タイトル:【淡泊】 正しい実装
ファイル:正しい実装.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:19412 レス数:1
初投稿日時:2007/07/18-20:49:46修正日時:2007/07/18-20:49:46
←戻る↓レスへ飛ぶ

  「正しい実装」
  (副題:弱体化設定の行く先)




友人との約束をすっぽかされ、暇をもてあました俺は、
公園に実験の成果を見に行くことにした。

駅前の待ち合わせ場所から、公園に向かって少し歩くとすでに実装石の糞のにおいがする。
休日にわざわざ実装石の糞のにおいの中を歩く奴は俺以外におらず、
かつてにぎわっていた道に人通りは無い。


目的の公園は、「実装ちゃんと触れ合える自然公園」のフレーズで作られた。

とある都市の公園で発見された珍獣『実装石』
当初の実装石は愛らしい小人であるとネットで噂になっていた。

その噂に目をつけたわが町の議会は、町おこしの一環として
都市に住む実装石を取り寄せ、この公園に住まわせたのである。



当然ながらその計画は失敗した。
今は自然公園ですら無い。

当初は草木の生い茂る緑豊かな公園であったが、
実装石の糞害で植物は枯れ、単なる荒れ地になっている。



「ま、一応は緑色はあるけどね」

地面は実装石の糞と体液で赤や緑に染められていた。
糞のにおいがしなければ、カラフルでオシャレな地面に見えなくも無い。


俺は有刺鉄線をまたぎ、公園に入る。

前に来たときに有刺鉄線に絡み付いていた実装石の肉片は無くなっていた。

ここでは、有刺鉄線の肉片を食いに来た実装石が有刺鉄線に絡まって死に、
それを狙って次の実装石がやって来る『死の連鎖』が観察できた。
そのまま放って置けば、愚かな実装石は全滅するまで連鎖を続けたに違いない。


「アレのせいで優雅に食事など、できなくなっただろうからな」


俺の足元の糞山には仔実装が頭から刺さっていた。
何かから逃げようとして糞山に隠れ、そのまま窒息したようだ。

身を隠す緑色が糞の山しかないため、よくこのような死に方を見る。

本来なら実装石の緑色の服は、草の緑に隠れるのに都合が良い保護色になる。
だが、実装石の糞は植物を枯らして緑を失わせる。
また、荒れた土地を捨てて移動しようにも、実装石の運動能力ではたかが知れていた。

実装石は自分の生きる範囲を自分で破壊し、そこから脱出できずに死んでゆく。
自然の中では実装石は生き残れない仕組みになっていた。



  テチャァーー!

俺の方に向かって数匹の仔実装が駆けて来た。
『アレ』から逃げてきた個体達なのだろう。


  テチャァァァァァーー!!!!!


仔実装達は必死に短い足を動かすが、その動作は鈍い。
俺の一歩分を移動するのに10秒ほどかかる。
何と無駄なあがきだろうか。


「ほら、急げよ! 追いつかれるぞ!」


  ヂィッ!


俺の声援のせいかどうかは分からないが、先頭の仔実装が転倒し、地面に頭を叩きつけた。

地面には血肉の他に白子のような物がぶちまけられる。
白いものは脳漿ではない。

実装石は頭の半分を失っても元通りに再生する。
つまり、実装石の頭の中にあるのは失っても影響のない器官。
人間の脳に似せただけの不要な部品である。


  ヂィッ!
  ヂィッ!


後続の仔実装達が、倒れた仔実装につまづいて転倒し、
最初の仔実装と同様に頭の中の白い物を垂れ流す。

仔実装達は転倒したらどうなるかを理解せず、ただ俺に近寄ろうとしているだけだ。
人間である俺の姿しか目に入らない。

人間の所に行けば助かる。
そのような本能が仔実装達を動かしている。



実装石は、はなから自然では生きられない貧弱な生き物である。
それゆえに、人に似た姿や、可愛らしいと評価される外見を持っている。

そして、転倒して致命傷を負うほどの貧弱な肉体であるにも係わらず、二足歩行をする。
いや、しなければ生き残れない。

二足で歩く人の形をした生き物に人間は人の姿を見い出し、人に近い存在だと勘違いする。
実装石の姿は、こうして人の同族意識を引き出すためのものである。



  テチャァー!


一番後から来た仔実装も転倒したが、他の仔実装達の死体がクッションになり右の手足を潰すだけで助かっていた。


  テチューン! テチューン!


さっそく仔実装は、肉布団に横たわったままの姿勢で俺に媚び始める。
媚びに使う右手が潰れているため、首だけを傾げて鳴く。
無事な左手を、右手の代わりに使う知能は持ち合わせていない。


  テチューン!!!! テチューン!!!!


仔実装の鳴き声はしだいに甲高くなってゆく。
これは助けてくれと必死になっているのではない。


「もう助かったつもりなんだな」


仔実装の『体』は糞を漏らしながら残った左の手足をパタパタ振って喜びの表現をしていた。
媚びている段階で、すでに幸福になったと判定したのだろう。
俺からコンペイトウでも貰ったつもりなのだろうか。


ポケットにはちょうどコンペイトウがある。
俺はこの仔実装に付き合ってやることにした。


「ほら、餌だぞ」


仔実装の左手がぎりぎり届く範囲にコンペイトウを置く。


  テチャァ!


仔実装は俺への媚びをすぐに止め、コンペイトウに手を伸ばす。
俺への媚びは仔実装が生きるための手段だ。
餌さえもらえれば後は媚びる必要が無い。


  テチィ!? テチィ!?


仔実装の左手はコンペイトウを押し、遠ざけるだけであった。

実装石の手は地面に落ちている餌を口に運ぶためにある器官である。
二本の手で物を挟み、口元まで運ぶ。
片手だけでは物をつかむことができない。


  テェェェン!! テェェェン!!


コンペイトウが手に入らないと判定し、仔実装が反応する。
甲高い音で鳴き、視覚器官から汗を流し始めた。

見る者によっては、実装石のこの行為を泣いていると勘違いするだろう。
人間の行為を真似て、人間の保護を得る実装石の擬態の一つである。


「仕方の無いやつだな。 食べさせてやる」


このまま仔実装が干からびて死ぬまで放っておいても良かったのだが、
今日は別の趣向を凝らそうと思う。

俺はコンペイトウを仔実装の胸に当て、押し込む。
指にそれほど力を込めている訳ではないのに、コンペイトウは仔実装の体に沈んでいった。
実に貧弱な肉体である。


「どうだ? うまいか?」


 フフーン! フフーン!


胃にコンペイトウが到達し、コンペイトウを食べたと判定した仔実装が喜びの鳴き声を上げる。
胸に穴が開いているため、変な鳴き声になった。


実装石は一度に一つの事にしか反応できない。

今、この仔実装の体は喜びの表現の処理だけを行っている。
そのため体の痛みは判定されず、体の損傷は存在しないことになっている。


「全くお前らは見事だよ。 この程度の事で多くの人間を騙してきたのだからな」


喜んだり泣いたりして感情が存在するように見える仔実装。
それこそ、姿だけなら『緑の小人』であろう。


実装石の本質は、外部からの刺激に反応を返す単なる蟲けらであるが、
実装石が『緑の小人』であったときには、その行動も小人であると誤認されていた。

例えば人間の家屋への侵入や、託児行為などである。

二足で立つことすらやっとの実装石の肉体では、
石で窓ガラスを割ったり、仔をコンビニ袋目掛けて投げることは不可能である。

それらの行為を実装石の代わりに行ったのは人間。

他人の家の窓ガラスを割って屋内に持ってきた実装石を放ち、
他人の買い物袋に実装石を落とし込む。

実装石は侵入や託児などの行為をする不快生物であるとの噂が広まっていた時期であったので、
被害者は実装石の仕業と信じた。

他人への悪意が全て実装石のしわざにされるのである。
こんなに楽で愉快な事はない。


「俺も子供のころは、お前らを使わせてもらったっけ」


俺の子供のころには、近所に駄菓子屋があった。
店員は老婆一人で防犯カメラも付いておらず、万引きし放題のセキュリティの激甘な店である。

俺達が盗品を飲み食いしたあとは、袋を実装石の棲みかに捨てておけばよい。
そうすれば実装石が代わりに罪を償ってくれる。

駄菓子屋が潰れた後、近所の実装石が徹底的に駆除されることになったが、
完全犯罪を成し遂げた俺らにとっては蟲の命などどうでもよいことであった。



  デズゥゥゥゥゥ
  デズゥゥゥゥゥ


ようやく『アレ』が来た。

『アレ』は俺の近くまで来ると、仔実装の肉片をずるずると吸い出した。

そして、コンペイトウを胃で直接食べて幸せいっぱいの仔実装も、
幸せな表情のまま『アレ』に食われてゆく。



『アレ』とは、手足に針金を通して曲げ、四足で歩くように改造した実装石である。
額に鉄板を仕込んで武器とし、服には木工ボンドを染み込ませて硬くしておいた。
実装石にしてはちょっと強そうになったので、試しに公園に放流してみたのである。



どうやら、『アレ』は成功だったようだ。
公園の野良実装を狩り尽くしてくれた。


「成功の決め手は安定性か」


四足歩行は、二足歩行と比べ物にならないほど安定している。
野良実装達は『アレ』に突き倒されるだけで瀕死となり、容易に蹂躙されていっただろう。


『アレ』の顔には少し殴られた跡があった。
野良実装の必死な抵抗を想像すると笑いがこみ上げてくる。

実装石の手で殴ってもポフポフ音がするだけだ。

ポフポフの音は、空隙の多い実装石の肉から空気が抜けてゆく音。
殴るほどに実装石の手は圧縮されて短くなってゆく。

実装石にそんな無駄な手など不要である。
餌は直接地面から食えばいい。


「噛み付きの跡は・・・ないな」


実装石の攻撃では、糞のニオイに次いで噛み付きが強力である。

讃岐うどんが噛み切れずに窒息して死ぬ程度のあごの力だが、
それでも実装石同士の争いでは脅威の攻撃力だろう。


俺は『アレ』がやって来た方を見る。
そこには腰を曲げた格好の成体実装の死体が落ちていた。
食いかけの死体は、どれも顔面がひしゃげている。


「なるほど。『アレ』の頭を噛もうと腰を曲げたところに頭突きを受けたんだな」


実装石の動作は非常に鈍く、体は非常にもろい。
地面に落ちた餌を拾うには、転倒しないように慎重に腰を曲げる必要がある。
もし、転倒した場合には、餌を目の前にして体の再生を待たねばならない。

頭をゆっくりと下げてくる野良実装達の顔面は、『アレ』にとっては格好のマトであっただろう。



改造品の戦果を知ると、俺は愉快な気分になった。

俺の改造した実装石が野良実装を殺し尽くした。
それは、野生で生きるには俺の改造品の方が正しい存在であるとの証明である。
実装石が人に媚びる以外の道を選んだら、このような生き物になったに違いない。

対して人型の実装石は誤まった存在。
人の保護を必要とする不完全な存在であるのにもかかわらず、人を騙しきれずに庇護を失った。

生物の進化の過程でこのようなアホらしい存在がどのように発生したかは知らないが、
いずれ生存競争に敗れて消えてゆくだけだろう。



「これが正しい実装石の姿だ!」

俺はwebに展示するため、『アレ』の写真をデジカメで撮る。

ネットの向こうにはたくさんの同士がいる。
今後、実装石のもっと正しい姿を模索する遊びが流行るに違いない。





実験は成功だ。
満足した俺は『アレ』を踏み潰した。



■感想(またはスクの続き)を投稿する
名前:
コメント:
画像ファイル:
削除キー:スクの続きを追加
スパムチェック:スパム防止のため3698を入力してください
1 Re: Name:匿名石 2019/03/09-13:20:13 No:00005791[申告]
このスク久し振りに読んだけど、二足歩行のアメーバみたいで他とは違った気持ち悪さでなんとなく覚えてた、個性的で面白い。
疑似科学的な文体もまた面白い、妙なリアル感がある。
戻る