実装石の日常 専門店 店内には無数のケージが並んでいる。普通のペットショップなら仔犬・仔猫だがここではすべて実装石が入っている。 そこへグリューンと言う名前を与えられた仔実装がキャリーで運ばれてきた。 グリューンはこれだけ沢山の仲間を見るのはブリーダーのもとで飼育された時以来だ。 「はじめまして、グリューンというテチ。前のご主人様はすごく可愛がってくれたテチィでも、 もう飼えなくなるから新しくここで飼ってもらうよう言われたテチィ。みなさん、よろしくテチ」 清潔な服装に満面の笑み。グリューンは優しい主人に飼われたお陰で大人しく賢く育った。 しかし、せっかく挨拶しても誰もなにも返事してくれない。 壁にごつごつ頭をぶつけている者、自分の腕をかじっている者、ぶつぶつ呟いている者。 「テエ?みんなどうしたテチ」 「ああ、まあ気にしないでくれ。君も時機になれると思うよ」 店主はグリューンをケージの一つに入れた。 ケージの前後左右は鉄格子で出来ている。 右隣のケージに挨拶しようとしたが、なぜか頭を抱えて床に転がっている。 話しかけにくいので、左隣の家族に声をかけた。 「こんにちはテチ」 「デジャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」 それはグリューンが聞く生涯最大級の威嚇だった。しかしパンコンしないのは、いかにすぐれた個体であるかの証明だろう。 「寄るな!寄るなぁ!私の仔を盗ったら殺してやるデスゥ!!!!!!!!!!!!!」 「あの」 「デジャアアアアアアアア!デジャアアアアアアアアアアアア!」 会話が成り立たない。 諦めて他のケージを見るが、相変わらず自分の腕に噛み付いていたり、ぼんやりと座っていたりで話しかけられそうになかった。 不思議に思いながらその日は暮れた。 翌朝。店主が明かりをつけガラガラとシャッターを開ける。ケージごとに餌を入れてやるなど世話を始めた。 「おはようございますテチ」 グリューンが丁寧に挨拶すると、店主も一応こたえる。だが他の実装石は1匹も挨拶などしないので、グリューンは「行儀が悪いテチ」と呟く。 「デジャアアアアアアアアア!」 隣りの成体の実装石だ。 「何が行儀デスゥ!ニンゲンなんかに挨拶する必要はないデス!」 「ニンゲンさんはお友達テチ、そんなことを言っちゃ駄目テチ」 「ズッカ、今日も元気だね嬉しいよ」 店主は成体が喚いているのに気づいて、笑顔で寄ってくる。 ズッカは仔実装たちを背後に隠すと歯をむき出しにして威嚇した。 「来るな!来るなデス!!!」 「それだけ元気ならまだまだ大丈夫だな。君は店で一番の稼ぎ頭だ、その調子だぞ」 愉快そうに店主が去っていく。 無数の実装石のオッドアイがその姿を注視していた。 恐怖・憎しみ・嘆願、とそれぞれ違うが。 ************************************* 開店してまもなく、来客があった。グリューンにとっては新天地で初めて店主以外の人間である。 はしゃいで嬉しげにテチューンと鳴くと、すかさず隣りのケージのズッカが側壁をけ飛ばした。 「嬉しそうに鳴くなぁデス!」 「テェ。でもニンゲンさんテチ。ニンゲンさんはみんなお友達テチィ♪」 「ああああああああああ!そんなわけないだろうデス!あいつらは私たちをおもちゃにしているだけデスゥゥゥ!」 「何言ってるテチ?」 グリューンにしてみれば、おもちゃで遊んでくれる良き友人としてしか認識できない。 「そんなこといったら怒られるテチ」 なだめる一声は隣りのズッカには届かない。店内の実装石の全てが一斉に騒ぎ出したのだ。 「デジャアアアアアアアアアア!!!!!!!ニンゲン!ニンゲンが来たデス!!!」 「デヒャアーーーーーーーーーーーーー!」 「来るな!来るなぁ!」 大抵が絶叫した。あるいはケージを激しく揺らし、叩く。 仔をもつ親はみな、わが仔を抱きかかえてケージの隅に逃れた。タオルがあればそれをかけて隠す。 ズッカもタオルを仔たちの上にかけた。 「ママァ!」 「怖いテチィ!」 「大丈夫デス、絶対ママが守るデスー!!」 この不可思議な騒動を驚きつつ眺めているグリューン。 「お、新入りか?」 グリューンを見かけた客がケージに近づくと、他の実装石は少しでも離れようとケージの中で逃げ惑う。 「おはようございますニンゲンさん」 グリューンの挨拶をシカトし、客はケージに付けられた説明を見ている。 「ほう、愛護派に育てられた奴か。仔実装はいいよな、でも今日はそういうノリじゃないんだよな。またな、グリューン」 選ばれなかったグリューンは悲しげであるが、やむをえない。せめて隣りの親仔と遊んでもらおう、とズッカ親仔を紹介した。 「お隣の親仔はとっても仲良しテチ、遊んでやって欲しいテチ」 「デヒャアアアアアアア!!!!!!!????????」 ズッカは目を剥きながら盛大に血涙をながしパンコンした。飛び上がってグリューン側の格子にぶつかる。 「な、なななな何を言ってるデス、お前はぁ!!!!」 「何って…ズッカたちと遊んで欲しいとニンゲンさんにお願いしてるテチ」 「デジャアアア!ふざけるなこの糞蟲が!お前が遊んでもらえばいいデス!」 「でも、私は選ばれなかったテチ。その分たっぷりと遊んでもらって欲しいテチ」 「デジュアアアアアアア!」 ズッカは地団駄を踏み、転げまわる。あまりの悔しさに発狂しかかっていた。やり取りを眺めていた客は楽しげに店主へ言う。 「久しぶりにズッカの仔でお願いします」 「毎度どうも。使い切りですね」 「ええ、あと、自分でとりますよ」 男は手袋を店主から受け取ると装着した。 血涙を流して興奮しているズッカは、その姿に慌てて叫ぶ。 「今、今は仔がいないデス!代わりに隣りのバカと遊んでやってデスゥ!」 「そのタオルの下にいっぱいいるテチ。ニンゲンさんに嘘はいけないテチ」 「デヒャアアアアアア!お前は黙ってろデス!」 「そっか、タオルの下か。気づかなかったよ」 笑いを我慢しながら、男はケージを開いて手を突っ込む。 そうはさせじとズッカはタオルの上に覆いかぶさるが、右手で軽々とどかされる。 タオルの下には7匹もの仔実装が抱き合ってテチテチ鳴いていた。 「やめてデス!お願いだからやめてデス!!」 右手で押さえられたまま、ズッカは哀願した。 「7匹もいるんだ、ケチケチするなや」 適当に1匹摘み上げると、他の姉妹が大騒ぎする。が、男は左手で1匹確保するとすばやくケージを閉めた。 ズッカと6匹の仔実装が鳴きながらケージの入り口に押し寄せた。 「お姉ちゃんを返してテチー!」 「3女ちゃんは気が弱いテチ、いじめたら駄目なのテチャア!」 「もうやめてデスゥ!」 大騒ぎだ。男は取り出した3女を鉄格子ごしに髪をつかんでプラプラ揺する。 「この程度で騒ぐなよ。……そうだ!遊び終わったら、今日は返してやるよ。それでいいだろ?」 「デ!本当に……?でも」 「信じないなら話はなしだ」 「……」 ズッカは悩んだ。信じられないけど、すがりたい、といったところか。 「なんでこんなに騒いでいるテチ?」 「デジャアアア!お前は死ぬまで黙ってろデス!!!!」 顔を醜くゆがめてグリューンを一喝するズッカ。だが当面は3女の問題だ。 「3女……。がんばるデス。がんばれば、また戻ってこられるデス」 「ママ……」 先ほどから血涙を流している3女、意を決したようだ。 「がんばる……テチ。がんばって戻ったらいい仔いい仔して欲しいテチィ」 ささやかな願いに、ズッカはつかんだ格子を揺らす。 「たくさん、たくさんしてあげるデス。たくさんいい仔してあげるから、がんばるデス」 「決まったな。じゃあお前らはそこで見守ってろよ。そうでないと、手加減を間違えるかもな」 薄ら笑いのまま、男はケージの前の作業机に3女を乗せた。リードを卓上の金具に固定すると 「よっと」 ポキポキと3女の両足の膝を間接と反対方向に折る。 「テチャアアアアア!」 世間では実装石の感覚は鈍いという誤解がある。だが現実は正反対だ、脆弱な彼女らは身の危険を察知するため、 人間より痛覚は鋭敏なほどだ。 「がんばるデス!がんばるデスー!」 「お姉ちゃんがんばってテチ!」 グリューンは意味も分からず眺めていた。 悪いことをしたわけでもないのに、痛いことをするニンゲンさん。 家族を励ます実装一家。 動けなくしてから、電極を取り付ける男。 「さて、楽しませてくれよ」 卓上にあるメモリを動かすと、 「テジャジャジャジャジャジャジャ!!!!」 不気味な痙攣を3女が始める。知らなければ踊っているように思えるだろう。 電流を上下させると、ダンスもかわる。折れ曲がった足が痙攣で動くので、3女は無理やり立ち上がれるのだ。 両目はそれぞれ違う方向を向いている。そこからドロリと体液が流れ出て、髪は逆立つ。 スイッチを切ると、パタリ、と3女は倒れる。 「もう十分デス!もう十分のはずデス」 「ば〜か、中休みだよ。今度はさっきの倍だ」 目盛りを一気に上げると、飛び上がった3女は映像の早送りのような速さで踊り狂う。耳や口から体液が飛び散る。 「テジャジャジャジャジャジャジャジャッッッッ!」 「ようし、踊りまくれ踊り狂え」 「デジャジャジャジャジャジャジャジャジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」 煙まで立ち上げさせて。3女は踊った。 ぴちゃり、とわずかな血液が呆然としているグリューンの頬に飛び散った。 男は小瓶を振りかざす。 「知ってのとおり、こいつの『大切な石』は栄養剤につけてあるから簡単には死なないから、安心しろよお前ら」 栄養剤漬の石は真っ黒に染まっていた。 10分もすると、倒れたまま3女は痙攣するだけとなった。 男は電源を切ると電極をはずす。 「よくがんばったデス!お前はママの自慢の仔デス」 「お姉ちゃん!」 「3女ちゃん!」 「ところで」 おもむろに男はグリューンに尋ねる。 「お前の好きな遊びはなんだ?」 「テ?」 慌ててズッカは危険な新入りをにらみつけた。余計なことは言うな、と。 「ボール遊びが大好きテチ」 笑顔で答えるグリューン。 「デヒャアアアア!!!!!お前は!お前はなんでそうなんデス!」 「なんでって言われても」 鬼気迫るズッカにひるみながら 「思いっきりぶつけるのが楽しいテチ」 「デヒャアアアアアアアアアアアアア!」 転げまわるズッカに苦笑する男。 「そうか、おれもなんだ」 3女をつかみ上げるとケージの一家に近づける。 「…………ママァ」 「しっかりするデス、もう少しだけデス」 「おいおい、勝手に決めるなよなぁ。ここからなんだぜ?」 3女をつかむと壁にいきなり叩きつける。 「ヂィ!」 普通の壁ならシミになっていたろう。だがなぜかこの壁はスポンジで覆われている。 全身打撲になりながら、3女はマットを敷いた床に落ちる。 背骨が折れ、内臓の一部が破裂した。 「ボールはお前らだけどな。思いっきり何度でも叩きつけられるっていいよな。 ズッカのおかげだぜ、可愛い仔を生み続けるおかげで」 「デジャアアア!死んじゃうデス!その仔死んじゃうデス!」 「うっせーな。本当に殺すぞ?」 それ以上いえず、仔と泣くしかないズッカであった。 「テチャ!」 「デヒャッ!」 「ジャ!」 「ヂッ!」 ……どれだけ時間が流れたろうか。 男が飽きた頃には3女は虫の息。それでも生きていられたのは運がいい。 大抵その前に死ぬのだが、親元に帰られるという希望が彼女を際どいところで支えていた。 「さて、と」 十分楽しんだらしい男は、3女をつまむとズッカのケージに入れてやる。 両足が砕け、全身が電流で焦げ、あちこちが潰れているが、なお生きている。 「マ……マ…ママ」 「よくやったデス、がんばったデス、もう大丈夫デスー!」 姉妹たちもすがりつく。 半死半生の3女を抱きかかえているズッカが、いい仔をしてやろうとすると男が竹串を差し出し、 格子越しに3女の頭をあっさりと貫通させた。 プス 「テ」 それで3女は事切れた。 呆然と3女をみやる家族たち。 「返してやるといったが、生きて、とは言ってないぞ。よかったな、ご馳走が手に入ってw」 「あ……」 「ま、よく楽しませてくれたよ、こいつもお前らも。じゃあまたね」 足取りも軽やかに、男は店を出て行くがズッカは亡骸を見ているだけで身動きしない。 「ママ……3女ちゃんをおろしてあげるテチ」 「あ、ああ」 「もう休ませてあげるテチ」 「ああああああああああああああああああああああああああああああー!」 深い慟哭であった。 ************************************* 深夜。非常灯のわずかな明かりしかない店内。 ズッカは3女の傷だらけの亡骸を抱きかかえ、時折頭を撫でている。 グリューンには信じられない風景だった。人間に惨殺されるなど、純粋な子供同然の彼女には理解の範疇を超えている。 だから今でも夢ではないか、間違いではないか、と懸命に考えている。 隣りからはズッカの呟きが聞こえる。 「私のせいデス。ママがニンゲンに拾われたから、こんなことになったデス。 私がやっと生き延びたから、その私の仔を殺すのをニンゲンが楽しんでいるデス…。私のせいデスゥ」 翌朝、グリューンは店主が餌を配るとき、思い切って聞いてみた。 「昨日やってきたニンゲンさんはどうして、3女ちゃんを殺したテチィ」 「楽しむためだよ」 店主は明るい声で説明した。グリューンは夢だったと言って欲しかったのだが。 ストレス解消のため実装石を虐待する人は多いが、世話は面倒だし後片付けもある。騒音などの問題もある。 そういった人のためにこの店では実装石からスペースや道具まで提供している。 「殺すのは少ないな。虐待がメインだからね、行き過ぎて殺すこともあるが」 「うそ、テチ」 「私は嘘をつかないし、君も見たろう。ああ、君はキチンと躾けられたに一般家庭で育てられたからね。 これからは毎日大変だと思うよ。なかなか希少価値があるからねー」 グリューンのケージには 【 店長おすすめ!! 一般家庭で愛玩された仔実装です 】 とフダに書かれている。飼い主との楽しげな写真を添えて。 殺処分 30,000円 虐 待 2,000円(20分) 髪 5,000円 服 3,500円 各種オプション有り *初虐待は+5,000円いただきます 「ちなみに君の前任は1ヶ月間もがんばってくれた。人気のあるコースなのに良くもったと思うよ」 客が来た、店主は接客のためケージを離れる。 実装石は大騒ぎだ。 「ニンゲン!ニンゲンが来たぁぁぁぁあああ!」 「デジャアアア!」 「……新しい飼い実装が来たとHPにあったけど」 「グリューンですね、本人とちょうど話していたところですよ」 客は金を支払うとグリューンをケージから出し、卓上に繋ぐ。 こうして卓上に立つと、赤や緑のシミに気づく。どれだけの実装がここで苦痛を受け散っていったのだろう。 「ニ、ニンゲンさん。私はいい仔にしてるテチ。悪いことはしてないテチ」 カタカタとグリューンは震える。 「そりゃそうだ。悪いのなら店の前の運動公園にいくらでもいるし。そうでないのと遊ぶのが良いんだよ」 「……嘘テチこんなの嘘テチ大嘘テチ。ニンゲンさんはみんなお友達テチ、ご主人様が言っていたテチ」 カタカタと歯を鳴らすグリューン。 ククク、と男は笑いをこらえる。 「本当にお前の前のご主人は立派だよ、こんなによく育てて」 「ご、ご、ご主人様がすぐに迎えに来るテチ。すぐ来るテチ」 「あー、はいはい。初虐待のお前には別料金まで払ったんだ。楽しませろよー」 ガチャン、とさまざまなおもちゃ(ペンチ、金槌、電動ドリル、ニッパ、のこぎり、包丁、ナイフ、千枚通し)の 入ったケースを卓上に載せる。 その頃、店主はズッカから3女を取り上げると無造作に禿裸の群れの入っているケージに上から放り込んだ。 仔の死骸が乱暴に食われる音と、ズッカの悲鳴が響く。 自分のケージに解放されたグリューンは半死半生だった。 全身の骨が砕け、顔は焼けただれ、猛毒を何度も飲まされた。意識が朦朧としたまま、かろうじてタオルの上に転がる。 「……」 となりからズッカが話しかけて来た。 聴力が回復してくると何を言っているか分かるようになってきた。 「デププププ。まだニンゲンさんはお友達デスか?」 グリューンのケージには 【 ボール遊びが大好き 】 と追加された。 毎日、客はグリューンとボール遊びに興じる。 「ニンゲンさんやめてテチィ!」 「ヂィヤャアアアア!」 「ま、待ってテチィ!死んじゃうテチャアアア!」 「ギヤアアアアァァ!」 「ご主人様!ご主人さまぁ!?」 「おてて!おててが曲がったテチィ!助けてテチャァブ!」 「マ、ママ、ママー!助けてテチャアアアッ!」 「ジャアアア!」 「ブチャァッ!」 「ヒュアブッ!」 …………数日も経つと、店内に客が入るだけでグリューンも他の実装石と同じ反応を示す。 目を剥いて、ケージの片隅に隠れようとあがきながら、人間の影に怯える。 「ニンゲン!ニンゲンが来たテチャアアアアアアアアアアアア!!!!!」 END

| 1 Re: Name:匿名石 2016/11/16-13:55:44 No:00002807[申告] |
| 渡りの末路がこれとか実装世界観は本当に過酷で輝いてるわ |
| 2 Re: Name:匿名石 2016/11/16-20:40:43 No:00002809[申告] |
| 確か、こいつらって実は飼い&渡り時代に出会っててそのときはオトモダチだったんだよなあ
環境と実装相が変わりすぎてわからなかったとはいえ悲惨な再会デスゥ |