タイトル:【スク祭・懐】 蒼穹
ファイル:夏休み/蒼穹.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2933 レス数:0
初投稿日時:2007/09/03-07:42:27修正日時:2007/09/03-07:42:27
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2007年9月1日 スク祭り参加スク お題=夏休み

蒼穹 (遅刻エントリー)

(注)実装成分と虐待成分が薄めですorz


*


「うははははッ!そうだよな、ヒロ、お前も俺も顔に糞を投げつけられたんだよな!」。

「そうそう・・・っていうかトシ!テメェがあらかじめ親実装を押さえて置けば糞だらけになることもなかったんだぞ。
なぁ、ミカ?」。

「あんたら会うたびに昔の話してるわね。本当に飽きないわねー」。

俺たちの友人付き合いも長いよなと思いつつ、ヒロとミカの顔を見た。

俺たちは盆休みになると、みんなそれぞれの職場がある町からこうやって故郷の居酒屋に集まって、
町の花火大会を見ながらビールを飲み交わすという、言わば三人だけの同窓会をやっている。

みんな小学校に上がる前からの幼なじみで、男二人に女一人というグループでずっと友人付き合いしている。
大きいとはいえない町立の小学校、中学校、そして県立の高校まで一緒にすごしてきた。

不思議なことに女一人を挟んで、男二人が恋愛沙汰にならずこうして来れたのは、ミカが男勝りな性格だったからかもしれない。

そして今は三人とも既に職場のある別々の町にそれぞれ家庭を築いている。あ、ミカだけは亭主の町でパートをしてるんだが。

俺は温くなったビールの入ったコップを片手に、汗の染み込んだ座布団から尻を引っぺがすと店のテレビのチャンネルを変えに向かった。
今日は新開発のロケットブースターを使った人工衛星の打ち上げがあって、ニュース番組でその特集があるのだ。

子供の頃、仔実装をロケット花火で飛ばそうとして夏休みを丸々潰したことがある俺にとって、ロケットは今でも心を躍らせられる話題だ。

「大将ー!FHKは何チャンだっけ?」

「トシ!オメーいつからそんな偉そうな口をきくようになった?3チャンネルだよ!」

居酒屋の調理場から店主の明るい怒鳴り声が聞こえる。

「へぃへぃ。3チャンね」。

俺は未だにアナログ放送のブラウン管テレビのリモコンを手にしてFHKにあわせた。

番組は特集が始まって少し経った頃だった。

いつものニュースキャスターが最近の実装石に関する社会状況について説明している。

「・・・この様に、かつて異常な繁殖率を誇り、不快生物として駆除の対象でしかなかった実装石は、その体組織を
自由に変換できる技術が開発されたことで、有用な資源として価値を持つにいたりました」。

ああ、そうだった。そういえば子供の頃はロケット花火の件もあったし、それ以上によく無意味に殺して遊んだもんだよなぁ。

「・・・その技術の発展は留まる事を知らず、今では生ゴミ、下水の沈殿物、果ては中国沿岸部に大発生した赤潮などの
プランクトンを食料にして、いくらでも増やすことが出来、しかも幅広い用途を持った素材に変換可能になっています。
例えば低価格な蛋白源、家畜用飼料などの食料用途として、あるいは燃料、プラスチック原料などの工業用品として、
その利用の幅の広がりは日進月歩の感があります。
また、この技術は結果的に有機系廃棄物のリサイクル効率を飛躍的に向上させました」。

なんだか今更当たり前のことを言ってるので、チャンネルを変えるかと思った頃、いよいよ今回の核心に入る話を始めた。

「・・・今回、ロケットの固体ブースター用燃料として品種改良された実装石は、画期的な技術により、
与えた餌の持つエネルギーの大半を爆燃性の物質に変換して体内に蓄えます。
今日はこの画期的なロケット燃料実装の指揮を執った、主任研究員にスタジオに来ていただいて、その開発の経緯や
苦労につい色々伺って行きたいと思います」。

カメラが研究員に切り替わった。

「本日は打ち上げ成功おめでとうございます、そしてお忙しいところスタジオまで来ていただき有難うございます」。

キャスターがお決まりの台詞を語り、ゲストの簡単な紹介を始めた。

俺はテレビを半分、ヒロとミカの馬鹿話を半分に聞きながら、FKHのチャンネルを思い出せなかったことに軽く自己嫌悪を覚えていた。
悲しいかな、故郷を離れて子供が小学校に上がる頃になると、もう故郷の放送局のチャンネルさえド忘れしてしまうものなのか。

これも仕方ないこと。人生は出会いと忘却の連続だ。などど、何処かで聞いた言葉で自分を慰めてみる。
しかし、こうして浅く酔った頭で幼馴染達と一緒に居ると、あの頃の夢のようなひと夏の記憶がよみがえって来る。

それは蒼穹を貫く緑色の軌跡。
俺は/僕はその夏空を貫く僕たちの夢の結晶を、記憶の中で/野球帽の中の瞳で追いかける。


*


夏休みも8月に入り、すっかり頭が休みモード全開の小学生二人組みが、沼のほとりでなにやらゴソゴソとやっている。

「ヒロ!今日こそは、今日こそは成功させるからな!」

トシがビニール袋から大量のロケット花火の束を取り出す。

「なぁトシ、今まで色々やったけど結局そのたびに糞だらけになって終わりじゃん。
仔実装をロケット花火で空に飛ばすなんて無理なんだよ。みんな地面で破裂して終わりだったろ」。

トシの道楽に付き合っているヒロは呆れた様に応えた。

「何弱気になってるんだよ!絶対出来るって。今日は一匹当たり1ダースも使うんだぜ。今度こそ巧く行くって!」

むきになって反論するトシにヒロが話しかけようとするとミカがやって来て、手を振りながら二人に叫んだ。
片手には妙に膨らんだコンビニ袋を提げていた。

「ヒロー!、トシー!仔実装捕まえて来たわよー」。

トシにまだ何か話しかけようとするヒロを尻目に、トシはミカに向かって駆け出していく。

「よっしゃーっ!何匹捕まえた?」。

ミカは薄っすらと緑色が透けて見える白いコンビニ袋をトシの目の前でぶら下げて見せた。

「今日は1匹ね。昼間の暑い最中は実装石ってあんまり外出しないから見つけにくいのよ。
こんどは早朝に捕まえてダンボール箱にでも閉じ込めておくわ」。

「1匹か。花火が余るな。まぁいいや。サンキュッ!とりあえず禿裸にするか」。

トシはミカから仔実装が入った袋を受け取ろうとすると、ミカはそれをヒョイとトシから遠のけた。

「禿裸にするなら私がやっておくからあんたはロケット花火の準備をしてなさいよ」。

「おっ!流石はミカだ。それじゃ頼んだぜ。糞を投げられないように注意な!」。

トシはそれじゃぁ!と右手を上げて、ヒロの元へ向かった。ミカもその後を追うように袋をブラブラさせてゆっくりと歩き出す。
中からは「テチュテチュ」と仔実装の元気そうな鳴き声が漏れてくる。

ヒロの所に戻ったトシは、ヒロと二人で早速花火を掴んで何か作り出した。
30分もすると、9本のロケット花火を、すだれの様に連ねたものが1組、そして3本のロケット花火を輪ゴムでくくって
1本にまとめた物が1組出来た。

腕組みをして自分たちの仕事に満足している二人、そんな二人にミカが溌剌とした声をかける。

「はい、禿裸1匹上がりーッ!」。

ミカがぶら下げるコンビニ袋の中からは、肌色の何かがゴソゴソと蠢く音と、「テェェェェン!テェェェェン!」とくぐもった
泣き声が聞こえていた。

「ミカは仕事が速いなぁ」。

ヒロはミカがぶら下げたコンビニ袋を見つめた。

仔実装を禿裸にするのは意外と手がかかる。髪を抜こうとすると首ごと抜けたりとか、服を破りとろうとして上半身と下半身を
泣き別れさせたりとか、失敗が多いものなのである。

一見遠回りでも、髪も服もじっくりとあせらず毟り取るようにするのが実は一番確実で早いということを、
男勝りのミカはよく知っていた。
仔実装にとってはそれだけ苦しむ時間が長いのでたまったものではないのだが。

「それじゃ早速取り付けしようぜ!」

トシが仔実装を袋から取り出す。

「ウホッ!相変わらずキモイ感覚」。

禿裸のプニョッとした生肌の感触に思わず声が出る。自分で禿裸にするように頼んでおいて、勝手なものである。

胴体を握られた禿裸は「テェェェェッ?」と鳴き声を上げて手足をバタつかせるがなんの役にも立たず、ヒロがセロテープで
手足を胴体に固定していく。

トシは達磨のようになって身動きの取れなくなった仔実装をロケット花火のすだれに乗せ、海苔巻きを作るように
クルリと胴体に巻いて針金で固定した。

「第一ブースターを装着したので、これで90%完成!お次は発射台にセットだな。その前に第二ブースターをセットしないと」。

トシは三本のロケット花火をまとめた「第二ブースター」を手に取ると、花火側を仔実装の総排泄孔にグィと差し込んだ。

「テチャァァァァ!」

生まれて初めて総排泄孔に異物を挿入された仔実装は、驚きと痛みで両目から涙を流しながら頭を振って悲鳴を上げる。

「トシ、あんたちゃんと口もセロテープで塞いでおかないとうるさいじゃない」。

ミカが女の子とは思えないツッコミを入れる。

「いや、飛んで行くときに悲鳴を聞きたいじゃないか」。

淡々と返すトシ。

トシは、ファンタの空き瓶を土に埋めて、飲み口を数センチ地上に出した発射台に、仔実装の総排泄孔から生えているロケット花火の
軸を差し込んだ。

「やった!計算どおりだ」。

発射台にセットされた仔実装はちょうど両足が地面につくか、つかないかという状態になっている。

「それじゃ今度は俺の出番かな」。

ヒロがチャッカマンを手に仔実装に近寄った。そして仔実装の周りの花火から伸びた個々の導火線に次々と火をつける。
シューッと音を立てて幾筋もの煙が立ち昇る。

「あ、これはダメだ!」。

ヒロはそう叫ぶと第一ブースターの導火線に全て着火した後、第二ブースターにあわてて火をつけてトシとミカの下へ駆け出した。

次の瞬間、シャーッ!と花火から炎が噴き出す。仔実装は「テェェェェェ!?」と悲鳴を上げる。

「何がダメなんだよ?・・・ってああッ!」。

トシが叫ぶ。

「確かにこれじゃダメね」。

ミカもヒロに同意した。

今までは総排泄孔に数本のロケット花火を詰めていたので、導火線は一本によじっておけば着火のタイミングを一致することが出来た。
しかし仔実装の総排泄孔に収まるロケットの本数には限りがある。

トシは、今回この上限を打ち破るために、ソビエト方式のロケットをまねて仔実装の周りに花火を配置した。

この方法は好きなだけ本数を増やせる利点の代償に、点火のタイミングが一致させるのが難しく、花火の噴射は点火されたタイミングに
左右されてしまう。よって全てが一緒に推力を生み出す時間はとても短くなる。

現に三人の目の前では、火薬までに導火線の火が到達した順に炎が噴き出し、その推力の方向やタイミングがバラバラな事から
あちこちから小突かれたように軸を中心にしてクルクルと回る仔実装のファイアーダンスが繰り広げられていた。

「テテッチャァァァ!テチャ!テチャチャチャチャァァァァァ!」

炎を纏って悲鳴を上げる仔実装を見てミカが面白そうに言った。

「まぁこれはこれで見世物としては面白いかもね」。

やがてそれぞれの花火は燃焼の最終段階に到達し、パン!パン!と乾いた音を立てて破裂した。
仔実装はその度に体を硬直させて海老反らせた。

ちなみに総排泄孔に挿入された花火は推力だけではなく、仔実装の最後を彩るための仕掛けでもあった。仔実装ロケットは今回も
空を飛ぶことはなかったが、その仕掛けだけは有効に働いたようである。

パーン!

最後にひときわ大きな破裂音がした。仔実装の肉体は、体内に急激に発生した圧力に抗しきれず、その形を保つ事をやめてしまった。
つまり、爆散したのである。

あたり一面には火薬の燃えたツンとした臭いと、何か小動物を轢き殺した様な生臭い臭いが立ち込めていた。

「くっそぉぉぉぉー!」。

トシが野球帽を地面に投げつけて悔しがる。

「花火を増やしてもこれじゃなぁ」

ヒロがぼやく。

「でも面白い見世物だったわー。二学期になったら校庭でみんなに見てもらわない?」

男のデリカシーを理解しないミカがニコニコしながら言う。
トシはミカに不機嫌な視線を向けると悔しそうに言った。

「やり方を変えないといけないな。基本的な考えは間違っていないはずなんだ。燃焼さえ一致させることができれば・・・」。





「ふーん、君らこんなことやってるんだ」。

三人が仔実装の爆散した辺りを見つめている背後から、男の子の声が聞こえた。

「あ、あなた転校生の・・・・・・・・・誰だっけ?」。ミカがボケをかます。

その男の子はミカを無視する様に語り出した。

「僕はタカ。君たちの仕事見せてもらったよ。
仔実装を禿裸にする。これは空気抵抗を減らして安定化させるという点で有効だ。
ロケット花火を仔実装の周りに配置するというアイデアも数の制限を取り払えるので良い。
着火タイミングの改良に気がついたのも正しい」。

三人がポカンとしているところにタカは続けた。

「でもまだ足りない。君たちのアイデアは基本的な事は良いけど、仔実装を高く大空に飛ばす為にはまだクリアしなければ
ならない問題が沢山ある」。

「タカも仔実装ロケットに挑戦してるのか?」

トシは口を尖らせて尋ねる。

「まぁ、僕なりにね。でも一人ではなかなか出来ない事もあるんだよ」。

「なんだ、お前もまだ飛ばせてN」 「それじゃあなた、ええとタカだっけ?私たちと一緒にやらない?」。

ミカがトシの言葉を遮っていきなりな提案をした。

「ミカ!お前何をいってるんだよ?」。

トシがミカに食って掛かる。そんなトシにミカが反対にぴしゃりと言った。

「なに言ってるのよトシ!今回のは絶対成功するって言って失敗してるじゃない。毎回仔実装を捕まえてくる身にもなって欲しいわ。
それにね、あなたの考えが正しいって認めてくれてる人じゃない。きっと巧くやっていけるわよ!」

一見厳しい指摘だが、この年齢の時は女の子の方が精神的な成長が早い。
この春に転校してきて、いまだなんとなくクラスに打ち解けられなかったタカを打ち解けさせる為に、彼女なりに即席で
一計を案じたのだった。

「ねぇ、タカもいいでしょ?私たちと一緒にやってくれないかしら?」。

タカはちょっと上目遣いでミカを見るように言った。

「べ、別に僕は君たちと一緒にやりたくT」 「いーじゃない!四人寄れば文殊の知恵っていうのよ!」

ミカは今度はタカの言葉を遮るように駄目押しした。

「はい、それじゃこれから私たち4人は仲間よ?一緒に仔実装ロケットを成功させましょう!」。

ミカはトシと転校生タカの右手を持つと無理やり握手させた。
実はトシにとっても新しいメンバーはありがたかった。アイデアも出尽くしたと思っていたところだし、もう一つ、ロケット花火を買う
お小遣いも三人だけでは限りがあったからである。

「なー、ミカ?」。

ヒロが呟く。

「ん?なに?」。

「文殊の知恵は3人だよ」。

「あら、そうだったかしら?ウフフ。そうとも言うわよねぇ」。

負けず嫌いなところも男勝りのミカであった。


*


タカを加えたメンバー達は、はじめこそぎこちなかったが、直ぐに馴染んで仔実装ロケット製作に没頭しだした。
もともと同じ物に興味を持つもの同士だけに、打ち解けるのは早かったのだ。

まず、タカの提案で始めたのはロケット花火の推力の測定。
むやみに花火の本数を増やしても着火のタイミングの管理が難しくなるだけというタカのアイデアに三人は頷いた。
彼らはロケット花火に釣りの錘をつけて、何グラムまでなら飛ばせるか丹念に調べて、もっとも推力が大きく、
かつ製品ごとのバラツキが小さいメーカーを見出した。

そしてその数値を元に平均的な仔実装を空に飛ばすには、今までのロケット数本のレベルではどうにもならないことが分かった。

そのために彼らは、多数のロケットを保持するために、アルミ製の針金でフレームを製作した。
この作業は手先の器用なヒロが大活躍した。

4人の夢はまるで一気に歯車が噛み合った機械のように形を持って動き出したのである。

理論のタカ、行動力のトシ、何でも作るヒロ、そしてみんなをバックアップしてメンバー同士の良い雰囲気を保つミカ。
4人の仲間はまさに一つの目的に向かって進むチームであった。

貴重な夏休みを費やして、一つ一つ問題を解決してきた4人の前に立ちはだかった最後の問題は、発火装置だった。
これはトシの行動力が解決の糸口を手繰り寄せた。

「へっへー、ニクロム線ゲットだぜ」。

登校日の翌日、トシがニクロム線を幾重にも巻いたものを持って、ロケット製造をしているヒロの部屋にやってきた。
丁度メンバーが集まって打開策を見つけたというトシを待っていたのだ。

「これと、長さを揃えた導火線を持ったロケット花火で、同時着火が可能になるな」。

ヒロがそういって嬉しそうに作業に入ろうとしたとき、ミカが尋ねた。

「ねぇトシ、あなたこのニクロム線どうしたの?まさか理科室から盗んで・・・」。

「そういうと思ったよ〜違うよ!先生に夏休みの工作の宿題に必要だから譲ってと頼んだんだよ」。

「あーよかった。この中から犯罪者なんて出したくないもんねえ。ねぇ、タカもそう思うでしょう?」。

「・・・・・・・」。

「タカ?ねぇ聞いてるの?」。

「・・・・え?あぁそうだね」。

タカは何故か上の空だった。

「それでトシ、工作の宿題ってなにか作ってるの?」。

「いや。実はなんも考えてないんだ。ミカー!どうしよう!」。

後先考えずに先走るのも、トシの行動力の一つなのであった。


*


みんなで作り出した仔実装ロケットは、夏休みの最終日の昼過ぎに完成した。
しかし最後になって一体と思われたチームにさざ波がたった。

翌日の始業日に学校から帰ったら、いつもの沼のほとりで打ち上げようというトシに対して、タカがどうしても
夏休み中の今日すべきだと主張して譲らなかったのだ。

「どうしたんだよタカ、いつも冷静で、何でもいったんダメ出しをしてからやるべきっていうお前らしくもないじゃないか!」。

「今までみんなで苦労して作ったんだから、すぐに見たいのは普通の感覚じゃないか!大丈夫だよ、この仔実装ロケットは
完璧だ。どこも問題はないんだ」。

ミカとヒロが二人のやり取りを困ったように見ていた。やがてミカは意を決したように言った。

「ね、それじゃ今日打ち上げしましょうよ。それで巧く行けば私たちのミッションも完了。巧く行かなかった、そのときは総演習と
考えて、またがんばって二号機を作りましょうよ」。

このままお互いの主張を続けていたら、確実に仲たがいしてしてしまう。そう感じていたトシとタカは、ミカの提案に助けられた
形になった。

無言のまま、ヒロの家でみんなで冷麦を食べると、ミカを除く3人の男子たちは夏休みを費やして作った装置を手分けして
沼のほとりのいつもの場所へと運んだ。

昼下がりの太陽に焙られながら装置を運んでいる最中、タカがトシにポツリと言った。

「・・・トシ」。

「・・・なんだよ」。

「・・・ごめん」。

「気にすんな。それに正直言えば俺も早く結果を見たかったんだ」。

「うん」。

二人のわだかまりはこの瞬間に消えた。少年同士のいいところである。

いつもの場所へついた三人が発射装置を組み上げていると、いつものようにコンビニ袋に仔実装を詰め込んだミカがやってきた。

「男子諸君!発射装置は出来たかなー?乗組員候補は今回3匹いますー!」。

「お、凄ぇじゃん。よりどりみどりだな。しかも禿裸済みかよ」。

トシはまだ禿裸にされたばっかりで、まだテェェェンと泣いている仔実装たちの中から、小ぶりなペットボトルに丁度すっぽりはまりそうなのを
一匹取り出すとヒロに渡した。

ヒロは上下を切り落として筒状に加工したペットボトルに禿裸を詰め込み、組み上げたロケットに固定した。
そして、最後までみんなを悩ませた着火装置を配置して、これで発射準備は整った。

トシが晴れ晴れとした顔で言った。

「出来たな」。

タカもミカもヒロもみんな嬉しそうな顔をしている。

ヒロが一歩装置に進んで言った。

「実はみんなで一緒に発射の瞬間を味わいたくて、こんなスイッチを作ってきたんだ」。

その黄色く四角い押しスイッチは少し大きめで、子供の人差し指が四方から押さえられるような4つの窪みがあった。
ヒロはそのスイッチを発火装置につないだ。

「すげぇじゃん!みんなで同時に押せるんだな!」

トシはそういうと早速スイッチに指を置いた。

ヒロが残りの二人にも指を置くように促すと、タカとミカもスイッチに指を置いた。

そしてヒロはロケットの仔実装の所に行くと、仔実装の口に何か突っ込んで、「それじゃこれは餞別だ」。と言って
スイッチのところに戻った。

仔実装は「チュゥゥゥゥン」。と嬉しそうな鳴き声を上げる。

四人が揃ったところでカウントダウンが始まった。

「10・9・8・7・6・5・4・3・2・1」

そして一呼吸おいて、一斉にいっそう大きな声で叫びスイッチを押す。

「ゼロ!」ポチッ

加熱されたニクロム線に結び付けられた導火線が一斉に煙を上げだした。
そして、全てのロケット花火がほぼ同時に炎の奔流を噴き出す。

次の瞬間、仔実装ロケットは今までの苦労が嘘の様に、あっけなく青空に吸い込まれるように一直線に飛んでいった。

息を呑んでその飛ぶ先を見つめる四人の瞳、その瞳に緑色の軌跡が映った。

「あの仔実装ウンチもらしたのかしら?」。

ミカが呟く。

「いや、見ててくれ」。ヒロが何か知っているかのように返す。

燃焼が最終段階に達すると、それぞれの花火は一斉に破裂し、仔実装を固定したロケットは一瞬煙に姿を隠した。

パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!

トシ達がこれでロケット打ち上げも終わったと思った次の瞬間、「テチャァァァアー」という鳴き声が聞こえたかと思うと、
煙の中から飛び出した仔実装が、今度はウンチの奔流を従えてさらに高度を上げていく。

「テチャァァァァァァァァァァァー!」

そして数秒後、仔実装は「チベッ」っとひときわ大きな悲鳴を上げると、パチーンと湿った音を立てて爆散した。

沼の水面にベチャベチャと音を立てて仔実装だった破片が落ちて幾つもの波紋を作る。そしてその上空には緑色の霧が
広がっていた。

「発射は大成功だったけど、最後のは何だったんだ?ヒロ、何かやったろ?」

トシがヒロに水を向ける。

「ふふ、仔実装に派手な最後をプレゼントしたくて、発射直前にドドンパを食わせたんだ。まさか多段ロケットみたいになるとは
思わなかったけどね」。

「そうか!多段ロケットか。来年はそれに挑戦だな!」

「トシ、あなた懲りるって言葉を知らないのね」。ミカはあきれた様に言う。

トシは空を見つめるタカに向かって言った。

「来年も一緒にやろうぜ!いや、もう明日から準備を始めないとな」。

「うん、そうだな。多段ロケットかぁ、いつか絶対飛ばしてやりたいよ」。

タカは何か気の抜けたような声で応えた。

「あっ!見ろよ!」。

ヒロの指差した先には、緑の霧に作られた小さな虹が浮かんでいた。

「きれいー。でもあれ、仔実装がもらしたウンチの虹なのよね」。

四人は声を合わせて笑った。

発射が終わったら、今度は後片付けの時間だ。

男子達は装置の解体を始めた。

ミカは使わなかった仔実装達を沼にポチャポチャと投げ込んだ。
仔実装達が沈んだ辺りにはそれを狙ってなのか、魚が集まる水紋が見えた。

発射装置を片付けているいるとき、タカがヒロに言った。

「なぁヒロ、このスイッチ貰ってもいいかな?」。

ニクロム線の回収に夢中になっていたヒロは、上の空でいいよいいよという感じで指でOKマークを出した。

「ありがとう、ヒロ」。

タカはスイッチをポケットに詰め込んだ。そのとき彼は何故か少し寂しそうな表情をみせた。


*


翌日の始業日、タカは学校に来なかった。

朝礼で先生からタカが父親の仕事の都合で再度引越し、転校したという話があった。
しかし、それは子供向けの理由というやつで、普通の会社でそんなに頻繁に転勤があるはずがない。
短期なら単身赴任という手もあったはずである。

後年、トシ達が聞いたところでは、離婚訴訟でタカの親権が母親に移ったので、母親の元へ連れて
行かされたということが本当の所らしい。
そして、本当は夏休み中に戻るはずだったらしいが、タカ本人がどうしても夏休みの間は残りたいと
強硬に主張したらしいということも後の話で知った。

残された三人は、次の夏に仔実装ロケットを作ることはなかった。


*


「さぁ、ではここで新開発された実装固体ロケットブースターについて開発者から簡単に説明していただきます」。

俺はテレビのニュースキャスターの甲高い声で我に返った。
テレビの中でさっきの研究員がCGや写真を使いながら燃料実装の説明を始めていた。

「・・・このロケット燃料用実装は、総排泄孔が無い状態に品種改良されています。
与えられた餌は、体内の多重らせん構造に配置された消化器によって餌の持つ熱量のほぼ100%を爆燃製の物質として体内に
蓄えます」。

研究員の話を受けて、今度はキャスターが屋外スタジオの燃焼実験へと話題を振った。

「では、ここで実際にどの程度の燃焼性を見せるのか、屋外スタジオに用意された燃焼装置で実験を見ていただきたいと
思います」。

テレビ画面が屋外スタジオに切り替わり、若い女性キャスターが画面に映った。

「はーい、こちらは燃焼実験装置前です。これが今回、ロケット専用に開発されたロケット燃料実装を説明するためモデル燃料です。
この透明な超耐熱強化ガラスで作られた装置にぎっしりと燃料実装の蛆ちゃんタイプがつめられてます」。

屋外スタジオのキャスターが示した先には、耐熱性と機械強度の双方を兼ね備えた、特殊なガラス状実装樹脂で作られた
大きな試験管のような容器が鉛直に設置され、その底にはニッケル合金で出来たノズルがセットされていた。

そしてその中には数百匹の蛆実装が詰め込まれていた。

容器の中の蛆はレフレフ、プニフープニフーと間抜けな鳴き声を上げていたが、下に行くに連れて重さで苦しいのだろう、レフィーレフィーと
悲鳴を上げるもの、あるいは壁際では潰れかけて物言わぬ肉塊と化しているものもいた。

研究員が簡単にコメントを付け足した。

「ここでは蛆実装タイプによる実験を見ていただきますが、実際のエンジンでは蛆実装ではなく仔実装タイプを使います。
燃焼効率、燃料室への充填効率、更に成長の為に必用な餌の経済性をあわせて考えると、仔実装サイズが燃料としては
最も効率的なのです。蛆タイプの燃焼性は本来の仔実装タイプに比べてかなり低いのですが、それでも驚きますよ」。

そして容器の底に設えたノズルからピョコンと飛び出た一匹の蛆実装の尻尾に火がつけられた

火を着けられた実装は急激に襲った熱さに驚いて、レ?レレレ?レレレレ?レピャァァァァァァッ! と悲鳴を上げながら火達磨になる。
間を置かず、その炎は回りの蛆実装たちに燃え移り、爆発的に燃焼が連鎖していく。
あっと言う間に容器の中から蛆実装達の悲鳴の重奏が湧き上がる。

「熱いの来るレフ!怖いレフ!レレ?レピャァァァァァァァァァァァ!」。ボン!
全身を炎で炙られた蛆実装たちは、蛆服が発火するよりも早く体内の爆燃性物質が発火し、口腔、鼻腔、眼窩から
青白い炎を噴き出す。

燃焼は容器の下から上へと連鎖的に続き、30秒ほどで完了した。
薄黒くすすけた容器の中には何も残っておらず、僅かにノズルからポタポタとタール状の液体が数滴たれるだけだった。
その液体のたれる地面は炎の勢いと熱で大きく穿たれていた。

この光景を見て、研究員が満足したように言う。

「いかがですか。全くと言って良いほど燃えカスがありません。如何に燃料として純度が高い物か、ご理解いただけたかと思います。
実際のエンジンでは、燃料仔実装達は可燃性の実装樹脂で固められた状態でロケット内部に納められています。
これは共食いや発射の際の振動による質量の偏りで、ロケット全体のバランスが崩れるのを防ぐ工夫です」。

キャスターが話を受けてインタビューを続けた。

「なるほど、今後の国産ロケットの展開にとって大きな転換をもたらしたのが、この実装石によるロケット燃料の開発なのですが、
画期的な開発へのモチベーションになったのは何なんでしょうか?」。

研究員はそれに応える。

「もちろん、組織全体としては、国産ロケットを世界最高水準にしたいという目標があります。
しかし個人的には、子供の頃の夏休みの思い出がその出発点になっています。
沼のほとりで3人の友人たちと一緒に飛ばすのに成功した、仔実装ロケットの記憶は今でも色あせる事はありません」。




俺はエッ?と思った。

沼のほとり?

三人の友人?

仔実装ロケット?

全部俺の記憶と重なる。

そしてさっきまで馬鹿話で盛り上がっていたヒロとミカも、いつの間にかテレビの画面を食い入るように見つめている。

ミカがテレビを指差して、堰を切ったように喋り出した。

「この人、タカだよ!ほら、夏休みに一緒にロケットを飛ばした!ほら、よく見てよこのネームプレートに書かれた名前!
タカに間違いよ!」

テレビには黄色い押しスイッチが映し出された。いや、それはスイッチではなく、このロケット燃料用実装石プロジェクトのマークだった。

「これはプロジェクトのシンボルマークで、4つの組織がかかわっていることから、このようなデザインにしました。でも、実は
子供の頃に飛ばした仔実装ロケットにゆかりの品を図案化したものでもあるんです。今ここで白状しちゃいますが」。

研究員、いや、タカはあのときの黄色い発射スイッチを今でも心に持ち付けていた。
そしてカメラを通して視線を俺たちに向けると語り出した。

「トシ、ヒロ、ミカ、みんな元気かい?そして見てくれているかい?私は君たちと一緒に仔実装ロケットを飛ばしたあのタカだよ。
あの時の君たちとの思い出の夏があったから、私は自分の夢を追い続ける事が出来たんだ」。

俺たちは固唾を呑んでテレビの中のトシを見守った。

「あの時は急に転校してすまなかったと思っているよ。でも、最後の日まで普通に、仲間の一人としてやりたかったんだ。
このプロジェクトも一段落ついたので、今週末に君たちと一緒に過ごしたあの町に行くつもりだ。
あの沼のほとりで、仔実装ロケットを飛ばした時間に待っている。これを見ていたら、是非来て欲しい」。

俺は驚きから醒めると急に嬉しくなった。そしてこう言わずにはいられなかった。

「行くさ。仔実装とロケット花火を用意して行くさ。なぁ、ヒロ、ミカ?」。

ヒロは頬杖をつきながら、テレビ画面に向かってビールの入ったコップで乾杯をしていた。

ミカは携帯電話で何か大声で話していた。

「あ、もしもしFHKですか?今の話に出ていた三人組の友人です!タカにつないでいただけますか?本当に男ってあんな
あやふやな約束であえると本気にしているんだからおめでたいのよ!結局私が面倒見ないといけないんだから!」。

俺たちはこの年になってまで、ミカの世話になっているんだな。そう思うと、なんかおかしくてどうしょうもなかった。

おしまい

鍋屋◆LCl66aXKxk


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遅刻デスorz

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