タイトル:【哀】 多賀谷九郎のフィールドノート その1 天国への階段
ファイル:01_天国への階段(rev2).txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:17116 レス数:0
初投稿日時:2007/08/20-00:38:32修正日時:2007/08/20-00:38:32
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【多賀谷九郎のフィールドノート・その1・天国への階段】


*


その町には高い電波塔があった。

それは赤と白に塗り分けられ晴天の日には空の紺碧に良く映えたという。


*


市民公園で朝から始まった実装駆除作業が、夕刻を迎えそろそろ完了しようとしていた。

公園の奥まった場所で賢い実装石の巣を見つけた二人のアルバイト作業員が、嬉しそうに中に居た仔実装たちを
潰しにかかる。

「あ!このダンボールハウスすげー!上手く隠してあるので見落としていた。かなり賢い実装の巣だぞ?」。

「テチャァァァー!オネェチャーン!タスケテテチッ!ママッ!ママーァァァッ!」。

「ほいっと」。

チベッ!

「妹チャァァァン?!蛆チャンはこっちに隠れるテチィィィー!」

「ここにもかぁ〜?」。

ジッ!

「プニフープニフー」。

「アッ!蛆まで居やがる。愛情深い家族ですかい?ってな」。

プチョッ

「レピャッ!」

二人は作業の手を止めて無駄話を始めた。

「実装駆除はなんつーか嫌な仕事だよな」。

「まぁな。デスデス!テチテチ!レフレフ〜♪しか言わないのに、妙に人間臭いしぐさをするのが嫌なんだよな。
あ、巣の外にもめっけー!」。

「テテテ、テッチューン」。

クチョッ

「お前そんなこと言いながら、なんか楽しそうに潰すじゃないか」。

「判っちゃう〜?でもお前だってにやけっぱなしだぜ?」。

「アルバイトでニコニコと一家惨殺できるなんて実装駆除ぐらいなもんだぜ。しかしこのダンボールハウスには
親がいなかったみたいだな」。

「大方危険を察して足手まといの仔供を見捨てて逃げて隠れてるか、どこかで同属食いに食われたかしたんだろうさ」。

「じゃぁ俺達は仔供達を苦しみ多い現世から解放して上げたってことだよな?」

「ウヒヒ。お前巧いこというね」。

お気楽なアルバイト達が馬鹿話に花を咲かせていると、駆除作業のリーダーから拡声器で指示があった。

「アルバイトの皆さんー!あと30分で作業を終わります。袋に入れた成体実装はこちらの処理機の前に積んでください。
仔実装以下の個体は既に言ってますが機械の間をすり抜ける事があるので、その場でつぶして死体はこちらの袋に
詰めてくださいー!」。

低い機械音を上げて処理機が動き出す。

機械を運転する請負理業者が、袋に詰められて鳴き声をあげる実装石を袋から取り出し黙々と処理機に放り込む。

処理機でミンチにされて半流動体になった実装石の肉体は、専用の運搬車に詰められていく。

リーダーからの指示が続く。

「袋の回収を完了次第、こちらで皆さんの出欠を確認したら解散になります。賢い実装の巣を見つけた方は、場所の報告もお願いします」。


*


お気楽なアルバイト達やそれを統率するリーダー。彼らはそれぞれ自分に課された仕事を淡々と、あるいは嬉々としてこなしていく。
しかしそんな彼らと対照的に、呆然としてこの惨劇を公園の入り口の植え込みの影から見守る一匹の親実装がいた。

「そんな・・・なんでこんな酷いことがデス・・・」。

この親実装は日が昇る前から一日かけて苦労を重ねて家族の食料を調達して、やっとの思いで夕刻に公園入り口まで
戻ってきたところだった。

「早く仔供達のところに行って一緒に逃げるデスッ!」。

親実装は植え込みの影から一歩出ようとした。しかしその瞬間、頭上から大きな声が投げかけられた。

「おい!」。

「デギャッ!」。

「お前だよ、そこの植え込みの中の実装石」。

親実装に声をかけたのは一人の黒尽くめの衣装に身を包んだ細身の男だった。

男は親実装に一瞥もくれず、駆除作業に勤しむアルバイト達の姿を遠目に見つめながら独り言のように語り出した。

「死にたくなければまだここに隠れていろ。お前ここに住んでいる野良実装か?それならご愁傷様だな。
今日はこの公園の年に一回の実装駆除の日だ。お前の家族もご近所さんも全滅のはずだ。
・・・それでもいつの間にか公園一杯に増えるのがお前等の不思議なところなんだけどな」。

普段は慎重なはずな親実装は、思わず男に反論してしまった。

「そそそ、そんなこと信じないデス!私の仔達は賢くて姉妹そろって思いやりがある仔達デス!きっと庇いあって隠れて
おうちで私の帰りを待っているデス!」。

男は植え込みの下に隠れている親実装が見えているかのように、正確に親実装の瞳に視線を向けて言った。

「無駄だ。間違いなく殺されている」。

「そんなことないデスッ。きっと私を待ってるデスッ!」。

親実装はまるで自分に言い聞かせるように言った。

「今行けばお前も人間に潰されるのは目に見えている」。

「でも仔供達が待ってるデス!」

男は小さく溜息をついた。

「止めても無駄みたいだな。それじゃ見てくるんだな。お勧めは出来ない・・・がな。暗くなれば駆除作業も終わる。
幸い同属食いをするような連中も全滅のはずだから、夜まで待てばゆっくり探すことが出来るぞ」。


*


その親実装は運が良かったのか、夜まで植え込みの中で隠れ続けてなんとか夜まで見つからずに済んだ。

そして人通りが完全になくなった事を確認して、植え込みから姿を現した。

「仔供達待ってるデス!今ママが行くデス!」。

親実装は息を切らしながらダンボールの我が家へと走った。あたりは一匹の実装石も居らず、その鳴き声さえ聞こえず、
不思議な静けさで満ちていた。こんな静かな夜は親実装が生を受けて以来初めてのことだった。

こんな静かで平和な公園ならきっと仔供達は私の帰りを待ってるはず。帰ったら沢山頭を撫でてやろう、ほっぺとほっぺを
くっつけてやろう。蛆ちゃんには沢山プニプニをしてやろう。

親実装はそんな事を何度も考えながら走り続ける。そして走るごとに段々と家の近くの見慣れた風景が視界に飛び込んでくる。

「オウチが在ったデス!私のオウチはニンゲンでも見つけることは出来なかったデスッ!」

親実装は息を切らしてダンボールハウスに飛び込んだ。

しかしダンボールハウスの中は空っぽで、乾燥して清潔そうな本来の匂いに代わって、生臭さと、今まで嗅いだ事のないツンとした
刺激臭が混ざった臭いがするだけだった。

「そんな・・・仔供達は一体何処デス・・・?」

途方にくれて親実装は天井を仰ぎ見た。しかしその瞳に映るものは見慣れたダンボールの屋根でなく、町の灯にうすぼんやりと
照らされた夜の雲だった。

「デー?天井が・・・無い?・・・壊された・・・見つかった・・・デス?」

目を転じた。よく目を凝らしてみると家の床や外に四つの大きな染みがあった。

親実装は生臭さがその染みから立ち上ってくるように感じた。

何がこの家にあったのか、そして家で待っていた仔供達におきたのか、この親実装は賢いが故に徐々にわかってきた。

「そんな・・・なんで・・・この染みは仔供達の血の跡デス?長女チャン、次女チャン、三女チャン、蛆チャン、みんなあのとき
ニンゲンに殺されたデス?」

親実装の両目からポロポロと涙がこぼれ落ちてきた。

染みにほお擦りするかのように四つん這いで泣き崩れる親実装。

「みんな、どんなに怖かったデス?どんなに痛かったデス?どんなに辛かったデス?ママがゴハン集めに行かなければ、死なずに
済んだかもしれないデス」。

やがて親実装はその腕の先に小さな、硬い塊の存在を感じた。

その塊に目を向ける親実装。

それは二つに割れた翠色の小さな石。人間の目で見れば路傍の小石となんら変わらぬ小さな塊であったが、
親実装は説明し難い親仔の絆とでも言うべきもので、それが長女の割れた偽石であると判った。

恐らく駆除作業中の死体回収の時に体の中から零れ落ちたものなのだろう。

「長女チャン・・・あなたはとても優しくて賢くてママは期待していたデス。きっとママ以上のママになれはずなのに」。

親実装は割れた偽石を不器用に抱きしめ、目を閉じた。









「どうだ。オレの言った通りだろう」。

「デギャッ!」

親実装は心底驚いた。この夕方会った男が、何の前触れもなく自分の真後ろから話しかけたからである。

「やっぱり来てしまったか・・・
人間はやるときはとことんやる。駆除作業の後は巧みに隠された巣には遅効性の殺実装剤が散布される。
狩り残した賢い個体を、仔も含めて根絶やしにするためだ。こんな場所にいるお前も明日の夜を待たずして悶え苦しんで死ぬ。
・・・それでもいつの間にか公園一杯に増えるのがお前等の不思議なところなんだけどな」。

親実装は男を見つめて言った。

「私は死ぬデス?」

「そうだ。今はまだなんともないだろう?でも明日の昼過ぎには体を動かすことすら億劫になるはずだ。
そして夜を待たず死ぬ事になる」。

「私をだましたデス?」

「来たのはお前の自由意志のはずだ」。

親実装は小さな肩を落としてうつむいた。確かに男は勧められないと言ったのだ。

「・・・何でニンゲンはワタシ達を残酷に殺しておいて更に毒まで撒くデス?はじめから毒で殺されていれば、せめて・・・
せめて家族そろって死ぬことが出来たデス」。

「人間はお前ら実装石を恐れている。見境なく毒を撒いたらやがて耐性を持った個体が生まれる。毒に触れる実装石の数を
極力減らして、変異体が生まれるリスクを最小限にする為に手間のかかる二段構えの駆除をしてるって訳だ」。

親実装はじっと手の中の長女の偽石を見詰めて男の話を聞いていた。そしてゆっくりと男の顔を仰ぎ見た。

「私のママはまだ小さかった頃の私を庇う為に囮になって、クロバサに生きたまま食い尽くされたデス。
私の初めての仔供達はクロバサの群れに生きたまま全部飲み込まれたデス。
二番目の仔供達は今日人間に全部殺されたデス」。

「そうか。お前は運がない実装石だな。しかし運がある実装石なんてのは、少なくともオレは今まで会った事はないな」。

「ニンゲンさん、殺された者にはもう会えないデス?長女チャンは命の石を持って死ねなかったデス。
長女チャンに・・・この石を・・・そして次女ちゃんや三女ちゃんをもう一度ナデナデして・・・蛆ちゃんはいっぱいプニプニを・・・」。

親実装は感極まってオロローンオロローンと泣き出した。男はやれやれという表情で親実装が落ち着くのを待った。

「そうだな、良い行いを積んだ人間は天国に行けると言われている。そこは何の苦しみも心配もない所だというぞ」。

「それじゃ、私の仔達も天国に行ったデス?仔供達はとても賢くて優しくてお互いに助け合っていたデス。
天国とか言うところに行けばまた会えるデス?」。

「天国は空の上にあるという。お前が空の上に行けるなら会えるかもな」。

「どうしたら空の上に行けるデス?」。

「オレの知った事か。しかし、とにかく上へ上へと行けばいいかもしれん。例えばあんな高い塔に登るとかな」。

男は町の中心部でライトがチカチカ光る高い電波塔を指し示した。それは夜の町の光に照らされて、闇の中で薄ぼんやりと
輝いていた。

親実装は頭巾から頭を出して頭巾をポケットの様にした。そしてその中に割れた長女の偽石を入れて言った。

「長女チャンは天国に行くときに命の石を忘れて行ったデス。私があの塔に登って天国の長女チャンに届けてあげるデス」。


*


男は親実装をバッグに入れて担ぐと、町の中心部の電波塔へ歩き出した。

「しばらく寝ておけ。毒が全身に回るのを遅らせる為には体を安静にしてしておくしかない。それでも一時凌ぎに過ぎない
けどな」。

親実装はバッグから頭を出して訊いた。

「ニンゲンさん、何で私にここまでしてくれるデス?」。

「さぁな?でも俺はお前のような賢い、愛情深い実装石の行動に興味がある」。

「ニンゲンさんには名前があると聞いたことがあるデス。ニンゲンさんの名前を教えて欲しいデス。天国で仔供にあったら
ニンゲンさんの事を話すデス」。

「お前らは人間の声を発音できないから教えても無駄だと思うがな。俺は九郎という。九番目の男という意味だ」。

「デー?九女ちゃんデス?」。

「そうか、お前らは男という概念を持っていなかったよな。九女か。まぁ、そんなもんだ」。


*


九郎はバッグの上から親実装を揺り起こした。親実装は浅い寝息をたてて寝ていたが、苦しそうな表情で目を覚ました。

「そろそろ着くぞ。塔の途中までは俺が連れて行ってやる」。

九郎はオレンジ色の夜間照明に照らされたフェンスを飛び越えると、塔の中に設えられた階段を昇る。

カンカンとスチール製の階段を昇る足音が夜の空に吸い込まれていく。そんな単純な音が延々と続くかと思われたが
唐突にその音は止まった。

九郎はバッグに入った親実装を階段の上に降ろした。

「オレがお前の手伝いをするのはここまでだ。後は自分でひたすら上へ上へと登るんだな」。

九郎が立ち止まった場所は塔のほぼ中央部だった。此処までの階段は塔の内部だが、ここから先は塔の構造が一段細くなり
外部にらせん状にメンテ用の階段が並んだ状態になっている。

そして部外者の立ち入りを防ぐ為に、そこから先は金網のフェンスがその行く手を阻んでいた。

九郎は金網の隙間から親実装をメンテ用の階段に押し込んだ。

「そういえはなんでニンゲンさんは私と話せるデス?他のニンゲンさんは私が何を言っても分かってくれなかったデス」。

押し込まれて乱れた服を直した実装石が振り返って話しかけた時、既にそこに九郎は居なかった。








「ニンゲン・・・さん?・・・」


*


高い電波塔上部の周りにらせん状に設えられた階段。階段を囲む安全柵の作り出す影が幾何学的なパターンを
延々と織り成している。

九郎と別れてからどれくらい経ったろうか、太陽は既に中天を指そうとしている。

親実装は小さな体、その全身を使って階段を昇って行く。

親実装は殺実装剤に侵された肉体で、残された時間を気力に変えて昇り続ける。

そもそも人間用に作られた階段である。実装石の肉体では昇るというよりもよじ登るという体である。

親実装の苦行は十数時間に及び、体中は擦り切れてボロボロの状態になっていた。

何度か突風に飛ばされそうになった事もあった。

それでも親実装は、仔供達に会ったときの事だけ考え、ただひたすら体を動かし続ける。

もう少しだ、もう少しで天国にいける。死んだあの仔たちにまた会える。会ったら沢山頭を撫でてやろう、ほっぺとほっぺを
くっつけてやろう。蛆ちゃんにはプニプニをしてやろう。

そういえば何時かこんな事を考えた事があったような。でも何時のことだったのか。随分前の事のような、ついさっきの事のような。

遅効性殺実装剤に侵された親実装の意識は、同じような問いを何度も自分自身に投げかけていた。

やがて親実装は階段の終着点にたどり着いた。目の前に立ちはだかる進入阻止のフェンスの隙間をなんとか通りぬけると
そこはテラス状の足場になっていた。此処より上は真っ青な空が広がっているだけだった。

「此処が天国デス?」。

親実装は苦しい息の中で呟いた。そしてその場に仰向けになり、呼吸を整えようとした。












				バサバサ	バサバサッ











とても嫌な音がした。

この音は二度と聞きたくない音、忌まわしい記憶に結びつく音だった。




私のママを生きたまま食い尽くしたあいつら。

私の初めての仔供達を生きたまま全部飲み込んだあいつら。





「クロバサ・・・デス?」

親実装が音の方に視線を向けると、足場の手摺に何十羽ものカラスがいた。

そして全羽が黒曜石のような漆黒の瞳で親実装をじっと見つめていた」。

親実装は視線に射抜かれ一瞬で盛大にパンコンした。

私は天国に来た。でもクロバサが居る。なんで?ここは良い仔だけが来れるところじゃないの?

親実装の意識が一瞬混濁する。しかし、次の瞬間、意識はスッと透明になり親実装はクロバサ達に向かって叫んでいた。




	「お前らもよい事をしてここに来たというデス?
	私のママはまだ小さかった頃の私を庇う為に囮になってお前らに食い殺されたデス!
	私の初めての仔供達はお前らの群れに生きたまま全部飲み込まれたデス!
	二番目の仔供達は昨日人間に全部殺されたデス!
	クロバサもッ!人間もッ!天国に居ちゃいけないんデスッ!」




しかしカラスは叫ぶ親実装を無視するかのように、その視線を一斉に一方向へと転じた。

「デ?・・・」

親実装もつられる様に同じ方向を見た。

視界に町の展望が一気に流れ込んで来る。

これが私の居た世界の姿なの?

親実装はカラスの存在も忘れ、フラフラと手摺に近づく。

下を覗くと視界には小さな、小さなニンゲンたちが忙しそうに動き回っている姿が映った。あれほど恐ろしかった轟音を立てる
自動車も今は小さな塊にしか見えない。

色とりどりの人間の家が沢山並んでいる。大きな建物が整然と並んでいる。遠くには緑の木々が沢山見える。

私の居た世界はとても大きくて、私が居なくても、私のママが居なくて、私の仔供達が居なくても、それでもなんの支障もなく
動いている。生きている。

親実装は泣いていた。世界の美しさと大きさ、そして自分の存在の卑小さ。無意味さ。

賢いが故にその全てを瞬時に理解してしまった。

私は今まで天国に居たんだ。ここから見える景色は天国の景色なんだ。でもあそこで私達は幸せにはなれなかった。

天国は私達に幸せを与えてくれるところではなかったんだ。

頬を伝う涙がコンクリートの床にポツリポツリと染みを作っていく。



親実装に突風が吹き付けた。でも、もう親実装はそれに耐えようとはしなかった。

風の力に身を任せると小さな体がよろけて足場から中空へ、その身が押し出された。

親実装は風に翻弄されながら、塔の壁面に何度か叩きつけられ、下へ落ちていく。

長女の偽石が頭巾から零れ落ちて散っていく。

パンコンした緑の排泄物は風に散らされ壁面に緑の染みを作る。

地面に吸い込まれていく親実装を見つめていたのはカラス達だけだった。



*



翌日の早朝、九郎が電線に泊まったカラスを見上げていた。
カラスは黒曜石のような黒い瞳で九郎を見つめていた。

「そうか。あの体で登り切ったのか。意外だな」。

九郎は独り言のように小さくつぶやいた。



*



「なぁ、あそこでカラスと見詰め合ってる変な男はなんだ?気味悪ッ!」。

「え?どこどこ?」。

「ほらあそこ・・・あれ?居ない?」。

「大方ホームレスかなんかだろう?それより今日は市民第二公園で駆除作業だぜ。急がないと集合時間に遅れるぜ」。

「そうだな!今日もニコニコ一家惨殺!これだから実装駆除のバイトはやめられない〜♪」。

「俺達は実装ちゃんを苦しみ多い現世から解放して上げるバイトの解放者だぜ?」

「ウヒヒ。お前巧いこというね」。

アルバイトの二人連れは馬鹿話をしながら小走りで今日の仕事場へと駆け出して行く。

九郎が消えた後、カラスは二人に一瞥をくれると「カァ!」と一声上げ、何処ともなく飛び去って行った。



*



電波塔の上に九郎が立っている。

「これがあの親実装の見た最後の景色か。実装石が死に際に見る景色にしちゃ悪くないな」。

九郎は手すりに上半身を預けた。すると待っていたかのように一羽のカラスが飛んできて、直ぐそばの手摺に止まった。

カラスはその黒曜石のような漆黒の瞳を九郎に向けた。九郎もその視線に応えた。

「虎は死して皮を残すというが、実装石は死んで糞の跡を残したか・・・糞の跡は何時までも残っているものではないが、
しばしその生の残響を残しておくがいいさ」。

九郎は一息ついて小さく呟いた。

「・・・さて、人は死んで何を残せるんだろうかね」。




*




その町には高い電波塔があった。それは赤と白に塗り分けられていた。

しかし今はその上部に、僅かに緑の斑点がこびり付いている。

それはかつてある実装石が確かにこの世界に存在した証。

しかし地上の人間の肉眼では捉えられないほど小さな跡だったという。





おしまい

鍋屋	◆LCl66aXKxk (現行トリ 2007年8月20より)
	◆dh4a8ve0HI (廃棄トリ 2007年8月20にトリバレ)



**

諸星大二郎氏の「稗田礼二郎のフィールドノート(旧名:妖怪ハンター)」みたいな感じでいけたらなー
そう思ったら全然別物になってしましました。なんてこったい。つーか九郎っていったいどんなキャラクターだよorz

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