こんなものでいいかな?」 実装石は強力な再生能力を持っているが、どういうわけか火傷だけは再生することが出来ない。しかしそれには一つ抜け道がある。火傷を 起こした皮膚を全部削ぎ落としてしまえばそれは普通の外傷と変わらないため元通りの再生が可能となる。 皮膚の再生が始まり、全身に薄皮が貼りだしたのを確認して男は仔実装を水槽に移した。 もし彼が普通の人間であったなら、この仔実装は最初で最後の満ち足りた思い出と共に袋と糞ごと近所の実装回収ボックスに捨てられるか、 あるいは鉄拳による一撃死がオプションとして追加される程度で済んでいただろう。 仔実装にとって不幸であったことは母がわざわざ狙って託児したこの男が自他共に認める虐待師であったことと、 彼が持つ実装石用長期飼育ケース:通称「飼い殺し水槽」に空席が有ったことの二つであった。 男は仔実装の言動からその高いの糞蟲性を読み取り、この仔実装を虐待用として長期飼育することを決めた。 「託児されたのはあのコンビニ以降だろ…。児童公園の実装石ってことだから…。」 これは正解…男は自分の記憶から児童公園の実装石をリストアップしていく。 「このサイズの仔を連れていたのはあの親実装しかいない…あいつは春の出産ラッシュから1月遅れで仔を産んでいたからな。」 これも正解…次に親実装を分析する。 「そうするとあいつの2匹の仔の内の1匹か。人前にあまり出て来ないがあれは確か要領が良かったはずだ、餌袋のサイズとふくらみから 想像するに親仔3匹の餌としては十分な量を持ち帰っていたはずだし。」 これも正解…男はそれだけの情報を踏まえた上で『当面は託児は起こらない』と考えていたため、対策を何も取っていなかった。 さらに分析する。 「あの親の仔としては頭が悪すぎるな。育児放棄の線で考えると自分の身を危険に晒して託児するよりも単純に間引く方が楽だろうに。」 「殺すに忍びなくて人に託したか、だがもう少し相手を選べば良かったのにな。」 最後は不正解…さすがの男も親実装がわざわざ自分を選んだとは考えられなかった。 全身の皮膚を削ぎ落とされ、水槽の底でゼェゼェと呻く仔実装を見ながら男は次の手を考えた。 「こいつ何が欲しいって言ってたっけ?ステーキ,プリン,コンペイトウ,洋服…そういや糞を食えとも言ってたな…おや?」 男は時計を見てニヤリと顔を歪めた。 「そろそろ夢を見る時間だな。」 「…テェ…」 水槽の底で仔実装は呻いていた。 「…テェ…」 体中が痛い,痒い,痛い,痒い。 「…テェ…」 お腹がすいた。目の前に有ったゴチソウの山はすでに糞に変わり体の外に出て行った。 「…テェ…テチュ…」 ママ…なんで助けてくれないの? 「…テェ…テェ…テェテェテェテチャアアアァ—————!!!」 痛みと空腹,惨めさ,悔しさ…肉体と精神を襲う負の刺激に仔実装は発狂した。ところが…。 「テェ?…」 何だろう急に体が楽になってきた。暖かくやわやわとした感触に仔実装の心は和らいだ。 「テヒッ!…テヒッ!」 周りから良いにおいがする。口の中はオイシイ味でいっぱいになり空腹感はたちどころに消え去る。 「チプ…チプププププ…」 なんて気持ちいいんだろう。もう…何も…考え…られな…。 『おい!!起きろ!!!』 「テゲッ!!」 気が付くと仔実装は首根っこをつかまれ、男の目の高さまで持ち上げられていた。 「お目覚めですか?」 言うや否や男は太い針の付いた注射器を取り出し、仔実装の腹に突き刺した。 無理矢理胃袋の中に栄養剤が入ってくる異様な感覚に仔実装は口大きく開き、突き出した舌をブルブルと震わせた。 男は仔実装の苦悶の表情を堪能すると、それを再び水槽の中に戻した。 硬く冷たい水槽の床の上で仔実装は何かを探すように必死に辺りを見回す。 「無い!無いテチ!ウマウマどこテチ!?ヌクヌクどこテチ!?」 (やっぱりいい夢見てやがったか。起こしてやって正解だったな。) 男はリンガルを通して仔実装の狼狽する様子を楽しむ。仔実装が見ていたのはただの幻覚、実装石は過剰なストレスを 受けると幸せな幻覚に逃避することが知られている。偽石をストレスによる崩壊から守るために幸福回路が自らの五感 をかく乱し、偽石を守りながら緩やかに仮死に至る。このまま何もされなければ偽石の力を消耗し切り緩やかに 死ぬことができたのだが、男はそれを許さず絶妙のタイミングで天国から現世へと仔実装を呼び戻した。 そして現世はこれより仔実装の地獄となる。 視界の端に男の姿を見つけた仔実装は水槽の中を男に向かって這いずり、涙と鼻水に塗れた汚い顔を水槽に押し付けて叫んだ。 「ヌクヌクとウマウマをハヤく返すテチャアアァァ!!ハヤくするテチャアァ!!ブッコロすテチャァ!!」 (ぶっころす以外に脅し文句を知らないのかね?) もとから存在しないものを奪われたと勘違いし、返せと要求する仔実装に男はニヤニヤと笑いながらプリンのカップを見せ付けた。 「テ!!アマアマテチッ!」 仔実装はプリンの味を思い出し、コロッと上機嫌になった。 「ハヤくよこすテチャァ!!」 興奮しながら命令する仔実装の言うままに、男はプリンのカップを仔実装の前に置いた。仔実装は跳び付く様に『プリンのカップ』 に頭を突っ込んだ。仔実装の口の中には想像通りの甘ぁい味が…。 「ムグ…!?(臭い!!)ペッペッペッ!?ウ!うんちテチャアァッ!」 それはつい2時間ほど前に仔実装が男に向かって忠誠の証に食えとほざいた糞入りのプリンカップであった。 糞塗れの顔で呆然とする仔実装を男は腹を抱えて大笑いする。 「ふざけるなテチャァ!!これはおまえのごはんテチャア!!さっさとこれを食ってアタチのドレイに…ムグッ」 仔実装が世迷言を言い終わる前に頭からプリンのカップを被せられる。 …臭い!前が見えない!苦しい!イヤだイヤだイヤダイヤダ!タスケテ!ママ! 「ムグッ!」 発狂寸前の仔実装に再び栄養剤が注射される。 「ゲヘッ!ゲヘッ!」 再び太い注射針の痛みと、食道を通さず胃に物が流れ込む異様な感覚に仔実装は悶え苦しむ。 「テェ…テヒッ?」 注射が終わると仔実装はヒクヒクと小刻みに痙攣しながら目を閉じた。栄養剤に混ぜられた『実装ネムリ』の効果である。 「まだまだ元気じゃないか。余計なエネルギーを消耗しやがって。」 男は水槽の底でヒクヒクと動く仔実装を一瞥した。 「本番は皮膚が治ってからだ。それまで大人しく眠っていろ。」 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 前スク :託児? 駄文にお付き合い頂き有難うございます。 虐待描写に不足を感じていたため補完のために描かせて頂きましたが、そのわりにたいしたことをしていません。 次の一話「託児?③」で終わりとさせて頂きます。
