「」は実装石が大嫌いであった。 小さな子供の頃、公園を占拠する実装石に集団で殴られ、泣きながら逃げ帰ったことがある。 小学生の頃、誕生日の日に、母の買ったバースデーケーキの入った袋に、よりにもよって 託児した実装石がいた。無論ケーキは食われ、箱の中は糞まみれである。 箱を開けたときの驚きと絶望と。なにより中の仔実装の満足そうな顔は一生忘れまい。 中学生の頃、女の子を好きになった。とても好きになったので「」はいつかの告白を決めてもいた。 ある時、その子が風邪になり、学校を休んだ。「」はクラス委員長の権限で堂々とプリントを届けに行く役を得た。 その子の母親にせっかくだからお見舞いしていって、と中に通された。もちろんそのつもりであった。 ……その子の家には一匹の実装石が飼われていた。 「このしょぼいニンゲンはなんデス? ワタシの家になんのようデス?」 廊下で出会うなり客に侮蔑の言葉を投げかける糞蟲であった。しかし家族にとっては愛らしい家族らしい。 彼女の部屋に入り、二、三、他愛無い話をする。そこに女の子の母親がケーキを持ってきた。 二人で美味しいねと頂き、すこし話も弾む。 そこに先の実装石が入ってきた。 「あっ、そのケーキはなんデス!? ワタシのケーキを食べたデス!?」 というなり 「このバカニンゲン、早くでていくデス!」 と言って糞を投げてきた。 「おわっ!?」 ベチャッ 糞は巧く「」の顔に命中する。 「……こ、この……!!」 昔から実装石には良い思い出はない。そして先からの糞蟲の暴言ぶり。挙句の果てに顔に糞を当てられる……。 一瞬で自分でも信じられないほど血の気が上がり、自制が聞かなくなる。 バシッ 思わず手が出る。 「デッ!?」 吹っ飛ぶ飼い実装石。脆い実装石はそれだけで顔がへこんで目が飛び出した。 「デ……デ……デェェェェン!!!!」 「キャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」 飼い実装に手を出したこと。そして殺しかけたと言うこと。 彼女とその親は可愛いペットを虐待した「」に激怒して家から追い出した。 ——「」の恋は終わった。 次の日から学校でペット虐待家のレッテルを貼られ、一様に可愛いもの好きである女子は みな「」を無視するようになった。 「」は実装石が大嫌いだ。 二度と係わり合いになりたくない。 しかし何の因果か、憎い実装石は吸い寄せられるように「」に今日も迫るのだった……。 「クソ……ろくなもん残ってない」 「」は仕事帰りにコンビニに寄って弁当を買うことにした。 品のない棚から不味そうなスパゲティをしぶしぶ買って店を出る。 店を出てしばらくたった家路の途中、袋の異変に気づく。 まさか。 こっそりと気づかれないように覗く。 ……やはり実装石だ。 託児である。 「またかよ……!」 男は実装石に取り付かれていたとも言っていい。こんなことは社会人になってからも既に何回あったことか。 託児はもとより、家に帰れば実装石に侵入されている、道を歩けば実装石が群がってくる。 子供の頃から、そして社会人になってからも押し寄せる実装石に、「」は本当にうんざりしていた。 昔はいちいち憤怒して、"目に入る糞蟲を全て叩き潰していた"こともあったが、今はもうそれも面倒になった。 毎日残業の社会人なのだ、そんなことをおおっぴらにやるほど暇じゃない。 こういうのもポイと捨ててそれで終わりである。 ……いつもだったら。 「テッチュ〜ン♪」 プラスチック容器の中に入り込み、両手でパスタをかき集めて口に押し込んでいる仔実装。 よほど腹が減っているのかがっつくように食べ、全身ソースにまみれている。 「(もしかして……)」 後ろを振り返る。 ……いた。 うす汚い大きな実装石がつけてきていた。恐らく親実装だろう。子供もつれている。 つまりこうだ。託児したニンゲンの後をつけ、家にたどり着いた後、ドアを叩き、 その子を飼うんなら私たちも飼うのが当然と言って寄生する気だろう。 ブリ……ブリ…… 愕然としている中、嫌な音と異臭が広がる。発生源は……手の袋の中。 実装石が糞をしている。例の、お決まりのアレだ。 「(ああああああああああ。 今日も一生懸命仕事をして疲れてるってのに。 毎日ろくなことがないのに。なんの恨みがあるんだ。 なんでそっとしておいてくれないんだ……)」 「」は今日は特にストレスが溜まっていた。 ——あることで、会社を辞めてきたのだ。理由は別にたいしたことじゃない。 ただ、道で纏わりつく実装石をつい蹴飛ばしたのが、たまたま目撃した愛護派のOL団体のお気に召さなかったらしい。 そこからあることないことの噂が流れ、疎まれ、こちらもやる気をなくし成果も伸びず……自主退職。 本当にくだらない。こんなつまらない退職の理由ってあるのだろうか? ゆっくりと沸点が上がる。同時に、疲れているのに、面倒は嫌だ、と思いながら。 手を汚れるのも構わず、そっと「」は袋の中の仔実装を掴みあげる。 「テチャアアア!?」 糞をさらに漏らしながら喚き散らす仔実装。手が糞にまみれるが、どうでもいい。 泣き喚いた実装石が見た「」の顔は、とてもやさしい笑みを浮かべていた。 「……テチュ〜ン♪」 笑顔に安心したのか媚を売る仔実装。 「テチ、テチュテチュッ!」 (御主人さま、もっともっと美味しいものほしいテチ。金平糖くれればもっと幸せテチュ♪) しかしリンガルも持たない「」には何を言っているかわからない。 「」はついてきている親実装石たちにおいでおいでをした。 その「」の笑顔と手の仔実装の笑顔。親実装は自分の幸運に確信を持った。 「デッスゥーン♪」 「「「テッチュ〜♪」」」 嬉しそうに駆け寄ってくる親子。 (これでワタシたちも飼い実装デスゥ。今日からこのドレイをこき使ってみんなで幸せになるデス!) (やったテチ! 早速家に連れて行くテチー♪) (フカフカおフトンとおいしいゴハンと甘いおやつとぽかぽかオフロってどこにあるテチ?) リンガルを持たない「」には奴等の言葉はわからない。 しかし何を言ってるかは十分予測可能である。経験とあの忌々しい笑い声とで……。 「……ふんっっ!!」 突如「」は手の実装石を握りつぶし、全ての憎しみを込めて駆け寄ってきた親実装に全力投球した。 ボチャッ! 鈍い音を立てて顔が陥没する。突然のことに悲鳴も命乞いも出ない。 「」は素早く飛び掛って絶命寸前の親実装を踏みつける。 ゴチャ! ゴシャ! ゴシュ! あっという間に脆い実装石の体は厚さ1cm以下の肉隗になる。 糞が飛び散って服の裾が汚れることも気にしなかった。 笑顔のドレイが殺実装石鬼に豹変したことに周りの仔実装は一瞬理解できなかった。 「」は続けて、固まって見上げ、逃げる素振りのない仔実装を次々と思い切り踏みつける。 「このッ! クソッ! 蟲がッ! 畜生めッ!」 「デッ!?」「!!」「ブチッ!」 グシャ! ビチャ! ブシャ! ブチャ! 破裂音が響く。 やがてあたりに響く音は「」自身の息遣いだけになった。 残骸を見ると軽い爽快感と気だるさが身を包む。 「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ…………ッハァ……」 ——その場には肉隗と糞と体液と匂いと不快感だけが残った。 「はぁー……」 大きくため息をつき、糞しか入っていない袋を道端に捨て、とぼとぼと肩を落として家路についた。 無言でアパートの家のドアを開ける。 いつもの真っ暗い空間。しかし何かが違う。 風が吹きこんでいる……しかも……物音。 一瞬どういうことかと考えたが、すぐに疑問は氷解する。 "また"、である。 「ア……ハハ……ハハハ……あーあ……」 笑うほかない。もう幾度あっただろうか。 いやもうそれはいい。 クビと託児と進入と。ここまで悪いことが重なるのは、どこの悲劇の物語だろう。 家に入り、リビングに立つと暗い中で見えるのはベランダへの戸が割られ、 カーテンがはためいている光景。そして奥からの物音。奥には台所がある。 電気をつける。 「デス?」 フローリングの床の上には割れたガラスの破片、いくつかの石、糞か泥で出来た足跡、 朝出た時よりもさらに汚い室内が目に入る。 そして冷蔵庫は開いており、そこに薄汚い実装石が数匹、殺到し、うごめいていた。 外側の実装石らは振り向き「」を見上げていたが、冷蔵庫の中に入って食料を漁っている実装石は こちらに気づかず一心不乱に、買って数日放置していた惣菜ものを掻きこんでいた。 「デスー!」 「デスデッス!」 「……デス?」 (ニンゲンデス。ようやく帰ってきたデス) (先に食べてるデス) (ニンゲンデス?) 「」は無言で彼らの傍にひざまづく。 数えれば全部で中くらいのが四匹だ。 「デスデス。」 「デッスーン。」 「デス。」 「デスデスデス。」 (ろくなものがないデス。何か他にあったら出すデス) (金平糖はどこにしまってあるデス?) (お前をドレイにしてもいいデス。でもこんな食べ物じゃ許さないデス) (服を取替えたいから用意するデス。先にお風呂でもいいデス) 何か言っているが、「」は何を言ってるかがわからないし特に気に留めることもなかった。 無言で一匹をこちらに引き寄せる。 「デスゥ?」 (何するデス? 可愛いワタシを抱きたくなったデス?) 「………………!!!!」 「」は目の前近くで憎たらしい実装石の姿を見て、しょぼくれていた自らを一気に奮い立たせた。 無言で渾身の力を込めて拳を叩きおろす。 グシャ! 「デ……!」 「デスーッ!?」 「デス……?」 周りの実装が驚く。「」は潰され即死した実装石を、さらに何回も叩き潰した。 グシャッ! ドチャッ! ブシャッ! 顔は無表情だ。もはや肉隗と糞の混合物になったそれにただ拳を振り下ろし続ける。 グチャッ グチャ プチャッ ……………………………………………………。 「っはぁ……。」 ひとしきり叩き続け、もはや叩いた実装はただのゴミとなっている。 手を止め、軽いカタルシスに恍惚とした顔を、他の実装に向ける。 「デスデ……ス……!!」 「デ……、デッスーン……♪」 「デヂャーッ!」 (ごめんなさいデスもうわがまま言わないデス) (おナカがすいてただけデス許してほしいデス) (助けてデスー) 他の実装はそれを見て糞をブリブリと下着に垂れ流し涙を流して命乞いと媚びをする。 一匹は逃げようと割れたガラスの方に一目散に走っていった。 怯えて大人しくなっている実装石を見て、一匹駆除して落ち着きを取り戻した「」はふと思った。 こんなものですましていいものか……。 自分をこんなにうんざりさせる生物に対し、"再び"強烈な報復で自らを満足させようと思った。 ……愛護派もいない、近所の目もない、他の誰も見てない、時間はできた……ここには糞実装石と自分だけしかいない。 可愛らしく醜い、汚らしい実装石をみていると悪意と昔の思い出がムクムクとこみ上げてきた。 今までは仕事もあったので虐待なんぞする元気はなかった。 以前はこういった家宅侵入も実装石を単純に潰して生ごみとして捨てていただけだった。 「(やはりただ殺すだけでは面白くない……久しぶりにやるか……)」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 小さな頃から実装石を憎み続けた「」は、主に高校生時代の時に実装石に対してそれは苛烈な虐殺を行った。 手足をちぎる、ボールにして遊ぶ、全裸にして髪をむしる、そのまま殴る蹴る殺すなどはまだつまらない方だ。 あるときは中世の拷問を、その手の本を片手に全て実装石で試した。 水攻めと称し、木に縛り付けた実装石に横にして仰向けに寝かせ、口に「ろうと」を差込んで水を流し込み続ける。 顔色が紫になったらすぐに水を吐かせ、すぐにまた水を流し込む。これは「」が加減を誤って殺すまで続いた。 別の水攻めもやった。冬に身包みを剥いで、冷水をぶっ掛け続ける。デェェ……と、じわじわと弱る様が愉快だった。 アイアンメイデンをまねて作った、剣山をびっしりと貼り付けた小さなダンボールに実装石をいれたこともある。 あまり痛そうではなかったので、思い切りシェイクした後、火をつけて燃やした。 その他、死ぬまで釘を何本も実装石に打ち込む、釘を木の棒に何本も挿したものを排泄孔に突っ込みかき回すなど。 「」はその残酷な手法に苦しむ実装石に夢中になり、5つの公園から実装石がいなくなるまで、 実装石を用いた拷問実験は続いた。 またあるときは、よくTVや本でみる、あらゆる殺人事件や自殺の方法を再現して遊んだ。 密封した水槽に練炭を炊く。どこかの工事現場からコンクリをくすねて来て実装石を固め、河や池に投棄する、 高いマンションの屋上から放り投げる、電車が来る直前、線路に投げ込む、など。 お気に入りだったのが水槽に水を張って、中に実装石を入れ、そこに電源を入れたドライヤーを放り込み、感電死させたものだ。 「」は感電する実装石が面白く、何匹も公園から連れてきて、捨てられたドライヤーを使っては繰り返し殺した。 ある時は花火大会と称し、実装たちを花火で遊んだ。 ドラゴン花火を実装石の眠るダンボールに点火して入れる。さらにねずみ花火を落とすなど。 そこまででも既にパニックになっている実装石へ捧げるフィナーレはダンボール花火である。 無論ダンボールを燃やすだけだが。そこでよく焼けた実装石は他の実装石へ振舞われる御馳走、餌になる。 その餌を広場に放り、それに群がる実装石で更なる遊びを行う。 爆竹に火をつけ、爆発する前に実装石の喉元に押し込む。体内で連発する爆発と共に踊るように苦しむ様はとても愉快だった。 ロケット花火に親指実装をくくりつけて空に飛ばす。テェェと噴射する糞と共に空へ飛ぶ姿は愉快でよかった。 大きな20連発花火は実装石の総排泄孔に口を突っ込み点火する。発射のズドンズドンと言う音に連動する悲鳴が愉快だった。 手で持つタイプの花火は全て仔実装炙り焼き用だ。服、髪、四肢を引きちぎり、逃げないようにしてから焼く。 いかんせん火力がないので、一つ丸焼きステーキが出来るまでに二十本以上は必要だった。 ただその間、テェェェ……と力なく悲鳴を上げる仔実装の声があるので退屈ではない。 結局実装石が逃げるか殺されるかで、その公園から一匹もいなくなるまで毎晩花火大会は行われた。 あるときはある冬の寒い日に公園中のダンボールハウスと、公園中の実装石の服を剥ぎ取り、 それらを全て燃やして焼き芋を作った。それに抗議する実装石は全て踏み潰した。 焼き芋はいくつか作ったが、別に「」は焼き芋が好きでなかった。ダンボールや服を焼く理由が欲しかっただけだ。 しかし一つも実装石に与えず、その目の前で踏み潰して砂と良く混ぜ、食えないようにした。 その日はその年最大の寒波が訪れた日で、次の日の朝、その公園に行ってみると実装石の裸の凍死体だらけだった。 「」はとても愉快だった。 あるときは解剖をして、中にたくさんの"なにか"を入れて縫合した。実装石はだいたい激しくのた打ち回った末、死んだ。 中に何を入れるかがポイントだった。ゲジゲジ、ゴキブリ、ムカデ、クモ、毛虫と言った蟲。 クギやハリガネ、ボルトにネジといった金物。大量の腐った生ゴミ。または親実装にその子供を埋め込んだりなど。 一番面白かったのは脳にクワガタを入れたときだった。暴れ方が妙で一味違った。 あるときは妊娠した実装石に甘い顔をして、どこかからくすねてきた農薬を気づかれない程度に餌に混ぜて与え、 出産した子供が奇形であったり、既に死んでいるのを親が発狂せんばかりに悲しんでいるのを見守った。 無論親もすぐ便所に流し、後を追わせてやった。 あるときは公園に、そこにすむ全ての実装石の生首を入り口に並べて、正月を祝った。 これは全国新聞でも取り上げられたが、犯人である「」はとうとう気づかれることはなかった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー この「」、実は虐待することにかけては全国でも屈指の実行力を持っていた。 今まではなにかと忙しい社会人になったのもあり、なりを潜めていたが、 何の因果か、実装自身が再び火をつける発端となった。 「」はニヤリと笑うと頭巾を掴んで二匹をユニットバスに持っていく。 もう一匹は既に割れた窓から逃げていた。 「「デヂヤァァァァァァァァァ!!!??」」 激しく暴れて叫ぶ二匹の実装石。 (ごめんなさいデス許してほしいデス) (おかしいデスなんで可愛いワタシをいじめるデス) バスタブに二匹を放り込み、排水溝に栓をして、湯を入れる。 温かい湯に、暴れていた実装石も少し大人しくなる。 「デッ?」 「デス?」 (暖かいデス……?) (お風呂に入れてくれるデス?) 「」の顔は笑顔になっていた。それはこれから起こることへの残酷な笑みだったが、 実装石はそれを愛玩の眼差しに受け取った。 二匹の実装石は安心して服を自ら脱ぎ始めた。 「デッスーン♪」 「デスデス……デププ」 (ありがとうデス良い子になるデス) (なんだかんだ言ってもニンゲンはワタシにメロメロデスゥ) 二匹の実装石は何か勘違いしているようだ。 デスデスと暖かい風呂で戯れている。 しかし、どんどん水位が上がっていく。 首元まで水が着ていい加減苦しくなってきたようで、二匹から笑顔が消える。 「デ……デスデス!」 (お湯を止めてほしいデス溺れちゃうデス) しかし、「」は笑みの表情を浮かべたまま何もしない。 湯はとうとう鼻の上の位置まできた。 ここで「」は湯を止めた。 実装石は背伸びをしてかろうじて水面から鼻を出し呼吸する。 スーハースーハー 「デ……ガボッ……ッ!」 喋ろうとしたが水が入ったようだ。目はこちらを向いて助けるよう懇願の色をしている。 揃ってバスタブのふちをポンポンと叩いて無言で助けを求める。 湯は、もともとの実装石の汚れと、溺れかけたことで漏らしたクソで緑色に染まってすっかり汚れてしまった。 「」は実装石を無視して湯の中に風呂釜洗浄のクリーナーをドボドボと入れた。 これで汚れは残らないといいが。 バスタブに蓋をして、「」は服を脱ぎシャワーを浴びた。 体と服は実装石の体液と糞にまみれてしまっていたからだ。 バスタブを叩く音がいっそう激しくなるが助ける気などない。 「(明日から本格的な躾といこう……)」 シャワーを浴びると、今日一日の疲れがどっと押し寄せた。 バスタブの実装石はこのまま一晩放置するつもりだった。 シャワーを浴び終えたら、中折れ式のスライドドアを閉める。 もしも何らかの方法で湯船から脱出したとしても、このドアは実装には開けられないだろう。 体を拭きながらリビングに戻る。 すっかり荒れた部屋と割られたガラスを見て、これからの面倒な作業を実感させられる。 「……?」 入り口に立っていると、何かの声がするのがかすかに聞こえた。 声のするほうを探す。 「テフー……テフー……」 ソファーの上に仔実装が寝ていた。 「さっきの実装のうちのどれかの子か……?」 眠る仔実装の元に行き、まじまじと見ると、腹は膨れており、口元は汚れていた。 満腹で眠っているのであろうこの蟲はどうも起きる気配はない。 「……いいさ、お前も飼ってやる」 ニヤリと笑うと仔実装をそっと抱き上げ、近くのラックの引き出しを開けて抜きとり、ひっくり返す。 中の小物がドザドザと床に散乱する。そしてその空になった引き出しの中に仔実装を入れ、元のラックにしまう。 簡易式の牢獄である。 「さて……明日から忙しくなりそうだ……。」 昔、実装虐待で鳴らしたその腕と、遊び心が首をもたげてきた。 幸い明日から仕事に追われることもない。明日からの楽しい休暇を思い、「」は眠りについた……。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 次の朝、早朝から耳障りな音に起こされた。 (テェェェェン……テェェェェン……) 布団の中、寝起きのぼけた頭で、何の音かしばし思考する。 そうだ、クソ忌々しい実装石の子供の泣く声だった。 押入れにしまった奴が起きて、暗闇と閉塞感とに怯えているのだろう。 布団から起きてリビングに行く。泣き声はいっそうクリアになる。……結構響いてうるさい。 引き出しを開ける。 「テェェ……!?」 泣くのをぴたりとやめ「」の顔をびっくりした顔で見上げる仔実装。 パンコン状態で、糞の匂いが酷い。 「テッ、テチー!」 (ニンゲンさん、助けてくださいテチィ!) 安堵の表情で何事か言っている。閉じ込めた張本人に何を言っているやら。 無言のまま、引き出しを元に戻す。 「テェッ!? テッ、テテチー! テチィー!?」 (何で助けてくれないテチ!? 暗くて怖いテチ! 助けテチーッ!) 「」は次にユニットバスのほうへ足を向けた。 戸をあけると、クリーナーの強烈なオレンジの匂いがする。どうやら糞の匂いは打ち消せたようだ。 バスタブの蓋を取る。 「デッ!?」 「デスーッ!?」 バスタブの中に水はなく、その中で実装石が二匹、ずぶ濡れで座っていた。 濡れて張り付いた服を着てガタガタと震え、そのオッドアイが暗い中で鈍く光ってこちらを見上げていた。 偶然か意図的か、どうやら栓を抜いて水を捨てたようだ。 チッと舌打ちをするとそのまま蓋を閉めて、自分の部屋に戻る。 「デスデスー!」 「デヂャー!」 (出してほしいデス寒いデスここは狭くて嫌デス) (早く出すデス腹減ったデスいい加減にするデスバカニンゲン) お仲間が殺された時の恐怖は既にないのか、調子に乗り始めている二匹。 黙殺して部屋に戻り、着替えをする。 「」はとりあえず部屋の掃除をすることにした。 リビングにテェェェェンと泣き声が響く中、ゴム手袋をはめ、掃除を開始する。 家具を元に戻し、散らばったガラスと食べかすをまとめて捨て、糞や体液をふき取る。 夜に潰した実装石のミンチを捨てて…… いや、まった。こいつは使おう。 台所のシンクに屍骸を乗せ、掃除を再開する。冷蔵庫のものは全て捨て、消毒液と消臭剤を念入りに吹き付ける。 糞と残飯と体液にまみれていて、初めは捨てようかと思ったが、今日から無職の身、余計な出費はなくさなければ。 リビングを見渡してみる。……こんなものか。あとは割れたガラスの修復である。 これはアパートの管理人に言って修理の人間を呼んでもらえばいい。 とりあえずゴミ袋のビニールをガムテープで割れたところに止めて応急処置。……こんなものか。 さて、実装石どもの飯を作ろう。 まず、台所で先の屍骸をよく水洗いをする。そして服を取り除いて捨て、ナイフを使って皮と肉と内臓と骨を それぞれ取り分ける。昔取った杵柄である。よく実装石の骨だけ摘出して、タコ実装といって遊んだものだ。 むろん、気道や血管、内臓が圧迫され死亡するが、巧く内臓をあまり圧迫しないところの骨をとるのが 少し長く生きるコツである。手早く処理して、筋肉部分をより分け、残りを捨てる。 肉を包丁で手早く叩き、卵と小麦粉とパン粉を混ぜあわせる。そしてフライパンで焼く。 羊の肉をさらに臭くしたような匂いが立ち込める。食通というものに言わせれば、 慣れればたまらない匂いらしいが、やはりこんなものは食えるとは思えない。 野良実装なのであまり筋肉はついてなく、ハンバーグを作っても拳より 二回りくらい小さいものになってしまった。しかし……これでも仔実装の腹は満たせるだろう。 仔実装の引き出し牢獄からは既に泣き声はやみ、静かになっていた。 引き出しを開けると、泣きつかれたのか、目を腫らした子実装がテフテフと寝ていた。 小皿に実装ハンバーグを載せて引き出しに置いて、閉めた。勝手に食うだろう。 それよりも用意するものがたくさんある。 「」は手早く外出の準備をすると、鍵をもち外に出た。 「」は先の実装バーグからこれからの虐待生活に何らかのヒントを得ていた。 (まてよ……無職なんだしこれからの生活も何とかしなきゃ……) 隣町に足を向ける「」の頭の中は、どういう趣向を凝らそうか、ということで一杯だった……。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「ただいまー!」 家にいる実装石たちに良く聞こえるように帰宅を告げる。 荷物でいっぱいの手には複数の袋と箱。袋の中は小さなおまると餌皿、仔実装用のフトン、換えのパンツ、 そしてリンガルとゴムボール、栄養剤、包丁、まな板、携帯式コンロ。 リビングに荷物を置いてひとまず水槽をセッティングする。 水槽は二つ。箱の中にはマトリョーシカのように大きめのと一回り小さいのが重ねて入っている。 そのうち一回り小さいほうをリビングの隅に設置して、中に餌皿とおまるを配置。 「これでいいか」 帰ってからテチー!テチー!とくぐもった叫び声がする引き出しを開ける。 「テッ……!!」 子実装が目を腫らして「」を見上げていた。引き出しの中は糞が所々にこびり付いて異臭を放っている。 実装ハンバーグだけはしっかりと食べたようで跡形もない。 リンガルのスイッチを入れる。 「もうここは嫌テチ! 出してほしいテチ!」 実装石ごとき雨風しのげる所なら充分だと思うが。 「ああ、そうだね、ごめんね。」 「」はその腹の中とは裏腹に、にっこりと笑い、そっと抱き上げて床に降ろしてやった。 「ありがとうテチュ♪ やさしいニンゲンさんで良かったテチューン♪」 全身で開放の喜びを表現する仔実装。 どうやら糞蟲というほどではないが、自分の欲求に非常に素直で単純な仔実装のようだ。 仔実装はキョロキョロと部屋を見渡して 「ニンゲンさん、ママたちはどこテチュ?」 と言った。 「うーん沢山いたからわからないなあ。何匹か逃げちゃったし。」 わざとらしくそういうと、仔実装はじわりと目に血涙を溜めて、泣き出した。 「テッ…………テェェーン! テェェーン! ママー! ママー!」 「大丈夫だよ、今日から僕が君のママになるから。」 人差し指で頭をなでてやる。 しかし、仔実装は泣きやまない。 「テェェェーン! ママー! どこにいっちゃったテチュー!?」 「」はチッと舌打ちをすると、先ほどの買い物袋から金平糖を取り出した。 「ほら、これをあげるからもう泣くのはおやめ。」 金平糖を五つほど足元に転がしてやる。 「……テッ?」 仔実装はぴたりと泣き止み、足元のそれを金平糖と認めると 「コンペイトウテチューン♪」 と喜んでペロペロハフハフと食べ始めた。 「いいかい、今日から君はうちの飼い実装だよ。 コンペイトウも毎日オナカいっぱいあげるし、暖かいフトンとお風呂もあるからね。 だからもう泣かなくていいんだよ。」 「」がそういうと仔実装は食べる手を止め、「ママ……」とつぶやいて、少しの逡巡の後、 「……わかったテチ。今日からここに住むテチ!」 と言った。 現金な蟲だった。 「それじゃあ君の部屋に案内するからね。」 金平糖ごと仔実装を抱き上げて、先ほど設置した水槽の中に入れてやる。 「ここがワタチの部屋テチ? ちょっと狭いテチ……。」 この水槽の四方、実はマジックミラーのようにになっている。 内側からは四方の壁はただの黒いガラスの壁だが、外からは丸見えである。 これは、飼い主に見えないところで、怠け、粗相をする傾向のある実装石の躾の為の品である。 四方が黒い壁で主人が見てないと思い、仲間の蛆を虐めるなどをした実装石を見つけ出しぶん殴る、 というように使う。 しかし「」は躾などするほど長く飼う気もない。他にある目的を持ってこれを買ったのだった。 「部屋の中は危ないからね。ネコとかたまに入ってくるし、その中にいると逆に安全なんだ。」 「テェ……!?」 もちろん部屋に猫など飼ってないし、常時ドアを開け放してるわけでないから猫など入ってこない。 嘘をついてまで仔実装を水槽に入れたのは無論、部屋中を汚いクソで汚されるわけにはいかないからだ。 しかし、野良の仔実装にとって天敵のネコの名前はかなりの効果があったようで、 すんなりと納得したようだった。 「わ、わかったテチ、ここでいいテチ……。」 「いい子だね。それじゃあご飯の支度をするからね。」 そういうと仔実装のオナカがキュルルル……と鳴った。 「ニンゲンさん、ワタチステーキ食べたいテチ! この前のステーキ、すごくおいしかったテチ!」 ミンチにした実装で作ったハンバーグのことを言っているのか。 いきなりステーキを要求するとはやはり浅ましい蟲である。 「ははは、じゃあステーキを作るからね。」 「ホントテチ!? ステーキステーキ、シアワセテッチューン♪」 テチテチと水槽を走り回って喜びを表現する仔実装。 「それじゃあ少し待っててね。」 そういって「」は包丁とチャッ○マン、そしてもう一つの水槽を抱えて、バスルームへ向かった。 こちらの水槽は仔実装の使うものより一回り大きく、マジックミラーでもなんでもない普通の透明のものだ。 音と声があまり漏れぬようドアは入ってからしっかりと閉めた。 水槽をバスルームの隅に置き、包丁を片手にバスタブの覆いを取る。 先ほどと同じく、ずぶ濡れの実装石が二匹いる。糞も垂れたようで、バスタブにこびり付き、異臭を放っている。 「ようやく来たデス! いい加減ここを出さないといくら温厚な私でも怒るデス!!」 「オナカも空いたデス! ここを出してステーキを寄越せば許してやるデス!」 「」は全く無視して実装石の片割れを掴み……手にした包丁で、なんらよどみのない動作で首を切り落とした。 ザクッ 間髪いれず、服ごと腹を裂いて内臓をぶちまけて偽石を探り出し……包丁の柄で砕いた。 実装石はそのまま悲鳴を上げることなく絶命し、その生首がころんとバスタブに転がった。 首を落とした際に、切り口から噴出した鮮血がバスタブともう一匹を染めていた。 「デッ……、デェェェェェェェーーーーーー!!!!????」 もう一匹の実装石が血を浴びつつ、その突然の衝撃的な光景に絶叫する。 ブリブリと脱糞をして、バスタブをさらに汚す。 絶命した実装石の死体はとりあえずこれで放置して、包丁を置いて、そのもう一匹の実装石を掴む。 逃げようとしたようだが、狭いバスタブ内でそんなことできるはずがない。 「ごめんなさいデス許してほしいデス痛いのはイヤデスゥ……」 オロロンオロロンと必死で命乞いをして涙する実装石。 しかし、実装石を心から憎む「」がそれを気に病むはずがない。 左手で頭を掴むと、右の手を騒がしい口に突っ込む。 「デボ……!??」 急に手を口に突っ込まれ、実装石は目を白黒させる。 「……フン!」 「」は左手も口に入れ、上顎を掴み、右手で下あごを掴んだら、 右手に思い切り力を入れて下顎を取る。いや、?ぎ取った。 ボギン! ブッ……ブツブツ……バリッ! 顎、いや、顔の下半分がごっそりともぎ取られた。脆い実装石の体とはいえ、すごい音がする。 頭巾ごと顎部を取ったため、頭巾は破れ、パサリとバスタブに落ちた。 「…………!!!……!!」 絶叫したいようだが舌も口も無く、声など出せるはずもない。 ヒューヒューと勢いよく風が抜けるだけだ。 そのままでは再生してしまうので、裂けたところを○ャッカマンで炙る。 「……!!!!……!!!!」 暴れたり、炙っているところから血が噴出すのもあり、少し手間がかかったが、しっかりと押さえつけ 傷口を焼いて状態を固定することが出来た。これでこの実装石は顎が再生することもなく一生喋れない。 続いて服を脱がす。 「!!!!!!」 それなりに抵抗はするが、所詮実装石なのでたいしたことはない。 問題は糞をブリブリと噴出していることくらいだ。 服を脱がし終えたら、続いてうつ伏せに押さえつけて包丁で髪の毛を乱暴に剃る。 「!!!!!!!!!!!!!!!!」 いくら暴れても糞を垂れても「」の手は止まらない。たまに表皮ごと髪を剃り上げ、 顎なし実装石をスキンヘッドにする。 処置が終わると、バスルームの隅においておいた水槽に、その顎なしハゲ裸実装石を放り込む。 また、先ほど首を切り落とした実装石の死体から、同じように服を剥ぎ、包丁で頭の髪の毛を剃り落した。 暴れない分、楽であった。そして頭と胴体、加えて髪に内臓といったゴミを、同じ水槽に放り込む。 「!!!!!!!!!!!!」 自分の身におきたことと、変わり果てた仲間の死体に絶叫しているらしい顎なしハゲ裸実装。 「」はこれも特に気に病むこともなく、軽く手を洗って、その実装石を入れた水槽を持ち上げ、部屋を出た。 水槽を居間まで持ってくる。 運ばれている間、顎なしハゲ裸実装は死体に背を向け、水槽の隅で頭を抱えてガタガタと震えていた。 水槽はわざと仔実装の水槽の隣に置く。 「テチュ? ニンゲンさん、何をしてるテチュ?」 四方が黒い壁なので「」が何を持ってきたかは仔実装には見えなかった。 無論、吹き抜け(?)なので上は見えるのだが、「」もそのあたりは用心している。 「なんでもないよ。それよりもうちょっと待っててね。」 「テチュ♪」 嬉しそうに返事をする仔実装。 その声に頭を抱えて震えていた「アゴ無し」が顔を上げて隣を見る。 その目に隣の仔実装を認めると 「!!!!!!…………!!!!!…………」 と突如勢い良く立ち上がり、水槽を叩きだした。 と言っても実装石の布のような手ではポフポフという小さな音だ。 (水槽も実装石飼育専用のもので、それなりの防音処置は施してある) 鬼気迫る表情でガラスを二枚隔てた先の仔実装に何かを伝えようとしている。声が出ないので こいつが親なのか、それともただ助けを求めてるだけなのか、罵倒してるのか、「」にはわからない。 しかし、やはり仔実装からはアゴ無しが見えないのだ。 「……何か聞こえるテチュ?」 「」は念を入れて、ラジオを水槽のそばにおいてスイッチを入れる。 ラジオからはどこぞの売り出し中のアイドルの歌が流れ出した。 「!!!!!…………!!!!!」 アゴ無しのたてる音はそのラジオの音にかき消された。 「ニンゲンさん、これはなにテチュ?」 「これはラジオという音楽が流れる機械から歌を流しているんだ。面白いだろう?」 「テチュ♪」 嬉しそうに体を揺らしてテチュテチュテ♪と聞きまねて歌いはじめる仔実装。 「!!!!!………………!!!」 アゴ無しはなおも水槽を叩き、何事か叫ぼうとするが、仔実装には気づかれない。 「」はさらに念には念を入れ、水槽についてきた蓋を使って、アゴ無しの水槽に蓋をする。 空気穴はストロー3本分くらいに、申し訳程度に開いているものの、ほとんど空気の通過はないものだ。 すぐ酸欠になりそうなものだが、これは若干の匂い防止と暴れるのを止めさせるためでもあるらしい。 「!……………………」 これで防音対策は完璧だ。加えて投糞も防ぐことが出来る。 静かになることを確認した「」は蓋を開け、水槽から死体と内臓、髪と服を取り出し、 鍋に移したら再度閉じて台所に向かった。先ほど剥いだ服と髪、内臓をゴミ箱に捨て、死体の調理を開始。 今朝に引き続き、実装バーグである。 まずよく死体を水で洗う。そして皮を剥いでから、骨と身を分ける。 赤身の肉をよく包丁で叩き、みじん切りにした玉葱と卵、小麦粉にパン粉、 そして実装石用の栄養剤を加えてこね、焼く。 実装バーグ第二弾である。 続いては頭部分。 肉叩き用のハンマーで思い切り砕く。 グシャッ ドチャッ 「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 一通り騒ぎ続けて、ふと顔を向けた先にそれを見たアゴ無しはその光景に糞を漏らして恐怖した。 水槽内を叩きまくって脱出口を探るがそんなものあるはずもない。 「……テチュ? 何か音したテチュ?」 マジックガラスの壁に囲まれた仔実装には、仲間の実装石を解体し、 生首を叩き潰す「」の姿も、隣の水槽で騒ぐアゴ無しの姿も見えない。 さらにアゴ無しは喋れないし、蓋もされたため、仔実装には他に実装石がいること自体わからないのだ。 「ステーキステーキ楽しみテッチュ〜ン♪」 「」の実装石のミンチ肉を焼く匂いを嗅いで、ラジオの局にあわせ、機嫌よく歌を歌ってすらいる。 さて、程よく頭を骨ごとミンチにしたら、さらにそれをミキサーにかけ、どろどろにする。 カルシウムも豊富な実装流動食の出来上がりである。 流動食ならば顎がなくても食えるだろう。 「よーし、できたぞー。」 「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 「テッチュ〜ン♪」 二体が正反対の反応を見せる。 まずはアゴ無しの水槽に蓋を開けミキサーをひっくり返して、どろどろの流動食を与える。 無論餌皿すらないので、水槽にぶちまけただけだ。 「…………!!!!…………!!!」 アゴ無しは喋れないながら首をぶんぶんと振り、これは食えないということをアピールするが、 「」は食え、と言葉には出さずに冷めた目で伝え、蓋を閉じる。 そして仔実装には実装バーグを与える。 「ほーら、(ハンバーグ)ステーキが出来たぞー。」 アゴ無しの場合とは全く違い、愛想良く、明るい声で「」は仔実装に接する。 「待ちくたびれたテチュ。おなかペコペコテチュウ♪」 能天気に喜ぶ仔実装は餌皿に置かれた香ばしい(ハンバーグ)ステーキにかぶりつく。 「ほっぺた落ちちゃうテッチュ〜ン♪ ニンゲンさん、ありがとテチュ♪」 「食べたりないならおかわりをすぐ作るからね。遠慮せずに沢山お食べ。」 そういって「」は仔実装の頭をなでる。金平糖や美味しいものをおなかいっぱいくれる新しいママとなった、 「」を見上げる仔実装の顔は、これ以上はないというような幸せそうな笑顔に包まれていた。 すぐ隣で展開される自分との扱いの差に愕然としつつ、「」のおかわりを作るという言葉を聞いて、 クソを漏らして恐怖に震えるアゴ無しとは対照的に……。 「おなかいっぱいしあわせテチュ〜♪」 膨れた腹を抱え、口の周りに食べかすをくっつけた満面の笑みで横になる仔実装。 餌皿にはまだ少し実装バーグが残っている。今回のは、この前の実装石よりは肉のついた固体であったため、 仔実装には食いきれないボリュームになったようだ。 「おいしかったかい?」 「おいしかったテチュ〜♪ また作って欲しいテチュ♪」 実装バーグの評判は上々のようだ。今度の味付けも工夫してみよう。 隣の水槽に目を移す。 アゴ無しは這い蹲ってミンチを啜っていた。 口と言うものがなくなっているため、手で掬い、喉に押し込む。時折ゴボッとむせて吐き出している。 舌ごと顎を毟り取ったため、味がわからないのは幸いかもしれない。 ここで「」はおもむろにメジャーを取り出し、仔実装を計りだした。 「…………もう少し欲しいな。」 「テチュ? 何をやってるテチュ?」 横になっていた仔実装がメジャーをつついてくる。 「」はすぐにメジャーを引っ込めた。 「ああ、なんでもないよ。それよりもおなかいっぱいになったのなら遊ぼうか。」 「わーいわーい、お遊戯テチュ〜♪」 「」はゴムボールを取り出し水槽内で仔実装と指だけ使ってサッカーをやって遊んでやることにした。 「テリューッ!!」 体全体でボールを受け止め、投げ返す仔実装。「」は軽く人差し指ではじくだけだ。 仔実装にとってはその運動量はかなりのもので、しばらくして根を上げた。 「ニンゲンさん、もう疲れたテチュ……。」 「そうか、じゃあここまでにしよう。」 「テチュ〜……」 疲れきった仔実装の顔にはそれでも満足げな表情があった。 その微笑ましい光景を隣の水槽で見ている顎なし裸実装は嫉妬と怨嗟のまなざしで見つめていた……。 手と顔はドロドロの流動食で汚れている。美味いもの(?)を食べ、小奇麗で遊ばせてももらっている仔実装を 睨みつけている。何で私だけ。何であいつだけ。言葉に出さずともわかるその声。 無論アゴ無しも仔実装が優しく可愛がられてるのを見て何もしなかったわけではない。 水槽を叩き、「」に待遇改善を求めてアピールしていたが、「」は目もあわさなかった。 糞を投擲しても水槽の壁や蓋に当たり、結局は自分が糞にまみれたり匂いに苦しんだだけだった。 デェェェンと泣いたりもしたが、「」は全く反応をしない。 これこそ「」の狙いの一つ。実装石をその待遇の差と嫉妬で苦しめることだった。 そして仔実装の側も、横の地獄も気づかずに幸せ幸せと言っていることが、滑稽でならなかった。 もう一つは食糧供給のためではある。実装石ごときに無駄に食費をかけるなど馬鹿馬鹿しい。 「テェ……!」 仔実装は突如立ち上がり、その場でパンツを脱いだ。糞をするつもりだ。 水槽をいたずらに汚されては臭くなって困る。 「ああ、ちょっと待ちなさい。うんちはこっちでするんだよ。」 と言い、仔実装をつまみ上げ、おまるの上に持っていく。 「テチッ……!」 突如抱えられ驚いたのか、ブバッと運ばれてる間に糞を噴出させてしまう。 そのままおまるで糞をさせたものの、水槽に少し糞が垂れてしまった。 「」はチッと舌打ちをするとティッシュで糞を拭い取る。 手間かけさせやがって……。 「」は思わず憎憎しげに仔実装を睨んだが仔実装は背を向け、 脱糞に専念しているのでそれには気づかなかった。 「うんちいっぱい出たテチュウ♪」 脱糞を終え、嬉しそうに「」にいらない報告をする仔実装。 「そうだね。でも今度からそこのおまるにうんちをするんだよ。そうしないと臭いから」 イライラしてはいたが、努めて冷静に伝える。 「わかったテチュ。」 脳天気に応える仔実装。それがまた「」の癪に障るのだ。 部屋の中に異臭が漂う前にすばやくおまるを便所にもって行き、ひっくり返して捨てる。 おまるにこびりついた糞を適当に水で流し、クリーナーを吹き付ける。 部屋に戻り綺麗にしたおまるを水槽に再度配置する。すると 「クンクン……おまる、いい匂いテチュ♪」 といい、仔実装はクリーナーのオレンジの匂いに食欲を刺激されたのか こともあろうにおまるを舐めたのだった。 「苦いテチュ……」 仔実装はその味に顔をしかめてペッペッと吐き出す。 「(げ……)」 「」はまさに糞蟲な、自分の便所を舐める知能の低さに嫌悪感を示しつつも、顔に出さないようにふるまった。 ここでふと、隣の水槽に目を移す。 水槽は糞にまみれ、アゴ無しもまた、糞にまみれている。 「」と目が合ったアゴ無しは立ち上がって水槽を叩き、(恐らく)同じように糞を処理するように要求した。 しかし、「」は汚物を見る目でアゴ無しを見ただけで何もしなかった。 「!!!!……」 いくら騒ごうが無駄であった。 落ち着けばまだ異臭がする。そうだ、この仔実装から匂いがする。 洗浄の必要があるだろう。 「それじゃあ次はお風呂に行こうか。」 「……お風呂テチ?」 首を傾げて聞き返す仔実装。実装石のそのしぐさは可愛い、らしいのだが、「」は無感動である。 さて、この仔実装、風呂の概念を知らないようだ。どおりで臭いわけである。 「お風呂というのは体を綺麗にする楽しいところだよ。」 うんざりしつつもそういうと、抱え上げてユニットバスに連れて行く。 「ホントに楽しいテチュ?」 「ああ、そうだよ、楽しいよ。」 適当にそういうと 「オッフロオッフロ楽しみテチュ〜♪」 と歌いだした。 ユニットバスにつくと、「」は仔実装の服を脱がそうとした。 すると 「!!!何するテチュウ!? 恥ずかしいテチ!」 と暴れだした。 「オフロは服を脱いで入るものなんだよ。」 たしなめるようにそういっても 「イヤテチュ! 大事な服テチ!」 と脱ごうとしなかった。 面倒くさくなり、無理やり脱がした。 「やめテチィ!」 仔実装の抵抗をものともせずスパッと剥いで、洗面器に裸仔実装を置いた。 「テェェェーン! テェェェーン! うそつきテチ! 酷いテチ! 何でこんなことをするテチュ!?」 服を取られたことで、大声で泣き出した。 「」は風呂に入れてやろうとしているのに、仔実装がいらない抵抗をするのに激しくいらだった。 「」はこのまま服を目の前で引きちぎり、本体も叩き潰してやらんとする衝動に駆られたが、ここはじっと堪える。 心を落ち着かせ、「」も服を脱ぎはじめる。 脱いだ服は乱暴に洗濯機に放り込み、スイッチを入れる。そしてドアを閉め、シャワーを開ける。 適度な温水になったのを確認したら仔実装の入っている洗面器に湯を張る。 「テェェーン! テェェ…………テチッ……!?」 暖かい温水で満たされていく感触にぴたりと泣き声を止める仔実装。 仔実装の胸元くらいまで湯を張るとシャワーを止め、「」はボディーソープを手に取り、こすり合わせて泡を立てる。 「じっとしてるんだよ……。」 そのまま仔実装を洗い始めた。 「テェェ……。」 いい匂いと洗われる気持ちよさと、その泡と。 泣いていた仔実装はすぐに機嫌を直した。 「アワアワ気持ちいいテッチューン♪」 ご機嫌なようで、洗われている間にも泡だらけの湯で泳ぎだそうとするくらいだった。 「こら、じっとしていなさい。」 体と髪を丁寧に洗ってやる。 「テェェ……苦いテチィ……。」 何故か石鹸水(?)を飲んでいるようだが気にしていてはキリがない。 気にせずごしごしと洗う。 一通り洗ったら、今度は汚れた服をとり、横で適当に揉み洗いをする。 「あっ、ワタチの服テチ!」 と言って洗っている途中でその服を引っ張り、着ようとする。 「大丈夫、後で着せてあげるから。それよりもキレイキレイしようね。」 と優しく諭す。 「テチュ……」 洗われた気持ちよさがあったのもあり、酷いことをするという疑いは晴れたのか 渋々ではあるが納得して手を離した。 服もある程度綺麗になったら、共に洗面器から出してシャワーでゆすぐ。 「暖かいテチュ♪」 これで一通り洗い終えた。汚水となった湯で満ちた洗面器をひっくり返し、 数回シャワーでゆすいだ後、再度湯を張り、その中に仔実装を入れる。 「気持ちいいテチ♪」 とジャバジャバと泳ぎだした。手間をかけさせられたがこんなものでいいだろう。 「」はついでに実装石二匹を監禁していた風呂釜も洗った。 血と糞を洗い流し、ブラシでこすり汚れを落とす。最後に風呂用クリーナーを吹き付けて終わり。 そして「」自身も体を洗いおえたら、 「それじゃあ出ようか。」 と仔実装に告げる。 「もうちょっとブクブクしたいテチィ……。」 テチュテチュと楽しく泳いでいた仔実装は風呂が気に入ったのか、もう少し入っていたいらしい。 「今日はもう終わり。明日また入れてあげるから。」 そういうと仔実装を抱き上げる。仔実装は手の中で 「テェェ……。」と残念そうな声を上げた。 風呂から上がり、タオルで拭いてやる。 いままでこれほど柔らかい布で体を拭かれたことはなかった仔実装は幸せそうな表情だった。 「テッチュ〜ン♪」 髪と体、一通り拭いてやると、「」自らも体を拭き、服を着る。 「」だけが服を来て、仔実装は裸のままである。脱衣所脇の洗面台に置かれた裸仔実装は 「ニンゲンさん、ワタチの服はどこテチュ?」 と言ってきた。別に実装石ごとき裸で飼うのが一番面倒がなくていいのだが。 "とりあえず満足に甘やかしてみると決めた"以上は服を着せてやらねばなるまい。 「これを履きなさい」 と「」は買ってきた実装石用のパンツの封を開け、真っ白なパンツを履かせる。 値の張る服など、実装石ごときに買ってやる金などないが、実装石用の下着は安いので買ってきたのだ。 今まで糞の緑色に染まったパンツしか履いていなかった仔実装はその白いパンツに目を輝かせた。 「パンツ♪ パンツ♪ 白いパンツ♪ 嬉しいテチュ♪」 即興の歌を歌いはしゃぐ仔実装。 仔実装の服は先ほど洗ったばかりでびちゃびちゃに濡れている。 服を絞って、ドライヤーで乾かすにしても時間がかかるだろう。 何とかしばらく裸のままいてもらうようなだめる必要がある。 こういう場合、早めに寝かすに限る、と「」は考えた。 とりあえず居間の水槽に戻す。 「ニンゲンさん、服はどこテチィ? ワタチの大事な服テチ。」 本当に服は命と体の次に大事なようで、しきりに気にするパンツ一丁の仔実装。 別に濡れた服を着せてもいいのだが、今体調を崩されても困る事情があった。 「大丈夫だよ。それよりお布団に入れてあげるから。」 「おふとんテチ?」 布団も知らないらしい。所詮は野良、寝る時はただ地面に横になるだけ、ということだろう。 買い物袋の中から買ってきてやった布団を取り出す。安物であるが保温効果は充分だ。 これくらいは買わねば"うまく育ってくれない"。 水槽の中に実装用フトンを敷いてやる。 「さあ、横になってごらん。」 「テチィ……。」 言われたとおり横になった仔実装に、掛け布団をかけてやる。 「どうだ、暖かいだろう?」 「」は優しく問うと 「うんテチ♪ ふかふかで気持ちいいテチ♪」 ともぞもぞと万歳をして極上の笑顔を向けてきた。 「」はさらに仔実装が良く眠るように、引き出しからオルゴールを持ってきた。 「」が子供の頃から持っているもので、この年になってもメロディーが気に入り、どうにも手放せないものだ。 ネジを巻き、水槽の近くにおいてやる。 (ピンポロパンポンピロリラリラリラ……♪) 「綺麗な音テチィ♪ 何の音テチ?」 「これはオルゴールといってこういう綺麗な音楽が流れるんだよ。気に入った?」 「うんテチ♪」 しばらくテチュテチュ♪とメロディにあわせて歌っていたが、フカフカのフトンと綺麗な音に魅了されるように 次第に仔実装は眠りの世界へと入っていった……。 仔実装が眠ったのを確認すると、さて……とばかりに横のアゴ無しの水槽に目を向ける。 実は仔実装に構っている間、水槽をずっとたたき続けていたが、「」はそれを無視していた。 声は出せずともなにがいいたいかはすぐわかる。 なぜ可愛い私よりそんなやつを構うのか。どうして服と布団を同じように与えないのか。ということだろう。 あるいは私の子を返せ、だろうか? どうだろう。「」にはアゴ無しがこの仔実装の親かどうかはわからないが。 それよりも今はまだ昼。 部屋を見渡せば応急処置をしたままの割れたガラスと、まだ少し汚れた室内。 「」は騒ぐアゴ無しを無視して、腕まくりをし、昼いっぱいは掃除に励むことにした……。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
