実装石の日常 託児 Ⅱ ○ ある親実装 「お前たち、何があっても袋の中の食べ物に手を出しちゃ駄目デス、 ニンゲンさんへの挨拶も丁寧にするデス。絶対、我がまま言ったら駄目デスー」 くどいほど注意する親実装に、仔は2匹ともうなづく。だが妹のほうは親実装との別れが辛いらしい。 「ママ、ママも一緒に来てテチィ」 「……ママがいたら、ニンゲンさんが困るデス、だからお前たちだけで行くデス。 長女、6女を頼むデス」 「大丈夫テチ、6女ちゃんは必ず生き残されるテチ」 後は抱きかかえてタイミングを計るだけであった、もう言葉を交わす暇はない。 青年が暗闇の中から出てきたとき、親実装は決めた。店から出てきた瞬間、走っていき声も出さず2匹を投げ入れる。 2匹は思わず声を出さないよう、口を押さえていた。 「……今頃2匹はおいしいものを食べて可愛がってもらってるデス」 星空を見上げながら、親実装はわが仔が幸せになっていることを想像した。 飢え、体力を使い果たした自分はもう死ぬだろう。せめてわが仔のことを思わずにはいられない。 コンビニにもう用はない、公園の倒れ掛かったダンボールの我が家を目指す。 しかし待つ者がもう居ないのだ、急ぐ必要が無いことに気づく。 「あの仔たちは幸せになるデス…。でもなんで涙がでるデス?」 路上で人知れず涙する親実装。彼女が泣いているのはこの世の誰も知らないし知ろうともしない。 彼女をひき殺したトラックの運転手は、そうした事情を想像さえしなかった。 ************************************* ○ ある妹 「賢く美しい私だけなら、簡単に飼われたテチ。足手まといのお前がいるばっかりに、とんだことになったテチ」 「3女が居なくなったけど、あれは私がおいしく食べてやったテチ」 「お前もいざと言うとき食べるためか、身代わりのために可愛がってやったテチ。それがこの始末テチ、死ねばいいテチィ!」 優しい姉の豹変振りと聞きたくもない罵詈雑言に、妹仔実装は死に掛けていた。 ようやく、呼吸していると自分に暴力を振るっていた姉が消えていることに気づいた。 冷静に考えると、人間が自分を守って姉を殺したようだ。 姉の豹変と喪失に衝撃を受けているものの、妹は立ち上がろうとする。 今自分が死んでは家族に申し訳が無い。 それに、親も生きているかもしれない。いや、生きているに決まっている。 いつの日か大きく成長した自分が親実装を迎えに行くことを決意した。 ************************************* ○ ある青年 「やれやれだぜ」 有名漫画の主人公のようなセリフをはいて青年は肩をすくめた。 実装石は人間の悪徳の結晶のようなものだと言う人もいるが、こうして目の当たりにすると嫌悪感を強烈に感じる。 もともと、生活が苦しいからとわが仔を投げ込むような行動だけでも不快だというのに、今まで最後の家族である妹まで 道具にしていたのは。 その妹はただ静かに泣いている。 机から殴り落とした姉が肉塊になっているのは気づいているのだろうか。 「まあどうでもいいことだがね」 ビニール袋を手袋代わりにすると、青年は哀れな妹をそっとつかんで握りつぶす。 「テッ!」 姉仔実装は思い違いをしていた、妹実装が野たれ死にしようが青年にとってどうでもいい事で、 憐憫の情などわかないと言う事を。 害虫が迷い込んだときと同じ程度に処分すると青年は 姉の死骸も拾うと同じ袋に入れて縛りゴミ箱に投げ込んだ。 明日は燃えるゴミの回収日だ。 END
