タイトル:【託児】 実装石の日常 第一回Mayスレスク祭り
ファイル:実装石の日常 7.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:9478 レス数:0
初投稿日時:2007/07/28-21:24:03修正日時:2007/07/28-21:24:03
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 実装石の日常 託児


「疲れていたとは言え、不覚」

青年は自宅でコンビニ袋を開けると意識せずそう呟いていた。
夕食こそ外で済ませたものの、翌日の朝食のパンと牛乳だけはコンビニで買い求めたのだ。
ついでに買った雑誌が意外と重たく、託児を気づかせなかったのだろう。

「こんにちはテチ、ニンゲンさん」
「こ、こ、こ、こんにちはテチ」

とは言え、二匹も放り込まれていたのはちょっとしたショックだ。
埃と垢にまみれた、痩せこけた野良の仔実装。
公園の飢餓地獄から逃れるために、よほど切羽詰っていたのか親実装は生き残ったわが仔をまとめて託児したのだ、
一縷の希望を抱いて。

一応青年は携帯のリンガル機能を使うことにする。

「確認するがコンビニで託児されたんだな、お前ら」

「そうテチ、公園はもうご飯もなくて、仲間ばっかりで生きていけないテチ。姉妹も私たちだけになったテチ。
ママももう3日も何もゴハンを見つけられなくて、ニンゲンさんに託児するって言ったテチ」

「お前さ、良く喋るね」

「私はお姉さんテチ、妹のためにもがんばるテチ」

妹らしき仔実装は姉の背中に半ば隠れている。怯える、ということはそれなりの知性があるのだろう。
餓死の一歩手前まで託児しなかった親も賢そうだし、そういう血統なのか。

「で、なんだって」

「お願いテチ、私たちを飼って欲しいテチ。いきなりでゴメンなさいテチ、でもあのままじゃみんなお腹が減って死んでたテチ!」

「だが面倒ごとだよな、お前らの世話って」

「迷惑はかけないテチ!」

「もうかけてるだろ、そろそろ寝たいのにお前らの相手をしなきゃならん。飼う以上餌をやって世話をしないといけない。
迷惑のかたまりなんだよ」

「テ……」

姉は賢いのか、青年の言い分を認めたようだ。うなだれてしまった。

「まあいいさ、とりあえず明日考える。今夜はここで寝ろ」

そういうとプラスチックのバケツを持ち出してきた。捨てるにせよ飼うにせよ今日はもう遅い。
汚物のように摘んで2匹をバケツに放り込む。

「ニ、ニンゲンさん!」

おとなしかった妹が喋りだした。

「お、お腹が減ってしょうがないテチ。少しで良いから何か食べ物を……」

バケツに衝撃が加わり「テチャア!」「テヒャアア!」と悲鳴を上げて抱き合う2匹。

「いきなり要求かよ!! 面倒かけないとか抜かしたばかりだろ、このゴミ蟲!」

2匹の位置からではバケツの壁にさえぎられ、青年の顔は見えないがどういう表情かは分かった。

「ゴメンなさいテチャアアアアアア!」

「妹はお腹が減ってるテチ、もう2日も食べてないテチ、今までもろくに食べて…」

2度目の衝撃はバケツがひっくり返りそうであった。

「黙って寝ろ!」

青年が立ち去ると、涙目で妹が姉に聞く。

「お姉ちゃん、私たちどうなっちゃうテチ?」

「ママが言ってたとおりにして何とか飼ってもらうテチ。そうしないと私たちだけじゃ生きていけないテチ」

「ママに会いたいテチ……」

「まず私たちが飼ってもらう事が大事テチ。私たちが大きくなってママを迎えに行けばいいテチ」

「ママ……」

賢いが気の弱い妹はそのまま眠りについた。
2日前に餓死した姉妹の肉を食って以来の空腹、公園からの脱出、託児、親との離別。
とうに妹は限界に達していた。

その妹眺めながら姉は親実装が生き延びているとは思っていない。

姉は懸命に考える。
(もうママは生きていないと思う。
私たちのための託児で最後の体力を使い果たし、もうシミになっているか、食われているか。
妹に真実を告げたところで泣き出してニンゲンさんを不快にさせるだけで、
そうしたら私たちはあっさりと殺されてしまうかも知れない。
ママが自分を犠牲にしてまでくれたチャンス、私は絶対無駄にしない。)

寝静まった妹の顔を見ながら覚悟する。

(絶対、ママの命を無駄にしない!)



*************************************



バタバタと朝から騒がしい青年であった。軽く朝食を食べニュースを見ているとキッチンのほうからテチテチ騒々しい。

「ああ、託児されたんだった」

嫌な顔しながらバケツを覗くと仔実装が二匹血涙を流している。

「お腹減ったテチ、ニンゲンさん!食べないと本当に死んじゃうテチィ!」

「テェェェェン、テェェェェェン」

うっとうしいばかりの顔と声に、顔をしかめる青年。

とは言え、餓死すれば厄介だし今は時間がない。朝食のアンパンのかけらをちぎって投げ込む。

頭上から落ちてきたパンに驚いた2匹だがアンパンの香りに引き寄せられ、食らいつく。

「甘いテチャアアアアアアア!」

「やわらかいテチャアア!」

香り、柔らかさ、甘さ。生ゴミをいくらか口にできれば、良い一日だったと考えてきた彼女らの生涯において、
想像を超えるご馳走だった。興奮しながらアンパンのかけらを食べつくす。

出かける用意を終えた青年だが、またバケツが騒がしい。

「ニンゲンさん、お水欲しいテチィ」

「のどが渇いて苦しいテチィ」

託児の前に水溜りから飲んで以来、一滴も何も飲んでいない2匹であった。
飢えが収まると今度は乾きに苦しめられる2匹だった。アンパンを食べたので、一層乾きに責められる。

「ニンゲン…」

2匹の頭から水がかけられた。

「それでも飲んでろ!」

青年はコップの水をバケツに放り込むと、言い捨てる。

びしょ濡れになりながら、バケツの底の溝に溜まる水をペチャペチャすする姉妹である。

「うっわ、きもいなこいつ等」

なおさら2匹を嫌いながら青年は出かけた。


朝食を終えると何もすることがない。狭いバケツの底では2匹が横になるのが精一杯。
手足の位置を考え互いの邪魔にならないよう姿勢をとると、寝始める。

だが寝たのは妹だけであった、姉は背中を妹に向け、この狭い空間で必死に、必死に考える。

(私たちも生きるために水やゴハンが必要だけどそれさえあのニンゲンさんは嫌がった。
きっと実装石を好きじゃないんだ…。
虐待派じゃないから良かったけど、このままじゃ2匹そろってすぐに追い出されてしまう。)

脳裏をよぎるのは、食い殺される仔実装の姿である。何十匹と見てきたし、姉妹の半分は食い殺されている。

(なんとか、なんとかしないとママの死が無駄になってしまう)

時間は流れ、夕方。

青年は帰宅するとキッチンで夕食の支度を始めた。
ご飯を炊く匂い、肉を焼く匂い、2匹はバケツの中でどんなご馳走なのか、口から涎を流して想像した。

が、何もなかった。青年は食事を終えるとPCに向かっていき、姉妹の存在を気にも留めない。

テチテチ騒ぎ出してようやく、面倒くさげにキッチンに出向いた。

「ほれ」

投げ込んだのは塩味の効いた肉片が二つ。
さめていたが2匹にとっては夢のようなご馳走であった。

しかしそんな光景を青年は見ようともしない、「 双葉ちゃん♪ 」 「 もえかす 」 「 萌の杜 」 「 萌え連 」で
壁紙を収集すると入浴し、とっと寝てしまう。

「お姉ちゃん…」

「し!静かにするテチ」

食えば出る。バケツの底の半分は2匹の排泄物で汚れており残った場所で膝を抱えて2匹はじっとしていた。
きれいにして欲しい、と言いたいのだが寝たところを起こせば機嫌を損なうのは目に見えている。

「朝まで辛抱テチ」

水も無く、一晩膝を抱えて耐える姉妹であった。




「くっせー!!」

翌朝青年はキッチンの悪臭に不機嫌な声で応えた。
仔実装2匹とは言え排泄物は臭う。

「テヒャア!」
「テチャアッ!」

2匹を空の浴槽に移すと、バケツを持って外に出る。

「ここが新しいお家テチ?」

「分からないテチ…」

妹の質問に答えられない姉であった。見たことも無い世界でどきどきしていると、青年が戻ってくる。

「あー!お前らきったねえなあ。臭いし」

「そんなことはないテチ、水浴びしたテチ」

「いつだよ」

「生まれてからすぐにしたテチ」

「つまりそれ以来はしてこなかった、と」

青年はシャワーを2匹に向けた。

突然の温水の雨に打たれて2匹は驚いたが、服を乱暴に脱がされ洗浄されると夢心地になった。
こびり付いた垢や埃を落とすとこれほど気持ちはいいとは。



*************************************



「さて、と」

休日らしい青年はゆとりをもって2匹を机の上においてシゲシゲ眺める。

緊張した2匹は背筋を伸ばしたまま固まっている。

「よろしくお願いしますテチ、ニンゲ……ご主人様」

「よ、よろ、よろっろ…」

姉はお辞儀して口上を述べるが、妹は緊張してお辞儀が精一杯だった。

(いろいろあったけど、なんとか飼ってもらえる。がんばった甲斐があった)

「いや、飼わないけど?」

「「テエ!?」」

「餌やったのは餓死しても死体の始末が面倒だしな。風呂は臭いからだ。たった2泊3日でもお前ら面倒じゃん
飼うの無理だよ。1匹ならともかく、2匹なんてまず無理だな。まあ潰すのは勘弁してやるから、自分で公園まで……」

あっさり希望を打ち砕かれ、姉はしゃがみこんだ。
追い出されれば行き先は公園。その風景を思い出す。


上半身だけの仔実装を奪い合う成体。

親に食い殺される仔実装。

野たれ死んだ個体。

仔を失って発狂して糞を抱えている成体。

親を失い、他の孤児を襲撃する仔実装。

食料を求め、道路のシミとなった中実装。



妹は声を出さず涙を流している。

「……しばらくでも飼い実装の気持ちになれてよかったんじゃ」

「黙れドレイ」

「ん?」

「お、お姉ちゃん、それは」

テチャアアアアアアアアアアア!。
青年に向かって威嚇する姉。

「おとなしくしていればいい気になるなテチ!このドレイ!」

「………………!」

半ば笑みを浮かべた青年はそのままだ。

「綺麗な私が飼われてやるテチ、お前は土下座して迎えるのが筋テチ
愚かなお前にあわせていたら、何様のつもりテチィ!」

「お姉ちゃん、そんなこと言ったら」

「お前が一番バカテチ!」

「テェ!?」

「賢く美しい私だけなら、簡単に飼われたテチ。足手まといのお前がいるばっかりに、とんだことになったテチ」

「お姉ちゃん…。嘘は駄目テ」

「3女が居なくなったけど、あれは私がおいしく食べてやったテチ」

「テェェェェ!」

「お前もいざと言うとき食べるためか、身代わりのために可愛がってやったテチ。それがこの始末テチ、死ねばいいテチィ!」

ペチっと妹を殴る姉。妹は姉の豹変にショックが大きいのかそのままうずくまる。

「そうだ、死ねばいいテチ!死ね!死んで詫びろテチィ!」

ペチペチペチペチ!
全力で蹴る姉。

「お前のせいでドレイを使うのが大変になったテチ!ご飯も水も半分だったテチ」

非力な攻撃だが、非力なものには十分堪えた。妹は痣だらけの血まみれだ。

「死ね!足手まといのゴミめ!私の邪魔テチ!」

「おい」

「ドレイは黙ってろテチャアア!!!私が後で命令してやるテチ、今はこの役立たずをぶっ殺してやるのが先テチーーーー!」

歯を見せて威嚇する。

「この役立たずはもう死ぬテチ。ママも姉妹ももういないテチ、ここを追い出されたらすぐに食べられて死んじゃうテチ。
それなら私が殺してやるのが慈悲と言うものテチ」

青年は拳を振り上げた。

「テヒャヒャヒャ、お前がこの役立たずを殺すテチ?いいテチ、特別にお前に許してやるテチ!」

一瞬後、拳は姉を直撃した。それほど力が入っているわけではないが、顔面が骨折し陥没、歯が数本飛び散る。

「テベッ!」

机をバウンドし、床下に落ちていく。破裂した内臓から血が逆流し、口からあふれ出る。背骨は完全に骨折していた。
落ちた衝撃で脳の一部が露出し両目が破裂したので何も見えない。
吐き続ける血で悲鳴もなかった。



表情を作れないが、もし見せるとしたら姉は会心の笑みをしただろう。


(これでよかった、私に苛められる妹を見て、きっとあの人は「可哀想」だと思うだろう
そうすれば、少なくともあの仔は飼ってもらえる。外に追い出せば死ぬと分かったろうし、信じていた姉に裏切られた、
哀れな存在だから。
……ママ、これでよかったよね?私、がんばったよね……)

それが姉仔実装の最後の思考だった。
人間の拳をまともに受けて仔実装が即死しなかっただけでも、何かしらの恩寵がこの心優しい者に与えられたのかもしれない。

かくして姉実装は本懐を遂げて生を全うした。


END

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