「紳士の酒場」 もしもし—— もしもし—— ちょっとあなたですってば。 何かをお探しですか? 知ってますよ、あなたさっきから公園をウロウロとしていますよね? あっいえ!怒らないで下さいよ、そんなつもりでは御座いません。 所でこの街は初めてですか? えっ実装石を捜している? なるほど・・・・あなた・・虐待派ですね。 ハハハ隠しても無駄ですって、おおかた自分の街じゃ基地外扱いされて動きにくくなった・・ それで遠くの街まで足を伸ばしたって、事でしょう? なんて言うのか・・匂いですか・・虐待派ってのが見た目から伝わって来るんですよ。 あぁ!初めての街で迷ってしまったんですか。 それではワタシにお任せ下さい、あなたの望みを叶えて差し上げましょう。 それでどんな実装石が好みなんですか? ペットとして従順な奴、それとも豚の様に醜い奴・・ あぁあれでしょ、心の底から糞蟲属性ですね?・・・えっどんな奴でもそれなりに楽しむですって? フーム良いご趣味ですな、虐待派たるものそうでなくちゃいけないですな。 最近の虐待派はやれ性格がどうの見た目がどうのと、文句ばかりで中身が伴わない。 あぁ私ですか? 実は私・・客引きなんですよ。 お仲間の集まる店があるんですよ、それも生え抜きのね・・へへ 夜中に公園をうろついてるもんで、これはと思って声を掛けたって寸法です。 静かで雰囲気も良いし、人目につきにくい穴場があるんですよ。 いえいえ、怖いお兄さんなんか出てきませんよ。 料金も良心的です、嘘なんかつきませんってば。 まぁたちの悪い客引きも都会にはいるらしいですからね、疑うのは無理が無いかもしれませんな。 私みたいに良心的で、客を見る客引きなんかにはとんだ迷惑です。 客を見るのはどういう意味かって? 私には分かるんですよ、心に穴が開いていると言うか何かが足りない人間って奴がね。 どうです?おいでになりませんか。 えっ そんなに良い店なら客引きの必要なんか無いじゃないかって? こりゃ疑り深いお客さんだね、まだお疑いになるって言うんですか? しょうがないなぁ・・お話しましょう。 さっき少し話したでしょ。 うちの店はお客を選ぶんですよ。 虐待派なら誰でも良いって訳には行かないんです。 失礼ですがあなたは自分でも分かってらっしゃる。 実装石への虐待行為はおかしいってね。 でも分かっていてそれを続けている。 自分でも引き返せない所まで来ている事が分かっている。 ばれれば社会から隔絶されてしまうかもしれないのに。 一目見た時に私には分かりましたよ。 あぁこの人は芯からの虐待紳士なんだってね。 いつの頃からか、そういう能力が私にはありましてね、で、客引きって訳です。 自分なんかがそんな資格なんか無いですって、ハハ謙遜するんですね。 だから私はあなたを客引きしたんですよ。 客を選ぶって言ってもね、そんな大層なもんじゃないですよ。 うちの店は虐待派でも、虐待する為に虐待する人はお断りしてるんです。 虐待にも様式美という物が無くてはねぇ。 分かりますか? 実装石が涙を流すには、それなりのドラマが必要なんです。 それらの演出を経て、死に逝く姿のなんと美しい事か・・ 考えただけでも体中が身震いするでしょう? そして完全に死んでしまった実装石に、ある種の後悔やセンチメンタルな感情が沸いてくる。 あなた・・・ 子供の頃に実装石で何か悲しい事があったしょう? 大切に大切にしていた実装石が、目の前で無残に殺されるような・・ そしていつまでもその想い出を引きずっている・・ 図星のようですね、まぁまぁそんな悲しそうな顔をしないで下さいよ。 そんな人達が集まって、うちの店が成り立っている訳ですからね。 こっちですよ旦那。 そんな遠くじゃありません、この暑い日に長く歩かせはしませんって。 あっそこは段差になっていますので気をつけて。 そこの路地を曲がった所です。 店の名前ですか?店の名前は「虐待紳士」って言うんですよ。 店主は40を過ぎた綺麗な女性です。 酒は出来合いの物もありますが、カクテルもあるんですよ。 入ってすぐの所に大きな鏡があるんですが、この鏡は不思議な鏡でしてね。 自分の本心が映し出されるんです、嘘だと思ってるでしょう? まぁ無理もありませんが、騙されたと思って一度ご覧になって下さいよ。 前なんか恋人同士の虐待派が仲睦まじく鏡を覗きましてね。 お互い虐待派だと信じて疑わなかったんでしょうな。 一心同体というか、良くいるでしょうそんなカップルって。 だが鏡に映ったのは、男の方が実は隠れ愛護派だって分かってしまいまして・・ もう大喧嘩ですよ、迷惑もはなはだしい。 彼女は分かってなかったんですな、 愛護派でありながら虐待するその心境の何と背徳的な事かを。 愛する故に虐待をしてしまう、その心の傷が虐待の素晴らしい味付けだって事を。 男はこの店に相応しいが女は相応しくなかったって事を。 おっと まずはお店に入りましょうよ、ご案内します。 ママァ!!お客様です。 どうです、ママは綺麗でしょう。 憂いをおびた表情が、何とも言えないでしょう。 彼女も昔はバリバリの虐待派だったんですよ。 今じゃ一匹の実装石と仲良く暮らしていましてね。 仲良くって言っても、傍から見ればですがね。 ここだけの話ですよ。 彼女ねふられたんです前の男に、そりゃぁこっぴどくね。 それから・・ネチネチと虐待するように変わったんです。 彼女の実装石はいつも片腕や片目が無かったり、必ず生傷があるんです。 それで彼女は心の平穏を保っているんですよ。 彼女の横にいる実装石がそうです、ミドリって言うんですよ。 あれは食材やカクテルのネタにもなってるんでさ おっとと、ママが睨んでるんでこの話はこれ位で。 それより向かいの席に一人で座ってる、白髪の紳士がいるでしょう。 あの人に捕まっちゃ行けませんよ。 捕まったら最後、過去の虐待話を延々と聞かされるんでさぁ。 やれ100匹まとめて虐殺しただの、家には生きたまま剥いだ何千もの実装石の皮があるだの。 つまりなにが言いたいのかって言うと、昔は良かったってぼやきたいだけですよ。 過去の栄光にすがって、それをひけらかすだけで本当かどうかもわかりゃしない。 ただその姿は哀しいというか憐れというか、そんなこんなで店には合ってましてね。 何ともあさましいじゃありませんか、中身の無い自慢話なんてね。 えっ?・・私ですか? 実は・・私この店に客として来る資格は無いんですよ。 だから、客引きをやっている訳でして。 もう良いじゃありませんか、私の事なんか。 私が虐待派じゃない? いえいえ、そんな事は。 れっきとした虐待派ですよ。 いやぁ・・別に隠し立てしてる訳じゃ・・ どうも何というか・・弱ったなぁ。 お話しするほどの話でもないんですがねぇ。 それじゃ話しますよ。 私はね・・鏡に映らなかったんですよ。 なーんにもです、いいですか全く何も写らなかったんです。 カラッポ、空虚、心が無いって事だったんです。 人形やロボットと一緒でした。 悔しかったと言うより、愕然としました。 私は実装石をただ虐待してただけなんです。 そこには怒りも悲しみも笑いも存在しなかった。 いっぱしの虐待派を気取ってるのが何とも滑稽でしたよ。 それ以来この「虐待紳士」って酒場から離れられなくなってしまったんです。 せめて他人の虐待話でも聞いて、そんな気分に浸りたい。 笑って、怒って、泣いて、心の底から実装石を虐待した気分を味わう為に・・・ 悪魔みたいだって言うんですか? 魂の無い悪魔が心を求めてさすらっている? そうですね、あなたの言う通りかも知れませんや・・ でもねぇ、考えて下さいよこの酒場に来る人にとって、世の中は自分達を受け入れてくれないでしょう。 すなわち実装石をその捌け口にしてるってのが、答えでしょう? えっ違う? 実装石虐待と社会は関係ない? ・・それじゃ何で虐待をしなければ行けないんですか? 実装石を愛するが故の行動・・・分かりませんな? 自分の愛する実装石が、自分の手で裏切られ苦痛に歪み死んで行く顔が忘れられない? あぁ自分がなぜ鏡に映らなかったのか、分かった気がしましたよ。 ふふふ・・あなたをこの酒場に連れて来たのは正解だったようですね。 さぁ私に見せて下さい、あの鏡に映るあなたの姿を。 ママ、この方にカクテルをつくって差し上げてくれ。 これは私の驕りでさ・・実装石の生き血で作った実装ブラッディーで・・ ほら鏡はそこですよ・・・ 一緒に行きましょう、あなたの本当の姿を見ようじゃありませんか。 私はこの為に生きてるんですよ。 どうですか?あなたもこの店で、自分の本当の姿を見たいと思いませんか? 歓迎しますよ、私がね・・・ ようこそ・・「虐待紳士」の酒場へ。 終わり ——————————————————————————————————————————————— 見張り
