タイトル:【馬】 当時を知らないのに中期型ネタ
ファイル:頑張れ!中期型.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2218 レス数:0
初投稿日時:2007/08/22-00:16:51修正日時:2007/08/22-00:16:51
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6月のある日、その実装石は俺のアパートにやって来た。


『デッこらしょっと、デスゥ』

風を通すためベランダ側の窓は網戸にしていた。
その網戸をガラガラと開けて、部屋の中に入って来る。

『おじゃまするデスゥ』

ベランダには柵があり、実装石ごときが乗り越えられるはずはないのだが……

「……」

『パソコン借りるデスゥ』

呆気に取られている俺を尻目に、実装石はパソコンを立ち上げた。

「なあ、おまえ……」

『ちょっと静かにしてて下さいデスゥ』

何をやっているのだろうと横から覗き込むと、
どうやら実装石関連の掲示板を閲覧しているらしい。

そこでは初期型実装石のことが話題に上がっている。

『次はきっとワタシの話題になるデスゥ』

実装石は見てみろと言わんばかりに、モニター画面をくいくいと指差す。

「なんで?」


そして1時間もせぬうちに、落胆の溜息がこぼれる。

『デエエ……』

初期型の次に話題に上がったのは他実装の生態だった。


『なんでデスゥ!初期型の次はワタシに決まっているデスゥ!』

「俺に言われてもなあ……それより、おまえ誰よ?」

『デ!?わからないデスゥ?』

「知るかよ」

『今、こうしてリンガル無しでお話しているデスゥ』

「……あ」

そう言われて、ようやく思い出した。

「もしかして……中期型?」

『そうデスゥ!』

噂話程度には俺も知っている。

中期型は不完全ながらも人間の言葉を話すことができる。
実装リンガルの存在は、この中期型抜きには語れないと言う人もいるぐらいだ。

そして、現行型など及びもつかぬカオスの力を持ち、運動能力は獣装石を大きく凌ぐ。

しかし何よりも特異なのは、関わるもの全てを実装石にしてしまう能力だろう。
中期型が媒介する実装ウイルスは実装病を引き起こし、一時は世界全土を恐怖に陥れたものだ。

が、逆に言えば……

リンガルを使えば現行型とも十分以上に会話は出来る。

そして、カオスにおいては初期型の足元にも及ばず、運動能力は実蒼石より大きく劣る。

しかも、実装病は既にワクチンが開発され、その脅威度は低い。

中期型が歴史の狭間に埋もれてしまったのは、本人の責任ではない。
こうした条件が後からどんどん出て来たためであり、
中期型にとっては間が悪かったと言うこともできるが……

「まさに、いらない子街道まっしぐら!」

『……デ、デェエエーン!デェエエーン!』

あ、ゴメン。声に出してた?

しかし、いらない子という言葉への反応の速さを見るに、自覚はあるらしい。


『このまま忘れられるなんて嫌デスゥ……』

「うーん……」

人の想い無しには存在できないコイツらにとって、忘れられるというのは
とても恐ろしく、悲しいことなのだろう。

断りもなくパソコンをいじり始めたときには、ぶっ飛ばしてやろうかと思ったが……

こうして目の前で泣かれると、やはり弱い。

袖擦り合うも他生の縁と言うぐらいだ。

何とかしてやりたいと思うのが人情だろう。


何か、何か方法はないものだろうか?

先ずは俺自身が、中期型についてより正確なイメージを掴むべきだろう。

実装石を扱ったサイトを幾つも巡り、中期型のことを調べる…………


「おい、中期型!」

『見つかったデスゥ!?』

「ゴメン、無理。諦めろ」

『なんデエ!?』

いや、だってさあ……

実装石関連サイトでは最大手の1つ、通称”白”の用語集にも載ってないぞ?

『もうオマエにはもう頼らんデスゥ!自分で探すデスゥ!』

「あ」

押しのけられちゃったよ。俺のパソコンなのに……

ところでオマエ、言動が糞蟲型になってないか?




そして7月5日。

『こ、これデス!これしかないデスゥ!』

夕刻、中期型の歓喜の声が響く。

『ワ、ワタシはどこかの農村に行くデスゥ!
  いろいろ世話になったデスゥ!』

それだけ言うと、転がるように部屋を飛び出して行った。

いったい何を見つけたのだろう?




1ヶ月ほど過ぎた頃、中期型から手紙が届いた。

必要なものがようやく出来たから見に来い、と。




8月2日、俺は中期型を訪ねた。


「よう!元気でやっているみたいだな?」

『よく来やがったデスゥ!』

そこは、寂れた農村のさらに外れにある小さな菜園だった。

規模こそ小さいが、ナス、トマト、トウモロコシなど、色々な野菜を作っているようだ。

わずか1ヶ月でどうやって……
庭師としての不思議な力でもあるのだろうか?


『これを食べてみるデス』

「どれどれ」

中期型が手にしたザルの中から真っ赤なトマトを差し出してくる。

この暑さで喉がカラカラだ。
ありがたい、早速いただくことにしよう。

ガブリ

『テチャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」

『どおデス〜?』

「トッ、ト、トマトぉおッ!?
  トマトが悲鳴を上げたあっ!?」

『当たり前デス!そのために随分と苦労したデスゥ』

「……え?」

『これぞ実装野菜デスゥ!』

恐る恐る今のトマトをよく見てみると、赤と緑のオッドアイに、
Aの字の口が付いている……

『ここの野菜はみんな、そうデスゥ』


『『『『『テチ?』』』』』

菜園の野菜たちが一斉に俺の方を振り向く。

「ひいっ!?」

ありとあらゆる野菜に実装の顔が付いていた。

「……これって、もしかして?」

コクリと頷く中期型。

『そうデス、実装化したデスゥ』

なるほど、実装ウイルスの亜種か、あるいは僅かに残るカオスの力で、
野菜を実装にしたという訳か……

嫌なもん食ったなあ……病気になったりしないだろうな、これ。


『そして、これが!
  ワタシが再びスターダムに登るための切り札!
  実装茄子デスッ!!』

パンパンに膨らんだ茄子を高く掲げ、中期型が誇らしげに叫ぶ。

『食べちゃ嫌ルトーッ!』

茄子が悲鳴を上げる。

『……っと間違えたデス。これは燈茄子の方だったデス』

他実装まであるのかよ、おい。

だいたい、”とうなす”ってのはカボチャじゃなかったか?

  
「それにしてもなあ……何でこんなモン作ったんだ?」

『あの日、ワタシが出て行った日ののログを見ればわかるデスゥ。
  これからは茄子虐待の時代デスゥ。
  そして!実装茄子を作れるのは、このワタシだけデスゥ♪』

あー……そんな話題もあった気がする……


中期型が誇らしげに見せる実装野菜は、そのどれもが
とても食べる気にはなれないような代物ばかりだった。

実装茄子、実装トマト、実装胡瓜あたりはまだしも、
青い目をした紅生姜だの、帽子をかぶった蒼ネギなんぞ……

最悪なのは、トウモロコシだ。

ぱっと見た限りででは普通に見えるのだが、その緑の皮の中から
テチテチと小さな泣き声が幾重にも聞こえてくる。

皮剥くの嫌だなあ……

『これも自信作デス!』

中期型がおもむろに皮を剥く。

『『『『『テチャアッ  』』』』』
『『『『『テッチュ〜ン』』』』』
『『『『『テチィ♪  』』』』』

ゲエエエ……やっぱり1粒1粒に顔がついてやがる。

『名づけて、テチコーンっ!!』

うわあ…………


『じゃあ、これからオマエの家に行って、コイツをみんなに見せてやるデスゥ♪』

「あ、ああ……」

結果がどうなるかは容易に予想がつく。

しかし、まるっきり無表情なくせに、弾むような足取りで喜びを表す中期型に
俺は何も言えなかった。




そして8月3日夕刻。

『デエエ……』

「……」

中期型がパソコンの前で深い溜息をついた。

流れの速い実装界隈、実装茄子はとうに過去のものとなっていた。

パソコンの画面の中を流れる文字列が、茄子虐待が時代遅れのものであることを
冷徹に告げている。

今は他の話題で持ちきりだ。

『こ、今度こそデスゥ!
  今度こそ、やってやるデスゥ!』

またしても転がるように部屋を飛び出して行く中期型。

「どれどれ……」

中期型がそれまで見ていた画面を覗き込んで絶句した。

”金剛石虐待”




そして8月20日、パソコンの画面に映された文字は、

”店員に向く実装ってどれだろ?”


リンガルなしで会話ができる中期型は適任だろう。

今なら中期型のことを思い出してくれる人もいるのではないだろうか?

それなのに、現在アイツは実装化するための金剛石を掘りに行っている。

こんなときに不在とは……


間の悪いヤツ、というのはいるものである、うん。


(終)

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