ここはコンビニの前、ゴミ箱の陰には一組の実装石親仔が潜んでいる。 「ニンゲンの持っているあの袋の中身にはオイシイものがたくさん入っているデス。全部オマエの物デス」 その言葉に仔実装は期待に満ちた眼差しで頷いた。 「ダレデモいいからハヤくするテチ!オナカペコペコテチ!まったくママはツカエないテチ!糞蟲テチ!」 悪態をつく仔実装に母実装は優しく諭すように言った。 「誰でもイイなんてとんでもないデス。ちゃんと選ばないと後でヒドイ目にあうデス」 「ハヤくするテチ!もうオセッキョウなんて聞かないテチ!ナマゴミしか持って帰れないヤクタタズはキチャナイ オウチのなかでイイ仔ブリッコのクソオネエチャンと仲良くしてるがイイテチ!」 我が仔の悪態を聞き流しながら親実装はコンビニの中に目的の人物を見つけた。外見はみすぼらしくも無いがかと言って 良い服を着ているわけでもない。体格はひょろ長く顔つきも含めて頼りない印象を与え、疲れ切った雰囲気を 周囲に放っている。誰でも良かったのではない、母実装はこの男に託児するためにここに来たのだ。 弁当を買い、支払いを済ませてとぼとぼと家路に着く男に母実装は真横から接近し、仔実装を袋の中に投げ入れた。 男はそれに気づいた様子も無く歩き続ける。 託児第一段階の成功である。であるはずなのだが母実装の顔に浮かぶ表情は非常に複雑なものだった。 仔実装の目の前にはハンバーグ弁当とプリンがあった。それを自分のものだと教えられた仔実装はまず中身の 見える弁当に手を着けた。歯糞と食べかすにまみれた小汚い…いや明らかに汚い口でビニールを食い破り弁当の蓋をこじ開けると 仔実装の前にひろがるのはそれまで見たことも無いゴチソウの原、その匂いは鼻水で詰まった鼻を通しても なおその脳を刺激した。 「…テ…」 仔実装はその光景に目を見張り、口を半開きにして立ち尽くしていた。それまで感じた事の無い圧倒的な 情報量の幸福を脳が処理しきれない。普段から幸福=当然と口にしてはばからない実装石もいざゴチソウ を目の前に叩きつけられたのでは話が違う。仔実装なら尚の事だろう、涎鼻水はもちろん総排泄孔は緩みっぱなしで パンツは糞まみれ、目からは血涙が流れ全身を痙攣させている。 「…チプ」 30秒ほど経過したであろうか 「…チププププププ」 不快な笑い声を上げながら仔実装は思った。 (やった、ついにやった、生ゴミしか持って帰らないくせに口ウルサイだけの母親と、バッチイくせに イイ仔ブリッコでいつもエコヒイキされている姉、あいつらを捨てて自分は幸福を手に入れた。) 「…チププププププ」 (自分のミリョクでこのドレイニンゲンにゴチソウを貢がせ、バライロの生活を送ることができる。) 「…チププププププ」 (いや、ゴチソウだけじゃだめだ、キレイなオヨウフクと暖かい寝床も用意させよう。) 「…チププププププ」 (それができないならこのニンゲンは自分のドレイとしてフサワシクない。ジキジキにナブリ殺して野良実装ドモ のエサにしてやる。自分が怒ればドレイニンゲンは大慌てで用意をするにちがいない。) 「…チププププププ」 (気が利かないのも一回までならゆるしてやろう、ドレイニンゲンも自分のカンダイさに感動してよりチュウセイ を誓うに違いない。) 「…チププププププ」 この救い難い思考が実装石に標準装備されているという幸福回路の賜物だ。目の前にあった本来ならば口にすることすら許される はずのないゴチソウをたった30秒で『当然のもの』に格下げし、30秒後にはさらなる欲求を発生させる。 「サッソクこの貢ぎ物を食べてやるテチ」 仔実装はまず一番強烈な匂いを放つハンバーグにかじりついた。 「ハグハグモグモグ、うまいテチ!おいしいテチ!これはきっとステーキに違いないテチ!ドレイニンゲンに毎日 これを貢ぐようにメイレイするテチ!」 ちょっと違うのだが仔実装にそんなことは関係ない。ハンバーグを食べつくすと御飯いわゆる銀シャリに手 「味が薄いテチ!甘いか辛いかわからないテチ!ワタチのタベモノにフサワシクないテチ!」 なんということだろう今まで食べたことの無かったはずの銀シャリでさえこの扱い。恐るべし幸福回路。 次々と弁当の中身を平らげ勝手に採点をして行く仔実装。ハンバーグは合格,御飯は不合格,ポテトサラダと スパゲティはかろうじて合格(ワタチはなんてカンダイなんテチ)ブロッコリーは不合格ですっぱい漬物は 問題外(今度出したらブッコロシテやるテチ!シッパイをゆるすのも一回までテチ!) 空になった弁当の容器にはそれまで垂れ流していた糞を詰めていく。 「なんで高貴なワタチがウンチを触らなければいけないテチ!でもこうしておけばバカなドレイニンゲンでもこれが 自分のタベモノだとわかるテチ。」 糞をひり出しているうちに仔実装は再び空腹になっている自分に気づいた。フル稼働中の幸福回路が次のゴチソウ を受け入れるためのスペースを開けるためにこの短時間で食べたもの全てを糞に変えたのだ。この間わずか10分の 出来事である。 プリンのカップを開けその中に頭からダイブする仔実装。 「アマいテチ!これは合格テチ!毎日食べるテチ!」 プリンを食べつくしそれを糞に変えると仔実装は眠りに付いた。それは今までに経験したことの無い安らかで みたされた眠りであった。 「…惨たらしく殺される前にせいぜい腹いっぱい食べるといいデス。」 託児(?)の成功を見届けた後男の後を追うでもなく、母実装はとぼとぼと自分のダンボールへと帰った。 ダンボールの中には穴だらけにされた長女が横たわっている。強靭な再生能力を持つ実装石も栄養が無ければ それを発揮することは出来ない。偽石の力を消費しきって息絶えるだけである。 物言わぬ長女に対し、血涙を流しながら母実装は言った。 「…カタキは討ったデス」 いつものエサ探しから戻るとそこには穴だらけで息絶えた長女とその手に血まみれの五寸釘を持った次女がいた。 立ち尽くす母親に次女はしどろもどろになりながら 「オネーチャンが悪いテチ」と答えた。 いざというときのために蓄えておいた食糧、蓄えるという概念すら理解できなかった次女はそれを食べてはいけない と言う母実装の教えに常日頃から不満を感じていた。母実装は次女を間引く必要を感じていたが、情が深い個体 であったことと、とりあえず三匹分の食糧を確保できていたため、ついつい先送りにしていたのだった。 長女に盗み食いを咎められたことに逆切れした次女は以前から用意していた五寸釘で長女をめった刺しにしたのだ。 「ゴメンナサイデス…もっと早く間引きをしていればよかったデス」 母実装はすぐさま次女を殺そうとした、しかし只殺すだけでは飽き足らない。コイツに長女が味わった以上の苦痛を 与えてやりたい。地獄を見せてやりたい。しかし自分ではどうして良いか分からない。グルグルと回転する思考の中 母実装は一つの答えにたどり着いた。 母実装が次女を投げ込んだ相手は、バールのようなものを持って公園を歩き回り、バカな実装石にはコンペイトウと 偽ってコロリを与え、賢い個体からはリンガルと言葉を巧みに操って全てを奪う、この辺りきっての虐待派であった。 この時間にあの男が近くのコンビニを利用することを知っていた母実装は次女の処刑執行人として彼に白羽の矢を 立てたのだった。 そうこれは託児ではない、託児に見せかけた間引き、いや処刑と言ったほうが適切かも知れない。本来失敗の元である 『袋の中身を食べる』ことを敢えてさせたのはより一層の虐待を引き出すためのものであった。 「ゴメンナサイデス…、ゴメンナサイデス…」 自分の不甲斐無さから二匹の仔を失った母実装はその場に泣き崩れた。 ここはその虐待派の家のテーブルの上、 状況を理解出来ていない(理解する気も無い)仔実装は怒りながら虐待派に対してあれこれと命令していた。 空腹を訴えステーキとプリン,コンペイトウを求め、さらに着替えるからキレイな服をたくさん用意しろ!ワタシが 選んでやると要求し、糞が詰まった弁当箱とプリンの容器を指差し今日からこれがおまえのタベモノだ忠誠の印に 今すぐ食べて見せろと言い放った。 一方虐待派は冷静にリンガルを見つめていた。腹が立っていない分けではない、ここまで気持ちよく勘違いをした 糞蟲に何をプレゼントしてやろう。それを考えただけで虐待師として今まで感じたことの無い興奮を覚えた。 自分の要求に対して何も行動を起こさない男に対して仔実装の怒りは頂点に達した。 「いい加減にするテチ!ブッコロしてやるテチ!おまえはウンコにしてやるテチ!」 いきり立つ仔実装に向かって男は満面の笑みを浮かべた。 「じゃあ…着替えようか」 そう言うや否や男は仔実装の服を剥ぎ取った。 5分後 仔実装はフリルの固まりの様な物を着て鏡の様な壁で囲まれた場所にいた。キレイな服を着た(と思っている) 自分が壁に映り込む姿に御満悦の仔実装は思わずその場で踊り出した。リンガルを通して上手だ最高だと持ち 上げる男に対し。 「オマエは幸せ者テチュ、この幸運に見合うチュウセイを示さなければブッコロすテチ!」 と幸福回路を全開にしてバチ当たりな発言を繰り返す。 服の正体はティッシュペーパーを何枚も重ねたものの真ん中から頭を出させただけのもの、鏡の部屋の正体は 流し台のシンクである。調子外れの歌を歌いながらご機嫌で踊る仔実装の頭上から降り注ぐのは冬の残りの灯油 「それ蓑踊りだ!」 男は火の点いたマッチを仔実装の頭の上に落とす。 「テエエエエェェェェエエエエエェェ!!!!!!!」 シンクの中で繰り広げられる火達磨のブレイクダンス。 やがて仔実装が動かなくなったのを確認すると男はそれを拾い上げ、慣れた手つきで偽石を取り出すとそれを 強力な栄養剤に漬け込んだ。 仔実装本体は皮膚の再生を促すためブラシで総ての皮膚をそぎ落とした後、体に栄養剤を注射する。 十分な栄養を獲得した仔実装の体は見る見るうちに皮膚の再生を開始した。 息も絶え絶えの仔実装を見て男はほくそえんだ。 (力の差を見せ付けるのはまだまだ先だ。今は自分が優位と思わせておいたほうが楽しめる。 そのうち自分の不利に気付くだろうがそうなったら虐待の仕方を変えよう。) いろいろとやりたい事はあるが、今何かやるとせっかくの獲物を潰しかねない。男は仔実装に語りかける。 「いやぁ君はなんて素敵な仔なんだろう!なんと言ってもここまで『上げ』をやる手間のかからない仔は初めてだ ボクは君に出会えた幸運に応えるために努力を惜しむつもりは無い!」 男の言葉は仔実装の耳に届かない、仔実装の心の中にあるのは母に対する怒りだけである。 (なんでママは来てくれないんテチ!この託児は失敗テチ!早くワタチを助けて今度こそちゃんとしたおうちに ワタシを運ぶテチ!) 母は来ない、来るはずが無い。本来の託児でも失敗したと判断されればその仔は見捨てられるし、そもそもこれは 託児ではない。 長い時間をかけた処刑は始まったばかりだ。 end -------------------------------------------------------------------------------------------------- 初スクです 駄文にお付き合い頂き有難うございました。
