タイトル:【観察】 実装石の日常 渡り4
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初投稿日時:2007/08/26-16:45:30修正日時:2007/08/26-16:45:30
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 実装石の日常 渡り④

ここまでのお話
双葉児童公園は愛護派の餌付けと放置で野良実装の増加と飢餓が起こる。
親実装は生き延びるため今の公園を捨て、家族を引き連れ新天地となる公園を目指す 「 渡 り 」 を決行。
だが公園はあまりに遠く旅路は危険が多い。

渡りの一家
親実装:仔実装を生き残らせるため非情に徹する
長 女:生存
次 女:3女を救うため轢死
3 女:生存
4 女:生存
5 女:渡りに参加できない蛆ちゃんとダンボールに残って生き延びようとするが、わずか数分で食い殺される
6 女:生存
7 女:生存
8 女:はしゃぎすぎて体力を浪費、渡りから脱落
9 女:生存
番 外:蛆ちゃん 5女と共に家族から見捨てられたがそれも理解できず食い殺される



秋空の弱い太陽が頭上に昇っていた。
いくらか暖かであり、移動する渡りの一家にはありがたい時間であるはずだが、彼女らは動こうとしない。

「今日はここで休むデス」

一家はぞろぞろと古い木造家屋の床下にもぐりこむと、親実装にもたれながら休息した。

生まれてはじめての外の世界、長距離の移動、脱落者を狙うカラス、吠え立てる犬、自動車…。
仔実装はダンボールの外の世界の脅威を思い知らされた。

仔実装の3分の1を半日で失った衝撃で親実装も言葉が少ない。

暗い床下でつぶやく。
「こんなはずじゃなかったデス……」

わが仔を失う覚悟は決めていた。
だが半日で3匹も死なせるとは思いもよらないことだ。あと何日旅が続くか分からないというのに。

差し込む光もいつしか赤い夕焼けと変わっていた。冷たい秋風が吹き込んでくるので仔実装が一層親実装にしがみ付いた。

4女
「寒いテチ」

親実装
「我慢するデスゥ」

長女
「お腹減ったテチ」

親実装
「我慢するデスゥ」

9女
「お家に帰りたいテチ」

親実装
「…………」

不安材料には手持ちの食料の問題がある。腐りかけのニンジンの欠片が一つ、親実装はビニール袋に忍ばせてある。
それがこの一家の食料の全てだ、水はペットボトルの半分までしかない。
移動しつつ餌にありつける幸運に恵まれなければ、公園のはるか手前で餓死がさきにやってくる。

「今夜はゴハンなしデス、さっさと寝るデスー」

疲弊してはいるものの興奮していた仔実装は目が覚めていた、この一言にたちまち不満がわく。

「なんでテチ!今朝もゴハンなかったテチィ!」

「いまゴハンがないデス、我がままを言う仔は置いてきぼりにするデス!」

「テヒャアア!」

突如、7女が泣き出す。

「置いてきぼりは嫌テチ!置いてきぼりは嫌テチィィィ!!!!8女みたいに置いていかれるのは嫌テチャアア!!!!」

ヒステリーと言えるほどの悲鳴に、親実装が慌てる。

「わ、我がままを言う仔だけデス」

「置いて行かれるテチ、置いて行かれて黒いのに食べられちゃうテチィ!お腹が減って死んじゃうテチィ!
 テチャアアアア!!!!!!!!!!!!」

なだめるのに一苦労する親実装であった。この騒ぎで他の5匹まで涙目である。

結局、親実装はニンジンを取り出した。もっとも喚声をあげる仔たちに親実装は酷烈な声で言う。

「みんなで少しだけ齧るだけデス!」

家人が置き忘れたのか古いすだれがあったので、ひとかじりの食事が終わるとその上で転がる一家。
食事をした以上、もうなにもすることがない。親実装は小さくなったニンジンをビニール袋にしまい込むと就寝した。



*************************************


どこかで鳥のさえずりが聞こえる。

ゆっくり目を覚ますといつものダンボールの中。ではなく、どこかの家の床下である。
朝日で美しい庭先が見えるが、渡りの一家に感慨はなにもない。まったくない。

「お腹減ったテチィ」

「ゴハンはないデスゥ」

断言して仔実装を失望させてから、一応ビニール袋の中をまさぐる。

親実装の顔がこわばる、ニンジンが小さくなっていたのだ。夕食で小さくした以上に、指の無い実装石の手触りでもわかるほど、
明白に小さくなっていた。あたりまえだが親実装はニンジンをあれから食べた記憶はない。

……このなかに糞蟲がいるデスッ!

怒りと失望で額に血管を浮き上がらせながら、仔実装を見渡す親実装。
のびをしたり、あくびをする仔実装だが間違いなく盗み食いをしたものがいるのだ。

……なんていうことデス、こんなときに!

野良の割にはこの家族の仔実装はレベルが高く間引きがなかった。しかし、いまやとんでもない糞蟲が混じっている。
新たな食料を得られないこの状況下では手持ちの食料はかえがたい存在だ。
次に食料を得られるか、飢え死に寸前にならない以上、親実装はニンジンに手をつけない覚悟であった。
このニンジンの有無が一家の生存に関わると判断したのだ。

それを家族が寝静まった暗闇でにやけながら食らった奴がいる。

もう少し理性がなければ、親実装は喚き散らしていただろう。

しかしそれはあまりに危険な行為。
人家の下である、人間に見つかる可能性は高いし、無駄な労力も考え物だ。

不機嫌そうな顔つきで、親実装は出発を宣言した。

国道沿いに行けば次の公園に近いのは本能が知らせている。
木造家屋からそっと出てきた親実装は分かっている。
だが、それでは昨日の二の舞だ、柴犬(チャッピー・♂・2歳)は健在であろう。

一家は大きく迂回して住宅地を通り、国道に復帰した。後方に柴犬の姿がある。

「これから犬の姿があったら避けていくデス」

少し賢くなった親実装であった。


ここでこの渡りの一家の周辺を解説しておこう。
出発したのは住宅地にある 「 双葉児童公園 」 。
近くの国道27号線の歩道を歩いていくと左右に住宅地や小店舗が連なっていく。
4kmほど歩くと、上り坂が3kmばかりあり、山腹に掘られたトンネル、となっている。
トンネルを300m歩けばなだらかな下り坂、ここは人家もまばら。
5kmほど下っていけば平野部である。
平野部を2kmほど歩き左手に現れた住宅地を抜ければ、そこは新天地 「 双葉市立運動公園 」 。
緑地や運動施設を兼ね備えた豊かな公園である。

一家は一日目の早朝に出立し、昼前に床下へもぐりこんだ。踏破した距離はようやく2kmほど。
丸一日歩いても4km、何事もなくてもあと3日はかかる勘定だ。

例によって一家は歩道の隅を歩いていく。歩行者には無視されるか、睨まれるかで済んでいるのは幸運だろう。
彼女たちが知る由もないのだが、今歩いている場所は小学生の通学路。
もし昨日一日中歩いていれば、夕方には下校する小学生の一団と遭遇していた。

下校時の小学生に出会えば、まず助からない。というか、概ね最悪の死に方をする。
大人なら大抵さっさと駆除するが、子供は残忍だ、酷烈きわまる最後しかない。
なにしろ、一人や二人が見逃しても後ろから続々とやってくるのだ、一度なんとか助かっても次は望めない。

彼女たちの足元の路面も、よく見ればシミと化した仲間の痕跡がある。
側溝を覗けば、苦悶したまま果てた姿がある。

その面において一家は幸運であった。

休憩を挟みつつ、昼過ぎまで一家は歩き続けた。

「足が痛いテチ」

「のどが渇いたテチィ」

一家は自動販売機同士の間に座り込んだ。

親実装は周囲を警戒しながら休む。何しろ犬・猫・カラス等に襲撃されたらひとたまりもないのだ、警戒しつづける
親実装は疲れを癒す暇もない。

「ママ、お腹が減ったテチ」

と、4女。だが親から与えられたのは叱責だけだ。
親実装はゴミ箱に入らなかった空き缶を一つづつ拾い上げてはひっくり返している。
以前、雫ていどだがこうやってせしめた体験を思い出したのだ、懸命にひっくり返し中を覗き込む。

そうやっている間に自分の背後で仔実装がなにか話しているのに気づかなかった。

背後では何事かが進行していたのだ。

「そろそろ出発するデス」

空き缶を放り出して親実装が立ち上がる。収穫はゼロ、期待していなかったので失望もない。
だが、問題は起こっていた。

「私たちはもう歩けないテチ」
4女が言うと、テチテチと他の仔も騒ぎ出す。

「お腹減ったテチ、ゴハンもって来ないママはお馬鹿テチ!」

「もう無理テチ、歩けないテチィ」

「お家に帰りたいテチ」

テチテチ騒ぎ出す。先ほど話し合っていたのは、親への反逆に関する謀議だったのだ。

苦しいがダンボール内で安穏と暮らしてきた仔実装に公園の状況悪化は理解しづらい上、渡りを始めてから辛いことだらけ。

疲れた、怖い、腹減った、という不満が溜まっていたのだ。とは言え1匹ではただでは済まないことは分かる。
それで特に不満が大きい4女がそうでない者まで説得し恫喝し騙して、親実装を突き上げている。
1匹では置いていかれるかもしれないが、全ての仔実装が文句を言えばどうにかするだろうという算段だ。

この突然の反逆に親実装は戸惑った。
公園でも渡りを始めてからも、身の危険を顧みずわが仔を守ってきたのにこの仕打ち。
渡りとしては仔実装など足手まとい以外の何者でもないのに、ここまで連れてきたというのに。

「デスゥ!ふざけるなデス、もう公園のお家は残ってないデス、とっくに誰かに盗られてるデス。
足が痛くてもお腹が減っても歩くしかないデス、こんなところじゃ私たちは生きていけないデスー!」

住み着けるような環境はないし、食料もない道ばたでどうしろと言うのか。親実装の憤懣をみても仔実装は反省もない。

「親ならどうにかしろテチャア!」

「ここまで来たから十分テチ、ゴハンならどうにかなるテチ」

4女と9女が現状を無視してひたすら要求するばかり。

「そんなのは無理デス、こんな場所じゃニンゲンに見つかってあっさりと殺されるだけデス。ゴハンもありっこないデス!」

デスデス、テチテチと唾を飛ばすが建設的な話にはまったくならない。

「お、実装石の親仔だ」

親実装の背中に人の声がかけられた。ビクッと無防備な背中を振るわせて、親実装が恐る恐る振り返る。

青年が自動販売機に小銭を入れながら一家を眺めている。

気まぐれで次の瞬間、踏み潰してくるかもしれない。仔実装はすかさず罵倒していた親実装の背後に隠れる。

青年は缶コーヒーを買うとその場で飲み始める。秋風で冷えた体を温めているのだ。

いつ教われるか、と小刻みに震える一家。何しろ公園と違い隠れる場所もない。

だが青年は襲ってこなかった。

「さっき溝に1匹落としたばかりだからなぁ、今日はもう十分だし」

そう言って空き缶を親実装の頭に落とす。

デェ!という情けない悲鳴を上げさせながら、青年はとっとと立ち去っていく。

危機が去り、呆然とする一家。親実装は手が届かない頭の痛みを堪えながら、放り出された空き缶をひっくり返す。
数滴、残滓がこぼれ親実装の口がそれを受け止める、以前味わった甘みを想像しながら。

「苦いデスゥ」

渋面を作る親実装。どうやら甘いジュースしかないと思い込んでいるようだ。

「とにかく!」

親実装は空き缶を捨てる。

「新しい公園まで歩いていくしかないデス!嫌なら来なくていいデス!」

「私たちは行かないテチ!」

「ママだけ行けばいいテチィ!」

またしても4女と9女が反抗する。憎憎しげに睨みながら親実装は確信した。

……どちらかがニンジンを食べたに決まってるデス

問いただす時間も惜しい。さっきの人間のように危険はいきなりやってくる。

「ママはもう行くデス」

6匹を放置して歩き出す親実装。

ついてくるだろうし、そうでないならそれでも構わない。
野生動物でも飢えなど極限状態になれば仔を捨てることもある、実装石にとってはまさにいまがそういう状況だった。

一顧だにせず歩き続ける親実装。仔実装の群れからは何事か声が聞こえるが、足はとめない。

カラスの襲撃で全滅した一家がいたが、あれも仔がいなければ親は死ななかっただろう。
自分を守るだけなら物陰に隠れるなりなんなりできるのだから。
実際、渡りを行なうために邪魔な仔をかなりの数の親実装が捨ててくる。。
しかし愛情のある個体はそれができず、あのように一家全滅と言う最悪の結果を招くことが多いのだ。

いままでは小さな仔の歩幅にあわせてきたがもうその必要はない、成体本来の歩幅でどんどん進んでいく。

すると。

「テチャアアアアアア!!」

絶叫。慌てて振り返ると、残留した仔実装を猫が襲っている。1匹を押さえつけ、1匹をくわえている。
前足を適当に振り下ろし、爪で逃げ損ねた仔を切り裂いた。

猫は親が居なくなるのをどこかで見ていたのだ。そして居なくなった途端、遊び相手になってもらったようだ。

「テチャアアア!来るな、来るテチャア!?」

「お姉ちゃん!?テチャアーーーー!」

じゃれる程度のつもりだろうが、仔実装にとっては致命傷になりかねない。逃げ惑う仔を余裕で押さえつけ、爪で引き倒す。

「何をいやがるデスゥゥゥ!」

親実装は血管を額に浮かべて走ってきた。さきほど放置した空き缶を持ち上げると

「死にやがれデス!!!!!!!!!!」

全力で投擲した。が、猫の遥か手前で地面にぶつかりコロコロと転がる。

猫は美しい瞳でそれを眺めていたが、興を削がれたのか咥えていた仔を解放すると、さっと身を隠した。

「お前たちしっかりするデスー!」

「テヒャアア!怖いのが来た、怖いのが来たテチィ!」

「殺されちゃうテチー!」

6匹は親にしがみ付いて泣く。

気づいていないが6匹は幸運に恵まれた。あの状況では親が戻ってこないほうが多い。
渡りが危険と言っても、成体1匹のみなら成功率は遥かに高い、足を引っ張る仔実装がいるだけで親もリスクを背負うのだ。

誰もが爪や牙で傷を負っていたが死ぬほどではない。それを確認すると親実装は安心のため息をついた。
約束の地はまだ遠い。



実装石の「 渡り 」の成功率はおおよそ5%とされている。

END



あとがき
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1 Re: Name:匿名石 2014/09/14-11:13:11 No:00001337[申告]

彼女たちの足元の路面も、よく見ればシミと化した仲間の痕跡がある。
側溝を覗けば、苦悶したまま果てた姿がある。

その面において一家は幸運であった。

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