実装石の日常 渡り④ ここまでのお話 双葉児童公園は愛護派の餌付けと放置で野良実装の増加と飢餓が起こる。 親実装は生き延びるため今の公園を捨て、家族を引き連れ新天地となる公園を目指す 「 渡 り 」 を決行。 だが公園はあまりに遠く旅路は危険が多い。 渡りの一家 親実装:仔実装を生き残らせるため非情に徹する 長 女:生存 次 女:3女を救うため轢死 3 女:生存 4 女:生存 親実装への反抗を扇動 5 女:渡りに参加できない蛆ちゃんとダンボールに残って生き延びようとするが、わずか数分で食い殺される 6 女:生存 7 女:生存 8 女:はしゃぎすぎて体力を浪費、渡りから脱落 9 女:生存 親実装への反抗を扇動 番 外:蛆ちゃん 5女と共に家族から見捨てられたがそれも理解できず食い殺される 昼過ぎ、住宅地の空き地の茂みの中で渡りの一家は休憩していた。 とはいえ食事も無く、わずかに水をいくばくか啜ったのみであった。節約しているが食料も水もあと一回分にも満たない。 最優先で食料探しが必要なのだが、仔を引き連れて見知らぬ土地ではそれも叶わないし、仔を隠しておける場所もない。 この茂みも、そうそう役には立たないだろう。 飢えた仔も静かだ、猫の襲撃がさすがに堪えたらしい。おかげで親実装もいくらか休息できている。 もっとも心身ともに疲労困憊した親実装は考える力も無くしかけていた。 完全に失えば、住宅の屋根から見張っているカラスの餌食。 1時間もすると、親実装もなんとかしなければと立ち上がる。 「ママはこれからご飯を探してくるデス、危ないからお前たちはこの茂みから出たらだめデス」 力なく仔たちは応えるが、4女と9女は返事さえしない。 親実装もそれを叱ろうともせず、空き地を出て行った。わずかな幸運は痺れを切らしたカラスが去っていたことだが、 渡りの一家は生命の危険に気づきもしなかった…。 結局親実装は手ぶらで帰ってきた、収穫ゼロである。 疲れているにもかかわらず、彼女は丹念に食料を探してきた。 だがゴミ捨て場にはまったくゴミがなく、その辺に放置されたものもない。 危険を冒して人家の周りも探索するがまったくなにもない。 以前なら幸運に恵まれれば食べられる物がしばしばあり、失敬したのだが。 野良実装の増加とともに、その食料となるゴミの問題が市民の間で意識されるようになった。 時間外のゴミ捨ては厳禁となり、野良実装の手がとどく場所に食べられるものを置かないようになってきている。 ************************************* とぼとぼと帰ってくると空き地から賑やかな声が聞こえていた。 「おいしいテチ!」 「初めて食べたテチィ!」 何事かと親実装が駆けていくと、空き地の中で仔実装たちが他の実装から食べ物を与えられていた。 「デスウウ!!!!」 親実装は仔の何匹かを突き飛ばして見知らぬ実装との間に割って入る。 「お前は何者デス!私の仔に何の用デス!」 デシャアアア!と威嚇交じりに問い詰める。 「ママ、おばちゃんはご飯をくれただけテチィ」 長女が緑色の塊を見せながら言う。見れば他の仔も同じような塊を齧っている。 「ママは馬鹿テチィ」 聞こえるように突き飛ばされた4女が呟いた。 注意深く、親実装が見知らぬ実装を見る。 着ている者は綺麗な色彩のままの服、ポシェットを担ぎ肌や髪はつやがある。 ……飼い実装デス!? 一目瞭然であった。野良なら風雨で着ている物は傷み、肌も埃にまみれ髪はほつれている。 「こんにちはデス、私はグリグリというデス」 威嚇に驚いたが、気を取り直して自己紹介する飼い実装。 「実は私、迷子でこのへんをうろついてたデス。そうしたらここから」 と、指の無い手で茂みを指す。 「仔がお腹減ったと泣いてるのが聞こえたデス。だからフードを分けてあげたデス」 しばらく親実装は声もなかった。 飢えに苦しんだ生涯で、親以外から食べ物を分けられた記憶などないし、自分も与えたことは無い。 自分の家族ではないものの、他の家族が食べ物を奪い合って姉妹を殺すのを見たこともある。 ……飼い実装は別世界デス どれだけ豊かな生活をしているのか、彼女には想像も出来ない。 気づくと、実装フードが差し出されていた。 「あなたもお腹が減ってるデス、遠慮せずに食べて欲しいデス」 聞くが早いか、フード奪うようにとると口へ押し込む。 旨い。実に旨い。ドライフードにすぎないが、実装用の味覚に調整してあるので一粒一粒が本当に旨く感じられる。 しかも長い間空腹だったので、信じられないほど旨い。 そもそも実装フードを口にしたのは、故郷の公園に愛護派がやってきて餌をばら撒いていた幼い頃以来だ。 ……あの頃はなんの不安もなかった。ご飯は愛護派のニンゲンが持って来る。お腹が減って苦しむこともなかったし、 仲間同士で共食いすることもなかった。 グリグリの回りに仔も集まって、実装フードを手渡しされる。 親仔は久しぶりにまともな食事にありつけた。 「もうなくなったデスー」 グリグリがフードを詰め込んであったポシェットをひっくり返しても、フードのかけらしか落ちてこない。 残念そうな仔の頭をなでて 「次にあったらまたあげるデス」 と言ってやる。 一応満足した仔たちが座ると親実装はグリグリに興味を覚えて話しかける。 「ニンゲンさんと離れて大丈夫デス?」 「大丈夫デスー。私は時々迷子になるけど最後はご主人様に会えるデス。この間も迷子のとき、公園のお友達となかよくなれたデス」 それで渡りの一家に対して警戒心がないらしい。 野良実装はしばしば飼い実装を殺して入れ替わろうとする。 いわゆる 成り代わり だが、うまくいくことは0%である。 全身に返り血を浴びた野良が 「ご主人様ー」 と寄ってきて誰が自分のペットだと思うだろうか……。 もちろん飼い実装を襲った野良は想像を絶する苦痛をうけてから生涯を終えることになる。 なにより、飼い実装が襲われれば愛護派たちも態度を一変させる。 大抵近くの公園の野良実装が1匹残らず駆除される。 自分の「 可愛い実装石 」を守るために。 公園の野良にもまじめに生きている者が何割かはいるのだが、彼らは容赦しない。 こうして愛護派はしばしば、虐待派よりも残忍な行為を自覚なしにするのだ。 ちなみにこの渡りの親実装はそこまで愚かではないので、成り代わりができるとは思っていない。 「みんなはどうしてここにいるデス?」 グリグリが質問を投げかけてきたので、正直に親実装は答えた。 「住んでいた公園が仲間でいっぱいになってご飯が無いデス、仔をつれて新しい公園を探しているデス 最初は蛆ちゃんも入れて10匹いたのに、もう6匹しかいないデス ご飯もないから辛いデス。歩いていくのも辛いデスゥ」 辛かったことが思い出された。置いてきた5女と蛆ちゃんは生きていないだろう。 8女は愚かさから脱落し、期待していた次女は最後を看取ることさえできなかった。 4女9女を中心に仔は反抗し始めている。 涙ぐみそうになると 「偉いデスゥ」 グリグリが親実装をほめる。 「そんなに大変なのに、仔を連れていてすごいデス。私なら到底ムリデスー」 実装が他者を褒める、ということは珍しい。こと野良実装が褒められることなどありえない。 何気ない一言だったが、親実装は立ちすくんだ。 苦労の連続であったが、自分の努力を認めてくれる存在もあるのだと感動していた。 今度は違う意味で涙ぐむが、グリグリは気づかなかった。 「そろそろ行くデスー。無事に公園にたどりつけられることを祈ってるデス」 手を振ると、仔たちも振りかえす。親実装もやっと手をふってグリグリを送った。 ************************************* しばらく感動の余韻にひたっていた親実装だが、足元にはグリグリがポシェットをひっくり返したとき ばら撒かれたフードの欠片がある。 ……もったいない 這うような姿勢をとると、小さな欠片を拾ってかき集めている。 「お前たちも拾うデス。拾ったらペットボトルを入れるビニール袋に入れるデス」 土まじりだが貴重な食料である、仔もそれぞれ拾い始めた。 猫の爪で顔を切られた6女もせっせと拾う。 拾い終えるとわずかな分量を袋に集めるが、4女と9女は持ち寄ってこない。 いや、最初から集めていなかったのだ。 「お前たち、どういうつもりデス!ママは」 「惨めテチ」 ため息しながら4女。 「飼い実装になれれば拾い食いなんかしないテチ。野良だからこんな辛い目に会うテチ、もううんざりテチ」 ちらりと親実装を見る。 「ママがしっかりしてれば私たちは飼い実装になってたテチ」 気がついた時、親実装は4女を足蹴にしていた。4女の悲鳴。 「ふざけるなデス、何が飼い実装デス!今まで生きてこられたのが不思議なくらいデス!」 見知らぬ飼い実装に褒められて、ようやく自信を回復したところに無神経なわが仔の一言がきいた。 「お前なんか私の仔じゃないデス!どうでも好きにしろデス!!!!!!!」 ************************************* この日はそのまま空き地の茂みで寝ることとなった。 いつものように親実装が宣言したわけではないが、何も言わず茂みのなかで転がったのだ。 親を刺激したくない仔たちは何もいえず、恐る恐る回りで寝るしかない。 4女は口から血が流れていた。加減していても成体と仔のである、蹴りはかなりきいていた。 両目は充血し憎憎しげに寝入った親の顔を見ている。だが親の体温が無ければまだまだ小さい仔は死んでしまう。 憎悪の対象に寄り添って就寝した。 隣りでは6女が熱っぽい表情で眠っていた。 実装石の「 渡り 」の成功率はおおよそ5%とされている。 END
