餓鬼氷 「ママァ…ノドカラカラテチ…おミズほしいテチィ」 「レ…ェ … ウジチャンモ オミス ゛ホ シイ レ…フ……」 「ママだって… もう… 死にそうデス… でもガマンするデスゥ…」 実装石の親仔が灼熱の街をさまよっていた。 この実装石親仔は今朝まで公園の片隅のダンボールハウスにひっそりと住んでいた。 だが夏祭りが近づいたある日、祭り実行委員会のボランティアが公園を掃除しに来たのだ。 手馴れたボランティアの手でほとんどの実装石はきれいにお掃除されてしまった。 しかしこの親は警戒心が強く賢い個体だったので、仔の大半を失いながらも命からがら公園から逃げる ことができた。 しかし炎天下にさらされ続けて約6時間。親はともかく仔と蛆はそろそろ限界を迎えていた。 「レ ェ … ェ … 」 「ママ あそこ… ニンゲンさんが出たり入ったりちてるとこ… あそこでおミズもらえないテチカ?」 「ダメデスッ アレはコンビニというところデスッ 近づいただけで怒ったニンゲンに殺されてしまうデス」 「テェェェン アンヨいたいいたいテチ もう歩けないテチィ」 -*- -*- -*- -*- -*- -*- 毎日アチいなぁ。冷凍庫にアイスクリームの買い置きがないか見てみたら保冷剤だけいっぱい出てきた。 母さん、使いもせん物を後生大事にとっとくなよ…。 ブヨブヨしたゼリーのような保冷剤は燃えるゴミなのか燃えないゴミなのかわからん。 ん? 袋の注意書きになんか書いてある。 原料:高吸水性高分子・植物エキス 『植物エキス配合で保冷剤として使用後は消臭剤として利用できます 袋の中身を別の容器に移してお使い下さい。』 袋:プラ へー これって臭い消しに使えんのか。 他の袋にはエチレングリコールだとかメタノールだとか「無害ですが食べないで下さい」とか書いてあるけど たぶん似たようなもんだろ。 保冷剤の袋をいくつかハサミで切ってゼリーのような中身をボールに移す。 みぞれ雪みたいなブヨブヨの保冷剤がボールにテンコ盛りになった。 裏庭の軒下に住みついていやがった実装石の臭いがまだ取れんからちょうどいい。 -*- -*- -*- -*- -*- -*- 「ママ…ミ…ミ ス゛ゥゥウゥゥゥゥ オミ ス ゛ヲ チヨウダァアァァァイ… オミズゥ… ゥ… 」 「しっかりするデス オマエはお姉ちゃんや妹ちゃんの分まで生きなきゃならないんデス!」 「……… … ウジチャン モ ウ… ダ・・メレ フ ママ バ イバ イレ…フ… ・・ ・ 」 「蛆ちゃぁぁ…ン… まだ死んじゃダメデスゥ…ゥ …ゥ ……」 ちなみに脱水症状や熱中症で死ぬ実装石は意外と少ない。 物理的衝撃には極めて儚いことで知られる蛆実装も水に浸すと乾燥状態から生き返ることが多い。 非力でも生命力が異常に強い実装石は仮死状態になることで極端な気象条件を乗り越える能力がある。 よく冬場に雪に埋もれて凍った実装石が春になると出てくるのはそのためである。 -*- -*- -*- -*- -*- -*- 猛暑と水不足で裏庭の生垣の木が一本枯れてから垣根に隙間ができちまった。 そしたらそっから見えるここの軒下に住みつこうとする実装石がやってきて困ったもんだ。 人目だと生垣の根元が透けていても上の枝が広がっていてあまり気にならない。 それが実装石の視点だとちょうど中が丸見えでなぜか庭に住みつきたがる。 この前は野良の家族同士でケンカしてやがったし。 どちらの親仔も殴って追い出したが軒下と裏庭がクソ臭くなってた。 ボールにテンコ盛りの保冷剤を臭い消し代わりとして軒下に置いておく。 早くコンクリートブロック買ってきて垣根の隙間をふさがんといかんなコレは… 暑いけどしかたない。今日のうちにホームセンターに行ってくるか。 -*- -*- -*- -*- -*- -*- 「あ… あ…そこにいい日陰があるデスゥ… … そこま…で耐えるデスゥ…」 「テ テェ…」 「レ… ェ… … ・・ ・」 通りに面した生垣の隙間から涼しそうな庭が見える。 この親実装は野良の中では珍しく分別があるといえる実装石であった。 彼女は人間の恐ろしさと自分たちが決して人間に歓迎されていないことを理解していた しかし焼け石のようになった道路に炙られ熱風にさらされながらさまよっていた実装石に清涼の地へ の誘惑を断ち切ることなどできはしない。 どのみちこのままでは干からびて死ぬ。日頃の警戒心を忘れ、生垣の隙間から民家の庭に入り込む。 この庭は住居の北側で庭木の木陰もあって風通しがよい。庭木の下の地面はコケが生えていて路面の 焼け石とは全く温度が違う。たまらず湿ったコケの上を仔実装が転がりだす。 「ヒィィ… ヒヤっこくてキモチいいテチュゥ…コロコロするテチ」 「蛆ちゃん! 返事をするデスッ 目をあけるデスゥゥゥゥゥ…」 「ェ … ・・ ・」 「ママ!あそこに白くてプニプニがいっぱいあるテチッ アレおいちそうテチ」 「待つデス!毒かもしれないデスッ! ……でもコレは何デス?… つ…冷たいデス?」 賢い親実装は人間の生活圏にノコノコ侵入した愚かな同属がさらした無残な死に様をよく知っている。 だから常日頃なら警戒心を強く働かせて危険そうなものは口にしない。仔供達にもそれを厳しく教えてきた。 特に民家の軒先に不自然に置いてある美味しそうな食べ物はたいてい実装石駆除用の毒餌だからだ。 それでも抑えきれない喉の渇きに正体不明のゼリー状のものをおそるおそる口にする。 「コレは… もしかしてコレは… 昔々ママに聞いたカキ氷というものデスか?」 「ガキゴーリ? これニンゲンさんの食べ物テチ? おいちいものテチ?」 「冷たくてプルプルしてるデス でも… ぜんぜん甘くないデス?」 「ママ 食べてもいいテチか?」 「いつもの毒ならもっと美味しそうな匂いをさせてるデス これは美味しくないデス だから大丈夫デス」 「ヒェッ!ヒエヒエテチィーッ♪ヒヤっこいテチうれちいテチいきかえるテチィー」 「蛆ちゃんも食べるデス 生き返るデスゥ」 「… … … …レ… レ… レ…」 「しっかりするデスッ 目を覚ますデスッ」 「レ… …レ フレ フ レフー テッテレー☆」 「蛆ちゃぁぁーん!」 「レフーーン ヒエヒエプルプルきもちイイレフー♪ いきてるってサイコーレフゥ〜〜ン♪」 「ウジちゃんもいきかえったテチィ でもママ、どうしてヒエヒエのガキゴーリが落ちてたんテチ?」 賢い個体といえども人間に保護されたい、あわよくば飼い実装になって贅沢に暮らしたいという実装石の 種族的本能をそうそう捨てきれるものではない。思いがけない幸運と暑さでまだのぼせている頭が判断力を 狂わせ、抑圧してきたシアワセ回路を作動させていた。 「落ちてるワケがないデス これは噂に聞くアイゴハが用意してくれたに決まってるデスゥ〜ン」 「やさしいニンゲンさんがプレゼントしてくれたテチ ならもちかしてココで飼ってもらえないテチか?」 「アイゴハだから飼ってくれるつもりに決まってるデス これは飼い実装になるためのテストなんデス」 「ママすごいテチ でもテストってなんテチ?」 「きっと味のないカキ氷にワガママいう糞蟲は飼ってもらえないデス ニンゲンさんはそれを見てたデス」 「やさしいニンゲンさんが見てるテチ?! どこテチどこテチ? ガキゴーリのお礼におあいそするテチューン」 「やめるデスッ! 媚びる仔は潰されるデス お行儀よくいい仔にしてるデス そしたら夜には飼い実装デス」 「ほんとテチ? 飼い実装になれるテチ?! 早くゴシュジンチャマに会いたいテチュ いっぱい可愛がってテチュー♪」 「レフー! ウジちゃんもニンゲンさんにプニプニしてもらいたいレフ〜ン♪」 「ニンゲンが出てきたら本物の美味しいカキ氷だって貰えるデス オマエは賢い仔デス だからいい仔にしてるデス」 -*- -*- -*- -*- -*- -*- クソ暑い中をホームセンターからセメントとコンクリートブロックを4つ買ってきた。駐車場から外を回って 生垣の外側からブロックだけ積んでおく。とにかく暑い。日が陰る夕方までクーラーのかかった部屋で休もう。 -*- -*- -*- -*- -*- -*- すっかり元気になった三女ちゃんが蛆ちゃんをプニプニしてあげている。 昨日までそれは長女ちゃんの役目だったのに… 今朝まで8石いた仔供達が今では三女ちゃんと蛆ちゃんだけ。 可哀想なワタシの仔たち… それでもこの家のニンゲンに飼ってもらえたら… ここで飼ってもらえたら… … …公園を追い出されたことも、あの仔たちが死んだことも贖える… せめて… せめて三女ちゃんだけでも飼って もらえたら・・・・・・ 「テチュププ ゴシュジンチャマァ ヤサちくてハタラきものでカワイイアタチを見て見テチュー」 「プニフープニフー プニプニきもちいいレフン レフレフ レフーン レ? …レレ?」 ・・・ 体が少し冷えてきたらだんだん眠たくなってきた・・・・・・ 実装石は弱い… 敵は多い… 仔供達は儚い… ニンゲンは強い… ニンゲンは怖い… ニンゲンは恐ろしい… でも… ニンゲンに飼ってもらえたら… … 安心して生きていける。 ニンゲンなら牙をむくイヌも忍び寄ってくるネコも飛んでくるカラスもおっぱらってくれる。 ニンゲンのオスは乱暴者で仔喰いのマラなんかアリのように踏み潰してくれる。 ニンゲンに飼われていればギャクタイハだって襲ってこないだろう。 強いニンゲンが守ってくれたら… 弱い実装石は安心して生きていける。 儚い仔供達もみんなオトナになれる。 「テッチュン ウジちゃんどうちたテチィ?」 「レ? レフ? ウジちゃんおなかグルグルしてきたレフ?」 「プニプニいっぱいしたからテチ ウンチはお外でするテチ ゼッタイお庭を汚しちゃダメテチ」 「レプー! もうウジちゃんウンチでちゃうレフッ! 」 雨に濡れることも 風に飛ばされることも 敵に脅え逃げ惑うことも 今日の寝床に震えることも 明日のゴハンの心配も ない … … ドレイニンゲンが全部… ・・・! ドレイ…? 昔… 馬鹿なお姉ちゃんがニンゲンについていった。 飼い実装になれると喜んでいた… 「テププ おいドレイニンゲン コーキなアタチにステーキくわせろテチ スシくわせろテチ ・・・・ エエ カワイイ オジョウサン イッパイクワセテアゲマスヨ 次の日、お姉ちゃん…だったモノが戻ってきた。髪も服も命の石も奪われて、いっぱい痛い痛いコトをされていた。 手も足もオマタも切り刻まれ全身皮を剥がれて焼き焦がされた赤黒い丸太が最後まで呪詛の言葉を呟いていた。 「テェェ… こんなハズじゃなかったテチィ… ニンゲンノ ウソツキ… オニ… アクマァ… クソクラエ バーカ ギャハハハハ ニンゲンに飼われたらシアワセになれる? あれはいつのことだったろう… ママはあの時なんていった? あれを… あげ・・・ 「あそこまで運んであげるからガマンするテチ !・・ アレ? アタチもなんだかおナカおかちいテチ?」 「・・・ア ゲ・・・ デ? デ デ??・・・ユメだったデスか?」 「テ? テェッ?! カベがあるテチ! お外に出れなくなってるテチィーーッ!!」 「レェェェン ウジちゃんもうガマンできないレフーー プリプリしちゃうレフーーン」 「お前たち?なにを騒いでるデス?」 「ママッ おナカおかちいテチッ パンコンしちゃうテチ これじゃ飼ってもらえないテチャァ!」 「デェ? ワタシもなんかお腹が変デスゥゥゥゥ? まさか! ア、アレは毒だったデスーー?!」 「ウジちゃんウンチでるレフッ ブリブリでちゃうレフッ」 「ママー ここ出られなくなってるテチィ も、もうウンチもれちゃうテチィー テェェェーーン」 「ギャァーーース! 閉じ込められてるデスゥッ?! しまったデスッ!これはギャクタイハの罠だったデスーッ!」 薄汚い野良のためにわざわざ庭に食べ物を用意して待っていてくれる人間などいるわけがない。そんなもの好き がいるとしたら上げ落としに手間暇惜しまない虐待派ぐらいだ。 暑さでのぼせていた頭とシアワセ回路が冷め、知性と分別をとりもどした親実装はパニックに陥った。 仔と蛆もそれぞれの事情で泣き喚く。 「あ・・・ 上 げ 落 と し だったデスーーッ! もうおしまいデスーーッ! デギャァァァァーーーッ!」 「テェェェーーーン パンコンしちゃったテチーーン ゴシュジンチャマ見ちゃダメ見ちゃダメテチャー!!!!」 「ウジちゃんウンチとまらないレェェェン いっぱいでるレフッ モリモリでてるレフーッ!」 -*- -*- -*- -*- -*- -*- 裏庭が騒々しいので見に行くと、実装石の親と仔と蛆がクソをぶち撒けながら騒ぎまくっていた ・・・・・・ ・・・またもや庭が糞だらけだ。コイツ等どっからいつの間に忍び込みやがった? なぜか狂乱して糞を垂らしながら庭を走りまくる実装石を庭箒で叩いて火箸でとっ捕まえる。 ギャーギャー喚く親実装を箒の柄で何発か張り倒してからリンガルを起動する。 ドク? ギャクタイハ? ワナ? アゲオトシ? なにをワケわからんこと言ってやがる? さらに仔の方ときたら「お行儀よくしてたら飼ってくれるヤクソクテチ」だとかずいぶんとふざけたことをほざきだした。 人ん家の庭をクソだらけにしたオメーらみたいな特級糞蟲だれが飼うかよボケッ。 ふと軒下を見るとボールに入れて置いておいた保冷剤が空になっていた。 さっきホームセンターで見てきたが、エチレングリコールやメタノールって車のウィンドゥウッシャー液とか 不凍液に入ってる体によくない物質だった。それ喰って下痢ったわけか。 実装石の腹を通って出てきた保冷剤は野良の臭気を取り込んで芳香剤ならぬ放臭剤みたいなモンと化している…… あああ… 前より掃除が大変だ…… あはは 庭の惨状に俺が笑うしかないのを見て、何を勘違いしたのか糞蟲一家が喚きだす。 「上げ落としにひっかかったのがそんなに嬉しいデスか? ナゼ? どうしてこんなイジワルするデスゥ… 誰にも迷惑かけてないデス なんにも悪いことしてないデス ワタシたちにだって生きる権利があるデスッ!」 「ニンゲンさんニコニコ笑ってるテチュ パンコンしちゃったけど怒ってないテチ よかったテチィ ヤクソクどおり アタチを飼ってくれるテチュン ゴシュジンチャマァ、さっそくホンモノのおいちいガキゴーリほしいテチュ〜ン」 「ウジちゃんウンチいっぱいでてオナカからっぽレフ だからプニプニは謹んでゴエンリョするレフ でもニンゲンさんがオナカいっぱいにしてくれたらプニプニさせてやるレフ トクベツサービスレッフン」 ・・・・・・ 言いたいことはそれだけか・・・ うふ♪ ・ ・ ・ その後、親蟲は総排泄孔を焼き潰して自分達がぶちまけたクソと臭いの染込んだ庭土を詰め込んでやった。 吐き出さないように口にセメントを流し込んで蓋をしてやる。 権利を語る前に、人様に迷惑かけた応分の責任だけは果たしてもらおうか。 実装石の生きる権利などに関心はない。だが生きていたいという要望だけはしっかりくみ取ってやろう。 偽石摘出処置を済ませてから全体をさらにセメントでコーティングして生垣の隙間をふさぐ壁の一部にした。 ずっと生きてていいからな。 「(せ、せめてイキはさせてデスゥ・・・ なんで… なんであんなバカなコト考えたデス…… … こんなこと…なら… … 朝… みんないっしょに死んでればよかったデスゥ ゥ ゥ ゥゥゥ… ・・ ・ )」 蛆蟲にも文字通り「オナカいっぱいに」なるまで土とクソを詰め込んでやった。 それから靴底でじっくり念入りにプニプニしてやる。 俺の心を込めた「トクベツサービス」に蛆蟲もご満悦の声をあげてくれた。 天にも昇る心地だろ、さあ感涙の汁を全身からぶちまけて昇天するがいい。 「オナカクルシイレフ イタイレフ モウヤメテレフー !・・ レッ! レブッ! レビャビャ! ヤメ… ウ ウジチャンツブレチャ ウブゥウヴァウァャーアッ!」 仔蟲はタッパー詰めして冷凍保存した。 栄養剤と偽石安定剤を混ぜた保冷剤を充填してやったから当分死ぬことはない。 雪が降ってきたらたっぷり「餓鬼ゴーリ」とやらを喰らわせてやろう。 強制出産で産ませた蛆を潰した汁を雪にかけた己が特製クソガキ氷ならさぞ満足してくれるに違いあるまい。 それまで我が家(の冷凍庫)で飼ってやるからシアワセな夢でも見てろよ。 「(サ… サム・・ イ … ココ…ハ ド コ? クライ テチ… マックラ テチィ … ? … アレ … ウジチャン… … … ウジチャン… ドコニイクテチ? アッ オネーチャ!イモートチャ! ミンナソコニイタテチ! イマソッチニ逝クテチィ・・・ テ? マッテェ ウジチャーン! … ドウシテ? ナンデオイツケナイテチィ? ミンナオイテカナイデェー アタチモソッチニ逝カセテェー! )」 -*- -*- -*- 終わり -*- -*- -*-
