入っていることに気づいた。 慌てて生ゴミをかき集めていたので、混入したらしい。 一部にはなぜか血痕がついていたが、気にも留めず彼女は袋に戻した。なにかの役に立つかもしれない、と。 さてここまで上に上ってくると通行人はほとんどおらず、いてもわざわざ相手にしない。 車道は引っ切り無しに自動車が走るが彼女らには無関係だった。 空は薄い雲が広がり暑くもなく寒くもない。誰しも疲れているのでいつの間にかうたた寝していた。 昼食を終えるもやはり横になって、まどろんでいる。 そして薄暗くなると夕食にとりかかり、そしてすぐ横になった。 街灯も遠く、自動車のヘッドライトがしばしば一家を照らす。 月明かりも山に隠れて届かず、一家はそれなりに静かな一夜を迎えた。 「……ママ、起きてるテチ?」 寝すぎで眠れないのか、3女が小さな声でたずねると親実装はあっさり起きた。 「お前も眠れないデス?トイレデス?」 「ママに教えて欲しいことがあるテチ」 「……なんでもいいデス」 寝付かせようとはせず、夜話に付き合うようだ。彼女も眠気がやってこないのだろう。 「どうしてママは公園の場所が分かるテチ、誰かが教えてくれたテチ?」 「大人になると分かるデス、ママも小さな頃は分からなかったけど、大きくなったら、なんとなくある方向が分かるデスー」 そして今向かう公園以外も察知していることを告げる。 「そっちでも良かったテチ?」 「そっちのは小さな公園ばかりデス、隠れる場所も少ないし仲間が少ないと 黒いのに襲われやすかったりしてとっても危ないデス」 住宅地にあるような小規模なものでは噴水もなく、トイレもない。それに付近住民にすぐ駆除されかねない。 そのくせ狭い空間なのでよそ者を入れるゆとりもなく、先住の実装石がいたばあい排斥されるのがオチだ。 「…………………………」 「…………………………」 語ることもなく、静かになる二匹。山と山のあいだから垣間見えるのは、満天の夜空に輝く星々。 時々虫が鳴く。 「……ママは思い出したことがあるデス」 黙って顔を見るいる3女。 「ママのママが話していたデス、ママのママのママは、ずっと前にずっと遠くからやって来たデス」 「どれくらい前にどれくらい遠くからテチ?」 しばし考えて親実装 「お日様が10回昇って、それを10回して、それよりも前デスー。私たちが歩いたよりも遠くデス」 仔実装の気が遠くなる。寿命が短く知識もわずかな彼女らにしてみれば、天地開闢の神話に等しいことだ。 「ママのママのママも公園に住んでいたデス、 でも仲間が増えたり虐待派に襲われたりして住めなくなってきたデス それで私たちの住んでいた公園までやって来たデスー。 そこでママのママを生んで、ママもお前たちを生んだデス」 多くの人々に疎まれ、駆除され、虐待される彼女らにもそれなりに歴史があるのだ。 「ママのママの頃はゴハンが沢山あって、住みやすかったデス。 ママのママのママががんばってくれたおかげで、 私たちがこうしてお話できるデス」 (実装にとっては)壮大な話に胸を打たれた3女は目を輝かせる。 うつらうつらとしていた姉妹たちも横になったまま話を聞く。 「ママのママのママも、大変な苦労だったそうデス。 仔はいなかったけど、ママのママのママのママに連れられて 他の大勢の姉妹とたくさん歩いてやってきたデス」 そう、実際に苦難の行軍が繰り返されてきたのだ。 公園の状態が悪化すれば 「 渡り 」 をするほかない。 ほとんどの実装石は根拠もなく公園にしがみ付き、餓死や襲撃で死に、結局は駆除される。 公園の惨状が末期になれば、必死になって託児したり、飼われようとするがまず徒労に終わる。 異常繁殖した公園実装は付近住民に多大な迷惑になっており、飼おうとするものなど絶対いないか、 恨みがあるものが壮絶な死を与えるかのいづれかしかない。 だがある程度賢い(そうでないのもいる)実装石は、故郷に固執せず公園本能で新たな公園を目指す。 ありったけの食料と家財道具を持ち、いれば仔の手を引き(あるいは見捨てて)。 しかしその旅程はこの一家ほど幸運に恵まれないのがふつうだ。 たまたま遊び盛りの子供たちに見つかり 駆除派や虐待派につかまり カラスや猫の襲撃にあい 上り坂を越えられず行き倒れ 強風や、雨水で冠水した道路に遭遇し 手持ちの食料がつき補充できず餓死し 仲たがいから殺し合いをし……。 そのほとんどは死骸をさらし やがて路傍のシミとなって苦痛に満ちた生涯を終える。 艱難辛苦の果てに目指す乳と蜜の流れる地は、あまりに、あまりに遠い。 神の加護もなくまともな指導者も得られない、それで無事に着くほうがどうかしている……。 「テエエ……。あ、他のお姉ちゃんや妹ちゃんやママはどうなったテチ?」 「……………」 まっすぐつぶらな瞳で見上げる3女に、親実装はすぐには答えずしばらくすると星空をさす。 「他の姉妹やママのママのママのママは、あの星空にいるデス きらきら輝いているコンペイトウに囲まれて幸せに暮らしているデス」 「テヒャア…………どれくらい幸せテチ?」 「……か、飼い実装よりずっと幸せデスー。 一生懸命がんばったから神様のご褒美デス お前も大きくなって、いいダンボールを見つけたら神様がご褒美をくれるデス。 ゴハンをたくさん集めたら神様がほめてくれるデス。 大きくなっても今の話を忘れないで欲しいデスー」 感動に浸った3女が熱心にうなづく。 長女と7女も感動のあまり涙がこぼれそうだ、4女だけは思いつめた表情であったが。 晴れ渡っていた夜空が曇り始める頃には、親も仔も寝息を立て始めていた。 実装石の「 渡り 」の成功率はおおよそ5%とされている。 END あとがき 感想・ご指摘ありがとうございます。

| 1 Re: Name:匿名石 2016/11/16-22:39:04 No:00002812[申告] |
| 実装ファミリーヒストリーか…
作者という「人間」の眼に留まってしまった以上、この血脈には悲惨な末路が待ってそうだが |