タイトル:【観察】 実装石の日常 生れ落ちて
ファイル:実装石の日常 5.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:12503 レス数:2
初投稿日時:2007/07/21-15:38:42修正日時:2007/07/21-15:38:42
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 実装石の日常  生れ落ちて

声もかけず飼い主は小さなダンボールをコンビニのそばにおいて姿を消した。
思いもかけない飼い実装の妊娠と出産に、飼い主はまともな対応を取れなかったのである。
避妊するでもなし、堕胎させるでもなし、かといって仔の飼い主を探すでもなし…。
とはいえ、仔実装が11匹も生まれた日には大変だった。
仔は大騒ぎしていてうるさい、糞はすごい。






                「棄てよう」





あっさりと飼い主は決めた。どうせ誰かが何とかしてくれるさ、優しい人が飼ってくれるさ、と
無責任の極みだ。それでも公園に棄てなかったのは、彼なりの配慮だった。
近場の双葉児童公園は野良実装が激増し、えさ不足で共食いしている。
そんなところへ生まれたてを置いてくれば、ものの数分で食い尽くされる。

「俺って優しいよな」


飼い実装には睡眠薬入りの餌を与えて寝かせてある。目が覚めたら適当に騙そう。
そう考えながら飼い主は帰っていった。

11匹は安らかに寝ていたが、まだ10cmにも満たない身長である。
親に暖められず、わずかな新聞紙が敷かれているだけではたちまち体を震わせて目を覚ました。

「……ん。おはようママテチュ」

起きた仔が、暗いダンボールの中で親の姿を求める。まだ生まれて二日目であった。

「……ママがいないテチュ?…」

さんざんヨチヨチと歩き回るが捜し求める親実装はいない。
感じたのは不安。
それも底知れぬ不安だ。

実装石は人間の数十倍で成長するがそれでも生後二日目では赤ん坊と大差ない。
赤ん坊が放置されて平気なわけが無く、たちまち

テチャーーーーー

と泣き出した。

「うるさいテチャア」
「何事テチャ」

泣き出した姉妹に起こされる残りの10匹。取り合えず親実装の姿を探すが見つからず、
おろおろと不安がり順番に泣き出す。

「テチャァァッァァ」
「ママ!ママァ」

散々泣くと誰とも無しに呟く。

「暗いテチ、ママがいないテチ?どうして」

「お前がうるさいからママがいなくなったテチ」

5女が8女を叩く。

「テ!テェェェェン」
8女はまた泣き出す。ペチペチと8女を叩き続ける5女。

「うるさいテチ!黙るテチ!」

「テェェェン!テェェェェン!」

叩かれていっそう泣き続ける8女、見かねた3女が5女を突き飛ばした。

「もうやめるテチ!悪い仔テチ!」

「私は悪くないテチ!」

5女は3女に挑みかかる。小さな体で互いに叩きあい転がりまわる。
8女はただ泣き続ける。

「やかましいテチャアアアアアアアア!」

6女が立ち上がって叫ぶ。重なるストレスを抑えきれないらしい。

「暗いテヤア!うるさいテチャア!」

飛び上がって閉じられていたダンボールの蓋を叩くと、拍子で簡単に開く。
テープなどは使っていなかったらしい。

「開いたテチ!?」

けんかしている仔も泣いている仔も慌てて立ち上がり、飛び上がる。
そこには見慣れた室内ではなく、屋外で人や車が行きかう街中。

「どこここーーーー!!!」
半数がショックで泣き出した。

「いつもと違うテチャア!」
「ママ!ママがいないぃいぃぃテチャァァァ!」

1匹はショックで片隅に逃げ込み、小さく丸くなっている。

「夢テチ、これは夢テチすぐママが迎えにくるテチィ!」

「すごいテチすごいテチィィ!」

1匹は興奮して走り回る。

蓋を開けたせいで、容赦なく冷たい外気が入り込み仔実装を苦しめ始めた。

「お腹が変テチィ…」

青い顔でパンコンし始める仔実装。トイレも躾けられていない彼女らは、座っている場所でそのまま用を足す。
それを走り回る仔や、けんかを再開させる仔に付着し、内部は糞尿のたえがたい悪臭に満ちていく。

「臭いテチ!お前が臭いテチ!」

「テチ!」

突き飛ばされt、自分の糞に頭から顔を突っ込む仔。

「ブパァ!」
窒息寸前で起き上がると糞まみれのまま、隣りの仔に体当たりする。

「なんで突き飛ばすテチィ!」
「私じゃないテチャ!」

突き飛ばしていない仔だった。だが興奮した糞まみれの仔はそのまま上にしがみ付きペチペチ殴る。

「オウゲ!」

ビチャビチャと隅で嘔吐する仔。ストレスと寒さからだろうか、同時にパンコンまでしている。
そこへ動き回っている仔がぶつかり、吐瀉物と糞まみれになっていく。
衛生状態は急激に悪化しつつあった。



騒ぎ疲れたのか、一時の平穏が訪れる。

「どうして……ママはどこいったテチィ!寂しいテチ」

「棄てられたテチ」

次女の呟きに全匹がどよめく。

「そんなわけないテチャアアアアアア!」

必死に否定する仔。

「じゃあどうしてママがいないテチ!いないのは棄てたからテチィ!ニンゲンまでいないテチィィイイイ!」

次女は立ち上がって喚きだした。

「棄てられたテチ、私たちは捨てられたテチャァァァ!」

「捨てられた……テェェエン」

「嘘……大嘘いうなテチャア!」

「そんなこというなテチ」

「本当のことテチ!私たちはいらなくなったテチ!」

「どっちもやめるテチィ!」

もみ合いになりある仔はとめようとし、よそではショックで泣き出す仔、横になったまま、下痢が止まらない仔、と
姉妹は騒擾を続ける。

「寒いテチ」

1匹が新聞紙をかき集めて暖をとった。小さな体では風が吹けばたちまち体温を奪われ、ついでに生命まで奪われる。
寒さに震え始め、次々糞と吐瀉で汚れた新聞紙がちぎられていく。
だがまったく量が足りない。

「お前のを寄越せテチ」

「嫌テチ」

「寄越せと言ったテチ!!」

「嫌テチャアァァァ!」

乏しい新聞紙を引っ張り合い、ちぎってしまう。それも風が吹けば飛んでいくが、それでも争いをやめない。
まともな新聞紙はなくなっていき、喧嘩だけが残る。

順番に殴り合い、糞尿にまみれていく姉妹。

また1匹、ひどく嘔吐する。血涙を流して震えている仔もいる。
体調の悪化は進んでいた。


「お腹減ったテチ」

またしても事態を悪化させる一声。空腹に姉妹全部が気づき、何匹かがなおさら泣き出す。

「うるさいうるさいうるさいテチャア!」

ヒステリーを起こす10女。
空腹を訴える1匹を捕まえて糞と吐瀉物を口に押し込んだ。
不意を衝かれた6女はされるまま。押し込みすぎたのか、派手に吐き出し10女はまともにそれを浴びた。

「……大丈夫テチ?」

あまりの惨状に声をかける長女だが、10女は小さく呟くだけだ。

「ママ」

「え?」

「ママに会いたいテチャァァアアアア!!!!!!!!」

オッドアイの瞳から血涙があふれ出る。

「もう我慢できないテチ、私のママがいないテチ、おかしいテチャア」
やっとそれだけいい、泣き出す10女を長女があやす。

「分かったテチ」

長女は立ち上がって姉妹を見る。

「ママがいないテチィ!……だから……だからっ!みんなで探しにいくテチ!
 きっと私たちの心配をしているテチ!」

「ムリテチ、私たちはちっちゃいテチィ」

「11匹もいるテチ!」

自信満々に告げる長女だった。

「11匹もいればなんとかなるテチ!みんなでママを探し出すテチー」

長女の演説に、姉妹はいつしか静まり返った。不安と悲しみでいっぱいだったが自分たちでママを見つければいい。

「さっそく出発テチ!」

意気揚々と出発する仔実装。
だが。



「壁が越えられないテチィ!」



仔実装の背丈ではとうていダンボールの壁を越えられない。
賢い仔が足場になって姉妹を上げようとするが

「テチャア!」

体がもろすぎた。足場の仔は両足を押し潰れてしまう。
転げまわる仔。数匹が長女に迫る。

「うまくいかないテチャ!」

「バカを信じた私がバカテチャア!」

「役立たずテチ!」

「そ、そんな。もう一度…」

「やかましいテチ!」

突き飛ばされ尻餅をついた長女はあっさりと泣き出した。
こうして団結はものの1分で終わった。

「なにこれ?」

人間の声に、仔実装は慌てた。
飼い主はあまり良い飼い主ではなかったので、彼女らは人間全体に不信を抱いていた。

「……ああ、また捨てられたのね、かわいそうに」
本当の哀れみをもってコンビニのバイト店員の女の子は中身をのぞいていた。
こうした捨て実装をもう3件も彼女は経験しているので慣れている。
それでも可哀想な彼女らを思うと、涙目になる。

「もう泣かなくていいのよ」

リンガルは無い。だがやさしく頭を撫でてやると、仔実装は有頂天になった。
店員はなぜか蓋をすると、ダンボールをもちあげてどこかへ運ぶ。

ダンボールの中は大騒ぎだ。

「やさしいニンゲンテチィ!」

「新しいご主人様テチィ!」

「飼ってもらえるのテチ!」

「当たり前テチ!でも行儀よくしないといけないテチ、次に会うときはみんなでご挨拶テチ」

「きっとママにもまた会えるテチィ」

「新しいご主人様にご挨拶したいテチ、さっきは驚いて何もいえなかったテチ」

「どんなお家かドキドキテチ、ボールがあると嬉しいテチ、みんなで遊べるテチ」

沸いた希望にはしゃぐ仔実装。

1匹が隣りの姉妹に頭を下げる。

「さっきはなぐってごめんなさいテチ。こわくて気分が悪かったテチ」

「お互い様テチィ」

あちこちで謝りあう姿が見えた。
長女は足が潰れた9女によりそって慰めている。

「ニンゲンサンがすぐ治してくれるテチ」

それから姉妹を見やる。

「もう喧嘩はなしテチ。代わりにみんなで歌うテチ。」

「それはいいテチ」

テチテチテッチャーーーンと歌いだす姉妹。不安を払拭し、笑顔で仲良く歌う。

笑顔のまま歌いながら姉妹は、ダンボールごとディスポーザーに放り込まれた。
30秒後、細かく裁断された肉と骨が排出される。
店員は慣れた手つきで臭わないようビニール袋に密封するとゴミ箱に放り込み店内へ消えた。

END

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1 Re: Name:匿名石 2023/01/20-20:54:48 No:00006709[申告]
無情だわ…でもこれこそが実装石に相応しい
2 Re: Name:匿名石 2023/01/20-20:54:49 No:00006710[申告]
無情だわ…でもこれこそが実装石に相応しい
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